SI-er同士が互いの製品開発を加速、Cogent LabsとTISの共創と舞台裏

株式会社 Cogent Labs 取締役 専務執行役員 木本恭次氏(写真左)
TIS 株式会社 インキュベーションセンター シニアプロデューサー 山岸功昇氏(写真右)

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

Cogent Labs は2014年4月に創業、世界中から集結した AI(人工知能)エキスパートの研究開発力を強みに、AI-OCR や自然言語処理エンジンを使ったDX(デジタルトランスフォーメーション)のためのソリューションを開発している。これまでに4回にわたる資金調達を公表しているが、一般的なスタートアップと比べ、ベンチャーキャピタル(VC)よりも、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)からの調達が多いのが特徴的だ。

一方、システムインテグレーション(SI-er)大手の TIS は、2016年4月に CVC を設立、そして2年後の2018年5月には、AI 関連スタートアップへの出資に特化したAI-CVC を設立した。投資後の新規ビジネス立ち上げの迅速化を図るため、CVCとAI-CVCは2020年4月に統合され、スタートアップとの共創に際し、PDCA 管理、顧客ネットワークの活用や社内事業部門との連携支援などを行っている。

Cogent Labs は2019年1月に発表したシリーズ B ラウンドで TIS から資金調達、TIS はこの際に発表したプレスリリースで「新たなビジネスエコシステムを築き共に事業発展することを期待しています(AI 事業部長コメント)」と述べている。AI スタートアップと AI 事業部を持つ SI-er大手は一見すると競合する関係だが、果たして、両社の間に共創はどのように成立したのだろうか。両社の共創最前線の2人が、その成果と舞台裏を熱く語ってくれた。

相互補完の関係

Cogent Labs のエンジンを採用した、TIS の AI-OCR ソリューション「Paperoid」

Cogent Labs は2017年、手書き文字を自動認識しデータ化する OCR「Tegaki」を発売。印刷された活字を文字認識する OCR は数多く存在したが、Tegaki は手書き文字を99.22%(同社社内テスト結果)という高精度で読み取れる点で画期的だった。Tegaki のユーザ、特に中小企業からは次第に、文字のデータ化だけでなく、紙の帳票を帳票データとして取り込めないかという相談が寄せられるようになる。しかし、この機能の実現には、読み取り前の事前処理が必要になる。手書き文字の読み取りに特化していた Cogent Labs は、インターフェイスや事前・事後処理の開発に割くだけの人的リソースの余裕が無かった。

一方、TIS はかねてから企業向けに複数の DX ソリューションを提供していたが、その製品群に AI-OCR が加わることで、サービスの可能性が大きく広がるだろう、という声が社内で上がった。しかし、ここで問題になったのは、TIS の社内に OCR エンジンが無かったことだ。山岸氏によれば、多数のエンジニアを擁する TIS では、エンジンを一から内製で開発しようとする意見もあったが、新製品ゆえに開発にスピードを要求されるタイミングだったことや、Cogent Labs がリソースを割けないインタフェースや事前・事後処理を TIS が補完できると判断した。話を始めたのが2018年10月、共創・出資が決まったのはその2ヶ月後だったという。

大企業と組むメリット、スタートアップへの気遣い

TIS AI-CVC のスキーム

スタートアップが大企業と組むことで、レピュテーションの向上が期待できるのは言うまでもない。Cogent Labs も TIS と組んだ実績が、その後の他案件の獲得に有効に働いたことは事実だが、それ以上に、大型プロジェクトを切り盛りする上で、小さなスタートアップのリソースだけでは手が回らない部分がある中、豊富な経験と人材がいる TIS に PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の役割を担ってもらえたことで、クライアントから安心して仕事を任せてもらえるなどの効果があったという。シームレスなやり取りができる本格的な SI-er という点で、TIS は非常に理想的な共創相手だったと、木本氏はこれまでを振り返る。

ところで、世の中には、スタートアップと大企業が共創しても成功に至らないケースも少なくない。その背景にはさまざまな要因があるものの、代表的なものとして語られるのは、大企業がローンチ段階で製品の完全性を求めること(アジャイル的なプロダクトアウトが難しい)、判断に時間がかかるなどの理由から、スケジュールが長めになる、スピードが遅くなる、というものだ。TIS は特にこの点について Cogent Labs を気遣った。山岸氏の統括するCVCが中心となって積極的に担当事業部に働きかけ、「クイックに出していく」ことを心掛けたという。

TIS INTEC Group Innovation Hub

さまざまなスタートアップが存在する中で、Cogent Labs のような技術力勝負のスタートアップにとって、大企業との連携は不可避だと木本氏は言う。そこに素晴らしい技術があっても、どういった形で製品にすればマーケットフィットするのか見極める必要があるし、より世の中に受け入れられるには、多くのユースケースを獲得して提示していく必要があるからだ。製品をより売れるものに変えていく上でユースケースに落としこみ、さらに何が足りないかを社内やユーザと議論できないと、この目標の達成は難しい。

また、TIS の場合はCVCが存在したが、このようなスタートアップと大企業社内の橋渡し役も重要だ。このような存在は、スタートアップと大企業の両方の言葉・文脈がわかる〝通訳〟としてだけでなく、仮に大企業側で大規模な人事異動や組織改変があっても、スタートアップが大企業と関係を持ち続ける上で大きな役割を果たす。山岸氏は、大企業も、スタートアップとの関わりに対する意識が社内で〝伝染〟するのは、共創で得られるメリットの一つだと語り、今後の共創の展開に期待を込めた。

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