限られたPRリソース、何を「やらない」?ーーメルカリ矢嶋さん・10X中澤さんに聞く成長期の #スタートアップPR(2)

SHARE:
写真奥左から:メルカリの矢嶋聡さん、10X取締役CCOの中澤理香さん

前回からの続き。スタートアップPR Dayの8月5日に実施したセッションでは、成長期の経営陣&広報PRが知っておくべき「スタートアップPRのエッセンス」と題して元メルカリ、現在は10Xにて取締役CCOを務める中澤理香さんと、現在もなおメルカリの広報・PR戦略を牽引する矢嶋聡さんのお二人にお話を伺いました。

Q:目標になるような設定は

Q:PRのプロジェクトを立てていく手がかりとして、自分たちの作った見出しが世の中の媒体を埋め尽くす「ドリームヘッドライン」のような考え方がありますが、目標値の設定方法としてどのような考えをお持ちですか?

45中澤:この切り口ならいけそう、と思うのはそのニュースを自分が第三者に面白く説明できるかっていうのが1番かなと思っています。「想定見出し」を考えたとしても、あまり独りよがりなことを言っても、結局載らないし、誰もシェアしないようなものになってもしょうがないなと思うんです。

それよりも自分が何も知らない第三者に「こういう会社があって今度こういうことで調達してこんなことやるんだよ」と話した時に、「それ面白いね!」って言ってもらえそうか。それには自分が納得していない限りプレスリリースにも書けないので、まずは自分がそもそも面白いと思えるか、腹落ちする点まで情報収集したり切り口を見つけるようにしています。

矢嶋:新しく何かをリリースする際にはコミュニケーションプランシートというものを作るようにしています。あくまでも仮説ですが、客観的に自社が今回発表する内容のニュースバリューやアウトプットを最大化するためのアクションプランに鑑みて、どの媒体にどういう見出しでどれぐらい取り上げられたら成功なんだっけ?っていう目標設定をしてもらうようにしています。で、実際にやってみて、その結果に対する振り返りを行う材料にしています。

設定した通りにうまくいくことはほとんどないんで、そこは難しいんですけど、こういう風に切り取られたい、というのをちゃんと設計した上で、スポークスパーソンにちゃんとそのメッセージを言ってもらえるようにする。例えば掲載記事の中にそのメッセージが引用されるところまで目指しましょう、みたいな、ただ単に記事が露出されるだけではなく、露出の質みたいなのは結構意識してます。

Q:評価はどうする?

Q:結果の評価は個別のケースでバラバラだと思うんですけれど、定性的な部分にはどういうものが多いでしょうか

中澤:難しいですよね。今はまだ数でちゃんと決めているわけじゃないですけど、SNSでどうシェアされたかっていうのは結構見てますね。プレスリリースや記事をTwitter検索して、みんなが引用してくれてたりとか一言コメントつけてくれてる時に、こっちが思って欲しいと思ったようにちゃんとコメントしてくれてるかは最初の反応として見ています。

あとは、記事の直後でなくても後から採用候補者の方などに「あの記事見ました」って言っていただくことは結構あって。それは1カ月とか経たないと分からないんですけど、後で「あの記事良かったです」とか言われたものは社員にも教えてもらったり、社内のSlackでもお知らせしたりしています。

反響のアンケートを取る方もいらっしゃいますよね

矢嶋:短期的には、このニュースだったらこれぐらいを目指しましょうというKPIをプロジェクトごとに決めて、そこに対してどうだったのかを振り返るようにしています。

でも露出ってあくまでも最終的にステークホルダーに情報を届けるための手段なので、それが届いて印象が変わったのか、パーセプション(認知)が変わったのかっていうのを調査しています。スタートアップの広報にはあんまり向かないかもしれませんが、僕らが日々お付き合いしている有識者や記者の方に完全匿名のアンケートで直近のメルカリの活動について印象に残っているものを回答していただいています。それでメルカリの印象がどう変わったのか?ポジティブに変わったとしたら、それは何が理由なのか?等をお聞きして、今後の広報活動の参考にさせていただいているほか、経営陣にもレポートしています。

僕らが最終的に目指しているものが、パーセプションをポジティブに変えていって事業機会を最大化するっていうことだとすると、僕らが直接的にコミュニケーションしている記者さんのパーセプションがまずは変わらないと意味がない。そこを完全匿名で「ぶっちゃけどうだったんですか?」っていうところを聞いて、次に生かしていくということをやっています。

Q:困った時に立ち戻る場所は

Q:スタートアップのPRの方々には、時間もなくて何をやったらいいか困ったので、とりあえずプレスリリースを書くっていうところに戻る方って結構いらっしゃるんですね。もちろんそれも一つの仕事なんですが、やはりお知らせに終わってしまって刺さりにくい。そういう場合に戻るべき場所があった方がいいなと思うんですけれどいかがでしょうか

中澤:自分は行き詰まってるなという時は外に出て、外の人と話すっていうのが一番戻るところかなと思います。結局PRって会社にとっての窓というか、会社と外との接点なので。
今はコロナ禍でリモートメインになっていて、社外の人と会う機会って黙ってるとすごく減ってしまうんですよね。

ちょっと自分がモヤモヤしてるなって時には外の方に会うようにしています。例えばメディアの方もそうですし、採用候補者の方とお話しする機会もあります。そういう時に弊社のことをどう思ってますか?どういう印象ですか?と話してみる。そこには学びがいっぱいあるしアイデアも浮かんでくるので、意識してそうしていますね。

矢嶋:そうですね。近い感じで、プランニングできない時っていうのは単純に情報が足りてないだけっていうことが結構多い。特にリモート下で他の部門などとのコミュニケーションで得られたはずの情報が減ってくると、思考がどん詰まってしまうところがある。やっぱり意識的に社外の人や他の部門の人と話をする。そこから今こういう課題があって、ここを伸ばそうといった情報が入ってくると、じゃあこれやろうかみたいになる。

ひとり広報だと社内に壁打ちできる仲間がいないケースも多いと思いますが、他の会社の広報の方とか、もちろんメディアの方とかでも全然良いと思うんで、とにかく外に出ていくのがお勧めかなと思います。

中澤さんは今ひとり広報ですが具体的にどうされてますか?

中澤:社外に出るという点では、まさにこの前、パートナー企業の導入事例取材でとある地方のドラッグストアまで伺ってきました。ひとり広報なので、自分で企画し現地に伺って取材させて頂いたんですが、実際に話を伺うとやりたいことがいっぱい出てきたので、本当に良かったなと思いました。

PRに関しては社内でも情報収集が得意だったりセンスのある人がいるので、そういう人をよく捕まえて壁打ちに付き合ってもらっています。あとは他社の広報の方やメディアの方と会った時に話すとアイデアも出てくるし、楽しくて元気も出るので、いろいろ相談させてもらってます。

Q:限られたリソース、何を「やらない」

Q:ひとり広報でいっぱいいっぱいになった時に、何を削ぎ落として何を残しますか?

矢嶋:立ち返るところっていうと、やっぱり今の会社の置かれてる状況や課題は何なんだろうというところに立ち返るかな?特に採用に困ってます、ということならそこにフォーカスした方がいいですよね。プロダクトのグロースは今はいったん落ち着いてるからコーポレートの方を強化していいよね、とか。広報って本質的には事業課題を解決することに貢献しないと意味がないと思うので、その時々で会社の課題に合わせて優先度を変えていく必要があります。

一方で捨てちゃいけないものとしては、中長期で会社が目指すビジョンとか方向性みたいなものです。これらは積み上げて発信していくことで人の印象って変わっていくものだと思っています。そこは変えるべきじゃない。

良くないのは、少ないリソースでコーポレート広報もマーケティング広報も採用広報も、、、と全部やろうとして全部が中途半端になることです。思い切って捨てる覚悟をしないと、特にスタートアップってリソースが限られてるので、インパクトがあるところにフォーカスすることが一番大事ですよね。

中澤さんはどうですか?

中澤:これはPRに限らないと思うんですが、「やった方がいいよね」レベルのことはいっぱいあるけれど、それは全部捨ててでも「本当にこれをやらないと会社の未来がヤバい」ということに集中するていうのが短期的にはあるかなと思います。

たとえばPRの本とかを読むと、まずはメディアリレーションを作って地道にアプローチしましょうとか、プレスリリースだけでなくニュースレターも出しましょうみたいな王道アプローチが書いてあると思いますけど、状況によっては全部諦めてもいいと思っています(笑)。

私は10Xに入ってから(広報PRも)採用や人事も担当していたので、自分のリソースの20〜30%しかPRに割けないという感じだったんです。新規のメディア開拓含めて、PR活動はほぼ何にもしていない時期もありました。

ただ、半年に1回ぐらいの調達や新規発表など「ここは頑張ろう!」というタイミングだけは特に頑張って、プレスリリースを作ったりメディアの方向けに発表会をやったりしました。新規開拓をする余裕はなかったので、まずは既存のリレーションがあるメディアの方向けに「今度こういうのやるんです」とご説明し、スポットで頑張りました。

次につづく:経営陣がPRでやるべきことは?ーーメルカリ矢嶋さん・10X中澤さんに聞く成長期の #スタートアップPR(3)

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する