シード投資家3人が考える、バーニングニーズの見つけかた(1)ーースタートアップのベストプラクティス

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載

バーニングニーズ(Burning Needs)とは「髪の毛に火が付いていて、すぐに消すことが求められる」ような切迫したニーズのことです。スタートアップは、ユーザのペインを見つけ、それを解決するサービスを開発せよ、と言われてきました。顧客の目前にある切実で喫緊の課題を解決できれば、今日からでも採用してもらえる可能性が高まります。すでに顕在化している課題があり、その市場がある程度大きいことがスタートアップの取り組みには理想的です。

そんなバーニングニーズは、どうやって見つければいいのか。シードスタートアップへの投資に長年取り組んでいる3人のベンチャーキャピタリストが、具体的な投資先の事例なども交えながら、これから起業を考える人に向けた、バーニングニーズの見つけかたを語ります。

北尾:ゲストに ANOBAKA の萩谷さんと mint の木暮さん(テルマさん)に来ていただいています。まず2人ともシードキャピタリスト歴も長く、投資先も色々あると思うので、バーニングニーズと聞いたときに思い浮かべる投資先、社名、サービス名を伺いたいと思います。

萩谷:バーニングニーズという言葉を広げた Autify。AIを使って開発テストの自動化を行っている会社です。海外のアクセラレータでAlchemist(Alchemist Accelerator)というところがあるんですけど、そこでAIでテスト開発みたいなところの課題をざっくり分かった上で、日本でプロダクトを立ち上げていきました。

(彼らが)どうやって見つけていったかというと、その領域で顧客に100社ぐらい何が課題か、実際やっててどういうところが課題かを聞いて、課題を Excel で全部並べて、何が一番強いかを全部チェックしていきました。

そうすると、エンジニアが少なくて、テストの開発でコードを書くところにリソースが割けないし、コストがかかることが分かってきて、そこに対してだったらお金を払ってくれることが分かりました。

プロダクトを作る前から「コンサルで入ってくれたら全然お金払うよ」「全然受注するよ」と言われて、この領域だったら行けるなと分かりこの領域での立ち上げを始めました。立ち上がりもすごくて一気に伸びていって、スタートアップでも多く使われていて、大きく伸びた支援先の一例です。

Autify のコアメンバー。左から:CTO 松浦隼人氏、CEO/共同創業者 近澤良氏、COO 清水隆之氏。
Image credit: Autify

北尾:「バーニングニーズ」と検索すると、SEOの順番で一番最初に出てくるのが、(Autify 創業者兼 代表取締役)近澤(良)さんの記事やインタビューですよね。この言葉を日本語で一番最初に提唱してくれた起業家だなと思います。ちなみに Excel で課題を100個ぐらい並べたのはヒアリングをされる中でのアクションなのか、それとも仮説ベースで100個ぐらい並べたのかどちらですか。

萩谷:そうですね、それでいうと仮説ベースではないですね。まず、Alchemist のアクセラレータで学んだことなのですが、こちらから課題を指摘するよりは、業務の中で何が一番課題ですかということを体系的に聞いていきました。そうすると、自然にそれが上がってきて、それをExcel に並べて、ホワイトボードに書いて、確からしさを確認していきました。

北尾:なるほど。その時はターゲットを決め過ぎずですか?

萩谷:ターゲットは、エンジニア向け、Dev 系のソリューションとは決めていて、そこでという感じですね。だから、開発部長さんとかシステム系の責任者みたいなところにヒアリングしていった上で出てきた感じです。

北尾:なるほど、ありがとうございます。テルマさんはどうですか。

木暮:僕は ToCを中心に投資しているので、ToC の例になります。ToC のプロダクトは結構分かりやすく、パキッとメリットというか、何かするとこういう風に改善するよ とかがないものが多いです。例えばエンターテイメント。今だとVtuberとか。

エンターテイメントでfunを与えるとかになると、バーニングニーズがパキッと見つかるものではないかなと思っていて、そういう会社は、じわじわと本当に進捗や数値も毎回伸び続けているのだけど、一発爆発的にドカーンみたいな部分に関しては、あったりなかったりするケースがあるという感じだと思います。

投資先でいうと、スニーカーのマーケットプレイスのモノカブ(現スニダン)が、分かりやすく数字が爆発的に伸びて、。MoMで何倍何倍と 、1 回だけじゃなくて何度も何度も続いていた。それを見つけるためにどうにかしろというのはないんですけど、実際確かにバーニングを感じました。

かつて存在した、スニーカーのマーケットプレイス「モノカブ」。2021年7月、同業の「スニーカーダンク(スニダン)」を運営する SODA に買収された。

もう1つがですね、 BtoB のスタートアップで営業してみたところ、明らかに担当者にハマったケース。「めちゃくちゃ使いたいです」「社内でも稟議どうにかします」と言ってくれて。ここまでだと、よくある話かもしれませんが、その後、その担当者が実際に転職されて大活躍してくださることがありました。

本当にプロダクトに愛を持ってくれた。課題自体にも困っていたし、ソリューション自体に愛を持ってくれた。数字で測れない部分ですけど、バーニングニーズの一例だったと思っています。

北尾:なるほど。ありがとうございます。エンタメのバーニングニーズは、確かに測りようがないですよね。1個目のモノカブのバーニングニーズはどのように発見したんですか?

木暮:シンプルにまず出してみたというところだったと思います。とにかく早めに出す。ある程度の完成度を保つためには、時間が掛かると思うのですが、まずはとにかく早く出す。本当に良いプロダクトであれば、さすがに1ヶ月〜2ヶ月で伸びることはないかもしれませんが、数ヶ月経てば進捗が良くなったり、伸びて来たりすると思うので、まずは、とにかく早く出すことがバーニングニーズを見つける上で良かったのかなと思います。

僕ら自身も、ユーザのことを120%は理解できないので、それは、起業家さんでも見つけるのは難しいですし、投資家の判断もなかなか難しいと思うのですが、とにかく早く出したことで、株主も起業家も驚くぐらいの数字が出ることがありました。見つけ方とはちょっと違うかもしれないのですが、こういうケースもありました。

北尾:それは、アプリを出したんですか?

木暮:Webで出しました。

北尾:それは、 UI とかはそこまで作り込んでない状態で?

木暮:ほとんど作り込んでません。ちょっとはもちろんSEOで稼ぐモデルではあったので準備はしていましたが、そこまでゴリゴリにチューニングしたり施策は打ってません。

北尾:出してすぐに伸びましたか?

木暮:半年以内には。最初の1〜2ヶ月は、そもそものマーケティングのSEOところで時差はありましたが、何個かの施策でユーザが来るようになって、普通に購入してくれるようになりました。さらにそこから出品する側も増えましたし、逆に購入する側もリピートが増えました。

北尾:ありがとうございます。僕も自分の投資先の事例で言うと、ひとつはBtoBなんですけど、POLLabBase)という理系学生の人材サービスの会社は、SaaS なので人材のデータベースを作ってる会社なのですが、がっつり作り込んでからリリースを出すと結構大変だったので、最初に「東大、京大、東工大の優秀な理系学生が集まる LabBase をリリースします」というPR TIMESを出したら、100社ぐらい問い合わせがあって、 20ぐらいプレ契約が決まって。まだサービスを作っていないけれど(これだったら)売れそうとなったのは、起業家の加茂さん(代表取締役 加茂倫明氏)も多分自信を持てたところだったと思いますし、資金調達にも大きく繋がりました。

あとは、Timee は、サービスリリース前から LINE@ で結構人を集めていて。「面接なしで働ける」というのが当時としては新しかったので、ワーカー500〜600 人、彼の周りの学生さん達などが食い付いてくれて。いわゆる人出で困っている側も、すぐに来てくれる、当日でも来てくれるというのに刺さってマッチが沢山あって。まだ作っていないんだけど、割とサービスがいきそうなものを感じるというのは一個のバーニングニーズだったんじゃないかと思います。

Image credit: LabBase

次回に続く)

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