研究者が始めたARカーナビスタートアップPhiar、YC採択を経てGoogleに買収されるまでの軌跡

Phiar の CEO に就任した Gene Karshenboym 氏、創業者の Chen-Ping Yu(余正平)氏
Image credit: Phiar

現代のドライバーは、ほぼ全員がナビゲーションシステムを使用しているが、特に台湾では、曲がるべき道路が複数ある場合、あるいは曲がり角を捉えるために、道路とナビゲーションインターフェースに同時に集中することが難しい状況に直面することが多く、近くの車や歩行者に気付かなければ、事故を起こしやすい。

ボストンでは何度も道を間違えてしまい、身をもって体験した痛みだ。

カリフォルニアに拠点を置くスタートアップ Phiar の創業者である Chen-Ping Yu(余正平)氏は、自身のビジネスのアイデアがどのように生まれたのかについて、深い学識を活かしてディープラーニングと AI や AR 技術を組み合わせ、新しい体験のナビゲーションを実現したと説明する。

2021年9月27日、Phiar はシリーズ A ラウンドで1,200万米ドルの資金調達を行い、Google の Android 自動車プラットフォームの元責任者 Gene Karshenboym 氏をチームに迎え入れたことを発表したが、これらはすべて、何度か迷った末に、Yu 氏が努力した結果であった。

研究に傾倒、仕事の理由を忘れる

中学生からアメリカに渡った Yu 氏は、大学生になるまでなかなか自分の志を見出すことができなかった。2年間に及んだ苦悩の後、彼はニューロサイエンス(神経科学)の研究室に入り、先生の手伝いでコンピュータープログラムを書いたり、データを整理したりするうちに、初めて基礎的なことを学ぶ意欲が湧いてきたと言う。

当時は、マイクロソフトが最大手で、すべてのコンピュータにマイクロソフトの OS が搭載されていなければならなかった。

野心家の Yu 氏は後輩の James Briscoe 氏と話し合った結果、Bill Gates 氏の成功の理由は、「誰もが必要とする製品を作ったからだ」と判断した。自分たちの実力を証明するために、2人は次に皆が必要とするものは何かを考え始めた。

2人は、ロボティクスこそが、誰もが必要とする次のコンピュータだと考えた。ロボットのことはよくわからなかったが、「ロボットを人間のように俊敏に動かすには、『視覚』が重要な技術になる」という単純な発想から、2006年、コンピュータビジョンはまだ未熟な技術だったが、Yu 氏は真っ先にこの分野に飛び込んだ。

優れた製品を生み出すために、Yu 氏はコンピュータ工学の修士号を2つ、そして、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校でコンピュータービジョンの博士号を取得し、さらにハーバード大学のポストドクターに応募して、技術的な知識と能力を高めた。

当時の私のキャリアプランは、教授になって、教壇に立ちたいというものだった。

James Briscoe 氏とは長いこと音信不通だったが、運がいいのか悪いのか、Yu 氏は学会の脚光を浴びつつも、冷遇されたことを笑いながら認める。

せっかく研究してきたのに、世の中に直接貢献することはゼロだということに気づいた。

再び途方に暮れていたところ、偶然にも同じボストンに James Briscoe 氏がいることを知る。何も言わずに後輩を誘い出し、キャッチボールをしながら、初めて自分が何のために働いていたのか、起業のために働いていたことを思い出したのだ。

Phiar の共同創業者。左から、James Briscoe 氏、 Chen-Ping Yu(余正平)氏。
Image credit: Phiar

コンピュータビジョンは2017年に注目の技術だったし、2人がボストンで道に迷ったり間違えたりしたという体験談もあり、このトピックはチャンスだったのではないだろうか。

どうせ起業しても失うものは何もないし、ほとんどないのだから、やってしまおう!と自分に言い聞かせたのだ。

技術やビジョンがあっても、投資家から注目を集められる保証は無い

人材と資金を確保するために、Yu 氏は常にさまざまな展示会やイベントに参加し、そこで投資家のネットワークを築きたいと考えいた。投資家に出会っても、すぐにお金を出してくれるわけではない。何度かイベントに参加しているうちに、自分が愚かだったことに気づいた。

まだ誰も投資していない段階では、他の投資家は動いてくれない。なぜなら、我々は2人しかいないし、製品もまだ無かったので、成功するかどうかがわからないからだ。

ハーバード大学のポスドクだった Yu 氏であっても、そのキャリアは投資家を納得させるには十分ではなく、彼はエンジェル投資に頼って20万米ドルを調達することになった。

Yu 氏は「Y Combinator はなかなかよさそうだ」と思った。彼はアクセラレータに対する理解が全くなかったと認めるが、それでもデモを成功させて面接官を感心させ、YC S18(Y Combinator 2018年夏バッチ)に参加することができ、自分の技術とアプリケーションシナリオをどう組み合わせ、応用できるかを考えるきっかけとなったそうだ。

Image credit: Phiar

ナビゲーションにコンピュータビジョンの技術を使って、まずカメラが捉えたものをどう認識するかという問題を解決した後、AR ナビゲーションアプリケーションに移行する必要があった。Yu 氏は3ヵ月後のデモデイで、当時の少人数チームでは AI の初期モデルすら作れず、結果的に概念的な紹介しかできなかった。彼はその時のことをこう振り返る。

足がふらつき、ステージ上では目の前が真っ暗で、YC デモでいで失神する最初の起業家になるのではないかとさえ思った。

しかし、デモデイでは投資家らを魅了することに成功、Phiar はシードラウンドで、Venture Reality Fund、Norwest Venture Partners、Anorak Ventures、Mayfield Fund、Zeno Ventures、Cross Culture Ventures、GFR Fund、Y Combinator、InnoLinks Ventures から250万米ドルを調達した。

起業のメッカ、シリコンバレーへの移住は、まだまだ困難が多い

0→1のステップアップを経て、Phiar はエンジニアの人材を確保しやすいと考えシリコンバレーに進出したが、実際には締め出されることが多かった。創業者の人柄やカリスマ性で惹きつけられるなら話は別だが、Yu 氏は自身がその種の CEO ではなかったと笑い、8人のエンジニアを採用し、徐々に製品を作り上げていくまでには大変な苦労があったと振り返る。

すぐに直面した問題として、リソースを大量に消費する AI/AR ナビゲーションの処理中にスマートフォンがオーバーヒートしやすいこと、また、画面の小ささも大きな欠点となった。

このジレンマに直面した Phiar は、B2B のスタートアップチームとなって、フリートやデポ向けに AI/AR ナビゲーションシステムを販売することを決意した。

導入に際しては自動車メーカーによる長い検証期間が必要だったが、Phiar は優れた AI 技術と製品で自動車業界に参入し、クアルコム Snapdragon の既存の車載用チップを利用して製品開発を行い、AR 空間認識アプリケーションやディープラーニングと組み合わせ、マートフォンで交通状況をリアルタイムに検知しながら AI/AR ナビゲーション動作させることができる「Spatial-AI Engine」と「Mobility AR Engine」を開発した。

これらの製品は、日産をはじめとする世界の大手自動車会社3社の PoC(実証実験)機会の獲得に成功し、さらに、世界をリードする自動車部品サプライヤーである Panasonic Automotive、BOsch、グローバルナビゲーションプラットフォームのTomTom や HERE とも協業している。

Google の Android カープラットフォーム担当者が参画

2021年9月27日、Phair は、アメリカ最大の自動車・住宅保険会社 State Farm Ventures がリードし、Cambridge Mobile Telematics、Telenav などから1,200万米ドルを調達し、シリーズ A ラウンドをクローズしたと発表した。このラウンドには、既存投資家の Norwest Venture Partners、The Venture Reality Fund、GFR Fund が参加しており、Phiar と自動車メーカーの間の協力が深まることが期待される。

State Farm Ventures のパートナー Michael Remmes 氏は、「Phir の Spatial AI が優れたリアルタイム道路認識を提供し、市場において非常に競争力があるとし、Karshenboym 氏とチームが協力して発展することを期待している」と述べている。

また、自動車業界と10年以上にわたる協業経験を持ち、Google のAndroid車載システムを主導した Gene Karshenboym 氏は CEO として Phiar に参画し、その経験を活かして自動車メーカー大手や部品サプライヤーとのパートナーシップを拡大するほか、創業者の Zhengping Yu 氏が取締役に異動する予定であることも嬉しいニュースだ。

すべてのハードウェアに我々のソフトウェアを搭載してほしい。我々は次のマイクロソフトだ、その考えは変わっていない。

Yu 氏は自動運転やメタバースの台頭により、今後 AI と組み合わせた AR の応用はより広範なものになるだろうと語った。

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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