相対評価の誤り【ゲスト寄稿】

mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。彼は、日本で Shizen Capital(旧 Tachi.ai Ventures)のマネージングディレクターを務める。本稿は Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿

The guest post is first appeared on Mark Bivens’ Blog. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture capitalist. He is the Managing Partner of Shizen Capital (formerly known as Tachi.ai Ventures) in Japan.


Hard Work by Nick Youngson CC BY-SA 3.0 Alpha Stock Images via Picpedia

スタートアップの資金調達にはあるパターンがあり、それは通常、人々がまだ勉強中のアーリーステージのスタートアップのエコシステムやマクロ経済の大きな調整が生じた直後に発生する。
この2つの条件は、現在の日本にも存在しており、スタートアップの評価に関するいくつかの馴染みのあるテーマが戻ってきたとしても、私は驚きではない。

通常、このようなストーリーが展開される。アーリーステージのスタートアップが、強気相場の中、ベンチャーファイナンスのラウンドで調達する。資本の流動性が高まり、多くは市場の高揚感も伴い、スタートアップは、健全な (完全に高騰していないとしても) 評価額で資金を調達することに成功する。投資家の高い期待に応えようとするスタートアップの創業者は、開発と成長を優先し、通常、12~24ヶ月先の資金調達を前提とした事業計画を作成する。

そして、その間のある時点で、何らかの一般的な経済危機が発生する。この危機は通常、少なくともすぐに、スタートアップの経営に直接影響を与えることはないが、市場全般のリスク許容度や資本のアベイラビリティに影響を及ぼす。

一方、スタートアップは、事業に集中し実行し続ける。市場のセンチメントの変化をいち早く察知し、より迅速に対応するスタートアップもあるかもしれないが、市場からの誤ったポジティブシグナルに過剰に反応することも、また誤った方向に進む可能性がある。誰も水晶玉を持っていないので、スタートアップの創業者が完璧な戦略的判断を下すことを期待するのは不公平である。

どれだけ迅速に反応しても、ラウンドの間にあるほとんどのスタートアップは、依然としてさらなる資金調達が必要である。中には、帆を整えて時間を稼ぎ、迫り来る嵐を切り抜けるための部分的な解決策を見出すことができる企業もあるかもしれない。しかし、まだ持続的な収益性を有する段階に達していない企業、つまりスタートアップは、遅かれ早かれ資金調達を再度行う必要がある。

この時期は、通常、VCがディールフロー数の大幅な上昇に気づく時期であり、スタートアップにとって特に厳しい資金調達環境となる。一つは、ほとんどのVCが自身の投資先企業を抱えており、それらもまた流動性が逼迫した同じ環境に直面していることである。さらには、需要と供給のバランスが変化した結果、より多くのスタートアップが、VC からの注目度はもちろん、VC の投資先企業を含む他のスタートアップと、ますます限られた資金をめぐって競争することになる。

このような環境では、機関投資家の資金調達ラウンドの間にあるスタートアップは、しばしば不利な立場に立たされる。彼らは、厳しい市場でより多くの資金を調達する必要がある。さらに悪いことに、以前の資金調達ラウンドの評価額は、この新しい市場環境において乗り越えるべき高いハードルであることが多い。スタートアップの創業者は、経営上のKPI目標をすべて達成し、前回の資金調達時の約束あるいは暗黙の了解もすべて達成したと言えるかもしれない。創業者が、新しい資金調達ラウンドが前回よりも高い評価額で行われることを期待するのは、自然なことである。

しかし、新しい資金調達ラウンドの評価額が、前回のラウンドとの相対的な基準で設定されることを期待するのは誤りである。外部の投資家は、異なる計算をする。そのスタートアップが安定的な収益を得るために、あるいは次の資金調達ラウンドに到達するために、どれだけの資本が必要なのか?後者の場合、その時点のスタートアップのKPIはどうなっているのか、また資金調達を継続することで成功する確率は上がるのか?VCは、そのスタートアップがその後の資金調達を行う必要があるときにこれらの評価基準をクリアできる可能性が低ければ、投資を行うことに消極的になる。

スタートアップにとって不幸な状況に陥る可能性がある。これらのスタートアップは間違いなく進捗し価値を創造しているにもかかわらず、ますます不足する資金をVCから獲得するために、以下の2つのカテゴリーのスタートアップと競合することになる。i) 類似の市場課題に直面し、既存のVCが内部資金調達ラウンドで橋渡しする必要のあるポートフォリオ企業、ii) VC 資金を高騰した評価額でまだ調達しておらず、新しく縮小した市場のベンチマークに見合ったレベルで資金調達ラウンドの評価額を設定できる外部のスタートアップである。

昨今のグローバル市場の混乱に加え、日本のスタートアップエコシステムの黎明期であることから、上記のような問題に直面するスタートアップが増加している。私たち自然キャピタルは、幸運にもフレッシュな資金を投入することができるので、このような厳しい環境下において、創業者の方々と正面から向き合い、たとえそれが厳しいメッセージであったとしても、評価額の問題に真摯に対処するよう心がけている。何週間も資金調達の議論をしているうちに、評価額に対する期待値のギャップが克服できないことが判明するのは、創業者にとって不利益なことだと考えているからである。

また、上記のような苦境に陥ったスタートアップのために、クリエイティブな解決策を見出すことも心がけている。その結果、実りあるファイナンシャル・パートナーシップが始まり、投資することになることもある。たとえ取引を見送る必要がある場合でも、チームの成功につながる建設的なアドバイスを行うよう常に心がけている。

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