
スタートアップに限らず、近年は企業に対する社会的な要請が高まりつつあります。代表的なアジェンダであるESGへの取り組みは国内でも昨年、東証と金融庁が推進するコーポレート・ガバナンスコードの改訂により明確な方向性として示されている状況です。
環境への取り組みは各社において温度差があるかもしれませんが、社会性、特にジェンダーやダイバーシティへの取り組みは働く人が「人」である以上、考えないわけにはいきません。
ここにひとつ、興味深いデータがありました。
Crunchbaseのデータによると、2021年には約600社近くのスタートアップが10億ドル以上の評価額をつける、いわゆる「ユニコーン」としてリストされたのですが、その内、83社が女性によって設立、共同設立された企業であり、その数は2020年に比較して4倍以上に拡大しているというのです。
そこで本稿では、女性が(共同)創業者として参画しているユニコーン企業がどのようなものかいくつか取り上げてみることにしました。なお、下記に挙げたスタートアップはCrunchbaseが調査した時点での推定の企業評価額を参考に本誌にていくつかを選んだものになります。
インテリアデザインを民主化した「LivSpace」
インテリアデザインのスタートアップ企業シンガポール拠点の LivSpace は、デザイナー、サービス、商品と人々をつなぐプラットフォームを提供しているスタートアップです。
2022年2月にはシリーズFラウンドで1億8,000万ドルを 調達しており 、このラウンドはKKRがリードし、Ingka Group Investments、Jungle Ventures、Venturi Partners、Peugeot Investmentsなどの既存の投資家が参加しています。
「すべての人に良いデザインを」という理念のもと、2014年にAnuj SrivastavaさんとRamakant Sharmaさんによって設立されました。創業者自身が住居の改築を行う際、スケジュールや請負業者の選定、デザイナーとの関係性づくりまで、何もかもが予測不可能で複雑な課題を抱えていることに気づき、その計画の難しさに直面したことが創業のきっかけなのだそうです。
2016年、Livspaceは独自のプラットフォームであるCanvasを立ち上げました。住宅所有者と認定デザイナー、施工業者を繋ぐことで、住宅所有者が手間のかからない方法でホームインテリアを注文できるようにしたのです。現在10万件以上の客室を提供し、プラットフォームを通じて750万以上のアイテムを販売しています。
また、インテリアデザイナーがCanvasを利用すると、2D/3Dでのデザイン作成や数百万件のSKU(Stock Keeping Unit)デジタルカタログへのアクセス、予算計画やクライアントとのチャット、製造発注、プロジェクト計画の作成、配送状況の確認など、プロジェクト全体をクラウド上で管理することが可能になりました。
これによりデザイナーはより多くのプロジェクトに取り組むことができ、同社ではその結果、従来は一部の富裕層にしか提供されていなかった優れたインテリアデザインを、より多くの住宅所有者に提供することに繋がっているとしています。現在、2,000を超えるデザインパートナーと 協力関係を結んでいるそうです。
AIで血液検査コストを軽減する「Athelas」
Athelas は、慢性疾患患者を自宅でモニターするための技術を開発ているスタートアップ。同社は血圧や体重、グルコースなどの服薬を管理するための各種センサーとともに、FDA認可の血液診断装置を提供しています。
2016年にDeepika Bodapati氏とTanay Tandon氏によって設立された同社の代表的な製品が「Athelas One」です。「簡単に手早く、どこでも誰でもできる血液検査」を目指し、臨床医が患者の血液診断を3分以内で実行できるようにしました。独自に開発したデバイスとキットを使い、利用者は自宅で一滴の血液を試験紙に採取し、デバイスへ設置することで結果が送信されてくる仕組みになっています。
高価なハードウェアではなく、 AIを使った機械学習アルゴリズムを用いることで 、自宅にいながら手頃な価格で誰もがアクセスできる環境を実現。血液診断にかかるコストを低くすることで、発展途上の国で人々を苦しめる病気を特定し、それらを正確に治療するための資源を配分することも可能になるとしています。
雇用のグローバル化を進める「Globalization Partners」
Globalization Partners は、企業が自国外に支店や現地法人を設立することなく、世界中のどこからでも迅速かつ容易に人材の雇用を可能にするグローバル雇用プラットフォームを提供しています。
Nicole Sahin氏によって2012年に設立された同社が提供する「Global Expansion Platform」からは、世界187カ国以上に在籍する経験豊富な人事専門家チームにコンタクトが可能。同社は、ボストンとサンディエゴに米国本社を置き、ドイツ、UAE、インド、ブラジル、メキシコ、シンガポール、および英国に地域オフィスを構えています。
これまでは、別の国で従業員を雇用するとなると、現地で事業法人を設立する必要がありました。しかし同社の場合、世界中の各国に現地法人を設立済みのため、企業はコストのかかる海外子会社を設立することなく、数日以内に人材を採用することができます。
従業員がすばやく勤務を開始できるだけでなく、企業はグローバルな法人税、法務、および人事に関する負担を軽減することが可能です。Globalization Partnersは人事データに関してPrivacy Shieldの認証を受けているそうです。
企業は雇用する候補者を見つけた後、同社が現地法に則って入社プロセスを管理するため、国際的な人材の雇用準備を進めるために弁護士や銀行、またその他のアドバイザーと長期に渡るやり取りを行う必要がありません。現在、日本企業のグローバル展開を支援する取り組みの 強化も進めているとのことです。
デジタルマーケティングを効率化する「Insider」
Insider は企業のデジタルマーケティング担当者のためのプラットフォームで、顧客の獲得から活性化、維持、収益に至るまで、ファネル全体で成長を促進できるよう支援するものです。
同社はArda Koterin氏、Hande Cilingir氏、Mehmet Sinan Toktay氏、Muharrem Derinkok氏、Okan Yedibela氏、Serhat Soyuerel氏らによって2012年に設立されました。人工知能と機械学習によるリアルタイムな予測セグメンテーションを活用し、ウェブやモバイル、モバイルアプリ、広告チャネルなど複数のチャネルを跨いでアクセスしてくるユーザーに最適化された体験を提供しています。
このプラットフォームは統一されたデータレイヤー上に構築されているため、散在していた顧客のオフライン・オンライン行動データを繋ぎ合わせ、AIによって顧客の興味関心、ニーズ、好みのタッチポイントを明らかにし、次のアクションを予測することが可能になるとしています。デジタルマーケティングにおける複雑な統合やITチームへの依存を回避し、効率化を進めてくれます。
同社は現在、シンガポール航空やVirgin、トヨタ、New Balance、IKEAなど、1,200以上のグローバル企業が 利用しているそうです。
インドの教育デジタル化支援「LEAD School」
LEAD School は、Sumeet Mehta氏とSmita Deorah氏が2012年にインドで設立した教育デジタル化支援のEdTechスタートアップです。
中低所得者層の生徒により良いサービスを提供するため、幼稚園から高校までの私立学校に対して教育カリキュラムや教育方法、書籍やその他のリソースを取りまとめ、学習成果をより良く評価するための統合システムを提供しています。
視覚・聴覚を用いて多角的に学習を進められるマルチモーダルな学習キットや、実践を通して学習できる学年別のアクティビティキットなど、生徒の学習を楽しくするだけでなく、さまざまな方法で学習の理解を深められるコンテンツを用意しているそうです。
LEADではインド国内および海外のベストスクールをベンチマークとしており、科目固有の教育法に従っています。例えば英語学習のELGA(English Language and General Awareness)プログラムでは、英語を教科としてではなく、スキルとして学ぶそうです。さまざまな年齢層の生徒が一緒に学ぶことによって、自分のレベルとペースに合わせて学習できる仕組みが作られています。
また、LEAD Studentアプリによって、リモート環境での学習も提供しており、家庭学習と学校での学習を連動するようにしています。
インドのすべての子供たちが優れた学習を手頃な価格で利用できるようにすることをミッションステートメントとして、2026年までに2,500万人の子供たちの推進学習を可能にするビジョンを掲げています。
共同執筆:浅田優月
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