500社登壇目前、参加スタートアップの累計調達額は800億円規模にーーMonthly Pitchが滋賀県守山市で初の地方開催

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初の地方開催となったMonthly Pitch Shiga

毎月開催されているシード期のスタートアップ向けピッチイベント「Monthly Pitch」は9月、63回目を数えるイベントを滋賀県守山市にて開催した。2016年12月の開催(前身のイベントは2013年開催のライジングエキスポ)からこれまでに474社が登壇し、プレスリリースにて確認が取れた企業だけで6割以上の登壇スタートアップが資金調達に成功。それらの累計調達額は約800億円に上る。

オープニングでは会場となった滋賀県守山市の宮本和宏市長が挨拶に立ち、令和7年に村田製作所が2000名規模の研究者人材をこの守山市に集める計画を引き合いに「1000名規模の起業家がオンライン、オフラインで集まり社会課題や地域課題を解決するゆるやかな枠組みを作りたい」と抱負を語った。また、滋賀県守山市出身でエンターテインメント企業「マイネット」を創業した起業家の上原仁氏も会場に駆けつけ「守山市に素敵な投資家の方々もお集まりいただいた。良い時間になれば」と登壇企業と投資家の面々にエールを送った。

応援に駆けつけた滋賀県守山市出身の起業家、上原仁氏が会長を務める滋賀レイクスの試合観戦などのアクティビティも開催された

東京渋谷にて毎月開催しているMonthly Pitchにとって地方開催は初。同市での開催にあたり、守山市の観光課や上原仁氏が会長を務めるバスケットボールBリーグチーム「滋賀レイクス」などが協力した。ピッチステージだけでなく、2日間の日程で滋賀レイクスの試合観戦や琵琶湖を使ったアクティビティなど、起業家と投資家のコミュニケーションを促進する取り組みも実施されている。本誌BRIDGEではMonthly Pitch Shigaの開催主旨に賛同し、メディアパートナーも務めた。本稿では下記に当日ピッチを実施した7社をご紹介する。なお、アジア版Monthly Pitchである「CA Pitching Arena」今年11月30日からインドネシア・ジャカルタにて開催予定(完全招待制・参加希望の方はこちらのフォームから招待のリクエストを送ることができるそうです)。メインとなるピッチステージは翌日の12月1日に開催される。

ニューラルコート

Metaが発表したQuest Proにも搭載されているアイ・トラッキング(視線追跡)をヘルスケアに活用しようというのがニューラルコートだ。同社が開発を進めるカプセル型のゾーニングマシン「ZONE-Z(ゾーン・ジー)」にVRヘッドセットを被った状態で入り、ストレスチェックをするとその人のストレス具合がスコア化されるというもの。

VRヘッドセットをつけた診断を受けたいユーザーの目の大きさや形を計測し、その前にネガティブとニュートラルの二つの画像を並べる。どちらをどれぐらい見つめていたのかをアイトラッキングセンサーで詳細に計測し、独自のアルゴリズムでスコア化するという。11月からは100名規模の実証実験に進み、データ収集からAIモデリングを進める。来年の春頃にアプリケーションを立ち上げ、夏頃にはVRヘッドセットの実用化を検討しているという。

ビジネス展開については、ロート製薬が提供する消費者向けプラットフォームを活用する計画だ。ニューラルコートが開発するアプリ上で同様の視線計測を実施し、ストレスチェックから目薬などの製品につなげるというアイデアを考えている。その後、VRヘッドセットの展開から大阪万博に向けてゾーニングマシンの実現を目指す。

同社は視線データだけでなく、唾液コルチゾール検査などで採取した試料を元にロート製薬や大阪大学と共同でストレスに関するデータ解析をするなど、研究開発力に強みを持つ。

ディープラストレーディング

ディープラストレーディングが提供するtunageru

中小のアパレル、サプライヤーのための仕入れ、販売プラットフォームを開発するのが ディープラストレーディング だ。年々増加するインフルエンサー主体の小さなブランドが増えている状況がある。こういったSNSを中心に展開するアパレルは店舗を持たず、ECに特化して販売するケースが多い。

急激に売上を伸ばす例もある一方、複雑なアパレルの生産工程を熟知しないままブランドを立ち上げる人も同様に増加しているのだとか。生地をひとつとっても複雑な工場や問屋がサプライチェーンに存在しているため、余計なコストが乗ることもある。ここを解決しようというのが彼らの考え方だ。

彼らのが提供するアパレルマッチングプラットフォーム「tunageru」を使うことでサプライヤーは値段を下げることなく、ブランド側は適正な価格で流通が実現しているという。サイトでは通常のECサイトと同様にクレジットカードでプロが購入する生地を購入できる。クレジットカードの限度額を超える販売は掛け売りも可能。固定費を取らず、出品料の20%を手数料として徴収するモデル。

出品するサプライヤーは同社が検証して優れた品質のものだけに厳選している。今後は自動化できる箇所を開発する予定。また、生地の共同購入モデルも検証する。カウシェが実施しているシェア買いに近いモデルで、外部のプラットフォーマーと協力して80万人のバイヤーを対象に検証する。この共同購入のモデルを通じてマッチングの効率を上げ、過剰生産や欠品率を下げることを目指す。

シンガポールにある類似のアパレルB2Bプラットフォーマー「Zilingo」は10億ドルの評価額で新たな調達ラウンドに臨んでいるという 報道もある。

NGA

NGA CEOのALEX WANG氏

NGAが提供する「HelloBoss」は企業と求職者を独自のAIアルゴリズムでマッチングするアプリ。独自の企業データベースを構築しており、500万社以上のデータからAIによって推定された社員数などの基本情報を掲載する。TikTokを見るような感覚でAIが閲覧するユーザーにあった企業を推薦してくれるのだが、これはオープンデータを活用したもので同社によると精度は99%を実現している。求職者は希望の企業にSNSのようにチャットでコンタクトが取れる。

また、求職者がビジネス交流できるオンラインコミュニティの機能も提供される。なお、マッチングやコミュニティ機能は現在開発中。一般的な求人掲載料や成功報酬などはなく、採用側の企業はAIが判定した人気職種の求人情報掲載料とアプローチしたい求職者とのコンタクトに課金が発生する予定。

Hello Bossは求職者と企業をチャット感覚で繋ぐ

アレックス氏は「中小企業を中心に100万円かかっている採用関連コストを月額1万円、2万円という形に変えたい」と語る。掲載料もAIが判定するとしており、これらの利用料金体系が実現すれば、将来的にかかる採用コストを100分の1にできるとした。

AIによる求職者マッチングは海外でも市場を獲得しており、中国のBOSS直聘は創業7年でナスダックに上場しており、現在の時価総額は1兆円を超える。また、インド発のHirectは同様にAIを活用したマッチングを実施しており、創業から3年目で評価額は日本円にして300億円近くをつけた。

Flora

月経妊活アプリ「Flora」

「flora」はカレンダーで体調や月経周期、体温を管理することができる月経妊活アプリ。個人の特性に合わせて専門家によるオンデマンドレクチャーやコラムなどのコンテンツも提供してくれるほか、生理周期の解析や妊活サポートなどの機能を利用できる。

このアプリを提供するのが京都を拠点とするFloraだ。2020年創業の同社はアプリ提供の他にも啓発イベント「FemCamp」や女性向けプロダクトの開発を支援する「Flora Expert」などを展開している。同社代表取締役のAnna Kreshchenko(クレシェンコ アンナ)氏は登壇したステージで、国内で月経に悩む女性が約1,000万人も存在しているにも関わらず、医療機関で受診していない割合が9割以上にも上るという問題を指摘していた。

「根本的な課題として女性が自分の体を理解できない、またはそもそも理解する機会を与えられていないという点があります。理解していないためにセルフケアや予防にも取り組めないという課題に対して、弊社がデータを通じて女性をエンパワーしたい」(アンナ氏)。

floraアプリは、AIによる独自のパーソナライズ・アルゴリズムを実装しており、ユーザーの使用目的や気分、症状に合わせて生理痛緩和などの情報を提供し、女性が自身の健康を理解し、かつコントロールできることを目指している。今年4月にアプリをリリースしてから現在、5万人のユーザーを集めており、現在も1万人のペースで成長を続けているという話だった。

Poppy AI

Poppy AI, Inc.代表の哘崎悟氏

米国拠点でメンタルヘルスケアのアプリ「Waffle」を展開するのがPoppy AI, Inc.だ。アプリ内にジャーナルを作って友人や家族を招待し、普段は言えない話題を投稿できる。「直接言うのはちょっと恥ずかしいけど、わかってほしいことを吐露する場所として使ってもらってます」(同社代表の哘崎悟氏)。現在、ユーザーは米国中心に全世界174カ国で利用されており、3万人ほどが利用している。利用が進んでいる背景にコロナ禍における学生たちのSNS疲れがあるのではと指摘していた。

「一言で言うとSNS疲れが行き過ぎて、メンタルに支障をきたす若い人が続出してるということです。承認欲求のサイコロが速くなりすぎて人間の方がついていけない。特に若い人でメンタルが危なくなる人が増えていて、そこにコロナが拍車をかけた。学校がほとんどリモートになって孤独感を抱えたZ世代の学生が増えたんです」(哘崎悟氏)。

メンタルヘルスケアのアプリ「Waffle」

最初にアプリ利用が伸びた背景について、ハーバードなどの大学コミュニティでこのアプリを使ってお互いのメンタルをサポートしようという動きがきっかけだったと振り返る。この最初の波から親子、夫婦という形に飛び火していったそうだ。Waffleの特徴としてインタラクションを全てなくした点がある。ソーシャルメディアで一般化した「Like(いいね)」などは承認欲求のサイクルを回すエンジンになるが、Waffleでは心理的安全性をいかにして実現するかを重要視したのだという。結果、2,000件以上溜まったアプリのレビューは4.8と高評価になっている。同社では2年以内に100万人の利用を見込む。

だんきち

スポーツ選手のセカンドキャリア支援の側面もあるオンラインレッスン「スポとも」

スポーツのオンラインレッスン事業を運営するのがだんきちだ。地方でレッスンを受けられない受講者と都心でプロを引退したセカンドキャリアに悩む人をマッチングする仕組みでオンラインレッスンを提供する。

同社が提供する「スポとも」ではマンツーマン指導に特化した機能を設けており、同期・非同期を組み合わせたハイブリッド型レッスンを提供している。アプリ内のビデオ通話機能を用いてレッスンを受けて、自動録画されたものを後で振り返ることができるのに加えて、時間があるときに録画して提出し、アドバイスと次のメニューの課題のやり取りができる。双方にとってスキマ時間を活用して進められる部分が大きな特徴だ。

受講内容によって異なるが、アプリは月額数千円で利用可能で、1時間1万円以上かかることの多い元プロによるレッスン費用と比べると安く受けられるのがメリットだという。一般的なレッスンは14〜22時と時間が限られる中、昼夜問わず収益化できるのがコーチ側のメリットだ。月に30万円以上の収入を得る人も出てきているという。

徐々にスポともを利用してコーチングする方が増えてきているそうで、 横峯さくらゴルフアカデミー や東北楽天ゴールデンイーグルスアカデミーでの利用も開始しているという。

Firstcard

大学生向けインターネットバンキング「Firstcard」

アメリカで大学生向けインターネットバンキングを提供するのがFirstcardだ。CEOの丹羽健二氏は2007年に大学生向けインターン求人サイトを運営するアイタンクジャパンを創業。事業の売却後、UCバークレーMBA在学中に同社を創業した。

日本の国立大学の4年間の学費が250万円程度であるのに対して、アメリカの私立大学の年間学費が500万円と高額であるために学生ローンを組んで通うケースが多く、債務残高は200兆円に上るという。7割の学生が経済的ストレスを抱える中で、各銀行は月額やオーバードラフトなどの手数料を請求している。

今年の5月にβ版がローンチされたFirstcardの特徴は手数料なしとキャッシュバックシステムの2つだ。キャッシュバックシステムではナイキ、ピザハット、KFCなど全米2,900万店舗でカードをスワイプした瞬間に15%のキャッシュバックがもらえる。アフィリエイトマーケティング会社とデビットカードを接続することでキャッシュバックを生む仕組みとなっているという。

ビジネスモデルはインターチェンジ・フィーとして1%、キャッシュバック時にマーケティング売上として手数料を請求するモデルとなっている。来年中の10万ユーザー獲得を目指しており、現在は日本のサークルにあたるstudent clubに協賛することで認知を増やしている。現在大学生向けネオバンクは盛り上げを見せており、「Mos」は 2020年5月の評価額5000万ドルから4億ドルに上げてシリーズBで4000万ドルを調達している

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