Repro「サイト速度改善ツール」誕生のウラ側ーースタートアップ創業者が仕事を変える時

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Repro代表取締役の平田祐介さん

タグを貼るだけでサイトスピードが改善できるー。先週発表されたReproの新サービス「Repro Booster」が大きな話題になりました。特にソーシャル上で声が挙がっていた「先読み」の仕組みについて改めて問い合わせたところ、次の回答を寄せてくれています。

「Repro Boosterはユーザーがクリックするリンクを予測し、そのリンク先のデータを先読みしておくことで、実際にそのリンクをクリックされた際のページ遷移を高速化します。具体的にどういった情報やロジックでもって予測を行っているかについては詳細をお伝えできないのですが、ユーザーの行動データやページ内の情報など、いくつかの要素を組み合わせ予測を実現しています」(開発を担当したFOXさん)。

一部の反響としてすでに別のツールが同様のことをやっているというものがあったのですが、その点についても「それは事実」とした上で、次のようにこのRepro Boosterの新規性について教えてくれました。

「先読みというアイデア自体は新しいものではありません。ただ、そういったツールは大抵が実装を必要とするもので、かなりのリテラシーをもった企業でしか使えない実情があります。そういった技術を「タグを入れるだけ」で実現できるようにしたことがRepro Boosterの大きな新規性の1つであり、特許取得にも結びついたポイントとなっています。

今後はより予測と先読みの精度を上げるべく自動でユーザーごとにチューニングされるような機能追加も考えております。また先読み以外にも、「タグを入れるだけでサイトを速くする」というコンセプトに合致する機能や改善も色々と仕込んでいく予定です」(前出のFOXさん)。

もう一点、料金体系についても超過型の従量課金ではなく、導入対象ページ数の平均PV数に応じた定価を提示して月額固定で設定しているそうです。これに初期費用が初回のみかかる仕組みです。

さて、実は筆者、このサービス開始にあたりReproの創業者で代表取締役の平田祐介さんにお話をお伺いしたのですが、サービスそのものよりもひとつ、驚いた点がありました。それが平田さん自身、この開発にほとんどタッチしていないという事実です。BRIDGEは平田さんたちReproが創業した頃から取材をはじめ、時折のハードシングスを拝見していたのですが、いつの場面にもこの「創業者」がやってきて問題を解決するというシーンがあったように思います。

スタートアップ経営のみならず、新たな成長、イノベーションの創出は多くの経営陣にとって永遠の課題です。

特に日本国内では東証グロース(旧マザーズ)という株式市場があり、ニューヨークなどの海外主要市場に比較して、早めの公開が可能と言われています。力強い創業者がある成長マイルストーンまで牽引することは可能かもしれませんが、当然ながら限界もあります。せっかくなので、本稿では平田さんたちReproはどのようにして今回のアイデアを生み出したのか、平田さんの言葉を辿って紐解いてみたいと思います。

「僕が変わらなきゃ」を感じた日

インタビュー:SaaSは年商10億円の壁をどう超えるーーRepro、Yappliの創業者が語る「PMFまでの道のり、ARR成長の鍵」より

Reproの創業は2014年。世の中はスマートフォンシフトが始まり、メルカリのようなフリマアプリやパズドラのようなゲームをスマホで楽しむ人々が増えていった時期でした。Reproはこの中にあってアプリの分析ツールから始まるのですが、なかなか事業が立ち上がりません。そこで目をつけたのがアプリマーケティングの市場でした。この時のエピソードは以前の取材で平田さんが語ってくれています。

平田:PMF(プロダクト・マーケット・フィット)達成までですね。創業から1年半かかりました。ARR(Annual Recurring Revenue/年間経常収益)数十億以上のポテンシャルがあるPMFを見つけるのは大変です。

Reproの初期サービスってアプリの分析ツールでした。しかし販売はできても、ARR10億円にも到達しないことが分かったんです。そのため、試行錯誤しながら「アプリのマーケティングツール」へピボットし、かつ市場成長率以上に伸ばす必要がありました。IPOを目指すのであれば、ARR10億円以上を可能にするPMFを5年以内に見つけるのが重要な鍵になるんじゃないでしょうか。私たちはその決意(ピボット)が創業1年のタイミングでしたね。(引用:SaaSは年商10億円の壁をどう超えるーーRepro、Yappliの創業者が語る「PMFまでの道のり、ARR成長の鍵」

今でこそプッシュ通知のような手法が当たり前になっていますが、当時のアプリマーケティング市場はまだまだ黎明期でした。結果、このピボットは成功し、例えば「少年ジャンプ+」といったメジャーアプリへ導入が進んでいきます。そしてアプリマーケティング市場で過半数のシェアを獲得したReproは次の拡大を目指し、2018年頃からはウェブの世界、2020年には30億円の大型調達を成功させ、カスタマーエンゲージメント(CE)プラットフォームへと進化を続けます。

と、ここまでを数行で振り返ると非常に順風満帆ですが、当然のことながらハードシングスはやってきます。

創業期の「売れない」問題から脱却した平田さんたちを襲った次の課題はいろいろあるのですが、最も大きな課題は「創業者ボトルネック」だったようです。創業者がワントップで走り切る場合、スピードは生まれるものの企業が創業者を越えられない。2020年を前後してやってきた事業の踊り場を平田さんは次のように振り返っていました。

ーーアプリからウェブに拡大したじゃないですか。そのあたりでキツかった話とか

平田:アプリとウェブはやっぱり違うんですよね。ちょっと細かい話ですけど、アプリは立ち上げてからデータをバックグラウンドに落とすまでワンセッションあるんです。(ウェブはリアルタイムなので)仕組みを変えるのにエンジニアが掛り切りになってしまって。ウェブに戦いを挑もうと後発で入ってるのに全然機能ができない。(開発スピードも落ちて)投資してるけどうまくいかない。

今までは平田っていう代表がガンガン背中を見せながらトップを走って、それを信頼して走ってくれてたんです。ただ、成長が鈍化してきたり、ちょっと踊り場っぽいところにくるとみんながついてきてないなというのに気がついて。なんか間違ってない?みたいな指摘が出てきて、それでも「何言ってんだ俺らは走るんだろ」とケツを叩く。

ーーそして組織が壊れていく

平田:信頼がなくなったんですよ。昔みたいに背中を見せながら強いマネジメントスタイルを続けるんじゃなく、僕自身が変わらなきゃいけなかった。

権限委譲が生んだ「斜め上」のアイデア

Reproを襲った組織崩壊の話題は以前の記事にも書きました。スタートアップにはよく「100人の壁」があると言われますが、Reproの場合、それが200名から250名ぐらいの規模になった時、雪崩を打つ形で顕在化していきます。成長期待に対する経営者の焦り、ビジネスサイドの大幅採用、カルチャーミスマッチ。平田さんはオフィスである新入社員に挨拶した時「ところでどこの部署の方ですか?」と聞かれてようやく組織崩壊を認識するに至ります。

筆者は平田さんに質問を続けました。

ーーワントップからチーム戦への移行はうまくいきました?

平田:自分が100やっていたのを委譲するんですけど、いきなり100任せちゃった。できるわけないですよね。俺のこと批判するんだったらじゃあみんなやってよ、って。ヒントも出さずに。うまくいくわけない。そこから学びました。

ーー学んだんだ(笑

平田:散々色々試したんです。でもほとんど失敗。それである時、怒ったメンバーが平田さんいい加減にしてくれと。「やり方が雑すぎる」って。下手すぎるから俺たちにこういう感じで任せてくれって提案をしてくれたんです。現場に直接入らず、コミュニケーションは(ミドル層の)俺らとだけ取ってくださいと。

平田さんのことを知っている人であれば「なるほど」と思えるエピソードです。彼は漫画「キングダム」の登場人物に自分を重ねて「自分は王騎」と言うのですが、確かに副官、騰のような存在がいるにも関わらず、ワントップでざくざくと敵を切り刻むタイプです。ちなみに王騎は最後は死んでしまうのですが、その点については触れませんでした。

さておき。ミドル層のみなさんの活躍もあり、Reproが組織崩壊から抜け出そうとする中、あるエンジニアからひとつの提案がやってきます。それがRepro Boosterのアイデアでした。

ーーRepro Boosterって平田さんノータッチなんですよね

平田:発案者はFOXっていうエンジニアです。Reproの初期エンジニアでもあるんですが、スマホアプリが出てきた時ってやっぱり特徴としてサクサクとしたインストール体験ってあったじゃないですか。その頃の名残というか、まあインターネットサービスでもとにかくレスポンス・スピードって大事だよね。っていうのがあったんです。

1年半前ぐらいですかね。Reproが大変だった時の全社員総会のような集まりで、チャット欄に「ウェブサイトを早くする技術ができそうなのですが興味ありますか」って書き込みがあったんです。当時のCTOと僕が「何それできたらヤバくない?」って話をしてちょっとあとで詳細教えてよ、みたいな感じになったんですよね。

メディアもそうですよね、とにかく速度改善すれば回遊率上がるし、そんな魔法みたいなことできるの?って聞いたら、新しい技術使えばできます、と。新規事業でやるにはリスキーだったので、投資金額だけ決めてすぐに特許庁に行きました。

ーー特許庁までものすごいスピード(笑

平田:このあたりってAkamaiとかが特許をすごく押さえているので、かなり慎重でした。けどR&Dや調査を重ねて1年半ぐらいでようやくローンチを迎えられました。全部スクラッチでイチから開発したので、特許取れたんです。

僕、上場するからには上場した後もしっかり勝負したいんです。ITベンチャーの経営者だったら自分の考えたものを世に出す。大きいものができる時って技術者をベースにビジネスサイドがいる。肉付けしたものが大きなサービスになるだろうなと思っていたんです。そういうものをいつか作りたいなと思っていたらなんか出てきたって感じで。

ただ、僕、本当に全然関与してなくてすごい嫉妬してるんですけど(笑。

ーー笑。いい話。ありがとうございました。

いかがだったでしょうか。Reproが手掛けるデジタルマーケティングの世界は専門性が高く、どうしてもコンサルタントなど人手がかかりがちです。競合他社が同様に苦しむ「スケールの壁」を超えるためには新たなイノベーションが必要です。このストーリーに再現性はありませんが、個人的にも気づきの多い共有だったかなと思います。また引き続きReproがどういう未来を辿るのか、機会あればお伝えさせていただきます。

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