#31 日本円ステーブルコイン、生みの親が語る課題と展望 〜JPYC岡部CEO × ACV唐澤・村上〜

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容の一部をテキストとして掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ (ACV)がスタートアップと手を組み、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャストでは旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

仮想通貨が仮想(バーチャル)の世界だけではなく、現実(リアル)の世界でも使えるようにしたい——いわゆる社会実装をしようとする上で課題となるのがボラティリティ(価格変動率)の高さです。法定通貨は流通量が多いことや、変動幅が大きいときは、各国の中央銀行や政府当局が介入するため、このようなことはありません。仮想通貨の価値が日々刻々と変化するのは、需給バランスを反映した市場経済そのものですが、安定した法定通貨に慣れ親しんだ我々は、日常に仮想通貨を取り入れにくいのも事実です。

では、法定通貨にペッグする形の仮想通貨を作ったらどうなるか。それがまさにステーブルトークンで、法定通貨に準じた安定した価値を持つことから、企業や人々が日常の活動に取り入れる上でのハードルも俄然低くなります。ただ、そうは言ってもステーブルトークンは法定通貨ではありませんし、発行体は中央銀行ではありません。Web3を社会実装する上で避けて通れないステーブルトークンの課題と展望について、この分野の第一人者であるJPYCの岡部典孝さんにお伺いしました。

ポッドキャストで語られたこと

  • 岡部さんがステーブルコインの会社を始めた理由
  • サークル社から出資を受けた理由
  • 競合企業や市場の状況

岡部:JPYCの代表をしています岡部と申します。よろしくお願いします。私は学生起業家でして、大学時代の2001年に起業して今の会社が3社目になります。今の会社はJPYCというステーブルコインの会社をやってるんですけれども、一番最初の会社はデジタルコインの会社で、ネットゲームとか作ったり、ポイントサイトを作ってました。

2社目はリアルワールドゲームスという会社で、ポケモンGOみたいな、歩く位置情報ゲームを作って、歩いてもらえるコインを発行していました。今の会社が3社目という経歴です。基本的に技術のCTOをやっていた期間が15年ぐらいで一番長いんですが、途中では資金調達でCFOをやったり社長もやったりしていたので、その集大成で今の3社目を作ったという形ですね。

JPYC以外では、イノベーションを教える大学の客員教授や業界団体のBCCC(ブロックチェーン推進協会)で理事を務めるなど、ブロックチェーン業界を幅広に見ています。

唐澤:話を伺うと、結構ずっとコインとつきあってきたご経歴だと思うんですが、コインにこだわられている原体験やきっかけを教えていただけますか。

岡部:そうですね。1997年ぐらいに遡るんですけど、大学に入りたてぐらいでネットゲームにすごくはまって一日中やっていたんですね。このネットゲームのゴールドコインを手に入れるために1日10時間以上プレイするわけですよ。この人を動かす力がすごいなと思って。ただの電子上の値なのは私もエンジニアなので分かってはいるんですけど、それが何万人という人を、1日何十時間も場合によっては動かしてくると、これはすごい行動変容の力があるなと思ったのが最初のきっかけです。

ポイントサイトとかもやっていたんですが、そのポイントが将来現金や商品券とかに変わるかもしれないけど、変わるまでの間はただのポイントに過ぎないものであっても、人はまるで現金が直接もらえるかのように動くのを体感していて、この行動変容はゲームをただするだけだと生産性は低いかもしれないけれど、人々の行動を良い方向に変えていくのにうまく使えれば大きいなと思い、大学が経済学部でしたので、地域通貨とかが当時紙で発行されているのを見て、これはいずれデジタルにいくなと思いました。

今でいうメタバースの中で暮らしていくみたいな世界観を、もう20年以上前ですけど描いていて、絶対その方向には来るからそこに張ろうということで、一貫してゲームとかポイントの世界で生きてきた人間です。

唐澤:私も実は昔中国に住んでいたころがあって、結構ネットカフェに行って「ウォークラフト」を一日中やっていました。これだけ時間とリソースをかけられるものは他にあまりないので、それだけ価値があるものと、コインというか、経済的な評価の接着点じゃないですけど、そこにすごく可能性を感じられたということですよね。

岡部:そうですね。当時「ウルティマオンライン」というゲームをやっていて、私も経済学部だったんで経済規模を推計したんですけど、2000年の前の段階で現金換算した時に、小さな国のGDPを当時上回ってたんです。バーチャルな世界でここまでもう来てるというのはもう、未来はやっぱり今で言うメタバース的な世界だろうなと思って、それを一貫してずっとやってきた感じです。

唐澤:それが今やられてるステーブルコイン「JPYC」に繋がってくると思うんですが、おそらく日本円でのステーブルコインとしては最大手ですよね。JPYCを始められたきっかけは何ですか?

岡部:前職ではアルクコインという、歩いてもらえるコインを発行して、みんなアルクコインを集めるためにすごく歩いてくれたり、写真を撮ってくれたり、行動をしてくれたんですが、その人たちがアルクコインを集めて、その結果、スニーカーが買えるとかお茶が自販機で飲めるとか、そういう世界を夢見てたんです。

しかし、日本円のステーブルコインがないと企業が受け取ってくれないことを企業と話していて痛感しまして、どこかがステーブルコインを出してくれないときついなと思っていたんですが、よく考えたらもう20年前に私、ドルのデジタルコインとかを出してたので、自分がやるのが早いんじゃないかと思って独立したという流れですね。

唐澤:アルクコインだと、普遍的な価値交換には向いてなかったので、せっかく稼いだものを、普遍的な価値交換手段に置き換えたかったということですか。

岡部:やはり仮想通貨なので安定しないんですよね。「Proof of Walk」というコンセプトでSTEPNみたいなサービスで歩いたらもらえるということで、ユーザーはポイントにすごく価値を感じるわけですけど、企業が受け取ってくれないとゲーム会社側が用意したTシャツとかそういうものにしか交換できないので、広がりがなくこれは悲しいなと思ってですね。幅広く使われるようにしたかったってことです。そのためにはやはり円と紐付いてないとみんな価値を分かってくれないので、それが必要だなと思いましたね。

唐澤:だから企業が持ちやすいというところに結構ハイライトがあったわけですね。

岡部:企業が持てないとユーザーさんも結局意味がないというかですね。メリットが薄いだろうと思ったわけです。

唐澤:そういう意味でJPYC自身のユースケースじゃないんですが、おそらくステーブルコインって割と古いようで新しい概念というか、あまりイメージ湧いてない方も多くいらっしゃると思うんですね。例えば、JPYCをやられてどういうユースケース、どういう使い方が今増えていて、マジョリティーを占めているのかについて教えていただいてもいいですか。

岡部:はい、JPYCの場合はプリペイドという特徴があるので現金に戻すというのが原則できないんです。なので、多くは「Vプリカギフト」というVISAのプリペイドギフトに変わっていきます。そこから先何に使われているのか簡単に追跡してみたんですが、クレジットカード番号なのでPayPayに紐付けて、コンビニとかの日常決済で使うのが件数では圧倒的に多いです。

金額ベースでいうと、これ結構言うとびっくりされるんですけど、実はVISAのプリペイドギフトでで納税してる人が金額は一番大きいですね。税金を払うというニーズがあってですね。クリプト長者の方々は、クリプトはたくさん持っているけど現金持ってないわけですね。

その人たちが納税するときに一番お得なルートがJPYCにあるということになって、わざわざJPYCにしてそれをVプリカというプリペイドに変えてクレジットカード納付サイトで納税するというのが金額でいうと圧倒的に実はトップです。

唐澤:JPYCは、サークル社からも出資を受けられてると思うんですけれども、おそらく双方シナジーがあるということで行われていると思うのですが、今の話に繋がるんですかね?

岡部:そうですね。サークルとの連携強化は先日発表した弊社の経営戦略でも非常に重視しておりまして、今後も関係を強化していくつもりです。背景としてはサークルさん、あとコインベースさんが「Centre(セントル)」というオープンプロトコルでステーブルコインのデファクト規格を公開されていまして、いまアメリカドルだとUSDCがそれに則っています。ユーロ建てだとEUROCというのがあるわけです。

でも、日本はまだそのサークル自体が日本のステーブルコインを出せていない現状があって、JPYCはサークルから出資はいただいているけれども、独立したステーブルコインとして出している。しかもサークルのUSDCと違うのは、プリペイドの法律でやってるので償還ができないという特徴があるわけです。日本だけが取り残されないようにするためには、日本とヨーロッパとアメリカが同じ規格でシームレスに繋がっているという状態で、自由に低い手数料で行き来できる世界を実現しないといけないと思ってまして、そこはサークルさんと我々完全に一致していますね。

絶対日本とアメリカとヨーロッパこれはもう連携しなきゃいけない中、現状SWIFTとかも手数料高いですし時間もかかりますので、これがステーブルコインのネットワークで同じ規格で結び付けられていたら、例えばUSDCが対応した決済のサイトであれば、ERCとかJPYCもすぐ対応できますみたいになるので、ここに日本が入れるか入れないかは今後の日本円の価値を大きく左右すると思っているので、何とか目指していきたいと思っています。

唐澤:よくわかりました。若干答えづらい話かもしれないですが、一方で結構メガバンクさんとかディーカレットDCPさんがすすめられている「DCJPY」というデジタル通貨もあって、JPYCが電子決済手段側に近寄っていくとなると、そちらとの兼ね合い、うまい棲み分け方も議論になってくると思うんですが、岡部さんの見方はいかがでしょうか。

岡部:DCJPYさんは、プライベートチェーンのコンソーシアムチェーン側だと思っています。我々はいわゆるパブリックチェーン、パーミッションレスの側なんですね。世界のWeb3の潮流で言うと、基本的にはプライベートチェーンよりはパブリックチェーンの方が大きくなっていく方向性だとは思ってますので、世界のWeb3が発展していった世界が来た場合は、我々が日本のゲートウェイになって世界のWeb3のお金を日本に引っ張ってくる役割ができるんじゃないかと思っていて、そこは棲み分けができるんではないかと思います。

一方、大企業さんがたくさん入られてDCJPYさんとか、例えばSuicaみたいなイメージで日常決済で使う場合は十分使い道もあるんじゃないかなと思います。我々はどっちかというと世界に広がって、よりプログラマブルでやる場合に、標準規格になっているのでUSDCと同じコードでそのまま動かせるという、コスト優位性に自信があるんですけれども、一方で、日本で使えるお店を開拓するとかは、DCJPYさんの方が多分強いと思いますね。

唐澤:そもそもまだクリプトとかステーブルコインのマーケット自体が小さいながらも、その中でもかなりデファクトになってきたのかなって思います。、今後競合といいますか、似たようなことをやり出すような事業者が出てくる可能性もあるかなと思うんですけど、岡部さんから見られてそのあたりはどういうふうに考えられているんでしょうか?

岡部:いわゆるプリペイドの会社さんで、全く同じような法律の体系で、日本ステーブルコインを発行してる会社が今、数社出てきています。発行予定のところと、既に発行されてるところがあって、1社が独占するよりは複数の会社が切磋琢磨して競争する方が健全だと思いますし、当局とそのプリペイドのステーブルコインに対する規制を話し合う際も、健全な事業所が複数ある方が業界団体としてお話もできますので、少なくともしばらくの間、数社ぐらいだったら増えた方がいいと思っています。

一方ちょっと懸念しているのは、あまり増えすぎてしまった場合に、追いかける立場はどうしてもセキュリティとかが緩くなってしまって、暗号資産交換業で起こったように、大規模流出事故とかすごい不祥事みたいなことが起こると規制も厳しくなる原因になるので、その辺は気にしています。要約すると、ちゃんとやろうという事業者さんの参入は大歓迎でございます。

唐澤:そこはやはりマーケットを見ながら、消費者側のリテラシーが上がっていくというのもあるでしょうし、事業者側としてのその安全面の配慮とかもあわせてやって、健全なマーケットを育てていくという、双方の努力が必要になってくるということですかね。

次回へ続く)

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