生産管理SaaS導入の秘訣は徹底したオンボーディングにあり——「スマートF」提供のネクスタが1億円を調達

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「スマートF」
Image credit: Nexta

製造業 DX(デジタルトランスフォーメーション)の生産管理 SaaS「スマート F」を開発・提供するネクスタは10日、プレシリーズ A ラウンドで資金調達を実施したと発表した。このラウンドは XTech Ventures とニッセイ・キャピタルが共同リードした。同社はプレシリーズ A ラウンド単体での調達金額を明らかにしていないが、半年前に実施したエンジェルラウンドとの合計で、調達金額は約1億円になるとしている。なお、エンジェルラウンドの調達先などについては明らかになっていない。

ネクスタは、現在 CEO を務める永原宏紀氏が2017年に創業。永原氏の父がシステム開発会社を経営していたことの影響で、学生時代から Web アプリの開発に傾倒していたという。卒業後に入社したキーエンスでは3年目で事業部での営業個人成績1位となり、その後、前述の父のシステム開発会社を経て、ネクスタの創業に至った。 ネクスタは当初、製造現場のシステムの受託開発を生業としていたが、生産性向上というテーマに向き合う中で3年ほど前に SaaS 開発に着手、昨年からは受託開発はかなり減らしたそうだ。

製造業につきものなのが生産管理だ。客からの発注に基づき、在庫・納期を踏まえ、生産ラインの稼働キャパシティや社員の稼働人数・時間を念頭に置きながら生産量を調整する。各現場にはその生産量に基づき発注票が配布され、それをもとに現場社員らは生産を行い、完了したものについては量を数えて、また、生産管理の担当者にフィードバックをするという流れだ。現場が手で数え、紙で報告し、生産管理担当者はそれを、Excel を使って調整・管理するという伝統的なフローは、多くの製造業の現場で共通のはずだ。

ネクスタ CEO の永原宏紀氏
Image credit: Nexta

作業がアナログである分、煩雑であり間違いも生じる。こうした作業を自動化する仕組みはこれまでにもあったが、多くはオンプレミスで高価であり、結局、現場のニーズにフィットせず、十分に使いこなせていないことも少なくないという。そこで永原氏が開発したのが生産管理 SaaS の「スマート F」だ。現場は製品に付されたバーコードをスキャンするだけで、生産管理上必要な数量などのデータが SaaS に自動的にアップロードされる仕組みだ。

スマート F がユーザからの評価を得ているのは、おそらく、オンプレの仕組みが SaaS 化され、コスト支出が平準化されていることだけが理由ではない。ユーザである企業のオンオーディングに徹底した労力を割いているのは大きい。スマート F を使うために、カスタマーサクセス担当者が現状のフローを分析し、場合によっては、利用するコード体系の変更まで提案する。最長半年間のオンボーディングを経て、ユーザはスマート F の採用を取りやめることも可能だ(オンボーディング中も利用料は発生する)。

お客さんの要望を聞くだけではうまくいかない。データの作り方も、お客さんの中に入って、一緒に考えている。(永原氏)

SaaS ビジネスのようであって、SaaS ビジネスではない。製造業向けというバーティカル SaaS でありながら、あらゆる製造業に導入ができるというホリゾンタル SaaS 的な側面は、こういうオンボーディングの姿勢から生まれているのだろう。「他の企業はなぜやらないのか」との問いに、「いろんなお客さんがいる中で、現場に詳しくないからだろう」との答えが永原氏から返ってきた。スマート F には、彼がキーエンス時代に会得したノウハウと、200社は手掛けたという製造現場のシステムの受託開発の経験が生かされているということだろう。

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