コロナが与えた影響とは:こころとからだ、テクノロジーができること・スタートアップ座談会(5)

本稿はコーポレートアクセラレーターを運営するゼロワンブースターが運営するオウンドメディア「01 Channel」からの転載記事。

5回に渡りコロナ禍によって影響を受けた「こころとからだ」をテーマに、スタートアップのテクノロジーにどのようなアプローチの可能性があるか整理してきました。最終回はこの領域で実際にスタートアップしている起業家のみなさんを交え、座談会の形で最近の状況、課題、これからの可能性について語っていただきました。

登壇いただいたのは、これまでの回で取材に応じていただいた明治の村上里香さんと山田成臣さん、不妊治療データ分析アプリ「cocoromi」を展開するvivola代表の角田夕香里さん、うつをコミュニティで支える「encourage(エンカレッジ)」運営、ベータトリップ代表の林晋吾さん、CBDプロダクトを開発するleaflow代表の長森真希さんの5名です。

コロナが与えたこころとからだの影響

今回、こころとからだの座談会ということで、メンタルヘルスケアとフェムテックで事業展開しているスタートアップのみなさん、今回取材協力してくれた明治さんにお越しいただきました。まず、コロナ禍での変化について気付きがある方にどういうものがあったか教えていただけますか?

⾓⽥:コロナ渦で様々な企業がリモートワークを導入する中で、治療と仕事が両立がしやすくなった、というお声をよく聞くようになりました。医療機関の待合室では、Zoomなどの打ち合わせは無理でも、資料作成やメールなどの対応をされている方は多くいらっしゃいます。そのような患者様のために、待合室にPC作業用の電源のある席を設けいている医療機関もあります。

村上:女性は元々、月経周期で気分や体調変化がしやすいのですが、それがコロナ禍のストレスにより大きく出やすくなったと思うので、かなり自覚する方が増えたように感じています。結果的にテクノロジーを使ってセルフケアしようとする人が増えた可能性はあるかもしれません。

林さんはメンタルヘルスケアで事業展開されていますけど、どのような変化を感じていますか

林:「コロナうつ」がやはりありますね。OECDのメンタルヘルスに関する国際調査で流行後、### 日本国内のうつ病・うつ状態の人の割合は約2倍に増加しているそうです。、コロナ特有の生活環境の変化でが大きく影響してるのかなと思ってまして。それと毎年警察庁が出している自殺件数のデータなんかを見ていると、コロナ前、2019年まで自殺者数は年々減少していたのに、またコロナ禍に入って2020年の自殺者数は増加していて、女性はどの年代の自殺件数も増えました。

コロナ禍が与えたこころとからだの影響は調査も多数出ていて間違いない一方、結構複雑な話題ですよね

角田:私たちの不妊治療の領域では、初期の治療段階で50%以上の方が軽度の抑うつ症状※1があることが国立成育医療センターの研究で明らかになっています。ただ、残念ながらストレスと治療成績における明確な因果関係は明らかにはなっておりません。それは不妊治療そのものに多くの交絡因子が存在すること、ストレスと言っても、子供ができない事への不安、高額な治療費、仕事との両立の負担、パートナーや家族との問題など、様々あるからです。

林:確かにコロナ禍になって女性に家事育児とか介護、家庭内のいろんな労働の負荷がかかりやすくなった背景であったりとか、非正規の働き方をされてる方が失業になって経済的な先行きが不透明になったりだとか、そういう要因が絡まって自殺者数の増加につながってる可能性はありますよね。

角田:治療とメンタルヘルスのエビデンスを明確に求めていくことも重要ですが、様々な因子の1つ1つを少しでも解決して負担を軽減していくことが私たちにできることではないかと考え、企業様向けに社内の環境整備をお願いするセミナーや、パートナーシップをサポートするアプリの機能の開発(令和4年経産省補助金事業)などの活動をしています。

複雑な要因が絡み合う中、これという絶対的なソリューションは見つけづらいと感じています。みなさんそれぞれの視点で注目している解決方法はどのようなものがありますか

長森:私は「Aging Gracefully」AG世代というワードに注目をしています。これは声を大にして更年期というワードを言えるようになってきたことが背景にあるんですが、その課題解決のひとつとして「美味しさ」を考えています。ある新聞社さんの調査結果として、食べ物や美味しさが日々の暮らしの中で内面のメンタルにプラスの影響を与える、という話題が掲載されていたんです。

私たちが提供するCBDはエンドカンナビノイド受容体というものに作用してアンバランスになっていたところを元の状態に戻してくれる働きをするので、メンタルヘルスケアと更年期の課題を「日々の美味しさ」で解決できるのではと思っています。

食べるっていうキーワードが出たので、取材でも山田さんは食とメンタルヘルスの関わりについてお話いただきました

山田:我々は食品メーカーとして1日3食+αの喫食機会を活かしたいと考えております。食そのものには栄養という役割がありますが、それ以外にも食そのものが何気ない気分転換になったり、食べることが楽しみになったり、食そのものには日々のメンタルヘルスケアに活用できる可能性が詰まっているのではないかと思っています。

例えば、クリスマスのケーキのように食を囲んで「そういう場」をみんなで楽しんだり、目の前で調理してもらう光景や肉が焼ける音を楽しむといったように、その過程や雰囲気を共有したりすること自体にも日頃のメンタル状態をポジティブに持っていく要素になりうると思っています。それが食の素晴らしさじゃないでしょうか。

話しづらいからこそ共有が壁であり鍵

Photo by Tirachard Kumtanom from Pexels

村上さんは特にフェムテックの文脈でどのような動きやプロダクトに注目されていますか

村上:フェムテックは最近、急成長しているように感じます。主に月経管理や、Vivolaさんがやっている不妊治療のような医療機関のサービス、更年期でも悩みを相談するアプリなど幅広くなってきました。私が特に注目しているのは妊活です。

というのも、不妊治療される方が増えてきているのですが、結構ハードルが高い。不妊治療に行く前の自分の妊孕能、妊娠できる能力を自分でチェックできるようなアプリや検査キットが最近増えています。自分の体をまず知ってから計画を立てる手段があることは良いことだと思い注目しています。

Vivolaをまさに経営されている角田さんはいかがでしょう

角田:ちょっと違った視点で言えば、沢山の情報が溢れる情報社会の中ではその情報の選定もまた課題かと思います。そういう意味では、自分にとって有用な情報が入手できるコミュニティが身近にあることは、心理的な安全性を高め、メンタルヘルス面で良い影響があると思います。

具体的なサービスでいうと、アメリカの希少疾患の患者治療体験の共有から始まった「patientslikeme」や、Hacth Healthcareさんの癌患者のためのコミュニティ「tomosnote」はとても良いサービスだと思っています(不妊治療専門のコミュニティではありません)。

情報という観点で言うと、こころやからだの話題ってなかなか話しづらい雰囲気がありますよね。特にフェムテックは男性が参加しづらい

村上:ここ数年、女性の方が自身の体について恥ずかしがらず話す人は増えてきていているように感じます。女性自身の健康をパートナーなどに共有する日は、すぐそこに来ているのではないかと私は思っています。

女性だけ、というより家族の問題も大きいですよね

長森:いや、そうなんです。私も息子が12歳なので「自分ゴト」がだんだん子育てから更年期に移りつつあるんですけど、更年期は男性にもくるんですよね。フェムテックはマーケットとしても注目されているし隆盛している一方、男性の更年期はどこに相談したらいいんだろうと。

林:周辺のステークホルダーに対して問題を共有したり、環境調整が必要なところはフェムテックもメンタルヘルスケアも共通してますよね。

村上:そうですね。妊活は女性だけでできないのである種の「恥ずかしさ」のような殻を破る必要もありますし、月経とか更年期は女性の体の変化なので男性は自分ゴト化しづらい。家族の体調の悪さなどに寄り添えるような感じでフェムテックも男性が参加していく必要がありますよね。

角田さんはこころやからだに関する情報共有の課題についてどうお考えですか

角田:女性の健康の分野は、どうしても女性自身が遠慮や我慢をして後回しにしてきた課題が多いと思います。だからこそ、女性自身がまず解決できる課題であることを認識することが大切だと思います。

そのためには、企業(福利厚生)もその1つですが、女性らを取り巻くあらゆるステークホルダーが正しい知識を提供して、女性らがその情報に触れる機会を増やすこと、解決策としての良質なサービスの選択肢が多くあり、自分にあった対策と出会えることが重要かと思います。

良質な選択肢という意味では、サービサーとしても長い目でこの女性の健康課題の領域の発展を考えるのであれば、目先の表面的なユーザーメリットで短期的な利益を追うのではなく、女性が健康で幸せな社会生活を遅れる最終アウトカムの絵を描きながら、バックキャストで今やるべきことを考えていく倫理観を持ち合わせていくべきではないでしょうか。

必要とされるこころとからだへのアプローチ方法

Photo by Josh Willink from Pexels

ここまでコロナ禍で影響を受けた社会を背景に、みなさんの身近で起こったことや関心事を共有していただきました。では、具体的にどういう解決方法があるかをお伺いしてみたいと思います

林:2つの方向で注目しまして、ひとつはアクセシビリティ、もうひとつがデジタルデータの活用です。というのも、精神的に不調を感じた時のソリューションって、デジタル化が進んできましたが、まだ対面が中心で、これって自分の体を運んで「初めまして」から始まる、物理的なところも含めてハードルがすごく高いんですね。

ここをオンラインでのセッションや、ある程度セルフケアができるようなサービスにすることで入り口のハードルが下がると思っています。

もうひとつが不調だけじゃなく予防も含めての話です。メンタルの不調を予防するためのサービスって普段の日常の行動動線にないじゃないですか。その意味で普段のバイタルデータ等を活用しながら、不調を予防するとかアラートを立てるみたいな話は大事になってくるんじゃないかなと考えています。

村上:林さんの話も伺って、私もメンタルヘルスケアとフェムケアやフェムテックには共通する部分があるなと思いました。

精神の安定は、脳内のセロトニンの量やセロトニンに対する感受性が関係します。これは男性と女性で性差があることが分かっていて、女性の方がセロトニンの産生量や感受性が低いので気分の不調に陥りやすいと言われています。女性の方が性格だけではなくて、生物学的にも心の波が起きやすいんだ、ということを男性にも女性にも理解できる啓発活動やツールがあるといいと思いますし、もう少し言えば相手を思いやれるような、そういったソリューションがテクノロジーを通じてできたりすると良いなと感じています

周囲に気づいてもらう、やはり可視化がひとつキーワードになりそうで、山田さんもテクノロジー視点でその点を指摘されていましたよね

山田:理想的には、という話ではあるのですが。ウェアラブルデバイスやアプリの活用が前提となりますが、よりパーソナライズされるような形で情報提供できるようになればと考えています。例えば、現在のメンタル状態を示して、ポジティブに持っていくような食の情報を提供したり、実際に喫食した時の状態変化を捉えてメンタル状態が良好になったことを示してくれたり、そういったものが簡単な生体指標を基にできるようになると容易にメンタルヘルスのセルフケアが可能になるので良いなと思っています。

長森さんたちは食品を扱っていますが、その可視化はどのようにお考えですか

長森:ストレスってやっぱり目に見えないものではあるので、振動で測れるものができればとアプリの開発協力を進めているのですが、同時に医療の手を借りるとなると一気にハードルが上がるわけです。なので、未病の状態で毎日持ち歩けるとか、週に一回の贅沢かもしれないけど飲めるとか、そういうアプローチを目指したいですね。

お時間になりました。みなさんお集まりいただきありがとうございました。

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