今年も世界で話題になっているテック領域のスタートアップを厳選して紹介してきました。今年最後の記事として、紹介してきたスタートアップと特に読まれたものをピックアップしてお届けします。
世界のフットボールテック

ドイツのミュンヘンに拠点を置くKINEXONが開発するのはスポーツ業界で特定の物をリアルタイムトラッキングする技術です。センサーやエッジコンピューティング、超広帯域(UWB)を扱えるハードウェア技術とクラウド技術を組み合わせています。同社は超広帯域無線周波数と慣性測定ユニット(IMU)を内蔵したコネクテッドボールをAdidasと共同で開発し、アルゼンチンの優勝で幕を閉じたFIFAワールドカップカタール2022でも公式球として採用されました。
特に国内では三苫薫選手が放った「三笘の1mm」として大きな話題になった判定にも活躍した「VAR(バーチャル・アシスタント・レフェリー)」の一端を担ったことでも知られています。前回大会までだったらどのような判定になったかわかりませんが、勝利を大きく分ける正確な判断をもたらす技術の進化はこれからのワールドカップ観戦の楽しみのひとつになりました。
エネルギーを変えるスタートアップたち

ジュネーブを拠点とし、CERNから生まれた画期的な原子力技術を開発するTransmutexは4月、Fongit Innovation Fund(FIF)から10万スイスフランのシード資金を確保しました。Transmutexが作るトリウムを使用した亜臨界核変換加速原子炉「TMX-START」が実現するのは核分裂と核融合を超えた核変換です。
TMX-STARTの重要な機能は、原子力発電で発生する放射性廃棄物の半減期を大幅に短くし、放射線を出し切るまでの時間を300年にすることが可能で、従来の1000分の1に短縮された廃棄物に変換できることです。つまり、300年後も同じ電力量を発電しているとしたら地下深くで長期保管される放射性廃棄物の量が増えなくなる時が来るということです。
Transmutexは、粒子加速器と原子炉という2つの技術分野を組み合わせて核変換する原子力エネルギー創出を目指しています。ここで鍵となる物質が「トリウム」です。トリウムはレアアース採掘時に副産物として取れたり、石炭灰に高濃度で含まれている物質で、弱い放射性を持つため単なる廃棄物として扱われています。要は現在はゴミであるトリウムを燃料とし、プロトン加速器を原子炉に組み合わせることで核変換を誘発するのです。この核変換によって排出される放射性廃棄物が寿命の短い物質です。また、トリウムは用途がほとんどないため十分な量が存在する点もトリウム燃料の魅力的なポイントと言えます。
Figmaに続け!次世代クリエイティブツール

今年はクリエイティブツールの進展が特に目立った年だったように思います。テキストから画像に変換できる画像作成AIツールNovel AIの登場や、画像生成AIは10月に1億100万ドルを調達したStability AIや日本のテックスタートアップデジタルレシピによるCraiyonなどいくつか出てきています。
中でもFeltは2021年創業のスタートアップで、カリフォルニア州オークランドにあるインターネットで見る地図を作成するのを簡単にするツールを開発しています。与えられたレイヤーから選ぶだけでなく、ユーザーが表示したいデータを組み込んだレイヤーを作成し、動画や画像の張り付け、注釈付けなどができるようになるものです。
これまでにもオリジナルマップの作成方法はいくつか存在しました。JavaScriptを記述して作成するMapfit、位置情報を提出するとインタラクティブな地図を作成してくれるBatchGeoなどです。これらのサービスがGoogleマップのアレンジであるのに対して、Feltは直感的にマップレイヤーからデザインしていけるのが特徴になります。
では、今年書いてきた注目テクノロジーの話題を下記にまとめますので、みなさまもざっと今年の振り返りに活用してみてください。では良いお年を!
対話式AI「ChatGPT」の衝撃
- テキストクリエイティブ作成AIで成長するユニコーン「Jasper」/対話式AI「ChatGPT」の衝撃(1)
- チームでバラバラのコンテンツガイドラインをAIがサポート「Writer」/対話式AI「ChatGPT」の衝撃(2)
- AIライティングサポートの成功事例「Grammarly」/対話式AI「ChatGPT」の衝撃(3)
注目集まるGenerative AI
- エンジニアをAIがコーディングアシスタント「Tabnine」/注目集まるGenerative AI(1)
- AIと会話してシナリオ進行するRPG「Latitude」/注目集まるGenerative AI(2)
- 医療品もAIが開発支援「Insilico Medicine」/注目集まるGenerative AI(3)
世界のフットボールテック

- ワールドカップで審判支援「IoTボール」のスゴイ仕組み/世界のフットボールテック(1)
- すね当て型ウェアラブルデバイスで子供の健康を見守る「Humanox」/世界のフットボールテック(2)
- スポーツネット配信時代の必需品、自動映像制作カメラ「Pixellot」/世界のフットボールテック(3)
食品のゲノム編集技術
- 食べやすさを追求、野菜摂取量向上を促すPairwise Plants/食品のゲノム編集技術(1)
- 種子をハック、世界で主食穀物の収穫量を増やすInari/食品のゲノム編集技術(2)
- 高オレイン酸大豆油で一躍有名、Calyxtへの期待感/食品のゲノム編集技術(3)
仮想でも健康になれるVRスポーツの世界
- メタバースのキラーコンテンツは「カジュアルスポーツ」ForeVRの躍進/仮想でも健康になれるVRスポーツの世界(1)
- 仮想空間でダンベルエクササイズ「Valkyrie Industries」がフィットネス効果をもたらす方法/仮想でも健康になれるVRスポーツの世界(2)
- メタバース時代のフィットネスジム「Supernatural」/仮想でも健康になれるVRスポーツの世界(3)
旅行体験を革新するスタートアップ
- 出張・旅行の管理は全てこれ一枚「TripActions」がコロナ禍を生き抜けたワケ/旅行体験を革新するスタートアップ(1)
- コロナが追い風、旅行医療のSafetyWingとは/旅行体験を革新するスタートアップ(2)
- 現地を舞台にした「旅行版ポケモンGO」都市探索ゲームQuestoの魅力/旅行体験を革新するスタートアップ(3)
Figmaに続け!次世代クリエイティブツール
- Googleマップがより自分好みに、マップ作成「Felt」(1)
- Dropboxなどからの移行続々、ビジュアルツールの管理に特化したクラウド「Air」(2)
- インテリア版「買える」PinterstのThe Landingとは(3)
中間流通の無いアフリカのB2BとB2C
- 日本人が挑戦するアフリカの課題解決、新興国向け営業管理SaaS「SENRI」(1)
- アフリカのAmazon「Jumia」は、手付かずだったEC市場をいかにして先取したか(2)
- アフリカのインフラ改善をトラック輸送から解決する「Lori System」(3)
- ナイジェリアでB2B向け消費財流通のワンストップソリューション展開「Omnibiz」(4)
- 拡大計画から一転、逆風に耐える配送とフルフィルメントサービス「Sendy」の現状(5)
既存事業の完全無人化ビジネス

- ソフトバンクが支援、日米韓の飲食業界で活躍する配膳ロボット「Servi」/完全無人化ビジネス(1)
- 自販機にはできない、AIカフェロボット「root C」の価値創造/完全無人化ビジネス(2)
- 無人化で韓国クリーニング市場の総取り狙う「LifeGoesOn」/完全無人化ビジネス(3)
- 無人水産物養殖システムで食料自給率アップに期待、シンガポール「Vertical Oceans」/完全無人化ビジネス(4)
- 都市の真ん中でも地産地消、無人屋内農業を実現「Iron Ox」/完全無人化ビジネス(5)
期待のミツバチスタートアップたち

- ロボット巣箱がミツバチを救う、養蜂スタートアップBeewise:期待のミツバチスタートアップたち(1)
- ミツバチによる受粉の定量化、BeeHeroが養蜂家と農家にもたらす戦略的計画:期待のミツバチスタートアップたち(2)
- Appleも支援する「ハチミツ再生医療」SweetBioが開発した創傷ケア製品とは:期待のミツバチスタートアップたち(3)
世界で攻勢をかける中華EVスタートアップ

- 充電の待ち時間をバッテリ交換で3分に短縮、欧米進出に前のめりのEVメーカーNIO(蔚来)
- 一車種で他メーカー数車種分を稼ぎ出す人気、EVメーカーLeading Ideal(理想)は航続距離で勝負
- スーパーアプリ化進む中国自動車市場、Xpeng(小鵬)がAlibaba(阿里巴巴)と狙うプラットフォームの主導権
- ローエンドEV「Neta(哪吒)」、今年上半期販売数で2位に浮上——低価格化成功の裏に、アンチウイルス企業の存在
- 創業者・雷軍氏の野心が原動力か——後発ながらもEV競争に参戦、Xiaomi(小米)が見出す世界的商機
- バッテリ製造のルーツが強み、中国でEV販売台数トップに君臨する老舗BYD(比亜迪)の世界戦略
バーチャルヒューマン
- 中国でCM出演やイメキャラ活躍、バーチャルヒューマン「AYAYI」は日本生まれ
- リアル人間を「バーチャルヒューマン化」決め手の顔スキャン技術「Plenoptic Stage」とは
- AIリアクションが「人間っぽさ」を作るバーチャルヒューマン「Mofa Technology」
食を変えるスタートアップたち

- AIでサプライチェーン改善、食品ロスを減らす「Afresh」
- 香りのない生豆の「仕上がり」をAIが予測、ProfilePrintがシリーズA調達
- ウィスキー版 StockX「Spiritory」希少モルトを株式のようにトレード
- 広がる食品トレンド「Clean Label」ーー期待される天然着色料市場に「パン酵母」で挑むPhytolon
エネルギーを変えるスタートアップたち(2)

- エネルギー革命はイギリスの小さな諸島からーー潮力発電機開発のOrbital Marine Powerが800万ポンドを調達
- 投資で脱炭素に貢献「樹木サブスク」で持続可能な林業を支えるEcoTree
- 米国が注目するリチウムイオン電池リサイクル「Li Industries」のインパクト
- 期待される「カルシウムイオン電池」の可能性、とあるスタートアップの実用アプローチ
- エネルギー問題には原子力が不可欠ーービル・ゲイツ氏率いるTerraPowerに韓国大手ら7.5億ドル出資
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