ビル・ゲイツ氏も出資、注目の核融合スタートアップ「Commonwealth Fusion」の強み(1)

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Image credit:Commonwealth Fusion

2022年12月5日、核融合技術においてエポックメイキングな実験が成功した。

米エネルギー省のローレンス・リバモア国立研究所のレーザー核融合実験施設「National Ignition Facility(NIF)」が、レーザーを照射する慣性閉じ込め方式で、投入したエネルギーの約1.5倍のエネルギーを生み出すことに成功したのだ。核融合については次世代の再生可能エネルギーとして注目されており、過去にも本誌で何度か扱ってきた。また、国内でも京都フュージョニアリングがこの領域でスタートアップしている。

参考記事

この核融合の技術、とにかく難しい。これまで核融合の実験において再現性のある形で「投入したエネルギーを超えるエネルギー」を生み出した例は存在せず、NIFも2014年2月の時点で取り出せたのは、投入したレーザー光の0.13%にすぎなかった。今回の実験成功例はこのハードルをひとつ超えたことになる。

しかし、一喜一憂するのはまだ早い。この記事が指摘する通り、今回の約1.5倍という数字は照射するレーザー光のエネルギーが基準で、レーザー光の発生と増幅、その他必要電力を合計した総エネルギーではない。総エネルギーを基準とすると、投入した総エネルギーに対して取得できたエネルギーは0.8%となる計算になる。

目覚ましい進展であることは間違いないがまだまだ道半ば、というわけだ。そこで今回は、2021年の11月ごろから2022年も引き続き大型の調達が続いている核融合スタートアップの中から厳選して2社、総エネルギーを基準とした正のゲインをどのように達成しようとしているか、取り組みやアプローチを紹介させていただく。

Commonwealth Fusion

 

1社目に紹介するのは、核融合技術開発スタートアップで最も資金調達するCommonwealth Fusionだ。マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置き、2017年にマサチューセッツ工科大学からスピンアウトする形で創業した。現在20億ドルを超える調達をしており、TAE Technologiesにも出資するビル・ゲイツ氏が投資家として参加している

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そもそも核融合とは原子核同士が合体することを指している。原子力発電ではウランの原子核が分裂することを利用して発電をしているため、真逆の原理というわけだ。

原子核は+電荷の陽子と無電荷の中性子で構成されている。核融合には原子核同士をかなり接近させなければならないが、原子核が+で強く反発し合うので、核融合を起こすには大きいエネルギーを与えて無理やり接近させる必要がある。現在核融合のプロジェクトの多くで採用されている重水素ートリチウムの場合、約1億℃の熱が必要になる。

この温度になると水素はプラズマの状態に変わり、大きな運動エネルギーを持って拡散しようとする。拡散して他の材料にぶつかるとプラズマは冷えてしまうため、核融合が行われるように一定の場所に留まらせながら熱を与える必要がある。

プラズマを制御する方法、これを核融合発電に向けて各国、各機関、各企業でしのぎを削っている、というわけだ。

核融合研究はプラズマ制御のアプローチで大別することができる。国際熱核融合実験炉(ITER)を始めとする多くのプロジェクトで採用されている磁気を使ってプラズマを閉じ込める「磁場閉じ込め方式」、周りからレーザーを照射する「慣性閉じ込め方式」、General Fusionのように2つを組み合わせた「磁化標的核融合方式」などが存在する。

Image credit:Commonwealth Fusion

今回取り上げるCommonwealth FusionはITER同様、トカマク型の磁場閉じ込め方式を採用している。同社の特徴は、ITERの基準において小型で取り扱いやすいトカマク原子炉を作ろうとしている点だ。名前もそのままAffordable(手ごろな価格)、Robust(堅牢)、Compact(小型)から引用してARC原子炉などと呼ばれている。

ARCは長半径3.3m、短半径1.1m、軸上磁場9.2T、プラズマ核融合ゲイン(出力エネルギー/入力エネルギー)が13.6、約200〜250MWeのトカマク炉だ。ITERは低温超伝導体の磁石でプラズマを閉じ込めようとするのに対して、同社は2021年9月に磁場強度の実証実験に成功した世界最強の高温超伝導体の磁石を採用していることが規模の違いを生んでいる。つまりプラズマを閉じ込めるのに必要な磁場を高効率に得ることができるため、小型にできるというわけだ。同社の磁石と同様の磁場を得るには原子炉の大きさを40倍にしなければならないほどだ

実際の高温超伝導体の磁石 Image credit:Commonwealth Fusion

同社はこの高温超伝導体磁石をベースに、プラズマ科学核融合センター (PSFC) と協力して、ARC原子炉の小規模バージョンであるSPARC原子炉の建設に進んでいる。ここでは商用化する前の最終段階として、消費するよりも多くのエネルギーを生み出せるか(プラズマ核融合ゲインが正となるか)を実験する。同社のSPARCはシミュレーションではプラズマ閉じ込め方式によるプラズマ核融合ゲインの正を達成することを査読済み論文で発表しているが、現時点で世界中のどこの企業、研究機関も実験による結果を得られた例は存在しない。

同社は大まかなマイルストーンをウェブサイト上に公開していて順調に進んでおり、現在SPARCの施設を建設中で、2025年までに最初の実証実験を予定している。ITERは2030年代半ばに最初の実験を予定しているため、米エネルギー省のローレンス・リバモア国立研究所の実験結果同様に世界を騒がせるのはCommonwealth Fusionというスタートアップになる可能性は低くない。

後半につづく:核融合技術開発の異端児「Helion」の変化球アプローチ(2)

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