#33 日本のキャッシュレス化を加速させる〝体験型特典〟とは 〜Nudge沖田CEO × ACV唐澤・村上〜

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容の一部をテキストとして掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ(ACV)がスタートアップと手を組み、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャストでは旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

今回は、次世代型提携クレジットカード「Nudge」を展開するナッジ代表取締役の沖田貴史氏に話を聞きます。日本のeコマースやオンライン決済の歴史は、沖田氏の存在なくして語ることはできません。沖田氏は1997年、一橋大学在学中に共同創業したベリトランスで代表取締役を務め、2004年に上場。2012年に econetxt Asia、2016年5月に SBI Ripple Asia を設立しました。

2019年以降は、「新たな挑戦のため(沖田氏のTwitterの投稿)」、SBIグループを離れ、いくつかのスタートアップに携わってこられました。そして、2020年に設立したナッジは、そんな挑戦の集大成と言えるでしょう。クレジットカードは法定通貨の社会のツールなので、ナッジが扱うクレジットカード業界は、仮想通貨が主役のWeb3の世界からは少し離れているようにさえ思えます。

ブロックチェーン・フィンテック企業の設立経験もある沖田氏が、どちらかと言えば、伝統的な決済システムであるクレジットカードを扱うスタートアップをなぜ始めたのか。そして、クレジットカードのスタートアップが、どうしてWeb3を意識しているのか。フィンテック業界のレジェンドならではの洞察と将来展望をお伺いします。

ポッドキャストで語られたこと

  • いまだに低い日本のキャッシュレス化
  • 決済に使うだけで、自分の”推し”を支援できるカードの誕生
  • コストがかからない、ファンが喜ぶ”体験型リワード”の実現

沖田:Nudgeの沖田と申します。よろしくお願い致します。Nudgeという会社は2020年に立ち上げていて、私自身はFintechやイノベーションみたいなところに25年関わっています。当然、25年前はFintechという言葉はありませんでした。

(当初創業した)ベリトランスは、その後社名を改めてデジタルガレージの決済部門DGフィナンシャルテクノロジーという会社の創業に携わり、2015年までそこの代表をやらせて頂いていました。つまり、Eコマースの決済をやっていました。

90年代のインターネットは今のWeb3みたいなもので、私はインターネットの時代がやってくると直感的に思ったんですが、世の中的には「インターネットって本当に大丈夫?」とか、セキュリティも含めて非常に不安ですし、分散型の技術だったり、今だと音声もパケットですが、当時は回線が細いのでプツプツ切れちゃうといったことがありました。なので非同期型のデータ通信なら良いのですが、同期型のものをパケットでやるなんて非常識だというような時代ですね。

私は当時一橋大学の文系学生で経営学を学んでいました。90年代は大きい会社のM&Aが世界的に強くなって、当時はGEとかジャックウェルチがビジネスアイコンみたいな時代だったんですよ。それはそれで非常にエキサイティングなんですけども、一方で大きい会社が大きい会社を買う・部門を売る、みたいなものが個人的には閉塞感があって、そういった意味でインターネットがそういうのを変えていくブレークスルー、今でいうゲームチェンジャーみたいな役割をするんじゃないかと考えて挑戦しました。

当時は学生なので、インターネットが普及したらその上で物を売ったり買ったり、eコマースが起きるんじゃないかと考えて自分でもやってみようと思ったんです。物流網は今とそんなに大きく変わらないのですが、当時はまだ相当現金社会なので、パソコンを通じてお金の受け渡しはできませんよね。加えてインターネットが信じられていないので、トラストをどう作るんだという今のWeb3で行われているような議論もあって、決済インフラが無いとeコマースできない、というのが起点でした。

状況は今のWeb3に非常に近くて、当時は学生でもインターネットの決済インフラ作ることができる時代だったので、そこからずっとネット決済インフラに携わり、最初は日本で、その後はアジアの方に広げていきました。特にインドネシアで合弁で作った会社(MidTrans)が最終的にはGojekに買収され、私自身はTokopediaのボードメンバーもやらせていただいています(編注:GojekとTokopediaが統合され、2021年にGoTo となった)。もちろんインドネシアは現地のメンバーがほぼ全部やっていますが、Tokopediaが20人ぐらいの頃から大きくなっていくのを、株主やボードメンバーの立場で見ていました。

直近では、2016年にSBIグループと米国RippleのジョイントベンチャーであるSBI Ripple Asiaを立ち上げ、2019年まで代表をさせていただいて、それを経て2020年にNudgeを作って新しい挑戦を始めています。

唐澤:なんか掘りたいところが多すぎますね。まずは、Nudgeとして何にフォーカスされてるのか、ご紹介いただけますか?

沖田:Nudgeは日本におけるチャレンジャーバンクを目指しています。2020年の創業時から一歩進んで、今はWeb3時代のチャレンジャーバンクを作ろうしています。チャレンジャーバンクは世界中でいろいろ出てきていますが、特に日本においては一点突破でしっかり築かないといけないので、私はFinTechの中でも特にキャッシュレスや決済の分野の経験が長いので、決済、ちょっとオールドファッションですがあえてクレジットカードの分野からスタートさせていただいています。

唐澤:実は私もユーザで、先日ベリロンのカード(VeryLongAnimals公式VISAカード)を作って、早速限度額超えてしまったんですが。

沖田:返すとすぐに復活しますよ。Nudgeはいつでも返済可能なシステムなので、一度限度額に達しても返済いただければすぐに使えるようになります。

唐澤:Nudgeは今あえてクレジットカードをやられていて、自分が応援しているクラブ(編注:Nudgeでは提携先をこう呼ぶ)を選んで、日々の決済を応援の気持ちに変えていくっていうのは、思いつきそうでも誰もやらなかった領域だと思うんですが、そこをドメインにしたきっかけや、なぜそれをそもそもまずやってみようと思われたのかについて教えていただけますか?

沖田:まず大前提になるんですが、多分皆さんもキャッシュレス派の人だと思うんですが、私も2000年ぐらいからキャッシュレス派なんですよ。自分はキャッシュレス大好き人間なんですが、昔はどんなに頑張っても、日常の支払い全部をキャッシュレスにはできなかったんですよね。

私は電子マネーとクレジットカードをよく使うんですが、2000年の頃、その2つの決済手段があっても、例えばコンビニはいけるんですが、零細企業とか、飲食店だと現金だけですよとか、あと夜はいいんだけどランチは現金だけです、といった店も非常に多かったんです。ファミレスとかでも当時使えなかったですし、昔はどんなに利用者がキャッシュレスにしたくても、お店側の問題でなかなかキャッシュレスは進まなかったんです。

今はもう様変わりしてるじゃないですか。コンビニやスーパーはもちろん、きっとこの数ヶ月で現金触れたのは数回とか、下手すると半年に1回も触ってませんみたいな人もいますよね。元々店舗と利用者というのは車の両輪なわけで、店舗サイドがかつてはかなりボトルネックだったんですが、今そこはもう相当解消しています。

とはいえ、日本は諸外国と比べて相当差があって、キャッシュレスが進まない、という部分でいうと、ユーザーサイドの方がやっぱりまだまだ課題なんですよ。我々みたいな日々キャッシュレスでFintechやってる人にはあんまりピンとこないんですが、例えば様々な決済手段を受け入れているコンビニって、キャッシュレス比率何割ぐらいだと思いますか? 多分日本で圧倒的に一番キャッシュレス化しやすい場所なんですが。

唐澤:もうゴリゴリのPOSシステムの機能に増殖を重ねていますし、普通に考えると8割キャッシュレスとなっていても良いくらいなのかなと思いますけどね。

沖田:そうですね、関係者に聞くと大体7〜8割って答えるんですよ。私は大学院とかでも時々授業やるんですけど、大学院で講義しても大体皆さん8割ぐらいっていう回答なんですが、実際は半分も行かないんです。2022年現在でそれなので、2020年だったら3割とかですね。

何を申し上げたいかというと、お店側はもうフルフルのキャッシュレスを受け入れているんですよ。でも利用者の方が、実は我々が考えているよりもさらに全然使っていない。実は我々が見えていないキャッシュレスやってない人の方が、世の中としてはマジョリティなんですよね。そういった方々が、我々と同じようにキャッシュレスをして便利とかお得とかで切り替えるかというとそうじゃない。実はキャッシュレスをやってない人が結構いることを冷静に見極めて、そこに対してアプローチをしていこうというのがNudgeの一番おおもとですね。お得以上に誰かを応援できるという切り口でやらせていただいてます。

唐澤:これだけインフラや環境が揃ったにもかかわらず、別の理由でやられてない方の、別のモチベーションをくすぐりに行かれているわけですね。

沖田:全くその通りで、今まではお得、要はポイントが貯まるというのが圧倒的で、お得を嫌いな人はいないですから、それで行動変容を促していました。ただ実はそれが(影響を与える方々は)半分ぐらいで、残り半分の方々は今までの切り口だと行動変容するほどの効果は出ないんです。あともう一つ、結構意外なのは、若い人の方がキャッシュレスの率が高そうじゃないですか。でも実はあまり世代を問わずフラットなんですよ。すごく厳密に言うと、日本人では、若い人の方がむしろキャッシュレス率が低いんですよ。

唐澤:結構衝撃的な事実ですね。

沖田:はい、これは結構びっくりで、そんなわけないじゃないと言いたいところなんですが、でも事実はそうなんですよ。なので、どちらかというと、より若い方がキャッシュレス生活を送りたいと思っているに決まっていて、お得も全然否定していないので、お得というインセンティブでも良いのですが、より自然に楽しくキャッシュレス生活を送っていただきたいというのがNudgeの部分(バリュープロポジション)です。

唐澤:それはベリロンでも、スポーツチームとかも、Nudgeの中で選べる好きなものが集まってきていると思うんですが、クラブオーナーの方から見た時に、どういうベネフィットがあるんでしょうか。もちろんマーケティング的な効果もあるでしょうが、クラブオーナー側は何を狙って、Nudgeとコラボされているんですか?

沖田:大きくは2つあって、一つはファンとの距離感・エンゲージメントを高めていきたいということですね。ブランディングとか、より親しみを感じてもらうことを狙っています。もう一つは収益源の多様化ですね。我々の金融収益の一部をクラブオーナーにお支払いさせていただいています。仕掛けとしては、普通クレジットカードは利用者がポイントをもらうと思うんですが、そのポイント相当分をクラブオーナーに払って、クラブオーナーからクラブに関連した特典を提供していただくという形です。利用額の一部が(クラブへ)行くので、投げ銭みたいな感じの構図になっていますね。

唐澤:クラブから見たときに、どのレベルまで自分たちのファンとかユーザをエンゲージできるんでしょうか? 例えば、決済するためにロゴが出てくるとか、想起されるみたいなところは分かりやすいと思いますが。配っている特典の種類とかによるのかもしれないですが、いろんなクラブがある中で、沖田さんから見て「このクラブでやっているのは面白い」と思ったものがあれば、ご紹介いただけますか?

沖田:特に地方のスポーツチームさんは、ファンとの距離が近いです。例えば、バスケットボールのチームなどで、ファンの方には推しの選手がいるわけですよね。チームのために、ファンもある種の投げ銭をやりたいんですよ。Nudgeの場合、利用者の金銭的な負担無く、日常のお支払いをキャッシュレスにするだけで応援できるというわけです。

カード利用の特典には色々なものがあって、例えば、秘蔵写真みたいなものもありますが、一番人気なのは、その選手がファンの人の名前を呼んでくれるというものですね。「村上さんいつも応援ありがとうございます」みたいな感じの動画などです。

これはファンである利用者からすると、半端にポイントもらえるよりも嬉しい体験じゃないですか。対して、提供する側からすれば、そういった特典を提供することの負担は大きくない。

今回我々がやっているような仕組みはいわゆる提携カードなんですが、多分ビジネスパーソンの方は元々、エアライン系のクレジットカードが多かったと思うんですね。飛行機に乗ってマイルが貯まるのに加え、普段のショッピングでもマイルが貯まって、特典航空券に換える場合は還元率が4〜5%くらいに相当して、お得だから換えるんですよ。なぜそれができるかというと、(航空会社にとって)自社商品だからじゃないですか。しかもマイルで搭乗してもらったとしても、空気を乗せて飛ばすより良いです。要は原価率が低いものなので、還元率を高くできるんですよ。

体験型のリワードも同じです。どうしても経済リワードになると、付与できるポイントの上限は0.5%ぐらいになるんですよね。それ以上出すと誰も得しないからです。ただ体験型だったら、原価は低いかもしれないですが、もらった人はむちゃくちゃ嬉しいという構造が作れます。

ベリロンさんで言うと、今度ベリロンさんのフィジカルなカードでがきるんですが、それをどの動物で作ろうかという投票ができます。別にそれにコストがかかるわけではないので、そういった体験型の特典を提供するところがポイントになっていますね。

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次回へ続く)

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