業界識者5人が予想、2023年以降ディープラーニングはメタバースをどう変えるか

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CC0 Public Domain Image via PxHere

メタバースは、テクノロジーだけでなく、社会・経済の分野でも最もホットなトピックの1つになりつつある。テック大手やスタートアップは、すでにこの新しいデジタルリアリティに対応したサービスの創出に取り組んでいる。

メタバースは、仕事、学習、買い物、娯楽、他者との交流など、これまで不可能だったことが可能になる主流の仮想世界へとゆっくりと進化している。ガートナーは最近、メタバースを2023年の戦略的技術トレンドの上位に挙げ、2026年までに人口の25%が仕事、買い物、教育、社会活動、娯楽などのために1日1時間以上メタバースで過ごすようになると予測している。つまり、メタバースを効果的に利用する組織は、人間と機械の両方の顧客と関わり、新しい収益源と市場を創出することができるようになるということだ。

しかし、こうしたメタバース体験の多くは、人工知能(AI)とデータサイエンスがこの技術を進歩させる最前線となるため、ディープラーニングの利用によってのみ進歩し続けることができる。例えば、ディープラーニングのアルゴリズムは、コンピュータビジョンの最新の開発により、ジェスチャー認識やアイトラッキングをより優れたものにし、自然なインタラクションや感情やボディランゲージのより良い理解を可能にしているのだ。このような技術は、メタバースの没入型インターフェースに不可欠な側面であるため、ディープラーニング技術は現在、リアルな AI ストーリーテリング、クリエイティブなパートナーリング、機械理解のさらなる強化を目指している。

ディープラーニングで新たなリアリティを形成する

現在、各社が開発中のデジタルリアリティは、それぞれの属性や統合機能を持ち、開発レベルもまちまちだ。これらのマルチバース・プラットフォームの多くは収束することが予想され、この分岐点では、ディープラーニングなどの AI やデータサイエンスの領域が、ユーザをメタバースの旅における新しいステージに導くために重要な役割を果たすだろう。これらの試みにおける成功は、アルゴリズムモデルとその測定基準の重要な要素を理解することが条件となるだろう。

ディープラーニングを利用したソフトウェアは、すでに仮想世界に組み込まれている。いくつかの例では、シームレスなインタラクションを保証するために、チャットボットを自律的に駆動するなどの自然言語処理が行われている。別の例として、AR 技術では、カメラのポーズ推定、没入型レンダリング、実世界の物体検出、3D 物体再構成にディープラーニング対応の AI が使用され、ARアプリケーションの多様性とユーザビリティの保証に役立っている。

Meta は10月に、ユーザの言語に関係なく、あらゆる言語の音声をリアルタイムで翻訳できる AI システムの構築を目指すプロジェクト「Universal Speech Translator」のローンチを発表した。さらに、教師なし音声認識(wav2vec-U)と教師なし機械翻訳(mBART)における同社の最近の進歩は、メタバース内でより多くの話し言葉を翻訳する将来の作業を支援するものだ。

このような実装はすべて、膨大な学習データとモデリングを必要とするが、現在はディープラーニングの手法によって可能になった。さらに、AI ベースのWeb3技術は現在、スマートコントラクトと分散型台帳を自動化し、仮想取引を可能にするユニバーサルブロックチェーン技術を構築するために求められている。

Deep Instinct の競合情報アナリストである Jerrod Piker 氏は VentureBeat に次のように語った。

ディープラーニングははるかに高い精度(と誤検出がほとんどない)を提供し、適切に実装すれば、データのノイズ(破損)を排除することができる。

新しいインタラクションのあり方

ディープラーニングモデルは利用可能なすべてのデータで訓練され、画像認識や自然言語処理で驚くべき結果をもたらすため、こうした実装はメタバースの改善を助けることができる。

Meta は、あるプログラミング言語から別のプログラミング言語へのコードの翻訳にこれを応用している。

メタバースは広く開かれた世界なので、コードを自動的に翻訳することは、メタバース内の異なるプラットフォーム間のシームレスな統合に大きな影響を与えることができる。(Piker 氏)

同様に、Deepgram の CEO 兼共同創業者 Scott Stephenson 氏は、ディープニューラルネットワークは層数の少ないニューラルネットワークよりも高機能で洗練されていると考えている。

企業は、顧客やコミュニティが新しい刺激的な方法でブランド(複数)と対話する興味深い機会を持っており、ディープラーニングベースの人工知能は、それらの経験を促進する上で大きな役割を果たす。

企業は、企業独自の言語スタイルや製品ドキュメントを学習した AI ブランド担当者にメタバースを徘徊してもらい、企業が宣伝したい製品やサービスを伝道してもらうことができるようになった。

(最近のほとんどのビデオゲームで経験するような)何十、何百もの台詞をあらかじめ用意するのではなく、メタバースプラットフォームがバックグラウンドで生成テキストチャットボットを動かして会話とエンゲージメントを促進しない理由はない。(Stephenson 氏)

メタバースが生み出す事業機会の、現在と未来の比較
Image credit: Gartner

普及課題の克服

メタバースはその約束と可能性にもかかわらず、データセキュリティなどのユーザベースのリスクに直面し続けている。ディープラーニングベースの AI モデルは、レガシーツールと連携することで、そうした課題の克服に貢献する可能性がある。

メタバースで作成、送信、共有されている機密データを保護するには、これまでのデータセキュリティの取り組みよりも高度なテクニックが必要だ。ディープラーニングは、コンテンツを正確に識別する不思議な能力を持っているため、この面で優れた結果をもたらすことができる。

例えば、特定の機密データが意図したチャネル以外に流出していないことを確認するための継続的な検査は非常に重要で、ディープラーニングは、あらゆる種類のデジタルコンテンツを正確かつ効率的に識別し、他の機械学習モデルに比べてはるかに優れた誤検出率を誇る比類のないものだ。(Piker 氏)

PwC のイノベーション&トラスト・テクノロジー・リーダー Scott Likens 氏は次のように述べている。

ディープラーニングと AI が VR と融合し、今後メタバースがより深い体験を提供することで、多くのブランドが実際のビジネス価値を認識し始めた。

メタバースを埋めるコンテンツやデジタルアセットが不足している現状では、メタバースのアセット生成は AI の恩恵を受けることになる。また、IoT を通じたデータ収集の進歩により、データハングリーなディープラーニングモデルにデータを与えることで、リアルでありながら合成的な世界を作り出し、現在の労働力では追いつけないペースでビジネス戦略などに活用されている。

5-Minute Crafts, Bright Side, 123 GO! などの有名なチャンネルを持つ TheSoul Publishing のオペレーション担当 VP Patrik Wilkens 氏は、次のように述べる。

ディープラーニング技術は、自動化の面で非常に重要になるだろう。

以前は何時間もかかっていた作業が、今では驚くほど効率的に行えるようになった。テクノロジー企業やコンテンツクリエイターが、ディープラーニングをプロセスに組み込んで最高のテクノロジーを活用することで、これまで物事を動かすために使っていたマンパワーを、別のことに使えるようになるのだ。これはクリエイティブな領域では特に重要だ。

Wilkens 氏はさらに、自身の会社であるTheSoulが現在、いくつかのメタバースユースケースにディープラーニングベースのアルゴリズムを活用していると説明した。

我々は今、校正、翻訳、品質保証(QA)の実行、グラフィックの構築に、ディープラーニングベースの人工知能をコンテンツに使用している。また、メタバース内の 5-MinutesCrafts のマーケットプレイスなど、多くの取り組みについて開発段階に入っている。

これは、あなたのアバターが TheSoul のショッピングモール風の建物に入り、ビデオを見て、AI アシスタントがプロジェクトの完成に必要な材料を購入する手助けをすることで機能する。

2023年、メタバースに期待すること

Zendesk の CTO Adrian McDermott 氏は、2023年にはディープラーニングと AI 技術がメタバースにおけるカスタマーセルフサービスを強化し、スケールアップすることが期待できると考えている。

企業は AI と自動化の利用を拡大し、緊急のユーザ問題をリアルタイムでルーティングおよびエスカレーションし、体験をシームレスに保つことを保証するだろう。

大規模言語モデル(LLM)は、ブランドがこうした新しい空間における顧客のニーズを理解し、サービスリクエストに対する潜在的なレスポンスを生成する上で役割を果たすことになるだろう。ディープラーニングベースの AI モデルを搭載したセルフサービスは、顧客がわかりやすい質問をより簡単に分類できるようにすることで、人間のエージェントの負担を減らし、エージェントはより難しいケースを掘り下げるために解放されるのだ。

McDermott 氏は、小売やゲーム以外の業界も、競争力を維持するためにメタバース体験の構築や試験運用を始めるだろうと述べる。

ブランドは、メタバースを利用して、顧客とエンゲージするだけでなく、デジタル・コレクティブルを通じてロイヤリティを構築するようになり、自動化がその一翼を担うことになるだろう。

デジタルストアフロントやコンサート体験の拡大だけでなく、会議の開催、従業員の重要な職務スキルのトレーニングやスキルアップのための企業による利用が増加することに驚かないでほしい。(McDermott 氏)

ブランドは、より人間らしく、オーディエンスと真の意味でつながるために、バーチャルインフルエンサーのコミュニティを巻き込む、より意味のあるコンテンツの開発に注力するようになるだろう。

さらに、アバターの台頭も予想される。特にメタバースでは、どこにでも存在し、2023年にはアバターファッションやデジタルアイテムなどの新機能が登場するため、Snapchat などのプラットフォームで劇的に進化するだろう。(McDermott 氏)

【via VentureBeat】 @VentureBeat

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