総額1,000億円のKDDIサステナビリティボンド、解決目指す社会課題のイメージ

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

世界的な環境課題を背景に、企業がますます無視できなくなってきているのが「ESG」への取り組みです。日本でも2020年の菅内閣においてカーボンニュートラルへの指針が宣言されたこともあり、メディアなどでも「ESGやSDGs」といったキーワードが頻繁に取り上げられるようになりました。

ただ、温室効果ガスの問題が電力やプラごみなど生活に直結する話題のため、どうしても環境のイメージが強くなります。一方、ESGの「S(ソーシャル・社会課題)」も同様に幅広く、性別や人種(ダイバーシティ&インクルージョン)、働き方、過疎、地域など、企業が社会から要請を受けて取り組むべきテーマは数多くあります。こうした社会からの要請に企業が貢献するための社債を総じて「ESG/SDGs債」等と呼び、近年、投資家からの注目が高まっています。

KDDIでは今年9月、この社会課題の解決などにつながる事業に使途を限定した社債「KDDIつなぐチカラ債」を総額1,000億円規模で発行することを公表しました。この社債で得た資金は、高速通信規格「5G」の設備投資をはじめ、中期経営計画に定められた「サテライトグロース戦略」に基づく注力領域に投じられる予定です。

具体的にはIoTなどを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)、金融、エネルギー、消費体験行動を変えるLX(ライフトランスフォーメーション)、地域共創など、いずれも5G通信に絡めた事業領域となっていて、この戦略に基づく投資戦略が実行されることでKDDIが掲げる「サステナビリティ経営」のビジョンが示せる、というわけです。

今回、編集部ではこの社債企画を推進する、KDDI サステナビリティ企画部の安本高望さん、財務・税務部の松本亮さん・西山弘晃さんに話を伺い、どのようなプロジェクトがこのESG債の注力領域に合致するのか、イメージを教えてもらいました。なお、これらはあくまで想定されるプロジェクトイメージであり、具体的にESG債から投資された案件ではないことを付記しておきます。

つながる環境に貢献する衛星通信「Starlink」

最初のケースは「つながる環境」への課題解決です。KDDIは10月、Space Exploration Technologies Corp.(スペースX)との間に衛星ブロードバンドインターネット「Starlink」提供に関する契約を締結し、年内の提供開始を目指すことを発表しました。

衛星通信とESGにどのような関係があるのかすぐにピンとこないかもしれませんが「自然災害」と聞くと想像がつきやすいかもしれません。

Starlinkは従来の衛星通信と異なり、衛星自体が低軌道上に配置されているため地表との距離が近く、大幅な低遅延と高速伝送を実現しています。これにより、山間部や離島だけでなく、今年の夏からは海上での通信サービスも提供開始しています。

日本は自然災害の多い国であり、通信が行き届かない場所でのコミュニケーションには課題が残っていました。こういった課題に対する投資は新たなサービスにつながる可能性を持っています。

地域と移動の課題

新潟県阿賀町での共同実証の様子(参考記事:ドローン配送は成り立つのか?への答えーーエアロネクストとKDDIが共創、その道のりを聞いた)

続いて移動や配送の問題です。MUGENLABO Magazineでもお伝えしていますが、KDDIではドローンを使った配送サービスの実現や、地域における乗り放題サービスの可能性を模索しています。共に生産年齢人口の減少や少子高齢化を背景とする免許の自主返納や、子育て世代の送迎といった社会課題を解決するものです。

KDDIスマートドローンとエアロネクストは協業して「ドローン配送」による買い物弱者の問題を解決しようとしています。以前のインタビューにもある通り、地域にある小さな町では、高齢化の波によって引き起こされる買い物などの問題を、商店街や地域の物流会社が無理をしてでも支えている様子が伺えました。こうした場所にドローン技術を併用することで事業者の負担を軽減できる可能性が出てきます。

もうひとつ、子育て世代が課題を感じる送迎の問題もあります。KDDIとWILLERが合弁で設立した「Community Mobility」が提供する移動の定額サービス「mobi」は、月額5,000円で一定地域の移動を使い放題にしようとしています。

これにより働くパパ・ママが保育園の送迎にmobiを利用して、そのまま出社するような移動体験が実現できるようになります。このような子育てと仕事、自己実現の両立には通信テクノロジーの活用が不可欠です。

mobiでは定額利用を実現するため、KDDIが持っている人流データを使い、刻一刻と変化する道路状況に合わせたAIによるルート情報の算出をしているそうです。

定額サービスで移動の問題を解決するmobi(参考記事:半径2kmを定額乗り放題にしたワケーー移動を変える「mobi」とその課題

ファンドとの棲み分け

ここまでESG債による社会課題への投資イメージを整理してみました。スタートアップのビジネスアイデアや、通信技術、クラウドテクノロジーなどに投資することで、社会課題を解決に導き、持続可能な形にする。サステナビリティボンドの役割はそこにあります。

現在、KDDIでは同じく革新的なスタートアップサービスに投資を実行する投資スキームがいくつか存在しています。異なるのはKPIの設定方法です。サステナビリティボンドは事前に規定したKPIでその事業が正しく社会課題や社会からの要請に対して応えているかどうかを計測する必要があります。

このKPIの設計は必須で、これが決まらないと投資執行はできないそうです。このように計測ができない、しづらい社会課題は多く、こういったケースには従来スキームが活用されるというお話でした。

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