東南アジア発、2023年注目のスタートアップ(5):バリスタが家やオフィスにやってくる、安価・高品質なJago Coffeeとは

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開会の辞を述べる、サイバーエージェント・キャピタル取締役の北川伸明氏
Image credit: Masaru Ikeda

これは、CyberAgent Pitching Arena 2022年冬版の取材の一部だ。

サイバーエージェント・キャピタル(CAC)は12月1日、東南アジアのスタートアップと投資家が参加するピッチイベント「CyberAgent Pitching Arena」の2022年冬版を開催した。新型コロナウイルスの感染状況をひと段落したのを受けて、今回は3年ぶりの対面型(in-person)での開催となった。東南アジアから10社が登壇し、約80名の投資家が参加した。

サイバーエージェント・キャピタルではかねてから国内スタートアップや投資家を対象に「Monthly Pitch」を開催しているが、その国際展開として、2019年にジャカルタで海外版 Monthly Pitch を開催。以降、2021年1月に第2回目となる東南アジア版では「Monthly Pitch Asia」として、2021年9月に開催された第3回から「CyberAgent Pitching Arena」として運営している。

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イベントでは、サイバーエージェント・キャピタルの取締役で中国法人代表を務める北川伸明氏による開会の辞に続き、インドネシア、ベトナム、タイからのスタートアップ10社がピッチを披露。続いて、投資家から寄せられた質問に対して回答する Q&A セッションが展開された。投資に関心を持った投資家は今後、各スタートアップの代表らにコンタクトすることになる。

今回は、ピッチ登壇したスタートアップ10社のうち、Jago Coffee を取り上げる。

Jago Coffee(インドネシア)

ピッチする CEO の Yoshua Tanu 氏
Image credit: Masaru Ikeda

Jago Coffee は、コーヒーのラストマイル移動販売ネットワークだ。ジャカルタ中心部でバッテリを搭載した自転車連結のワゴンを使い展開、アプリでコーヒーを頼むとオフィスや家の前までやってきて、淹れたてのコーヒーを提供してくれる。地元インドネシア産の高品質なコーヒーを、スターバックスよりも安価で飲めるのが特徴だ。共同創業者兼 CEO の Yoshua Tanu 氏はかつて、世界的なバリスタ選手権で31位の座に輝いており、これまでにコーヒー流通や焙煎を行う事業を複数立ち上げてきた人物だ。

インドネシアのコーヒー市場規模は約35億米ドル。過去5年間にわたり毎年2桁の伸びを示しており、今後10年以上は、このペースの伸びを続けるとみられている。そして、Tanu 氏がコーヒービジネスにこだわった最も大きな理由は全くダウントレンドが無いからだ。少なくとも過去30〜40年間、幾度となく景気の浮き沈みがあったのみもかかわわず、嗜好品であるはずのコーヒーの需要が減ることはなかった。

Jago Coffee のコーヒーカート
Image credit: Masaru Ikeda

ただ、この35億米ドルの市場のうち、コーヒーショップチェーン店などを全て合わせても消費されているのは全体の10%で、残りの90%はインスタントコーヒーや缶コーヒーだ。少なくとも淹れたてのコーヒーの方が美味しいのだが、消費者の多くがインスタントコーヒーや缶コーヒーに流れているのは価格と手軽さの問題。コーヒーショップでコーヒーを飲んでいるのは中産階級以上の高所得者層で、人口の大部分を占める低所得者層はインスタントコーヒーや缶コーヒーを飲んでいることが明らかになった。

一般的に商品をデリバリで届けると(特にフードデリバリの場合)、店頭で購入する場合に比べ、デリバリコストがかかり30%ほど割高になる。ただ、コーヒーの場合、コーヒーショップは店舗の運営にコストがかかっているため、Jaco Coffee ではデリバリにすることで、コーヒーショップと競争可能な安価な価格体系を実現できるのだそうだ。結果として、Jago Coffee は、若いオフィスワーカー、ドライバー、警備員など、スターバックスとは違う客層であるブルーカラー層を開拓することに成功した。

ジャカルタでの営業拡大計画を説明する CEO の Yoshua Tanu 氏。2024年末までに市内中心部でカート1,250台の配置を目指すという。
Image credit: Masaru Ikeda

コーヒーショップのコーヒーをフードデリバリの配達員が運ぶ場合と比べて、コーヒーを淹れるバリスタと配達員を一人の人物が兼ねている、という点もまたコスト削減に寄与している。また、人口の多いジャカルタの中心部に特化していることで営業効率を上げている。Jago Coffee では現在250台の自転車連結ワゴンを展開しているが、これを3万台にまで引き上げることができれば、インドネシア最大の小売店ネットワークが出来上がることになる。将来は、コーヒー以外の商品販売も念頭に入れているようだ。

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