MUFGが250億円評価で買収したカンム、その理由【八巻氏インタビュー】

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MUFGが昨年に子会社化を公表したカンム創業者、代表取締役の八巻渉氏/写真提供:カンム

昨年末に明らかになった三菱UFJ銀行(MUFG)によるカンム買収は、国内スタートアップにとって象徴的な出来事だったかもしれない。というのも、ここ数年続いていたややバブル含みの市況が一気に冷え込んだ中での発表だったからだ。年始の記事にも書いたとおり、昨年にIPOしたテック・スタートアップの評価は一昨年までの半分にまで下がり、これまで有利な株価で資金調達をしていたスタートアップにとっても、今年の2023年は厳しい一年になる可能性がある。

こういった市況で活発になることが予想されるのが企業による買収だ。特に今回のカンムのように成長と利益(2021年度12月期の決算は売り上げが約38億8500万円、経常利益が8,000万円)、そして事業シナジーが予想しやすいスタートアップの買収は双方にとってメリットが大きい。大手は新規事業のスピード感と新しい風を取り込めるし、スタートアップ側にとってはこの厳しい市況の中で安定した基盤を手にいれることができる。働いている社員にとってもある程度の規模になったスタートアップであれば、落ち着いて仕事ができる環境は魅力に映るだろう。

MUFGによるカンム買収の話題は記事に詳しく書いた。筆者が得た情報で彼らの評価額は250億円。2022年の新規IPO組と比較してもトップクラスに入る。株式の扱いである買収や株式公開は手段でしかないが、投資家、特にベンチャーキャピタルのリスクマネーを入れている「スタートアップ」であれば、避けて通れない話題なだけに、なぜ八巻氏がこの選択をしたのか気になると思う。そこで筆者は八巻氏にインタビューを実施し、その思惑を聞いてみることにした(太字の質問はすべて筆者、回答は八巻氏)。

IPOも視野に

MUFGの子会社化を発表した。100%ではなく、八巻さん含めて一部の株主は残ったが今後、どのような経営体制でどういったマイルストーンを目指すのか

八巻:代表は変わらずです。弊社としてはIPOを引き続き有力な選択肢だと考えています。事業自体は普通に伸びています。やはり(事業の性質上)親会社がいた方がよいという判断もありました。MUFGグループとしては消費者ローン専業のアコムが子会社として上場しています(筆者註:2023年1月時点で三菱UFJフィナンシャル・グループが37.57%の株式を保有)。

話の発端は

八巻:MUFG側からデビットカードに後払いを載せたいという協業のお話があって、私たちはプリペイドに後払い(ポチッとチャージ)をやっているのでそこから何かできるかもね、というスタートです。

今回、売上が開示されたが事業成長は

八巻:詳細はお伝えできませんが、ちょうど今(筆者註:取材日は2022年12月)が期末なので、昨年よりよく伸びていますね。

現在の体制は

八巻:50名ほどです。

POOLという新しい枠組みの事業を開始されたが、こちらは思惑通り進んでいるか

八巻:現在、申し込みベースで累計3億円のお申し込みをいただいています。プリカのようなニュアンスもある商品なので、使いすぎ防止の観点でメリットを感じていただいているようです。

今回、デビットカードに後払いを載せるという話だが、MUFGグループでやらず、なぜカンムをパートナーに選んだのか

八巻:確かにグループには三菱UFJニコスさんもいますからね。ただ、そこが我々の強みなんですが、ライトなユーザー向けに後払いのスコアリングを数年間やってきた実績があります。最終的にはセブン銀行さんが与信をとる仕組みなんですが、4、5年運用しているんですね。ライトなユーザーは本人確認もありませんし、メールアドレスだけなんです。住所すら情報としてはいただきません。そんな中でシミュレーションするわけです。このノウハウやデータが必要なんです。

このデータを一気には作れない?

八巻:二つ課題があるんです。ひとつは、この結果が出るまでが長いんです。後払いなどで翌月末に支払ってもらうわけですが、結果を得るのに大体、半年ぐらいの時間が必要になります。このPDCAサイクルが長い。 もうひとつはコストですね。実際にお支払いいただけない方もいるわけですから、データを貯めるにしてもコストがかかります。もちろん与信はセブン銀行さん側でとっているので弊社にダイレクトなリスクはありませんが、パートナーを巻き込んでの投資と覚悟が必要なんです。最終的な判断は分かりませんが、一般的にはスピードを買ったという理解をしています。

バンドルカードの成長について教えてほしい。今、600万ダウンロードだけを公表していて流通総額(GMV)などは非開示だが、学生などライトユーザー中心だとどうしてもGMVが伸びない印象がある

八巻:実際、クレジットカードを持っているユーザーも多くて、後払い利用者も半分弱がクレジットカードを持っています。クレジットカード保有者は国内に8,000万人ほどいると言われているので、まだまだパイは大きいと考えています。

ただ、そういう与信のあるユーザーがなぜわざわざバンドルカードを使うのか

八巻:やはりこちらは使いすぎ防止ですね。クレジットカードはご存知の通り、翌月末に一括などで支払いますが、全ての決済がリアルタイムで把握できるわけではないですし、やはり引き落としのタイミングで使いすぎたなという印象を持つ人が増えているようなんです。バンドルカードはプリペイドなので物理的に使いすぎることがありません。

使いすぎ防止のソリューションであればスマートバンクのB/43などの新興勢や、金融機関の家族カードなどもあるが優位性は

八巻:やはり一番簡単に作れるということではないでしょうか。本人確認もいらないですし、コンビニに行かなくてもすぐにアプリからチャージもできます。要は何もない状態でスマホさえあれば数分以内にネット決済ができるというハードルの低さがあったんだと思います。それとユーザー視点です。使いやすいということで継続していただいているのですが、それもあったと思っています。 また、先ほど申し上げた通り、長年に渡る運用実績でスコアリングのプロセスもこなれ、収益を生み出せるようになっているという点も大きいです。

ありがとうございました。これからの活躍、特に株式公開の可能性を楽しみにしています。

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2011年当時、フリークアウト・ホールディングスやカンムも入居していた柳ビル。写真中央はみんなのマーケット社(写真提供:カンム)

ーーということで、八巻氏のショートインタビューをお送りした。ところで今回の買収はやはり、既存で大株主だったフリークアウト・ホールディングスの動きによるものが大きい。

フリークアウト・ホールディングスが出した適時開示の情報(リンク先はPDF)によると、同社が保有するカンムの株式を総額約140億円で売却。開示資料から想像するに、個人株主などの保有分をオプションとして取りまとめてフリークアウトが売却したように思う。自社保有分で得た108億円(税引き後で106億円)をM&Aなどの成長資金に充てるとしており、市場もこれに大きく反応。発表後で株価を大きく上げている。

フリークアウトとカンムは共に六本木のビルで切磋琢磨し、2010年代のスマホ・シフトブームを背景に大きく成長したスタートアップだ。カンムのチャレンジを先行して上場したフリークアウトが支援した結果、今回の買収劇に繋がっている。カンムの買収劇が2023年のスタートアップ・シーンを占う上で重要なベンチマークとなるのは間違いなさそうだ。

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