人を中心にコネクトした体験を作り出す事業へーー世界を変える8つのテクノロジー/ビットキー VPoE 山本寛司氏 #ms4su

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本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups Founders Hub」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している

世界はコロナ禍を経て VUCA と呼ばれる不安定な時代に入ったと言われています。スタートアップにとって、これをチャレンジと捉えるべきでしょうか、それとも、チャンスと捉えるべきでしょうか。世界では、社会インフラが整っていない地域ほど、リープフロッグ現象を起こすスタートアップやユニコーンが多数生まれています。

日本の産業構造や社会は成熟しているものの、高齢化、労働者不足、中央集権的な仕組み、硬直化したシステムといった課題があります。こうした課題は、タイミングこそ違えど、いずれ世界各国や地域や社会が経験する可能性があり、日本のスタートアップが自由な発想で解決策を提示できれば、世界の救世主的存在になるかもしれません。

本稿では、自由な発想で産業や社会のペインを解決しようとするスタートアップにインタビューし、彼らの思い、軌跡、将来展望などについて、読者の皆さんと共有したいと思います。

5回目となる今回は、2018年8月創業のビットキーです。ビットキーは日本のスタートアップシーンで、コラボレーションを前提に事業会社から多くの資金を集めている点でユニークな存在であり、スタートアップデータベース「START DB」が発表した時価総額ランキングでは、昨年8月以降、20位の座をキープしています。

スマートロックから始まったように見えるビットキーですが、創業初期より、ミッションとして「テクノロジーの力で、あらゆるものを安全で便利で気持ちよくつなげる 」にこだわり、ID連携・認証・権利処理のためのプラットフォームを開発。その技術を強みに、人の営みを軸とした3つのシーン——「Home(暮らし)」「Workspace(働く)」「Experience(非日常の体験)」に沿ったソリューションの開発、パートナーとの提携、ユースケースの提案を展開しています。

認証・認可の管理を一元化しようとする動きは、金融や個人情報管理を求められる領域ではKYC、エンタープライズではAcive DirectoryをはじめLDAPの仕組みなどで知られます。ただ、デジタルだけでなく、入退室管理をはじめ、フィジカルな領域にまでこのコンセプトを拡大させようとするのはビットキーの興味深い挑戦です。

ビットキーの戦略、Microsoft for Startups Founders Hub への採択を受けたマイクロソフトの協業について、今後の展望をビットキーのVPoE(Vide President of Engineering)である山本寛司さんに話を伺いました。

ビットキーと解決しようとするペイン

Image credit: Bitkey

入退室管理と言えば、カギやスマートロックが思い浮かびますが、セキュリティ保持の観点から仕組みはより複雑化しています。ビルに入居していれば、ロビーにセキュリティゲートがあり、エレベータも自分のオフィスが入居している階しか指定できないようになっていることもあるでしょう。セキュリティシステムやオフィス照明のオンオフが連動するとより便利です。

しかし、ここで課題となるのは、それぞれのシステムは独立して動いていて、全体を統合的に制御する仕組みが無いことです。例えば、ビルに入居するある会社で社員が入社・退社した、配置転換したというステータスの変化に応じ、統合された1枚の社員カードで、ビル共用部のセキュリティゲートやエレベータまでの動作の認証・認可を一括管理するのは至難の技です。

なぜ難しいかというと、そこにはベンダーの壁があるからです。既設のオフィスのスマートロック、ビルのセキュリティゲート、エレベータなどは全てメーカーやベンダーが異なります。また、これらのシステムは、製品の開発管理やコストの観点からカスタマイズすることは難しく、お客様の個別要件はインテグレーションで吸収することになります。

この課題を解決しようとするのがビットキーが開発した「bitkey platform」です。認証・認可をデジタル〜リアル間、システム間でも連携可能にします。ここまでオフィスの話を中心にしてきましたが、ユーザがオフィスにいる時は「workhub」、家にいる時は「homehub」、非日常空間では「exphub」といった、人を軸にしたプラットフォームをインターフェースとしあらゆるサービスや製品と接続し、進化させています。

ビットキー VPoE の山本寛司さん

例えば、オフィスで言えば、専有部にある物販を補充する皆さん、観葉植物に水をあげてくれる皆さん、こういったサービスプロバイダの方々に、業者専用入口で一定の時間だけ機能するカギを発行して出入りしてもらえれば、より安全で便利で気持ちのいいオフィスの運営に繋がっていくと思うんです。僕らの入居するビルは警備員が受付しているため、そうはなっていませんが…。

生活のシーンでは、サービス提供者と注文者が、同じ時間に同じ場所にいることが必要な対面での手続きが、しばしば発生します。例えば、ECサイトで注文した商品をドライバーと会って受け取るという場面や、ネット予約した宿泊施設も、対面でのチェックインやカギの受け渡しが必要です。

スムーズなデジタル体験は、リアルに入ると途切れてしまっている状況があります。しかし、bitkey platform を土台として、workhub や homehub っといったコネクトプラットフォームを構築し、さまざまなサービスや製品と連携し、ユーザにとって分断の無い体験を提供していきます。(山本さん)

数年前、EC 事業者らが注文品を家の中まで届けてくれるサービスを始めたのを覚えている人がいるかもしれません。配達業者が来た時に注文者の家のカギは解錠できるものの、集合住宅の場合は建物玄関のオートロックが解除できないという課題がありました。ビットキーのテクノロジーはこんなシーンの課題解決にも役立つかもしれません。

認証・認可にADが使えるAzureは強み、アプリギャラリーを通じた認知向上にも期待

Azure AD アプリギャラリーに掲出された「workhub」

ビットキーはworkhubやhomehubといったコネクトプラットフォームを複数のパブリッククラウド上に構築していますが、Windowsでしか動作する環境が提供されていないソリューションには、Azureが特に威力を発揮します。認証ソリューションにAD(Active Directory)を採用している企業も多く、ここでもAzureとの親和性の高さでメリットを享受することができます。

workhubの一部でAzureを活用しています。 workhubは人と仕事の間に有る分断を解消するため、1システムでワークスポットの検索・予約などに対応し、その内容に連動して、ビルの共用部セキュリティゲートや、テナントのオフィスフロアのドアなどのスマートアクセス化された場所を通行できる権限を発行するなど、働く場面において課題を解決しています。

(Microsoft for Startups への参加は)藤田様にご連絡をいただき、プロモーション活動やAzureの費用サポート 、マイクロソフト社との直接のルートが出来ることによる、マイクロソフト製品との連携に関わる相談のハードルが下がることに魅力を感じて応募させていただきました。(山本さん)

Microsoft for Startups に採択されたことは、ビットキーのマーケティングや導入展開にもプラスになることが期待されます。マイクロソフトは「Azure AD アプリ ギャラリー」を展開していて、ここにはシングルサインオン(SSO)やプロビジョニング(従業員情報等のデータ連携)を簡単にするアプリなどが多数登録されています。

企業にビットキーのソリューションを導入してもらうには、その企業の情シス部門の協力を得ることが不可欠ですが、日本企業ではBI(ビジネスインテグレーション)ソリューションがマイクロソフト製品で構成されていることが多く、Azure ADとノンコード・ローコード連携できること、実装展開が容易なことから、情シス部門の業務負荷を軽減することもできます。

Microsoft for Startups カスタマープログラムマネージャー 藤田万柚子さん

Microsoft for Statups Founders Hub のメンバーとしてビットキーを担当する藤田万柚子さんは、ビットキーとの協業や支援について、次のように述べています。

担当として常に大事にしている点は、プログラムの枠組みだけにとらわれず、各社に合ったカスタマイズでどう支援できるかを考えることです。ビットキーの「つなげる」技術は、今後、オフィスでも暮らしにおいても DXプラットフォームとして、さまざまな技術を組み込み、サービスを充実させていくだろうと思っています。

AI、IoT、ブロックチェーンなど、市場でトレンドとされる多くの技術を活用することが可能なプラットフォームなので、技術観点でも大変興味深いです。テクノロジードリブンではなく、マーケットインのコンセプトで顧客にアプローチできるのが、ビットキーの一番の魅力だと感じています。 (藤田さん)

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