スタートアップ投資界のツワモノ3人が創設した「KUSABI」、新生100億円ファンドが目指すものとは

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KUSABI 代表パートナーの3人。左から、渡邉佑規氏、吉田淳也氏、永井研行氏。
Image credit: Masaru Ikeda

これまで、BRIDGE でもトランスミットQuickWorkSOLLECTIVECOSOJI といったスタートアップの資金調達で、リードインベスターとして名前が上がってきた KUSABI だが、このファンドについて取り上げる機会が無かった。これはひとえに、このファンドの〝強さ〟の裏返しだろう。新しいファンドはトラックレコードが少ない分、組成直後の段階から情報を露出する傾向にあるが、KUSABI は2年以上前に運用を開始し、すでに21社に対して、しかも9割以上リードインベスターとして投資を実行済だという。

ニッセイ・キャピタル出身でアクセラレータ「50M」を生み出した永井研行氏、ジャフコ出身で日本版「MIDAS LIST」2位に輝いたこともある吉田淳也氏、グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)出身で通算13社ものイグジットを上げた渡邉佑規氏という3人のツワモノが立ち上げたのが KUSABI だ。筆者はファンド名を初めて耳にした時「なんだか刺さると痛そう」と冗談を吐いていたものだが、言うまでもなく日本古来の道具に由来し、物を割ること(ディスラプション)と結びつけること(価値創造)を念頭にこう名付けたのだそうだ。

トラックレコードの少ない新ファンドは、LP(ファンドへの出資者)に対して、純投資によるリターン以外の価値を提示せざるを得ないケースが多いが、腕に自信のある3人のトラックレコードが1つに結集された KUSABI ではその心配には及ばなかった。100億円のファンド資金のうち、三井住友銀行(SMBC)と SMBC ベンチャーキャピタル、中小企業基盤整備機構(中小機構)、産業革新投資機構からの出資が約7割を占めている。産業育成と共に、純投資によるリターンが期待されている論より証拠だ。

KUSABI の投資先(一部)
Image credit: Kusabi

数年前と比べれば、シードファンドも数多く増えた。起業家の裾野を広げるという意味で、それはそれでいいことだが、ファンドの増加に比例して、投資に値するという観点で良質なスタートアップの数が増えてくるまでには、ある程度のタイムラグがある。結果として、シード調達に成功したスタートアップが次のシリーズ A へのラウンドをうまく繋げず、コンバーチブルエクイティを使ったブリッジファイナンスを乱発し、身動きが取れなくなってしまうケースが昨今散見されている。

リードインベスターの立場を積極的に取ることは投資先の成長に責任を持つことになるので、KUSABI はハンズオンにも注力することになるが、先行き不透明なシード・アーリー期でリードインベスターを務めるということは、その審美眼に自信があるということだろう。3人のトラックレコードを合わせると、IPO は16件、トレードセールや M&A は14件におよび、キャピタルゲインの総額は200億円。個々人でもファンドが作れる規模なのに3人が力を合わせた理由は、この骨太の運用方針に理由があるように思える。

KUSABI は2022年12月に、1号ファンドのクローズを迎えた。この時点ですでに100億円が集まっているが、最終クローズに向けてオーバーサブスクライブする模様だ。投資の実績ベースでは、チケットサイズが2,000〜3億円(平均1億円超)、シードとアーリーのスタートアップへの出資が合わせて70%を占めていて、残りの資金は、主に出資済スタートアップのミドルステージへのフォローオン出資に充てられる。1号ファンドの最終クローズを控え、KUSABI では近日中に新たな準備しているとのことなので、追って小誌でも詳報したい。

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