福島氏が語るバクラク躍進のワケーーLayerXが55億円調達、達成の鍵は「AI体験」(2)

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前回記事からのつづき。シリーズAラウンド・ファーストクローズで55億円を調達したLayerX。代表取締役を務める福島良典氏に躍進の理由を聞いた(太字の質問は全て筆者。回答は福島氏)。

シリーズAラウンドで55億円を調達しました。ファーストラウンドということだが最終的にいくら集めるのでしょうか

福島:既存の投資家様全てフォローいただいたのですが、まだそこは相談中です。

必要な資金がまだ見えていない?

福島:いや、資金は集めるだけ集めたいのですが、どちらかというとマーケット依存です。最終検討中の方もいらっしゃるので、またしかるべきタイミングで発表を検討します。

現在複数の事業展開をしているが集めた資金の使途は

福島:基本的にはバクラクおよび新規プロダクトです。請求書から始まって5つのプロダクトを出してるのですが、このラインナップの強化、さらにスケールしていくための組織の部分です。2025年までに、セールスマーケティングの人材を重点的に増やし、500人体制にすることを目標にしています。また、地方のお客様からの需要が増加しているため、地方拠点も拡大する予定です。地方で大きめの都市を中心に拠点を設けてマーケティングを含めた拡大を進めていく計画です。

創業期から複数事業を展開するコンパウンドスタートアップという考え方を発信していますが、現在進めている三事業がどうなるのか、具体的にどのような考えなのか改めて教えてください

福島:そうですね。基本的にはその三つの事業自体があまり複雑に絡まっているわけではなく、それぞれが独立して立ち上げられています。三井物産さんとの共同事業もビークルもそれぞれ独立しています。そのため、経営体制自体は比較的シンプルです。ただ、それぞれが強くなっていくことでその先にお互い連携していく場所があるかもしれません。まだまだ三つの事業とも大した規模ではないと思っていますので、それぞれが一人ひとりが強くなるフェーズだと思っています。少なくとも3年はかかると考えています。

また、国内で勝っていくことを前提とすると、むしろその方が自然だと思います。楽天さん、リクルートさん、サイバーエージェントさんなど、初期の段階から特に制約を設けずに複数事業を経営していくための組織を作り、その経営人材を育成していくことを目指していました。各社はそれに耐えるためにIPO時には何百億円も調達していますよね。

国内ではむしろその方が自然なのではないかと。米国のVC流のような一つの事業やプロダクトで赤字を出してスケールするようなグローバル市場を前提とした戦略にあまり毒されすぎる必要はないのかなと思います。もちろん、そのようなやり方にはメリットもあることを理解した上で、判断する必要がありますけどね。

バクラクの事業に話を移します。現在の状況を改めて教えてください

福島:2年前に取材を受けた取材時に1年間で達成する目標を3,000社とお伝えしました。その際にお伝えした数字を、1年早く達成する状況にあります。僕らは未上場企業ですから細かい数字については公表していませんが、ARRの目標として2027年3月に100億円を目指していたものを、1年前倒しで達成する見込みです。これまでの成長は順調です。

表現が難しいですが売上の比率について言えば、バクラク請求書という製品は全体の売上の半分ぐらいを占めており、逆にその残り半分は他の製品になっています。

福島:バクラク請求書はかなり急激に売上が伸びている状態です。全ての製品が成長している状況でサービスの連携性の良さや、マシンラーニングを活用した教育プログラムの評価が高く、まとめてご利用していただける顧客もいます。クロスセルでも売上が伸びているため、SaaS企業は一般的に一つの製品で事業を展開する会社が多い中、当社も既に複数の製品を開発できているため、今回の投資家のみなさんの評価にもつながったと考えています。

SansanのBillOneなどがわかりやすい競合イメージですが、どのように考えていますか

福島:日本のSaaSマーケットはまだ普及率が低い段階ですから競合相手は、作業×エクセルなどのアナログワークになると考えています。実際に、私たちの製品を使用しているほとんどの顧客は、アナログな作業環境でシステムを事前に導入していなかったような方が多いのです。なので、既存のSaaS企業と競合しているというよりは、新しいマーケットを開拓できていると考えています。

バクラク躍進の理由をどう分析している

福島:私たちのサービスがこれらの業務を本当に簡単にしてくれるからです。背後には、このような法人支出業務といった膨大なアナログ業務があります。既存のシステムを導入しても、入力対象はほんの少ししか減っていないため、特に改善されていませんでした。

しかし、私たちは、そのような業務を簡単にするために、何もする必要がなく、チェックするだけでいいという体験を(AIを活用して)提供することに成功したんです。これによりお客様が「システムを導入しても、面倒くさくなるだけ」と考えていた感覚が変わり、紙よりもこちらの方が優れているという認識が広がったんです。

AI-OCRやその周辺技術の開発力が今回の結果につながった。福島さんはそもそも大学時代に研究していた機械学習・ディープラーニングの分野から着想してあのGunosyを作った。今後、これらの技術がキーとなるのは間違いないが、関連する企業の買収なども含めどのような戦略を立てる

福島:基本的には自社で開発しているため、僕ら自身が(改善対象となる)「業務」と繋がっていることが大切だと考えています。また、ここでデータが集まっていることが、強みの一つです。そのため、基本的にはチューニングについては内製化し、現在はエンジニアチームの中でMLエンジニアが最も比率として多い状況です。当然、私自身もそのバックグラウンドを持っているので、外部のものを使用するよりも、私たちの作ったものを使った方が圧倒的に精度が高くなるという現実があります。

もちろん、良いものがあればフラットに検討しますが、あえて外部に委託してコストが高く、精度も低くなってしまうものを調達する意味はあまりないと思います。

少し話は脱線するが現在、大いに盛り上がっているGPT-3、ChatGPTの存在をどう見ている?

福島:最初の大規模事前学習モデルの具体的なアプリケーションとして、ChatGPTが登場したことから、様々なものがこれに刺激されて登場するんじゃないでしょうか。確かに普通に業務で使われたり、例えば広告のクリエイティブな部分を考えたり、文章を書くときに最初のインプットとして使われたり、要約するときに使われるといった場面では、チャットGPTを活用することで生産性が向上し、効率的に作業を進めることができるようになるでしょう。

将来的には、大規模な事前学習モデルをファインチューニングすることで、様々なことが可能になるため、これに刺激を受けた様々なサービスがプロダクトに組み込まれていく時代が訪れるかもしれません。ChatGPTIはディープラーニングにおける「アルファ碁」のような存在で、このような大きな変化の方がインパクト大きいですね。

ありがとうございました。

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