「Okinawa Startup Program」がデモデイを開催、蝶豆ビジネスからレンタカーのGDSまで県内外の10社が参加

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Image credit: Masaru Ikeda

琉球銀行(東証:8399)、沖縄タイムス、沖縄セルラー(東証:9436)、沖縄電力(東証:9511)、日本トランスオーシャン航空(JTA)、大同火災、JTB 沖縄、琉球放送(RBC)の8社は25日、沖縄県恩納村の沖縄科学技術大学院大学(OIST)で「Okinawa Startup Program」のデモデイを開催した。このプログラムは7年前に琉球銀行が単独で運営を開始、2回目からは主催者に沖縄タイムスが、その後、沖縄セルラー、沖縄電力、JTA、大同火災、JTB 沖縄、RBC が加わった。

このプログラムには例年、沖縄県内外はもとより、近接する台湾から日本市場進出を試みるスタートアップが参加してきた。参加スタートアップのソーシングにあたっては、STARTUP Lab LagoonFROGSアントレプレナーシップラボ沖縄の各起業家支援機関に加え、台湾政府の工業技術研究院(ITRI)傘下のスタートアップ支援組織「Taiwan Tech Arena(TTA)」が協力している。

Okinawa Startup Program の過去のプログラムに採択されたスタートアップ60社(前バッチまで)のうち、人材管理クラウド開発のサイダス、ソーシャル EC プラットフォーム「temite(テミテ)」を運営する EC-GAIN、貨物車両と荷主をつなぐマッチングプラットフォーム「PickGo(ピックゴー)」を運営する CBcloud、沖縄発の運転代行マッチングプラットフォーム「AIRCLE(エアクル)」を運営する Alpaca.Lab は、琉球銀行の「BOR ベンチャーファンド」から、それぞれ資金調達している。

冒頭挨拶する琉球銀行頭取の川上康氏
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また、これまでに採択されたスタートアップでは、マッシグラが沖縄タイムスと共同出資でマッシグラ沖縄タイムスを設立し、沖縄県下5ヶ所でシェアオフィス/コワーキングスペース「howlive」を展開している。幹細胞の大量培養技術を使った再生医療スタートアップのフルステム、前出の CBcloud は沖縄タイムスを含む複数の企業から資金調達に成功した。沖縄ツーリスト(OTS)からスピンオフした OTS MICE MANAGEMENT は、琉球放送と資本業務提携した。

なお、琉球銀行は2018年に2億円規模で「BOR ベンチャーファンド」の1号ファンドを組成していたが、スタートアップ9社への出資を行い、このファンドからの出資が完了したことを受けて、一昨日、2号ファンドの組成を発表した。ファンドの規模は1号の時と同じく2億円。チケットサイズや出資先社数も変わらずで、出資先の一部は Okinawa Startup Program の採択チームが選ばれると見られる。沖縄のスタートアップエコシステムをめぐっては、昨年末、沖縄県内外の45団体がコンソーシアムを立ち上げている

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今回の7回目のバッチには合計10チームが参加。内訳を見てみると、採択チーム7チーム、東京からの招聘チーム1チーム、TTA の推薦で台湾スタートアップ2社が参加した。以下に参加全チームの発表内容を紹介する。

muser by BEAMING

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世界的に見ても音楽市場が大幅に拡大した K-POP だが、J-POP と K-POP の音楽市場規模の差分は、そのままファンダムの有無から生じたものだという。ファンダムとは、「推し活」を組織的に起こすファン集団のことで、アーティスト vs. ファンという関係性を超えて、一心同体で成長していこうとするムーブメントに繋がっている。アーティストをマネジメントする事務所はアクティブなファンダムを持つことを望むが、自走的に活動する存在であるファンダムとの関係性を事務所が自力で開発・運営するのは難しい。

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BEAMING は2015年、自身も元ミュージシャンで、クリエイタービジネスに長らく携わってきた次呂久博幸氏により創業。ファンダムの立ち上げでカギとなるのは柔軟な権利運用だ。BEAMING ではアーティストの所属事務所が管理するアーティストに関する権利の一部を預かり、ファンによるアーティストコンテンツの二次創作、ファンによるライブ企画や制作、クラウドファンディング、グッズ制作・販売などファンダム経済圏を拡大を促し、得られた売上から事務所やアーティストに利益の一部を還元する。

ManaCam by FutuRocket

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FutuRocket は、各種 IoT 機器の開発及び製造を手掛けるスタートアップだ。WiFi 設定だけで利用人数を自動集計するエッジ AI カメラ「ManaCam(マナカム)」を開発している。コロナ禍後の新しい働き方への対応が求められる不動産事業者などに需要が大きいことがわかってきたという。ManaCam の特徴は、工事が不要で電球ソケットでも天井などに設置が可能で、ソフト開発なしで利用できサポートも提供する。本体価格を1.1万円(税込)、月額利用料990円(税込)と価格を抑えた。

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創業者で代表の美谷宏海氏によれば、企業などで現場担当者が「試しにちょっと使ってみたい」という動機から、社内調整したり稟議を回したりせずに採用できるよう価格を抑えたとのこと。この種のデバイスは価格が100米ドルを切ると、それまでには想像できなかったような新しい利用が始まることがわかっており、同社はそれを期待しているという。Fukuoka Growth Next に15台、九州電力会議室に27台導入済。沖縄では大同火災に3台導入済で、今後、JTB 沖縄に沖縄のバス停への設置を検討している。

バタフライピー研究所

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バタフライピーはマメ科の植物で、日本名で「チョウマメ(蝶豆)」とも呼ばれている。生育性が優れているため、近年、無農薬栽培や農業における雇用創出にも期待が高まっている。バタフライピー研究所は、このバタフライピーを使った事業開発を行っており、同社によれば、国内で初めて大量栽培する技術を確立したという。現在、沖縄県内を中心に農家に委託する形で年間5トンの収穫を上げており、バタフライピーに関して、30事業者が加盟する産業推進団体も設立した。

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同社が注目するのは、ヘルスケア、染料および顔料、サステナビリティの3つの領域だ。バタフライピーには、通常のブルーベリーの10倍量のアントシアニンが含まれているそうで、身体の抗酸化機能向上や眼精疲労の回復への効能が期待される。また、天然の青色色素が抽出できるので、合成着色料に頼らず、身体に優しく環境負荷の少ない染料や顔料に使える。また、炭素貯留機能を持つこと、根にある根粒菌が土地改良機能を持つことなどから、アグリテックや環境テック分野のアプローチでも期待できるという。

Seekplace by ハングリー

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ミャンマーに10年間駐在していた代表は、タイに60回以上旅行した経験を持つが、次第に家族を伴って旅するようになり、オフピーク割引を受けられるレストランアプリ(Chope か Eatigo と推察される)を使うようになった。コロナ禍で消費者の行動変容が生まれ、ハングリーによれば、日本でも消費者の9割は、飲食店を訪れるのに際しピークアワーを外すことに抵抗が無いことがわかったという。一方で、レビュー投稿が中立的か信用できず、掲載料の高さから、情報サイトへの掲出を取りやめる飲食店も増えている。

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そこでハングリーでは、ピークアワーを外して飲食店を訪問することで割引を得られるアプリ「Seekplace」の開発を計画している。アプリには、飲食店が設定した時間帯と割引率が一覧され、飲食店は掲載料無料で、送客でき売上が立った場合にのみ手数料を徴収する完全成功報酬制を採用。店から半径200m以内にいる会員にはプッシュ通知できる機能も実装する予定だ。時間に余裕のあるリアイア層、予算が限られる若年層、日本のグルメアプリが使いにくい外国人旅行客をターゲットにする。2023年9月のローンチが目標。

Wind XO by PerFashionTech/高智美科技

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PerFashionTech は、風力発電グリッド、電力貯蔵用パワーステーション、インテリジェント監視・制御用クラウドプラットフォーム、バッテリー交換用パワーステーションなどで構成される、電力供給ソリューションを開発している。こうしたソリューションには一定の場所の確保が求められるが、PerFashionTech のそれは小型であるため、陸上や海上などのさまざまな場所に配置できるのが特徴だ、スマートシティの電力が必須だが、クリーン電源により、電力の地産地消を実現することをビジョンに掲げる。

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発電のための設備があらゆる場所に配置できることから、G2G、B2B、G2B、B2G など、さまざまな組織同士でのエネルギー取引も可能になる。また、設備が WiFi や 5G のスモールネットワークの一部になったり、街中での広告を配置する拠点になったり、照明として使えたりすることから、スマートシティ実現で重要な位置を占める存在になれるという。2023年中に、台湾、日本、アメリカでのサービス運用開始を検討している。

KAFLIX CLOUD

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OTA(オンライン旅行代理店)から予約する場合、ホテルは部屋の種類やサイズまで指定できる、航空機に至っては自分の座る席まで指定できる。しかし、レンタカーに限っては、サイズは指定できても車種までを指定することは難しい。ホテルや航空会社は、OTA ⇄ GDS(Global Distribution System)⇄ サイトコントローラーや在庫管理・予約管理システムと接続しているのに対し、レンタカー会社の多くでは、GDS に相当する部分がなく、人的にメールなどから自社システムへ転機する手順が取られているためだ。

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KAFLIX CLOUD はレンタカー会社向けの GDS を開発し、レンタカー業界の DX の加速を目論む。業界の人手不足解消を目指す観点から、店舗での予約確認・本人確認から車両貸出までの一連の受付作業を自動化できるキオスクも開発する。また、将来的には、車のキーが無くてもスマートフォン操作で車を開錠できるキーレス運用、OBD デバイスを使ったビッグデータ収集、車リターン時の確認を自動化するカースキャニングなどへの進出も計画している。同社は昨年、リゾテックエキスポで展示部門のグランプリを獲得した。

SMART TRAVELER by CHKiT

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旅行中、日が経つにつれ増えてくる荷物が汚れものだ。スーツケースの中で嵩張り、旅先で洗濯するのも煩わしい。「SMART TRAVELER」は、旅先で汚れた衣類を現地のクリーニング店に預け、洗濯済の衣類が自宅で受け取れるスーツケースの中が空く分、家に持って帰るお土産が増えたと答えたユーザは83%に上ったという。仮に、沖縄を訪れた旅行者が SMART TRAVELER を使ってスーツケースが空いた分、1人あたり1,000円のお土産を買って帰ったとすれば、61億円分の経済効果が見込めるという。

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クリーニング店にとっては、新たな設備投資やマーケティング努力をしなくても、新規チャネルの顧客層を取り込めるメリットがある。CHKiT では今後、航空会社などと組んで、訪日客向けに帰国便の空港で洗濯済の衣類を手渡せたり、海外旅行から帰国する日本人客向けに訪問先出発空港で汚れた衣類を預けたりすることができたりするサービスも開発する考えだ。受託手荷物の延長で取扱が可能ではないかとしている。現在、沖縄県内のホテル数施設、国内主要空港などで取り扱っている。

想いホルダー.com

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想いホルダー.com は、不要になった段ボールのアップサイクルと、QR コードでの情報の受け渡しを得意としない人々への代替情報伝達手段の提供、そして、障がい者就労支援情報を行う那覇の北嶺学園の人々の力を掛け合わせたプロダクトを開発した。美しくデザインされたホルダーの中に、NFC チップが内蔵されているため、スマートフォンをかざすだけで、情報を受け取ることができる。

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ペットの首輪につけて迷子になってしまった場合の登録情報の確認、認知症の高齢者が徘徊防止グッズとして身につけ、身元不明者が保護された際には身元確認の手段として活かすこともできる。ビジネスシーンやファッションアイテムとしての利用拡大も期待。現在はオンライン販売でいずれのタイプも、送料・税込で1つあたり1,400円で販売されている。

Ananhya

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動物の皮由来のレザー製品は、水やエサを与え動物を育てるプロセスを考えると、製造単位量当たりの環境負荷は大きい。製品化する過程では、違法労働をはじめとした人権問題など課題も多く、こうした素材の採用中止を決めた世界的ブランドも増えつつある。素材の生産地と加工地が離れていることもあり、物流マイレージという点でも改善が求められるところだ。

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Ananhya は、沖縄の環境特性を活用し、黒糖や使用済の茶葉を使いセルロースを主成分としたエシカルレザー素材を開発する。世界には、植物由来のレザーとして、りんごレザー、サボテンレザー、きのこレザーなどが存在するが、一部を除き石油由来樹脂が含まれる。Ananhya では、バクテリアを使って完全植物由来のエシカルレザーを開発する。3月には伊江島で小規模な工場が稼働する予定だ。

A Good Intention by AGAI/賦智行雲科技(台湾からオンライン参加)

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睡眠時無呼吸症候群(SAS)を治療法は、大きく3つに大別される。持続陽圧呼吸療法(CPAP)を使ったもの、外科手術によって気道を広げるもの、そして、マウスピースによって歯並びや顎の位置を調節し、症状の改善を促そうとするものだ。治療期間が長期に及ぶ、再手術を要する確率が高い、などの理由から、マウスピースによる治療を選ぶ人は全体の20%ほどに上る。

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マウスピースによる治療は歯科医が担当するが、この方法では、治療効果が歯科医個人個人の経験に大きく依存するという。A Good Intention では、このマウスピースの製作過程に AI を導入、歯科医の属人的な経験に依存する部分を下げることで、治療効果がの向上が期待できるという。治療期間は1年〜1年半、費用も2,000米ドルほどと手頃なものなっている。

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