デバイスドライバの発想で分散型エネルギー源の接続問題を解決、EX4Energyが東大IPCから1億円をシード調達

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Image credit: EX4Energy

ある自動車メーカーの EV の TVCM では、クルマのオーナーの設定である女性が「環境にいいことをしているっていう実感がある」と自慢げに話すのだが、この TVCM を見るたびに違和感を覚えることがある。確かに、クルマを走らせる際の排気ガスは出ないので、街の空気を汚すこともなく、呼吸器疾患に悩む人々にとっては朗報だ。しかし、この電力の源——発電の際には往々にして、石油・ガス・石炭といった化石由来燃料が使われていて、地球温暖化の根本的解決には至っていない。

ここからわかるのは、脱炭素化には、エネルギーを消費するポイントで動力を電化するだけでなく、発電時のエネルギー源もサステナブルなものにする必要があるということだ。サステナブルな発電——現在では、主に太陽光発電や風力発電など——は、大規模を表す言葉を冠したメガソーラーでさえ、一拠点あたりの発電規模は、火力発電所や原子力発電所の発電機1基に遠く及ばない。これまでは拠点で集中発電→需要家へ配電が効率的とされたが、今後は、電力の地産地消、分散型電源(DER)が増えるとみられるのには、そんな背景がある。

DER の普及には幸か不幸か、卒 FIT 問題も追い討ちをかけている。個人が住居などで太陽光発電したで電力を売れるようになったのは2009年で、それから10年間は電力会社の需要に関係なく一定価格で電力を買い取る制度(FIT)が運用されてきたが、その制度の適用を受けられなくなる卒業組が増えてきたのだ。彼らは電力会社に安値で売電することを選ばず、大容量のバッテリを太陽電池に接続して設置することで、昼夜や天候の影響をあまり受けず、発電した電力を貯めて自家使用するようになってきた。

集中型電源から DER へと移行する中で、業界はさまざまな意味で過渡期だ。発電所と言えば、これは電力会社一社の営業管内でせいぜい数十カ所程度、発電機の数で見ても数百基程度だったのが、分散型電源へと置き換わることで、それが数十万、数百万といった拠点数になる。電力の管理はエネルギーの流れそのものよりも、そのエネルギーの情報を集め、必要とされるところに適切に届ける役割が増すため、市場には新たなプレーヤーが生まれてくる。彼らは総称して、アグリゲータと呼ばれている。

アグリゲータ事業者の例
Image credit: EX4Energy

太陽光発電や蓄電池、電気自動車の充電器などの DER を遠隔で監視したり制御したりするためには、アグリゲータの監視・制御システムに接続する必要があるが、アグリゲータのシステムや各メーカーの製品は、それぞれ独自のインターフェイスやプロトコルが使われているため相互に接続ができないという課題を抱えている。日本に電力というものが初めて入ってきた明治時代の文明開化の頃、街中に零細電力会社が乱立し、電圧や直流か交流かもバラバラだった頃を彷彿させるカオスだ。

EX4Energy の創業者で CEO の伊藤剛氏によれば、通信の分野では、相互にインタラクションができることが前提になるため、異業種・異メーカーのデバイスであっても、国際的な標準化団体ができて、そこの作った業界標準に合わせようというモチベーションが働く。昔は電話のモジュラジャックの形は国によって違ったが、今では、世界中どこの国に行っても、ケータイや Wi-Fi がそのまま繋がるのは好例だ。

一方、エネルギーの分野の場合は、こうはいかない。影響範囲が通信とは比べ物にならないほど大きかったり、標準に沿うことで技術的優位性をトレードオフされてしまうことを嫌うメーカーが自社仕様を優先したりすることが原因だ。論より証拠なことに、通信の場合と違って、我々は海外渡航する際に、国ごとに違う電源コンセントのアダプタを持っていくことを余儀なくされる。電源周波数に至っては、日本国内でさえ統一されていない(日常的に不便はないものの、東日本〜西日本間で電力融通する際に課題になっている)。

つまり、エネルギーの世界においては、標準化は極めて難しい問題をはらんでいるということだ。では、DER をアグリゲータのシステムに繋ぐことは諦めざるを得ないのか。この問題に立ち向かおうと生まれたのが EX4Energy だ。異メーカーのデバイスであっても、さまざまなメーカーのパソコンにつながる仕組み——そう、プリンタなどを接続する際にはデバイスドライバをインストールする必要があるが、このドライバの概念を DER とアグリゲータの世界に持ち込んだのだ。

Public Power Hub の仕組み
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EX4Energy は2022年6月に創業。デバイスドライバの概念を元に、クラウド上に異メーカーの機器と接続しデータをやり取りできる仕組み「Public Power HUB」を構築した。アグリゲータに対しては、各社の制御システムと個々のエネルギー機器を繋ぐ相互接続サービスを電気通信事業者として提供することで、電気通信事業法の適用を受け、意図的に自らに「通信の秘密の義務」を負わせるようにした。これにより、アグリゲータは自社データが Public Power Hub を通じて他社に漏洩する不安を払拭できる。

Public Power Hub のような仕組みを、アグリゲータ各社が自前で開発する可能性も無いわけではない。ただ、サービスはクラウド上で動いており(サーバサイド)、また、さまざまな電源デバイスと接続するためには、組み込み型エンジニアリングを中心としたハードウェアの知見と、データを適切に取得し処理するためのソフトウェアやネットワークの知見が必要になるため、これらを兼ね備えた人材を集め、アグリゲータ各社が仕組みを内製するのはハードルが高い。EX4Energy は、ここに商機があると見ている。

EX4Energy は22日、シードラウンドで東京大学協創プラットフォーム開発(東大 IPC)から1億円を調達したと明らかにした。現在、チームは、環境エネルギー分野のコンサルティングに従事してきた伊藤剛氏(代表取締役)、イー・アクセスやイーモバイル(共に現在のワイモバイル)で CTO を務めた小畑至弘氏(取締役)、KPMG JAPAN を経て環境エネルギー分野に造詣の深い関口美奈氏(取締役)で構成されている。同社では今後、Public Power HUB の機能強化や営業体制強化などに向け、人材採用を加速させるとしている。

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