メカニカル仏にエンジニアのレジュメ自動生成ーーChatGPTで激変するネットサービスたち(後半)

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(前回からのつづき)前半ではChatGPTが3月2日に公開したAPIをめぐり、ここ数日で日本・世界で起こっている動きを軽くまとめておきました。後半では具体的にサービスを公開したスタートアップのみなさんのお話をお届けします。まずはエンジニアのスキル可視化「Findy」シリーズを手がけるファインディさんから。

昨日公開されたエンジニア向けレジュメをワンクリックで自動生成するジェネレーターは、Twitterトレンドにも入るなど盛り上がりを見せています。ちなみにファインディ代表取締役、山田裕一朗さんのレジュメはこんな感じ。輝くマルチプレーヤーだそうです。

参考記事:2025年までに売上100億円へ「Findy」が語るエンジニア採用の秘訣とは

同社に聞いたところ、Findyの登録情報、Findyと連携済みのアカウント、その他経歴がわかるテキストを入力をベースにキャリアまとめが自動生成されるそうです。こういったジェネレーター系はTwitterでもよくあったのでPRネタとしても秀逸なのですが、何より文章が使えるレベルなんですよね。実際、ソースは自身の開発履歴なのでそのままFindyの可視化というコンセプトがコンテンツになった感じがいいです。

キャッチコピーで面白く味付けしているものの、一緒に働く人を探す上でよいきっかけになりそうな印象でした。これは使える。

メカニカル仏にお悩み相談

では次。エンジニアの紹介に続いては仏です。HOTOKE AIはお悩み相談をメカニカル仏がやさしく丁寧に回答してくれるもので、ウェブ・LINE両方に対応しています。家入一真さんの個人プロジェクトなんですが、昨日7,000件ぐらいだった質問投稿数がすでに1万件近くに上っています。BASEを立ち上げた時、2週間ぐらいで5,000ショップが登録されて「スゲえ」ってなっていたのですが、それを思い出す伸びです。

ちょうど、メッセンジャーで家入さんを捕まえたので聞いてみました。ちなみにこれはボットではなく本人です。多分。

筆者:これは誰が作っているのですか?

家入:僕一人で作ってます、元々GPT-3を使ったクラファンジェネレーターを個人で作ってて、それ以外にもAIカウンセリングのサービスを作ってたんです。ただこれは精度の問題で結局公開はしてなくて、ちょうどGPT-3.5(Turbo)が出たのでこれ幸いと2日くらいで仕上げました。

筆者:なぜメカニカルにしたのですか?

家入:僕自身が浄土真宗で得度(出家)してることもあり、仏教や浄土真宗の教えは哲学としてもっとたくさんの方に知ってほしいと思ってたんだけど、それだけだと宗教チックになってしまうので、そこに心理学やコーチングの要素を入れて仕上げました。イメージとしては、心理学とコーチングを学んだブッダです。

筆者:どのような人たちが使ってますか?

出してから数日で6,000件くらい悩み相談に答えてるんだけど、twitterなどの反応を見てると、友人などの身近な人はもとより、カウンセラーなども含めて他者に相談することにそもそも抵抗がある方がたくさんいるんだなと。

筆者:メカニカル仏の価値はどのあたりにありました

わざわざ他者に勇気を出して相談するほどでもないことや、逆に他者に相談するには憚られる様な重い相談も含めて、機械だからこそ気軽にできて、むしろその気軽さからそこに人肌を感じるという逆説的な現象が起きているような気がする。

仏教の教えによる心に寄り添う観点、心理学からの科学的な心の分析・言語化・認知、コーチングによるこれからの行動の助言など、さまざまな観点から答えてくれるので、現実に人に相談した時の属人的な偏見やバイアスから解放された、優しいアドバイスが可能になっています。

筆者:今後はどうしますか

家入:今後はここを入り口として、相談をもっと気軽にしていくというカルチャーを作っていきたいです!仏の民主化!

確か過去にアンチ家入さん向けのサービスを作ったよな・・記事書いた覚えあるけど・・・という感じでBingに聞いてみました。こんな感じで教えてくれます。

家入さんは本気か冗談か分からないギリギリのラインでサービスを作る天才で、過去にも実験的なサービス開発プロジェクト「Liverty」を立ち上げて色々な実験を繰り返していたのを思い出します。ちなみに記憶が薄れていたのでBing-ChatGPTにそのことを聞いてみたら懐かしい回答を教えてくれました。ChatGPTすごい。

なお、このLivertyは単なるギャグでは終わらず、のちに上場を果たすBASEを生み出しています。

開始3日で20万人が登録「AIチャットくん」

極めてナチュラルに嘘を教える場合があるのがChatGPTの落とし穴

では最後。Twitterでも結構話題になっていましたね。piconさんのLINE連携ChatGPT、AIチャットくんです。毎日5通まで無料で、月額680円のプレミアムプランに入ると無制限になるシンプルなサービスです。ChatGPTのサイトにいかなくても普段使い慣れているLINEからお友達登録するだけでChatGPTが利用できるようになります。

私も使ってみました。

非常にありそうな内容でそのままこれは奇跡的な感じでツイートしたのですが、その後、Twitter住人の方から「ありそうだけど多分この店は存在しない」と言われて我に返りました。はい、このラーメン屋「麺屋はやし」はありません。こういうケースではBing-ChatGPTはまだ検索アシスタントなので、ソースを示してくれます。大体が食べログかRettyなどなのですが、個人ブログなど普段は気づかない情報も引っ張ってくれるので気づきが多いです。

さておき、piconの代表取締役、山口翔誠(しょせまる)さんと共同創業者でエンジニア、このAIチャットくんを数日で世に送り出した渋谷幸人さんのお二人にお話を聞きました。

筆者:piconさんはそもそも何をやってる会社さんですか?

pi:AIチャットくんに聞いてみますね

株式会社piconは、日本の東京都渋谷区に本社を置く、企業向けデジタルマーケティング事業を展開する企業です。主に、Webサイト制作・Webマーケティングをはじめとしたネットワークビジネス領域において、幅広く事業を展開しています。また、AI技術の活用にも注力しており、自社製品「aiChat(エーアイチャット)」の提供や、AI・機械学習のコンサルティングサービスも提供しています。創業は2011年で、現在はシンガポール・香港・中国・タイ・フィリピンなどアジアの複数の国に拠点を設けています。

筆者:この会社紹介は本当ですか?

pi:ごめんなさい。本当は渋谷区に本社のC向けアプリを自社開発したり、アプリの受託開発を行うスタートアップです。これまでには、YouTubeを見ながら通話できるアプリ – Talkroomとか友達と予定を共有できるカレンダー – FRYDAYS、eSportsの大会を検索・主催できるアプリ – プライザなどのアプリをリリースしてきました。

本当の

筆者:ChatGPTあるあるですね・・・。私も銀座の架空のラーメン屋、しばらく信じて行こうとしていました。さて、今回のLINE連携AIチャットくんはどうして作ったんですか?

pi:元々、ChatGPTを含む生成AIの魅力を感じていました。ただし、既存のサービスは英語のものや難しいものが多く、一部のリテラシーの高い人のみが使えるツールとなっており、マスアダプションに課題を感じていたんです。今回、ChatGPTのAPIが公開され(これまでより性能が高く、速度の速いもの)、これならみんなが普段使っているLINEと繋げることで、これまで使ってなかった層にも使ってもらえるのではないかと思い、開発に取り組んだのが経緯です。実際にリリースしてみて、意外だったのが周りの友達もAIチャットくんではじめてChatGPTを使ったという人も多くて、驚きでした!

筆者:Twitterで反響大きかったですよね。途中でサーバー代がやばいと発言されてましたけど、どういう費用がかかるんですか?

pi:かかってくる費用としては、Open AIのAPI費用、LINE MessageAPIの利用料、サーバー費用があります。プレミアムプランを作ったので、まだまだ改善が必要ですが課金やその先の展開でまかなうことができるのでは?と思い、とにかく今は見切り発車で突っ走ってます。

筆者:開発にかかった日数は?

pi:半日程度です。ChatGPTに大枠のコードを書いてもらったので、大幅に短縮できた感じがします。自分でググって作って行く形だと、どこに情報があるのか?を探すコストと、その情報を自分用に加工するコストがあるのですが、ChatGPTだと一回の質問でその2つを解消出来て、とてもラクです。ただ、エラーも多いので非エンジニアだとかなり苦労するだろうなという印象はありました。

筆者:先にも挙げた通り、これを検索の上位互換のように勘違いして使うと、私のように架空のラーメン屋情報を掴まされて憤る人が出てきそうです。かといって過去に大量に出回ったジョーク系のジェネレーターとは一線を画すものです。注意すべき点をどう考えますか?

pi:前提として、ChatGPTは過去のインターネットの情報をもとに回答を用意しています。故に、ChatGPTは最新のことを知らなかったり、事実でないことを話すこともあります。全ての回答を間に受けず、情報の取捨選択をすることが必要です。一方、文章を作成したり、作業を効率化する使い方においては、ChatGPTは非常に優秀です。今後はそういった方向で使ってもらえるように、サービスも工夫していきたいと思います。

筆者:こういう誤情報が出ないように、各サービスでみなさんそれぞれの事業にあったチューニングをされるんですよね。AIチャットくんの場合は汎用的な使い方になるのでどういう改善をするんですか?

pi:いまのところ、自分たちにできるのは、使い方の注意喚起と、ユースケースを絞ることだと思います。具体的には、医療情報などの緊急度や重要度の高いメッセージを検知して、警告文を添付したり、返答自体をしないようにするなどができると考えています。ここに関してはまだまだ議論が巻き起こっているところだと思うので、しっかりと考えて対応していきます。

筆者:せっかくの反響ですので、今後どのように繋げていきますか?

pi:実際に主婦の方や小学生の子がAIチャットくんを使いこなしているというコメントをいただき、これは世界が変わりそうだなと感じています。日常の雑務を減らしたり、悩み事を解決してくれるアシスタントとして、もっと生活に溶け込んでいく未来が作れるのではないかと感じております。

一方、最近IT界隈では認知度が上がってきた生成系AIは、まだまだキャズムを越えていないのだなと感じました。piconの強みとしては、わかりやすくて馴染みやすいプロダクトを作ることだと思っています。AIをより多くの人に届けるというテーマで、AIチャットくんに限らず挑戦していきたいと考えています。

ありがとうございます!

ーー繰り返しになるのですが、このChatGPTの凄さは検索結果ではなく、本当に人間と話しているかのようなナチュラルなインターフェースにあります。2010年代、インターネットの世界はPCからモバイルに移行し、iPhoneという衝撃的なデバイスの登場で一気にスマホ・シフトが進みました。この時もAWSなどのクラウド技術、TwitterやFacebookをはじめとするソーシャルメディアの成長で世の中が一気に変わったのを記憶しています。

次のパラダイムシフトで重要と言われているのがメタバースなどの仮想空間、ブロックチェーン技術、そしてAIでした。メタバースやクリプト関連は眼に見える技術なので話題にしやすかった一方、AIは全ての下支えとなるやや地味な印象で、じわじわとくるものの、これといった汎用的な存在はなかったように思います。

今回は人間が使う言語ですので、ようやくマシンと人が本当に会話できるようになる、その入り口が大きく広がったと言えるでしょう。MicrosoftはここぞとばかりにOpenAI連携を強めるでしょうし、おそらくGoogleも黙っていないはずです。

世界が動き出しそうな気がしてきました。

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