写真をブロックチェーンに記録、フェイクニュース拡散を抑制する「Numbers Protocol」

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Numbers Protocol は、第15回 SXSW Pitch の Metaverse および Web3 部門で731名の応募者の中から優勝した。
Image credit: Numbers Protocol

ChatGPT に代表されるジェネレーティブ AI 技術がソーシャルメディアで大きな反響を呼ぶ中、AI がフェイクニュースを作るという論争も起きている。AI が生成した作品が、人間のアーティストによるオリジナル作品を参照していることが判明し、所有権をめぐる論争やバイラルなフェイク画像に発展するケースも増えている。この問題を解決するために登場したのが、ブロックチェーン技術を活用した分散型ネットワーク「Numbers Protocol」だ。2019年に設立された Numbers Protocol は、オンライン空間におけるデジタルメディアファイルの出所を保証する。

AI アートジェネレーターを構築する場合、モデルを訓練するためにデータを与える必要がある。我々は、AI モデルが開発のためにクリーンで認可されたデータを使用できるように、それらのデジタル資産を登録する最初のブロックチェーンベースのカメラアプリを作成する。(Numbers Protocol 共同創業者 Sofia Yan 氏)

Sofia Yan 氏

Numbers Protocolの主要製品「Capture」は、デジタル資産に所有権、作成証明書、資産履歴、さらにコンテンツの出所などをラベル付けする。このように、そのブロックチェーン上の画像や文書は、詳細な情報とともにアーカイブされ、オンライン空間における信頼と信用を促進する。

今のところ、一般ユーザが自分のデータの使用許可を与えるための作成証明書のようなプロトコルはない。(Yan 氏)

Numbers Protocol は、関連組織と連携して開発を進めることを求めている。Numbers Protocol は、今後のロードマップとして、より多くの AI 企業とクリエイターコミュニティを結び付け、健全で収益性の高いジェネレーティブ AI エコシステムを実現することを目指している。同社は、AI 企業に対して、オリジナルクリエイターがクレジットしたデジタルアセットのデータベースを提供することができる。そして、ジェネレーティブ AI は、出典が明記されたデータを利用することで、利益を得ることができるのだ。

海外でも注目を集める Numbers Protocol は、第15回 SXSW Pitch で731人の応募者の中から Metaverse および Web3 部門で最優秀賞を受賞した。SXSW Pitch は、アメリカ・オースティンで開催される、アーリーステージのスタートアップや新技術を紹介する年次コンテストで、投資家パネルやライブオーディエンスにピッチする機会を提供するものだ。

フェイクニュース対策でロイターと協業

Numbers Protocol の「Capture」は、時空間トラッキング可能な状態での写真撮影を実現する。
Image credit: Numbers Protocol

レピュテーション画像データベースの構築を進めるを Numbers Protocol の Capture は、時空間追跡を伴う写真撮影を可能にする。Capture で写真を撮った後、その写真は自動的にブロックチェーンに登録される。また、撮影したばかりの写真に基づいて NFT をミントすることも可能だ。このプラットフォームは、人間が作成したあらゆる種類のクリエイティビティの証明性を確保する包括的なソリューションを提供する。

2018年以降、Numbers Protocolは、世界約200カ所で600人のフォトジャーナリストを雇用する大手通信社ロイターと協業している。この通信社には、著作権侵害だけでなくフェイクニュースの拡散にも対抗できるよう、写真を認証する需要がある。Numbers Protocol は、アプリをカスタマイズしてカメラと接続し、撮影した写真をアップロードしてアーカイブする。

また、同社はブロックチェーンへのニュースプロジェクトの登録も支援している。例えば、「78 days Creating a Photographic Archive of Trust(78日間——信頼の写真アーカイブを創る)」は、Donald Trump 氏から Joe Biden 氏への大統領移行を記録するために、学術研究センター「Starling Lab」とロイターが制作したものだ。このドキュメントには、Numbers Protocol が提供する新しい画像認証技術や分散型 Web プロトコルが多数使用されている。

Numbers Protocol は、情報社会におけるデータソースの信頼性の重要性が高まる中、さまざまなプロジェクトを通じてその影響力を拡大し続けている。インターネットの荒野にある画像は、法廷での正当な証拠にはならないが、Numbers Protocol は、ロシア軍によるハリコフのウクライナ人学校の破壊容疑に関連する証拠のデジタルメディアの出所を扱うために、Starling Lab を支援した。これらのデータは、国際司法裁判所においてブロックチェーン上に置かれた最初の証拠となった。

また、Numbers Protocol は、雑誌「Rolling Stone」と Starling Lab の協力のもと、セルビア軍による戦争犯罪を調査するフォトジャーナリズム「Arkan’s Tigers – The DJ and the War Crimes(仮訳:アルカンの虎 – DJと戦争犯罪の話)」に参加し、調査中に集められた文書を Numbers Protocol に取り込んで登録した。

Numbers Protocol は、企業との連携以外にも、一般ユーザやアーティストが Capture 上で作品を収益化することを支援する。スマートコントラクトは、販売による収益を自動的に追跡し、分配する。クリエイターと視聴者の間に直接的な関係を作ることで、Web3のクリエイターエコノミーを構築することができるのだ。

データにラベリングするアイデアを育んだデータサイエンティスト達

ディープラーニングとコンピューティングシステムに情熱を傾けるエンジニア集団が、2019年に Numbers Protocol を設立した。
Image credit: Numbers Protocol

Numbers Protocol のアイデアは、共同創業者の前身である DT42 という映像解析に特化した AI スタートアップから生まれた。マンチェスター大学の物理学博士である Tammy Yan(楊琬晴)氏は、同じくデータサイエンティストとして豊富な経験を持つ Bofu Chen(陳伯符)氏とともに DT42 を立ち上げた。

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DT42 の技術は、交差点で車や人の画像を撮影する交通管理システムに適用され、データの利用方法について倫理的な懸念が生じた。この経験から、創業者たちは、個人が自分のデータをよりコントロールし、その利用から利益を得ることができるシステムを開発することになった。

こうして、ディープラーニングとコンピューティングシステムに情熱を注ぐエンジニア集団が、2019年に Numbers Protocol を設立した。Numbers Protocol はブロックチェーン技術を用いることで、個人が自分のデータをコントロールしながら収益化することを可能にした。これは個人データが所有者の同意なしに使用されることが多い時代において特に重要だ。

この先駆的なアイデアは、Race Capital のジェネラルパートナー Phil Chen 氏、YouTube の共同創業者 Steve Chen 氏、Twitchの共同創業者 Kevin Lin(林士斌)氏といった著名なエンジェル投資家から支援を受けた。特に Phil Chen 氏は、より倫理的でエンパワーメントにつながる AI ソリューションを開発するため、アーリーステージで彼らを励ました。

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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