＜4日11時30分更新＞ シリーズ C ラウンドについては、全てエクイティ調達であることが判明したため、本稿初出時のタイトルおよび本文中の「デット調達」とした記述を削除。また、累積調達額（過去ラウンド）にはデットが含まれるため、その旨を追記した。

徳島に拠点を置き、タクシー会社向けの配車 SaaS や配車受電の BPO サービスなどを開発・提供する電脳交通は4日、シリーズ C ラウンドで約12億円を調達したと発表した。このラウンドに参加したのは、JP インベストメント、ENEOS イノベーションパートナーズ、四国旅客鉄道（JR 四国）、沖東交通グループ、三和交通、三菱商事（東証：8058）、第一交通産業、エムケイ、阿波銀行（東証：8388）、徳島大正銀行、いよぎんキャピタル。なお、調達金額には金融機関からのデットが含まれる。

これまでは事業会社からの出資が主だったが、今回ラウンドで初めて VC が参加した。今回参加した投資家のうち、三菱商事、第一交通産業、エムケイ、阿波銀行、徳島大正銀行、いよぎんキャピタルは前回ラウンドに続くフォローオン。今回の調達を受けて、累積調達額はデットを含め約27億円に達した。なお、今回の調達と合わせ、JP インベストメント地域・インパクト投資部担当部⻑の瀬尾萌氏、三菱商事モビリティ事業本部戦略企画室⻑の莊司茂雄氏が社外取締役に就任することが明らかになった（瀬尾氏は現時点で予定）。

電脳交通は2015年12月、代表取締役を務める近藤洋祐氏により創業。現在170名ほどのチームで、現在のデジタル配車サービス（GO や S.RIDE）や受電による配車にも対応できる SaaS をタクシー会社に提供している。タクシー会社が元来使ってきたシステム（それも大手に限られるが）、50年ほど前の要件定義に基づいて作られたオンプレミス型のものが多い。SaaS として提供することで、中小規模の地方のタクシー会社でも容易に導入でき、政府の法制度変更などにも柔軟に対応できる。

近藤氏は、これまでにタクシーの乗務員に従事したり、タクシー会社の経営再建を行ってきたりした経緯から、タクシー会社が求める機能や設計を SaaS の開発に生かすことに成功。その結果、現在、45都道府県のタクシー会社で15,000台ほどのタクシーにシステムが導入されているという。一方、都市部では GO や S.RIDE などスマホを使った配車依頼は増えつつあるものの、全国的にはまだ98％が電話による配車だという。電脳交通では、一部のタクシー会社や地域の連合体に、受電の BPO 業務なども提供を始めた。

今年迎える8期目の着地では、売上が10億円を突破するのは確実。内訳としては、7割が SaaS で3割が配車業務 BPO が占めている。タクシー会社はこれまで、いい乗務員といいクルマがあれば集客できていたが、これからはデジタル戦略が必要。電脳交通の SaaS が導入されることで、タクシー会社の売上は確実に底上げされていて、経営に伴走しているからこそ受け入れられていると思う。（近藤氏）

これらの成果は数字にも現れている。チャーンレートは0.4％と低く、B2B 向け SaaS としてはトップクラスの成績だ。導入者数は YoY ベースで200％の伸びを見せているという。タクシー会社の経営者の中には、他の経営者の評価からサービスの導入を検討する人が多いことから、電脳交通ではすでにシステムを導入したタクシー会社の経営者をアンバサダーに認定、彼らに新たなユーザ獲得に向けた伝道師になってもらう戦略は功を奏しているようだ。

日本には18万台のタクシーが走っており、電脳交通を導入しているタクシー15,000台はその7％に当たる。今回の資金調達を受けて、同社ではこの占有率を35％にまで引き上げ、2025年までにトップシェアを奪取する計画だ（現在トップシェアを持つのは、1954年に事業を開始したデンソーテン）。2年前には都市部の大手タクシー会社向けにエンタープライズ版の開発にも着手している。今回、JR 四国が投資家として参加したことから、電脳交通は、地方における MaaS 開発などでも協業の可能性を模索すると見られる。