AIとIoTでニワトリの健康を管理、養鶏農家の省力化を支援する台湾iCHASE

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左から:CEO の妹の Chang Jia-Rong(張家榕)氏、CEO のKuang-Fu Chang(張光甫)氏、CTO の Huang Li-Wan(黄醴萬)氏
Image credit: iCHASE

養鶏農家は、休みを取るのが難しい。近くの街に行くだけでも、日帰りにせざるを得ない。なぜなら、ニワトリが世話をされるのを待っているから。(iCHASE 創業者兼 CEO の Kuang-Fu Chang=張光甫氏)

ニワトリの世話は、餌やりや後片付けだけではない。ニワトリを捕まえて体重を測り、深夜にニワトリの鳴き声を聞いては健康状態をチェックし、運動習慣を維持させ、野鳥を追い払い、成長を見守るなど、やることは尽きない。しかし、現状では、これらの作業は人手に頼るしかない。

iCHASE は、養鶏場の人件費削減を支援するために、AI によるソリューションを考案した。AI による画像や音の判別技術により、ニワトリの健康管理のお自動化し、養鶏の効率化を図る。

医療工学からスタートした Chang 氏だが、その後、養鶏業にシフトチェンジした。このキャリアチェンジの原動力は何なのだろうか。

農業の魅力

Chang 氏は国立台湾大学の機械工学科を卒業後、Hon Hai Technology Group(鴻海科技集団)で製品設計エンジニアとして勤務した。2021年に iCHASE を設立する以前は、医療材料のスタートアップ2社——3Dシミュレーションを利用し、歯科インプラントの判定を支援する Avansur(安睿捷生医)と、正確な血圧を測定するウエアラブルデバイスを開発する Cardio Ring(美商心環)——に携わった、

Chang 氏は、実家が農機具の会社を経営していることもあり、農業・畜産業に縁がないわけではない。彼は、農業界では反復的なイノベーションはほとんど見られないと指摘する。消費者に受け入れられてから、10年間は安定的に市場に存在し続けることが期待される。また、農業技術は比較的、技術的な障壁が低い。

スマート農業は必然的な流れではあるが、関連する知識や人脈がなければ参入が難しい閉鎖的な市場だ。そのため、競争はあまり激しくない。そこで Chang 氏は、自分の強みを生かそうと考え、妹の Chang Jia-Rong(張家榕)氏と、かつて創業に携わった Cardio Ring 以来の知人だった Huang Li-Wan(黄醴萬)氏(現在 CTO)にチームに加わってもらうことにした。

農業・畜産の中で、iCHASE はなぜ養鶏を選んだのか?

Image credit: iCHASE

Chang 氏らは、すでに多くの外国企業が畜産農家のデジタル変革を支援するスマートテクノロジーを導入しているものの、豚や牛の方が単価が高いことから、その多くが豚や牛の農家に焦点をあてたものであることを発見した。これにはまた、1農場あたりの牛や豚の数が少ないと、製品ソリューションが簡単なものになることとも関係している。

ニワトリ肉は単価は安いが、全体の量はとんでもないことになる。2022年のデータによると、アメリカで一人が年間消費するニワトリ肉の平均量は、豚肉と牛肉を合わせた消費量の2倍以上だった。(Chang 氏)

養鶏農家が持つ市場の大きな可能性に着目した Chang 氏は、ニワトリ肉産業で先行者利益を獲得することを目標に掲げ、突き進んでいった。

AI で作業を軽減

iCHASE は、養鶏農家に向け、革新的なニワトリの世話を革新的なものにする4製品を発売した。

スマート体重計

AI 体重計は、iCHASE の最初の製品だ。ニワトリの体重変化は、その健康状態を直接的に反映する。もし体重の増加が遅くなった場合、それは通常、ニワトリの健康状態が悪いことを意味する。さらに、ニワトリの体重は販売価格にも密接に関係している。ニワトリの平均体重をもとに、農家は利益や収穫のタイミングを計ることができるのだ。

Chang 氏は、現在の計量方法は(全頭検査ではなく、ランダム抽出による)サンプリングに頼っており、非常に時間がかかる作業だと説明する。そのため、養鶏農家では週に一度、ニワトリの体重を測定している。

そのため、3~4人で1日がかりで作業する必要がある。

iCHASE のスマート体重計には、AI 動体検知センサーが搭載されている。ニワトリが体重計に飛び乗ったことを検知すると、総重量を検知したニワトリの数で割って平均体重を自動計算する。

AI カメラがニワトリのジャンプを検知すると、スマート体重計が平均体重を自動計算する。
Image credit: iCHASE

Chang 氏は、一部の養鶏農家でも 3D カメラを使って、ニワトリの身体のふくらみ具合から体重を推定していると付け加えた。しかし、それは不正確である可能性があり、単一の品種にしか適用できない。

これに対し、iCHASE のスマート体重計は、ニワトリの品種に制限が無い。その結果、測定誤差は25g以下となり、現在市販されている競合の秤の4倍の効率で測定できることがわかった。

病気のニワトリの鳴き声を判別

ニワトリは、呼吸器感染症になるとゴロゴロと音を立てる。普通の人間の耳では、病気のゴロゴロと健康な鳴き声の違いを聞き分けることはほぼ不可能だ。経験豊富な養鶏家でなければ、迅速な判断はできない。

ベテラン農家は新人農家を育てようと、新人農家に2カ月ほど鶏舎に寝泊まりすることを求める。しかし、そのノウハウは簡単に身につくものではない。定量的な測定ができないため、最適な戦略とは言えない。

このジレンマに対応すべく、iCHASE は AI 音声認識製品を開発した。ニワトリ1羽の音声記録を自動で取り込み、音声2次元画像に変換する。そして、AI が音の異常を分析し、ニワトリの健康状態を予測する。このツールに後押しされ、養鶏農家はタイミングを逸することなく薬を処方することができるようになった。

iCHASE AI 音声モニタは、病気のニワトリの鳴き声と健康なニワトリの鳴き声を判別する。
Image credit: iCHASE

ニワトリに運動させる

ニワトリの健康維持のため、養鶏農家では定期的に鶏舎に入り、運動するよう促してきた。その際、無反応なニワトリを特定し、さらに異常がないかを確認することができる。

iCHASE は、AI 画像認識とレーザー光線を組み合わせたデバイスを開発した。カメラで運動能力の低いニワトリを検知すると、人間が鶏舎に入っていくようなイメージでレーザー装置を作動させる。同時に、反応しない病気や死んだニワトリを素早く識別することができる。

招かれざる訪問者を追い払う

AI レーザーは、養鶏農家にとって厄介者である、家禽の病気を媒介する野鳥を追い払うのにも使える。以前は、農家がレーザーポインターでこれらの招かれざる訪問者を追い払い、消毒水を噴霧していたが、その殺菌予防効果は非常に限定的だ。

野鳥追払い機は、スマートなレーザーデバイスで開発されている。AI カメラで頻繁に訪れる鳥を分析し、レーザー光を照射して追い払う。AI による検知技術により、鳥が学習し抵抗する力を持つ心配も少なく、平均退治率は80%以上に達している。

AI による検知と追跡で、鳥インフルエンザの拡大を防ぐ。
Image credit: iCHASE

タイ、インドに進出へ

iCHASE のサービスには、2つの価格モデルがある。1つ目のオプションは、客が製品を購入し、3年間追加料金なしでクラウドレコーディングプラットフォームにアクセスできるものだ(月額料金は購入して3年後からに発生する)。もう一つは、製品のインストール、iCHASE プラットフォームへのアクセス、定期的なメンテナンスなどのサービスを含む年会費を支払うプランだ。

現在、台湾の大手食肉メーカーである DaChan Great Wall Group(大成長城)と Charoen Pokphand Group(タイの財閥大手 CP)が iCHASE 製品を導入している。しかし、いつかは台湾国内市場が飽和状態になる日が来る。

また、Big Dutchman や Chore-Time など世界有数の食肉メーカーとも積極的にパートナーシップを結び、M&A の可能性も視野に入れていきたいとして、iCHASE は計画を立てている。

Chang 氏は、デジタルトランスフォーメーションの流れがさまざまな業界を覆っていると考えている。iCHASE がそのチャンスをつかむには、今が絶好のタイミングなのだ。

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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