バイクを箱型にした理由ーーあるスタートアップがCESでイノベーションアワードを受賞するまで【ICOMA・タタメルバイク】

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

ICOMAは折り畳んでデスクの下に駐車できる電動バイク「タタメルバイク」を開発しているスタートアップです。2021年に創業し、変形ロボ「トランスフォーマー」シリーズなどに携わった生駒崇光氏が代表を務めます。

タタメルバイクは、前後8インチホイールの超コンパクトなボディに設計された電動バイク。走行時のサイズは全長1230mmで、折り畳んだ状態では全長700mm弱のコンパクトな「箱型」になるのが特徴です。電動バイクで出力は600W。原付一種のモビリティでありながら、同時にポータブル電源としても使える機能があります。

また、側面のサイドパネルを着脱することで個性的なデザインに変えることができます。現在は商品化に向けて鋭意開発中で、今年1月にラスベガスで開催されたCESではイノベーションアワードを受賞しています。

バイクを「箱型」にした理由

現在バージョン(左)と旧バージョン(右)

タタメルバイクはその名の通り「畳んで」コンパクトに収納できることが特徴の電動バイクです。開発者でICOMA代表取締役の生駒崇光さんは開発のきっかけとして駐車場問題を挙げていました。

バイクって元々は戦後からある 『原付』という、原動機を自転車に取り付けたものだったんです。その頃はみなさん足がなかった時代でしたから、この原付があることによってどこでも移動できるようになり、経済の発展にも寄与したわけです。(ICOMA 生駒崇光氏)

しかし時代が移って公共インフラが発達し、特に首都圏においては「駐車できる場所がない」という問題から、バイクが徐々に使いづらい存在になりつつありました。例えば通勤で会社にバイクを駐車しようとしてもそもそもその場所がなければ使えません。そこで生駒さんは新しいモビリティの形を模索し始めます。

サービス的に今、話をした課題を解決するサービスがすでにいくつかあって、例えばキックボードのシェアリングサービスが広がってきていますよね。とても使いやすくて、その普及自体は新しい層を獲得していていいものだなと思います。(ICOMA 生駒崇光氏)

一方で生駒さんは単なる移動のシェアではなく「自分のものにできる」喜びのようなものも求める人はいるんじゃないかと考えていました。元々、バイクや自動車は移動手段というだけでなく個人のアイデンティティを示す側面もあります。そこで生駒さんは使い勝手のよいモビリティでありながら、自分の所有欲も満たせることにしたのです。

もうちょっとニッチなものを、自分のものにしたいよねって思う人もいると思うんです。タタメルバイクは駐車場がなくても自分の家に置けるという利便性を実現したので、次は自分のものにしたいところを重視しています。例えば側面のパネルを切り替えてデザインを変えたりできるのが、他のサービスとは違う点だと思います。(ICOMA 生駒崇光氏)

そもそもこのユニークな箱型は生駒さんの経歴が生み出したアイデアでした。彼は元々、玩具メーカーのタカラで変形するロボットキャラクター「トランスフォーマー」に携わった経験をきっかけに、ネット家電スタートアップのCerevoやパーソナルロボットを開発するGROOVE Xなどでも経験を積んだ人物です。そんな彼がひとつ、自転車などの折り畳み形式に持っていた不満が「美しさ」にあったようです。

トランスフォーマーというブランドは40年以上にわたって続いているブランドで、そのブランドのノウハウには変形する方法だけでなく、キャラクターをどう体験させるかという部分にもすごくこだわりがあるんです。

一般的な折りたたみ自転車のような機構が残念なのは、折りたたんだ後の形が機械的な塊になってしまうことです。これを見て 『これおしゃれだよね』と言われる人はあまりいないと思います。(ICOMA 生駒崇光氏)

畳んだ後の形が綺麗な四角形になっているーー。たったこれだけのアイデアですが、たとえ家の中に置いておいてもスタイリッシュに見えて邪魔にならない。この「変形」こそ彼が持つ強いこだわりとしてタタメルバイクに込められています。

新しいロボットが世の中にある一般的な形(車)から変形していくことで好感度が生まれるんです。このようなキャラクター性が、デザイン面でも重要だと考えています。もちろん、バイクの強度を出すことも大切ですが、それと同時に驚くようなデザインを追求することも必要だと思っています。(ICOMA 生駒崇光氏)

ユーザーの声が作ったタタメルバイク

おもちゃ

最初にこのおもちゃの設計(CADデータ)をSNSに出したところ、1万人以上がいいね!をしてくれて注目を浴びたんです。多くの人が欲しいと思ってくれてるならと実際に起業して作ることになり、商品を実際に出す前にコンセプトを提案して、ユーザーフィードバックを得ながら開発するプロダクトアウト型の方法をとりました。

これは他にはないやり方で、ハードウェアの世界では特に珍しいものです。ソフトウェアやアプリの場合、最初にリリースしてバグを修正しながらサービスを向上させるというプランがありますが、ハードウェアでもそれに近いことをやりました。(ICOMA 生駒崇光氏)

生駒さんはこの新しいコンセプトのバイクをさまざまな人々の声に耳を傾けて開発することになります。その中にはプロのライダーも含まれていたそうで、開発過程で実際に試乗してもらい、フィードバックを得ることで開発のスピードも上がっていったそうです。

実は現在のモデルは最初のモデルから4から5世代ほどモデルチェンジを経たもので、こうした具体的な意見を持つマニアックなバイクユーザーとの交流が改良につながり、最終的なモデルを完成させたと語っていました。

最初は部活動みたいな会社だったんですけど、途中から元バイクメーカーの本業のデザイナーさんも社員として一緒に入ってもらって、プロの集団として改めてやっていこうというのがここ1年ぐらいです。(ICOMA 生駒崇光氏)

現在、タタメルバイクは一般販売に向けてさまざまな検討をしているそうです。特にこういった複雑な機構を持つハードウェアは一般消費者の手元に届けるまでにさまざまな課題をクリアする必要があります。その最たるものが生産です。

材料や工場などのサプライチェーンを構築する必要があり、さらにそれを安定して稼働させる需給バランスを整える必要があります。これからの課題について生駒さんは次のように語っていました。

ハードウェアスタートアップは大手メーカーに比べて安定した生産供給体制を確保するのが非常に難しいためです。もの作りのサプライチェーンには、1つのメーカーと、複数の下請け企業が存在し、とても複雑な構造になっています。

日本では、ハードウェアの安定供給を保つために、このサプライチェーンが必要とされていますが、最近は半導体不足などの問題が起き、圧倒的に納期が長くなるなどの問題も出てきています。

例えば、このバイクにはタイヤからブレーキまで、多くの部品があります。どれか1つでも欠けたら売れなくなります。全部がそろっている状態を作らなければならないのです。(ICOMA 生駒崇光氏)

そこで生駒さんたちはこの課題をクリアするため、現在は小ロット生産にのみ対応しているそうです。本当に必要なパーツを手に入れるために手に入るものから購入し、モーターなど電気部品は品質と予算を見比べながら海外でもパーツを選んでいるそうです。

ただ、それでは「誰でも乗れる」という状況にはなりません。そこで生駒さんたちは現在、新たなサプライチェーンを構築するべく、奔走しているというお話でした。

CESで得た手応えとこれから

CES2023トロフィー

ICOMAは今年1月に開催されたラスベガスの総合見本市「CES」にJ-Startupパビリオンの一員として出展されていました。生駒さんたちはそこでイノベーションアワードを受賞しています。

大きかったのはグローバルにおいてこのアイデアがそれなりに画期的というところを評価できたことです。他にもいろんな(電動)バイクが出展していたと思うんです。電動モビリティをやってる中で存在感を出せた。ただ、グローバルでどう展開するかについては色々フィードバックもいただいています。

というのも、サイズ感とか速度域が他の国のバイクとちょっと違うわけですよね。やっぱりもっと軽くて小さいものが欲しいよっていう方も逆にいらっしゃったりとか。(ICOMA 生駒崇光氏)

試乗の様子

また、生駒さんはこういった評価に加えて、オープンイノベーションの文脈で企業から多数の声が掛かったことを明かしてくれました。その上で直近の展望としてはまず、課題となっているサプライチェーンの問題をクリアしたいと語っていました。

私たちのバイクが人々のきっかけになるような場を作りたいですね。まずは小規模から始めて、中期的には、若い方や、今までバイクに乗ったことがない方などに個性を提供し、新しいものを作ることができるようにしたいです。そういう人たちが一緒にやってくれれば、性能が良くて、新しいものを作ることができる場所になると思います。(ICOMA 生駒崇光氏)

トランスフォーマーから着想を得た箱型バイク。ロボットエンジニアのスタートアップはこれからどのような驚きを届けてくれるのか、また機会があれば続報をお伝えしたいと思います。

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