筑波大学の深層学習研究チームが起業、ジェネレーティブAIプロダクトを続々公開/AIdeaLab 代表 冨平準喜氏 #ms4su

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本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups Founders Hub」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している

我々の関心は技術の変化にのみ向かいがちですが、実のところ、技術の変化だけではイノベーションは起きません。社会の変化を伴う必要があるからです。今回のシリーズでは、ビジネスや社会サービスを、新たなテクノロジーを取り入れることで革新させようとするスタートアップの事例を取り上げます。

AIdeaLabは、筑波大学でディープラーニングを研究していたメンバーらが2021年に立ち上げたスタートアップスタジオです。スタートアップスタジオでは、多くの場合、単一のスコープやサービス毎にスタートアップが一社ずつ存在し、それぞれを経営する代表者がいます。複数サービスを一社で担う場合と比べ、サービス毎に柔軟な経営体制を取れるのが特徴です。

現在、AIdeaLab傘下の3つの子会社(スタートアップ)からは、「AIピカソ」「CommentScreen」「AI議事録取れる君」「BeautyZoom」という4つのプロダクトが発表されています。それぞれのサービスの方向性やターゲットは異なりますが、共通しているのはジェネレーティブAI(自己生成AI)を使ったユースケースを提案しているという点です。

画像生成のStable DiffusionやMidjourney、テキスト生成のChatGPTなど、各所でジェネレーティブAIが注目を集めていますが、このブームが来る前から、AIdeaLabではジェネレーティブAIを使って、プロダクトを0→1で生み出す試みに取り組んできました。漢字5字のデザインから14,000以上の漢字フォントをAIが生成する画期的なシステムでは特許を取得しています。

ジェネレーティブAIで使える技術を、どうプロダクトに落とし込むか

AIdeaLab 代表取締役 冨平準喜氏

大学研究から生まれ、技術シーズの域をまだ脱しておらず、ビジネスアプリケーションや社会実装される日を待っているのがディープテック、という定義もできます。その秘められた伸び代にスタートアップ界では期待を集めていますが、ディープテック領域の一つでもあるAI分野で、研究者自らがスタートアップスタジオを作っている点でAIdeaLabはユニークな存在です。

AIdeaLabは、筑波大学でAI研究に従事してきたメンバーらにより設立。スタートアップスタジオの形態もさまざまですが、AIdeaLabは設立メンバーの顔ぶれからも明らかなようにテクノロジーファーストな会社です。代表の冨平準喜さんは、筑波大学に編入する前の高専時代、プログラミングコンテスト課題部門で文部科学大臣賞、内閣総理大臣賞を受賞するなど輝かしい実績を持ちます。

AIdeaLabには現在、子会社が3つありまして、プロダクトごとに会社を作っています。スタートアップスタジオというと、起業家を誘致して、アドバイスするというスタイルのところもありますが、弊社では、エンジアリングに特化したコアチームがいますので、0→1で開発して、そこから各会社へスピンアウトさせるという形をとっています。(冨平さん)

では、AIdeaLabが現在提供する4つのサービスを見ていきましょう。

Image credit: AIdeaLab

2020年に発表された「CommentScreen」は、プレゼンをインタラクティブにするアプリです。登壇者の画面にオーディエンスがニコニコ動画の弾幕のようなイメージで、文字を流すことができます。自然言語処理により不適切なワードを自動的に除去する技術を使用しているため、イベント主催者や登壇者は安心して使うことができます。

そして、同じく2020年に発表されたのが「AI議事録取れる君」。その名の通り、自動文字起こし技術により、AIが議事録を取ってくれるアプリです。Microsoft Teams や Zoom といったオンライン会議システムと連携し、書き起こし後にはAIが自動的に要約し、小見出しや箇条書きを作成します。オフラインでの会議のほか、自動翻訳機能も利用できます。

2021年に発表された「BeautyZoom」は、Zoomなどのオンライン会議で、AIの顔認識技術でフィルターをかけたり、輪郭補正を行ったりできるアプリです。コロナ禍に自宅からのオンライン会議参加を余儀なくされた人々が、その会議だけのために化粧する手間を省けるとして人気を獲得しました。

そして最新の作品が画像生成のジェネレーティブAIを使ったお絵描きアプリ「AIピカソ」。ジェネレーティブAI「Stable Diffusion」の公開から約1週間後の2022年8月末、Stable Diffusionの画像生成モデルを活用して開発・公開されました。インターフェースは英語で作られており、Product Huntにも公開されるなど、世界市場を意識した戦略が見て取れます。

ここに紹介したのは、プロダクトとして公開されたものに過ぎません。AIdeaLabではプロトタイプも開発されていて、いずれは機能するビジネスモデルやサービスモデルと結びつき、日の目を見るのを待っている作品も多くあります。普段から並行して、さまざまな試行を繰り返しているからこそ、世の中の需要に合ったプロダクトをタイミングよく出せているのでしょう。

企業との協業、世界展開、AIモデル構築でMicrosoft for Starupsに期待

数あるサービスの中で、AI議事録取れる君はマイクロソフトとの関係性が強いプロダクトです。システムはAzureのクラウド環境に構築されており、書き起こしに必要なAIのトレーニングもAzureの上で行われています。Teamsと連携できる会議書き起こしサービスとしては日本国内初で、ToB向けサービスの営業展開などでMicrosoft for Startupsの支援が期待されます。

スタートアップを輩出するスタートアップスタジオであると同時に、自らもスタートアップであるAIdeaLabは中長期的には資金調達も模索しているようですが、現在はむしろ、ジェネレーティブAIを使ったプロダクトを共同開発したい企業との協業に注力しているそうです。専門技術を持ったスタートアップと、各事業領域に強い企業との協業はシナジーが望めます。

最近、世の中をにぎわせているChatGPTやGPT-4を開発するOpenAIを、ファイナンス面からもコンピューティングリソース面からも、マイクロソフトは支援してきました。ジェネレーティブAIやそれを使ったサービスを開発するスタートアップにとって、Microsoft for Startupsの支援を通じて得られるメリットも大きいのではないでしょうか。

Microsoft for Startups カスタマープログラムマネージャー 南澤拓法さん

B2Bのイメージが強いため、マイクロソフト=AIと紐づく方はあまり居なかったかもしれませんが、マイクロソフトはアメリカだけでなく、アジアやヨーロッパにも研究機関を持っており、研究で培ったノウハウをプロダクトに反映し、非常に高精度のAIを提供しています。

既にAIは机上の空論や夢物語ではなく、現実世界で私たちの仕事や生活を助けてくれる存在になっています。ただ使うだけでなく、人間がより価値創造にフォーカスできるような世界をAIdeaLab様と一緒に作れることを大変嬉しく思っています。(Microsoft for Startups カスタマープログラムマネージャー 南澤拓法さん)

今のところ、AIdeaLabが出しているプロダクトにはToC向けのものが多いですが、前出のCommentScreenはすでに64カ国に100万人ほどのユーザがいて、AIピカソも国外ユーザの比率が増えつつあるなど、グローバル展開に拍車がかかりつつあります。AIdeaLabでは、AIの専門家であるチームの特性を生かして、AIモデルなど基盤技術の開発にも取り組んでいきたいとのことでした。

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