遠隔通訳アプリ、チョコレートブランド、AIアノテーション効率化などーーシード9社が登壇したMonthlyPitch、全社ご紹介

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創業期の起業家向けピッチステージ「Monthly Pitch」は5月10日に70回目となるイベントを開催しました。主催するサイバーエージェント・キャピタルはこれに併せ、参加スタートアップの登壇後累計調達額が1,000億円を突破したことも公表しています。これまでに登壇した企業は520社で、今回は9社が新たにステージに登壇しています。会場とオンラインに集った100名を超える投資家に向け、起業家たちはサービスのプレゼンテーションを披露しました。

本来は投資家と起業家のみの招待制・非公開イベントですが、本誌BRIDGEではメディアパートナーとして参加しております。本稿では登壇した9社の公開できる情報をお届けいたします。

進行を務めるサイバーエージェント・キャピタルの北尾崇さん

では、登壇したスタートアップのサービスをご紹介いたします。

訪日観光客向けの高級レストラン予約サービス「JPNEAZY」by Fesbase

金田雅人さん

訪日観光客にとって、寿司屋をはじめとした高級レストランでの体験には根強い人気があります。しかし、外国人である彼らにとって、こうしたレストランを体験するには大きなペインが3つあります。料金が不明瞭であること、言語ギャップ、そして、現金主義のところが多く、カードが使えないことです。こうしたペインを解決すべく、JPNEAZY は、コース料理の事前決済とデポジットで答えます。

海外ターゲットに特化していることと、手数料をユーザ側にのみ課金(コース料理価格の10%〜15%)が実現していることが差別化要素となっており、レストラン側には JPNEAZY を導入することでコスト負担が一切発生しないことから。多くのレストランに受け入れられました。ユーザーの流入を図るべく、エアトリのインバウンド向けウェブメディア「Japan Web Magazine」にブッキング機能を提供されています。

現在は、インバウンド向けに日本のレストランへの予約サービスのみを提供していますが、今後、海外レストランへの進出を計画しています。金田さんは調査を兼ねてタイを一週間訪問し、現地の14店舗に導入してもらうことができました。また、レストランでは人材難から店のオペレーションが立ち行かなくなるところもで出てきていますが、JPNEAZYが店の予約受付業務を肩代わりすることで飲食店のDXを支援します。飲食店は店によってITリテラシーが違うため、それぞれに合ったサービスを提供する計画です。

活動的な共創コミュニティの効率運営を支援する「Tailor Works」by テイラーワークス

難波弘匡さん

企業の約90%以上が共創(Co-creation)に対して積極的な活動を行っていたり、約45%以上が自社がこれまでは接してこなかった企業や人との新しいネットワークを構築したりしていて、共創はホットな領域です。共創をテーマにしたオンラインコミュニティの市場領域は年ベース1.4倍で成長しており、2026年には2,250億円規模に達するとの試算もあります。しかし、イノベーションの停滞の裏には、共創や出会いをアレンジするコミュニティオーナーとコミュニティに参加するユーザーの双方の課題が存在しています。コミュニティ運営が属人化してしまい運用が効率化できないといった課題やユーザー間のコラボレーションが起きない、というような課題です。

テイラーワークスでは、こうした課題の解決を支援する共創コミュニティプラットフォーム「Tailor Works」を開発・提供しています。トークルーム、参加者同士が相談できる機能、マガジンが発行できる機能など、コミュニティ運営に必要な機能が集約されていることで、エンタープライズ、省庁や地方自治体、金融機関などでユーザを伸ばしています。現在はコミュニティーオーナーに課金するモデルですが、ユーザから料金を得られるような機能・メニューも順次開発・リリースしていくと難波さんは語りました。

現在、共創をさらに創出するためのコア技術として、ジェネレーティブAIを使ったプロフィール作成やマッチング支援、SBT(ソウルバウンドトークン)を使って、個人のコミュニティにおける活動貢献を定量的に資産化できる機能を開発しており、これらは今後、順次リリースされていく見込みです。

また、コア技術を軸にユーザーの知見や知識、人脈、人間性などのソーシャルキャピタルデータを活用した新しい評価経済の基盤を構築することで、様々な信用データを活用したコミュニティプラットフォーム周辺事業の展開も考えています。

人間によるオンデマンド遠隔通訳アプリ「Oyraa」 by Oyraa

コチュ・オヤさん

労働人口の減少に伴い、2040年には1,500万人の外国人労働者を受け入れないと日本はGDP目標が達成できないことが明らかになっています。この人数は、現在日本にいる外国人労働者の10倍の人数に相当します。また、世界には約3億人の移民がいて、うち、1.7億人が国際移民労働者(イミグラントワーカー)がいます。外国人が日常生活で多くの場所でろで(不動産、役所、病院、銀行など)言葉の壁に直面することになります。

言葉の壁を乗り越えるために、個人が日常生活で通訳を依頼することは費用面で現実的ではありません。また、Google 翻訳、DeepL、ChatGPT など洗練された機械翻訳サービスは数多くありますが、機械通訳に相当するサービスはあまり無いのが現状です。海外旅行などで使えるデバイスもありますが、日常会話や短文にしか対応できず、訳の正誤についても定かではありません。どこにいても、安価で人による通訳サービスを受けられるようにと開発されたのが「Oyraa」です。

Oyraaはモバイルアプリを使って通訳を依頼できるサービスで、世界中の2,000人以上の通訳者が登録しています。通訳料金は通訳者が自分で自由に設定でき、そのうち7割を通訳者が報酬として、3割をOyraaが手数料としてもらいます。ユーザは自分が使いたい言語の専門分野に合った通訳を依頼できることや、1分単位で料金が算出されるので使いやすい設計となっています。サービスを通じて音声データが蓄積されるので、これを活用し、日本語⇄希少言語や希少言語同士の自動通訳市場の獲得を狙います。

日本発・世界で評価されるチョコレートブランド「Minimal」by βace

山下重嗣さん

Minimal(ミニマル)」は、日本発で世界で勝てるブランドを作ることを標榜したクラフトチョコレートブランドです。テクノロジーを使って商品開発やマーケティングを行っていること、OMO(Online merges with Offline)に長けていること、収益チャネルが多くあることなどを特徴とし、既存のチョコレートブランドとは性格を異としたポジショニングにあります。自社ブランドでの直販(B2C)以外にも、他のハイブランドとのコラボレーションによる商品開発・販売など卸販売(B2B)でも高い評価を得ています。

これまでに3,000以上の媒体に取り上げられ、その商品のデザイン性から「WIRED Audi Innovation Award(2017年」)、「グッドデザイン賞ものづくり部門(2017年)」を獲得しているほか、おいしさの証明として、世界的なチョコレート品評会である「International Chocolate Awards」を主とし、7年連続で通算73の賞を受賞、また、Googleの口コミ評価では4.5ポイントをつけており、これは外部レポートで東京のチョコレート店で1位の評価という事です。

山下さんによれば、チョコレートの製造は量産技術と職人技術に大別できますが、量産技術については概ね100年ほど前の技術を大規模化、効率化させた方向性で進化しており、職人技術をテクノロジーとメソッドで量産化を実現し、伸ばすことにより、最高の製品を作ることに注力すると決めたそうです。年間3,000以上のレシピを作成し、ここから職人の手仕事の技術をデータ化・数値化。同社では店舗とEC販売のデータも完全統合できているため、こうして生まれた新製品を高速PMF(プロダクトマーケットフィット)で回すことで、人気製品の開発に繋げています。

インバウンド向け情報発信をChatGPTで効率化「smartshare」by Isea

竹山卓弥さん

AIを活用した観光分野と防災運営の多言語情報発信システム「smart share」を開発するのがIseaです。アリババの元メンバーによって立ち上げられた同社が注目したのが「言語の壁」。日本ではコロナ後、急速に回復しつつあるインバウンド需要を背景に、訪日外国人が過去最高ペースで増加していることや、在日外国人も過去最高になっていることが注目されています。

しかし、訪日外国人向けのマーケティング支援をしてきた彼らはそこである課題を目にします。例えば自治体であればこういった業務の多くを委託会社を通して情報発信するのですが、翻訳やチェック、そして発信にかなりの時間がかかってしまう、という問題を抱えていました。

そこで彼らが開発するsmart shareでは、OpenAIのChatGPTの3.5と4を使用し、多言語翻訳と文章生成、そして現地に合ったハッシュタグ生成をAPIと連携させてInstagram、Facebook、Googleビジネスプロフィール、Twitterなどのソーシャルに発信する仕組みを提供します。ポイントは内製化を可能にする点で、時間と経費の削減、効率化を達成することを目指しています。さらに、彼らは、AIの発展に伴い、画像生成や動画生成といった分野での展開も考えているそうです。現在、複数の自治体でサービスを提供しており、今後の拡大を目指します。

AIの力でAIを作る「FastLabel」が急成長する理由 by FastLabel

上田英介さん

AI開発における教師データの生成とラベリングに焦点を当てた事業展開をするのが「FastLabel」です。一般的にAI開発にはアルゴリズムと教師データの2つが重要になるとされていますが、教師データの作成には大量の時間と労力が必要となります。アノテーションと呼ばれる作業で、例えばトマトの収穫予測のAIを作りたい場合、エンジニアの方が手作業で「正しいトマトがどちらか」というタグをつける必要があり、数万~数十万のデータを作成する必要があるため、非常に時間がかかる作業となります。

この点を解決するため、FastLabelではAIを用いて自動的に教師データを生成・ラベリングする技術を開発し、提供しています。ユーザーはデータ作成コストを大幅に削減でき、AI開発のPDCAサイクルの高速化や、モデル精度向上といったメリットも享受できるようになります。同社代表を務める上田英介さんは世界的なAIによる革新を背景に、市場が大きく変化している点を指摘していました。

詳細はMonthlyPitch会場のみの情報になるのですが、同社はここ1年で急成長をしており、エンタープライズ企業を中心に幅広い顧客の獲得に成功しているそうです。上田さんは、AI技術のコモディティ化が進み、「データの取得とモデル精度改善が鍵となる」市場環境が形成されつつあると指摘します。

FastLabelはこういった市場環境下においてアノテーションの効率化というユニークなポジションに位置できたそうです。ビジネスモデルはSaaS(Software as a Service)提供のAIデータプラットフォームを主要事業としつつ、データ単位の従量課金制のアノテーションの代行事業も行っています。

AIが子供の読書をサポートして読書率アップ by Yondemy

笹沼颯太さん

子供たちが自発的に本を読まない、そう考えているご家庭も多いのではないでしょうか。Yondemy代表の笹沼颯太さんの解説によれば、日本の子育て家庭の94.7%が読み聞かせを行っているにもかかわらず、子供たちが本を自発的に読むという行為には繋がっていないという状況があるそうです。一因としては、小学校1年生の教科書の読解難度が高いこと、そして子供たちがインターネット、特にYouTubeやゲームに興味を持つ傾向が挙げられます。

この問題を解決するために彼らが提供するのが「ヨンデミーオンライン」というサブスクリプション型の読書サービスです。サービスの特長として、AI技術を活用して、子供一人ひとりの好みや読解レベルに合った本を推薦するという点が特徴で、読書の楽しさや達成感を感じることができるそうです。

また、このサービスは、読書体験をゲーム化することで、子供たちが本を読むことを自発的に楽しむきっかけを提供しています。例えば、ポケモンマスターを目指すようなストーリーが展開され、子供たちは伝説の読書家となって幻の巨大図書館を救うという目標に向かって読書を続けることができる、という具合です。笹沼さんによると、3カ月後には入会したユーザーの40%が毎日本を読む習慣を身につけているそうです。

月額課金の価格は2980円で、教育と出版の両市場をターゲットにしており「読書」という新たなカテゴリーを作り出すことが狙いです。さらに生成系AIを活用した出版にも取り組む予定で、例えばNetflixが視聴データを分析してヒットするオリジナル映画を作るのと同様に、子供たちが好む本のデータを基にオリジナルの児童書を作成するという計画が進んでいるというお話でした。

即戦力を1カ月で採用、副業人材のマッチングサービス「SOKUDAN(ソクダン)」by CAMELORS

田根靖之さん

女性専用フィットネスのカーブスジャパンの創業メンバーであり、その後に楽天グループでセールスやマーケティング、事業経営にも携わった経験を持つのがCAMELORS代表の田根靖之さんです。豊富な事業経験をもとに、事業を加速させる副業人材のマッチングサービス「SOKUDAN(ソクダン)」を提供しています。

田根さんはフリーランスとして活動していた時、業務委託や副業のマッチングサービスが自身のニーズに合わず、手数料が高かったり、マッチングがうまくいかなかったりする課題を感じ、これを解決するために事業を立ち上げました。

SOKUDANは、即戦力人材を最速で採用できる副業マッチングプラットフォームです。副業や業務委託のマッチングに特化し、早期マッチングのサポートを提供し、正社員化も自由にできるプラットフォームを提供しています。利用ユーザーはサブスクリプションプランと成果報酬型のプランを選択できます。プラットフォームは、エンジニア、マーケター、事業企画開発、デザイナー、クリエイターの5職種に特化しており、現在上場企業からスタートアップなど多くの企業が利用しているそうです。

田根さんは同様のサービスが増える一方、企業と優秀な人材のマッチングはまだ非効率であり、求職者と企業双方が時間と労力を要していると指摘します。そこで彼らは即戦力人材を提供する求人媒体とエージェントを活用し、通常半年ほどかかる採用確定を約1カ月前後で実現できる仕組みも提供しているそうです。さらに、採用プロセスを因数分解し、ヒューマンタッチを組み合わせて、採用そのものの活動時間も約70%削減する省力化を実現しているとお話されていました。

「人+ロボ」で資産ポートフォリオ運用の課題解決 by MONO Investment

佐々木辰さん

資産運用コンサルティングをデジタル化しようという取り組みがMONO Investmentです。彼らは人とテクノロジーのハイブリッド型金融テクノロジー企業で、次のステージの金融サービスを提供することを目指しています。

従来の金融業界は、単なる金融商品の販売に留まり、販売手数料を重視して個別商品や自社商品のみを提案する銀行や証券会社が主流。これらの方法は販売後のフォローが限定的である等の問題があり、金融庁なども注目する課題になっているそうです。

こういった環境の中、代表の佐々木辰さんは、今後の金融業界では預かり資産が重視され、ポートフォリオ提案が求められると指摘しています。これは投資家ごとに複数の金融機関の預かりを考慮した運用提案で、商品提案だけでなくリバランスまでトータルでサポートすることが必要とされています。

ここで、注目されているのが独立系のアドバイザーであるIFA(Independent Financial Advisors)です。彼らは証券会社から独立して提案できるため、投資家のことを第一に考えた提案ができます。しかし、金融の領域は数学的に難しく、ポートフォリオ運用を提案することは営業担当者にとっても難しい場合がありました。この問題を解決するためにファンドラップやロボットアドバイザーなどが登場しましたが、カスタマイズ性に欠けることや、緊急時のフォローができないという課題も存在します。

そこで、MONO Investmentではヒトとロボットのハイブリッドの仕組みを用いて、アドバイザーは投資家とのコミュニケーションに注力するそうです。これにより、投資家のニーズを把握した上で、投資家へ安心感を感じてもらいつつ、投資家ごとにカスタマイズされた運用提案を行うことができるとしていました。

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