教育を変えるジェネレーティブAI、ソクラテスの時代は再来するか?【ゲスト寄稿】

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本稿は、Cherubic Ventures(心元資本)によるものだ。2014年に設立された同社は、アメリカとアジアの両方で活動するアーリーステージ・ベンチャーキャピタルであり、運用総資産(AUM)は4億米ドルだ。シードステージ投資を中心に、次の象徴的な企業の最初の機関投資家になることを目指し、大きな夢と世界を変える勇気を持つ創業者を支援している。同社は、サンフランシスコ、シンガポール、台北に拠点を置いている。(過去の寄稿

The guest post is first appeared on Cherubic Ventures’s blog.  Founded in 2014, they are an early-stage venture capital firm that’s active in both the US and Asia, with a total AUM of 400 million USD. Focusing on seed stage investments, Cherubic aims to be the first institutional investor of the next iconic company and back founders who dare to dream big and change the world. Their team sits across San Francisco, Singapore, and Taipei.


Image credit: Pixabay

最近、私は自分が投資家としても親としても関係する質問、つまり「AI は教育をどう変えるのか」ということを頻繁に自問するようになった。

あなたの子供は、以前ほど宿題に時間をかけていないことに気づいているだろうか?ChatGPT のような1,000ワードのレポートを1分以内に生成できるツールによって、彼らはジェネレーティブ AI を「小さな助っ人」として使っている可能性が非常に高い。

だから、当初、ジェネレーティブ AI 技術が教師や保護者から大きな反発を受けたのは当然だ。しかし、あれから数カ月、議論はすでに「生徒の AI 利用を禁止する方法」から「どうすれば AI が学習を強化できるか」へと変化しているのだ。

つまり、AI が教育にもたらす最大の変化は、個別学習の時代を切り開くことである。

ChatGPT の開発元 OpenAI の CEO Sam Altman 氏は最近のインタビューで、ジェネレーティブ AI の潜在的な使用例について、「私が最も期待していることの一つは、生徒一人ひとりに個別の学習——素晴らしい個別学習を提供する力だ」と述べている。Bill Gates 氏もこのコンセプトの可能性を感じており、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を通じて2億4,000万米ドル以上を個別教育に投資している。

現時点では、世界最大のオンライン講座プラットフォーム「Coursera」や、(世界に1億人のユーザがいる)非営利の教育機関 Khan Academyが、生徒を1対1で指導する AI ティーチングアシスタントを既に展開している。

AI が個別学習の時代を切り開く

このような AI ティーチングアシスタントとの連携はどのようなものなのだろうか。

一つは、生徒の思考回路を誘導してくれることだ。例えば、生徒が算数の問題に行き詰まっている場合、アシスタントは直接答えを教えるのではなく、算数の基本的なルール(例えば、足し算や引き算の前に掛け算や割り算をする)を覚え、そのルールを問題に適用するように促する。そうすることで、生徒を徐々に答えに導いていくことができる。

また、AI が専門家や著名人になりきって生徒に話しかけることもできる。科学に興味がある生徒は、アインシュタインに「相対性理論はどうやって生まれたのか」と直接聞くことができる。古代ギリシャについて知りたい人は、プラトンと話すことができる。また、Jeff Bezos 氏や Elon Musk 氏といった生粋の専門家に、学生がビジネスの意思決定について相談することもできる(もちろん、回答はすべて事前情報に基づいている)。この AI には音声対応版もあり、学生はこれらの人物に直接「電話」することができる。

そしてさらに重要なのは、AI ティーチングアシスタントが生徒とディベートを行い、その回答に疑問を投げかけることで、生徒が自分の盲点を発見し、推理力を高め、主張を強化することができることだ。

Q&A で表現力・思考力を鍛える

Q&A の学習法は、2300年前のソクラテスに端を発している。その目的は、生徒が自分の主張の矛盾を発見するために、しつこく質問することだった。自分の主張を修正し、分析し続けることで、生徒は自分なりの視点を形成し、それがクリティカルシンキングの基礎となる。

しかし、現在の教育現場では、数十人の生徒がいるクラスで、教師がこの方法を使うことは難しい。AI アシスタントは、生徒数が多い学校でも、個別学習を体験することができる。そして、特定の生徒とのやりとりの「記憶」を使って、生徒一人ひとりに合わせた学習計画や指導を行うことができ、要するに、生徒一人ひとりに自分だけのソクラテスを提供することができる。

ソクラテス的な学習ができる AI アシスタントは、受動的な情報吸収に慣れているアジアの学校では特に有効で、大人しい生徒が自信を持って自分の意見を言えるようになる可能性もある。

教育の原点に立ち返る

アインシュタインは、「学校の最も重要な仕事は、特定の分野の知識を教えることではなく、変化に対応できる自立した思考を養うことである」と言った。学校での AI 活用を考えるとき、一番の変化は、新しい学習方法を生み出すことではなく、教育の原点に立ち返ることかもしれない。

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