クラウドAIが実現した、放射線治療企業エレクタのブレイクスルー

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Image credit: Elekta

パイロット運用から本格的な生産に至るまで、AI は全ての産業において課題となっている。しかし、規制が厳しく、利害関係が強い分野であるヘルスケアは、特に複雑な障壁に直面している。AI 用に「目的別」に最適化されたクラウドベースのインフラが、イノベーションと運用化の重要な基盤として登場した。クラウドとハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の柔軟性を活用することで、様々な業界の企業が PoC やパイロットから本番ワークロードへの拡大に成功している。

VB Spotlight では、がん治療のための精密放射線治療システムの世界的なトップイノベーター Elekta の AI 戦略リード兼リード研究員 Silvain Beriault 氏と、Microsoft Azure の AI プラットフォームおよびインフラストラクチャのプリンシパルリードである John K. Lee 氏を招いた。彼らは、VB コンサルティングのアナリスト、Joe Maglitta 氏とともに、クラウドベースの AI インフラストラクチャが、Elekta の脳画像とMR ガイド放射線治療の改善と拡大を目指した世界規模の研究開発活動において、コラボレーションとイノベーションの向上をどのように推進したかを議論した。

3つのメリット

Lee 氏によれば、AI向けのエンドツーエンド、オンデマンド、クラウドベースのインフラストラクチャ・アズ・ア・サービス(IaaS)の利点は、その弾力性、柔軟性、簡便性にあるという。

エンタープライズ AI は通常 PoC から始まるため、Lee 氏は「クラウドは出発点として最適です」と述べる。クレジットカード1枚で開始することが可能だからだ。モデルがより複雑になり、追加の計算能力が必要となるにつれて、クラウドはそのタスクをスケールアップするのに最適な場所である。これには、サーバの容量を増やすために1台のホストに相互接続されている GPU の数をスケールアップまたは増やすことや、システム全体の性能を向上させるためにホストインスタンスの数をスケールアウトまたは増やすことが含まれる。

クラウドの柔軟性により、企業は巨大な企業プロジェクトから、処理能力を必要としない小規模な取り組みまで、あらゆる規模のワークロードを管理することが可能である。どのような規模のプロジェクトであっても、専用のクラウドインフラストラクチャサービスを利用すれば、オンプレミスの AI アーキテクチャをゼロから構築するよりも遥かに早く、総所有コスト(TCO)と投資収益率(ROI)を改善できると Lee 氏は説明する。

簡便性については、事前にテストされ、統合され、最適化されたハードウェアとソフトウェアのスタック、プラットフォーム、開発環境、ツールにより、企業は簡単に始めることができます。(Lee 氏)

新型コロナの感染拡大が、Elekta のクラウド AI 開発を加速

Elekta は、脳疾患の管理とがん治療の改善を目指した画像誘導型臨床ソリューションを開発する医療技術企業である。新型コロナウイルスの感染拡大により研究者たちがラボから追い出されたとき、同社のリーダーたちは、数年前に始まった AI の研究開発をクラウドに移行する努力を加速・拡大する絶好の機会と捉えた。

この部門の AI 責任者は、AI 搭載ソリューションの数々を改善するために、より堅牢でアクセスしやすいクラウドベースのアーキテクチャが、医療サービスが行き届いていない国々を含む医療へのアクセスを向上させるという Elekta のミッションを推進するための一助となると考えた。

コスト分析の観点から、Elekta はハイパフォーマンスコンピューティングの現在と将来のニーズを見積もることが困難であることも認識していた。彼らは、AI 用のオンプレミスインフラを維持するためのコストとその限界を考慮に入れた。全体的な費用と複雑さは、GPU やサーバーの購入だけではない、と Beriault 氏は指摘する。

自分でやろうとすると、すぐに手がつけられない状態になります。Azure や Azure ML などのフレームワークを利用すれば、GPU へのアクセス以上のものを得ることができます。AI 実験を行い、AI 実験を文書化し、異なる研究開発センター間でデータを共有するためのエコシステム全体が手に入るのです。共通の機械学習運用ツールを手に入れることができるのです。(Beriault 氏)

試験内容は単純で、MRI画像における臓器の輪郭を自動化し、治療対象を明確にする作業を加速させ、放射線被曝によりリスクのある臓器を抽出するというものであった。

このプロジェクトでは、スケールアップとスケールダウンが可能であることが重要だった。

以前は、モデルのハイパーパラメーターを調整するために、10個のトレーニング実験を同時に行ったこともありました。また、データキュレーションの準備を待って、一切トレーニングを行わないこともありました。当時はまだ小さなチームでしたから、この柔軟性は非常に重要でした。(Beriault 氏)

同社は既にAzureフレームワークを使用していたため、Azure ML をインフラとして利用した。また、チームがプラットフォームポータルと API の使い方を学び、クラウド上でジョブを開始する際の重要なサポートになった。Microsoft は、チームと協力して、同社のドメインに特化したデータインフラを構築し、データのセキュリティとプライバシーに関する重要な問題を解決した。

現在では、自動輪郭を拡大し、すべてクラウドベースのシステムを使用しています。このインフラを利用することで、研究活動を100以上の臓器、複数の腫瘍部位に拡大することができました。

さらに、スケーリングによって、単純なセグメンテーションから一歩進んで、RTにおける他のより複雑な AI 研究にも拡大することができ、将来的には患者の治療にプラスの影響を与える可能性が高まりました。(Beriault 氏)

適切なインフラパートナーを選ぶ

最終的には、クラウドベースのアーキテクチャを使うことで、研究者はAIインフラの構築や管理から解放され、自分の仕事に集中し、最高のAIモデルを開発できます。(Beriault 氏)

重要なのは、そのようなサービスを提供できるパートナーを選ぶことです。(Lee 氏)

強力なプロバイダは、自社の製品やサービスを最先端に保つための戦略的なパートナーシップを提供する必要がある。

Microsoft と NVIDIA との協力が、Elekta などの顧客にとってエンタープライズ AI の基盤を開発する上で非常に重要です。

製品提供やインフラだけでなく、エコシステム全体を持っているか、コミュニティは存在するか、適切な人材がサポートできるかどうか、など、他にも考慮すべき点があリます。(Lee 氏)

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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