変わる働き方、高まるオフサイト需要に「Retreat」が好調——a16zスカウトFや日本の投資家から調達、累積で155万米ドル

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Retreat の皆さん。右端が創業者で CEO の山田俊輔氏
Image credit: Retreat

※この記事は英語で書かれた記事を日本語訳したものです。英語版の記事はコチラから

日本では、今日から新型コロナウイルスは「5類感染症」に移行、すなわち、医療機関や公的機関における扱いが通常の感染症に戻る。しかし、働き方はそうとは限らないようだ。4月24日に調査会社の帝国データバンクが発表した、全国の企業11,428社への調査結果によると、一つの事実をもとにしてメディアによって見方が違って面白いのだが、半数以上が「コロナ前の働き方には戻らない(Forbes 日本版)」または4割は「新型コロナ前と同じ状態に戻す(FNN プライムライン)」と報告されている。

スタートアップ業界においては、おそらく、この「前の状態には戻らない」ことをポジティブに捉える人が多いだろう。温故知新というのは筆者の好きな言葉の一つではあるけれど、時代の変化は不可逆である。組織運営の軽さゆえ変幻自在のスタートアップにとっては、変化にいち早く適応することが優位性を増すことになる。自分自身が変わるだけでなく、その変化した社会に新たなサービスを提案できるのもスタートアップが得意とするところだろう。

新型コロナウイルスの被害がにわかに報じられ始めたのが2019年の終わり頃で、その約半年後に、サンフランシスコに拠点を置く起業家の山田俊輔氏は「Remotehour」なるサービスを発表している。事前につなぐ時間を設定する Zoom などとは対照的に、常時接続でいつでも話しかけられる体験がウケて、Remotehour の投資家の一つでもある MIRAISE は起業家の相談を受け付けるオフィスアワーを展開していた。改めて、Remotehour の URL にアクセスを試みるももう存在しない。そう、ピボットしたのだ。

コロナ禍が明けて、そこにどのような世界が広がっているか。業種にはよるだろうが、デジタル化が可能な業界においては、リモートワークとオフィスワークのハイブリッド形態。大手企業やスタートアップは、原則的に全社員が集まることを前提としていた本社オフィスを次々と閉鎖し、目的特化型のスペースやコワーキングスペースを活用した分散型オフィスなどに移行した。一方で、脚光を浴びてきたのがオフサイトミーティングだ。日本でも、2021年に創業した Island and office などは好例と言える。

ここまで言えばお分かりだろうが、Remotehour がピボットしたのはオフサイトミーティングのためのサービスだ。「Retreat(以前の名 Telesite) と名付けられたサービスは、その言葉の意味する通り、人々が「日常生活から離れてリフレッシュし、心身ともにリセットする」ことを目的としたものだ。2022年1月、山田氏は Remotehour を閉じて、Retreat に完全に舵を切ることにした。アメリカを中心に、シリーズ B ラウンドのステージにあるようなスタートアップ20社前後がすでに利用しているという。

People Ops(HR 担当者)を味方につける

昨年、サンディエゴで開催した People Ops ミーティング。16社の担当者が参加した。
Image credit: Retreat

数十人規模のスタートアップでオフサイトをやろうとなると、それをアレンジするのは People Ops(ある意味で HR 担当)ということになる。リクルーティングや社員のケアだけでも大変なのに、オフサイトだけのために増員や専任担当者を立てるのは現実的ではないだろう。また、個人の出張などであれば、OTA(オンライン旅行代理店)などを駆使して、デジタルかつスピーディーに宿泊先や交通手段を予約できるが、数十名規模で動くオフサイトではそうはいかない。

オフサイトのアレンジでは、旅行代理店に RFP(Request for Proposal)を送り、それに対し、提案と見積をもらうというアナログ対応になる。Retreat では、この部分を一部自動化も含めてデジタル化することに成功した。人数に応じたミーティングルームなども必要になるので、そうした用途にフィットした施設を持つホテルをキュレーションして提案しているという。また、オフサイトにスタッフが同行することで細かいサービスを届けており、これが People Ops からの評価につながっているとのことだ。

人数も多いので、ホテル側でミスが起こることもある。なかには、申し込み段階ではベジタリアンだと申告していた社員が、オフサイトの最中にベジアリアンをやめたので、普通食に戻してほしい、と言ってきた要望もあった。

社員からの要望が次々に上がってくる中で、担当者はてんやわんやだ。我々が同行していると担当者に怒られることもあるが、そうした要望を受け入れ問題を解消してあげると、後からすごく感謝される。次のオフサイトでもぜひ、という話につながる。(山田氏)

Image credit: Retreat

グローバルなスタートアップであればあるほど、仕事するロケーションは分散化傾向にある。普段はオンラインでのやり取りのみで、リアルに顔を合わせられるのは四半期毎のオフサイトの時のみ、ということも稀ではないのだ。オフサイトでの体験はそのまま EX(Employee Experience=従業員体験)の評価に繋がり、それは優秀な人材を繋ぎ止められるか、新たな社員を迎えられるか、ひいては、そのスタートアップの成長是非にさえ直結する、というわけだ。

デジタル化とは言いながら、Retreat のメンバーがユーザ企業のオフサイトに同行するのは一見非効率だが、悪いことばかりではない。まず、オフサイトにはほぼ必ず当該企業の CEO が参加しており、ミドル・レイターステージ以降の有望スタートアップの創業者・経営者と顔を合わせ言葉を交わす機会を得ることができる。参加している社員の声を直接聞くこともできるので、ここからサービスの改善や新たな事業の創出につながるかもしれない。

さて、Retreat のマーケティングはどのようにやっているのかだが、ここでも要となるのが企業の People Ops だ。Retreat では彼らのコミュニティを構築し、オフサイトのお試しツアーのようなものを組んで参加してもらっている。担当者を招く旅費はほぼ Retreat 持ちだが、マーケティング活動としてコストは十分に回収できているようだ。ミドル・レイターステージ以降で、ロケーション分散型のハイブリッドなスタートアップとなれば、ターゲットが狭められているので、マーケのコスパもいい。

シリーズ A ラウンドには、a16z、水嶋ヒロ氏、太田雄貴氏らが参加


Retreat は Remotehour 時代の2020年6月に、Jason Calacanis 氏や MIRAISE から資金調達したことが明らかになっている(プレシードラウンド、調達額不明)。そして、今回、新たに、Andreeseen Horowitz(a16z)のスカウトファンド(スカウトファンドとは、ファンドへの直接的関与なしに、少額の資金を投資する連続起業家・エンジェル投資家が出資できる仕組み)、水嶋ヒロ氏、太田雄貴氏から出資を受けたことを明らかにした(シードラウンド)。累積調達額は155万米ドルだ。

このほか、三井住友海上キャピタル、エッグフォワード、サイバーエージェント・キャピタル、90s、UB Ventures が参加している。MIRAISE は、プレシードラウンドに続き、今回のシードラウンドがフォローオンでの参加だ。この分野では、Cvent(NASDAQ:CVT、Blackstone により46億米ドルで買収され非上場化の見込み)や、時価総額90億米ドルと評価され近年同業を次々と買収している Navan(旧 TripActions)などが競合する。Retreat は技術力を活かし、さらに自動化を高めることで差別化を図るとしている。

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