サウナ+脳波で最高の「ととのう」体験もーーBillboard Best of CES選出のブレインテック【VIE STYLE】

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

みなさんはストレスを解消したり、集中したいと思った時、どのようなことをするでしょうか?音楽を聞いたり、瞑想したり、逆にリラックスするためにお風呂や散歩なども効果があるかもしれません。こういった精神的な活動を科学的に理解し、テクノロジーを用いて制御しようという動きがあります。今回、ご紹介するVIE STYLEもこういったテーマでスタートアップしている企業です。

彼らが提供するデバイス「VIE ZONE」は脳の活動を分析し、音楽ニューロフィードバックという手法を用いてストレスを解消し、最適な集中力をもたらした上で、その状態を維持することを支援するイヤフォンデバイスです。

彼らの保有する特許技術「SoftShell」によって快適性とノイズ低減を実現しているのも特徴です。本稿では折り畳みバイク「タタメルバイク」をCESに出展したICOMA社に続き、Billboard Best of CES 2023に選出されたスタートアップVIE STYLEをご紹介いたします。

元ミュージシャンがスタートアップしたVIE STYLE

取材時に見せていただいたデバイス

VIE STYLEの創業は2013年。創業者の今村泰彦さんはワーナーミュージック・ジャパンにてオンライン音楽配信事業に携わったのち、エンターテインメント企業を経て共有エディタツールの先駆けとなったEvernoteで働いていました。当時のシリコンバレーはIoT(Internet of Things)ブームが巻き起こっており、ソフトだけでなくハードにも注目が集まっていた時期でした。彼は創業の経緯をこう振り返ります。

ハードウェアを作り始めたのは、情報をいろんなところからサーバーにアップロードし、AIによる解析を行い、人々の生活を変えることができるようにするためでした。

(当時働いていたEvernoteでは)数億人が使うサービスであっても、人々により自然にデータ入力をしてもらうにはどうしたらいいかというテーマがあったんです。

そこでハードウェアを組み合わせたサービスを提供することで、人々が情報をより効率的に収集できる世界を目指したいと思ったのが起業のきっかけです。(VIE STYLE 今村泰彦氏)

今村さんは元々ミュージシャンであり、音楽と情報を組み合わせたウェアラブルデバイスを作ろうと、ヘッドフォンなどを開発するVIE STYLEの創業に至ります。今村さんのコンセプトは、生体情報を取得して分析し、内面を改善するためのフィードバックを音楽とエンターテイメントの形で提供するというビジョンに昇華されていくことになります。

人のパフォーマンスを高めるために「脳」を知る

今回、今村さんたちがCESに出展したデバイス「VIE ZONE」の特徴はやはり、音楽ニューロフィードバックという手法を用いてストレスを解消し、最適な集中力をもたらすという点にあります。このアイデアはどこから着想したのでしょうか。今村さんはバスケットボール選手たちのパフォーマンス環境を例に次のような話をしてくれました。

シカゴブルズが3年連続全米チャンピオンになった時代がありましたが、彼らは最高のパフォーマンスを発揮するための環境を作り出すことができる方法を持っていたと言われています。

コーチのフィル・ジャクソンはコミュニケーションやトレーニングの中で、選手たちのメンタル状態を向上させることで、チーム全体のパフォーマンスを高めることを目指していたそうです。

もし、そのような状態が自然に作り出せたらどうだろうと考え、メンタルの状態について脳科学的な観点から研究を始めたのがはじまりです。

脳内での高パフォーマンス状態がどのように発生するのか、そして脳に介入することで、脳の状態を変化させることができるのか、科学的かつ再現性の高い研究を続けたんです。(VIE STYLE 今村泰彦氏)

一方、脳の状態を計測することは一般的ではありません。デバイスは高額で、装着についても専門の知識が必要になるからです。

ちなみに脳の働きや状態を計測・解析・操作することで医療やヘルスケア、教育やスポーツ、マーケティングなどに役立てようという動きは広義でブレインテックと呼ばれ、世界的なスタートアップとしてはイーロン・マスク氏が設立したNeuralinkや脳活動を測定するデバイスを開発するKernelなどがあります。国内でも大手を中心にマーケティングや製品開発への活用が模索されている最先端の領域と言えるでしょう。

脳の活動をいかにして日常に取り入れ、生活の役に立てるかーー。今村さんは普及するスマートフォンと自身のバックグラウンドでもある音楽、そしてそれらをつなぐイヤフォン・ヘッドフォンに注目することになります。こうして完成したのがVIE ZONEです。

VIE ZONEの反響

開発実験

VIE ZONEは東京大学やKDDI、NTTデータなどとの共同開発・提携を経て生まれたデバイスです。脳の疲労度を分析して休憩が必要なタイミングをユーザーに知らせ、脳疲労度が高い場合はリラックス効果のある音楽コンテンツを使ってストレス解消を促し、精神状態の回復をサポートする、というものです。

東京大学とは研究論文も発表しており、一連の研究を通じてその効果を科学的に証明しています。CESに出展したことで得られた反響について今村さんは次のように語ってくれました。

エンターテイメントや五感の刺激ってストレス軽減の効能がありますが、それを科学的にできるデバイスとして開発し、さらに我々が慣れ親しんでる端末を掛け合わせて、日常からいろんな自分自身の身体の状況を把握できるようにしたというのがVie Zoneです。

全米で販売を始めたんですが、私の世代である40代以降の方々がボリュームゾーンになっています。おそらく頭脳労働をしている人たちが、集中力を保ちたい、パフォーマンスを維持したいというニーズから使用していただいているのだと考えています。

以前は(ブレインテック領域で)日常的に使用できるものがあまりなかったのですが、今はそうしたデバイスが増えてきています。さらに、ストレスや認知症の増加などの社会問題もあり、それらを解決するためのデバイスが求められるようになっています。

当社も多くのフィードバックをいただいているところです。大手企業の方々から製品開発の提携の話や、有名なアーティストとのコラボレーションなどのお声がけもいただいたりしています。(VIE STYLE 今村泰彦氏)

サウナで「ととのう」状態を耳から知る

ととのい状態をスコア化

CESでの手応えを元に今村さんたちが次に手掛けたのが「サウナ」です。脳波から生成した音楽で新たなサウナ体験を提案するイヤホン「VIE CHILL(ヴィーチル)」の限定発売を開始しました。4月末まで実施されたクラウドファンディングは目標金額の8倍近くを集め、大いに注目されることになりました。

VIE CHILLは、VIE ZONE同様にイヤーチップが耳から脳波を取得してユーザーの脳状態を可視化。さらに、AIが脳状態を解析し、個々の脳の状態に合わせた音楽を生成することで、理想的なサウナの「ととのい」を提供するサービスです。専用アプリではユーザーの脳の「平常状態」と「ととのった状態」をAIが学習し、専用の「ととのい脳AIモデル」を作成して、「ととのい」度を数値化してくれます。

世界で初めて脳科学的に『ととのう』状態の再現性を高めることができるデバイスを開発しています。実際にどのような状態になるのか、その『ととのう』ところにこだわりました。

すごくリラックスしている状態では脳から低周波数帯が出るんですが、どんどんサウナのセット回数を重ねる度に、その周波数帯が上がるんです。つまり、認知力は下がってすごく気持ちよくなっているという、いつもとは違う状態になるわけです。

そこに入ってるときにデバイスを装着することで、自分が最高に『ととのってる』状態に対して、どのぐらいの距離があるかをスコア化できるようになります。さらにその状態が定義できたら、そこに向けての活動を寄せていくっていうことができます。

自分のベストというか、これが『ととのう』状態だ!っていうのをまず設定して、そこの差分を埋めるような音楽を流すことで、もう自分の状態がどんどん良くなっていきます。(VIE STYLE 今村泰彦氏)

耳から脳の状態を把握して精神の回復を支える、という新しいスタイルと確立したVIE STYLE。今村さんたちはこの目に見えないメンタルの状態をうまく調整できるサービスを作り続けたいと語ります。

最終的な目標は使用するだけで自動的に脳がチューニングされ、集中したい時には集中でき、リラックスしたい時にはリラックスできるようなサービスを目指したいですね。(VIE STYLE 今村泰彦氏)

次回もCESに出展したスタートアップをご紹介いたします。

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