インキュベイトFとマイクロソフト、ジェネレーティブAI特化のピッチイベントを開催——新進気鋭8チームが登壇

SHARE:
Image credit: Masaru Ikeda

インキュベイトファンドと日本マイクロソフトは5月28日、都内でジェネレーティブ AI に特化したセミナーとピッチイベントを開催した。これは累計600社への投資、AUM 1,250億円を誇るインキュベイトファンドが事業開発のナレッジを提供、他方、Microsoft for Startups Founders Hub が Azure の無償クレジットをはじめ技術支援をすることで、ジェネレーティブ AI に関するスタートアップの動きを加速しようとするものだ。

当日は、両社の有識者らがジェネレーティブ AI の最新事情を参加者に共有した。まあ、複数のセミナーセッションの後には、8チームによるピッチイベントが開催された。Stability AI の Jerry Chi 氏、日本マイクロソフトの原浩二氏、インキュベイトファンドの和田圭祐氏がピッチイベントの審査員を務め、リアルタイムで低遅延の音声変換ができるサービスを提供する Parakeet が最優秀賞に選ばれた。本稿では登壇した8チームのビジネスやサービスを紹介したい(紹介は登壇順)。

SANKA by サンカ

Image credit: Masaru Ikeda

ジェネレーティブ AI は、それ単体では外部の情報、つまり、インターネット上に散在するサードパーティーの情報リソースにアクセスできないため、質問に対して回答が得られなかったり、回答の内容が正確でなかったりする。ジェネレーティブ AI が外部サービスにアクセスできるようにするためプラグインが提供され始めているが、プラグインの設定が難しかったり面倒だったりする。

このプラグインが容易に使えない問題を「ジェネレーティブ AI のラストワンマイル問題」と称するとのことだが、サンカでは、プラグインの設定をテンプレート形式で用意することで、自動化の裏側の仕組みを簡単に利用できるようにした。SaaS の増加により iPaaS の重要性が増すこと、大規模言語モデル(LLM)ではラストワンマイル問題を解決できる企業に商機が集まるとしている。

フォトグラファー AI by NectAI

Image credit: Masaru Ikeda

e コマースでは美しくわかりやすい商品写真を掲示することがコンバージョン向上につながるが、e コマース事業者にとっては、数多くの商品の写真を加工することは時間とコストっがかかる作業だ。フォトグラファー AI では Stability AI を使うことで、撮影された写真から商品のみを抜き出し、背景や一緒に映り込むオブジェクトを自然な形で合成することができる。

写真の編集コストを人がやる場合の100分の1程度にまで圧縮できる可能性があり、e コマース事業者の負担が軽減されれば、ロングテールの波にも拍車がかかるだろう。Nect AI は、ブランディングのためのチャットボット「Branding Copilot(AI ディレクター)」も提供している。この分野は Typeface AI などと競合するが、Nect AI では日本やアジア市場で攻めるとしている。

MeeFa Assistant by MeeFa

Image credit: Masaru Ikeda

セールスパーソンにとって、営業先に関する情報収集の準備は重要だ。準備の有無で、成約率の差は2.1倍に上るという。しかし、実際には67%の人が、時間が無いなどの理由から準備を怠っている。重要ではあるけれど、ついつい後回しにしてしまうのだ。1社あたり平均43分かけるという準備作業を、ネットから入手できる情報で代行支援するのが MeeFa Assistant だ。

MeeFa Assistant は、社名を入力するだけで、当該社の Web サイトと有価証券報告書から情報収集し、AI が営業トークのパターンを生成する。最初に営業したい商材を登録しておくことで、何を誰に売るかという情報を元に、どのように売ればいいかの文脈を生成してくれる。仮説提案営業の定着を支援し、商談相手からの信頼獲得に繋げ、営業活動の非属人化を図る。

AITuber by SONAE

Image credit: Masaru Ikeda

YouTuber をバーチャル映像で演じるのが VTuber(Virtual YouTuber)だが、これをさらに発展させて、人ではなく AI が VTuber を演じるのが AITuber だ。VTuber では、バーチャルとはいえ、人が運用しているため演じられる時間に制約があったり、動きや声を演じるパフォーマーに依存するため課題は少なくない。

AITuber は AI が演じているため24時間365日継続的な運用が可能で、仮にオーディエンスから心無い言葉をかけられることがあても、演者が精神的なダメージを負うこともない。従来の AITuber はアドリブの対応に弱かったが、SONAE では ChatGPT 導入したことでこれを克服した。動画配信をベースに、1対1音声対話事業、IP 事業、メタバース事業などを進めていく。

NFT を活用したポッドキャストの新たな収益化手段の提供 by 細谷さん

Image credit: Masaru Ikeda

ポッドキャストクリエイターにとっては、その市場の小ささから作品を収益化するための手段は限定的だ。企業のプロモーション案件を獲得できるクリエイターもほんの一握りしかいない。そこで細谷氏は、NFT を活用したポッドキャストプログラムを提案した。クリエイターには新たな収益化手段と、ファント持続的な関係性を保ちながらコンテンツ作成を可能にする。

クリエイターは作品の所有権を NFT を使って売却でき、聴いているファンに利益を分配しコンテンツ制作に参加してもらうこともできる。また、ジェネレーティブ AI とファンエンゲージメント分析ツールにより、どんなコンテンツがバズるかをクリエイターにアドバイスする。ポッドキャストの生成支援からはじめ、将来は短編のラジオドラマが制作できるようなプラットフォームを目指す。

BANTO さん by 玉川さん・池田さんら

Image credit: Masaru Ikeda

慶応ビジネススクール(KBS)に在籍するチームメンバーは、クラスメートに企業経営者の2代目、3代目が多く、家業が DX しない問題をしばしば語り合うという。その極め付けは、バックオフィスが非効率であることだ。DX が進まないのには、リードする社員がいない、経営者も従業員も関心が無い、テクノロジーアレルギーなどの理由が考えられる。

そこで、彼らはバックオフィス業務を緊急対応が必要なものと、ルーティング対応でよいものに大別し、そのうちの緊急対応が必要なものは主に経営者が自ら対応していることが多いと考え、さまざまな経営者の悩みに LINE 経由で ChatGPT が回答するサービスを考案した。対応内容には士業の資格が必要なものも想定されることから、有資格者と共に自動回答事例の作成を視野に入れる。

リアルタイム音声変換 by Parakeet

Image credit: Masaru Ikeda

Parakeet は、AI を使って収録後音声変換とリアルタイム音声変換の仕組みを開発するチームだ。彼らの技術は、松任谷由実が50年前の荒井由実と「競演」する新曲 MV などにも採用された。最近、特に力を入れているのはリアルタイム音声変換で、AI により入力された音声が別の音声に、GPU が搭載されていない一般的な MacBook の CPU でも0.4秒以内という低遅延で変換が可能だ。

運用環境が軽いためユースケースも幅広いが、現在、テーマパークで話せる着ぐるみと、オンラインライブ配信プラットフォームへの搭載を目指している。前者は、予め用意してあるセリフが終わってしまうと着ぐるみは話せないため子供たちは違和感を感じるが、システムにより、その後の会話も可能にできる。後者はスマホで動くので、ライバーが可愛い声になれる機能の提供などが考えられる。

AI を使ったゲームデザイン支援 by Assethub

Image credit: Masaru Ikeda

ゲーム制作の費用が日に日に高くなる中で、特に注目すべきは、制作コストの約30%はイラストや 3D モデルなどのアセット制作に費やされているという事実だ。Assethub では、AI を使ってアセットの制作コストの圧縮を提案、AI を使って、2.5次元の 3D 空間で使える 3D キャラクタと背景の生成を実現する。同社は 3D のアセットをゲーム向けに提供することに特化する。

Assethub はアメリカを拠点に活動しているが、欧米の同種サービスの多くがリアルな人間の風貌をベースにしているのと比べ、Assethub はイラスト調の 3D モデルを生成し、日本発のサービスであることを特徴付けている。画像を投入するだけで美しいゲームアセットが制作できるので、予算は乏しくても作り込みが求められる Web3 ゲームやインディゲームメーカーが当面のターゲットだ。

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する