
MicrosoftのSatya Nadella(サティア・ナデラ)最高経営責任者(CEO)は、この緊急事態に直感的なリーダーシップを発揮した。
ジェネレーティブAIのリーディングカンパニーであるOpenAIにおいて週末に起きた混乱に自ら飛び込み、可能な限りのことをやってのけたのだ。彼は週末に何時間もかけて交渉し、OpenAIのCEOを解任されたSam Altman(サム・アルトマン)氏をMicrosoft社内のAIイノベーションに特化した新子会社の責任者に迎え入れたーーーかに思えた。
一見すると、これはMicrosoftにとって大きな勝利だ。なぜなら、技術分野で最もホットな分野であるジェネレーティブAIで、Altman氏がもつ成長のDNAを手に入れることができるからだ。Altman氏とBrockman(ブロックマン)氏は、OpenAIのビジネスの中で、成長志向の強い製品部門を代表していた。OpenAIは800億ドルから900億ドルと評価される条件で資金を調達しており、MicrosoftがOpenAIを買収しようと思えば、数百億ドル、いや数千億ドルを支払う必要があった。今、MicrosoftはOpenAIの主要資産(頭脳)を手に入れ、OpenAIのモデルもおそらくそれに続くだろう。
そう、なんてお買い得なんだろうか!
株式市場はそう考えた。Microsoftの株価は月曜朝の取引開始時に1%以上跳ね上がり、この巨大企業の評価額は過去最高の2兆7,800億ドルに達した。
しかし、だ。
月曜日の朝、突然すべてが再び流動的になった。残されたOpen AIの従業員の大多数が、今朝早く、取締役が辞任してAltman氏とBrockman氏を復職させない限り、自分たちは辞めるかもしれないという書簡を理事会に送ったと報じられている。残された取締役が辞任を決断すれば、Altman氏とBrockman氏が復帰し、安全重視の理事会の制約を受けることなく、OpenAIをこれまで以上に積極的な成長に導く可能性がある。
Microsoftは最大の出資者だ。
OpenAIが吐き出す利益に参加することを考えれば、それ自体はMicrosoftにとっては非常に良いことかもしれない。一方、OpenAIのジェネレーティブAIの分野における力強い成長とスピードは、同じくエンタープライズ向けジェネレーティブAIの分野でリーダーになろうとしているMicrosoftとの間に緊張関係を生む可能性があることも事実だ。
しかし、緊張関係がすべて悪いわけではなく、既存のパートナーシップによって、Microsoftは技術やノウハウへの多くのアクセスを得ることができる。これにより、MicrosoftはAWSやGoogleとの競争で、AIを組み込んだ強力なクラウド技術ソリューションをエンタープライズ企業に提供する上で、確実に優位に立てるだろう。
ただ、Altman氏とBrockman氏がOpenAIに戻ってくる可能性は高いとは言えない。残りの役員たちはすでに、会社の消滅を認めることはミッションに合致すると述べたと言われている。理事会が翻意して従業員による退職の脅しを気にせず、OpenAIの従業員の多くがMicrosoftに行く可能性も十分にあるのだ。
Microsoftは、Open AIの従業員が入社することを選択した場合、全従業員にポジションを提供することを約束している。
もしOpenAIが崩壊すれば、多くのOpenAI従業員にとって重要なモチベーションであったと思われる、本来のAIの安全性というミッションはどうなるのかという大きな疑問が生じる。また、Microsoftが早急に安定性を確保しなければ、優秀な従業員の不満や注意散漫を招き、彼らは他へ行くことを決めるかもしれない。
月曜のもうひとつの大きな展開は、OpenAIの大規模言語モデル(LLM)技術に安全策を講じる必要性を強く訴えてきた共同設立者のIlya Sutskever(イリヤ・スッツケバー)氏が、OpenAIの理事会に反旗を翻したことだ。これは、Sutskever氏がMicrosoft社内でOpenAIの安全性ミッションを率いる可能性があること、あるいは、取締役が辞任し従業員が残る場合は、OpenAI社内で引き続き安全性ミッションを率いる可能性があることを意味する。
週末に入り、Nadella氏らは会社の安定を取り戻すため、金曜日に不本意な形で解雇されたSam Altman氏をOpenAIのリーダーに戻す努力を支援したと言われている。噂では、数百人のOpenAIの従業員がAltman氏を支持して会社から去っていくだろうと言われており、Nadella氏は可能な限り最も安定した座組を作るという一心で交渉を進めたようだ。
さらに日曜日遅くには、理事会がAltman氏を受け入れないことは明らかで、その代わりとしてOpenAIの暫定CEOとして、元Twitch CEOのEmmett Shear(エメット・シアー)氏を雇った。
そこでNadella氏は、Altman氏にMicrosoft社内で任務を継続する場所を提供した。おそらく、Nadella氏は強力なインセンティブ・パッケージを提示したのだろう。Nadella氏はOpenAIの株式を直接保有しておらず、全く新しい会社を立ち上げることは法的リスクも含め、大きなリスクを伴う可能性があった。
Nadella氏はXで、Altman氏がイノベーションの新たな基盤となる新しいグループに加わることを楽しみにしていると次のように述べた。
「GitHub、Mojang Studios、LinkedInなど、Microsoftの中で創業者やイノベーターが独立したアイデンティティや文化を築ける場所を与える方法について、私たちは長年多くのことを学んできました」。
I’m super excited to have you join as CEO of this new group, Sam, setting a new pace for innovation. We’ve learned a lot over the years about how to give founders and innovators space to build independent identities and cultures within Microsoft, including GitHub, Mojang Studios,…
— Satya Nadella (@satyanadella) November 20, 2023
尊敬するNvidiaの研究者・科学者であり、OpenAIの元社員であるJim Fan(ジム・ファン)氏は、これを4Dチェスの名手と呼んだ。
Microsoftは、OpenAIと手掛けてきた作業を継続し、自社製品やパートナー向けに計画された機能の立ち上げに移行すると同時に、傘下の全く新しいAI研究チームを支援すると述べている。これによりMicrosoftは、WindowsやTeamsを含む自社製品のために、AIの力をより簡単に利用できるようになる。
「我々は、彼らの成功に必要なリソースを提供するために迅速に動くことを楽しみにしています」。
【via VentureBeat】 @VentureBeat
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