
本稿は、Web Summit 2023 の取材の一部である。
ポルトガルの首都リスボンで13日(現地時間)、世界最大のスタートアップカンファレンス「Web Summit」が開幕した。16日まで開催される。5週間前の10月7日、パレスチナの武装組織ハマスがイスラエルに対し攻撃をはじめ、双方が奇襲と攻撃を繰り返すこととなり、大きな犠牲を出し続けているのは読者も承知の通りだ。
そんな中、Web Summit の創業者で CEO(当時)の Paddy Cosgrave 氏がパレスチナ寄りの発言をしたことで、ユダヤ人が大きな力を持つテックシーンの状況を反映し、スピーカーやスポンサーが続々と不参加を表明。Cosgrave 氏は CEO 退任を余儀なくされ、新 CEO には Wikimedia Foundation の元 CEO で、Signal Foundation 役員の Katherine Maher 氏が就任した。

Image credit: Web Summit
Signal Foundation は、分散型メッセージアプリ「Signal」が設立した財団で、誰もが自由な発言・表現ができるようにすることを意図し活動している。以前、香港で発生した普通選挙を求める学生デモ(通称・雨傘革命)の時にサーバ不要のメッセージアプリが使われたことを書いたが、Signal もまた、エンド・トゥ・エンドで通信が暗号化されるため、政府などに内容を傍受されにくい。
彼女が以前 CEO を務めた Wikimedia Foundation の Wikipedia もある種、自由な表現・発言を象徴する存在だ。書き込んだ内容はレビューされるものの、特定の意見を持った誰かが内容を不正に改竄したり、公開を阻止したりすることはできない。中国国内から Wikipedia へのアクセスを一部遮断していることから考えても、自由な発言・表現ができるプラットフォームになっていることは間違いないのだろう。

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新 CEO に Maher 氏を迎えたのは、Cosgrave 氏の CEO 退任にあたってのメッセージ、または、自身のコメントに対する反論への反論と見ることもできるが、スピーカーやスポンサーからのボイコットが、Cosgrave 氏から自由な発言機会を奪ったかというと、その解釈はミスリードだろう。イスラエルやユダヤ人同様、パレスチナ人もテック界で発言力を持つことが一つの解になると思える。
Maher 氏によれば、今年の Web Summit の参加者は7万人で、スタートアップ2,600社、投資家900社、パートナー企業300社が参加している。Web Summmit は今年からリオ・デ・ジャネイロ(ブラジル)への進出したのに加え、来年からドーハ(カタール)に進出することも明らかにしている。これを受け、カタール政府の支援を受けるアルジャジーラが公式メディアパートナーに加わった。
<14日日本時間22時更新> 現地時間14日正午に発表された最終統計によると、参加者などの数値は次の通り。
- 153カ国から70,236人が参加
- 参加者の43%が女性、講演者の38%が女性
- 2,608のスタートアップが出展、ほぼ3社に1社が女性創業者
- 321のパートナーが展示会場に集結
- リスボン市内のホテル稼働率は85%以上の見込み

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リスボン市長の Carlos Moedas 氏は、Web Summit が2016年からリスボンで開催されるようになって以降(以前はアイルランドのダブリンで開催されていた)、世界23カ国からスタートアップ54社が来葡し、その結果、ユニコーンが12社生まれたことを強調した(元々ポルトガルのスタートアップも含まれる)。結果、1万人以上の新たな雇用がリスボンで生まれたという。

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また、Opening Night では、Wikipedia の共同創業者である Jimmy Wales 氏が登壇した。彼は、AI がつく嘘、幻覚の問題に言及し、どのようなジェネレーティブ AI も正確な情報の学習が必要になることから、そのリソースの一つとして、Wikipedia の大きな可能性を示唆した。
Wikipedia は民間企業ではなく、多くの人からの少額の寄付金によって成り立っているため、特定の企業や人物の意図が働いて、事実が捻じ曲げられたり、情報が改竄されたりするリスクは少ない。Wikipedia に蓄積された莫大な情報は、アメリカやヨーロッパで話題になっている「責任ある AI」の構築にあたって貢献できることは多いかもしれない。
Wales 氏のファイヤーサイドチャットをはじめ、Opening Night の一連の内容は、以下の動画で確認することができる。
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