ライドシェア保険から紐解くインシュアテックの今(1/2)

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Photo by Andrea Piacquadio from Pexels

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載。Universe編集部と同社のInvestment Group、Directorの皆川朋子氏が共同執筆した。

2019年にMcKinseyが発表したレポートによると、2012年以降のインシュアテック(保険テクノロジー領域)への合計投資額は100億ドルに上るという。また、Accentureの別レポートでは、86%の保険会社が競争力を維持するためにイノベーションを加速させる必要があると答え、87%がもはや業界は直線的ではなく指数関数的な成長を見せていると回答している。

保険業界を大きく変えるインシュアテックで今、何が起こっているのか。グローバル・ブレインでは国内P2P保険を手掛けるjustInCaseに昨年投資をしているが、この領域での知見をいくつかのポイントに整理してみたいと思う。

オンデマンド経済が変えた保険のあり方

昨今の保険業界に大きな影響をもたらすキーワードとして「オンデマンド経済」と「ビッグデータ」が挙げられる。まずはオンデマンド経済と保険の関係性から紐解いていきたい。

日本でUberEatsのようなオンデマンド配達サービスが流行っているように、スポットで短時間だけ働ける環境が整いつつある。すると、従来の保険とは違うスキームが必要とされてくる。世界的にはライドシェアが最たる例であろう。

8月に3,100万ドルの調達を発表した「Buckle」というスタートアップは、ライドシェアを利用するドライバー向けに保険を提供している。従来の保険会社が年齢や運転歴などの要素を考慮するのに対し、Buckleはライドシェアの評価なども考慮に入れて柔軟な保険プランを提案しているのが特徴だ。

シェアリング市場は日本でも様々な領域で広がっている。多数拠点の居住サービスや留学生向けの民泊、キャンピングカーやヨットといったものまでシェアの考えは浸透し始めている。

これは何を意味するのか。シェアは所有に比較して稼働する時間が少ない。一方、不特定多数が利用することのリスクも高まる。また、シェアというのはオンデマンドとセットになっている。つまり「より細分化された柔軟な保険」に対するニーズが高まっていた、ということが市場背景として考えられる。

ちなみに国内では、2006年に施行された少額短期保険(いわゆるミニ保険)によって、こういった新しい経済圏に対して保険が対応しやすくなったことも付け加えておく。

ビッグデータで変わる保険業界

justInCaseの「スマホ保険」はセンサーデータからスコアを算出

もうひとつの視点で重要なのがビッグデータの存在だ。保険とデータは相性がよい。

自動運転車に対して保険サービスを提供する「Avinew」もこのトレンドに合致するだろう。自動運転技術はデータの宝庫だ。どの道をどんな天候で選ぶのかによって事故の発生率が事前予測しやすくなった現代では、データで保険料を変動させることができる。

スマートフォンの保険を展開するjustInCaseの場合、スマホの各種センサーを活用したデータスコアリング(安全スコア)を計測している。ユーザーがどのような使い方をしているのかをデータから割り出し、より個人に最適化されたカタチの保険提案を実現している例だ。

また、医療・ヘルスケアデータの活用も注目される領域だ。従来の医療保険では基礎疾患や過去の疾病履歴により加入できない場合があるが、例えばウェアラブルデバイスを装着することで生体データを取得したり、食事内容をモニタリング・記録するなど、疾患を予防できる日々のエビデンスを得ることにより加入対象を拡大できる可能性が広がる。

もう一点、ビッグデータの活用と並び、保険業務そのもののデジタル化の影響も大きい。

例えば昨今発生した感染症拡大の問題で、変わらざるをえなかったのが対面契約のあり方だ。非対面での営業活動が長期化する中、テレビ電話やLINEなどのチャットで保険の説明を完結させる流れが徐々に生まれつつある。

海外の事例では火災保険なども、書類提出プロセスがデジタル化されていたり、衛星写真から家の写真を撮影して、その場で保険料を自動計算できたりと効率化が進んでいる例もある。

こういったプロセス自体の効率化においても、スタートアップ参入の間口が広がることもインシュアテックを語る上で重要な視点になろう。(次につづく)

 

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