Amazonの「手のひら」Key戦略:顔と手、どっちが安心?(2/2)

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顔と手のひら、どっちが安心?

Imaeg Credit:Amazon One

(前回からのつづき)貯金額を聞くのがある種タブーであるように、漏洩リスクがゼロではない銀行以外のシステムに個人と財布を親密に結びつける情報を渡すことに一切の不安がない人は少ないでしょう。それが顔ともなれば尚更です。

当然ですが、身体において一番プライバシーレベルが高い情報は顔です。パブリックな身元確認時には顔付きの証明書を要求されるように、顔と本人が持つ情報を結び付けることにはリスクが伴います。しかし、手のひらであればそのリスクを減らすことができます。

さらに、Keyの情報漏洩が起きた場合、顔情報であれば「ネットタトゥ」になるような悪用を懸念する必要があります。しかし、手のひらであれば二次的な被害を心配する必要はありません。Amazon Oneが手のひらをKeyとして採用した大きな理由はここにあります。

もちろん、深層心理で躊躇してしまうプライバシーだけが手のひらを採用した理由ではありません。本人特定能力においても手の方に優位性があります。手は高周波通しにくい身体組織において最も薄いパーツで、赤外線を用いた内部構造を把握しやすい特徴があります。そのため顔認証同様に表面形状の情報(しわ、瘢痕、隆起)に加えて内部構造(静脈、骨、軟組織)をAIによる特徴ベクトルが多い参照署名を作製することが可能になります。

この情報が仮に漏洩したとしても個人情報にたどり着くのは至難の技です。プライバシーを尊重しつつ、セキュリティの面からも手のひらは強固なKeyと言えます。

Imaeg Credit:Amazon One

つまり、多くの人が躊躇させてしまう点を避け、それだけでは個人を特定できな手のひらとクレジットカードを結んだ点にAmazon Oneの凄さがあるのです。そしてAmazon Oneは手のひら認証の技術でAmazonを新たな市場へと導く可能性を秘めています。

例えば、イベントの入場に必要なチケット。多くのイベントがウェブやアプリで処理ができるようになったものの、イベントごとに異なるサイトに情報登録が必要であったり、入場時には紙のチケットと本人確認を必要とするケースが少なくありません。仮にAmazonに登録されている情報でイベント登録が済み、Amazon Oneに入場口で手をかざすだけになれば体験として申し分ありません。

さらに、Amazonが本人認証と情報庫として浸透できれば本来のAmazonの強みを活かしてイベントチケット販売、グッズ販売を手がけることも可能となります。主催者側にとっては一貫して煩雑な管理を任せられる強力なパートナーとなるでしょう。

もちろん、本人確認をするシーンはチケットだけではありません。強弱様々な本人確認が必要な市場に切り込む武器、それがAmazon Oneなのです。

一見地味で、レジを効率化するものでもなければAmazon Goのような無人店舗の利便性を劇的に良くするものでもない単なる生体認証技術がAmazonを成長をさせるのか、Amazon Oneとどこがどのようなコラボレーションをするのか楽しみになってきました。

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