元テスラ開発者が挑む「長時間保存バッテリー」、Form Energyが挑戦する再エネ実現社会

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(前回からのつづき)2社目は風力と太陽エネルギーを長期間保存できる、低コストのバッテリーシステムを開発するForm Energyをご紹介する。同社はマサチューセッツ州サマービルに拠点を置く2017年創業のユニコーンスタートアップだ。Crunchbaseによると、現在までにシリーズBラウンドの資金調達を実施し、調達総額は約8億2,000万ドルとなっている。投資家としてビル・ゲイツ氏のBreakthrough Energy Venturesなどが入っている。

前回紹介したEnerVenueや、リチウムイオン電池を製造して最近では木質電池の開発にも取り組むスウェーデンのNorthvolt(直近ラウンドで71億ドルの資金調達を実施)など、バッテリースタートアップは大規模なラウンドを迎えるケースが増えている。これは研究開発から製造にフェーズが移るタイミングでギガファクトリー建設などを目的に大型の資金が必要となるこの領域ならではの特徴だろう。Siftedによると、ヨーロッパだけでも32以上のギガファクトリーが建設中とのことだ。

今回ご紹介するForm Energyもウェストバージニア州ウィアトンに7億6,000万ドルを投じて、大規模な製造施設の建設に進むスタートアップの一つで、同社が研究開発を進めているのが「鉄空気電池」と呼んでいるものだ。

ただこれ、鉄や水を材料としたバッテリーであることは明らかになっているものの、批判の声が出るほどの過度な秘密主義を貫いているため詳細はまだわかっていない。同社創業者のMateo Jaramillo氏は登壇したイベントの中で、50年前に研究されていたものに現代の電気化学と腐食技術を組み合わせて実現したものだと示唆している。

つまり、根本的に新しいテクノロジーというわけでなく、アイディアが新しいということなのだろう。材料が安価で供給が安定していることもあり、リチウムイオン電池と比べると10分の1のコストで生産可能になるそうだ。

同社はストレージ業界のプロフェッショナル達によって創業されたことでも注目を集めている。CEOのMateo氏はテスラのPowerwallバッテリーを作成したチームを率いていた人物だ。さらにCSO(Cheif Science Officer)のYet-Ming Chiang氏は1985年からマサチューセッツ工科大学(MIT)で長期間エネルギー貯蔵できるフロー電池用の水性硫黄配合を研究をする教授で、Baseload RenewablesとAquionというベンチャーを率いた経験を持つ。

Yet-Ming Chiang氏はMateo氏と長時間ストレージ開発のビジョンが合致したこともあり、副社長だったTed Wiley氏を連れて同社に合流した。さらにそのChiang氏の教え子のWilliiam Woodford氏がCTOを務めるなど、豪華な顔ぶれと言えるだろう。

同社の最初の商用プロジェクトは、ミネソタ州の電力会社Great River Energyと定格電力を150時間連続して供給することができる1MWのグリッド接続型貯蔵システムを提供するものだ。

再生可能エネルギーによって生成された電力を提供するためには、常に「利用可能」であることを保証する必要がある。電力を長期保存できる貯蔵システムは、数日間にわたって急激に変化する気諸条件に対応でき、これが価格の安定に繋がるという。

Mateo氏は長時間保存という特徴を踏まえて「双方向発電所」と呼んでいる。長期エネルギー貯蔵について取り組む企業は多い。Primus、Gravity Power、Hydrostoなど様々なアプローチで実現を目指すが、今だ商業展開の目処は立っていないという。

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