ゲストライター

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未来の働き方はワーク・オンデマンド、その方法を提供する世界のスタートアップをご紹介【ゲスト寄稿】

本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Entrepreneur アジア太平洋版(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。 This article was first published in Entrepreneur APAC. <関連記事> 世界的な「後払い(Buy Now…

本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Entrepreneur アジア太平洋版(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。

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「ギグ・エコノミー」から「ギグ」という文言を削除する時が来ただろうか? ほとんどの電話がスマートになった今、誰も「スマートフォン」とは言わななった。そして今、私たちは、オンデマンドで必要に応じて仕事をすることが、仕事の未来だと思われる段階に来ている。すべての仕事ではなく、多くの仕事でだ。マッキンゼーの調査によると、61%の企業が今後数年の間に、より多くの短期労働者を雇用することを期待している。他の調査によると、専門職からブルーカラーの仕事まで、あらゆるカテゴリーでこの慣行が増加している。

市場の変化に柔軟に対応したいという雇用主のニーズと、それに合わせて仕事をしたいという人々のニーズや欲求——そんな2つの力がこのトレンドを後押ししており、その影響はスタートアップの領域で顕著に見られる。多くの新興企業が成長のために柔軟な人材を求めている一方で、必要な人的資源を提供し、サポートする企業も現れている。

東南アジアの VC である当社は、ASEAN10ヵ国で起きているこの現象を目の当たりににしている。このような動きは、モバイルテクノロジーを中心とした急速な近代化と、それに耐えうる伝統的な制度とが融合した、世界の中でも多様性に富んだ地域で独自に展開されることが多いのだ。匿名の例を挙げてみよう。新興企業 A 社は、2億7,000万人以上の人口を抱える広大な国インドネシアでモバイル決済アプリの普及に努めている。そのためには、道端の小さな屋台から実際のレストランまで、地元の飲食店を経営するワルンと呼ばれる業者を取り込むことが重要だった。ワルンは国中に存在するため、決済プラットフォームに登録するには、特定の地域を直接訪問する必要がある。そこで、オンデマンド人材派遣会社であるスタートアップ B 社が、数日後にはチームを結成して対応にあたった。

新しい人材派遣業は、オフラインとリアルの仕事をマッチングさせるマーケットプレイスを中心に展開されている。しかし、このような働き方を実現するためには、フレキシブルなスタッフを管理するためのツールや、最も需要の高い仕事のために労働者を訓練するなど、他の要素も必要だ。ここでは、世界と東南アジアの5つの産業分野における代表的なプレイヤーとビジネスモデルをご紹介する。

オンデマンド・スタッフィングのマーケットプレイス

Image credit: Upwork

企業がフレキシブルなスタッフィングを利用する理由の一つに、定期的なプロジェクトワークへの対応がある。これには Web 開発者やグラフィックデザイナーなどのホワイトカラーが関わっており、このような人材を対象としたオンラインマーケットプレイスの代表的な存在がアメリカの Upwork だ。人手を必要としているクライアントは、このサイトにプロジェクトを掲載し、その仕事に応募してきたフリーランサーを面接して選ぶことができる。

東南アジアのマーケットプレイスのスタートアップの多くはそれぞれ異なる、ブルーカラーやグレーカラーの仕事のニーズが多いからだ。マレーシアの GoGet は、興味深いダブルプラットフォームモデルを採用している。「ビジネス」ポータルでは、労働者からデータ入力スタッフ、展示会のヘルパーまで、さまざまな労働者をオンデマンドで提供しており、「ホーム&ライフ」ポータルでは、個人の買い物客、家事手伝い、列の立ち番などを個人で雇うことができる。一方、インドネシアの Sampingan(Golden Gate Ventures の投資先)は、企業の顧客にターンキーアプローチを提供することに重点を置いている。同社は、オンラインマーケティング用のナノインフルエンサーを含む、非常に幅広いブルーカラー/グレーカラーの労働者を擁し、ワークマネジメントツールとサービスを一式で提供している。後者は、それ自体が重要な製品ラインとなっている企業もある。

スケジューリングとスタッフ管理

クライアント企業にとって、フレキシブルなアワーリーワーカーの活用は、サラリーマンの場合よりも難しい。一人一人が特定の時間にしか働けないこともある。しかし、全員を効率的に採用し、必要に応じてチームでスケジュールを組み、給与支払のためにタイムレコーダー管理を行わなければならない。アメリカの WurkNow は、ブロックチェーンを利用したモバイルベースのシステムを提供している。

ベトナムでは、サムスンのようなグローバル企業からの受託製造が経済の大きな部分を占めている。スタートアップの Viet.co は、中小企業向けにオンデマンドの労働者と管理ツールを提供することで、ニッチな分野を開拓している。シンガポールに拠点を置く StaffAny は、会社の垣根を超えて働くことを可能にする管理スイートを持っている。これにより、ワーカーは仕事の機会を組み合わせて働くことができ、同時に ASEAN 全体の労働力をより流動的にすることができる。また、インドネシアの AdaKerja は、スケジューリング、給与計算、リクルーティングを1つのサービスにまとめ、これらの付加価値サービスを融合させている。

賃金への早期アクセス

欧米でも東南アジアでも、給料日までの生活を余儀なくされている労働者には、早期賃金アクセス(EWA)プログラムが人気だ。EWA には、プレペイデイ・ローン(給料日前貸出)を低金利で利用できるものと、これまでの労働時間に応じてお金を受け取ることができるものがある。アメリカでは、BranchPayActiv などの企業がこの分野の初期のリーダーだ。ASEAN のスタートアップでは、GajiGesaWagelyGajiku などが有名だ。

EWA サービスは通常、バンドルの一部として提供される。例えば Branch は、EWA とスケジュール管理や給与管理を統合したエンタープライズパッケージを販売している。PayActiv や Wagely などは、従業員が自分で予算を計画・管理できる「ファイナンシャル・ウェルネス」システムを提供している。

国境を越えた仕事の円滑化

今月初め、Papaya Global は1億米ドルを調達しユニコーン入り。それを祝して、NASDAQ MarketSite に社名が表示された。
Image credit: Papaya Global / NASDAQ

海外での雇用は、バーチャルなリモートワークの容易さと、経済のグローバル化が大きな要因となっている。我々の VC はシンガポールに本社を置いているが、ここでは世界中の人々が仕事をしているし、東南アジアの人々は家と仕事の間で物理的に国境を越えることも珍しくない。このような形態は、人材を確保するには最適だが、各国の雇用規制に対応するには頭痛の種となる。

アメリカの Deel やイスラエルの Papaya Global は、このような複雑な問題に対処するために設立され、それぞれ140カ国以上のコンプライアンスに対応している。シンガポールに拠点を置く Multiplier は、ASEAN 企業の国境を越えたコスト削減と人材アクセスの拡大を専門としており、これは東南アジア全域で成長しているスタートアップにとって非常に重要なニーズだ。

職業訓練

アメリカを拠点とする Lambda School は、コーディングやデータサイエンスのオンラインキャリアプログラムを提供しており、革新的な延納モデルを採用している。公務員が重要な雇用手段である中国では、Offcn Education Technologies(中公教育)が、公務員試験の準備やトレーニング、教員養成、職業訓練などのコースを提供し、ユニコーンの地位を獲得している。

ASEAN 諸国の政府は、オンデマンド・ワークへの支持を強めている。インドネシアでは、2020年の「オムニバス法案」で労働法を緩和し、迅速な臨時雇用を可能にしたほか、新型コロナウイルスによる経済的影響からの回復を早めるための大規模なプログラムを開始した。失業者は、近い将来の社会的支援と再就職のためのトレーニングを受けることができる「prakerja(就職前)」アカウントを取得できる。

prakerja プログラムは、人々を支援すると同時に、スタートアップのエコシステムを刺激するという二重のメリットがある。Kitalulus のような新しい企業がトレーニングを実施するために設立され、既存のスタートアップも後押しされている。急成長中のエドテック企業 Ruangguru は、初等・中等教育科目のオンライン家庭教師や自己学習用のモバイルプラットフォームを持っている。現在は、企業向けのトレーニングプラットフォームの提供にも乗り出している。コアラインと新ラインの両方が成長し続ければ、小学1年生からミドルエイジのキャリアチェンジまで、あらゆる段階でモバイルベースの学習を提供できる企業になるだろう。

結論

アウトソーシングは世界をフラットにした。オンデマンド・ワークは次の進化だ。理想的には、すべての人にとって経済がより効率的かつ効果的になることだ。

東南アジアでは、オンデマンドのスタートアップは課題を抱えている。例えば、優秀なトラックドライバーや倉庫作業員が履歴書を持っていないような地域では、ブルーカラーの労働者を事前に確認することは困難だ。しかし、ASEAN にはイノベーションを生み出すための多くの利点がある。この地域は巨大(総人口約7億人)かつ成長しており、モバイルフレンドリーだ。また、シンガポールだけでも4つの公用語を持つなど多様性に富んでいるため、スタートアップは設立当初から多彩な成長モードに入ることができる。未来の仕事の形が見えてきたとき、その多くが東南アジアで生まれてくることを期待している。

本稿の執筆には、Nidhi Singh 氏の協力を得た。

まちづくりに「障害のある作家のアート」が染み出すROADCASTプロジェクト、ヘラルボニーと東急が共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 近年、企業活動において社会的な要請への対応がより強く求められるようになりました。SDGsにまつわる環境や福祉、ダイバーシティへの理解と行動など、利益と企業価値の向上だけでは見えてこない「人間本…

写真左から:ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥さん、東急のフューチャー・デザイン・ラボ事業創造担当の片山幹健さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

近年、企業活動において社会的な要請への対応がより強く求められるようになりました。SDGsにまつわる環境や福祉、ダイバーシティへの理解と行動など、利益と企業価値の向上だけでは見えてこない「人間本来の権利や生活に関わる取り組み」を企業は無視することができなくなりつつあります。

一方、こういった取り組みにはアイデアが必要です。今回ご紹介するヘラルボニーと東急の共創事例は、人と社会、企業それぞれが持っている課題を和らげつつ、持続可能な取り組みとしてまとめることに成功しています。街のビルボードをアートに変える取り組みについて、ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥さんと東急のフューチャー・デザイン・ラボ事業創造担当の片山幹健さんにその裏側をお聞きしました。

まちづくりに「障害のある作家のアート」が染み出す

街の中に溢れる屋外広告のスペースを出稿したい広告主とマッチングするプラットフォーム、それが東急の展開する「ROADCAST」です。この広告スペースに出稿がない空き期間をアートで華やかに演出しようというのが、今回の「Wall Art MUSEUM STORE」プロジェクトになります。

一方、タッグを組んだヘラルボニーは知的障害のある作家とアートライセンス契約を結び、2,000点以上のアートデータを元に事業を展開するスタートアップです。今回の共創プロジェクトでは、東急の管理する壁面広告の「空き枠」にヘラルボニーが管理するアートを配置しよう、というものでした。

もう少し具体的に説明すると、通常、壁面広告には下地となる枠があります。ここは空いている期間に何も表示されないか、空き枠募集の電話番号などが記載されることが多くなります。当然ながら見た目は悪く、空いている期間が長いと人気がないような印象を持たれてしまいます。

「Wall Art MUSEUM STORE」作品

東急や壁面広告枠を提供する不動産事業者にとっては、広告出稿がない期間も壁面を華やかに演出できると同時に、福祉への取り組みに協力することもできます。また、ヘラルボニー側も預かる作家の作品を一人でも多くの人々に届けることができるようになる、というわけです。

アイデアなのはここで作家の作品を買えるような導線を作ったことです。

QRコードを掲載してそこからオンラインストアで、アート作品をプリントしたグッズなどを購入できる仕組みなのですが、松田さんのお話では直接ここからやってくると同時に、街中でヘラルボニーの作品を知った人たちが自然とサイトに集まるようになったとされていました。片山さんはプロジェクトの狙いをこう語ります。

「売上の一部はアーティストと福祉施設に還元され、福祉分野の経済的活性化につなげます。渋谷、原宿、表参道、虎ノ門、新宿、銀座など約40箇所から開始し、今後もウォールアートを増やしていく計画です。開始から約3か月で300件ほどのQRコード読込があり、そのうち約30%が商品の購入ページに遷移しています。

ROADCASTは、屋外広告という切り口で街のちょっとした空きスペースを活用して街の価値向上につなげていく事業です。景観を害するものとして街の嫌われ者だったり、効果測定が難しくただただコストのかかる広告媒体だった屋外広告の可能性を追求し、アート展示など街の賑わい形成につながるメディアとしての整備やDX推進による効果測定の仕組み化など、街にとっても広告主にとってもWin-Winな存在を目指したいです」(片山さん)。

東急アクセラレートプログラムでの出会い

壁面アートからグッズを購入できる(ヘラルボニーのECサイト)

両社の共創は、東急が実施するアクセラレートプログラムにヘラルボニーが参加したことで始まります。

「元々ROADCASTは、落書きに悩む壁を中心に街中の数十~百箇所で広告を同時展開し、街の賑わい形成や落書き抑止という街への貢献を意識して展開をしていました。一方で殺風景な壁に戻ってしまう広告未稼働時がもったいないと感じており、持続可能な形で街や社会に貢献できる活用方法を模索していたんです。そんな折、ヘラルボニーの全日本仮囲いアートミュージアムという取り組みをお伺いし、それを発展させる形で、街をまるごとミュージアムショップにできないかというアイデアをヘラルボニーさんと話し合いました。期間限定のイベント的にアートを展示して終わりではなく、持続性のある展開としてじわじわと街中にウォールアートを増やしつつ、ウォールアートからECへと誘導して物販収益につなげているのがポイントです」(片山さん)。

街全体をアートミュージアムにしよう、という方向性はすぐに固まるものの、屋外でヘラルボニーのアートを展示すると施工コストが大きくなってしまいます。福祉という観点ではよい取り組みも持続性がなければイベントで終わります。そこで出たアイデアが壁面設置の下地パネルそのものをアート作品に変える、というものだったのです。下地パネルの製作・施工コストもそこから生まれる物販収益から回収することにしました。

「知的障害のあるアーティストとの接点はまだまだ少ないため、街を通してアート作品を掲出することで繋がりを生み出せたことには大きな意義があったと考えています。両社にとってプラスになるような仕組みを整えるのに苦戦しましたが、QRコードから売れた分の売り上げをシェアする仕組みを構築したことで、ヘラルボニーは壁面で販売し、ROADCASTさんは未利用壁面を活用できる、両者にとって持続可能な方法ができたと思います。結果、街でアート作品を発見した、というSNS投稿が見られるようになりました。壁面から弊社について検索した人など、認知度の向上に繋がっているのではと考えています」(松田さん)。

片山さんによれば、壁面を貸している物件所有者の方からも好評をいただいているそうで、こういった形で少しずつ、SDGsなどの活動に寄与できるという点も評価されているのだとか。今後は時期ごとに企画を練ってWall Art MUSEUM STOREならではのアート展示やアートを落とし込んだプロダクトの取り扱いにも挑戦したいとお話されていました。

次回も国内の共創事例をお届けいたします。

「サブスク料金立て替え」のPipe、SaaS時代の新たな投資モデル/GB Tech Trend

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。 今週の注目テックトレンド 在宅生活が当たり前になり、それに伴いSaaS企業が躍進しています。そんな中、SaaS企業向けフィンテックスタートアップが登場しました。名前は「Pi…

5,000万ドルの調達を果たした「Pipe」。Image Credit: Pipe

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

今週の注目テックトレンド

在宅生活が当たり前になり、それに伴いSaaS企業が躍進しています。そんな中、SaaS企業向けフィンテックスタートアップが登場しました。名前は「Pipe」です。2020年2月に600万ドル、6月には1,000万ドル、そして先日5,000万ドルの調達を果たしています。SaleforceのMarc Benioff氏や、AngelistのNaval Ravikant氏、他にもShopifyなどが出資しており、多くの投資家から注目を集めています。

PipeはB2B SaaS企業の収益回収モデルを変えようとしています。従来、SaaS利用企業は四半期や半年、年間契約を結びながら月額で利用料を支払ってもらうケースが大半でした。利用企業にとってはキャッシュアウトを抑えられ、コスト予測が出来るため年契約月額支払いは便利です。

他方、SaaS提供企業は契約金回収までの期間がかかってしまいます。特に立ち上げ時期は開発コストがかさむため初期費用がかかります。契約を獲得して成長スピードを上げたいが、契約金が手元に来るまで時間がかかる場合、新たに資金調達をして株式を放出するしかないと考えてしまいます。キャッシュフローと成長のトレードオフです。

そこでPipeはMRR(Monthly Recurring Revenue)をARR(Annually Recurring Revenue)へ即時転換できる投資プラットフォーム、言い換えれば「年間サブスクの建て替え」を提供しています。

仕組みはこうです。投資家がSaaS企業のビジネス健全性に基づいて多少割引した価格で年間サブスク額を購入します。購入金額は一括でSaaS企業に入り、月額収益がPipe経由で投資家の手に渡る、というわけです。Pipeの利用企業はサブスクの年間価格とほぼ同額のキャッシュが提供されるので、顧客のサブスクリプションの年間価値全額をすぐに自社資金とすることができるのです。

現在のPipeのモデルは、創業者が会ったとあるスタートアップファウンダーが、顧客に年間契約前払いを促すために収益を40%も割引し、同時にキャッシュフローのギャップを埋めるため資金調達していたことを課題に感じたことから生まれたそうです。

SaaS企業にとって、顧客企業と年間一括契約を結ぶために提示していた大幅ディスカウントは深刻な問題です。そこでPipeは、高いディスカウントなどせずとも素早く予測収益が回ってくるように投資家とのネットワークを整えました。こうすることで、ACV(Annual Contract Value)を限りなく高い率で維持することができるようになりました。

Gartner」によると、世界のパブリッククラウドサービス市場は、2020年には収益が2664億ドルに成長し、2019年の2880億ドルから17%増加すると予測されています。リカーリングモデルが当然となる中、Pipeのようなモデルは国内でも可能性がありそうです。

今週(3月8日〜3月14日)の主要ニュース

シード期のスタートアップ「強い組織」をどうつくる:”最大の難関”から権限委譲まで(2/2)

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー水谷航己氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@KokiMizutani。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から 採用フェーズ (前回からのつづき)スタートアップの組織創りにおいて、最初に…

Photo by Gustavo Fring from Pexels

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー水谷航己氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@KokiMizutani。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から

採用フェーズ

(前回からのつづき)スタートアップの組織創りにおいて、最初にして最大の難関がこの「採用」のフェーズです。特にシード期は実績もなければ知名度もなく、十分な資金調達もできていないという状態で事業を強力に推進できる仲間を探さないといけません。

このフェーズにおいては、具体的には6つのアクションが必要となってきます。

  1. 自社の数年後の事業状態を達成するために必要な未来組織図を描き、
  2. 採用候補者のペルソナを具体化し、
  3. 採用マーケティングを通じて候補者プールを創りながら、
  4. 既存のメンバー全員が腹落ちする共通の採用基準を醸成し、
  5. スピード感を損なわない形で質を担保する採用プロセスを確立して、
  6. 数ある就業機会の中から候補者に自社を自己実現の場として選んでもらう

①から⑤までは自社内で完結する部分も多いですが、⑥は相手のいる話でもあり、アンコントローラブルでもあります。従ってその不確実性を少しでも減じるため、自社で働くことがいかに魅力的な選択肢となるのか候補者に対して言語化して伝えていく努力が不可欠となります。

また、この採用フェーズでは、シード・スタートアップがハマりがちな罠が待ち受けています。

一つ目は、資金の制約条件の罠です。

シード期だと、「資金調達ができたら採用活動しよう」や「バーンを上げることができないから良い人を採用できない」といった思考にどうしても陥ってしまいがちです。結果的に組織としての事業推進力が不足することとなり、逆に資金調達も難航してしまうケースです。

二つ目は、タレントの制約条件の罠です。

目の前の経営課題に対して、まずは既存のチームメンバーでなんとかしようと考えると思います。自分たちだけですぐに解決できる場合もありますが、そうでないとき、その領域でトップクラスのタレントを仲間にするという思考に切り替えることができず、ベストプラクティスに到達できないケースです。

三つ目は、カルチャーフィットの罠です。

一つ目と二つ目の罠を無事に潜り抜け、その領域のトップタレントに巡り合うことができたとき、最後に待ち受けているのがこのカルチャーフィットの罠です。スキル面の要件は十分すぎるほど充足しているにも関わらず、事業を成功させるために必要な会社としてのバリューを体現できずに組織全体にネガティブな影響を与えてしまうケースです。

この三つの罠にハマってしまうと貴重な経営リソースを有効活用できず、事業成長の機会が失われてしまいます。採用が思うように進まないときや、強い組織への変化が見られないときは、これらの罠にハマっている可能性が高いので、罠にハマっていないか自問するとよいかと思います。

採用は強い組織創りの第一歩目でありながら落とし穴も多く、失敗したときのダメージも甚大な難易度の高い工程です。“Recruiting is Priority”として、採用を経営の最上位に常に置いてコミットしていくことが成功のカギになってきます。

入社フェーズ

採用活動に一定の投資をしているスタートアップは多いですが、入社後もその投資が継続されているかというと、必ずしもその準備が整っていないことも多いのではと感じています。

しかし、新しい環境で働き始めるに当たって、不安を感じない人はほぼいません。

従って入社後のオンボーディングは、入社を決意してくれたメンバーをいち早く戦力化するために必須のプロセスです。不安を早急に取り除き、チームにスムーズに溶け込むためにメンバー間の相互理解を促進する場を意識的に設定し、チームへの高いロイヤルティを創出できる貴重な機会です。

新メンバーがキャッチアップすべきことは、多岐にわたります。

実践すべき企業文化とその背景、チームメンバーの名前や顔だけではなく各人がこの会社を選んだ理由、プロダクトの機能や今後の開発スケジュール、競合状況を含めた業界動向や顧客の課題欲求、社内のオペレーションや各部署の役割、自社の事業戦略といったところを理解することができてようやく、自身の個性を活かしたパフォーマンスを十分に発揮できるようになるものです。

これらの項目は、新メンバーにとって一日で理解できるものではありません。しかし、スピードが求められるシード・スタートアップにおいては、新メンバーにすぐにキャッチアップしてもらい、早くから存分に活躍してもらうためのサポートを経営として準備していく必要があります。

評価育成フェーズ

組織としてのアウトプットをメンバー個人の単なる和(足し算)ではなく、積(掛け算)にしていくためには、評価育成フェーズの施策が不可欠で、以下の5つが相互に連関する設計になっていることが重要です。

  1. 日々の行動や意思決定を規定するバリューの実践促進(組織浸透に向けたインナーブランディング)
  2. 企業や部署ごとのミッションや予算と、メンバー個人のWill / Can / Mustに応じたOKRの設計運用
  3. OKRをスムーズに設計運用し、かつ、情緒的な部分も含めた相互理解の深耕を通じた高いモチベーションの醸成
  4. メンバーをワンランク上の人材に引き上げるスキルトレーニング
  5. バリューの体現やOKRの目標達成に向けたアクションが組織として積極的に促進される金銭面と感情面の双方における報酬設計

①から⑤が単体ではなく、すべてが相互に結び付きながら設計されていることで、各施策が初めて効果を創出します。

例えば、バリューをぱっと想起できるよう、唱えやすいフレーズ化や目につきやすい形での具現化(Slackのスタンプ、会議室の張り紙やアメニティなど)によるインナーブランディングを強化すれば、想起したバリューに沿って個々人が迷うことなく自律的に行動や意思決定を行うことでOKRの達成が促進される効果が期待できます。

また目標を達成したときに、金銭的な報酬(SO、ボーナス、昇給など)のみならず、感情的な報酬(昇格、次なるチャレンジングな仕事のアサイン、権限付与、表彰など)をセットで享受できる環境作りも大切です。

このようにそれぞれが有意に積み重なっていく設計にすることで、個々の取り組みが効果を最大限発揮します。そもそものバリューが事業として勝つために必要な行動規範として設計されていることが前提になるものであり、ここでもやはりCIの適切な策定がはじめの一歩になってきます。

権限移譲フェーズ

経営チームによる権限移譲のスピードは、将来の事業成長スピードを決定します。権限移譲が進まない限り、現行の経営チームの実力以上に事業が成長することはありません。

経営チームが得意なもの以外、また場合によっては得意とするものであっても、権限移譲を積極的に進めることで、経営チームが行うことで最も成果を上げることができる業務(組織創りや広報PR、ファイナンスといった仲間集め)に多くのリソースを割くことができる体制を構築し、組織としてのアウトプット最大化に繋げることができます。

一方、この権限移譲は、移譲する方と移譲される方の双方にとって、勇気の必要な意思決定になってきます。この権限移譲のプロセスを根拠のない無謀なものとはしないよう、企業としてのガバナンスの効いた意思決定体制の構築がセットになって初めて、対外的に意味を持ちます。上場を目指してチャレンジをするスタートアップであれば、なおさらです。

そしてこの権限移譲のフェーズは、採用 → 入社 → 評価育成の各フェーズをうまく乗り越えて初めて到達できるもので、一足飛びにはなかなかたどり着けません。意識して取り組まないと到達するのにめちゃくちゃ時間が掛かるものなのに、事業成長のスピードを大きく左右するという厄介者です。

従って、(再三の繰り返しになりますが)スタートアップが事業成長を通じて大きなビジョンの実現に向かっていくためには、シード期からCIの策定を起点に、強い組織の構築に取り組んでいく必要があるのです。

まとめ

強い組織の構築は一日してならず。

冒頭の言葉に立ち返っていますが、強い組織創りに当たって経営チームが取り組むべきことは山のように存在します。非連続な事業成長を目指すのであればシード期からこの山を見据えて、少しでも早く組織創りへの投資を進めていく必要があります。

やることは多くある、その中で手戻りをできる限り少なくして強い組織を創っていくためには、まずはCIの策定がすべての発射台になる、ということが少しでも本稿でお伝えできていると嬉しいです。

シード期のスタートアップ「強い組織」をどうつくる:取り組むべきHR施策の全体像(1/2)

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー水谷航己氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@KokiMizutani。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から 強い組織の構築は一日してならず。 事業とはヒトが創るものであり、それゆえに…

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー水谷航己氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@KokiMizutani。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から

強い組織の構築は一日してならず。

事業とはヒトが創るものであり、それゆえに如何にヒトを束ね、各人に個性を発揮してもらいながら、組織としてのアウトプットを最大化させていくかという命題は経営者が最も頭を使うものであり、関連する施策の成否は事業成長にダイレクトに影響します。

組織創りの遅れは事業成長のボトルネックとなり、組織創りの失敗は事業の崩壊と経営チームへの特大のメンタルコストを伴います。事業成長を加速し続けることが可能な強い組織を構築、維持、強化していく営みは、経営を続ける限り終わりがくることはありません。

強い組織は、経営者が意識をして取り組まずして、自然と出来上がるものではありませんし、一日時間を使って考えればできるほど単純なものでもありません。

目指す世界観や社会観、真剣にチャレンジするヒトの思いを丁寧に言語化し、長い年月を掛けて試行錯誤をしながら実践が自然と伴うまでゆっくりと醸成される過程を経て、他社が簡単にマネできない有形無形の企業文化の備わった魅力ある強い組織になるものです。

本稿ではHRのスコープを「①採用 → ②入社 → ③評価育成 → ④権限移譲」のフェーズに因数分解して、シード期のスタートアップ経営チームが取り組むべきHR施策について考えてみたいと思います。

経営チームが取り組むべきHR施策の全体像

HRサイクルにおける①採用、②入社、③評価育成、④権限移譲のそれぞれのフェーズにおいては、事業の成長を見据えてシード期から経営として取り組むべきことが多く存在しています。

①採用のフェーズであれば、事業の成長に向けて必要となるポストを洗い出し、魅力的な候補者に出会って妥協をすることなく相性を吟味し、口説き、入社を決断してもらえるようにすること(高い採用力)。

②入社のフェーズであれば、新しく仲間となるメンバーにとって会社へのロイヤルティを高め、即戦力化してもらうためのオンボーディング体制を整備すること(オンボーディング)。

③評価育成のフェーズであれば、インナーブランディングを通じた組織文化の実践促進を、健全な評価育成の体制構築とセットにして進めつつ、1on1などを通じて個人のWillや個性に沿った活躍の場を見出していくこと(個の掛け算によるアウトプットを最大化する組織デザイン)。

④権限移譲のフェーズであれば、幹部役員やMgrの抜擢・登用を通じた経営と執行の分離を進め、ガバナンスの効いた意思決定体制を構築すること(スムーズな権限移譲)。

いずれのフェーズのアクションも、強い組織構築のために必要となる経営施策であり、うまく設計実践できれば、企業競争力の源泉となるものです。一方で、いずれかのアクションが一つでもうまく進めることができないと、事業成長の落とし穴に繋がります。

これらの各フェーズのアクションを適時的確に進めていくために必要となる思想的土台となるのが、Corporate Identity (CI)であります。企業としてのVision、Mission、Valuesが存在することで、HR施策の方向性をはじめて規定することができるようになります。

各フェーズのアクションをざっとまとめてみると、以下のようになります。

HRサイクルにおける各フェーズの全体像を俯瞰しまとめてみると、組織創りを進めるに当たっては経営として取り組まないといけないことが多く存在することがわかります。組織拡大が必要となったタイミングで各施策の準備が不十分なまま、慌てて採用を急いでしまうと、どこかでほころびが生じる可能性はぐっと高まります。

非連続な事業成長を目指すスタートアップにとっては、人数が少ないシード期からCIを醸成し、組織拡大が必要となるタイミングに慌てずに備えておく必要があると考えています。(次につづく)

 

DXの型:デジタルエンパワーメントとマネージドマーケットプレイス(2/2)

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー相良俊輔氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@snsk_sgr。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から 型12:仲介業者のデジタルエンパワーメント (前回からのつづき)12個目の型は、「…

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー相良俊輔氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@snsk_sgr。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から

型12:仲介業者のデジタルエンパワーメント

(前回からのつづき)12個目の型は、「仲介業者のデジタルエンパワーメント」です。3つ目の型で「多重取引構造の解消」を扱いましたが、実際には綺麗に中抜きが成立するケースばかりではなく、多重取引構造の改善、つまり段階的な解消が進んでいくことも多いと考えており、今回はその段階的な解消ステップを表した型です。

アナログな多重取引と異なる点としては、仲介業者がデジタルという武器を得てエンパワーされることにより、従来よりも高い効率でより多くの価値を提供できるようになるメリットが挙げられます。

またその過程でブラックボックスになりがちな仲介業者の介在価値(取引量や取引単価、場合によってはユーザー評価等)が可視化されることで、適切な介在価値を出している仲介業者は残り続け、そうでない業者はキックアウトされるというある種の浄化作用が働きます。

私たちの支援先で、インドネシアでFMCG(日用消費財)のメーカーと卸売業者、小売店を束ねるオンラインマーケットプレイスを運営するSinbadという会社があります。彼らは多層化する業界構造を一足飛びに中抜きするのではなく、既存の業界構造をある意味で尊重しそれをデジタルで効率化するアプローチを取ることで大きく成長を遂げています。

彼らは卸売業者の活動をデジタルツールでエンパワーすることにより、メーカーや対しては販売状況や在庫の動き、配送状況等のデータを可視化することでより効率的な生産、販促活動を促進できるメリットを提供しています。また一方の小売店に対しても、卸売業者のネットワーク可視化を通じて最適な発注管理や低価格な商品仕入れ等の機能を提供することでより効率的な流通活動を促しています。

他の事例としては、DXが進んだ広告業界において、DSPやSSPという中抜きツールの専門性を吸収し、これを最大限活用して広告主や媒体社に価値を出すことで重宝されている代理店やメディアレップの存在も類例に当たると思います(この例はDXの「はしり」でご紹介しました)。

型13:マネージドマーケットプレイス

13個目の型は、「マネージドマーケットプレイス」です。これ自体はオンラインマーケットプレイスの一派として広く認知を得ているものなので特に目新しさはないですが、ECの普及に伴う取扱商材の多様化や高価格化が進む中で、B2C、B2B双方の領域でより一層存在感が出てきているという点は直近の動きとして注目に値すると考え取り上げました。

従来の世界では、低額商材や日用品を中心とするオンラインマーケットプレイスと、高額商材や専門品を中心とするアナログな市場(商習慣)が各々独立して存在している構図がありましたが、上述したECの普及発展やコロナ禍の非接触ニーズが複合的な誘因となり、高額商材に関してもオンラインで取引をすることに対する(主に買い手、利用者側の)ハードルが下がってきたのが現在だと思います。

他方で、高額商材であればあるほど、また専門商材であればあるほど、オンライン完結型で最適な要件の商品を探し出し、交渉し、適切なリスク計算を経て購入を意思決定することにかかる利用者の負担は増大します。ここにおいて、単純な売り買いの場を提供するだけに留まらない、プラットフォームとして小さくない付加価値を提供してくれるマネージドマーケットプレイスが求められます。

板金加工品の発注者(メーカー)と受注者(サプライヤー)をつなぐCADDiは、 製造業の調達分野におけるマネージドマーケットプレイスの代表例であり、見方を変えればファブレスメーカーということもできるかと思います。板金加工品の調達のように専門性が高く、一社のメーカーに対して無数のサプライヤーが存在する領域においては、見つけるコストを省くだけでなく、交渉したり監督したりするコストも含めて包括的に機能提供をすることで利用者にとっての価値(マーケットプレイスの介在価値)が最大化する、というのは広く応用が効きそうです。

また別の例では、中古不動産の仲介を買取再販という形で行う米OpendoorのようなiBuyerモデルもこの型の類例と言えます。数百万円から数千万円もする不動産の売買を専門知識に乏しい素人間でオンライン完結型で行うというのは原理上無理があるため、専門性をテクノロジーでレバレッジしたOpendoorのようなマネージドマーケットプレイスが間に入って適切に取引を仲介しているのですが、この構図は上述のCADDiと相似するところがあります。

換言すると、ユーザーの「よしなにやってくれ」を叶えてくれるプラットフォーム、それがマネージドマーケットプレイスという見方もできるかと思います。あらゆる分野でECやマーケットプレイスが立ち上がる中で、高額・専門商材を中心に「よしなにやってくれる」機能の有無がプラットフォームの粘着性や成長角度を分ける因子になりつつあるのかもしれません。

おわりに

本稿では、私たちが普段思考のフレームワークとして使用しているDXの型について、その一部を例示しながらご紹介してきました。背景としては、冒頭にも述べた通り、真のDXを実現させるためには各々の企業がバラバラに効率化や個別最適を追求するのではなく、スタートアップも、大企業も、VCも、政府機関も、社会全体が同じ方向を向いて取り組みを進めていく必要があるという強い思いがあります。

DXの型:お試し購入のRentioが実現する「1.5次流通」とボトムアップ型マーケットプレース(1/2)

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー相良俊輔氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@snsk_sgr。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から 2019年11月に公開した『DXの羅針盤』では、DXビジネスが内包する基本モジュー…

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー相良俊輔氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@snsk_sgr。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から

2019年11月に公開した『DXの羅針盤』では、DXビジネスが内包する基本モジュールとして5つの型に触れ、2020年8月にはさらに4つの型を発表していましたが、今回はその続編として新たに4つの型を紹介したいと思います。

DX領域で起業を志す方や、大手企業の中にいながら新たなビジネスモデルの構築を志す方、はたまた投資家としてDXスタートアップへの出資や成長支援を手がける方が、同じ方向を向き共に豊かな社会を実現していくための一助になれば幸いです。

型10:1.5次流通

10個目の型は、1次流通(小売販売)と2次流通(中古流通)の間を縫う「1.5次流通」です。8つ目の型でマクアケを例に「0次流通」をご紹介しましたが、こちらはお試し購入(流通)ということでその類型とも言えます。

ECの普及によって、消費者は安価な製品であればオンライン上で比較検討から購入までを一気通貫で完了させることも珍しくなくなってきた一方、家電や家具など、比較的単価が高く実物の使用感が消費購買の決定打となるような製品については従来通り実店舗まで足を運んで検討する必要がありました。

1.5次流通はまさにそんな消費者欲求を満たすものであり、デジタルだけでは購入に踏み切れないユーザーと製品を売りたいメーカーをオンラインプラットフォームがサブスクリプション(定額購買)によって結びつけるという、新たな流通形式です。

家電やカメラを中心に2,450以上の製品を取り扱うRentio(レンティオ)は、この型を内包して成長を遂げるサービスの好例です。コロナ禍によって「非対面、非接触で購入を決める前に一度実物を試したい」というユーザーのニーズが増加していることもあり、家電のお試し利用が大きく伸びています。

メーカーの視点でも、これまで流通業者や小売業者に握られていた最終消費者の興味関心や製品の一次評価といったデータをプラットフォーム経由で収集することにより、早期に生産や企画といった上流工程へ製品に関するフィードバックを返すことができるという点で魅力的な流通形式であり、今後より一層の発展が見込まれるビジネスモデルと言えるでしょう。

型11:ボトムアップ型マーケットプレイス

11個目の型は、「ボトムアップ型マーケットプレイス」です。これは当初、特定業界における企業向けSaaSの顔しか持ち合わせていなかったプロダクトが、ある一定の面を押さえた暁にエンドユーザーにもそのインターフェースを開放することで消費者と事業者を結びつけるオンラインマーケットプレイスへと変貌する、というものです。

事業者の業務や取引に関するデータをボトムアップ式に収集、集約し、そののちにマーケットプレイスを提供するという意味では、「遅効性を伴ったマーケットプレイス」と表現することもできます。

飲食店向けの予約台帳システムで各店舗の空席を在庫データ化し、その上で消費者向けの飲食店予約サービスに昇華した米OpenTableや日本のトレタ等はこの型の典型例ですが、他の分野でも例えば会計ソフトや受発注管理SaaSを通じて売上債権をデータ化しファクタリングへ繋げるアプローチ等もこの類型と言えます。

この型との相性が良いのは、消費者接点がデジタル化している一方で事業者側のオペレーションがアナログなために消費者のUXを棄損している業界です(日本の既存産業の多くが該当するように思います)。

こうした特徴を持つ業界においては、一足飛びにオンラインマーケットプレイスを立ち上げてもマッチングに必要な情報が不足してしまうため、ボトムアップ型マーケットプレイスによって段階的なDXを進めていく方が好手と考えます。

次につづく

伝統メディアを「デジタル化」させるキメラ、凸版印刷とタッグ

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 伝統的なメディア・パブリッシャーが抱える悩みのタネはビジネスモデルです。紙をデジタルにするだけでなく、ビジネスモデル・体制からコンテンツを作る考え方、読者との向き合い、あらゆる面で従来の手法を…

写真左から:凸版印刷の菅原健春氏、キメラ代表取締役の大東洋克氏、凸版印刷の内田多氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

伝統的なメディア・パブリッシャーが抱える悩みのタネはビジネスモデルです。紙をデジタルにするだけでなく、ビジネスモデル・体制からコンテンツを作る考え方、読者との向き合い、あらゆる面で従来の手法を見直さなければならないからです。この課題に取り組もうという共創が、凸版印刷とデジタルパブリッシャー支援を手がけるキメラの提携になります。2019年末には両社の資本を含めた業務提携の取り組みが公表されています。

そこで本稿では両社が手がけるパブリッシャーのデジタル化ソリューション「Ximera Ae」(キメラ・エーイー)を中心に、伝統的なメディアが抱える課題とその解決方法について両社のお話を伺いました。

デジタルメディアのグロース支援

キメラが提供するのは「読者ロイヤルティ」を中心に据えたデジタルメディア事業グロース支援事業で、各メディアが抱える複雑な課題を伴走のスタイルで解決しています。海外製ツールである記事コンテンツのエンゲージメント分析ツール「Chartbeat(チャートビート)」の日本総代理店としても、導入と分析ノウハウの支援でメディアと向き合っており、2019年1月以来、パブリッシャー19社・51媒体(2021年2月末時点)に向けてデジタルメディアの事業評価やグロース支援を手がけた実績を持ちます。

Ximera Aeサービスイメージ

また、こうやって積み上げたメディアへの読者エンゲージメント向上ノウハウを基に、メディアが制作するコンテンツの価値を訴求し、マネタイズするサブスクリプション管理プラットフォーム「Ximera Ae」を自社開発しています。同時に、共創・協業する凸版印刷とは、出版社などのメディア営業網を活用して「Ximera Ae」の販売連携をしています。

「キメラは『パブリッシャーの未来を共に創る』企業です。有益な情報を提供することで時代を動かし、⽂化を築いてきたパブリッシャーを深くリスペクトしています。既存のメディアビジネスが苦境にある中で、真摯にコンテンツに向き合う⽅々が報われる世界を作り、今⼀度インターネットの本来の価値を創造したいと考えています。2021年からは、初の自社開発プロダクトである、サブスクリプション管理プラットフォーム『Ximera Ae』を通じ、デジタルメディアのマネタイズ選択肢を広げていきたいです」。(大東さん)

伝統メディアの課題

これまでもパブリッシャーのデジタル化は「電子書籍」などでじわじわと進んできた経緯がありました。一方、ここ数年で一気に顕在化してきた課金・サブスクリプションモデルへの対応は、読者数を大きく稼ぐ必要のある広告モデルと相反する部分があります。また、考えるべきポイントも流入経路から読者ロイヤリティなど多岐に渡るため、パブリッシャーが抱える課題や悩みは更に複雑さを増します。大東さんは現状をこう分析します。

「Yahoo!ニュースやSmartNewsなどのニュースプラットフォーム、TwitterやFacebookといったソーシャルメディア、はたまたnoteなどの個人によるコンテンツ発信モデルの台頭により、『マスメディア』と呼ばれていた新聞、雑誌、テレビが、インターネットを通じたコンテンツ発信および読者とのコミュニケーションにおいて、相対的に強みが発揮できない状況になりつつあります。

一方、コンテンツの発信手法や形態の多様化により、ユーザーが視聴・閲読できるコンテンツが膨大になっている状況下では、デジタルメディアは、ページビュー数に依存した広告収益(視聴・閲読は無料)モデルのみでは、従来のアナログの事業形態時の収益を補完・置換できる規模・成長性を見込むことが難しくなっているのも事実です」。(大東さん)

凸版印刷とキメラが特に注目しているのが、大手・中堅の伝統的なメディア企業だそうです。

特にビジネスモデルに直結するテーマでもあることから信頼関係は重要で、その点で凸版印刷の持つ関係性は大手出版社などとの取り組みをする上で大きくプラスに働いているというお話でした。一方、凸版印刷の菅原さんと内田さんはこういった提案先に対し、不足するSaaSプロダクトの営業ノウハウをキメラと協力して補完したことも明かしてくれました。

顧客とのすり合わせを重ねてソリューションを提供する受注産業・営業スタイルの凸版印刷内では、キメラのSaaS型プロダクトの営業経験・ノウハウが不足しており、キメラと凸版印刷、パブリッシャーの3者連携の実現・成果創出に結びつけることができなかったんです。そこでキメラチームの協力を得ながら、凸版印刷内でのセールスファネルの勉強会やヒアリングシートの整備・更新、受け渡し基準の明確化などを積み重ね、改善しながら連携していってます。

「パブリッシャーは、サブスクリプションモデルの構築に際し、技術的な開発仕様の検討で手一杯になり、サブスクリプションの事業計画や運用体制構築まで手が回らない状況も多くなりがちです。こうした問題に対して構造的な課題抽出と解決を実現し、メディアの本分としての価値ある情報発信に集中しやすい環境づくりが可能、とお伝えするようにしていますね」。(菅原さん・内田さん)

印刷を中心に出版社などのメディア企業と長らく関係を構築してきたのが凸版印刷です。エコシステム全体を考えた際、パブリッシャーのビジネスモデル、デジタル化を推進することは業界全体の下支えになるのは間違いありません。

両社は以前、本メディアでも取材したトッパンCVCのチームのアプローチをきっかけに協業・資本提携の話が始まったそうです。事業部等で協業検討を進め、黒子のようにメディアグロースを支えるという方向性が一致したことでその後の協業が加速したというお話でした。

次回も国内の共創事例をお届けいたします。

店舗とサイト「間」の購買体験を探せーーアイスタイルとKDDI「@cosme TOKYO -virtual store-」での共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 KDDIとアイスタイルは1月8日から、XRを活用したバーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」を提供開始しています。利用者はスマートフォン向けアプリ「au XR …

写真左から:KDDI 藤倉皓平と下桐希、コスメネクスト(Flagship store事業部/@cosmeTOKYO)坂井亮介氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

KDDIとアイスタイルは1月8日から、XRを活用したバーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」を提供開始しています。利用者はスマートフォン向けアプリ「au XR Door」内に設置された店舗へ仮想的に来店し、化粧品ブランドの購買体験を楽しめるというものです。

このバーチャル店舗では、花王の化粧品ブランド「KANEBO」「KATE」「SOFINA iP」の商品が販売されるほか、バーチャル空間で仮想的に商品を手に取ってテスターを利用したり、8K(5G推奨)の高画質できめ細やかに表現された店舗の内観や商品の色彩によって、実際に来店したような体験が可能になっています。KDDIとアイスタイルは今回のバーチャル店舗での取り組みを通じ、先端技術を活用したビジネスモデルの共同創出も狙うとしています。

アイスタイルでは2020年1月にJR原宿駅前に体験型のフラッグシップショップ「@cosme TOKYO」をオープンさせており、600ブランド2万アイテムを展開していました。両社は感染症拡大をきっかけにEC利用が拡大するなか、この店舗でのワクワクするような体験とXR・5Gを活用した完全非接触の購買を融合させた取り組みとして、今回のバーチャル店舗を開始しています。

本稿ではKDDI・アイスタイルの両社でこの共創案件を担当したアイスタイル坂井氏、KDDI下桐氏、藤倉氏のお二人に話を伺いました(文中の太字の質問は全てMUGENLABO Magazine編集部)。

スマホのみ「没入体験」への挑戦

バーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」においてユーザーは「au XR Door」アプリを立ち上げてスマホをかざすと、360°画像としてバーチャル店舗を歩き回ることが可能になります。

また、商品棚の前で手に取った商品をタップすると@cosmeの公式通販「@cosme SHOPPING」へ遷移し、商品購入ができます。行きたい場所についてはフロアマップから直接移動することも可能で、花王の商品の一部については各ブランド棚や店舗内1Fに設置されたテスターバーにて、テスターを使ったような体験ができるようになっています。

KDDIは今回の協業で5G・XR技術の提供を実施し、アイスタイルは「@cosme TOKYO」で得たリモート接客などのノウハウや@cosmeとのクチコミデータベースとの連携を担う、という分担になっています。

スマホのみで没入体験を目指したバーチャル店舗(@cosmeブログより)

今回のバーチャル店舗設置の狙いについて教えてください

坂井:2020年1月にJR原宿駅前にオープンした新体験フラッグシップショップ「@cosme TOKYO」ではワクワクする空間やランキング売り場、手書きのポップ、カウンセリングなど店舗でしか体験できないお買い物の楽しさをお届けしており、600ブランド2万アイテム以上の幅広い品ぞろえとさまざまな楽しい仕掛けを用意しました。

今回の取り組みには『購買体験』をどうアップデートしていくのかというテーマがあります。これは@cosme視点ではあるのですが、「@cosme TOKYO」のような店舗によるリアル購買とeコマースによるオンライン購買があった時、この中間にあるような体験を作れないか、というのが狙いのひとつです。

なるほど「店舗とコマースの中間」の体験は新しい視点ですね

坂井:仮想空間に入るとワクワクしたようなコンテンツが溢れていて体験もできる。買いたい場合は買える。これは2次元のeコマースだけではなかなか表現しきれない部分です。一方、来店には物理的な移動や接触がハードルです。これをスマートフォンひとつで実現しようという、本当の最初の一歩がau XR Doorの取り組みなんです。

実際に使ってみると没入っぽい体験でありながらスマートフォンのみで利用できるので、手軽な反面、スペースを必要とするなど戸惑いもありました

KDDI:実は今回、「@cosme TOKYO -virtual store-」に使ったアプリ「au XR Door」はそもそもVRヘッドセットを利用してXRサービスを企画・開発しているチームが新たに提案したものなんです。

VRヘッドセットは特に女性が着用する際、髪型が崩れるなどの運用面の課題がありました。また、機材も必要になるので、一人で体験するにはややハードルが高かったんです。そこで没入体験でありながらスマートフォンだけでそれを実現できないか、そう考えた結果があの「どこでもドア」体験だったんです。実際に利用データを見てみると、仮想店舗に来店した人はポップをズームで見ていたりと実際の来店と同様のアプローチが優先される、ということが徐々に見えてきています。

一方、課題があることも認識していて、例えば歩き回るスペースがない場合にどうするのかとか、ユーザーからの定性的なフィードバックや、実際のデータから見えてくる「つまづき」を参考に今後のアップデートを議論しているところです。

まだ始まったばかりですが、この新しい購買体験のヒントは見えてきましたか?

坂井:コスメって本当に多くの種類があるので、それらを自宅にいながらにしていくつも試せる、例えば自分の顔に合った商品を見つける、といったこともできるようになるかもしれません。こういった魅力的なブランドとの出会いの方法をアップデートできるんじゃないかと考えています。

データの活用についてはいかがでしょう。来店した人の属性データなどから多様な商品のおすすめをする、といった流れは想像できそうです

坂井:データをAIで読み解いたりそれをマッチングに使うことはeコマースでも可能です。どちらかというと、それ以上にヒューマンタッチが重要で、つまり接客ですね。お客さんの肌にあったパーソナライズされた提案活動、これが化粧品には大切なんです。ここについてはもちろんテクノロジーも使いますが、オンラインカウンセリングのような人の力を組み合わせた、テックタッチ・ヒューマンタッチを融合させた空間づくりには挑戦していきます。

スマホのみで没入体験を目指したバーチャル店舗(@cosmeブログより)

少し話を変えて、コロナの影響と実際の利用ユーザーからの反応についても教えてください

KDDI:そもそもKDDIでは新型コロナウイルス感染症の影響で売上に悩んでいる化粧品メーカーや小売に対して、リアル店舗やECとは異なる新たな販路として、実店舗のVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)を再現し、在庫がなくても店舗体験をユーザーに提供できる低コストのバーチャルストアを企画していました。特にテスターを試すのが憚られる中、手に取ったかのような体験ができる機能やARのメイクアップ機能は実物がなくても商品確認ができる、という点で非常に重要と考えています。

坂井:これはコロナ感染拡大の以前からですが、小売りのDXや店舗体験の可視化・価値化はテーマにありました。やはり化粧品はリアル店舗にお越しいただいてから始まるUXが多かったんです。そうこうしている内に感染症が拡大し、店舗としての魅力である「巡ること=出会うこと」「試すこと=手にとること」「相談すること」ができなくなってしまったんですね。

なるほど

坂井:今回のケースでは、こういった本来提供できるUXの価値が下がっている状況をバーチャル体験で補う、というのが目標にありました。そこでオンライン/バーチャル上での出会いの場である店舗を立ち上げ、店舗やオンライン上から仮想的に商品を手に取ったり、テスターを使ったような体験と「公式通販」から商品の購入ができる、というところまで用意した、というのがここまでの取り組みですね。

協業のスピード感はどのような流れだったのでしょうか

坂井:とあるメーカーさんにお繋ぎいただいたのがキッカケです。目指す方向やイメージはお互いすぐにリンクしていたと思っておりまして、この仲間たちなら絶対に新しい価値が見出せると思ったことを覚えています。実施に至るまでのハードルは時間と環境ですかね。

KDDI:私たちもオンラインとオフラインを融合させた顧客体験をXR Doorを通じて実現できると感じたため、ご紹介いただいた後、KDDI側からも協業をお願いしました。

坂井:ただ、とにかく時間もなくて、9月中旬に初めてKDDIさんとお会いしてから4社を跨ぐ横断プロジェクトが生まれ、毎週のように打ち合わせを重ね、12月にはデモを出すというところまでもっていったのは素晴らしいスピード感でしたね。今回はずっとコロナ感染拡大との闘いでもあり、本当はお披露目を@cosmeTOKYO1周年のリアルイベントでさせていただきたかったですが、緊急事態宣言により延期となったのは心残りです。

反響はいかがですか

坂井:リアルな店舗とECのオムニチャネル化・OMOという発想自体はお持ちの人が多いですが、我々は店舗”体験”のオンライン化にこだわりました。また他企業がすでに展開しているブラウザ用の表面的なバーチャルサイトではまだまだ表現が難しいです。その点において、将来を見越したチャレンジであり「らしさ」があると化粧品業界の関係者から注目をいただいています。

KDDI:@cosmeブログでは「@cosme TOKYO -virtual store-」の記事が約50万閲覧を超え、XR Doorの新規ユーザー数も増えています。多くのユーザーにバーチャルストアの可能性を感じていただけているのではないかと思う一方、緊急事態宣言が発令された結果、リアル店舗と連携した取り組みがまだ実現できていないのが課題です。この件についてはアフターコロナに向けて準備しております。

ありがとうございました

Clubhouse配信を可能にする「ライブAPI経済圏」/GB Tech Trend

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。 今週の注目テックトレンド 「ライブ配信」が多くのアプリに実装されるようになりました。Instagram、Facebook、SHOWROOM、他にはゲーム配信アプリに至るまで…

1,500万ドル調達を果たした「Daily」。Image Credit: Daily

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

今週の注目テックトレンド

「ライブ配信」が多くのアプリに実装されるようになりました。Instagram、Facebook、SHOWROOM、他にはゲーム配信アプリに至るまで、様々なプレイヤーがリアルタイム配信を通じたコミュニケーションサービスを展開するようになっています。

問題となるのはエンジニアが抱えるライブ配信機能実装コストと、通信の不安定さです。0からライブ配信機能を作り上げるとなった場合は非常に手間がかかりますし、何か通信設計に問題があると、配信が中断されてしまたり遅延してしまい、サービスの評判が著しく落ちかねません。

そこで登場したのが 今回1,500万ドルの調達 を果たした「 Daily 」です。ライブ動画・音声配信の開発プラットフォームを提供しており同社APIを導入すれば、自社サービスにライブ機能を手軽に追加することが可能となります。

エンジニアはあらかじめ構築されたUIを使用するか、独自のカスタムビデオUIとUXを構築するかのどちらかを選ぶことができるそうです。前者の場合、ビデオチャット、画面共有、録画機能を備えたビデオ通話ウィジェットを埋め込むことができます。後者の場合、レイアウト、ワークフロー、ビデオおよびオーディオ トラックをより自由にコントロールできます。

顧客にはバーチャルオフィスサービス「Tandem」、バーチャルHQプラットフォーム「Teamflow」、プレゼンテーションサービス「Pitch」、ペアプログラミングツール「GitDuck」、バーチャルリクルーティングサービス「Flo Recruit」など、コロナ禍において成長を果たした企業が名を連ねています。

Dailyの競合となるのが「 api.video 」です。同社はホスティング・配信・分析ができる、動画配信のための単一APIを開発しています。どの開発者でも手軽にNetflixのような高画質の動画コンテンツをユーザーに提供できるようになりました。これまで企業は実装の複雑さを理由に動画機能の導入を控えていましたが、api.videoはわずか数行のコードで動画コンテンツの導入を可能にしています。

また、目覚ましい成長を遂げるライブ音声配信アプリ「Clubhouse」が採用する「 Agora.io 」も競合として数えられるでしょう。同社もBaaS(Backend-as-a-Service)企業として、アプリケーション開発者にリアルタイム・コミュニケーションソリューションを提供しています。音声基盤構築に強く、遅延のないコミュニケーションが売りです。

Agora.ioの参入する通信PaaS(Platform-as-a-Service)市場は、2018年の33億ドルから2023年には172億ドルに成長し、成長率39.3%で 拡大すると予測されています 。5Gの普及が進めば、さらにリアルタイムコミュニケーションの需要も増えるでしょう。

Stripeが“決済”を、Twilioが“SMS”を容易にしたように、「Daily」「api.video」「 Agora.io 」らはすべての開発者に“ライブ配信機能”を提供します。誰もが当たり前に使う媒体(テキスト・画像・動画・音声 etc)を手軽に実装するニーズは市場全体で高まっており、こうしたニーズを支えるインフラ市場に大きな商機が眠っているでしょう。これから日本でもますます注目領域になりそうです。

今週(3月8日〜3月14日)の主要ニュース