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アフリカの金融サービスをAPIで繋げる「OnePipe」、95万ドルを調達

ピックアップ:With $950k pre-seed, OnePipe is building a super aggregator for every financial service API in Nigeria 重要なポイント:ナイジェリアでフィンテックAPIサービスを提供するOnePipeは2020年12月にプレシードラウンドで95万ドルの資金調達を実施した。APIを提供するフィンテック…

ピックアップ:With $950k pre-seed, OnePipe is building a super aggregator for every financial service API in Nigeria

重要なポイント:ナイジェリアでフィンテックAPIサービスを提供するOnePipeは2020年12月にプレシードラウンドで95万ドルの資金調達を実施した。APIを提供するフィンテックサービスが増加する同国で銀行や各種金融サービスと提携し、シームレスな取引が行えるようなAPIゲートウェイの構築を行う。同社CEOのAdeoye氏によるとこのラウンドは、米国のシードステージアクセラレーターであるTechstarsと、アフリカの影響に焦点を当てたVCファンドであるAtlanticaVenturesのチームが主導し、Future Perfect Ventures、Raba Capital、P1 Ventures、Ingressive Capital、Sherpa Ventures Africa、Zedcrest Capital、DFSLabなどの機関投資家も参加した。

詳細:同社は、ナイジェリア国内の銀行や各種フィンテックサービスの提供するAPIを標準化した仕様の下に統合し、シームレスに各サービス間での取引が出来るゲートウェイを構築している。APIの利用に対して料金を請求するが、これまでの異なる銀行やサービス間での煩雑な手続きとそこにかかる手数料と比べると、顧客は圧倒的な時間と費用の削減が可能になる。

  • OnePipeは2年前のサービスローンチ以来、Polaris Bank、SunTrust Bank、Fidelity Bank、Providus Bankといった銀行やMigo、Flutterwave、Paystack、Quicktellerなどのフィンテック企業からのサポートやパートナーシップを獲得してきた。同社CEOのAdeoye氏によるとさらに7つの銀行がまもなくパートナーとして加わる予定。同社は将来的にナイジェリアの金融サービス系APIのスーパーアグリゲーターになることを目指している。
  • 同社CEO Adeoye氏はアフリカ全土で事業を展開するフィンテックのユニコーン企業Interswitchに長年在籍した後、フィンテックサービスと銀行、大企業、エージェントネットワークの提携を容易にすることを目的としてOnePipeを立ち上げ、2018年11月にサービスを開始した。

背景:ナイジェリアではAPIを介したフィンテックサービスが増加しており、今年話題になった主要な企業だけでも、昨年1月にWorldPay初のアフリカのパートナーとなったFlutterwave、4月にプレシードラウンドで100万ドルの資金調達を実施したOkra、9月にプレシードラウンドで50万ドルの資金調達を実施したMono、11月に米国Stripeに買収されたPaystackなどがあり、注目が集まっている。ナイジェリアを始めキャッシュレス決済などのフィンテックサービスが普及する新興国では信頼性に欠ける新たなサービスなどもあるため、異なるサービス間でのシームレスな取引という点以外にも、安全・信頼性の担保という面でもOnePipeのような統合的なAPIサービスの需要が高まりつつある。

執筆:椛澤かおり/編集:岩切絹代

10万人が利用する避妊リング「IUB Ballerine」、リプロダクティブ・ヘルスに挑戦するOCON Healthcare

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ピックアップ:Rhia Ventures Invests in OCON Healthcare’s Ballerine, the First 3D Spherical Copper Intrauterine Contraceptive 重要なポイント:Rhia Venturesは昨年の12月、イスラエルを拠点に女性向けの医療製品を開発するOCON Healthcareに出資し、米国での発売を支援す…

画像出典:OCON Healthcare 公式サイト

ピックアップ:Rhia Ventures Invests in OCON Healthcare’s Ballerine, the First 3D Spherical Copper Intrauterine Contraceptive

重要なポイント:Rhia Venturesは昨年の12月、イスラエルを拠点に女性向けの医療製品を開発するOCON Healthcareに出資し、米国での発売を支援することを発表した。同社の主力製品となるIUB Ballerineは、ホルモン剤を必要とせず、最長5年間有効な避妊リング。同社プレスリリースによると、従来のT字型の子宮内避妊器の3分の1の大きさで、簡単に挿入・取り外しができる。昨年12月までに世界30カ国で販売されており、10万人以上の女性が使用しているという。

詳細:OCON Healthcareは婦人科医のIlan Baram博士が2011年に設立。Geektimeによると、女性のための医療ソリューションを開発するのであれば、女性が先頭に立つべきという考えから、医療機器・製薬業界で20年以上の経験を持つKeren Leshem氏がCEOとして任命された。

  • Rhia VenturesマネージメントディレクターのStasia Obremskey氏によると、米国のすべての女性のため、同社ファンドRH Capital Fund IIにおいて避妊技術の革新や妊産婦の健康、リプロダクティブヘルスに焦点を当てた投資を行っているという。
  • OCON Healthcareは2020年1月に200万ドルの調達を実施しており、Pontifax VCと既存投資家のDocor VCがそのラウンドをリードした。このラウンドで同社の累計調達額は1500万ドルに到達している。

背景:CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の発表によると米国では全妊娠の約45%が意図しない妊娠であり、さらに妊産婦の死亡率は世界第55位とされている。こうした状況にもかかわらず、Rhia Venturesはリプロダクティブ・ヘルスの現状について「新しい避妊具の革新を促進するための投資はほとんど行われていません」と同社プレスリリース内で言及している。

執筆:平理沙子(Risako Taira)/編集:岩切絹代

コロナ後の世界で加速する「全産業デジタル化」と投資戦略 / GBAF 2020レポート

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 12月4日に開催されたグローバル・ブレインの年次カンファレンス「Global Brain Alliance Forum 2020(GBAF 2020)」は感染症拡大の影響もあり、完全オンラインでの開催となった。来るべきコロナ「後」の世界を見据えたGBの新たな戦略やアジア各国に…

グローバル・ブレインの新戦略を発表する百合本安彦氏(写真:GB Universe編集部)

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

12月4日に開催されたグローバル・ブレインの年次カンファレンス「Global Brain Alliance Forum 2020(GBAF 2020)」は感染症拡大の影響もあり、完全オンラインでの開催となった。来るべきコロナ「後」の世界を見据えたGBの新たな戦略やアジア各国におけるデジタル化推進・オープンイノベーションなどが壇上で語られ、そして終盤では、毎年恒例となっている「Startup Pitch Battle」も披露された。

本稿では全体戦略とセッションステージで語られたハイライトをまとめる。

運用総額1524億円、グローバルでのExitケースも

ステージに登壇したグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦氏は冒頭、「コロナによって発生したパラダイムシフトは100年に一度の機会。コロナ後において大手企業はスタートアップの技術を活用し、デジタル・トランスフォーメーション(DX)をより推進していく時代になる」とキーノートの口火を切る。

2021年はグローバル・ブレインにとってファンド設立20周年の節目の年となる。2020年は新たにキリンホールディングスや農林中央金庫、セイコーエプソン、そしてヤマトホールディングスと共同でファンドを設立し、それぞれの産業イノベーション加速を目的に200億円規模の資金を確保した。三井不動産とは2号ファンドも開始し、現在の運用残高は1524億円となる。また来年の計画として8号ファンドおよびグロースファンドの設立についても言及しつつ、モビリティやエネルギーなど、これまで手をつけていなかった領域についても取り組みの意欲を見せた。

現在の体制は70名規模。日本、韓国、インドネシア、シンガポール、ヨーロッパ、アメリカに拠点を構え、年間100件の新規・追加投資案件に対し、150億円ほどの資金を注入した。また、Exitについては1,000億円の評価額を超えることとなったウェルスナビをはじめ、ハンドメイドコマースのクリーマ、韓国KOSDAQに上場予定のNBTなど4件のIPOが生まれた。買収については今年1月、出資先のイスラエル企業Loom Systemsが業務プロセス大手ServiceNowの傘下となっており、「海外投資先のイグジット成功モデルが完成しつつある」と成果の意義を強調する。

「昨年、イスラエルの出資先であるAspectivaがWalmartに15カ月で買収されたのですが、これはJVPというイスラエルナンバーワンVCとの共同投資でした。Loom Systemsも実は同じくJVPとの共同投資で、売却先のServiceNowはニューヨーク証券取引所に上場している10兆円規模の企業です。このような形で海外のExitも増えてくるのではないかと考えています」。

加えて海外投資における注目地域は中国とインドだ。特に中国はアメリカとの対立によってその他地域、特に隣国である日本との関係に微妙な変化が生まれつつある。また、中国版NASDAQと言われる新興市場「科創板(Science and technology innovation board:STAR Market)」が開始するなどテック投資の盛り上がりも顕著だ。百合本氏はこのような背景を含め、現在の市場をこう分析する。

「グローバル・ブレインでは日本をはじめ韓国、インドネシア、シンガポール、ロンドン、サンフランシスコに拠点を構えており、これを更に拡大したいと考えています。というのも、アメリカが世界のリーダーとしての地位を放棄したことで秩序のない状況が生まれており、これは我々のグローバル戦略にとって非常にチャンス。更に今まで開いていなかった中国スタートアップへの窓が開くようになった。中国とアメリカの対立によって、日本側のスタートアップや大手に対して中国側が非常に関心を寄せている。関係構築するチャンスだと考えています」。

中国はこれまで国外への資金持ち出しが厳しく制限されていたが、今年になってそれが緩和されたのも大きい。「中国に安心して投資できる環境になった(百合本)」ことからグローバル・ブレインはこのプレゼンテーション中に2021年中の中国、上海事務所開設を公表している。また、インドについても同じく来年のバンガロール事務所開設を予定とした。

ライフサイエンスにインパクト投資、投資領域の拡大

プレゼンテーションではグローバル・ブレインの注目投資領域についても言及があった。特に強調されたのがライフサイエンスだ。現在、研究者出身のチームを構成しており「投資案件についても5件と実績が出てきた。注目領域はアドバンスドセラピーと呼ばれる、遺伝子治療やマイクロバイオのようなテーマ。また、デジタルヘルスについても力を入れようと考えてまして、既存医薬品、医療機器のような分野を進化させたい」と、この分野への投資を強調した。

また、昨今のSDGsなどに現れている、社会的な要請に基づいた活動についてもインパクト投資という形で積極化させる。

「インパクト投資は社会的だけでなく、経済的リターンを追求するという点でESG投資とは異なります。社会的なペインをテクノロジーで解決できるようになった。Apeel Sciencesという食品をコーティングする企業があるのですが、これによって食品の保存期間を伸ばすことができる。結果、フードロスを解決したり、冷蔵設備のない場所に食品を提供するといったことが可能になる。ここにはAndreessen Horowitzやビル・ゲイツ財団などが出資しています」。

この他にも地球温暖化が持続可能な社会を実現するための技術については、グローバルで必要性はもちろんのこと、日本でも菅総理大臣が所信表明演説で「2050年までの温室効果ガス排出ゼロ」を宣言するなど、脱炭素社会への方向性が揺るぐことはなさそうだ。

キーノートでもこれらの技術への注目、投資の加速が言及されていた。全体戦略の詳細については別項にてお伝えしたい。

DXにインド、ライフサイエンス、GBAFで語られた重要テーマ

入山章栄氏と津脇慈子氏

さて、GBAFではいくつかの重要テーマについてのセッションも披露されたのでいくつかピックアップしてお伝えしたい。最初にご紹介するのは今、日本のテック業界で最も注目を集めていると言ってよいだろう、産業デジタル化をテーマに話題の二人がセッションに登場した。

「After コロナのDX推進とオープンイノベーション」と題されたステージには「世界標準の経営理論」などでグローバルの企業経営戦略の研究を続ける早稲田大学ビジネススクールの入山章栄氏と、デジタル庁立ち上げで一気に注目度が上がった国内デジタル戦略を担当する経済産業省の大臣官房企画官、津脇慈子氏が登壇した。

入山氏はかつて日本の企業が辿ってきた道のりが今を縛り、これまでのデジタル化やダイバーシティへの許容を阻んできたと「経路依存性」の問題点を指摘する。その上で、今回のコロナ禍がそれらをリセットする機会になるのではと、産業全体のデジタル化加速に期待を寄せた。

「(コロナ禍があった結果)結構な全部変えられそうなのですよ。評価制度もリモートだったらデータがいくつも入ってくることになるので当然変えられるチャンスになる。全部を変えられる企業は新しいものを生み出せる。けどそうじゃない企業は負けてしまう。最後のチャンスだと思ってその手段を進めて欲しい」(入山章栄氏) 。

元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長の武鑓行雄氏

また、インド市場については「イノベーション大国に変貌するインド」として元ソニー・インディア・ソフトウェアセンター 社長の武鑓行雄氏が登壇し、世界各国のメーカーなどが巨大な開発拠点を展開するインドという市場について解説した。ソニーが国外で展開する最大規模の開発拠点はインドにあり、武鑓氏が代表を務めた2008年~2015年の間に、当初600人ほどだった体制が3倍に拡大したそうだ。テクノロジーのイノベーションについてはシリコンバレーに目が行きがちだが、武鑓氏によれば、こういったシリコンバレー企業の多くがソニーと同様にインドに進出し、拡大している状況があると語った。

「インドのIT産業は2000年当時に80億ドルの売上だったものが現在は1910億ドル、産業として23〜4倍に拡大しています。またGDPは当時に比較して6倍に拡大していますが、まだ日本の半分。ただこれもあと10年するとちょうど日本と並ぶと言われています。中国(のGDP)を振り返ると10年前に日本と並んで今の状況があるので、インドのこれからの10年で何が起こるのか、ぜひみなさんにも考えていただきたい」(武鑓行雄氏)。

その他にも大企業とスタートアップの協業事例としてKDDIやJR東日本スタートアップの取り組みが紹介されたほか、「神経難病への挑戦―科学者、教育者、そして起業家の視点から」という題目で慶應義塾大学医学部の教授で、同時に起業家でもある岡野栄之氏による講演が披露された。岡野氏は再生医療及びiPS細胞の研究で第一人者であると同時に、東証マザーズに上場するサンバイオの創業科学者として関わりを持つ「起業家」という顔を持つ。バイオベンチャーがどのような過程で研究と事業を両立させるのか、その道のりを語った。

なお、これらのセッションはGB Universeで改めて詳細を別項としてお伝えしたい。

国内エコシステムとスタートアップ・IPOの意義ーー大和証券・丸尾氏 Vol.2

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 IPOの意義とはなんだろうか。資金調達の手段であり、社会的な信用の獲得であり、企業に正しいガバナンスを与えるものでもある。一方、マーケットが求める「極めて短期の結果」に疲弊し、オルタナティブを求める考え方も出てきている。 新しいスタートアップエコシステムの創造ロジック「リーン・スタートアップ」の著者、…

大和証券の専務取締役、丸尾浩一氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

IPOの意義とはなんだろうか。資金調達の手段であり、社会的な信用の獲得であり、企業に正しいガバナンスを与えるものでもある。一方、マーケットが求める「極めて短期の結果」に疲弊し、オルタナティブを求める考え方も出てきている。

新しいスタートアップエコシステムの創造ロジック「リーン・スタートアップ」の著者、エリック・リース氏は2011年の著書で既にこの問題点を突いており、より長期的な成果の視点に立った「長期株式取引所」の考え方を披露している。10年たった今、彼は長期経営をテーマとした新証券取引所「Long Term Stock Exchange」を2019年に開設した。

丸尾氏は拡大するマーケットにおけるIPOの意義を、大きなエコシステム全体で俯瞰する必要があると説く。

エコシステムとIPOの役割

「例えばサイバーエージェントってマクアケやサイバーバズ、BASEなどに出資して、彼らが上場することで資金を回収していますよね。こういった利益がないとAbemaのような新しいチャレンジはできない。エニグモの須田さん(将啓氏・代表取締役)も上場後に個人として投資している。こう考えると、上場した企業や起業家は投資にまわるわけです。PKSHA Technologyは上場してCVCを作った。こうすることで自分たちが張れないAI技術に株主となって挑戦ができる」。

BASEは上場時の時価総額が250億円程度だった。しかし今(※執筆時、2020年12月9日時点)の評価額は2500億円に届こうという規模にまで膨らんだ。感染症拡大がEC需要を押し上げたことが要因のひとつではあるが、これにより、彼らはより有利な条件で資金調達を進めることができる。株の希釈も最小限に抑えることができるからだ。そしてBASEもまた、新たなスタートアップへの投資を通じて、エコシステムの一員としての役割を果たそうとしている。

世の中に必要なことをやる

取材の終わり、長年多くの起業家、経営者と向き合ってきた丸尾氏に、次の世代の起業家と投資家に求めるものを聞いた。

「この経営者はやるやつか、そういう目で見ている時はキャピタリストに近いかもしれません。あと大切なのは長い目ですね。(支援側で)すぐに商売にならないなと思ってすぐに引いたんでは長い付き合いにならない。だから大事な会社や起業家にはしっかりと担当をつけます。大手企業では当然のようにやってきましたが、若い経営者ともやりますよ。

確かにね、起業家で金が欲しいから上場するという時代もありました。でもね、志がないものは退場してます。BASEの鶴岡さんとかはお金よりも成し遂げたいものがある。これが大きく変わったところです。世の中にはこれが必要なんだという。それって無理じゃないの?というところで事業をしてくるわけですから、我々はIPOでそのチャンスを拡大させるわけです。発想がね、お金や自分だけではなく、地球だったりイノベーション目線なんです。そう言う人が次の1兆円企業を作ると思ってますよ」。

今、世の中ではSDGsに代表される、持続可能な社会づくりが大きく叫ばれるようになった。ITバブルが発生した2000年以降、世の中には過剰な生産によって資本主義のゆがみのようなものが発生している。2030年に向けて活動する起業家には、長期の視点に立ったビジョンがより強く求められるようになった。

彼らは社会の課題や要請にどう答えるのかを問われているのだ。

数年前まではROE重視だったが、脱炭素やSDGs、ESG投資への潮流はますます加速していく。今は地球に優しい、そういったことに資する企業を支援していきたいし、新しい取り組みにあえて挑んでいく、強い大和でありたいです。

「これまでITやゲームなど、その時代、時代に応じたトレンドを作ってきました。赤字上場という新たな選択肢の道も開きましたし、BASEのようにマーケットでバリュエーションを出して次の成長資金を獲得してもらう。こういう起業家たちの『やりたい』をこれからも後押ししたいし、世の中のためになる企業の発展を支援していきたいです」。

(了)

英語力に3ヶ月で効果、AI英会話の「スピークバディ」ら受賞、GBAF 2020で披露されたスタートアップ7社ご紹介

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 12月4日にグローバル・ブレイン(GB)が開催する年次イベント「Global Brain Alliance Forum(GBAF)」の2020年の回が開催され、イベント終盤のイベント「Startup Pitch Battle」では、GBが昨年末からの約1年間に投資を決定したス…

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

12月4日にグローバル・ブレイン(GB)が開催する年次イベント「Global Brain Alliance Forum(GBAF)」の2020年の回が開催され、イベント終盤のイベント「Startup Pitch Battle」では、GBが昨年末からの約1年間に投資を決定したスタートアップ企業のうち、今注目の領域の7社を選定した。

MCは、Corporate Management Groupディレクターの石井輝亜が務め、「Startup Pitch Battle」には、GBAF賞・審査員賞・オーディエンス賞の3つの賞が用意された。員賞の審査を行ったのは次の方々だ。

  • 起業家・エンジェル投資家 有安伸宏氏
  • ヘイ株式会社 代表取締役社長 佐藤裕介氏
  • 日活株式会社 社外取締役 杉山全功氏

GBAF賞: スピークバディ CEO 立石 剛史 氏

スピークバディ CEO 立石 剛史 氏

英語でのオンライン会議が増えるなど英語はますます必要になっているが、日本人の英語力は依然としてアジアで最下位の状態。立石氏自身も英語は苦手だったが、就職時に外資系企業に内定したことをきっかけに猛勉強、各種英会話スクールに通って約4,000時間をかけ、苦労した末、TOEICでほぼ満点を達成した。

英語を習得するためにはいくつかの方法があるが、仕事があると語学留学は難しい、対面型のマンツーマン英会話だと料金が高い、オンライン英会話だと授業のたびに講師が変わってしまう、などの問題がある。バーなどで外国人の友達を作る、というのもなかなか難しい。そこで開発されたのがAI英会話の「SpeakBUDDY」だ。

SpeakBUDDYは、いつでもどこでも使えて月額1,950円。AIがユーザに合ったカリキュラムを作成するため効率的な学習ができる。4つのAI——会話AI(フリートーク)、音声認識、自然言語処理(英作文添削)、機械学習(各機能の精度向上)——を使っており、ユーザはAIと実際の会話が楽しめ、さらにAIにより現在の英会話レベルの判断をすることも可能だ。

言語習得のための科学に基づいてサービスが設計されているため、CEFR-J(日本の英語教育に適用した言語参照枠)を基にした10段階評価で、SpeakBUDDYを3ヶ月間使ったユーザが1.2レベル上がる事象が報告された。SpeakBUDDYでは最新の言語習得理論に基づき、コミュニケーションを通じて学び、タスクをこなして定着させる方法でユーザに言語マスターを促す。

2016年9月にローンチしたSpeakBUDDYは、サービス開始から3年9ヶ月が経過した2020年6月現在、有料ユーザが2万5,000人を突破。国内アプリストアの教育・トップセールスで常に上位につけている。アプリをローカライズすることで、英語習得に熱心な中国やアジア諸国へ進出するための準備も着々と進めているという。

毎年1月〜4月の一年の始まりの時期、「今年こそ英会話をマスターしたい」という新年の抱負から SpeakBUDDY のサインアップに至るケースが多いとのことで、来年年明けのマーケティング準備を始めているという。また、コンピュータサイエンスに強いメンバーを社内に擁しており、音声認識を自前技術で実装するなど内部の技術力が高い点について自負している、と立石氏は語った。

審査員賞: RevComm 代表取締役 會田 武史 氏

RevComm 代表取締役 會田 武史 氏

電話営業における顧客〜担当者のやりとりは、当事者間同士のブラックボックス化されてしまっているのが現状だ。上長や同僚は当事者間で何がどのように話されているかわからないし、また、同じ電話営業でも担当者によってどうしてパフォーマンスにばらつきが出てしまう。さらにその会話内容が成約にうまく合致しているのか外れているのかを客観的に判断することは難しい。

RevCommが開発した「MiiTel」は、俗人的になりがちな電話営業をAIを使って可視化し、より生産性の高い電話営業の実現を支援するサービスだ。システムは顧客管理ツールと連携した IP 電話で構成されており、担当者はPCから03または0120で始まる電話番号で発着信が可能。顧客との会話は録音・解析され、話している時間・聞いている時間・沈黙の時間・相手の話に被せて自分が話た時間・会話の回数・話速が可視化される。

話した内容については全文が文字起こしされ、それが要約され他の担当者と共有しやすいように可視化される。従来の方法は、担当者が自ら会話内容を要約してシステムに入力する必要があったが、この点が自動化されることによりインプット工数が劇的に短縮される。要約される情報量は、会話前後のコンテキストによって増えるため、情報共有を通じた生産性や成約率の向上にも寄与する。

MiiTelのダッシュボード上ではどんな商談内容だったかも可視化されるため、担当者ごとの傾向、例えば、ある担当者は話し相手の顧客に被せて話がち、というようなことがわかる。担当者自らがそれを振り返り、「今までより0.5秒遅れて話してみる」といったセルフコーチングの昨日を提供することもできる。

MiiTel は開始から2年で400社以上(IDでは12,000 以上)に導入、これまでに2,500万件以上のコールを処理した。今後は、担当者が顧客に話す内容の一部を自動的に音声出力する「自動スクリプトモード」、アポ取りを自動化する「自動アポモード」のほか、セールス以外にもミーティングや経営判断、人材採用のリモート面談ツールへの導入など当社独自の音声解析やAIの技術を活用したサービスの多様化を図る。

オーディエンス賞: any 代表取締役 吉田 和史 氏

any 代表取締役 吉田 和史 氏

114分—これは会社で働く人が1日に情報を探している平均の時間だ。勤務時間を8時間として、実に4分の1を情報を探し出すのに費やしていることになる。anyの提供するQastは、社内版の“知恵袋〟機能「Q&A」と社内版の”Wikipedia〟機能「メモ」によって、情報を探し出す時間を社員1人あたり30分削減、また、重複して対応する時間を60分削減する。

Q&A に質問を投稿すると、その内容は社内メールやチャットツールにメッセージとして送信され、その質問に回答ができる社員からメッセージが返信される。質問を投稿することでスコアがたまり、このスコアを人事評価に活用したり、貢献度の見える化に応用したりすることができるという。

メモには、社内での成功・失敗事例、アナウンス、議事録などを掲載できる。メモに登録された情報は、タグやキーワードで検索できる対象となるほか、添付ファイルの内容も検索対象になるので、情報の検索効率が格段に改善される。SlackやTeamsと連携すると、チャット上でのやりとりをメモ上にワンクリックで貯められるので、流れ去っていくフロー型の情報ツールの欠点も補える。

やりとりをメモ上にワンクリックで貯められるので、流れ去っていくフロー型の情報ツールの欠点も補える。

サービス開始から2年半で2,000社超が導入しており、最近では特に社員500人以上の大手企業の導入が拡大しているという。部署や拠点間を跨いだナレッジの蓄積・活用手段として注目を集めており、従来のポータルサイトやイントラネットのリプレイスソリューションとして採用されることが多いようだ。

将来は、ファイル共有サービスやメールサービスとの連携も行い、社内のあらゆる情報リソースをよりシンプルに検索できるようにしたい考えだ。anyではカスタマーサクセスに注力し、新たな企業ユーザがQastを導入する際は2名ほどの担当をつけ、タグの付け方、フォルダの作り方など、情報の整理方法を提案していることが、大企業ユーザが導入を決めるカギになっているとのことだった。

SWAT Mobility 日本法人代表 末廣 将志 氏

SWAT Mobility 日本法人代表 末廣 将志 氏

SWAT Mobilityは、デマンドレスレスポンス型ダイナミックルーティングアルゴリズムで、移動課題を解決しようとするスタートアップだ。2016年にシンガポールで創業、今年2月に日本市場へ進出した。郊外での高齢者の交通代替手段、都心における慢性的な交通渋滞、ラストワンマイルの移動手段などを、N:N(乗客複数 vs. 運転者・車複数)の最適なルート計算でソリューション提供する。

サービスは、乗客用アプリ・ドライバー用アプリ・管理者用アプリの3つで構成。乗客は乗りたい場所、降りたい場所、予約ボタンを押せば車を呼ぶことができ、ドライバーはアプリに表示された地図上の指示に従って目的地に最適なルートで乗客を送り届けることができる。管理者アプリでは、サービスオーナーとして、各車の現在地や稼働状況などをリアルタイムで把握することができる。

SWAT Mobilityでは主に、企業向けや公共交通機関向けに世界7カ国でサービスを提供している。日本では、ケーブルテレビ大手ジュピターテレコムの営業員・保守員のオンデマンド送迎に利用されている。ジュピターテレコムではこれまで、社用車を使って営業員・保守員が顧客訪問していたが、事故の多発やそれに伴う保険料の上昇、出先での駐車場確保の時間などに悩んでいた。

7月から実施されたこの実証実験では、営業員や保守員が予約してから10分くらいで現場に到着することが確認され、3ヶ月間で約8,000回の乗車が認められた。車の効率的な運用が可能になることから、ジュピターテレコムが持つ社用車4台を1台に減らしても運用が可能であることがわかった。ジュピターテレコムは SWAT Mobility の仕組み全国4,500台ある社用車の約半数に導入する予定。

また、新潟市下町(しもまち)では、SWAT Mobility が新潟交通や日本ユニシスと協業で、オンデマンドバスの運用実験を行っている。地方都市や郊外では人口減少に伴い路線バス利用者を使う人が減っているが、単純にバス路線を廃止したのではユーザビリティが下がってしまう。サービスの品質を維持したまま、サステナブルな移動手段を提供する仕組みとして注目を集めているという。

その他タイやフィリピンなどの東南アジアでは、トヨタと協業で医療従事者向けの感染予防策を施した通勤用の送迎サービスを提供。出退勤時間が不規則で、一般通勤客との接触を極力減らす必要がある医療従事者向けに、医療施設と自宅を直接繋ぐ仕組みを提供した

ROXX 代表取締役 中嶋 汰朗 氏

ROXX 代表取締役 中嶋 汰朗 氏

採用候補者の適性を面接だけで見抜くのは難しい。事実、企業と人のミスマッチから、10人採用しても2人は1年以内に離職し、採用後3年以内に離職した人のうち37%は半年以内に離職している。小規模なスタートアップにとって、ミスマッチがもたらすダメージは特に大きい。ROXX「backcheck」を使えば、仕事を共にしないとわからない採用候補者のことを採用前に知ることができる。

backcheckは採用候補者本人の許可をもらった上で、その人のかつての同僚・上司・部下などの第三者(推薦者)から、人物像や職場での仕事ぶりをヒアリングすることができるリファレンスチェックサービス。採用する企業からの依頼をもとに、推薦者にオンラインでのチェックを依頼、回答された内容を分析レポートしてまとめ届けてくれる。アルゴリズムでの性格診断や社会人としてのわきまえなども網羅する。

寄せられる回答は採用候補者には開示されないことが明示されているため、推薦者は忌憚のない意見をコメントすることができる。実際にヒアリングして得られた回答のうち81%にはネガティブな評価も含まれており、採用候補者の得意なこと、不得意なことを踏まえて多面的な評価に役立っている。チェックを依頼できれば94%が回答してくれ、依頼から3日間で企業にレポートが届く。

推薦者をかたって不正に評価が回答されるケースも50人に1人くらいの確率で生じることも確認しており、ROXXでは独自の不正検知機能を開発し導入。採用候補者が積極的な転職活動を行なっている際に備え、推薦者に複数企業からオンラインでのチェックを依頼された際に、回答を使いまわせる機能も追加した。

昨年10月のローンチしたbackccheckだが、今月で取り扱ったリファレンス件数が8,000件を突破。審査員からは「便利なサービスなので、もっと急速なグロースが望めるのでは?」との指摘があったが、中嶋氏は「backcheck でどんな情報が得られるかのイメージをマーケティングだけで伝えるのが難しい」とし認知度向上が課題であるとした。

投資家が起業家を、反対に、起業家が投資家を事前にリファレンスチェックできるサービスも計画している。

Anyflow 代表取締役 CEO 坂本 蓮 氏

Anyflow 代表取締役 CEO 坂本 蓮 氏

企業では、従来オンプレミスで利用されてきた各種システムが、クラウドベースのSaaSへと置き換わる流れが顕著だ。現在、企業一社あたりのSaaS平均導入数は7個とされ、10個以上のSaaSを導入している企業は全体の24%を占める。SaaS市場は年間13%のペースで成長を続け、2024年には1兆円規模に達するとみられる非常に有望な分野と言える。

しかし、SaaSの導入が増えた結果、問題も生じる。MAツールで得られたリード情報をCRM(顧客管理ツール)に同期したり、以前なら社内システム間で接続できたデータ連携がSaaS単位でデータが分断された結果、連携を諦めたり手で重複して入力したりするケースが発生してしまう。

SaaS間のデータ連携にはエンジニアが必要になるが、これだけのために専任のエンジニアを社内に置いている企業は稀で、エンジニアは他の業務を抱えていることから、SaaS間データ連携の開発に時間を割くことが難しい。なぜならSaaSの使い方を学び、データ連携のコーディングを行い、実装しテストした上で必要に応じてメンテナンスを続けていく必要があるからだ。

AnyflowはSaaS同士のシステム間連携を直感的に行えるiPaaS(integration Platform as a Service)で、プログラムを書くことなく実装ができる、いわゆる「ノーコード」ソリューションだ。あらゆるSaaSを統合し、自動化し、生産性を上げることを念頭に置いており、エンジニアに手間を負わせることなく、ビジネス部門手動でSaaSの連携を進めることが可能になる。

今年2月に正式ローンチ後、順調にユーザを拡大。代表の坂本氏によれば、ビジネスの日常に組み込まれることでLTVが高くなり、チャーンレートが低くなるという。企業がどういったSaaSを、どういったワークフローで、どういった業務プロセスに利用しているかの情報が蓄積されるため、将来は、企業にベストプラクティスに基づいた自動化を提供できるプラットフォームを目指すとした。

QunaSys 代表 楊 天任 氏

QunaSys 代表 楊 天任 氏

QunaSysは、量子コンピュータのためのアルゴリズムやソフトウェアを開発強しいているスタートアップだ。Google が昨年2019年10月に実証を発表した量子超越(Quantum Supremacy)は、世界最速のスパコンでさえとても長い時間約1万年かかる何らかのある計算問題を、量子コンピューターでは3分20秒という圧倒的に高速に実行できるもの計算できたとして注目を集めた。

現在紹介されているの量子コンピューティングハードウェアの技術の多くは、産業面への応用への道はまだ程遠いものの、ライト兄弟の飛行機の初飛行がその後のドーバー海峡の商用飛行に、そして、現在の飛行技術の開発につながったように、量子コンピューティングもここからどう使えるかという議論につながっていくだろうと、楊氏は語った。

量子コンピュータの応用が期待されるのは特に量子化学シミュレーション分野だ。高エネルギー密度の二次電池開発、太陽光を使って酸素や水素を合成する人工光合成、高効率な肥料合成を実現するアンモニア合成触媒、Co2CO2の高効率な分離回収方法など、量子コンピューティングの計算力を使ってた量子化学シミュレーションにより、新素材の開発や反応機構の解明の発見を効率化する動きへの貢献が期待される。

Qunasys ではこれまでにさまざまな量子コンピュータのための様々なアルゴリズムを開発しており、そのアルゴリズムを化学メーカーが活用できるようソフトウェアとして提供している。クラウドサービス「Qamuy」として日本の主要化学メーカー40社ほどに提供、このアルゴリズムをどうビジネスに使えるかを共同研究している。

化学メーカー以外では製薬分野メーカーでの活用、特に創薬においては治験のプロセスで長い時間を要することから、新薬の毒性試験(安全性確認)において、試験に先立って毒性をあらかじめ予測するような機能し、治験プロセスを短縮することが量子コンピューティングに期待されているそうだ。

前例なき「赤字上場」が生んだものーー大和証券・丸尾氏 Vol.1

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 エリックリース氏の著書「リーン・スタートアップ」が出版されたのが2011年。新たな事業を「構築、学習、計測」というアジャイルなフローに落とし込んだ、新たな起業の手法は世界的に大きなブームとなった。時を同じくして日本でもY Combinatorらが発祥となるアクセラレーションプログラムが開始となり、スマ…

大和証券の専務取締役、丸尾浩一氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

エリックリース氏の著書「リーン・スタートアップ」が出版されたのが2011年。新たな事業を「構築、学習、計測」というアジャイルなフローに落とし込んだ、新たな起業の手法は世界的に大きなブームとなった。時を同じくして日本でもY Combinatorらが発祥となるアクセラレーションプログラムが開始となり、スマートフォンシフトの後押しもあって多くのスタートアップたちを生み出すことに成功する。

日本におけるテックスタートアップ・エコシステムの新たな幕開けだ。KDDI ∞ Laboもその中で産声を上げた。

このエコシステムにおける重要なマイルストーン、それがIPO(新規株式公開)になる。1999年から2000年にかけて発生した日本のITバブルではソフトバンクやヤフー、楽天、サイバーエージェントなどの企業が株式市場で大きく勃興し、その後に続くディー・エヌ・エーやミクシィ、グリーなど、国内インターネット企業が躍進する基盤を作った。

そして2010年代、新たなエコシステムの中で大きく成長したメルカリやラクスル、freee、BASEといった新興企業の多くを主幹事として株式市場に送り出した証券会社、それが大和証券だ。ヤフーやGMO、サイバーエージェントにミクシィにディー・エヌ・エーなど、黎明期からこの国内エコシステムを眺めてきた株式市場の水先案内人は、2010年代に何を見つけ、そして次の世代に何を期待するのか。

本稿は国内エコシステムの今と未来を知るをテーマに、大和証券の専務取締役、丸尾浩一氏に10年の振り返りと、次世代の起業家に求めるものを伺った。

初モノの大和

2019年度の売上高1,961億円、営業利益252億円、グループ企業103社の大連合を組むインターネット企業、それがGMOインターネットグループだ。直近の連結時価総額が約1.6兆円(※)にもなる、このGMOインターネットを中心に構成される10社の上場企業の内、9社は大和証券が主幹事を引き受けている。

「熊谷さん(正寿氏、代表取締役会長兼社長 グループ代表)は周囲をやる気にさせてどんどん上場させていく。やりたいんだと。だからことごとくウチで(主幹事を)やらせてもらった。上場会社をたくさん作るというGMO独自の経営戦略をしっかり支える。それが我々の役目」。

2000年ITバブルで株価が乱高下する際、当時部長だった頃から丸尾氏は経営者の側でマーケットのアドバイスを送り続けた。サイバーエージェントに楽天、ミクシィ、GMO。数多くのIT銘柄を支えてきた彼は長期にわたる信頼関係こそが重要、そう振り返る。

ITバブルから約10年、時代の変わり目となったのがモバイルインターネットの隆盛だ。いわゆる「ガラケー」プラットフォームは数々のアプリやゲームを生み出し、新たな起業のエコシステムを作り出した。この流れはその後のスマートフォン・シフトへと続き、今のスタートアップエコシステムを形作る基礎となった。大和はこの新しい潮流の中、次々と「誰もやらない」初モノ銘柄を世に送り続ける。

「リブセンス(2011年12月上場)は当時、25歳の最年少上場でしたよね。レアジョブ(2014年6月上場)もオンライン英会話という分野の草分けでした。コロプラ(2012年12月上場)はスマホゲームで、エニグモ(2012年7月上場)も越境ECというテーマの先駆けです。昨日、上場の承認が下りたポピンズホールディングス(2020年12月21日に上場、取材日時点は承認段階)は女性活躍を支援するというミッションを掲げていて、『SDGs(持続可能な開発目標)IPO』として第三者にオピニオンを取ってIPOの資金使途を明確にしたスキーム。本邦初と考えています。誰もやらないことをやる。自分たちが率先して画期的なことをやろうじゃないかと」。

大和が国内インターネット黎明期からIT・ネットに張り続けるには訳がある。重厚長大な企業相手だと競争環境が厳しい。「だからこそ大和の基礎は徹底的に他社がやらないことをやった。全ては勝つため」(丸尾氏)。

初モノに強い大和ーー。この基盤を受け継ぎ、彼らは今のITスタートアップたちの水先案内人となることを選んだのだ。

日本ベンチャーキャピタルが公表している資料によれば、2010年のIPO件数は22件。世の中はリーマンショック後の東日本大震災という過酷な時期でもあった。2012年に第二次安倍内閣が発足してからは翌年に東京オリンピックが決定するなど、徐々に明るい話題も増えてくるが、何者かも分からない新興のテック・スタートアップにとっては厳しい冬の時代だったことは間違いない。

そんな中、丸尾氏はある「初モノ」に挑戦することになる。クラウドワークスの赤字上場だ。

前例なき、クラウドワークスの赤字上場

クラウドワークス代表取締役の吉田浩一郎氏(撮影は2013年12月)

2010年代の半ば、主要なインターネットビジネスはまだまだゲームが中心だったが、デジタル化の流れはじわじわと現実世界に染み出していく。それまで電話で配車していたタクシーは、徐々にアプリで事前決済まで済ませた「移動サービス」となり、個人で不要になったものはスマホ経由で気軽に売買できるようになった。一方で市場はまだまだ実験的な空気に支配されている。シェアやオンデマンドといった新たな経済活動がマス層に本格的に広がるのは2010年代後半を待たねばならなかった。

課題はリードタイムだ。世の中が変わることはわかっている。けどその時が来るまでをどう過ごせばよいか。スタートアップたちは各社、独自の資本政策でこの「いつかやってくる波」を待つ必要があった。クラウドソーシングという、個人をエンパワメントする時代を見据えたクラウドワークスもそのひとつだった。

「大和証券がすごいなと思うのは(Tech系の赤字上場は)初めてですから。普通は絶対やらない。引受部が断る。無理。でもね、最初にやることが大事なんですよ。当然、うまくいかなかったら責任問題になる。だから僕らもリスク取ってやってるんですよ」。

丸尾氏が創業者の吉田浩一郎氏と出会ったのは、とあるキャピタリストからの紹介が縁だったそうだ。クラウドワークスの創業は2011年11月。そこからわずか3年後の2014年12月に東証マザーズに新規上場を果たすことになるのだが、丸尾氏も「今ではありえない突貫工事」と振り返るほど、株式公開までの道のりは痺れるチャレンジだったようだ。

「最初に(紹介を受けたキャピタリストから)レクチャーを受けた時、数千万円の黒字で進んでたんですね。(上場申請の)直前になって、急に吉田さんから連絡があり、丸尾さん相談があると。(ある方から丸尾さんに相談しろと言われたらしく、赤字での上場を相談されて)いや、黒字にしないと無理ですよと言ったんですがなんとかならないかと。ご自身でも上場するんだと周囲に伝えているし、当時クラウドソーシングはゲームに次ぐプラットフォームになる、派遣市場の黎明期と同じなんだと。投資銀行部門にぜひこれやりたいと話しまして。上場引受実務担当者に賛同してもらわないと無理なわけです。結果、やります!と決めてくれた。普通、赤字上場のようなチャレンジは大組織の中では、中々難しいものなんです」。

新規上場の際、前期が赤字であっても足元の直前期は黒字というケースが通例だ。バイオやロボットなど、長期にわたって公開市場での資金調達を前提とする場合と異なり、インターネット銘柄での赤字上場はサイバーエージェント以来、14年ぶりの出来事になる。そして上場から4年後の2018年9月期、クラウドワークスの総契約額は100億円を突破し、無事黒字化を果たす。

「情熱ですね。(主幹事として2019年に上場した)BASEの鶴岡さん(裕太氏・代表取締役)を紹介してくれたのも吉田さんです。これをきっかけにコミュニティが広がりました」。

そもそもクラウドワークスが上場した東証マザーズは株式公開市場の中でも若い企業を対象に、成長のステップとして活用されることの多いマーケットだ。真に50年、100年と続く企業を生み出すための日本独自のエコシステムといってもよい。クラウドワークスはその点で、正しくこの機能を活用したケースだった。

大和の思い切った「初モノ」は国内のスタートアップエコシステムに大きな影響を与える。これをきっかけにラクスル(2018年5月上場)やメルカリ(2018年6月上場)など、足元が赤字であってもマーケットと共にその後の成長を見据える新たな選択肢が増えることとなったのだ。(後半につづく)

※Bloomberg記事より10月14日時点の数字として

アフリカの銀行口座をデジタル化する「Umba」、ケニアとナイジェリアで事業拡大

ピックアップ:Into Africa: Irish start-up wins funding to lend to emerging markets ニュースサマリ:サンフランシスコを本拠地として新興市場向けにデジタル銀行を運営しているフィンテックスタートアップUmbaは、現在サービスを提供しているケニアとナイジェリアで製品機能を拡充するために、200万ドルのシード資金を調達した。 このラウンド…

Image Credit : Umba

ピックアップ:Into Africa: Irish start-up wins funding to lend to emerging markets

ニュースサマリ:サンフランシスコを本拠地として新興市場向けにデジタル銀行を運営しているフィンテックスタートアップUmbaは、現在サービスを提供しているケニアとナイジェリアで製品機能を拡充するために、200万ドルのシード資金を調達した。

このラウンドは、Stripeの元発行責任者である Lachy Groom氏とLudlow Venturesがリードし、新たにFrontlineVenturesとActVenture Capitalが投資家として加わった。Ludlow Venturesにとっては初のアフリカ市場への投資となる。今回調達した資金で今後数カ月以内にこれら2つの市場で提供するサービスを拡大し、デビットカードの追加なども計画している。

詳細な情報:Umbaはアフリカのレガシー銀行に代わるデジタル金融サービスを提供。Umbaのモバイルアプリでは、アフリカの既存の銀行では高コストな金融サービスである当座預金口座やピアツーピア送金を無料で利用できるほか、貸付、預金、各種料金の支払い、キャッシュバックなどを提供する。

  • Umbaは当初から複数の市場、通貨、決済インフラストラクチャにサービスを提供する前提でプラットフォームを構築している。たとえば、ナイジェリアは銀行とデビットカードの普及率が高いため、Umbaはこれらの支払い方法に対応しているが、ケニアと東アフリカではモバイルマネーの利用の方が圧倒的であるためこれらのサービスと密接に連携している。
  • 多様なニーズに柔軟に対応できることを当初から考慮にいれていることがUmbaがビジネスを迅速に拡大できる理由だと、同社UmbaのCEOであるTiernan Kennedy氏は説明している。
  • Umbaは2019年7月に、ACT Venture Capital、Frontline Ventures、Bloom Equityから非公開のエクイティファイナンスラウンドを実施し、アフリカ各国の銀行口座を持たない人々に向けてマイクロファイナンスサービスの提供を開始、2019年11月にはケニアのMYDAWAと提携し医療費支払いのための融資サービスなども行っている。

背景:Umbaがサービスを提供するケニアとナイジェリアはアフリカのフィンテックシーンをリードする国で、両国の人口は合計で2.5億人を超える。銀行口座保有率が20%を下回る国も珍しくないアフリカの中において、ナイジェリアの銀行口座保有率は半数以上と周辺諸国よりも高く利用者も多い一方、ケニアでは携帯電話を利用した送金サービスのM-PESAによる取引がGDPの4割を超えるほどにまでなっており、両国の金融サービスを取り巻く環境は全く異なっている。

執筆:椛澤かおり/編集:岩切絹代

ケニアで深刻化する血液問題に取り組む、デジタルヘルスプラットフォーム「Damu-Sasa」

ピックアップ:Kenyan e-health startup Damu-Sasa secures $20k from Villgro Africa to enhance COVID-19 capabilities – Disrupt Africa 重要なポイント:献血に対する理解不足から国内での協力者が少なく、以前から慢性的に医療用の血液不足が問題視されていたケニアでは、新型コロナウィ…

Photo by cottonbro from Pexels

ピックアップ:Kenyan e-health startup Damu-Sasa secures $20k from Villgro Africa to enhance COVID-19 capabilities – Disrupt Africa

重要なポイント:献血に対する理解不足から国内での協力者が少なく、以前から慢性的に医療用の血液不足が問題視されていたケニアでは、新型コロナウィルスの流行で事態はより深刻となった。そんな中、同国で献血バリューチェーン向けにプラットフォームを提供しているDamu-Sasaが、献血者の増加や効率的な血液管理に貢献している。

詳細な情報:ケニアのナイロビを拠点にするデジタルヘルス・スタートアップDamu-Sasaは、採血、在庫管理、輸血管理、など、エンドツーエンドの医療用血液バリューチェーンを統合的に管理するプラットフォームを同国内向けに提供している。

  • Damu-Sasaのプラットフォームはクラウドベースで、バリューチェーンに関与する全ての人々に関連するアクティビティを一括で情報提供することが可能なため、 データによる意思決定の強化や効率的な血液の管理を支援し、 関連するコストを削減する。
  • 病院が献血協力者や病院間で必要な血液を調達するのを支援し同時に、血液製剤のスクリーニング、準備、在庫管理、輸血管理もサポートするなど、バリューチェーン全体で同プラットフォームは機能する。また、必要に応じた登録者への献血協力の要請や血液のトラッキング、献血履歴の管理もプラットフォーム上で行える。
  • 同社は病院やその他関連する多くの機関やパートナーと協力し、安全な血液を十分に供給することを目的としてプラットフォームの改善を行いながら、国民からの自発的な献血量の増加を増やす取り組みをしている。
  • 現在までにケニア全体の132の病院で同社プラットフォームは利用されるようになり、9,000回を超える献血を促し、プラットフォーム上には7万2,000人を超える登録者がいる。同社は新たにリリースされたAndroidアプリを通じてこの数をさらに大幅に増やすことを目指す。今年の7月に同国内で献血用血液の不足が深刻になった際には、保健省とFacebookが提携して行った献血キャンペーンにも協力するなど、既に同国内では一定の知名度と信頼を得ている。
  • この取り組みを後押しし、また新型コロナウィルスの感染拡大防止への貢献を強化するために、ヘルスケアおよびライフサイエンスセクターのインパクト投資家でもあるVillgro Africaから2万ドルの助成金を確保した。またVillgro Africaは助成金に加え、Damu-Sasaプラットフォーム上の新型コロナウィルスに関連した血液管理機能の強化や、継続的な資金調達活動をサポートするための支援も実施する。

背景:ケニア国内では年間100万ユニット程度の輸血用血液が必要とされているが、献血の重要性に対する理解不足などから積極的に献血を行う人は少なく、国内の献血量は20万ユニットにも満たない状態にあり、医療用の血液は慢性的に不足状態にあった。これまで海外からの支援(輸入)に頼っている状況であったが、その最たるものであった米国からのエイズ救済のための血液提供プログラムが昨年後半の資金削減によって停止状態となり、今年初め頃からケニア国内の医療用血液不足は深刻化していた。新型コロナウィルスの影響により、ロックダウンや外出自粛といった行動の制限により献血センターなどに足を運び献血をする人が激減し、現在世界的に医療用の血液の安定的な確保が難しくなっている。

執筆:椛澤かおり/編集:岩切絹代

40億人の「住所不定」を解決するスマートアドレスサービスのOkHi、ナイジェリアで開始

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ピックアップ:Nairobi-based startup OkHi launches in Nigeria ニュースサマリ:物理的な住所のない人々のためにケニアのナイロビを拠点にスマートアドレスサービスを展開するOkHiは12月、アフリカ最大の銀行プラットフォームであるInterswitchと提携してナイジェリアでサービスをローンチした。今年9月にはナイジェリアへの市場拡大などを目的として、Fou…

Image Credit : OhHi

ピックアップ:Nairobi-based startup OkHi launches in Nigeria

ニュースサマリ:物理的な住所のない人々のためにケニアのナイロビを拠点にスマートアドレスサービスを展開するOkHiは12月、アフリカ最大の銀行プラットフォームであるInterswitchと提携してナイジェリアでサービスをローンチした。今年9月にはナイジェリアへの市場拡大などを目的として、Founders Factory AfricaAsian VC Betaron、Interswitchが主導するシードラウンドで約150万ドルの資金調達を実施している。

詳細な情報:OkHiのスマートアドレスシステムを使用すると、個人の名前と電話番号に対してGPSによる家の位置情報、実際の家や家の前の写真、その他住居の特定に役立つ情報を紐付けることができる。通りの名前や番地などが割り当てられていない地域に住む人たちの元へ、郵便物やデリバリーサービスなどの配達員が迷ったり電話をかけて場所を確認しなくても、スムーズに目的の家にたどり着けるようになる。

  • ケニアではOkHiの利用によって配送コストの20%削減し配送時間40%短縮された。ナイジェリアでは同サービスの普及によって年間20億ドル程のコスト削減が見込まれている。また、Interswitchとの提携はナイジェリアの全国民1億9,500万人に物理的住所を提供するというOkHiの支援目的以外にも、eコマースセクターの成長を加速させ、金融包摂を推進するという目的が含まれている。
  • OkHiに限らずスマートアドレスサービス全般では、その情報を参考に郵便や荷物の配達が行われる度に、住所や住人の情報の有効性が確認される(もし情報通りの場所に目的の家や荷物の受け取り人が存在しない場合には、情報が誤っていることをシステムに報告できる)ため、利用者や利用頻度が増えるほどに情報の正確性が担保される。
  • 企業側がOkHiのスマートアドレスを住所証明として信頼に値すると判断すれば、配達関係のサービスに限らず、これまで住所の入力や登録が必須であったサービスへのアクセスが可能になったりKYCとして有効な手段にもなり得るため、同サービスは物理的な住所を持たずに暮らしている人々の生活が大きく向上する可能性を持っている

背景:OkHiは元GoogleのエンジニアでGoogle MapsやChromecastに携わっていたTimbo Drayson氏によって、2014年イギリスとケニアに拠点を置く企業として設立された。世界には推定数十億人(OkHiによれば40億人)にのぼる人が、物理的な住所を持たずに暮らしている。これらの人たちは郵便物などの受け取りに苦労するばかりか、銀行口座や運転免許証、投票権、社会保障、医療、災害支援など様々なサービスへのアクセスが制限されるため、現在GPS機能や衛星画像などを活用してこの問題の解決を試みる様々な取り組みが行われている。

執筆:椛澤かおり/編集:岩切絹代

花き業界をデジタル化する「HitoHana(ひとはな)」モデルーーCEOの視点:Beer and Tech 森田氏

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 コロナ禍によって2020年は大きく市場が動いた年になりました。デジタル化の波は全ての産業に到来し、新たなパラダイムの変わり目を感じている経営者の方々も多いと思います。一方、各業界・市場の構造や課題は外からは見えづらく、新たなビジネスチャンスに気が付かないケースも多々あります。…

Beer and Techチーム。画像提供: Beer and Tech

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

コロナ禍によって2020年は大きく市場が動いた年になりました。デジタル化の波は全ての産業に到来し、新たなパラダイムの変わり目を感じている経営者の方々も多いと思います。一方、各業界・市場の構造や課題は外からは見えづらく、新たなビジネスチャンスに気が付かないケースも多々あります。

そこでGB Universe編集部ではグローバル・ブレインで実施している投資先のPR支援プログラムと連携し、各業界に特化した成長スタートアップのCEOにその市場の読み解きと、成長している「理由」を語っていただくインタビューシリーズを開始することにいたしました。

初回に登場するのはお花のデリバリーで急成長中のBeer and Tech代表取締役、森田憲久さん。運営する「HitoHana(ひとはな)」は農林水産省が主導する生産者支援プログラムに参加し、コロナ禍によって廃棄される可能性のあったお花を約3カ月で2万3,000件以上出荷することに成功します。これはプログラム全体の約7割に相当(※)したそうです。(※2020年5月–9月のプログラム期間中、全体で33012件の出荷と発表されている中、HitoHanaは本格参加から3ヶ月間(9月–11月)で23,408件を出荷。)

グローバル・ブレインが支援するスタートアップの創業者「CEOの視点」を通じ、新たなビジネスチャンスや成長企業へ参加するきっかけとなれば幸いです(文中の太字は全てGB Universe編集部、回答はBeer and Tech代表取締役の森田憲久氏)。

花き業界の課題と現状

森田さんの実家は胡蝶蘭の生産者。画像提供: Beer and Tech

森田さんはご実家もお花の事業をされているんですよね

森田:はい、緊急事態宣言が出された頃、胡蝶蘭の生産者である実家から連絡がありました。そこで父から「お花屋さんがみんな閉まってしまい、今年は花が咲いてきた胡蝶蘭を大量に余らせてしまうかもしれない。ネット花屋さんだけが頼りだから、大変な状況だけど頑張ってほしい」と言葉をかけられたんです。

それで農林水産省のフラワーロス支援キャンペーン(※)に参加して送料を無料にした

森田:珍しく私に弱気な姿をみせた父親を見て、同様の悩みを抱えている生産者さんがいることに思いが至ったんです。インターネット経由でお花を売ることが少しでも生産者さんの助けになるのであれば、と思って参加しました。(※農林水産省が主催している国産農林水産物等販売促進緊急対策プロジェクト。)

パンデミックで顕在化した部分含め、花き業界の課題について教えてください

森田:花屋さんは現在1万5,000店あると言われています。平均の年商は2,300万円ぐらいで、非常に小さな会社がばかりです。だいたい1兆円ぐらいのマーケットだと言われているのですが、最大手の会社でもマーケットシェアは3%程度です。

マーケットが拡大する時は小さなお店でも良かったのですが、マーケットが徐々に縮小していく中では、店舗の採算は合いづらくなっていきます。お店を守るために、一人で多くの業務を抱え込み、朝早く店を閉めるのに疲れましたというフローリストも少なくありません。

そういう状況だとテクノロジー投資も難しそうですね

森田:はい、コロナウィルスは予想されていた店舗が減少しユーザーがECにシフトしていくという未来を前倒しで現実化しました。特に、お客様の移動に制限がかかったことやリモートワークが進んだことで家で過ごす時間が増え、お花や植物の需要は伸びました。しかし、お店で購入していたユーザーの生活動線上にあったお花屋さんがなくなってしまい、そういった方々がお花を求めてオンライン流れてきたと考えています。

花き業界におけるデジタル化のプレーヤーの状況を教えてください

森田:花き業界のデジタル化は1995年に米国の1−800FLOWERS.comのインターネット販売をきっかけに進みはじめました。1−800FLOWERS.comは提携する花屋さんをネットワークし、インターネットで注文を受けたらお届け先の近くにあるから提携店からお花をお届けする、というモデルでした。

国土の広いアメリカのどこにでもお花が贈れる、フラワーデリバリーサービスという業態を確立し、NASDAQに上場を果たし、いまも順調に株価を伸ばしています。国内でも花キューピットさんを筆頭に同様のモデルの花のECに取り組む企業が登場しています。

確かにお花の「ギフト」と言えば花キューピットが強いですね

森田:確かにこのビジネスモデルは、大きな国土がある米国の配送問題を解決するには素晴らしい解決策ではあるものの、AmazonのようなECと違い、お花はスケールすることで仕入先に対して価格交渉力を持つことができません。販売面をとったことが必ずしも強い優位性をつくるわけではないんです。

そのため、2012年ぐらいから米国でフラワーデリバリーサービスを手掛けるスタートアップが立ち上がり、ヨーロッパや中国でもそのトレンドは続きました。新しく生まれたスタートアップは中間業者を排除することで価格競争力をつけ、デザイン性を高めるビジネスモデルを採用しました。

HitoHanaの開始は2015年11月ですね

森田:はい、当時から海外サイトをみていたわけではありませんが、世界のスタートアップ同様、僕らも店舗からECへオンラインシフトするマーケットの中で、市場流通比率の高さや既存のECプレイヤーのデザイン性には課題が残っているように感じていました。

しかし、実際に事業を始めてみると、日本の花のECにおける流通業者のマージンは8%程度でそこまで大きくなく、米国のように中間業者を省いても劇的な大きなインパクトがないことがわかりました。一方で、公共交通機関や物流網が整っている日本では提携花屋さんにオペレーションを任せてECサイトのウェブマーケに注力し販売額を伸ばしても、デザインコントロールできない上に仕入れコストも大きく下がらず、まだ課題が残っているように感じました。

日本特有の業界課題を発見したと

森田:一人のユーザーとして感じていた古臭いデザインの問題と競争優位なきビジネスモデルが生み出した厳しい労働環境、この両方を解決するようなビジネスモデルを模索する中で、HitoHanaは今の姿に近づいてきました。

HitoHanaが採用したSPA型モデルのメリット

ここからHitoHanaのモデルについてお聞きしたいのですが、全体像を教えていただけますか

森田:これらの問題を解決するために、HitoHanaのビジネスモデルは、提携花屋さんをネットワークするECではなく、商品企画から仕入れ・制作・発送までバリューチェーン全体をコントロールするSPA型のECを展開しています。

大手小売と同じ一気通貫のモデルですね

森田:僕らは花屋さんにオペレーションを外注し、スケールさせやすい構造を捨てる代わりに、ECに特化したオペレーションを自ら設計し、オペレーションをスタッフ集め、業務プロセスの中でデジタルデータを生み出し、データが貯まれば貯まるほどお客様の提供価値が増していく構造を選択しました。

HitoHanaのビジネスモデル。画像提供: Beer and Tech

例えば、HitoHanaでは、注文を受けて実際に制作した花束はすべて撮影し、画像データとして保存しています。その画像データ一つでも次のような活用をしています。

  1. 制作した花束の画像は花束をオーダーしてくれた方にお送りします。ギフトの花束はお届け先に届き注文者が確認することができないため画像をお送りすると非常に喜ばれます
  2. 制作した花束の画像は商品詳細ページにあるギャラリーに掲載され、購入検討しているユーザーさんが実際どのレベルのデザインが納品されるのかわかり安心感が増します
  3. ギャラリーから制作した花束の画像を選択肢、類似デザインを指定してオーダーすることができます。お花のデザイン要望をテキストで伝えるのは非常に難しく、画像を利用することでお客様が要望を伝えやすくなっています
  4. 制作した花束の画像は、レビューにも表示され、どんなデザインに対してついたレビュー点数なのかわかるようになっており、より意味あるレビューになっています
  5. 制作した花束の画像は制作者と紐付けられ、誰が何をどんなデザインで制作したかわかり、デザインフィードバックがされるようになっています

販売すればするほどデータが蓄積されて体験が改良される

森田:そうです。この例のようにデータを取得から活用までの一連の流れを作ることで、現場で働くメンバーの仕事の価値を流してしまうのではなく、ストックし積み上がるように設計しています。デジタル化をオペレーション効率化に使うのだけではなく、提供価値を増幅する仕組みを根幹に据えることで、データそのものとデータを生み出す組織が、他者が真似できない優位性を築いていくんです。

デジタル・トランスフォーメーション(DX)がツールのデジタル化ではなく、構造のデジタル化であると言われますが、そのケーススタディですね

森田:このようにデータによって提供価値をつくることでお客様の支持を集めた結果が農水省におけるプログラムの成果に繋がったのではないでしょうか。花き販売では43サイト(楽天、Yahoo、食べチョク等)が販売参加している中、花と植物領域に特化したサービスとして大きな存在感を残せたと思っています。

デジタル化で花き業界はどう変わる

HitoHanaで制作されたフラワーデザイン。画像提供: Beer and Tech

最後に花き業界がデジタル化することでどう変わるのか、聞かせてください。森田さんのお話ではご実家の事業も含めた現在の小売事業者はある意味で競合してしまう存在になります。どのような発展のシナリオがあるのでしょうか

森田:コロナ以前から国内でも毎年10%程度フラワーデリバリーサービスが成長すると言われていました。なのでお花の購入チャネルが店舗からオンラインへと流れるのは確実です。実際、国内の花や植物マーケットに参入意思がある会社は米国のフラワースタートアップのBOUQSやAmazonなどが登場しており、これから数年で競争環境はより厳しくなると思います。その上で、フラワーデリバリーサービスが成長することで花き業界にも大きく3つの変化が起きると考えています。

なるほど

森田:1つ目は、フラワーデリバリーサービスと生産者との密接な連携です。ECの規模が大きくなればなるほど、商品写真に近しいものを作るために同じ花材が必要になり、特定の生産者への発注額が急激に伸びていきます。

既に生産計画などに踏み込みこんでの花材確保の話が進めていますが、フラワーデリバリーサービス事業者と提携生産者が連携し、商品企画時点から連携するようになるはずです。こうした連携の中で、市場でセリ落とされて勝手にサーブされる状態から、他業界のD2Cのようにサプライチェーンの透明性は増し、生産者の顔の見えるような世界に変わっていくと思います。

SPAのようなサプライチェーンを受け入れる、という変化ですね

森田:2つ目は、労働環境のホワイト化です。店舗からフラワーデリバリーサービスで勤務するフローリストさんが増えることで、労働環境は是正されていくはずです。というのも、フラワーデリバリーサービスは注文は24時間受け付けられるため、店舗のように制作時間以上にフローリストを拘束する必要がありません。また、規模化することで分業とシステム化が進み、一人あたりの生産性は大幅に改善するからです。

実際、弊社のフローリストの1日の制作数は、店舗の勤務時の3倍以上であるにも関わらず、配送会社様へ荷物を引き渡したら、定時でお仕事終了になります。自身の才能が活きるプロセスにフォーカスでき、価値が積み上がる構造が作れれば、労働時間だけでなく、店舗勤務よりも良い給与を提供できるはずです。

この辺りは規模の経済が効きやすい部分ですね

森田:最後は人気フローリストの登場です。お花は前述の通り、スケールしてもコストが劇的に下がることはありませんので、利益を伸ばすためには提供価値を上げる方向性にシフトしていくことが予想されます。提供価値を上げていく方向の中で、注文されるのが個々のフローリストのデザインスキルです。

なるほど、インスタでもお花の写真は人気ですが、マイクロインフルエンサーが登場してもおかしくないですね

森田:いままで店舗のある商圏の中でしかサービスを届けられなかった才能があるフローリストは、フラワーデリバリーサービス上で全国のお客様にサービスが提供できるようになることで、ユーザーに才能があるフローリストは発見され、オンライン発で人気フローリストが生まれてくると考えています。フローリスト個人の指名料やギフティングの仕組みなどが進み、もう一度憧れの職業に返り咲けるのではないかと思います。

デジタル化によってこのようなシナリオが生まれ、これまでの花き業界における店舗が抱えてた問題を解決し、フローリストや生産者との関係が変わるのではないかと考えています。

長時間のインタビューありがとうございました