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Apple v.s. Epic: 「特別待遇」要求はあったのか(5/6)

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論争の背景にあるもの (前回からのつづき)Epicは、ユーザーが直接Epicに課金できる代替アプリストアを望んでいる証拠があると主張している。同社によれば、Fortnite(フォートナイト)のiOSユーザーの54%が、8月13日から27日間にかけて同社が実装した直接課金を利用したと述べている。 筆者はEpicがなぜ直接課金の導入を拒否された時点でAppleを訴訟しなかったのか不思議であった。後から…

Appleに反抗するEpic/Image Credit: Epic Games

論争の背景にあるもの

(前回からのつづき)Epicは、ユーザーが直接Epicに課金できる代替アプリストアを望んでいる証拠があると主張している。同社によれば、Fortnite(フォートナイト)のiOSユーザーの54%が、8月13日から27日間にかけて同社が実装した直接課金を利用したと述べている。

筆者はEpicがなぜ直接課金の導入を拒否された時点でAppleを訴訟しなかったのか不思議であった。後から考えればこれは明らかに、EpicがAppleに対して同社ユーザーが直接課金を望んでいるかの証明を明確にしたかったからだと推測される。

同じ週、FortniteのiOSデイリーアクティブユーザーは60%減少した。この背景には、Appleがアプリのダウンロードを遮断したことやアップデートをできないようにしたことが挙げられるだろう。またEpicは、iOSのFortniteユーザーの内63%はiOSのみでアプリにアクセスしていることを明かしている。

AppleはiOS14における、開発者向けAPIに対し多額の投資をしている。加えて、同社はAppleCareを通し年間2500万件以上のカスタマーサービスにて、5億ドル程の返金手続きに対応しているそうだ。また、iOSアプリの経済圏が世界で最も急成長を遂げていると主張し、米国においては270万件の雇用を創出していることを明示している。

加えて、同社はEpicが主張するような独占禁止法に触れた行動はとっていないとも主張する。AppleのEpicに対する昨年売り上げ18億ドルの内、12%のみがiOSから発生したものだったと結論付けている。

事実関係を巡るやり取り

The Epic Gamesイベント「GDC 2019」/Image Credit: GDC

Appleは、既にEpic陣営より事実と異なると主張される可能性の高い選択肢の道を選び始めている。8月13日時点でiOSユーザーがFortniteをアップデートしようとすると「開発者がストアからアプリを削除しました」と表示さるようになった。しかし、実際にはAppleが主体的に削除したものであり、これはEpicも偽りであると主張している。ここから分かるように、両者ともにユーザーへの印象付けを始めていることが分かるだろう。

さらに興味深いのはAppleが主張する、EpicのTim Sweeney氏による「特別待遇」の件だ。同社は6月30日に同氏がAppleのティム・クック氏へ向けたメールを引用し、そのような主張をしている。

「Epicは収益性の高さから、他と同等の扱いをされることを拒む姿勢をみせていました。Epicは公の場で、誰からも特別待遇は受けるつもりはないと公言しています。しかし、同氏は直接課金をAppleに対して要求するサイドレターを送っています」。

しかし、この主張は事実と正反対だということが明らかになっている。Sweeney氏はTweetにて、同社はAppleに対して公正な条件を依頼していたと述べている。つまり、同社は特別扱いを要求するメールなどしておらず、これまで外部的に見せてきた態度と同じ姿勢をAppleへ示し続けていたのだ。(最終回につづく)

参考記事:Fortnite戦争

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

Apple v.s. Epic:独占禁止というユーモア(4/6)

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独占禁止というユーモア (前回からのつづき)Appleは独占禁止法に対して、ユーモアを交えた見解を示している。同社は一時的な差し止め命令(TRO)は意図しない不可抗力な間違いを救済するために存在するのであって、「自業自得」な間違いを簡単に修復するものではないと主張した。これは、Epicが無能で貪欲な行動を取る存在であると位置づけ、Appleを本質的な被害者と仕立て上げているような見せ方となっている…

独占禁止というユーモア

(前回からのつづき)Appleは独占禁止法に対して、ユーモアを交えた見解を示している。同社は一時的な差し止め命令(TRO)は意図しない不可抗力な間違いを救済するために存在するのであって、「自業自得」な間違いを簡単に修復するものではないと主張した。これは、Epicが無能で貪欲な行動を取る存在であると位置づけ、Appleを本質的な被害者と仕立て上げているような見せ方となっている。同社はEpicとの訴訟問題を次のように捉えていると語る。

「Epicの訴訟は基本的な資金を巡る意見相違以外の何物でもありません。Epicは自らを現代のロビン・フッドのように描いていますが、実際は既に数十億ドル規模の企業にも関わらず、App Storeの利益だけを享受し、無償で利用することを望んでいます。同社が主張する特別措置待遇は、そうした明白な契約違反を鑑みれば折り合いがつきません。なお、Epicはゲーム開発者の売り上げからコミッションを得たり、消費者に「V-Bucks」をバンドルさせ99.99ドルも課金させるなどの対応をしています」。

AppleはEpicが何年にもわたり、App Storeのツール、技術、ソフトウェア、マーケティング、ユーザーリーチの面で利益を享受してきたことを挙げる。確かにApp Storeは世界175カ国の10億人に対し、iOSを通したサービスをリーチさせることのできるプラットフォームであり、同社もその有用性を認めた2700万人のアプリ開発者の内の一人である。

また、AppleはEpicが事前にストーリー仕立てにしたパロディービデオと、「TRO」を用いて抗議キャンペーンを展開したことについて強く非難している。同社は「Epic側がゲームプレイヤーや開発者が被っていると主張する損害は、同社が契約違反することなく訴訟に動いていればれば回避できたことかもしれない」と述べている。

EpicにとってiPhoneは起爆剤だったと主張するApple/Image Credit: Apple

Appleはさらに、Epicが求める緊急救済(TRO)に応じることは、App Store全体のエコシステムを脅かすことに繋がりかねないとの見解を示した。同社は、仮にEpicが主張するTROを認めれば、開発者が規約違反を犯し、App Store全体のセキュリティーを危険にさらし、Appleへの支払いを回避するなどの行動を起こしやすくなると述べる。そしてまさに、Epicはそのような状態が起きることを望んでいるように思える、と同社は語っている。

必要不可欠な存在か

独占禁止法は、必要不可欠な実態の利用を拒んだ際に適応されることが多い。しかしAppleは「必要不可欠な実態に関するセオリーは、独占禁止法に抵触するからと言って、他の財産や特権に対してアクセス権限を主張するものではないことを裁判所は充分に理解している」と主張する。

また、同社はEpicがiOSへのアクセス拒否を実行したと主張しているが、これは「全くの虚偽」であると述べている。これは、同社がFortnite(フォートナイト)をApp Storeから削除した後も、既存のFortniteのiOSユーザーに対し直接課金を継続したからだと指摘している。AppleはApp Storeが公共事業でないことを強調し、「Epicには、App Storeが提供することが可能な全ての権利を無償で享受する権利はない」としている。

「Epicと同社のCEOは、2008年以来全ての開発者に提供してきた21世紀のもっとも革新的なプラットフォームであるApp Storeの規約に対し異議を唱えていますが、これは同社の収益を最大化させないという理由のみに紐づいた主張なのです。App Storeは書状そのものに革命を起こし、Epicを含むあらゆる開発者・ユーザーに大きな利益をもたらしてきました。AppleはEpicの根拠なき主張に対ししかるべき対応を講じていきます」。

つまりAppleは、数々のアプリケーションはApp Storeあってこそ誕生したものであり、そこに収益構造が敷かれ、その役割報酬を受けるべきだと主張している。続けて、もし革新的な技術でApp Storeが存在していなかったのなら、ユーザーそのものがいなかったことになると述べている。また、同社決済システムは、支払いが確実に行われることを保証する手段であることも付け加えた。

開発者による支払いがあってこそAppleの仕組みは維持される

「開発者が決済をアプリ外で回避できるのであれば、Apple Storeの商品をそのまま万引きしている状態と大差はありません。つまり、Appleの商品に対してAppleが対価を頂けないのです」。

また、Appleは手数料を介した収益モデルは同社に限ったものではないとしている。

「GoogleのPlay Store、AmazonのAppstore、Microsoft StoreやXbox、PlayStation、Nintendo、Steamなどの多くのビデオゲームにおけるデジタルマーケットプレイスでは、公式決済機能を設け、ほぼ同様な手数料要件を要求しています」。

Appleは長年にわたり、App Store並びにiOSのセキュリティー対策を大きな資金をかけて講じてきた。しかし、Fortniteなどがアプリ内で独自の直接決済システムを導入した場合、セキュリティー脆弱性を大いに強まらせる要因に繋がりかねないとしている。同社はEpicが主張する要求に理論的なものはないとの見解を示す。

Appleは2018年にEpicがFortniteをGoogleのPlay Store外部からダウンロード可能にし、結果的にマルウェアを配信するサイトが登場した過去を指摘した。Appleは2019年までに、EpicがiOS以外のFortnite側が脆弱性により、何億人もの単位でハッキングの危険にさらされていることを認めたと述べる。

「Appleでは、こうしたiOSプラットフォームのセキュリティーに関わることをどの開発者にも委託していませんが、特にEpicはセキュリティーに関わる責任を任せることができない存在です」

なお、EpicはAppleの指摘に対しセキュリティー問題を大きく誇張したものだと反論している。

参考記事:Fortnite戦争

【via VentureBeat】 @VentureBeat

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Apple vs Epic:Appleの言い分(3/6)

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Appleはメタバースを脅かす、という主張 (前回からのつづき)AppleがFortnite(フォートナイト)をApp Storeから削除したことで、Snow CrashやReady Player Oneなどの小説に登場するような、すべてが相互に接続された仮想世界の宇宙「Metaverse(メタバース)」を夢想するEpicの努力が台無しになるとEpicは主張している。Epicはメタバースを、多目的…

Appleはメタバースを脅かす、という主張

メタバースはEpic対Appleの戦いの犠牲者になる可能性がある/Image Credit: Sansar

(前回からのつづき)AppleがFortnite(フォートナイト)をApp Storeから削除したことで、Snow CrashReady Player Oneなどの小説に登場するような、すべてが相互に接続された仮想世界の宇宙「Metaverse(メタバース)」を夢想するEpicの努力が台無しになるとEpicは主張している。Epicはメタバースを、多目的で永続的なインタラクティブな仮想空間と表現している。

Epicは、Fortniteがメタバース特有の多くの特徴を持っていると考えているようだ。

「深いコミュニティが存在し、永続的な社会的つながりを中心とする没入体験であり、誰にでもなれる遊び場でありながら、真の本物の自分を表現することができる」。

Epic はゲームのソーシャル空間におけるアイデアの流れを、FacebookやSnapchatなどに対抗し、それに取って代わる可能性があるとしている。Epic は「大手テック企業がメタバースのフロンティアに注目して多額の投資をしている。Fortniteはこのレースで優位に立っている」と言及している。

加えてEpicは、Fortniteのメタバースへの進化が成功するかどうかは、大規模なユーザーベースを持つかどうかにかかっており、潜在的な新規ユーザーにとって、その点がFortniteでの活動をより良い体験にするとしている。つまり、モバイルユーザーがそのユーザー基盤に対して非常に重要な役割を果たすとしているのだ。

1億1,600万人以上の登録ユーザーがiOSからFortniteにアクセスしており、これは他のどのプラットフォームよりも多くなっている。彼らはアプリで28億6,000万時間以上を費やしており、これらのプレイヤーの多くをFortniteから排除し、10億人以上のiOSユーザーにアクセスする能力をブロックすることは、AppleはEpicのチャンスを取り返しのつかないものにする可能性がある。Epicはその点において、Appleがメタバースを生み出す能力を脅かしていると主張しているのだ。

Appleは当然ながら、この主張を簡単に退けている。

Appleの主張

Appleのティム・クックCEOはプライバシーに全力で取り組む/ Image Credit: Apple/VentureBeat

AppleはEpicを 「卑劣な攻撃」と称して、事前に訴訟のための下準備をしていたことを批判した。Appleは、EpicがFortniteを修正して独自の直接課金システムを使用できるようにするために、「修正プログラム(Hotfix)」という裏技を使用したと指摘している。Epicの技術幹部は、このような修正プログラムは業界では非常に一般的であり、これはAppleがデジタル版「トロイの木馬」と表現するようなものには値しないとしているが、Appleは修正プログラムは明らかにセキュリティと支払いシステムを回避するために計画されたものであったと主張している。

EpicはAppleがFortniteを切断し、Unreal Engineのプラグを抜くと脅したことで緊急事態が勃発したとしているが、Appleはこの状況を「自業自得」と切って捨てた。一方、Appleは訴訟が係争中の間、Epicが手数料を支払うことで簡単に以前のバージョンのFortniteがApp Storeに復帰できるともしている。

「Epicがここで提起した被害は回避可能なのです。AppleはFortniteであれUnreal Engineであれ、Epicの顧客に対する主張されている被害は、Epic自身によって終息させることができるのです。Epicが危険に晒されていると主張しているユーザーや開発者は、Epicが持ち込んだスキームに契約違反が含まれており、その救済を求めて裁判所に駆け込んだことで不利益を被っているにすぎません。Epicは彼ら自身が顧客と開発者をこのような立場に追い込んだのであって、Apple ではないのです」。

参考記事:Fortnite戦争

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

Apple vs Epic:Appleプラットフォームにおける決済論争(2/6)

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Epic側が主張するAppleの「独占」 (前回からのつづき)Epicは以下2点でAppleが独占的性質を帯びていると主張する。 アプリ配信コントロールをしている点 ユーザーがApple独自の決済システムを介して支払いをしなければならない点 Appleが持つ独占力を考慮すれば、独占禁止法により競合他社をマーケットから取り除くような行為は禁止されているはずだという主張だ。しかし、それと同時に同社はA…

Epic Gamesはオープンプラットフォームを望む。Image Credit: Epic Games

Epic側が主張するAppleの「独占」

(前回からのつづき)Epicは以下2点でAppleが独占的性質を帯びていると主張する。

  • アプリ配信コントロールをしている点
  • ユーザーがApple独自の決済システムを介して支払いをしなければならない点

Appleが持つ独占力を考慮すれば、独占禁止法により競合他社をマーケットから取り除くような行為は禁止されているはずだという主張だ。しかし、それと同時に同社はAppleがApple Storeを通して成し遂げた新しい価値提供について認めている点は触れておくべきだろう。

「明確にしておくと、弊社はAppleに対して全ての無償提供を求めているわけではありません。私たちが求めているのは、App StoreやIAP(アプリ内課金)を利用することなく、他のサービスを選択可能とすることです」。

Epicはアプリ配信自体そのものが、スマートフォンプラットフォーム市場から派生した「アフターマーケット」であると主張している。これは、全てを同一マーケットであると捉えるAppleとは正反対の見解だ。そのためEpicは裁判所に対し、諸問題が単一製品の話でなく、独自性を持ち合わせたアフターマーケットとして考慮すべきだとの考えを示している。

つまりEpicは、スマートフォンプラットフォーム上における権利主張をしているのではなく、アフターマーケットにおいてAppleが独占禁止法に触れていると主張しているのだ。具体的には、同社はAppleがウェブサイトなどからアプリをダウンロードすることを禁止しているように、市場に制限を意図的に持たしていると主張。こうした主張の前例には、Apple vs Pepperのようなものがある。

一方、GoogleがAndroidを展開していることを考えれば、Appleが完全な独占をしているとは言えない。しかし、Epicは二重独占も市場に悪影響を与えており、AndroidよりAppleの方が比較的良質なユーザー層を抱えていると主張している。加えて、AppleにはAndroidより課金を拒まない10億人のユーザーが存在しており、彼らを市場的性質により仮想的に移動不可な状態にしていると指摘する。これは、iOSからAndroidへの移行コストが非常に高いという点が経済学者のDavid Evans氏によって提唱されているからだ。

2016年Q1から2020年Q1におけるスマートフォン販売シェアを見ると、Appleは全体の40%を占めていることが分かる。Epicは同期間のiPhone販売価格が最低でも300ドル以上、平均では790ドルであることに言及している。スマートフォン市場全体では、300ドル以上の価格で販売されたデバイスの内、Appleは57%の売り上げシェア、49%の販売台数シェアを獲得していた。同数字のみでは、同社が独占市場を得ているとは言えないが、本質的な問題はデバイス移行に伴うコストが非常に高い点であろう。

Epicは現時点でAppleより同社サービスへのアクセスを切断されているため、iOSにおけるDAUは60%ほど減少している。これらユーザーが以後復活しない可能性は大いにあり、それを考慮し同社は裁判所に対し一時的な制限緩和をAppleに対して求めている。

Appleプラットフォームにおける決済論争

Above: Tim Sweeney氏は歯に絹着せないCEOだ
Image Credit: Epic Games

決済に関しても両社が独占禁止法を巡り争う大きな論点になっている。現在Appleは開発者に対し、デジタルコンテンツを配信し決済システムを導入する際は同社独自の決済サービス利用を求めている。ただし、一部のケースにのみ同社は他の決済手段を認めている。

例えば、ライドシェアのような現実世界でのやり取りが存在するようなサービスにおいて、Appleは外部決済サービスの利用を認めている。確かに、Lyftのアプリ内決済ではStripeがサービス提供を実施している。また、UberはBraintreeの決済サービスを利用しており、これは即時決済が求められる背景が大きく関与していると思われる。加えてPrime VideoやAltice One、Canal+などプレミアムデジタルビデオコンテンツを提供する場合も、同社は他決済サービスの利用を許容している。

Epicは、Amazon Pay、Authorize.net、Braintree、Chase Merchant Services、PayPal、Square、Stripe、Xsollaなどは、Appleと比較してはるかに低価格な手数料でサービス提供をしており、開発者がこうしたサービスへ需要を示すことは当然であると主張する。

しかしAppleは、決済は独立したビジネスではなく「より大きな」ビジネスの一部であるとし、こう主張する。

「Epicの主張は、IAPを独立した一つの市場であると裏付けしているものではありません。ユーザーへサービス提供するにあたり、必要不可欠な要素である場合、通常裁判所は全てのサービスを包括的に1つのものとみなします」。

また、Appleは現在、決済システムやアプリ配信ポリシーに違反しているFacebook、Microsoft、Google、Nvidiaなどのクラウドゲームアプリを禁止しており、結果的に独占市場を作り上げているとEpicは主張している。これは、別観点での独占禁止法違反問題かもしれないが、未だ法的問題には発展していない。(つづく・全6回)

参考記事:Fortnite戦争

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

コロナ禍でどうなる「Y Combinator 2020」ここが注目【Podcast:Code Republic・松山さん】

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史上初めて完全オンライン上にて開催された「Y Combinator 2020年度夏季アクセラレータープログラム」。8月31日より2日に分けて、総参加企業198社がオンライン上でプレゼンテーションを披露しました。 参加企業のほぼ半分である48%はB2Bソフトウェア開発スタートアップが占め、それに続けてヘルスケア関連が16%、コンシューマー関連が13%、フィンテック関連が11%を占める結果となっていま…

史上初めて完全オンライン上にて開催された「Y Combinator 2020年度夏季アクセラレータープログラム」。8月31日より2日に分けて、総参加企業198社がオンライン上でプレゼンテーションを披露しました。

参加企業のほぼ半分である48%はB2Bソフトウェア開発スタートアップが占め、それに続けてヘルスケア関連が16%、コンシューマー関連が13%、フィンテック関連が11%を占める結果となっています。本稿ではスタートアップアクセラレータープログラム「Code Republic(コードリパブリック)」の松山馨太さんがstand.fmで語った、デモデイ参加企業のトレンドについて印象に残ったポイントをまとめてみました(文中の発言箇所はすべて松山さんの音声からの書き起こしです)。

音声はこちらから

松山さんは今回のプログラムを三つのトレンドに整理しています。

  • 新興国のタイムマシン経営
  • withコロナ型のビジネス
  • データ業務の効率化

まず、「新興国のタイムマシン経営」について。

「アメリカでの成功モデルをインドやアフリカ・南米などの新興国で展開するビジネスです。採択社数を増加させた2019年冬プログラムも多く存在していましたが、今回は前回に比べても増加している印象です。それだけ単純なインターネットサービスによるイノベーションが難しくなっているのかもしれません」。

では、今回のバッチで目立っていた「新興国のタイムマシン経営」を軸に持つスタートアップはどういったものが挙げられるのでしょうか。松山氏は、約10社の同領域へ挑むスタートアップを取り上げています。

「今回のバッチでは、チャレンジャーバンクを展開するインド版PlaidのDecentro、決済システムを提供するパキスタン版StripeのSafepay、コーポレートカードを提供する東南アジア版BrexのVoloPay、手数料無料の株取引PFを提供する中東版ロビンフッドのThndrが大きく印象に残っています。不動産領域ではメキシコ版OpenDoorのFlat、エジプト版ZillowのSakneen、他にも飲食店のクラウドPOSを提供する南米版TOASTのParrot Software、卒業後に学費を支払うISAモデルのヨーロッパ版ラムダスクール、南米版ラムダスクールなど多くのサービスが発表されていました」。

中東版ロビンフッド「Thndr」

withコロナ型のビジネス

またCOVID-19真っ只中ということで、例年にはない特徴を次のように指摘されています。

「コロナウイルスの流れの中でヘルスケア領域はもちろんのこと、デリバリーサービスだけで9社、教育やフィットネスなどオンラインを通じたイベント・レッスンを販売するサービスが11社、リモートワークやリモートのコミュニケーションを支援するサービスが13社となっています。こうした動きは例年とは大きく異なっており、コロナによる環境変化を意識したビジネスが多く選定されていると感じました」。

具体的な選出スタートアップは次のようなものです。

「デリバリーでは中小規模のリアル店舗やEC事業者に対して、オンデマンドで即日配達サービスを提供するTyltGoのようなサービスがあり、複数事業者からの集荷、ルートの最適化、ドライバーのクラウドソーシングにより低コストで即日配達できる配送ネットワークを提供しています。

またIn Stockは、Amazon Primeより低価格で同日配達してくれるECプラットフォームを目指しており、消費者は、郵便番号と製品名を入力すると、即日配達もしくは持ち帰り可能な商品を表示、そのまま購入できるECサービスになっています。このサービスは小売店が登録すると、POSから在庫情報を読み取り、自動的に出品〜販売され、リアル店舗の小売業者の販売支援という一面もになっています。オンラインイベントやレッスンの販売では、サービス版Shopifyのようなサービスが多く登場しています。

Sutraは、フィットネスに特化したオンラインレッスンコンテンツの販売プラットフォームで、各ショップページ、ライブコンテンツ・オンデマンドコンテンツの販売、予約・決済システムを提供しています。同じくPolyOpsはWhatsapp・Telegramでオンラインレッスンを販売するために必要な機能を提供するサービスとなっており、月額支払・単発支払・アフィリエイトプログラム・会員管理等のツールを提供しています」。

この「ソーシャル・ディスタンス」におけるトレンドの中で特徴的な動きは次のようなものだそうです。

「このようなソーシャルを販売チャネルに変化する動きは、サービスだけでなく物販のECにおいても見られました。たとえば、インドのBikayiは、WhatsApp版Shopifyを標榜しており、インドでは個人商店がWhatsAppで注文をもらい配達するケースが多いそうで、WhatsAppと連携したオンラインショップを簡単に開設できるサービスを提供しています。同社はデモデイ終了5日後には約2億円の調達を実施しています。

リモートワークの領域では、常時接続のビデオチャットサービスとハードウェアを提供するSidekickのようなサービスがありました。また、TellaやQueueのような動画の共同編集サービスも登場しています。プライベートのリモートコミュニケーションでは、ZoomやLINEでのビデオを通話が一般化していますが、新たなフォーマットを提供するサービスも生まれてきています。

たとえば、Hereは、他のビデオチャットとは異なり自由にビデオチャットルームを作成できるサービスで、ルーム上に友人を招待したり、パワポ感覚でGIF、画像、メモなどを貼り付けて自由にカスタマイズできるサービスになっています。また、Piepackerはゲームをしながらビデオチャットできるクラウドゲームプラットフォームとなっており、ゲームをしながら話すだけでなく、ゲームキャラに自分を加工したり、ゲームに最適化したコミュニケーションで盛り上がれるサービスとなっています。

このようにデリバリー、オンラインイベント・レッスンの販売、リモートワーク・リモートコミュニケーションツールのようにWithコロナを意識したビジネスが多く登場していることが分かります」。

データ業務の効率化

最後のトレンドは「データ業務の効率化」です。SaaSなどの発展で、一般企業が膨大な利用データを抱える中、それを効率的利用へ導くためのサービスということでしょう。具体的に、デモデイではどのような課題解決を目指すスタートアップが選定されたのでしょうか。

「データのエラーや欠損を自動的に追跡・確認するシステムを提供するHubbleはデータの加工・変種における非効率を軽減しています。また、Aquarium LearningやKeyDBのように機械学習やデータベースの処理速度自体を向上させるサービスもあります。さらに非エンジニアのデータ分析では、Salesforce等のSaaSやShopify、Stripe等の決済情報、ソーシャルメディアに至るまで自社の様々なたデータ一元管理できシステムを提供するMozart Data、SQLを記述せずノーコードでデータベース上の分析・管理できるツールを提供するAchoが選定されています。」

今回のバッチは、YCにとってもその運営方法や選出するスタートアップのトレンドなど大きな変更が起きる年になったと言えるでしょう。松山さんが取り上げているように、COVID-19で求められている「withコロナ型のビジネス」は確実に増えたことは間違いありません。また、withコロナに関わらず今まで通りビッグデータ解析系スタートアップや、タイムマシン経営を先進国で目指すスタートアップも順調に需要を集め続けていることが伺えます。

ある意味、今年はコロナ禍でYCがどういった系統のスタートアップを選出するのか、例年以上に注目が集まっていたと思います。結果だけを見れば、コロナ関連の新市場が誕生し総合的な割合を増やしつつも、大半は既存テクノロジーにイノベーティブな磨きをかけていく、そうしたスタートアップが占めていたと感じます。

VC界をリードするY Combinatoがパンデミック以降、初めて選出したスタートアップにwithコロナ型のビジネスが組み込まれていたことはこれからのスタートアップ・VCの方向性を見極めていく上で重要なターニングポイントとなりそうです。

編集部よりお知らせ:松山さんが共同代表を務めるアクセラレータープログラム「Code Republic」では随時参加企業を募集中です。参加希望される方は公式サイトをご覧ください。

深刻化する「デジタル教育格差」ーー解決方法は出世払い?(後半)

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※本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載。前回からの続き 皮肉なジレンマ 前回はデジタル格差が引き起こす、宿題格差や教育進捗の問題について整理してきました。一方、その打ち手としては「行政がデジタル端末やWifiルーターを手配するなどしてネット環境を整備すればよい」といった案があります。 ただ、問題はそう簡単ではなさそうです。 Common …

※本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載。前回からの続き

皮肉なジレンマ

Image Credit:Nikihita S

前回はデジタル格差が引き起こす、宿題格差や教育進捗の問題について整理してきました。一方、その打ち手としては「行政がデジタル端末やWifiルーターを手配するなどしてネット環境を整備すればよい」といった案があります。

ただ、問題はそう簡単ではなさそうです。

Common Mediaの調査によれば、低所得者層のティーンやトゥイーン(8-12歳の子供)は、高所得者層と比較して2時間以上エンタメコンテンツに時間を消費してしまうそうです。同調査では、低所得者層のトゥイーンが平均5時間49分を毎日費やしているのに対し、高所得者層は3時間59分となっていました。数値データから推測すると、比較的低所得者層はデジタルコンテンツ中毒に陥りやすい状況が目に浮かびます。正しい使い方を学んでいないため、全く教育とは関係のない使われ方をする、という可能性を示唆しているのです。

また、FOXが伝えるところでは、低所得者が多くの時間を費やしてしまう理由として、複数デバイスを持っていないため、1つの端末(スマートフォン)に集中して長く使ってしまう傾向があるそうです。これでは遊びと学びの切り替えが環境的に難しくなります。かといって、教育コンテンツへのアクセスを増やすために端末支給をしたとしても、高所得者の利用傾向に垣間見えるような、適切な利用時間を維持すべく利用時間を自分でコントロールできるのかは未知数です。

デジタル端末利用のジレンマに陥るリスクが見え隠れしています。

新しいデジタル教育の形

Image Credit:Lambda

このように、現在浮かび上がっている市場課題は低所得者層を中心とする子供を持つ家庭が抱える3つの問題と言われています。「アクセシビリティ(教育アクセスおよび通信アクセス)」「ファイナンス(資金)」「ウェルネス(健康)」です。「イコールライツ」と「ファイナンス」を組み合わせて問題解決するアプローチはトレンドになっていて、米国では人材成長の期待値を見越して資金投資する事業が成長しています。

例えば「Lambda School」は、出世払いのコーディング学校を運営しており、約9カ月のプログラミングコースを初期費用無料で入学できます。厳しい審査基準を通れば無料で講義を受けられる代わり、卒業後に年間5万ドルの収入を上げられるようになってから、収益分配の形で授業料を徴収するモデルです。利益回収が必ずしもできるわけではないため、デッド(融資)にも当たらない、人材育成と連動するWin-Winのモデルを模索しています。

同様のモデルは、今回課題に挙げている小中高教育でも考えられるかもしれません。平等な教育機会を提供するため審査は一切設けず、デジタル端末およびブロードバンド回線費用も全て出世払いにする形が考えられます。社会人になって年間3〜5万ドル以上稼げるようになったら、年間5%程度の収益分配をしてもらうことでコストを回収する方法です。卒業後まで面倒を見ないと利益回収できませんが、逆に言えば教育機関も長く面倒を見る意識付けができるはずです。

現在では月額25ドルで高速ブロードバンド環境を張れる「Wander」なども登場してきており、年間で300ドル程度でネット環境は提供できます。パソコンを5年ほどで買い換えるとしても、3,000〜5,000ドルほどのコストで高校卒業まで利用できそうです。これであれば、小学校入学から高校卒業まで1人当たり1万ドルの費用を、Lambda Schoolのモデルで回収する試算が立ちます。仮に年間3万ドルの収入から5%を回収し続けるならば、10年かかる計算。およそ20〜30年で利益回収できる長期投資と捉えられるでしょう。

その上で、Microsoftが買収した子供向けデジタルコンテンツプラットフォーム「SuperAwesome」や、「SafeToNet」のような、デジタルウェルビーイングを確保できる健康維持の体制をセットで提供するわけです。エンタメコンテンツの消費にだけ使われる事態を避ける施策です。

このように、新しいデジタル教育の形は、人材投資という市場原理をうまく導入する形で生徒を支えたり、ソフトウェアを駆使して適切な利用環境を作るモデルになるかもしれません。そもそも義務教育を受けるために追加のコストを強いる事業モデルは批判を受けるかもしれませんが、出世払いを採用する折衷案を持たせることで市場理解を得られる可能性も出てきます。

本稿は次世代コンピューティング時代のコミュニケーションデザイン・カンパニー「.HUMANS」代表取締役、福家隆氏が手掛ける「 THE .HUMANS MAGAZINE」からの要約転載。Twitterアカウントは@takashifuke。同氏はBRIDGEにて長年コラムニストとして活動し、2020年に.HUMANS社を創業した

深刻化する「デジタル教育格差」ーー高機能を求められる時代で生きる私たち(前半)

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※本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載 コロナ禍、「高機能デジタル端末を持っているのか」「高速ネット環境を持っているのか」といったような、デジタル格差が拡大しています。 在宅生活を余儀なくされていることで、「オフィス」と「学校」のオンライン化が急速に進んだ一方、デジタル端末やブロードバンド通信環境が整っていない家庭では、十分なインターネッ…

Image Credit:Marvin Meyer

※本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載

コロナ禍、「高機能デジタル端末を持っているのか」「高速ネット環境を持っているのか」といったような、デジタル格差が拡大しています。

在宅生活を余儀なくされていることで、「オフィス」と「学校」のオンライン化が急速に進んだ一方、デジタル端末やブロードバンド通信環境が整っていない家庭では、十分なインターネット・アクセス権を持てず、孤立状態が起きてしまっているのが現状です。

たとえば、低速度通信環境下では、各種ネットサービスに安定的に繋ぐことができてないため、オンライン接続状態でありながらも、他人とうまくコミュニケーションの取れない状況が発生しています。多くの人が一度、ZoomやSkypeでかろうじて通信できてはいるものの、声がほとんど届いていない状態「デジタル・アイソレーション(デジタル上での孤立)」を経験したことがあるでしょう。

そのなかでも義務教育(小中高)の現場において、デジタル格差は深刻な問題を巻き起こしています。本記事では教育におけるデジタル格差の現状を考察していきます。

米国教育現場で起こる「宿題格差」

Image Credit:Annie Sprat

カリフォルニア州は州内620万人の生徒にパンデミックが去るまでオンラインクラスへ移行するように指示しました。しかし、所得差によるデジタル環境へのアクセス格差に直面しており、全生徒に等しく教育機会を与えられない大きな問題が発生しています。たとえば、「SFWEEKLY」が報じたところによると、サンフランシスコ市では年収2.5万ドル以下の家庭を中心に、10万人以上がブロードバンドアクセスを持っていないことが判明しています。

Pew Research Centerの調査では、2019年のデータで、年収3万ドル以下の世帯でスマートフォンデバイスだけに頼った生活をしている割合は26%。10万ドル以上の家庭の5%と比較すると5倍の開きです。また、年収3万ドル以下の低所得者家庭でスマホ・デスクトップ(もしくはラップトップ)・ブロードバンド・タブレットの全てを備えている率は18%。10万ドル家庭の64%と4倍もの格差が発生しています。

低所得世帯はスマートフォンのみを持たず、他のインターネット対応デバイス(タブレット、PC、ラップトップなど)を持ち合わせていないため、高所得世帯より不便な環境に追いやられています。

こうした富裕層と貧困層のテクノロジーギャップは、「デジタル・デバイド(デジタル分断)」と呼ばれます。

必要なデジタル情報に多様なシチュエーションからアクセスできる「ユビキタス・アクセス」の欠如により、マルチデバイスなオンラインアクセス環境を持たない低所得者の生徒が、課題やその他の学校関連の活動を完了するのに要する時間が高くなってしまっています。高所得者の生徒よりも遅れている実態「ホームワーク・ギャップ(宿題格差)」に繋がってしまっているのです。

低所得者層が多く住む学区にいる子供たちにとって、テクノロジーへのアクセスが不十分であることは、社会に出て成功するために不可欠なスキル習得を妨げる可能性があるでしょう。

連邦通信委員会(FCC)によると、2019年には推定2,130万人がブロードバンドアクセスを欠いていたとされています。加えて、農村部では依然として平均より低い接続率を維持しており、63%しか自宅でのブロードバンド接続ができていないそうです。これは全米平均より12%低い数値になっています。後半ではデジタル格差の弊害と、新しい教育のカタチについてまとめてみます、(後半へつづく)

本稿は次世代コンピューティング時代のコミュニケーションデザイン・カンパニー「.HUMANS」代表取締役、福家隆氏が手掛ける「 THE .HUMANS MAGAZINE」からの要約転載。Twitterアカウントは@takashifuke。同氏はBRIDGEにて長年コラムニストとして活動し、2020年に.HUMANS社を創業した

パンデミックで激変する日本の医療、スタートアップはどう戦う?

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載。Universe編集部と同社のInvestment Group、Principalの松尾壮昌氏、Directorの守口毅氏が共同執筆した。 パンデミックの影響もあり、医療分野のデジタル化が急務となっている。 Fierce Healthcareによると、2020年第1四半期にお…

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載。Universe編集部と同社のInvestment Group、Principalの松尾壮昌氏、Directorの守口毅氏が共同執筆した。

パンデミックの影響もあり、医療分野のデジタル化が急務となっている。

Fierce Healthcareによると、2020年第1四半期における遠隔医療系スタートアップの資金調達額は7億8800万ドルで、実に前年同時期の2億2,000万ドルから3倍のジャンプアップを果たした。さらにデジタルヘルス全体の資金調達額でみると、過去最高の36億ドル(2020年第1四半期)をマークしている。

遠隔医療以外でデジタルヘルス分野の調達額トップ領域はデータ分析(5億7,300万ドル)、臨床意思決定支援(4億4,600万ドル)、mHealthアプリ(3億6,500万ドル)、ヘルスケア予約(3億600万ドル)、ウェアラブルセンサー(2億8,600万ドル)と続く(全て2020年第1四半期のデータ)。これらの領域が次のヘルスケア分野を牽引するとみられる。

さて、Accentureでは感染症拡大が医療分野にもたらした変化として次の5つを挙げた

  1. モバイルサービス向けのバーチャル労働力の組成
  2. バーチャルケア・在宅ケア・遠隔医療の3つのソリューション加速
  3. 福利厚生拡大と規制緩和促進
  4. 必須供給品の迅速な手配
  5. 手動コールセンターに代表される労働力の自動化と戦略的人員配置

バーチャルケアは、認知行動療法に基づくメンタルケアサービスを提供する「Big Health」が当てはまるだろう。在宅ケア分野では慢性的な筋骨格系疾患に特化したサービス「Hinge Health」が挙げられる。自宅で専用ベルトでトレーニングをさせながら、チャットベースの相談にも乗ってくれる。

遠隔医療「ならでは」の体験を作れ

では、遠隔医療分野はどのような状況だろうか。注目が集まっているのが動画診察などの「リアルタイム同期性」を持つ領域だ(非同期性のものはメール診察など)。

例えば今年7月に7,500万ドルの調達を果たした「Doctor On Demand」はこの領域で有名だ。同社はサンフランシスコを拠点に、医療従事者と患者をマッチングさせ、オンデマンド形式の診察サービスを提供する。現在は9800万人以上の生活をカバーしているという

また、最近では遠隔医療と小売の分野が融合し始めている。男性向けヘルスケア商品を扱う「Hims」がそれだ。同社は男性の脱毛薬や精力薬までをD2Cの業態で販売。遠隔医療による医師によるオンライン診察も受け付けており、自宅にいながらにして安心して処方箋を出してもらえる体験を提供する。

彼らの体験で重要なのがプライバシーの扱いだ。身体的なコンプレックスに関係しているからこそ、顧客体験は単に医療品購入では終わらない。専門医によるアドバイスと処方箋を通じたフォローアップまで提供することで顧客満足度を高め、成長してきた。7月には上場を目指しているという報道も出ている注目株だ

つまり、遠隔医療はコスト削減だけでなく顧客満足度を最大化させる、カスタマージャーニー上でも重要な要素なのである。今後、ヘルスケア用品を扱う小売ブランドは医療業界のオンライン化に伴い、Himsのような総合的なケアサービスを開発するまでに至るだろう。

遠隔医療におけるAI活用法

Accentureの別レポートではAIを医療トレンドの引き合いに出している。AIも遠隔医療分野には欠かせない要素だ。特定の疾患関連情報の内、適切なものをフィードバックしてくれる「キュレーター」であり、医師に寄り添って最善の治療法を患者に提案してくれる「アドバイザー」にもなり得ると指摘する。

例えばAIを活用したプライマリーケアコンサルタント「K Health」では、膨大な医療論文データが組み込まれており、簡単なQ&Aの回答から患者にとって適切な治療法を提案してくれる。月額9ドルのVIPプランでは、実際に医師による診察が入るが、事前にAIによる診察を経ているため基礎情報が揃っている形で通される。AIがスムーズに人力の遠隔医療チームへとバトンを引き継ぐ体制を構築している。

日本における遠隔医療の動きと課題

MEDLEYのオンライン診療システム「CLINICS」

ここまで米国における遠隔医療分野における最近の動きを紹介してきた。それでは国内ではどうなのであろうか。まず大きな動きとしては、日本政府は4月から初診対面診療の緩和を実施し、時限的ではあるものの、オンライン診療や服薬指導の幅を広げる動きを示している。

例えばグローバル・ブレインの出資先「MEDLEY」(2019年12月・東証マザーズ上場)は、2016年よりオンライン診療システム「CLINICS」を提供していたが、9月から調剤薬局向けオンライン服薬指導支援システム提供を開始する。スタートアップにも早速市場の動きが反映されている格好だ。

ただ、先行する米国とは大きく異なる部分がある。それが皆保険制度にまつわる「インセンティブ構造」の違いだ。米国では基本、医療費は自己負担が前提になるのでコストカットなどの課題が立てやすい。また、保険会社や政府、医療機関などステークホルダーが複数に渡ることで、医療ビジネスのバラエティが豊富になっている。

一方、医療費が皆保険によって安価に設定されている日本では、例えば予防医療などのテーマを立てても「医療機関に行けばよい」という力学が働き、成立しにくくなる。これは国内の医療系スタートアップを考える上で重要なポイントになる。

どこにペインがあるのか

では、そういった前提を踏まえた上で、どこにチャンスがあるのだろうか。「Bain & Company」ではアジアに住む患者のヘルスケアに対するニーズを紹介している。特徴的な意見を大きく3つ挙げる。

  1. パーソナライズ化した予防医療
  2. 病院での短い待ち時間
  3. 健康的なライフスタイルを送るためのインセンティブ付き保険

まず予防医療だ。医療費が高いから予防する、という課題設定が成立しにくいからこそ、違ったアプローチが必要になる。

例えばグローバル・ブレインの支援するPREVENTは、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の再発防止・重症化予防を、ライフログのモニタリングおよび電話面談で実施している。特徴的なのは、彼らが健康保険組合と積極的に取り組みをしている、という点だ。従業員の健康維持、医療費の軽減を目的としている保険組合だからこその動機付けが発生するケースだろう。

次に遠隔医療の可能性だ。そもそもオンライン診療だけだと差別化がしづらいという課題がある。ただ医師と話せる場だけを用意するのであれば、先行優位のプラットフォームが勝つ可能性が高い。ということはやはり「Hims」のように、患者にとって対面通院に課題感のある領域で活躍するスタートアップが成長するのではないだろうか。

また、オンライン化が図られることで取得できるデータ量は確実に増える。これらのモニタリングデータは保険料適正化に繋がるはずだ。

地方の問題も大きい。患者が疾患を認識(Awareness)、通院・診断して、後日モニタリングする。ここまでの流れは基本的に全てオンラインで完結すると考えている。地方の病院が減ってくる中で、オンライン診療との組み合わせは大きな可能性を秘めていると言えよう。

ということで、考察してきたように日本の医療ビジネス環境には特有の課題もありつつも、投資目線で言えば今は大いに好機とみている。この領域に取り組むスタートアップと共に課題解決を目指したい。

急速にキャッシュレス化の進むフィリピン、そのキープレーヤーたち

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ピックアップ:The Philippines is going cashless – finally ニュースサマリー:フィリピン中央銀行が2016年に開示したデータによれば、同国内におけるクレジットカードを利用した決済の割合はわずか2.2%であると報告している。しかし、新型コロナウイルスの影響でキャッシュレス決済の普及が一気に進んでいる。 詳細情報:2020年に入り新型コロナウィルスの感染者数が…

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PayMayaウェブサイト

ピックアップ:The Philippines is going cashless – finally

ニュースサマリー:フィリピン中央銀行が2016年に開示したデータによれば、同国内におけるクレジットカードを利用した決済の割合はわずか2.2%であると報告している。しかし、新型コロナウイルスの影響でキャッシュレス決済の普及が一気に進んでいる。

詳細情報:2020年に入り新型コロナウィルスの感染者数が国内でも増加し始めると、フィリピン政府は同国全土で長期間に及ぶ厳格なロックダウン政策を実施した(※フィリピンで行われたロックダウンは世界最長かつ最も厳しいとされていた)。買い物や銀行へ行くことを制限された多くの人がキャッシュレス決済の利用を開始し、ユーザー数が急速に増加した。

現在同国内で最も利用されているキャッシュレス決済はGCashとPayMayaの2つだが、両サービスには異なる特徴がある。

  • GCashフィリピンの通信会社Globeの運営するモバイル決済サービス。
    フィリピン最大の電子決済プラットフォームで約6万3,000件の実店舗とオンラインストアで利用可能。登録ユーザー数は2,000万人を超え(※フィリピンの人口は1億人強)、2020年5月のトランザクションは前年同月と比較して8倍、1月~7月末までの総取引額は前年同時期と比べ280%増となり1,000億ペソ(約20.7億米ドル)を超えた。
  • PayMaya…フィリピンの通信会社Smartの運営するモバイル決済サービス。
    様々な事業体と提携し、あらゆるシーンでの電子決済の利用促進に取り組んでいる。マクドナルドやKFCなどの店舗決済に利用されるエンタープライズ向けデジタル決済ソリューション「One by PayMaya POS」や、金融サービスへのアクセスができない人へ融資を実行する「Smart Padala by PayMaya」ネットワークの構築、タクシーの支払いへのQRコード決済の導入などがそれだ。
  • 新型コロナウイルスにより利用者が急増したと話題に上がるのは主にGCashの方だが、一方のPayMayaはこれまでとは異なるシーンでのキャッシュレス決済を支援することとなった。
  • 例えばフィリピンの教育機関は現在、オンライン学習とオフライン学習を組み合わせた「ハイブリッド型」教育に取り組んでいるが、全国の40を超える学校では学費に関してもオンライン・オフラインでのキャッシュレス決済に対応する「ハイブリッド型」とし、PayMayaの決済サービスを採用した。
  • 具体的には、オフラインでの支払いであればPayMayaアプリのe-Walletによる支払いが一般的だ。その一方、オフライン(対面)での支払いは、「One by PayMaya POS」を使用し、QRコードによる支払いとクレジットカードやデビッドカード、プリペイドカードによる非接触決済での支払いが主流となりつつある。
  • 競合する部分も多々ある2社だが強みとする部分が異なるため、フィリピンのキャッシュレス決済の普及自体が2社による「ハイブリッド型」で進んでいく可能性が高い。

背景:新型コロナウィルスの流行により、現金のやり取りを介した感染リスクを抑えるためにキャッシュレス決済の利用者が世界的に増加している。また、ロックダウンなどの政策で行動規制が長期間続く国や地域では買い物や銀行に行く機会が限られるため、これまで現金や対面でのサービスを好んでいた層も、好むと好まざるとに関わらずECやキャッシュレス決済の利用を開始している。

現金による支払いを好む人の多かったフィリピンだが、VISAの行った調査によると70%以上の人が新型コロナウイルスの脅威が去った後でも、キャッシュレス決済を継続して利用すると回答している。

執筆:椛澤かおり/編集:岩切絹代・増渕大志

多様化するクラウドファンディング、日本的寄付として根付くか

  本稿はPR TIMES STORYからの転載記事。一部、執筆者の許諾を得て要約・編集をしております 新型コロナウイルス蔓延の影響で危機的状況に置かれる事業者が増加するなか、寄付などの支援の輪が広がっているようです。コロナ給付金寄付実行委員会、パブリックリソース財団によると、約4割の方が新型コロナウイルスにより経済的影響を受けた個人や団体等に10万円給付金の一部を活用したいと回答したそ…

 

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Photo by Dio Hasbi Saniskoro from Pexels

本稿はPR TIMES STORYからの転載記事。一部、執筆者の許諾を得て要約・編集をしております

新型コロナウイルス蔓延の影響で危機的状況に置かれる事業者が増加するなか、寄付などの支援の輪が広がっているようです。コロナ給付金寄付実行委員会、パブリックリソース財団によると、約4割の方が新型コロナウイルスにより経済的影響を受けた個人や団体等に10万円給付金の一部を活用したいと回答したそうです。

こうした回答の背景には、オンラインで手軽にできる「ふるさと納税」や「クラウドファンディング」の普及により、寄付がより身近な存在へと変化したことがあると考えられます。

ふるさと納税とは応援したい自治体に寄付をすると、住民税の還付や地方の名産品などの返礼品を受け取ることができる仕組みです。また、インターネット上でお金が必要な事業や個人と、お金を支払う余裕のある人を結びつけるクラウドファンディングも市民権を得てきました。仕組みの違いにより「購入型」「寄付型」「投資型」「貸付型」などに分類されます。

日経BPマーケティング社の「デジタル金融未来レポート」によると、2019年の購入型の決済総額は約135億円、貸付型の貸付残高は約976億円で、今後5年間で購入型は約14倍、貸付型は約5倍に成長すると予想されています。コロナ禍では特に購入型に注目が集まっており、中でもCAMPFIREの提供する「新型コロナウイルスサポートプログラム」は、2020年2月末から2020年7月時点までで63億円超の金額を集め、支援者数は延べ56万人にも拡大したそうです。

日本でなかなか進まない寄付文化

実は欧米諸国などに比べると、日本における寄付金総額は大きいとは言えません。日本ファンドレイジング協会の「寄付白書2017」によると、日本の個人寄付総額は2016年で7,756億円、東日本大震災で寄付が活発になった2011年でも1兆182億円です。人口や経済規模が異なるため単純な比較はできませんが、アメリカの2016年の個人寄付総額は30兆6,664億円、イギリスの個人寄付総額は1兆5,035億円です。

では一体なぜ、他先進国に比べて日本ではあまり寄付が活発ではないのでしょうか?その一因には「文化」や「税制」の違いがあります。

例えばアメリカの場合は日本よりもNPO法人の数が多く、中には一流大学の卒業生が就職先に選ぶほど人気や影響力のある団体もあるようです。また、アメリカには税制優遇措置の対象となっているNPO法人が120万件以上あるのに対し、日本には同様の税制優遇措置の認定NPO法人は全国で1,200件程度(※)しかありません。※2020年07月30日時点

また、寄付をした際に所得控除または税額控除を選択し確定申告することになりますが、アメリカの場合は所得控除だけでなく、控除範囲を超えた金額の繰り越しができたり、イギリスにおいては、「ペイロールギビング」という、給与天引きで寄付をした場合に寄附金額が税引き前の給与から天引きされる仕組みなどがあります。

日本でも始まる新しい「応援」の仕組み

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社会的インパクト投資例(画像:クラウドクレジットウェブサイト)

従来の仕組みではなかなか根付かなかった「寄付文化」ですが、これがクラウドファンディングなどで大きく転機を迎えることになります。ふるさと納税やクラウドファンディングは、従来の寄付と比較すると手続きが簡易でメリットも分かりやすい形態となっています。欧米の寄付により近く、日本的寄付の新しい形と言えるでしょう。

支援するメリットについても広がりがあります。寄付やふるさと納税は控除や返礼品などが支援の「お返し」としてありました。ここにもう少し投資的な観点を加えたのが「社会的インパクト投資」と呼ばれる方法です。

社会的インパクト投資とは「社会面・環境面での課題解決を図ると共に、経済的な利益を追求する投資行動のこと(※)」です。社会的インパクト投資は経済的なリターンに加えて、社会課題の解決による公共善も追求する点が特徴です。

※GSG国内諮問委員会「社会的インパクト投資拡大に向けた提言書2019」

例えば、私たちが提供する「中東地域ソーラー事業者支援ファンド2号」の場合、砂漠地帯のソーラー化を進めることで、CO2の排出量を削減できることに加え、1万円あたり565円の経済的リターンが得られます。2019年の世界の社会的インパクト投資の市場規模は推計で約50兆円(1ドル100円換算)、日本における市場規模は2018年で約3,400億円とのことです。

現在、日本を含む世界全体でSDGs達成に向けた取り組みが活性化しています。こうした潮流を背景に、ふるさと納税やクラウドファンディング、社会的インパクト投資などの個人と社会のメリットを両立する取り組みは益々普及するのではないでしょうか。

本稿はクラウドクレジット株式会社編集室によるもの。Twitterアカウントは @crowdcredit_jp。お問い合わせはこちらから