コラム

リモートワークに商機、備品管理SaaSで成長を続ける「Firstbase」/GB Tech Trend

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。 今週の注目テックトレンド コロナ禍になりリモートワークが普及しました。その中で、新たな需要として誕生したのがリモートワーカー管理です。とりわけ備品管理市場のSaaS化に注目…

a16zをリードに調達をしたFirstbase。Image Credit: Firstbase。

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

今週の注目テックトレンド

コロナ禍になりリモートワークが普及しました。その中で、新たな需要として誕生したのがリモートワーカー管理です。とりわけ備品管理市場のSaaS化に注目が集まっています。

今回、「Andreessen Horowitz」をリードとして1,300万ドルもの資金調達をした「Firstbase」はまさにリモート社会の備品管理ツールとしての市場ポジション獲得を狙っています。同社は「リモートチーム向けOS」として遠隔で働く従業員向けの備品管理ソフトウェアを提供しています。

オフィスとの物理的距離が開いてしまった昨今、会社に置かれている備品を分散型的に社員の自宅に配置する必要が企業に出てきました。小規模スタートアップであれば各従業員で適当に賄う備品ですが、大規模企業になるとセキュリティ観点からも管理に一定のコストをかけつつモニターする必要が出てきます。

そこで登場したのがFirstbaseです。リモート環境下の従業員にPC・ラップトップなどの必要IT機材を手配して、誰がどのバージョンの備品を持っているのかといったステータスを一目でわかるソフトウェアを提供しています。

基本的にはソフトウェアの月額サブスクモデルなのですが、機材購入から配達までも一貫して提供するハードウェア購入支援ツールとしての側面も持っており、それら備品購入の際にはショットで費用が発生するようになっています。

米国では年間4,000億ドルものオフィス管理ツールへの出費があるとも言われる注目市場で、この数値がリモート環境下になっても変わらないとすればスタートアップにとっては大きな狙い目でしょう。従来のマニュアルでの備品管理が通用しないとなれば、新たな管理SaaSが必要なるのは当然で、そこをすかさず狙ったのがFirstbaseというわけです。

Firstbaseの今後を考える上での先行事例として、Y Combinator出身の「Hivy」が挙げられます。同社はオフィスマネージャー向けプラットフォームを展開していました。2017年に「Managed by Q」に買収されています。また、GBの投資先でもあるEdenもオフィス管理サービスプラットフォームを提供しており、2020年に「Managed by Q」を買収しています。

Hivyのターゲット顧客は大手IT企業に務めるオフィスマネージャーでした。彼らが持つ課題感として、従業員からのリクエスト(備品の故障や環境整備など)やアクティビティの管理、Amazonでの備品購入などのタスクが無数に投げられる点が挙げられました。小規模のスタートアップであれば担当者に口頭で伝えれば良いでしょうが、50〜100名以上の規模になってくると全てのリクエストに応えるのが難しくなります。

Hivyを使えば、社員がパソコンやモニター・周辺機器を購入したいと検討したとき、購入可能なデバイス一覧が掲載されたオンラインカタログを通じて、予算内で購入申請をマネージャーに送れたりします。HivyはAmazonと直接連携しているため、備品購入などもHivyから離れることなく商品を注文することができました。従業員はHivyのウェブページへ直接アクセスして使っても良いですし、Slack経由でも利用可能です。リクエストは全てオフィスマネージャーへ通知され、TrelloのようなチケットUIに沿ってタスク管理できました。Firstbaseもこうした従業員とマネージャーとの新しいコミュニケーションツールとしてのプロダクト価値も見いだせるかもしれません。

リモートワークは不可逆的な流れでもあるため市場規模はこれからも拡大するはずです。この中でFirstbaseがどこまで顧客企業を獲得するのか、アジアでは同様の流れが登場するのかに注目されます。

今週(4月29日〜5月2日)の主要ニュース

AirTagリリースに見る、スタートアップのGAFA差別化戦略/GB Tech Trend

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先日リリースされたAirTag。Image Credit: Apple。

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今週の注目テックトレンド

注目のトピックス:以前から噂をされていたAppleの新IoT「AirTag」がついにリリースされました。忘れ物をしないようにデザインされた小さなチップとなっています。専用のバンドと一緒にくくりつけてして、私物の場所をトラッキングできます。

iPhoneやiPadとAirTagをBluetooth通信で接続し、仮に接続が切れるほど遠い場所にAirTagが移動してしまったらユーザーに通知を飛ばす仕組みです。通信外の場所にいても、同じiPhoneユーザーが近くにいれば、Bluetoothによる位置情報の更新が行われ、所有者が近くにいなくとも情報を届けてくれる便利なIoTです。価格は1個3,800円から。バッテリーの持続期間は1年以上で交換もできます。

最大の特徴はiPhone11以降に搭載されている超広帯域チップの活用です。一般的なWifiより遥かに広い範囲に電波距離を広げられ、AirTagのトラッキングエリアも拡大できます。その上、「Precision Finding」機能が使えるようになり、加速度センサーやジャイロスコープを駆使して、正確にユーザーをAirTagの場所へと導くことが可能となりました。

AirTagのリリースに関してAppleはプライバシー性を推しており、ユーザーがどのようなモノを所有しているのかなど、該当物の位置情報以外を同社がトラッキングすることは難しいでしょう。

さて、今回の発表において戦々恐々としているのが同じく忘れ物市場に参入しており、市場シェアを獲得している「Tile」なはずです。元々、Bluetoothを軸にした「発見ネットワーク」の概念を市場に提唱し、ユーザー同士で共有する仕組みは同社がパイオニアとなっています。AirTagはまさにTileの事業モデルを完全に模倣されたと言えるでしょう。

Tileのアプリはユーザーが任意でインストールする必要がありますが、Find Myに関しては事前に備え付けられています。iPhoneユーザー数億人の「発見ネットワーク」を即座に構築でき、リリース初日からTileが最も訴求しているネットワーク効果を軽く凌駕できる「不公平な強み」を持っています。プロダクトデザインに関しても、バッテリーが切れる1年毎に新品交換が必要なTileと違い、自分でバッテリー交換できるAirTagはユーザービリティにおいても一歩先を行っていると言えます。

TileはAppleの独占状態を訴訟問題にする可能性がありますが、Appleは「Find My」のネットワーク機能を外部に公開する意向をすでに示しています。すでに電動自転車「Vanmoof」らがパートナー企業として超広域帯チップによるネットワーク効果のメリットを享受できます。Tileもパートナー企業となれば問題ないとする流れにし、独占的ではないとする反論の狼煙も上がっています。

あらゆる面において手を打たれている印象のTileです。

GAFAにやられてしまった典型例となってしまいそうですが、こうした事態を戦略的に回避することはできなかったのでしょうか。可能性として挙げられる回答は2つ存在しそうです。

1つは「収益軸」。未だにTileやAirTagは3,000〜4,000円前後と比較的高価であり、一般大衆に幅広く浸透しているかと言えば疑問が残ります。そこで、たとえば広告収入に軸を変えることでハードウェア販売からのシフトをしていれば分厚いユーザー層を獲得できるかもしれません。

Tileユーザーには1,000円を切る形でチップを販売し、一方でアプリシステムに乗っかる形でパートナー企業にもTileのトラッキングサービスを配布。ユーザーとパートナー企業間の両者が揃ったネットワークを構築し、そこに広告をかませることでハードウェアコストを浮かせる戦略が考えられます。Appleは広告企業ではないため、収益戦略における差別化にはなるだろうとの算段です。

もう一つは「企業文化」です。GAFAは往々にして個人データ問題を指摘される立場にあります。ユーザーのプライバイシー情報を大量に保有しているため、特に欧米では日に日に脱GAFAの声が大きくなりつつあります。こうした社会環境に呼応する形で、Tileのブランディング・カルチャーを作り上げ、ユーザー意識を味方にさせる定性的な戦略が考えられそうです。

いずれにせよ、AppleはFind Myを軸にした新たなIoT社会を作り上げようとしており、このエコシステムに付随する形で各ハードウェア企業が付いて回る流れができそうです。スタートアップ単体で何かしらのIoTネットワークを作り上げることがより至難な時代となりました。

今週(4月20日〜4月27日)の主要ニュース

D2CニッチなプロセスのDX化に商機「Lumi」と「Soona」が取り組むSaaS化トレンド/GB Tech Trend

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。 今週の注目テックトレンド 今では世界的なブームになったD2C市場ですが、なかでも小売ブランドでは大きなインパクトを与える存在となりました。規模は小さくとも、強い世界観を持っ…

今回1,020万ドルの調達を発表した「Soona」。Image Credit: Soona。

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今週の注目テックトレンド

今では世界的なブームになったD2C市場ですが、なかでも小売ブランドでは大きなインパクトを与える存在となりました。規模は小さくとも、強い世界観を持ったブランドが多く登場し、デジタル広告を駆使した事業形態が盛んに採用されています。

こうした市場の登場に伴い、ニッチな業態にフォーカスするスタートアップも登場しています。たとえば梱包ボックスの「Lumi」です。

米国の梱包市場は2019年に1,800億ドル超える規模になっているそうです。従来、多くの事業者は自社ブランドロゴの入った配達ボックスを大量製造していましたが、D2Cブランドはより作り込んだボックス生産を望みます。

というのもボックスを開けた中身にメッセージ文を付け加えるなど開封時の顧客体験(アンボックス体験)を向上させたいと願う事業者が増えたからです。結果、自社ロゴ・カラーの付いたオリジナルのボックスに対する需要が高まりました。ただし、D2C企業の期待値を超えるボックス工場を探すのは至難です。

そこでLumiは全米の配送ボックス製造工場をネットワーク化し、利用者はダッシュボードを使い、全米各地の工場を指定するだけでオリジナルボックスの生産と梱包プロセスの発注を可能にしました。

D2C市場の立ち上げとともに急速に誕生した需要に応えたのがLumiです。なにより、旧来依然とした市場のSaaS化を行ったのが同社でした。そして今、同様の流れに取り組むスタートアップに「Soona」が挙げられます。

SoonaはD2C企業のプロダクト写真・動画撮影のアウトソーシング先となるサービスを提供しています。先述したとおり、D2C企業はこだわりの強い世界観を持っているのが特徴です。プロ仕様のなかでも、ビビッドなカラーが映えたプロダクト写真等をこぞって展開しようとします。しかし、通常の撮影スタジオではなかなか独自の世界観を表現するのは難しい課題がありました。

そこでSoonaはプロダクトを配送するだけで「映える」プロダクト写真と動画を低価格で24時間以内に撮影してくれるサービスを提供したのです。D2C特化のプロフォトグラファーのネットワーク化に取り組んでいます。

TechCrunchによると、契約フォトグラファーの30%は自宅から撮影しているそうです。現在4,000の顧客を獲得し、前年度比収益は400%増と躍進しているSoonaはLumiと同じく、ニッチでありながら必須であった煩わしいプロダクトプロセスのSaaS化に目をつけと言えるでしょう。ちなみに同社は今回1,020万ドルの調達に成功しています。

商業用写真市場は、2019年時点で18億ドルの規模であるとの試算があります。1企業あたりの平均売上額は50万ドルです。巨大市場ではありませんが、こうしたニッチ市場であっても市場にとっては必ず必要となるプロセスです。Soonaは撮影プロセスのDXとターゲット顧客を絞ることで商機を生み出しました。いずれはアジアにも似たようなサービス形態が登場するかもしれません。

今週(4月12日〜4月19日)の主要ニュース

40億ドル評価報道のClubhouse、Twitterが買収検討のうわさも/GB Tech Trend

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。 今週の注目テックトレンド 音声SNSとして注目されている「Clubhouse」の話題が尽きません。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、…

買収の噂が出た「Clubhouse」。Image Credit: 「Clubhouse」。

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今週の注目テックトレンド

音声SNSとして注目されている「Clubhouse」の話題が尽きません。

Bloombergによると同社は資金調達に向けて交渉中であり、その価値は約40億ドルに達すると報道されています。評価額は2021年1月時の10億ドル比で4倍となり、投資家がClubhouseに高い期待を寄せていることがわかります。

競合他社も音声領域に張っており、高い企業評価はこうした競合の動きの煽りを受けているからとも言えるかもしれません。なかでもTwitterが発表した音声チャットスペース「Spaces」の存在は強く影響を及ぼしているはずです。事実、今回の40億ドル調達ニュース発表直後、TwitterとClubhouseが同額での買収可能性について話し合っているとの報道が出ました

Twitterは過去に多くの企業買収を行ってきましたが、買収価格はすべて10億ドルに満たないものでした。同社の最高金額帯の買収は、2015年の広告テック企業「TellApart」の約4億7,900万ドルと、2013年のモバイル広告スタートアップ「MoPub」の約3億5,000万ドルです。

しかし、昨今の金余りの影響がもたらすIT企業バブルにより、Twitterの株価は史上最高値近くへと推移。買収をするための軍資金を十分に持ち合わせています。「40億ドル」は過去の買収案件と比べても未だかなり強気な数値ではありますが、Facebookや、MicrosoftのLinkedInやSlackも参入しようとしている領域で逃げ切れているClubhouse。ある程度の先行利益を獲得していることから、次の主要SNSになるとTwitterも期待し、早めに競合を買収して潰してSpacesにサービス連携させたい魂胆かもしれません。

一方のClubhouseは、その高い評価額に基づいた交渉のみならず、ビジネスモデル構築においても強気です。最近ではクリエイターにStripe経由で投げ銭できる機能「Payments」を実装。従来の投げ銭機能では15〜30%ほどの手数料を運営側が徴収するものですが、Clubhouseは一切マージンを取りません。将来的にはサブスクリプションとイベントチケット代金から収益化を目指すと発言しており、あくまでもユーザーバリューを増やして、追って収益源を構築する算段のようです。

すでに膨大な資金を獲得しているClubhouse。同社の機能拡大戦略からもユニコーンらしい振る舞いが垣間見れます。今回報道されたTwitterからの買収案がどうなろうとも、他のビッグテックから買収提案を受ける可能性もあるでしょうし、今後も根強く成長を続けていくと想定されます。

今週(4月5日〜4月11日)の主要ニュース

Podcastはなぜマネタイズが難しいのかーー業界の変遷を紐解く

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、STRIVEのパートナー根岸奈津美氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@negishinatsumi。 Radiotalkに投資しているSTRIVEの根岸です。前回音楽ストリーミング業界に関して書いたのですが、その続きで音楽以外の音声コンテンツが今後どうなっていくかを考えるときの、前段の今までの業界の流れ…

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、STRIVEのパートナー根岸奈津美氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@negishinatsumi

Radiotalkに投資しているSTRIVEの根岸です。前回音楽ストリーミング業界に関して書いたのですが、その続きで音楽以外の音声コンテンツが今後どうなっていくかを考えるときの、前段の今までの業界の流れについて書きました。

プラットフォームは細分化し、新しいコンテンツや課金方法が出現

オーディオコンテンツを届けるチャネルはラジオから、インターネットラジオ(懐かしい‥)が出てきて、その後、音楽、Audiobook、Podcastそれぞれに強みを持ったオーディオプラットフォームが出てきました。プラットフォームの進化に伴い、コンテンツもPodcast、LIVE配信など新しいものが出てきており、課金方法も、広告や番組内ショッピングから、サブスクや投げ銭などに広がってきています。

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音声市場で最もホットな領域はPodcast市場

オーディオコンテンツ市場で、最も大きいのは音楽市場で128億ドル、次いでオーディオブックが35億ドル。Podcastは色々調べたのですがグローバルでたったの11億ドルでした。利用者数は一定数いるもののマネタイズに課題があり現時点での市場規模は大きくないです(後述)。

別のデータで、中国のPodcast市場(オーディオブック含む)を73億ドルとしているものもあります。中国ではXimalaya(未上場)やLihzi(2019年通期売上高$169M)等のオーディオプラットフォームが存在し、早くからサブスク課金があったり、足元ではライブ配信などへのギフティングなど、課金手段が色々とあるため、USなどよりも課金規模では大きい可能性があると考えています。

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Podcastをはじめとする音楽外の音声コンテンツ市場は、足元急拡大しています。ライブ配信などの新しいコンテンツや、Clubhouse、Twitterなどの新規参入者の存在、それらのサービスが収益化を強化する方針を打ち出していることから、今後加速度的に大きな市場になると期待しています。

Podcastの変遷

Podcastの全体感を知るために変遷を書きます。

2003年(Podcast登場)

2003年にPodcastという単語が初めて登場。2005年にAppleがApple Podcastを正式サポートし、圧倒的なプラットフォームになります。当時はスマホアプリを使った手軽なホスティングサービスは当然なく、自身でサーバーを立て、録音した音源をPCソフトで編集するなど、個人が番組制作・配信するにはハードルが高いものだったようです。

2008年(iPhone3Gとブロードバンド)

音楽ストリーミング同様、2008年のiPhone3Gとブロードバンド環境が転機になりました。元々Apple Podcastという圧倒的なプラットフォームがあったUSでは、2013年頃からですがSimplecastやAnchorFMなどスマートフォンアプリで録音編集できるホスティングサービスが新しく出てきて、個人でも手軽に配信できる環境が整っていきました。

大きなプラットフォームがまだなかった中国では、ホスティングサービス単体というよりは、前述のLizhiやXimalayaなど、録音編集から配信まで一元的にできるプラットフォーム(日本でいうRadiotalkやstand.fmさんのようなサービス)が2010年頃から登場しました。

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2015年(スマートスピーカーとAirpods)

次の転換点がAirpodsやスマートスピーカーの発売です。そもそも本来音声コンテンツは画面をみなくても楽しめることが利点なのに、PCやスマホの画面に縛られてるという矛盾がありました。

Airpods等の登場で、ハンズフリーで話したり、ながらで発信やコミュニケーションができるようになり、コンテンツもPodcastのような発信者ベースのものから、ライブ、そしてClubhouseなどよりインタラクティブなコンテンツやサービスが出てきています。

2015年から6年かかって音声サービスが拡大しているのは、コロナの巣ごもりなどの影響もありますが、マネタイズもセットで展開するサービスが増えてきたからではないか、と思っています。プラットフォームに儲かる仕組みがあったほうがコンテンツが増えますが(YouTuberなど)、これまで、限られた人気者しかマネタイズできないような状況でした。そしてそんな状況は変わってきています。

Podcastの構造の話

マネタイズの課題について触れる前に、一度、USのPodcastの構造について見ます。2005年以降、下図の赤枠で囲った無料のPodcast配信プラットフォームは大手のAppleなどが牛耳っています。なので、USで、音声関連で立ち上がったスタートアップは、既述の2008年のスマホ化とブロードバンド対応以降、青枠で囲った配信系SaaSや制作会社などになります。

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最近のプラットフォームは、TikTokのように制作から配信までプラットフォームが一元的に提供するものだと思いますが、Podcast市場の場合、配信プラットフォームであるAppleが強すぎるゆえにUSでは分断した構造になったのだと考えています。ホスティング系のSaaS(Anchorなど)が立ち上がったことで、サーバーの準備や特別なPCソフトなど必要とせず、個人が手軽に配信できるようになりました。

Podcastのマネタイズの課題

そして、なぜ既存のPodcastプラットフォームではマネタイズがしにくいのかというと、Appleが無料コンテンツとして配信して普及させてきたこと(これが大きそう)や、コンテンツ制作と配信が別々なのでマネタイズポイントを作りにくいなどが考えられます。

Appleが無料コンテンツとして配信させてきたのは、Appleの意向なのかもしれませんが(ポリシーありそうな気も)、Podcastの仕組みにおいては、コンテンツを大手プラットフォーム外のサーバーにおいてあるため、プラットフォーム側としてはYoutubeのような完全自動広告など入れにくいという事情もあるようです。

USのPodcasterの場合は、一部の売れているPodcasterは広告案件をとってきて番組内で紹介したり、スポンサーをつけるなど、アナログ且つ限定的な方法でマネタイズをしています。Ancarなどのホスティングサービスは自動広告を入れられるサポートなどをしていますが、収益化という意味ではインパクトはまだ小さいようです。

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マネタイズの課題感は当然大きいのでUSではPatreonがPodcasterの収益化ニーズをとり、グロースしてきました。また、2019年にはPodcast版Netflixと言われた完全サブスク型のプラットフォームLuminaryも出てきました(が、Luminaryはあまり立上ってないようです)。

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一方、中国では、制作ホスティングから配信まで一元的に提供するプラットフォームが主流(下図赤枠)で、早くからサブスク課金や、ギフティングなどのマネタイズが始まり、Podcastだけでなくライブ配信など、多くのコンテンツが生まれているようです。日本でもRadiotalkやstand.fm、Voicyなどは一元プラットフォームで足元様々なタイプのマネタイズ手法を提供しています。

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プラットフォーム側もマネタイズを強化しています。Podcastで2021年にも最大手になると言われているSpotifyは、ホスティングSaaSのAnchorを買収し、プラットフォーマーとしてのマネタイズポイントを取りに行っています。また、Adやサブスクなど、マネタイズ手段も強化する方針を示しており、このあたりは今後本格的に変わってくると思われます。以下の岡さんの記事がわかりやすかったです(勝手に引用すみませんmm)。

今後の展望

さて、今後の展望ですが、「より多様なコンテンツ」と「マネタイズもセットにしたプラットフォーム」がグローバルで出てくると思っています。Podcastの変遷の2015年~の部分に書いた通り、従来のPodcastという形だけではなく、ライブ配信やインタラクティブな形式の新しいコンテンツが出てきています。ただし、広がるポイントとなるのがマネタイズで、まさにClubhouseやTwitterがサービスローンチと共にクリエイター収益化の支援を掲げているのは上記のマネタイズの課題を念頭に置いてだと考えています。

アイキャッチクレジット:Photo by Tommy Lopez from Pexels

栄枯盛衰のClubhouse——自由で新鮮な体験が売りの音声SNSは、もはや「つるはし売り」の場に?【ゲスト寄稿】

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本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。彼は、日本で Shizen Capital(旧 Tachi.ai Ventures)のマネージングディレクターを務める。本稿は Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿) The guest post is first appeared on …

mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。彼は、日本で Shizen Capital(旧 Tachi.ai Ventures)のマネージングディレクターを務める。本稿は Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿

The guest post is first appeared on Mark Bivens’ Blog. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture capitalist. He is the Managing Partner of Shizen Capital (formerly known as Tachi.ai Ventures) in Japan.


昨日、日本における Clubhouse の盛衰について興味深い議論をしていた。幸運なことに、日本での現象をよりよく理解している2人の方から教えていただくことができた。

Clubhouse は1月下旬に日本でローンチし、Apple App Store で無料アプリの第1位に躍り出た。政治家も使い始めた

それからわずか2ヶ月で、Clubhouse は、今は亡きプロ野球選手 Yogi Berra 氏の名言を具現化したような存在になってしまった。「あそこに行く気になる人はもういないはずだ。人が多すぎてね。

なぜ Clubhouse は日本で火がついたのか?

日本はさまざまな意味で Clubhouse にとって理想的な市場だ。誰もがスマートフォンを持っていて、高速鉄道や地下鉄でも、信頼性の高い 4G(現在は多くの場所で 5G)のネットワークに接続されている。もちろん、パンデミックの際には、在宅勤務に一部移行したことで Clubhouse に逃げ込む好機となった。しかし、日本では大規模災害よりも新型コロナウイルスの方が不便を強いられたため、多くの人がオフィスで働いた。そのような人たちにとっては、長い通勤時間や、上司が帰る前にオフィスを出るというタブーが組み合わさって、時間をつぶすための十分な機会となっている。

また、Clubhouse の持つ高級感は、日本の消費者にとっても魅力的だ。Trader Joe’s(アメリカのオーガニック食料品スーパーマーケット)の買い物袋を持って東京を歩けば、最近アメリカに行ったことがさりげなく伝わるように、シリコンバレーの権威ある招待制スマートフォンアプリに参加し、それをソーシャルメディアで発表することは、日本では深刻な FOMO(取り残される不安・恐怖)を生み出す。

では、なぜそれが消えてしまったのか

日本において Clubhouse FOMO の舞台となった主なメディアは Facebook であり、Twitter もある程度利用されていたが、LinkedIn は利用されていなかった。日本のビジネスプロフェッショナルは、LinkedIn よりも Facebook を多く利用している。Facebook は、サラリーマン、フリーランス、起業家、投資家にとって、友人関係だけでなく、仕事上のつながりを持つための主要なソーシャルネットワークとして機能している。Facebook の月間アクティブユーザ数は2,600万人だ。日本の VC の中で Facebook をやっていないのは私だけだと言われたこともある(おそらく私にとっては不利益なことだが、申し訳ないが一線を画している)。

一方、LinkedIn は10年近く前に日本に進出したにもかかわらず、日本でのアクティブユーザ数は現在でも数百万人程度だ。プロフェッショナル層の間で人気を集めている LinkedIn だが、日本では長い間、LinkedIn にアカウントを作成することに意味があった。これは、忠誠心と終身雇用を重んじる日本の大企業では、キャリアを損なう可能性のある行動だ(編注:転職活動をしていると見られるため)。

Facebook の問題点は(というか、一つの問題点だが)、ジャンクが多いことだ。そのため、 Clubhouse は日本での成功の犠牲になっていると言える。 Clubhouse のメンバーシップは主に Facebook を通じて広まったため、誰でも参加でき、誰もが参加し、あらゆる種類の思想的指導者のたわごとを広めることになった。

これと同じ現象を私はフランスで目の当たりにしたが、それは Cédric Giorgi 氏の素晴らしい、生意気なツイートに簡潔にまとめられている。

(訳)私は Clubhouse が大好きだ。この新しいネットワークとそこで交わされる会話や交流が本当に好きだ。しかし、それはインフォプレナーやつるはし売り、ビジネスコーチなどのための場所になりつつある。そうなるには、あまりにも早過ぎた。

しかし、フランスの Clubhouse が「vendeurs de pioche(つるはし売り)」に蹂躙されるまでには、数ヶ月を要したようだ。日本では3週間しかかからなかった。

訳注:「つるはし売り」とは、「ゴールドラッシュの時、最も金持ちになったのは金を掘る人ではなく、シャベルやつるはしを売る人だった」とする話に由来し、ここでは起業家が成長するための道具だとして、起業家に成功の方法を伝授すると吹聴し、その対価に高額な費用を請求する情報商材屋を揶揄している。

インフルエンサーとNFTの架け橋になるか、Cameoの可能性/GB Tech Trend

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1億ドル調達を発表した「Cameo」。Image Credit:Cameo。

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

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ユーザーが有名人からの動画メッセージを購入できるプラットフォーム「Cameo」が、シリーズCラウンドで1億ドルを調達しました。今回のラウンドを経て、同社はユニコーンのステータスを獲得しました。

累計調達額は1億6,500万ドル以上。e.venturesがリードし、GV(旧Google Ventures)、AmazonのAlexa Fund、UTA Venturesなどの新たな戦略的投資家、SoftBank Vision Fund 2、Valor Equity Partners、Morgan StanleyのCounterpoint Global、既存投資家であるLightspeed、Kleiner Perkins、Spark Capital、Peter Chernin’s Chernin Group、Origin Venturesらが参加しています。

Varietyによると、これまでにCameoがファンのために制作したタレントビデオは200万本以上にのぼり、そのうち約80%は他人へのプレゼント(誕生日、お祝い、ローストなど)として予約されているそうです。2020年には、約1億ドルの総売上高(前年比4.5倍)を達成し、平均注文額は約25%増の約70ドルになったとのこと。また、過去3年間の合計を上回る130万件のメッセージを配信し、1万人以上のコンテンツプロバイダーが新たにCameoに参加。さらに、昨年は150人以上のパーソナリティが10万ドル以上の収入を得ています。

元々、Cameoの共同創業者であったDevon Townsend氏は短尺動画プラットフォーム「Vine」でファンを抱えていたインフルエンサーでもありました。同氏がファンコミュニティがどのような形で運営されているのかなどをよく知っていたことから、Cameoを正しいアプローチで立ち上げられたと言えるでしょう。

今でこそ名だたるインフルエンサーが参加しており多額の取引が発生していますが、サービス立ち上げ当時は5〜10ドル前後であれば課金してくれる「忠実なファン」を抱えるマイクロインフルエンサー獲得を戦略軸に据えていました。

Cameoがターゲットとしてたインフルエンサーは、高い意欲(Willingness)を持っていながら名声(Fame)は持ち合わせていない層の獲得を狙いました。こうした層は熱量の高いファンを往々にして抱えています。そこでインフルエンサーとファンを芋づる式に抱え込む「プロデューサー・エバンジェリズム・ストラテジー」と呼ばれる利用者自らが顧客を連れてくる拡大戦略に打って出ます。

さて、Cameoは盤石なインフルエンサーが稼ぐための収益プラットフォームを築きつつあります。「Fan Club」や、直接映像電話で話すサービス「Cameo Calls」を立ち上げる多角化にも意欲を見せています。ただ、それ以上に昨今のコレクタブル市場との相性に商機があると感じます。 最近話題となっている「NFT(Non-Fungible Token)」を活用したコンテンツ流通戦略がそれです。Cameoで取引される動画コンテンツは、唯一無二であることが絶対条件となるもので、インフルエンサーがその人だけのメッセージを込めることで価値が発生しています。コピーは認められません。

ブロックチェーン上にデジタルコンテンツの取引履歴を記録・公開でき、該当コンテンツが絶対的に唯一性を持っていることを証明できるNFTを組み込めば、Cameoのコンテンツを市場流通させる際に価値を裏付けすることができます。現にCameoのユーザーは自分がお金を払って受け取ったコンテンツをSNS上に公開していることから、コンテンツ流通志向を持っていることがわかります。NFTとしての取引も大いに行われることが予想されます。

現在はコンテンツ作成を依頼する際に料金が発生するモデルのCameoですが、今後はメッセージ動画作成依頼の業態から、NFT売買プラットフォームへと業態を変化させられる可能性を秘めます。インフルエンサーがデジタルNFTを取引できるプラットフォームになれば、いずれは「メタバース」や「バーチャル経済」にも繋がるサービスへと進化しそうです。

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検索もサブスク、チャンスは「プライバシー」にあり/GB Tech Trend

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新たに4,000万ドルの調達を果たした「Neeva」。Image Credit: Neeva

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今週の注目テックトレンド

過去20年間、様々な検索エンジンがGoogleに対抗しようとしてきましたが、Microsoft「Bing」を含め、ほとんどが市場シェアを取れずにいました。他方、「DuckDuckGo」に代表されるプライバシーを重視した検索プレイヤーなども出てきており、Google検索とは違う方向性が採用されていく可能性を示唆しています。

先日4,000万ドルの調達を果たした「Neeva」もその一つ。同社は各種検索窓口と連携する、Add-on型の検索サービスとして活躍が期待されています。創業者は元Googleで検索広告事業部にいたSridhar Ramaswamy氏です。

同氏はGoogleの検索結果は広告企業のものが優先的に表示され、ユーザーが本当に求めるコンテンツがなかなか探し出せないことに疑念を感じ、Neeva開発に至っています。

Neevaは既存コンテンツおよびデータソースと連携して動く仕組みです。Bingのような検索サービス、Apple Mapsに代表される地図アプリ、メールアプリ、ローカルドキュメントなどの個人ファイルの検索窓口とも連携し、ウェブ検索結果やアクション候補を表示します。

Google検索との大きな差別化点は3つ。プライバシーを重視している、広告を持っていない、サブスクリプションベースである点です。

先述したように、Googleは広告収益を軸にしているため、検索アルゴリズムの上位にアド結果が表示され、ユーザーにとって最適な体験となっていませんでした。そこでNeevaは月額10ドル前後の有料サブスクから収益化を図ろうとしています。また、ユーザーデータが追跡されることはなく、パーソナライズ検索結果が返ってくる仕組みを採用しているとのことです。

「Authentic Search(本物の検索)」+「Integration(連携)」+「Privacy(プライバシー)」の3つを提供価値として成長させていくプロダクト戦略であることが伺えます。

個人情報を犠牲にして無料サービスを提供しているGoogleやFacebookに対し、消費者が不平・不満を口にしていても声は届かず、これら大手企業が依然として支配的なポジションにあることに変わりはありません。他の検索エンジンが、プライバシー性の高さを武器に参入していますが、未だGoogleを脅かしてはいません。こうした背景を基に、自らの経験を活かして新規参入するのがNeevaです。

市場を広く見渡すと、検索サービスで急成長している企業は多い印象です。たとえば「Algolia」は、サイト内検索サービスを手軽に立ち上げられる開発者向けサービスを展開しています。Google検索の及ばない各サイトにおける情報整理をミッションに成長を続けています。

このように、一言に「検索」と言ってもまだまだ参入領域が残っています。誰しもがデジタルデバイス上でおこなう「検索体験」に注目したNeevaがどこまで成長しきるのか、はたまた競合他社と同じく結局中途半端な結果に終わるのか、市場が注目しています。

今週(3月22日〜3月28日)の主要ニュース

「サブスク料金立て替え」のPipe、SaaS時代の新たな投資モデル/GB Tech Trend

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。 今週の注目テックトレンド 在宅生活が当たり前になり、それに伴いSaaS企業が躍進しています。そんな中、SaaS企業向けフィンテックスタートアップが登場しました。名前は「Pi…

5,000万ドルの調達を果たした「Pipe」。Image Credit: Pipe

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

今週の注目テックトレンド

在宅生活が当たり前になり、それに伴いSaaS企業が躍進しています。そんな中、SaaS企業向けフィンテックスタートアップが登場しました。名前は「Pipe」です。2020年2月に600万ドル、6月には1,000万ドル、そして先日5,000万ドルの調達を果たしています。SaleforceのMarc Benioff氏や、AngelistのNaval Ravikant氏、他にもShopifyなどが出資しており、多くの投資家から注目を集めています。

PipeはB2B SaaS企業の収益回収モデルを変えようとしています。従来、SaaS利用企業は四半期や半年、年間契約を結びながら月額で利用料を支払ってもらうケースが大半でした。利用企業にとってはキャッシュアウトを抑えられ、コスト予測が出来るため年契約月額支払いは便利です。

他方、SaaS提供企業は契約金回収までの期間がかかってしまいます。特に立ち上げ時期は開発コストがかさむため初期費用がかかります。契約を獲得して成長スピードを上げたいが、契約金が手元に来るまで時間がかかる場合、新たに資金調達をして株式を放出するしかないと考えてしまいます。キャッシュフローと成長のトレードオフです。

そこでPipeはMRR(Monthly Recurring Revenue)をARR(Annually Recurring Revenue)へ即時転換できる投資プラットフォーム、言い換えれば「年間サブスクの建て替え」を提供しています。

仕組みはこうです。投資家がSaaS企業のビジネス健全性に基づいて多少割引した価格で年間サブスク額を購入します。購入金額は一括でSaaS企業に入り、月額収益がPipe経由で投資家の手に渡る、というわけです。Pipeの利用企業はサブスクの年間価格とほぼ同額のキャッシュが提供されるので、顧客のサブスクリプションの年間価値全額をすぐに自社資金とすることができるのです。

現在のPipeのモデルは、創業者が会ったとあるスタートアップファウンダーが、顧客に年間契約前払いを促すために収益を40%も割引し、同時にキャッシュフローのギャップを埋めるため資金調達していたことを課題に感じたことから生まれたそうです。

SaaS企業にとって、顧客企業と年間一括契約を結ぶために提示していた大幅ディスカウントは深刻な問題です。そこでPipeは、高いディスカウントなどせずとも素早く予測収益が回ってくるように投資家とのネットワークを整えました。こうすることで、ACV(Annual Contract Value)を限りなく高い率で維持することができるようになりました。

Gartner」によると、世界のパブリッククラウドサービス市場は、2020年には収益が2664億ドルに成長し、2019年の2880億ドルから17%増加すると予測されています。リカーリングモデルが当然となる中、Pipeのようなモデルは国内でも可能性がありそうです。

今週(3月8日〜3月14日)の主要ニュース

シード期の「波乗り」に優れた4社、彼らの資金調達方法とは

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スタートアップにおける初期のマイルストーンにPMFがあります。いわゆるプロダクトが自走する段階で、市場がその価値を認めてサービスを利用・購入し、かつ、オーガニックにその利用数が伸びていく状況です。KPIは明確で、経営陣はもとよりチーム全員が毎日何をやれば自社の資産が積み上がるか理解しています。P/LよりもB/Sが積み上がるイメージです。 一方でここまでに至るには、市場の痛みを発見し、そこに対して誰…

Photo by Gary Barnes from Pexels

スタートアップにおける初期のマイルストーンにPMFがあります。いわゆるプロダクトが自走する段階で、市場がその価値を認めてサービスを利用・購入し、かつ、オーガニックにその利用数が伸びていく状況です。KPIは明確で、経営陣はもとよりチーム全員が毎日何をやれば自社の資産が積み上がるか理解しています。P/LよりもB/Sが積み上がるイメージです。

一方でここまでに至るには、市場の痛みを発見し、そこに対して誰よりもよい体験を提供しなければなりません。ここ最近大きく話題になった音声ソーシャルの市場は日本国内でも数年前からあるあると言われながらなかなかトレンドには至っていませんでしたが、コロナ禍における人恋しさやClubhouseのバイラルの巧みさなどが相まって一気にトレンド入りしたのはご存知の通りです。

市場ペインや提供体験、そしてトレンド・テクノロジーなど複雑すぎるほどの変数がピッタリと重なるタイミングを見つけるのは本当に奇跡です。スタートアップが難しいと言われる所以はここにあります。

では起業家はどのようにしてこのタイミングを見つけるのでしょうか。ひとつの答えに「波が来るまで待つ」という方法があります。シード期に必要な資金はチーム構成にもよりますが、業務委託など含めて4〜5人を回すにはやはり年間で最低でも数千万円必要になります。飴を舐めながら我慢してという方法もかつてはありましたが、今はステージも変わっています。

そしてこのシード期には明確な「終わり」があります。つまり、資金が尽きた時です。

私はここ1カ月ほど幾つかのスタートアップを取材したのですが、それぞれのプロダクトの素晴らしさはもちろん、同時に彼らは「波の待ち方・乗り方」が大変優れた数社でもありました。ここにケーススタディを共有することで、これから起業する方の参考になればとまとめてみようと思います。

圧倒的な総合力で間合いを詰めたLayerX

LayerX社内での開発風景(写真提供:LayerX)

ブロックチェーンという可能性が語られ出したのはやはりビットコインによるトレードが大きかったのではないでしょうか。一方で、この自律分散の仕組みが実際に社会実装されるまでには数年の時間を要することになりました。ここにチャレンジしているのがLayerXです。

Gunosy共同創業者である福島良典さんを中心にLayerXを設立したのは2018年8月。GunosyとAnyPayによる合弁会社で、両社が50%ずつを出資し福島さんが代表取締役社長に就任しました。その1年後の2019年7月に福島氏は1株3万円でGunosyが保有する5,000株の内4,500株を譲受するMBOを実施(その後、AnyPay保有分も経営陣にて買取)しています。この時開示されたLayerXの2019年3月期決算状況は売上高1億400万円で営業利益100万円、純利益は0円でした。

福島さんが独立した際、どのようなプロダクトでこの自律分散の技術を社会にデビューさせるのか、私も含め多くの人が興味を持っていたのではないでしょうか。当時はビットコインの大きな暴落などがあり、いい意味で変な熱狂が去った後です。DiFiやDEXなどのプロダクトを予想していましたが、彼らが取った戦略は協業や合弁会社を作る、というものでした。

MBOを成立させた直後の2019年11月には三菱UFJフィナンシャル・グループと協業し、翌年4月には三井物産らと共同で三井物産デジタル・アセットマネジメント(三井物産 54%、LayerX 36%、SMBC日興証券 5%、三井住友信託銀行 5%)を設立しています。

ここで証券のデジタル化(STO)を推進するサービス・プロダクトをリリースするのかと思いきや、出てきたのはもっと現実味のある「業務デジタル化」に関連するものでした。資産管理サービスにおける差別化は手数料です。業務を効率化すれば手数料を軽減させ、競合との差別化要因にすることができます。これを実際にJVを作り、アセットマネジメントの業務に関わる実務を「自社ゴト」として経験し、そこで得られた非効率を改善するというアプローチを取ったのです。

そしてここから生まれたのが請求書業務の「受け取り」を効率化するサービスでした。LayerXインボイスを自社の資産管理業務だけでなく、より幅広い企業のペインにも対応するものとしてデビューさせたのです。

こうしてLayerXは創業から約3年という期間に「請求書AIクラウド LayerXインボイス」によるDX(デジタルトランスフォーメーション)事業、ブロックチェーン技術を活用した不動産・インフラなどのアセットマネジメントを三井物産デジタル・アセットマネジメントと共同で推進するMDM事業、ブロックチェーンや秘匿化技術の技術開発、社会実装などを長期目線で研究開発する「LayerX Labs」の運営という3つの柱を立てることに成功しました。今年3月には共同代表制に移行して体制もモリモリ強化しています。

LayerXの3年間はこうやって言葉にすると綺麗ですが、実際どこまでを計画して動いていたのかはわかりません。ただ近年のスタートアップの中では抜群のタイミングで事業を組み立てた例であることは間違いないと思います。

意味のある受託で波を掴んだ3Sunny

3Sunnyが公開しているカルチャーデック

いやいや、ファンタジスタ福島さんたちのプレーは参考にならないよ、という方もいらっしゃると思います。私もそうです。そこでお聞きいただきたいのが3Sunnyのケースです。こちらについてはポッドキャストでも語っていただいていますが、創業のタイミングで全く地の利のない業界(しかも非常に難しい医療分野)へのチャレンジをされています。さらにリクルートやグリーなどの大手を経験したメンバーで30代後半のスタートアップというそれなりにバーンが高いチームです。

どうやってシードを乗り切ったのでしょうか。

彼らの創業が2016年7月でANRIからの出資金が2,000万円でした。ヒットをようやく掴んだCAREBOOKの誕生が2018年5月、この状況をみてANOBAKAが追加出資に応じたのが2018年12月(5,000万円)なので、創業からの約2年間は最初の出資金である2,000万円でやりくりしなければなりません。ただ20代の学生起業家ならいざしらず、30代家庭持ちを加えた構成ではまあ、無理でしょう。

答えは受託なんですが、やり方が興味深かったです。創業しているメンバーが3人いらっしゃって、代表の志水文人さんが新しいプロダクトについて考える役で、それ以外の2人の取締役が資金が足りなくなりそうになると「どこからか」関連する仕事をとってきてくれていたそうです。その額は1億円を下らないそうで、結果、CAREBOOKはトレンドの波を掴んで浮上に成功します。あと、志水さんたちテレアポがすごく上手だったというのも聞き逃せない重要スキルと感じました。

受託がよいという話ではありませんが、創業メンバーがもし1人とかだとこういったチームプレーができません。また、創業メンバーがそれぞれ自分ゴトとして取り組んでいなければ「外らからカネを引っ張ってくる」という感覚を持てないかもしれません。特にシード期の投資サイドが「チームを見る」と言われる所以かなと。

応援団と一緒に旅をするアル

画像クレジット:「プロセス・エコノミー」が来そうな予感です」より

B向けのサービスで受託開発をきっかけに業界内ペインを探しつつ、プロダクト化に成功する事例がLayerXと3Sunnyであれば、 C向けはどういうケースがあるでしょうか。メディアビジネスのように、まずはユーザーとインプレッションを最大化させてNo.1を取り、そこから広告などのビジネスを展開する「Jカーブ」タイプのモデルが一般的とされてきました。一方、同じような戦略を取る企業が増えてしまい、いつまでカーブを堀つづけるのか分からない不安に駆られるケースもあると思います。

そういう意味で、漫画さがしアプリ「アル」を展開する古川健介さんの「プロセスエコノミー」はひとつのモデルだと思います。メディアによるアフィリエイトなども多少はあると思いますが、それ以上に際立った方法が「アル開発室」というコミュニティの存在で、そこでは毎日、自分たちの開発に関わるエピソードやノウハウをメンバーに共有することで、それを会費という形の売上にしています。現在は非公開のようですが、月額980円で私が拝見した数週間前には2,000人ほどの参加者がいらっしゃいました。

彼らは常時接続ソーシャルの「00:00 Studio」も展開しており、クリエイターや漫画好きがロイヤリティの高いファンとして存在しています。彼らに対して参加できる場所を提供し、一緒に応援してもらいながら開発を続けている、というわけです。学生起業家で最近取材した動画関連事業のTranSe(トランス)さんも同様の方法を採用していたので、C寄りのサービスでロイヤリティの高いファン層から集める方法としては今後、メジャーになるような気がしています。

社内ベンチャーからステップしたMyRefer

社内ベンチャー制度から3年でスピンアウトしたMyRefer(写真は切2018年のもの、一番左が代表取締役の鈴木貴史氏)

LayerXにも似た手法なのですが、ここ最近スピンオフ(連結から外れて独立)の話題をポツポツと聞くようになりました。事例としてはMyReferやミラティブなどがあり、親会社の連結を外れて切り出した後にスタートアップ資金を注入する方法が一般的なようです。連結を外れることで柔軟な資本政策・業務提携を可能にし、かつ、スピンアウトのように切り出した子会社のままではなく明確に上場(外部資本のイグジット)を目指す点が特徴になります。

MyReferについてはこの記事で詳しく書いておきましたが、初期はパーソルホールディングスの社内ベンチャーとして2015年に創業し、1億円の資金とパーソルブランドの信用を背景にビジネスを展開します。3年ほどの事業展開で370社10万人の導入実績が付いたことからスピンアウトとして切り出し、外部資本として当時のグリーベンチャーズ(現在のSTRIVE)とパーソルHDが出資する形で再スタート。この判断は正しく、今年3月にはシリーズBの大型調達に成功しています。

この方法の魅力はやはり大資本・信用力でビジネスが展開できる点です。一方、ガバナンスなどを社内ベンチャーとして積極的に切り分ける方法を上手にやらないと、スピード感のない「起業ゴッコ」で終わる怖さもあります。

大企業の新規事業のあり方は「社内、買収、オープンイノベーション」と言われています。この中で難しいとされるのが社内なんですが、実は大企業には優秀な人材が多く在籍しており、単にやり方が整ってなかったのではないかというのが私の最近の仮説です。この件については別途取材しているものもあるので、またどこかでまとめてみたいと思います。

ということで、シード期の乗り切り方を幾つかのパターンでまとめてみました。色々な立場で新規事業に取り組まれていると思いますが、何かの参考になれば幸いです。

※補足:タイトルに「資金調達方法」としていますが、増資によるものではなく、新規事業を立ち上げるために何らかの方法で資金を引っ張ってっくるという意味合いで付けています。一応補足までに。