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9億人が利用、Alibaba(阿里巴巴)とTencent(騰訊)「フィンテック」共通戦略を紐解く【後編】

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※本記事は、「9億人が利用、Alibaba(阿里巴巴)とTencent(騰訊)中国「フィンテック」共通戦略を紐解く【前編】」の後編記事です。前回の記事では、Alibaba関連企業Ant FinancialとTencentの中国二大モバイル決済企業による、フィンテック事業推進における共通戦略5つのうち2つを解説しました。 3. Prioritizing health insurance &#8211…

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※本記事は、「9億人が利用、Alibaba(阿里巴巴)とTencent(騰訊)中国「フィンテック」共通戦略を紐解く【前編】」の後編記事です。前回の記事では、Alibaba関連企業Ant FinancialとTencentの中国二大モバイル決済企業による、フィンテック事業推進における共通戦略5つのうち2つを解説しました。

3. Prioritizing health insurance – 健康・医療保険を優先する

フィンテック領域において、最も市場規模の大きいビジネスとしては「決済」と「レンディング(クレジット)」の2つが挙げられると思います。しかしその次の主要領域として、人々の様々な生活上・金融行動上のリスクをカバーする保険サービスの領域が挙げられます。当然、両企業も同領域に参入しており、以下では両企業の提供する主要保険事業と、その成長について解説します。

CBIによれば、高齢化や健康ニーズの増加を背景に、中国政府が保険商品の提供を後押しする政策を打ったことで、中国の健康・医療保険市場は益々の拡大が予想されているといいます。

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Image Credit: CB Insights (Health Insurance:健康・医療保険 P&C and Life:損害・生命保険)

そんな背景の中で、領域業は中国の貧困地域や農村地域に対する保険サービスの拡大、及び保険サービスへの投資を積極的に実施しています。

まずTencentは、「Waterdrop」や「 Xiaobang」と呼ばれる保険企業に出資しています。前者のWaterdropは中国で8,000万人が加盟する保険で、月額3〜5元(約50〜80円)を支払うだけで主要な医療支出の際に30万元(約450万円)までを受け取れる保険サービス。後者のXiaobangは中流家庭向けの保険プランニング・金融教育サービスです。

このように、過去同社は投資という形で保険市場への好奇心を見せていましたが、ついに2019年に入って、自社でも保険仲介サービス「WeSure」の提供を開始しています。同サービスでは、Tencent社の持つWechatやQQなどのメッセンジャーアプリから、中国国内の保険業者の保険商品を購入することを可能にしています。

一方、Ant Financialは農村の地域向けの相互扶助プラットホーム「Xiang Hu Bao」を2018年に提供開始。同プラットホームは競合他社サービスの中で最も早い成長速度である10カ月で8,000万人という驚異のスピードで獲得顧客数を達成しました。

またAnt Financialは、2018年ににAlipayユーザーであり、かつ同社のクレジットスコアサービス「芝馬信用」のスコアが650点以上のユーザーらに対し、登録無料の「相互宝」というP2P保険を提供しています。同保険は一定期間内に発生した加入者の保険額(+Ant Financialへの手数料)を、その都度加入者間で割り勘するモデルを採用しています。

以上を踏まえると、両社ともに複数の保険事業に投資・展開し、着実に実績を残している点に驚かされます。

前編で解説した一つ目の共通戦略「フライホイール効果の構築」でも述べましたが、両企業とも、自社で保有するメッセンジャー・アプリやスコアリングと連携する形で各保険サービスを提供していることが分かります。

4. Diversifying options for savings and investing to expand the market – 預金・投資オプションの多様化

前編で一度言及した、6億人のユーザーを持っているAnt Financialの「余額宝」というサービスは、世界で最もユーザー数の多いMMF(マネー・マーケット・ファンド)としてその名を世界に知らしめました。しかし2019年9月、余額宝のユーザー数は2018年のピーク時から39%減少し、世界最大規模の地位から陥落しているそうです。(※以下グラフ参照)

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Image Credit: CB Insights

しかし「余額宝」のユーザー数減少は、実は同社にとって何らネガティブな結果ではありません。なぜならこの結果は同社の戦略によって生じた、想定の範囲内の現象だったためです。

その戦略とは、同社がユーザーがアリペイ内から余額宝一つだけでなく、外部のMMFサービス複数にもアクセスできるようにすることでした。言い換えると、同社は余額宝を単一の”商品”から”プラットホーム・サービス”に進化させたのです。

たとえば、2018年6月にAnt Financialのプラットホームに追加された「 Invesco」というMMFは、その収益を4倍に増加させることに成功しています。このように、Ant Financialはプラットフォーマーとして各種事業から手広く収益化を果たすと同時に、投資オプションの多様化を実現しているのです。

Tencentも自社の資産管理プラットホームが既に1,120億ドル規模に成長している中でさらなる機能充実を画策しており、現在世界最大の資産運用管理企業「Blackrock」と投資ポートフォリオ・ツールを中国市場で利用可能にするため協議を進めてるとのことです。

以上を踏まえると、両企業の目的は、ただ沢山の金融商品を提供する企業になることなく、それらに加え外部の金融プロダクトを複数囲い込むことで、金融プラットホームそれ自体になること、だということが分かります。

実際これはMMFなどの投資サービスに限った話ではなく、Tencent社のWesureが保険商品提供サービスではなく、保険仲介サービスであることからも、フィンテック事業を最大化する上での、一貫した成長スタイルだと考えることができます。

5. Focusing on small businesses – スモールビジネスへのフォーカス

日本では中小企業が全企業の99%を占め、かつGDPの5割を創出しているとされていますが、このような比率は中国においてもほとんど同じです。

CBIによれば、中国市場ではスモールビジネス(中小企業)が全企業の90%以上を占めており、かつ中国経済の生産の60%は彼らによって生み出されているといいます。そのため、Ant Financial及びTencentにとっては、このロングテールが必然的に勝負の決め手となっています。

その勝負の鍵を握るのは、両企業の中小事業者向けのオンライン銀行、Ant Financialの「MYbank(網商銀行)」と、Tencentの「Webank(微衆銀行)」です。

MyBankは中小事業者向けにQRコードでレシートを読み取り、サプライヤーの税務情報を得られるレシートファイナンスというサービスを新たに始めたそうです。このレシート情報によって中小事業者は信用力を示すことが可能になり、MYbankから短時間で大口のローンを得ることができるようになりました。データによればMyBankは2018年末までに1,230万を超える中国の中小事業者にローンを提供しているとのことです。

一方、WeBankは中国のスモールビジネスへのクレジット提供を拡大し続けています。同社によれば、Webankからローンを提供される中小事業者(平均従業員数10名)の66%、実に3分の2が新規ユーザーであると言います。

「MYbank」と「Webank」はAnt FinancialとTencentが取り組むスモールビジネス向けの金融サービスとして好例でしょう。どちらも大量の顧客データをアルゴリズムで解析し、信用スコアを算出することで融資を行うことを大きな収益ポイントとしています。

実は両サービスは信用情報のビックデータ解析にフォーカスしているだけで、資金源は中国国内の既存銀行から得ています。銀行にはデータと技術がないため、両社とも中小事業者と銀行を繋ぐプラットフォーマーとして独占的地位を築いているのです。

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以上、両社の成長戦略を踏まえると共通点としてその成長を支えたのは、既に保有していた「決済」アプリケーションを軸に関連金融サービスを確立させるプラットフォーム戦略、そしてプラットフォームから得られる膨大なデータ分析にあったことが分かります。

両輪をフルに活用し、信用・保険領域という決済の次に大きな市場にフォーカスした点や、特に「若者」や「中小企業」、「地方の農村住民」といった従来型の金融に十分なアクセスができていないユーザーをターゲットとしてサービスを展開した点が両企業のフィンテック・サービス拡大の主要因だと捉えられます。

そして両企業によるプラットホーム化も大きな注目ポイントです。Ant FinancialのMMFプラットホーム「余額宝」や、Tencentの保険仲介プラットホーム「Wesure」の提供開始などは、そのトレンドを象徴する現象でしょう。

両企業は今後も以上のような方向性・ビジネスモデルの変化を行なっていく中で、より高スピードで様々な先進的な戦略・サービスを展開していくと予想されます。最近のトレンドでは両社は顔認識技術を決済領域に持ち込むことで、生体情報に基づいたデータの収集に加え、決済アプリの利便性の向上を試みています。

日本でも現在LINEやPAYPAY、メルカリなどの企業を中心にモバイル決済戦争が起きています。本記事を通して学んだ両企業の成長戦略を踏まえると、数年先、勝ち残った国内決済プレイヤーが今後本格的にフィンテック企業化し、データを活用したクレジット・スコアや保険・与信事業を展開、及びプラットホーム化を進めていく可能性も高いと予想されます。

言い換えれば、Ant FinancialやTencentが牽引する中国のフィンテック市場の現在及び彼らの戦略は、これからの日本のフィンテック業界のプレイヤーらが生存戦略を考えるにあたって、非常に有意義な教材となるということです。その意味で、今後も中国のフィンテック業界の変化、両企業の躍進からは目が離せません。

Image Credit: CB Insights

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いま米国で注目される新トレンド「パッション・エコノミー」とは?ーー 個性を売りにする“マイクロ起業家”

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ピックアップ記事: The Passion Economy and the Future of Work 最近「パッション・エコノミー」という言葉をよく聞くようになりました。端的に筆者の解釈で用語を定義すると、“個性あるサービス経済”と説明できます。初めて聞く人も多いかもしれませんが、私たちが普段よく触れるYouTuberやSHOWROOM、ニコニコ動画配信者の実態を的確に表した用語であると考えま…

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ピックアップ記事: The Passion Economy and the Future of Work

最近「パッション・エコノミー」という言葉をよく聞くようになりました。端的に筆者の解釈で用語を定義すると、“個性あるサービス経済”と説明できます。初めて聞く人も多いかもしれませんが、私たちが普段よく触れるYouTuberやSHOWROOM、ニコニコ動画配信者の実態を的確に表した用語であると考えます。

具体的にパッション・エコノミーを下記3つの特徴に分けてみます。各特徴を説明するために、筆者がこのトレンド概念を知ったきっかけである、シリコンバレーの著名VC「Floodgate」が出資する「Dumpling」を一例に挙げます。

  1. ユニーク性: 労働者の個性を“バグ”ではなく“機能”として活かす
  2. SaaS: マイクロ起業家を輩出する機能提供に終始
  3. 直接営業: 魚は与えず釣竿を与えるスマートな事業モデル

 

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Image Credit: Dumpling

Dumplingは買い物代行サービスを開業できるSaaSを展開します。サービス提供者は同社が提供するソフトウェアを通じて、自分だけのサービスページを持ち、決済や配達スケジュールの予約までを管理できるようになります。集客はサービス提供者が自ら行う必要があるため、Dumplingはあくまで集客術のノウハウ支援しかしません。ユーザーはDumplingのページ経由で自分だけの買い物代行者を持つことができます。

オペレーションなどを全てサービス提供者一人で回さないといけない一方、Dumplingは毎注文額から5ドル、そしてユーザーから5%の手数料だけを徴収します。従来、買い物代行市場はInstacartが寡占しており、同社がオペレーションからサプライチェーン管理までを担っていたため、サービス提供者の手取り額も限られていました。しかし、Dumplingでは全てがサービス提供者の管理となるため、Instacartの倍ほどの収益を稼げるようになるといいます。

最も困難な点はサービス提供者が一定数の顧客を獲得できるところまで。一度回り始めれれば、高い収益をサービス提供者は定期的に獲得でき、ユーザー側も信頼できる人に買い物代行を継続して任せられるようになります。

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さて、先述の3つの特徴に話を戻しましょう。まずは「ユニーク性」に関して。Dumplingのサービス性を通じて得られるユニーク性は、自分だけの買い物代行者を得られる点にあります。“分野特化型の執事”を獲得できると言えるかもしれません。チップを多めに払えば、その時折に合わせた配達手法などのカスタマイズ性も出してくれるでしょう。

Instacartではオペレーションが画一しているため、こうした配達者のカスタマイズ性は黙殺されていました。このように従来型のプラットフォームでは個性を「バグ」と見なしていましたが、新たなプラットフォームでは立派な「サービス機能」と捉えます。

筆者は会ったことがありませんが、たとえば東京のUberEats配達員の中には自前のキットを使って他の配達員より丁寧かつ保温状態の良いお弁当を届けてくれる優秀な人がいると聞きました。こうした優秀な配達スキルを活かして各々に収益を最大化できるのが特徴です。

配達員自らが料金設定をできるため、他より高級なサービスを提供していると感じれば高い料金設定が自由にできます。プラットフォームの画一した報酬体系に縛られる必要はありませんし、ユーザーは優良なサービスを指名して使い続けることができます。こうしたサービス提供者が持つ高いホスピタリティやパッションを指して、「パッション・エコノミー」と呼ばれる所以だと考えます。

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2つ目は「SaaS」。サービス提供者が事業を行うための最低限の機能を与えることで「マイクロ起業家」として事業を運営させる機会を提供するのがここで述べるSaaSの本質です。Dumplingではスケジュール機能や料金設定、ランディングページ作成機能などが当たります。ちなみに、実際に登記をするなどしてサービス提供者が会社を創設することはありません。あくまでも小さな事業を立ち上げるだけ。「マイクロ」と称されるのはこの理由からです。

SaaSで考えなければいけないポイントは2つ挙げられます。1つは引き抜き。サービス提供者の高いスキルを特徴とするサービスでは引き抜きが最大の懸念となるかもしれません。

たとえば、先に述べたUberEatsの配達員が個人的に雇われてユーザーから収入を得ることも考えられます。こうした引き抜きを防ぐためにも、SaaSの機能拡充が必須になります。事業に欠かせない機能を見極めて実装することが必要です。

もう1つはアクセシビリティ。今まで手の届かなかったサービス領域に一般消費者が届くようになる世界観を指します。たとえば、かつてウェブサイト作成は限られた企業だけの特権でした。しかし、今となっては「Strikingly」や「Wix」、「Weebly」の登場により誰でも無料でサイト作成ができる時代になりました。

同じ流れがサービス経済でも発生しています。買い物代行者を一般の人が持てる時代はInstacartの登場まで来ていませんでしたし、Dumplingのように“分野特化型の執事”を持てることはありませんでした。こうした特定層にだけに限られて提供されていたサービスが、SaaSにより民主化されています。この民主化のギャップが大きいほどサービス価値が高まります。

3つ目は「直接営業」。SaaSというビジネスモデルを採用していることから、各サービス提供者のユーザー獲得支援を直接行うわけではありません。この点が従来のマーケットプレイスモデルとの大きな違いです。

冒頭でも紹介したように、魚を与えず釣竿を渡す事業モデルを採用しています。これはエンドユーザー獲得のためのマーケティングコストを圧倒的に削減できることから、非常に効率的な事業展開を目指せるポイントでもあります。また、サービス提供者が仲介業者であるプラットフォームの影響を極力省けることから、“サービス経済のD2C化”を促進するモデルともいえます。

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Image Credit: Podia

ここまでDumplingを例にパッション・エコノミーを3つの側面から説明してきましたが、最後にパッション・エコノミーの変遷を3つの次元から紹介したいと思います。

まずパッション・エコノミー1.0。実はパッション・エコノミーの考えは最近までデジタルコンテンツにのみ当てはまる概念でした。たとえば、最初に述べたYouTubeの動画投稿とスーパーチャット機能や、SHOWROOMのモバイル特化のライブ配信とギフト機能は、まさにマイクロ起業家を支援するSaaS機能と位置付けられます。配信者はユニークなコンテンツを配信しなければ多くの登録者を獲得できませんし、登録者獲得のためには自分で直接営業をしなければいけません。

YouTubeを筆頭とするデジタルコンテンツの提供SaaSは分野特化型に広がりを見せます。これが2017-2018年から現在に至るまでのパッション・エコノミー2.0です。

複数事例を挙げると、教育市場では「Podia」「Teachable」「Thinkific」が代表的。各サービスではコンテンツ作成者がビデオコースと会員費設定ができるSaaSを提供します。これまで特定分野を教えられる“知識系インフルエンサー”は単発オンラインクラスを「Lynda.com」や「Udemy」で提供出来ていましたが、継続利用を目的としたクラスを設立出来ずにいました。

この商機を狙ったのが先の3社です。事実、ピックアップ記事によるとPodiaのトップクリエイターは月に10万ドル(約100万円)以上を稼いでいることから十分にPMFが成立している分野だと言えます。ちなみにライブ教育配信プラットフォームの「Outschool」や「Juni Learning」では平均して数千ドルを稼げるそうです。

別の分野では有料ニュースレタープラットフォーム「Substack」が有名です。コンテンツ制作者が有料メルマガを気軽に始められるSaaSになっています。同サービスのトップライターは年間50万以上を稼ぐとのことです。

このように創造性に富んだデジタルコンテンツを世界中に発信して稼げる分野特化型SaaSが多々登場してきています。デジタルコンテンツ提供者は大規模なオーディエンスを構築し、ニッチな趣味や特技などの情熱を効率的に収益に変えて生計を立てられます。

これはまさに誰もが「マイクロ起業家」になれるツールであり、私たちが将来「仕事」と考える概念を大きな変える意味合いを持ちます。このトレンドはしばらくは続くでしょうし、日本でも似たようなコンセプトが複数事例出てくることが予想されます。

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そして2019年になって登場してきたのがパッション・エコノミー3.0。「Uber」「Taskrabbit」「Care.com」に代表される対面サービスがギグエコノミーのトレンドを追い風に登場しました。過去10年の間で巨大になったオンデマンド市場は、私たちが手軽にお金を稼げるプラットフォームとして人気を博しています。一方、ここまで説明してきたように個性を不要とする均一的なオペレーション化が進んでしまいました。そこで登場したのがDumplingです。

Dumplingは人々の個性を武器として際立たせて生計を立てるオフラインサービスSaaSの好例で、Instacartに取って代わるパッション・エコノミー文脈サービスに当たります。これからはUberやTaskRabbitなどのオンデマンド市場のあらゆる分野で似たようなコンセプトのサービスが多数登場すると筆者は睨んでいます。

Instacartのようなプラットフォームに全てを握られた形ではなく、Dumplingのようにサービス提供者とユーザーが共に「個性」の良さを享受できる業態に注目が集まっています。これは商品経済の代表格であるAmazonの登場の後、商品提供者がユーザーと直接的な関係を築けるShopifyが誕生したのと同様の流れがサービス経済でも発生していると考えられます。

現在は分野特化型のニッチなサービスしか立ち上がっていないことから、パッション・エコノミー文脈でユニコーンが誕生するかには疑問が残りますが、間違いなく2019年のトレンドの1つとして挙げられる概念でしょう。

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9億人が利用、Alibaba(阿里巴巴)とTencent(騰訊)中国「フィンテック」共通戦略を紐解く【前編】

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ピックアップ:5 Ways Ant Financial & Tencent’s Fintech Growth Playbooks Are Evolving 先日のヤフー・LINE連携で話題になったのが中国テックジャイアントの存在です。GAFAに対抗してBAT(※最近は「B」がBaidu・百度ではなくByteDance・字节跳动)とする場合も)と呼ばれていますが、なかでも勢いがあるのがフィン…

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ピックアップ5 Ways Ant Financial & Tencent’s Fintech Growth Playbooks Are Evolving

先日のヤフー・LINE連携で話題になったのが中国テックジャイアントの存在です。GAFAに対抗してBAT(※最近は「B」がBaidu・百度ではなくByteDance・字节跳动)とする場合も)と呼ばれていますが、なかでも勢いがあるのがフィンテック分野での躍進です。

Alibaba(阿里巴巴)グループのAnt Financial(蚂蚁金服)が提供する「Alipay(支付宝)」、そしてライバルのTencent(腾讯)が提供する「WeChat Pay」がそれです。この中国2大モバイル決済アプリについて、米調査会社のCB Insightsが詳しい戦略の考察を掲載していました。本稿ではこれに沿った形で、この2大決済アプリが今、どのような状況なのかを紐解いてみたいと思います。

中国国内決済のほぼ全てを支配する

CBIの記事によれば、トップを走るAlipayは、実に中国国内の決済の54%を占めており、それを追う形のWeChat Payのシェアは約40%だそうです。

つまり、中国のモバイル決済はAlibabaとTencentという、米国のGAFAらと肩を並べる中国巨大テック企業の2社によってほぼ完全に独占されている状態で、これら2社を合わせると、中国国内のユーザー数は実に8〜9億人になるそうです。日本の総人口のざっと5倍です。

事業構造も異なります。Alipay陣営のAlibabaグループはコマースが中心。対するTencentはゲームとメッセンジャー「WeChat」によるコミュニケーション関連事業がメインになっています。特にTencentは広告事業の成長が頭打ち状態の一方、フィンテック関連サービス(レンディングや保険など)が年間40%もの成長を示していると記事は指摘しています。

Ant Financialの推定評価額は1,500億ドル(Alibaba全体では約4,570億ドル)、フィンテック事業に限定したTencentの評価額は1,230億ドル(Tencent全体では約3,875億ドル)と拮抗しており、今後、ヤフーやLINE、東南アジアで勢力を伸ばすテックスタートアップ各社はこことのポジション争いをアジア圏で繰り広げることになりそうです。

といってもこの2社、時価総額では世界トップ10入りの桁違いなので背中は遠いです(※日本のトップを走るトヨタは約1960億ドル)。

AlibabaとTencentが取ったフィンテックの共通戦略

CBIの記事ではこの事業が異なる2社が、フィンテック分野においては同じような戦略を取っていると考察しています。それが次の5つです。

  • 1. Building flywheel effects  – フライホイール効果の構築
  • 2. Making virtual credit a part of everyday life – ユーザーの日常の一部にクレジットを作り出す
  • 3. Prioritizing health insurance – 健康・医療保険を優先する
  • 4. Diversifying options for savings and investing to expand the market – 預金・投資オプションの多様化
  • 5. Focusing on small businesses – スモールビジネスへのフォーカス

詳細はぜひ原文をご一読いただくとして、これらの項目に沿って気になったポイントを解説してみたいと思います。

1. Building flywheel effects  – フライホイール効果の構築

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「フライホイール効果(弾み車)」とは、Amazonの成長を解説する際にジェフ・ベゾスが引き合いに出した理論です。一言で言えば、“ビジネスの中に好循環を生み出すこと”を意味します。

ジェフベゾスは、Amazon商品の低価格化→顧客満足度の上昇→取引ボリューム増加→品揃えの充実、に至る一連の好循環をフライホイール効果と表現しました。Ant FinancialやTencentの場合、決済アプリと関連金融サービスによる相乗効果がそれです。

CBIがまとめたAnt Financialのデータによると、2019年6月のデータではAlipayユーザーのうちAnt Financial以外の金融サービスを3つ以上利用しているユーザーは80%、5つ以上利用しているユーザーは40%となっています。

具体的には、Alipayの提供するWallet内から、中国の一般的な銀行預金金利と同程度かそれ以上の金利(過去の一時期4%に到達、現在2%周辺)をもらえる「余額宝」と呼ばれるMMF(マネー・マーケット・ファンド)サービスを簡単に利用できたりします。

他にもローンや保険サービスをAlipay Walletから簡単に利用できるなど、関連サービスへの導線が上手く出来ているため、ユーザーの人気を集める理由となっています。新たなサービス導線の誕生ですね。

2. Making virtual credit a part of everyday life – ユーザーの日常の一部にクレジットを作り出す

アジア圏におけるミレニアルやZ世代と呼ばれる新しい年代のユーザーはインターネットで決済することが当たり前になっている状況があります。

<参考記事>

ここで重要なデータがクレジット(信用)です。

Ant Financialが運営する消費者信用サービス「Huabei」は、こうした世代向けに無利息のクレジットを提供し、大きく消費を加速させています。データによれば、同サービスが開始した2015年から累計貸し出し額は1,400億ドル(約15兆円)に及んでいるそうです。

驚かされるのは成長率です。

原文のグラフを見ると一目瞭然ですが、1,400億ドルというのは2017年前半までの累計額の10倍です。この増加を2年と少しの期間で達成しているということには驚かされずに入られません。Tencentも「Fenfu」と呼ばれる同様のサービスを開発しており、2019年末までにローンチされる見込みです。記事の後半では残りの3〜5について解説をお送りします。

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メンバーが自走する、「Will(意思)」のある自律組織を実現する方法

自律的な組織づくりの方法については様々なフレームワークが共有されています。ピーター・ドラッガー氏が提唱したMBO(Management By Objectives)やアンディ・グローブ氏のOKR(Objectives and Key Results)といった目標管理制度、Amazonカルチャーに代表される自律組織構築など、チームの生産性を上げるための議論は尽きることがありません。 フレームワークや…

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自律的な組織づくりの方法については様々なフレームワークが共有されています。ピーター・ドラッガー氏が提唱したMBO(Management By Objectives)やアンディ・グローブ氏のOKR(Objectives and Key Results)といった目標管理制度、Amazonカルチャーに代表される自律組織構築など、チームの生産性を上げるための議論は尽きることがありません。

フレームワークや理論が拡大する一方、難しくなるのは「どの手法を選べばいいか」という点です。例えば、私たちはHRBrainというクラウド評価管理サービスを提供しているのですが、600名ほどを対象としたアンケートで、8割の人たちが「その場しのぎの目標設定をしたことがある」、という回答結果を得ています。

いくら優れた手法でもそれを実践する側が受け入れてくれなければ成立しません。そこで本稿では特に「自律的行動」というポイントに絞って、私たちの経験に基づいたTipsを共有したいと思います。

OKRで現場巻き込み、KPIを作り込む

まず何より重要なのが「登るべき山」の共有です。私たちはOKRという目標管理手法で全社目標を個人までブレイクダウンします。これにより若手のメンバーもなぜ自分の仕事や目標がどのように全社目標に寄与しているのかを理解し、経営者目線を持つことを促しています。

ちなみに私たちはこの部門目標も全社会議の日に、部門ごとメンバー全員で徹底的に話して設定し、後日部門長間ですり合わせを行っています。こうすることで、上から決められた目標を負わされているという感覚を可能な限り排除しようとしています。

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キーになる「DI(部署アイデンティティ)」の可視化

目標が定まったら、それをどのような姿勢で追いかけるかをイメージするために、私たちはDivision Identity(部署アイデンティティ)というものを設定しています。Corporate Identity(企業アイデンティティ)を設定する会社はありますが、私たちはより現場レベルで自律した組織にするため、部署の文化やKPIに即したDivision Identity(部署アイデンティティ)を大事にしています。半期の全社会議の時間を丸一日取り、部署ごとに目標や部署として大切にしたい姿勢を言語化しビジュアルに落とし込みます。

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半期の全社ミーティングの様子(提供:HRBrain)

継続的な1on1で自走サポート、ボトルネックはすぐに解消

部署と個人の目標が決定したらそのまま放置するのではなく、最低でも月に1回、1on1ミーティングと言われるマネージャーとメンバー間の面談でサポートを行います。自分の与えられた目標を達成するための具体的なアクションの相談から、メンバーから相談があった場合にはプライベートに関する相談まで、成長のためのボトルネックになりうる部分をタイムリーに解消できる場を持ちます。

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ポイントはやはり部門ごとの目標やアイデンティティを常に可視化する、という点です。

会社全体のビジョンは策定していても、部門が拡大するとやや現場からの距離が遠くなります。これをもう少し現場に近づけることで、働く人たちにイメージを持ってもらいやすくなるメリットがあります。

目指すべき到達点がイメージしやすくなると、当然、そのために必要な「山の登り方」をそれぞれが考えやすくなります。いきなり富士山に登るのではなく、もう少し小さな丘から始めるのと同じです。逆に組織がまだ小さい場合は会社全体としてのアイデンティティでも十分に機能します。

さて、いかがだったでしょうか。

自律的な組織、というのは言い換えれば「意思決定ができる」メンバーの集合体のことです。
これから日本では労働力の減少や少子高齢化といった問題がどんどん顕在化する時代に突入します。たとえ少ないチームでも、一人ひとりが意思を持って自律的に行動すれば、必ずこの課題のいくつかを解消できるはずです。私たちのソリューションもまたその一助になれば幸いです。

<参考情報>

本稿はクラウド人事評価「HRBrain」代表取締役、堀浩輝氏によるもの。Twitterアカウントは@Holy_Max。ここに書かれているノウハウや、会社ごとの課題に合わせた少人数セミナーなども開催されているので、彼らの事業や採用に興味がある方は、こちらからコンタクトされたい。

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事業アイデアは見つけなくていい

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起業を考えているみなさん、事業アイデアを見つけるのに苦労していませんか? 特に大学生などの比較的年齢を若くして起業を考えている方は、事業アイデアがなかなか思い浮かばないか、もしくはいくつかアイデアはあるにしても実際に起業するのはためらわれているような方も多いかもしれません。 一方、ベテラン層と言われる起業家の方々は、事業アイデアの発掘からその実現まで計画的である方が多いように見受けられます。一体こ…

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Photo by Christina Morillo on Pexels.com

起業を考えているみなさん、事業アイデアを見つけるのに苦労していませんか?

特に大学生などの比較的年齢を若くして起業を考えている方は、事業アイデアがなかなか思い浮かばないか、もしくはいくつかアイデアはあるにしても実際に起業するのはためらわれているような方も多いかもしれません。

一方、ベテラン層と言われる起業家の方々は、事業アイデアの発掘からその実現まで計画的である方が多いように見受けられます。一体この違いはどこから生まれてくるのでしょうか?

おそらくほとんどの方が「特定の業界についての深い見識があるかどうか」という回答を想定されると思います。もちろんそれも一つではあるのですが、普段多くの起業家の方とお話していて、それだけが回答ではないのではないかと思い始めました。

私が思うに、その違いは、「あるべき世界を描けているかどうか」ということかと思われます。

ではこの”あるべき世界”とは何なのでしょうか。

“あるべき”世界を描く

“あるべき世界”というのは人によってバラバラです。“実現したい世界”とも言い換えられるかもしれません。

事業というのは、ある人・集団が思い描く理想の世界と現実の世界とのギャップをうめるために存在するものであり、例えば、私たちの場合だと、「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する」というビジョンを掲げておりますが、このビジョンが”実現したい世界”、つまり”あるべき世界”であり、この世界と現実の世界とのギャップをうめるためにベンチャーキャピタルという事業を行っているわけであります。

つまり、現実の世界からの延長で事業を考えるのではなく、”あるべき世界”からの逆算で事業を考えるのです。

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特定の業界で働いてきた経験がありその業界についての見識がどれだけ深い人でも、この”あるべき世界”というものが描けていない限り、現実の世界とのギャップが見つけられず、結果的にその人が起業するに至るということはないでしょう。

なので、起業したいという想いがあるならば、事業アイデアを見つけようとするのではなく、”あるべき世界”を描こうと意識することをオススメします。

もし事業アイデアを先に考えついた場合でも、その事業によってどういった世界が実現されるのか、自分は何を想ってそのアイデアを考えついたのかなどを考えてみると、事業に対する想いや事業の奥深さなどが異なってくるのではないでしょうか。

若手が起業しやすいマーケット

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単発バイトアプリを運営するタイミー(同社ウェブサイトより)

一方で、特に起業においては、自身の強みや特性などを勘案して、ある程度現実の世界からの延長で事業について考えることも重要です。ベテラン層の場合は、冒頭でも触れた通り「特定の業界についての深い見識」が最たる例ですが、若手の場合はどういったものが考えられるのでしょうか。ここでは大きく2つ取り上げます。

①既得権益が存在しないマーケット

既得権益が存在しないマーケットの多くは今後新たに立ち上がるマーケットです。ブロックチェーンやVR/ARなどの技術面での新興マーケットや、LGBTなどの多様性の広がりによって立ち上がるマーケットもその一つかと思われます。ただ注意が必要なのは、既得権益が存在しないからといって大人な戦い方が必要ないわけではありませんし、その業界についてのラーニングが「よーいどん」の形になるため、若さがディスアドバーンテージとなりにくいだけの話です。

こちらは、例えば、LGBT向けの求人情報サイトを運営するJobRainbowなどが挙げられます。

②新たなUXの構築が必要とされるマーケット

もう一つは、シェアリングサービスなどに代表される、UX(ユーザー体験)の再構築がなされていくマーケットです。ここでは、初期的には若者をターゲットとすることが多いため、そのユーザー目線を徹底できる若手の方が事業を立ち上げやすい場合が多いです。

例えば単発バイトアプリを運営するタイミーや、中国と日本で動画メディアを運営し同時に総合広告プランニングを提供するバベル、音楽・エンタメ市場で事業を展開しているSpectra、ミレニアル世代向けデジタルクレジット事業を提供予定のCrezitなどが挙げれられます。

いかがだったでしょうか。

日々多くの起業家の方にお会いする中で事業アイデアを見つけるのに苦労しているという方が多いのですが、以上のことを意識してみるとまた違った目線で事業、ひいては世界を捉えられるのではないでしょうか。

まずはぜひ”あるべき世界”を描くところから始めてみてください。

<参考情報>

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのアソシエイト、一戸将未氏によるもの。Twitterアカウントは@ichinohe_GV。毎週火曜日に25歳以下の起業家を対象として事業の壁打ちを行う「Founders Gate」を開催。12月17日(火・夜7時〜)には、25歳以下の起業家を対象とした「事業アイデア勉強会」を開催予定。くわしくはこちらから

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出世払い学校「Microverse」のビジネスモデルを紐解くーーお飾りの“卒業”を打ち壊すスタートアップ(後編)

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前編で紹介した出世払い学校「Microverse」や「Lambda School」に代表される新しい教育モデルが登場した背景に、3つのトレンドが挙げられると考えます。具体的には「時代スキルの変化」「カリキュラム革命」「ビジネスモデル変革」の3つ。まずは「時代スキルの変化」から改めて説明しようと思います。 この記事を読まれている社会人の方で、上司や同僚から「それまずググってみた?」とフィードバックを…

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Image Credit: Microverse

前編で紹介した出世払い学校「Microverse」や「Lambda School」に代表される新しい教育モデルが登場した背景に、3つのトレンドが挙げられると考えます。具体的には「時代スキルの変化」「カリキュラム革命」「ビジネスモデル変革」の3つ。まずは「時代スキルの変化」から改めて説明しようと思います。

この記事を読まれている社会人の方で、上司や同僚から「それまずググってみた?」とフィードバックをもらった経験がある方は多いのではないでしょうか?

言い換えれば、あらゆる情報が検索して入手できる時代になった現代、大半の業界で日々新しい情報を手にしないと人材価値が保てません。常に情報を自分の中のインサイトとして昇華し、事業に高速で活かすアジャイルな人材が必要とされます。

つまり何かを暗記して引き出せる能力ではなく、日々流れてくる情報の中から必要なものを取捨選択して活かしきる能力が試されているわけです。この点、従来の大学では更新スピードの遅い情報しか載っていない教材しか扱われません。これではアジャイル人材に必要な最新の情報を自ら得るというスキルを獲得できません。

大学4年間の時間を費やして人材育成することを「Overeducate(育て過ぎ)」と揶揄することがありますが、まさにこれに該当します。情報スピードの早い社会に出てから0からアジャイル人材として育て上げる必要があるため、教科書ベースの教育をしても育て過ぎとなってしまいます。

ここから2つ目の「カリキュラム革命」に繋がります。

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Photo by Startup Stock Photos on Pexels.com

大学で使う教材は1年か数年に一度しかアップデートされないものが大半でしょう。しかし日々新しいビジネスアイデアや事業が誕生している現代では教科書の価値が非常に薄らいでいると感じます。たとえば経営学の教科書で不動産市場を一変させたWeWorkや、輸送市場を変革したUberのビジネスモデルを紹介できているものは少ないのではないでしょうか。

そこでインターネット上のコンテンツを編集して1つのカリキュラムにまで落とし込み、新たなコンセプトが登場するたびに更新されるスピードが求められているのです。

この点、新興教育スタートアップは柔軟に対応できるため、時代に即したソリューションを提供できるオペレーションを構築することが可能です。先述したMicroverseも最新のプログラミング・ライブラリー情報を仕入れて、随時カリキュラムをアップデートする体制を整えているはず。AIが加われば、インターネットに落ちる情報をリアルタイムでカリキュラムで反映することも可能となるでしょう。

ビジネスモデルとしての評価

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Image Credit: Microverse

3つ目の「ビジネスモデル変革」を説明するためにMicroverseの事例を再度紹介します。

私も今、参加しているMicroverseのSlackコミュニティのチャンネル履歴をたどると、15-20人/日で新規入会者が挨拶していることから約500-600名/月がSignupしていると予想できます。新学期が始まる2か月間隔で1,000名が登録して、インタビュープロセスを経て合格する計算です。恐らく受かるのは5-10%の最大100名程度でしょう。

80%の80名が卒業するとして、さらに80%がエンジニア職を無事手にすると仮定すると、約60名が授業料を支払えるようになります。100名を抱える1プログラムを運営するに当たり、5名のメンター人が必要であるとさらに仮定。1名あたりの人件費/月を5,000ドルとすると月2.5万ドルのコスト。ここに新規学生を募集するための広告費用5,000ドル/月を足すと月間グロスバーンレートは3万ドルといったところでしょうか。

生徒の月収が授業料徴収が行われる最低月収1,000ドルだとして毎月15%を徴収する場合、月150ドル/生徒を60名から収益化できます。つまり月間収益は9,000ドル。しかしこれでは月間のネットバーンレートは-2.1万ドルの計算で損失しか残りません。より現実的な計算をして、ソフトフェアエンジニアの月収相場感に近い5,000ドルと設定すると月間収益は4.5万ドル。利益が2万ドルを越します。

先行投資は「カリキュラム作成」と「システム開発」、損益分岐点を超えるまでに必要な「人件費」の3つに大きく分解できます。

例えばカリキュラム作成からシステム開発含め、仮に初期投資で30万ドル必要としたとしましょう。高給な職を獲得できる優秀な卒業生の数を増やさないと売上回収できない後払いモデルのため、最初は資本金を削りながらコスト垂れ流しであっても、学生の満足度を最大限に高められるまでプログラムを無料で提供し続ける必要があります。

先述した1プログラム当たりの月間利益2万ドルとした場合、年間利益は24万ドルで、1.5年で初期投資は回収できます。しかし、いきなり100名を集められる立派なプログラムを作れるはずもないため、十分高い質を担保できるプログラムを作れるまで追加で30万ドルの投資と3年の時間が必要としましょう。

すると損益分岐点を超えるまで実質5年ほどはかかりそうな印象です。一度損益分岐点を超えられればプログラムの質を維持できる限り、年間2.4万ドルほどの収益が得られます。小規模ビジネスにしかなりませんが一応成立します。

あくまで仮定の計算ですが、数年でビジネスモデルが成立することがわかりました。「時代スキルの変化」「カリキュラム革命」「ビジネスモデル変革」の3つの観点から市場で成立するのが出世払い学校の仕組みであることがわかります。

3つの課題

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Image Credit: Lambda School

しかし、ビジネスモデルにいくつか懸念点も挙げられます。ここで3つの課題に触れたいと思います。1つは「回収期間」です。

獲得コスト回収期間(Payback Period)も計算してみましょう。就職後に毎月入ってくる定額収益(MRR)は学生一人当たり150ドル。プログラム期間・卒業から就職期間までをそれぞれ6か月と考えると、Payback Period = (500/150ドル) + 6(プログラム期間) + 6(就活期間) = 約15.5か月となります。業界水準として12か月以上の長い回収期間は嫌煙されるためビジネスモデル上の課題となりそうです。

2つ目は「反比例の事業」です。最大のネックは優秀な生徒を輩出しないと職を獲得してもらえないため、むやみやたらと生徒数を増やせない点です。顧客体験に注力すべき事業モデルですが、スケールすることができないジレンマの事業構造が最大の弱点といえます。

この点、授業料支払い可能となる学生比率を表す、「1プログラム当たりの就業人数/卒業学生数」の比率が最優先のKPIとなるはず。母体数が多くなければ就職数も上がりません。一方、質の悪い学生を輩出すれば高給な仕事を獲得できずに利益回収できません。少人数であれば顧客体験の向上が望めますが、卒業数の拡大を取れば顧客体験は劣るといった「反比例の事業」に陥ります。ここは事業スケールの上でチャレンジ要素となるでしょう。

<参考記事>

最後に、この事業自体が「直線的な成長カーブ」しか描けない点に課題があります。仮に立派なプログラムを作れたとしても運営費を先に学校側が負担するモデルである時点で、急激な拡大は望めません。ネットワークエフェクトも考えられたビジネスでもないため、人海戦術でプログラム運営拡大を目指すしかありません。

<参考記事>

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Photo by Jopwell on Pexels.com

ここまで既存の高等教育システム/大学をディスラプト(破壊)するスタートアップを説明してきました。紹介したスタートアップはプログラミング学校であり、ブートキャンプとしての特色が非常に強いですが、今後はリベラルアーツも絡めた、「大学機関」にまで成長する学校も登場すると睨んでいます。

日本では両親が学費を負担するケースも多いことから学生ローンの問題意識は薄いかもしれません。そのため「後払いの日本の専門学校と変わらない」というご意見も持たれる人もいらっしゃるでしょう。ただ、プログラム運営を実現させるオペレーション、ビジネスモデル、顧客対応、サービス価値までの一貫性を考慮した際、従来の大学との大きな違いに気付くはずです。

出世払い学校ではプログラムの種類拡大も望めるでしょうし、後払いであることやカリキュラムがアップデートされる点を踏まえ、誰もが学びに戻ってこれる新たな教育機関の姿が近い将来誕生するでしょう。筆者はこのような、私たちが必ず通る教育の在り方や、貴重な4年という時間を効率化する100年一度の市場変革にとても注目しています。

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いま教育現場で起きている100年に一度の大変革ーーお飾りの“卒業”を打ち壊すスタートアップ(前編)

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教育市場はユーザー体験の観点から考えれば非常に奇妙な構造をしています。 エンドユーザーである「学生」は、プロバイダーとなる「大学」に多額のお金を支払っているにも関わらず、サービス本体である「授業」が休校になれば喜ぶという不思議な関係で結ばれています。言い換えればレストランで食事を注文した際、事前に注文した食事が運ばれてこなくても一切クレームをせずに喜ぶような状態といえるでしょう。 ユーザーとサービ…

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Photo by Suzy Hazelwood on Pexels.com

教育市場はユーザー体験の観点から考えれば非常に奇妙な構造をしています。

エンドユーザーである「学生」は、プロバイダーとなる「大学」に多額のお金を支払っているにも関わらず、サービス本体である「授業」が休校になれば喜ぶという不思議な関係で結ばれています。言い換えればレストランで食事を注文した際、事前に注文した食事が運ばれてこなくても一切クレームをせずに喜ぶような状態といえるでしょう。

ユーザーとサービスプロバイダーの関係がおかしい原因はなぜでしょうか。それは学生の目的設定が誤っている点が挙げられます。

そもそも学生たちの目的は卒業をすること。この目的意識が揺るがないため、授業数を減らして楽に卒業証書を手にすることが近道だと考えています。つまりサービスを提供されない方がユーザーの目的達成には最短手段となるのです。

このような変わった業態を心の底で疑問視する方は大勢いるはずです。なかでも高等教育にあたる大学の存在は議論の的になります。「そもそも10-20代の貴重な時間のうち、4年間も学位取得のための卒業に費やす必要があるのか」と感じる方は少なくないかもしれません。しかし、大学教育は利権の固まりであり、先述した奇妙な構造を守ろうとする力が強く働いているため、学生の目的設定は長く変わらないままです。

本記事ではこうした教育モデルを形作る米国教育市場の事例を紹介しつつ、教育市場を一変させるスタートアップを紹介していきたいと思います。

奇妙な市場構造

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Image Credit: The New York Times

先述した奇妙な市場構造の原因は2つほど挙げられます。1つは政策支援。

米国の大学生数は微増する試算がなされています。毎年10-20万人ほど増え、2025年までには2,100万人ほどに至るとされています。しかし、The New York Timesの記事が紹介する上のグラフでは、2017年度の中流家庭の収入が95年比で20%ほど上がっている一方、教育コストは80%も上昇しています。

市場原理の観点から考えれば、学費が上がれば非義務教育である大学生数は少なくとも微減することが予想されます。たしかに米国の人口は微増傾向にありますが、世帯収益を急速に上回り高騰する教育コストの影響をあまり受けていないのはなぜでしょう。

それは「政府が学生に満遍なく教育を受けさせる政策を採用しているためである」と、授業料出世払いプログラミングスクール「Lambda School」創業者のAusten Allred氏が指摘しています。学生に教育をあまねく受けさせるための手段として政府は学生ローンの貸付を積極的に行っているのです。教育を行き渡らせる聞こえはよいですが、これは次に指摘する2つ目の課題に繋がります。

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Image Credit: Bloomberg

2点目の原因として挙げられるのが学生ローン問題。

Bloombergによると、私立大学関連の学生ローン総額は1.6兆ドルにまで膨らみ、社会問題となっています。学生がローン返済に苦しむ一方、政府の支えをもらった市場は大学にとっては追い風。大学需要は政府が自然と発生させてくれるため、競合校に負けないための設備投資に積極的になれます。この投資コストのしわ寄せが、教育費用を毎年上げている最大の原因です。

事実、上手に示したBloombergによる大学料金のコスト内訳を見ると、4年間で2,000万円 – 3,000万円ほどかかる高級大学では60%前後が授業料ではなく寮費などに費やされています。これは明らかに設備投資の負担を学生が被っている証拠です。

しかし、たとえ教育コストが上昇し続けたとしても、返済問題は学生が卒業してからの出来事であり、問題を先送りにできるので大学は当事者意識を持ちません。学生も就職をしてから返済すればよいと納得してしまっているので、在学中に学生ローンを大きな課題であると認識することは難しい状況です。

こうして、学位がないと職に就けない社会背景、学位取得だけが目的の学生、政府による就学支援が組み合わさり、冒頭で説明した奇妙なユーザーとプロバイダーの関係が生まれ続けています。

最大の問題は卒業した後です。

当たり前ですが仮に学位をもらったところで、仕事が約束されているわけではありません。学生ローンの対価は卒業証書であり、仕事ではありません。つまり大学教育は支払われた学生ローンを返す直接的なサポートをしていないのです。あくまで形骸化した卒業証書のみを対象としています。

ここで学生が直面するのは、入学前・入学中に目的としていた「卒業証書の授与」と、卒業後の目的となる「ローン返済のためになるべく高給な仕事を得る」という2つの目的のギャップです。

卒業後に学生自身の目的設定が卒業に置いていたことを後悔しても後の祭り。仮にローン返済に困ったとしても、それは金融機関と学生の問題であり、政府及び大学は関知しません。言い換えれば、市場需要を後押しする政府、サービス提供者側の大学から卒業と同時に突き放されてしまう構図が出来てしまっているのです。

学生が就職できなかったり、日雇い仕事しか得られない低所得者になったとしても大学には責任がありません。卒業学生には目を向けず、引き続き学生数の受け入れ拡大を狙い、競合に負けないように設備投資を限界まで高るだけ。このしわ寄せがさらに学費に上乗せされる悪循環が続きます。

米国40兆円の巨大市場を変革するソリューション

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Photo by Startup Stock Photos on Pexels.com

ここまでの話を一度簡単にまとめます。

現状の大学教育市場の構造には多大な課題要因があり、政府や教育機関が絡んだ利権に紐づいて動いていることを説明してきました。学生は卒業を目的に大学に通いますが、就職は約束されていないため、大学生活4年間の使い方や高い学生ローンを組んでしまったことを、卒業後に後悔する図式になっています。

この図式を組み立てているのが政府であり大学機関です。政府は学生数を増やすために学生ローンを積極的に推奨。大学はローン提供をする金融機関から収益が得られるため、学生が卒業後にローン返済に苦しんだとしても関知しません。このような流れで大きく歪んだ市場が出来上がります。IBISWorldの市場データによると、米国の大学市場規模は4,870億ドルと非常に巨大です。

先に述べてきた課題を考えれば、ここで論点にすべきは大学を中心とした大学が達成すべき目的と対価を正しく整理させることでしょう。そして、この1-2年で市場を正すための新しい視点を持った教育スタートアップが多数登場しています。その1つが「Microverse」です。

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Image Credit: Microverse

Microverseは著名アクセラレータ「Y Combinator」の2019年夏のプログラムを卒業したブートキャンプ式の教育機関です。ソフトフェアエンジニアを育成するプログラムを運営しています。1プログラムは約6か月で終了します。

ターゲットユーザーはソフトフェアエンジニアになりたいフリーランス人材。授業料は出世払い制で、毎月1,000ドル以上のフリーランス業務を得てから、月収の15%を、合計1.5万ドルに至るまで毎月支払い続ける収益モデルを採用。

Microverse側は学生にしっかりと就職をしてもらい、かつ2年程度は定職を持ってもらわない限り収益化ができないモデルのため、学校側と学生の目的および対価設定が一致する関係性を作り上げました。

先述したような卒業証書の授与という形骸化した目的設定を持ちません。あくまで「就職」と「2年以上の定職」を学生に持たせることがMicroverse側の目的です。ここではお互いの目的が一致しており、ローンを通じた複雑な収益構造も存在しません。授業料の前払いはありませんが、慈善事業ではありません。学生も自分の希望のキャリア職を手にするために入学します。

Microverseのモデルは最近1-2年でトレンドになりつつあります。学生はローン返済などに苦しむ必要がなくなり、学校に通う際に明確な目的意識を持って授業を受けます。学校側は学生を就職させ、事前に契約した授業料を回収するまで学生との関係性は途切れることはありません。そのため、就職できない場合のサポートの充実が鍵となります。入学中から卒業後も続くケアと、カスタマーサクセスが大事になってくる長期サービスがMicroverseのモデルです。

卒業証書を渡すことが目的にならず、ステークホルダーそれぞれがお互いが求めるメリット創出のために動いている構図を作ったのがMicroverseなどの新興教育スタートアップといえます。競合には「Lambda School」や「Juno College」、つい先日日本で立ち上げが発表された「42」、「LABOT」が挙げられるでしょう。

<参考記事>

筆者も試しにMicroverseのコーディング試験に申請をしてみました。Slackでの挨拶が必須なのですが、登録時にSlackで挨拶させてコミュニティの広さや仲間の存在を認知させるのは巧みであると感じました。

Microverseは生徒同士でプロジェクトに取り組み、お互いの成果を評価しあう「P2Pラーニング」をプログラムの基本方針としており、将来のチームメンバーとなるであろう人の顔や雰囲気を伝える通過儀礼として、Slackコミュニティに強制的に参加させる効果はあると感じます。

ちなみにP2Pラーニングは運営コスト削減と、社会で試されるチームワーク力を育成する強力なツールとなるため、高い月収を得られる優秀な生徒を輩出したいMicroverse側にはメリットしかありません。

このように従来の大学に対する価値観を仕組みからひっくり返す教育モデルが登場してきました。この流れは日本でも大きなうねりになり始めています。後編では出世払い学校「Microverse」のビジネスモデルをもう少し詳しく紐解きます。

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「縦と横」に拡大する国内スタートアップ・エコシステム

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近年のテック系スタートアップのエコシステムを考える上で大切な要素として(1)資金(2)人(3)知識、があります。製造業中心だった時代と比較して、資産はソフトウェアが中心であり、人が資金で得た時間を使って新たなサービスを生み出す、といった具合です。 ポイントは知識です。この10年間で起業のエコシステムには様々なフレームワークが生まれました。2012年前後に出たエリック・リース氏の「リーン・スタートア…

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THE SEEDが京都にオープンさせたインキュベーション施設にて

近年のテック系スタートアップのエコシステムを考える上で大切な要素として(1)資金(2)人(3)知識、があります。製造業中心だった時代と比較して、資産はソフトウェアが中心であり、人が資金で得た時間を使って新たなサービスを生み出す、といった具合です。

ポイントは知識です。この10年間で起業のエコシステムには様々なフレームワークが生まれました。2012年前後に出たエリック・リース氏の「リーン・スタートアップ」をはじめとする戦略フレームワークもそうですし、磯崎哲也先生の起業のファイナンスやJ-KISSといった資本政策、Open Network Labが開始した日本版YCスタイルのアクセラレーション・プログラム、リファラル採用やOKRのような採用・組織論などなどなど。

こういったスタートアップに関する知識・経験のフレームワークは、ゼロからスクラッチで起業するよりも格段に生産能力を上げ、確実に参加する起業家の打席回数を増やしています。

この知と経験の共有に大きな役割を果たしているのが投資家・起業家コミュニティです。個人投資家やVC単体での勉強会ももちろん、大型の招待制カンファレンスなど、大小様々なコミュニティがイベントなどを通じて「知の共有」を実施しています。本当に増えました。

  • 特定個人やVC・業界団体に紐づく完全クローズド
  • 応募選考などのフィルタで参加できるセミクローズド
  • メディア主催などのオープン

パターンとしてはおおよそこのような分類ができるのですが、最近になってまた新しいタイプのコミュニティが増えています。キーワードは「縦(レイヤー)」と「横(エリア)」の拡大です。

地域特化のシード支援

昨日、シードに特化したVCの「THE SEED」が京都にインキュベーション拠点を開設したことを発表していました。ファンドを代表する廣澤太紀さんは92年生まれの若手キャピタリストの一人で、狙いは関西のスタートアップ・シーンを作ることです。

現在、京都には京都大学をはじめとする優秀な学生コミュニティがあり、数年前に廣澤さんが起業に興味のある学生を集めるためTwitterで呼び掛けたところ、あっという間に200名近くの学生が集まったそうです。

実は関西には大阪を中心に起業を支援しようという動きはずっとありました。例えば今年で7回目を迎える「Hack Osaka」などもその一つです。大阪市を中心に海外スタートアップコミュニティとの連携を模索した活動で、また大阪市は今年9月にスタートアップ拠点を目指すための官民組織を立ち上げるという発表もしています。

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福岡拠点のF Venturesが開催する「TORYUMON」も学生中心

大阪市がやや行政色が強いのに対し、ボトムアップ型で成功しているのが福岡です。2012年には現地の起業コミュニティイベント「明星和楽(※)」を中心に福岡市と協力して「スタートアップ都市・ふくおか」宣言を公表。その後、小学校跡地にコミュニティスペースのFukuoka Growth Nextを立ち上げ、地方都市におけるスタートアップコミュニティのノード的役割を果たすことに成功しました。

この福岡の地でTHE SEEDよりも先に地域スタートアップ支援を手掛けたのがF Venturesです。代表の両角将太さんも88年生まれの若手キャピタリストの一人で、ちょうど今月は6回目となる学生向けのスタートアップイベント「TORYUMON」を開催していました。地域におけるシード投資家主導のボトムアップイベントではモデルケースになりつつあります。

この活動が成功するかどうかは際立った事例がでるかどうかにかかっています。例えば福岡は孫正義さん・泰蔵さん兄弟をはじめとするビッグネームから家入一真さんのようなお兄さん起業家、地元に根ざして世界を目指すヌーラボの橋本正徳さんなど、バイネームを多く輩出しています。廣澤さんも京都でこのような際立った事例を生み出せればとお話していました。

若手のゆるやかな共同戦線

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複数の若手VC支援先をベテラン勢がメンタリング(提供:Startup Investor Track)

エリアを「横つながり」の拡大とみるならば、「縦のつながり」は年代やレイヤーによって表現できます。先日、都内で開催されていた投資家グループによるスタートアップのマッチングイベントはやや変わった趣向のものでした。主催したのは「Startup Investor Track(SIT)」という投資家の任意団体です。

<参考記事>

集まった投資家は独立系VCや、事業会社のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の代表クラスで、ここに複数の若手VCが数社集まってその支援先を紹介する、という内容でした。一度に複数VC同士が絡み合って支援先を共有できるので効率がよく、実際、とあるVCでは数社気になるスタートアップと出会えたそうです。

なんとなくありそうな集まりに見えて、通常、こういった投資家向けの支援先紹介イベントは特定VC主催のものが多く、単独で実施するケースがほとんどです。当たり前ですが、自社で投資している支援先「以外」のスタートアップを懇意にしているVCに紹介する必要はないわけです。

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非公開で実施される投資家向けのピッチ

囲い込みではなく、ゆるやかにオープンな共同戦線が張られているようになった背景に「年代」があります。実はスタートアップ投資の現場では年代は結構重要な要素で、例えば学生起業をする人には、同じ目線を持った同年代のキャピタリストの方が相性がよい、という傾向があります。前述したTHE SEEDやF Venturesもそうですが、こういった若手のVCが増えることで起業ルーキーの層が厚くなり、それを支援するベテラン投資家たち、という構図が生まれつつあるのです。

また、前述したTHE SEEDの廣澤さんもこの会に参加していて、若手を中心にとある意識の変化があると教えてくれました。それがゆるやかな合従連衡の考え方です。

国内でスタートアップ投資が始まった2010年代初頭と異なり、今はもう先行している事業が大きく成長している時代に入っています。この競争環境にあって支援先が勝ち抜くためには、単独での事業拡大はもちろんながら、売・買収といった合従連衡は避けられない状況にあるのです。

欧米で日常的に発生している人材買収(Acq-hire)がよい例で、こういった未来を考えた時、囲い込みよりも最終的に自分たちの年代で大きな成功者が生まれることの方に魅力を感じる、としていた廣澤さんの考え方はひとつの正解に思えます。

日本にスタートアップ・ブームが発生して約10年、エコシステムは随分と成長をしました。非製造業で1ラウンド・100億円を集める未公開企業も生まれ、上場後に1000億円の評価を市場から受ける例も出てきています。エコシステムの成長はあまり表立ったものではありませんが、確実に進化し、これらの結果を下支えしているのです。

※情報開示:筆者は明星和楽のイベント企画に関わった一人です。現在は現地コミュニティにて運営されており関係性は薄くなっていますが、念の為開示しておきます。

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第三極の鍵は「モバイルコマース」、3倍成長する東南アジア市場を紐解く【Repro調べ】

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今月、国内・アジアで存在感を示す「ヤフーとLINEの連携」という大きなニュースがありました。特に会見で示された「GAFA・BATに対抗する第三極」という言葉は大きく、今後、中国を除く東・東南アジアでの市場に少なからず影響が出てくると思われます。 この波及効果については各所で議論が始まっていることと思いますが、本稿では特に東南アジアで勢いが増しているモバイルコマースの状況について共有したいと思います…

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Photo by Timo Volz on Pexels.com

今月、国内・アジアで存在感を示す「ヤフーとLINEの連携」という大きなニュースがありました。特に会見で示された「GAFA・BATに対抗する第三極」という言葉は大きく、今後、中国を除く東・東南アジアでの市場に少なからず影響が出てくると思われます。

この波及効果については各所で議論が始まっていることと思いますが、本稿では特に東南アジアで勢いが増しているモバイルコマースの状況について共有したいと思います。

なお、本稿で言及しているデータや実績などは現在、私たちが展開するモバイル・マーケティングプラットフォーム「Repro」を展開する上で入手した情報に基づきます。現在、東南アジアにも展開地域を拡大しています。

東南アジアで急成長する「M-commerce」とは

まず、大前提として東南アジアでは、2017から2018年の間にモバイルショッピングアプリの使用が3倍以上になり、モバイルアプリの使用者数が28%成長で伸びている、という状況があります(Media OutReachの調査データより)。

このカテゴリを指し示す「M-commerce」とは、Mobile-commerce(モバイルコマース)を短縮した言葉で、モバイルデバイスで使用したお金の取引全てを指します。E-commerceの進歩であり、スマートフォンやタブレットデバイスを使用するだけで、ほぼどこからでも商品やサービスを売買できるという環境の変化に後押しされて生まれたカテゴリです。

拡大した要因としてまず第一に、接続環境が整ったことが挙げられます。現在、世界人口の90%が3G以上のネットワークを使用してインターネットに接続できますが、既に東南アジアの大半の国の首都圏では4G/LTEが当たり前です。次にモバイルユーザーの購買行動が変わるサービスが増え続けていることも拡大の後押しになっています。具体的にはいくつかのトピックを掲載します。

  • 非接触型ペイメントとアプリ内課金環境
  • 店舗などでのオフライン活用
  • ロケーションベース

では、それぞれをもう少し詳しく紐解いてみたいと思います。

非接触型ペイメントとアプリ内課金環境

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Photo by PhotoMIX Ltd. on Pexels.com

これにより事業者は、モバイルデバイスに寄り添った決済方法を提供できるようになりました。「現金またはカード」に比べ優れているというよりもモバイルデバイスでの購買体験をスムースにするというようなニュアンスだと捉えてください。

例えば、モバイルウォレットを使用すると、クレジットカードの詳細や配送先住所などを保存でき、オンライン購入時に、情報を再度入力する必要がないというようなメリットがあります。これは、スマートフォンで個人情報を入力する煩わしさを排除できます。

日本だとiOSのアプリ内課金を使ったことがある方も多いのではないでしょうか。あの1つの動作で購入が完結する体験が様々なプラットフォームで提供されているとイメージしてください。ちなみに今年のPwC Singaporeの調査では、このアプリ内課金は例えばタイで67%に、マレーシアでは17%から40%に増加、フィリピンでは14%から45%に利用率が増加してます。

日本でもおなじみのデジタルコンテンツも伸びています。例えば、タイには東南アジアで最大のE-Book Store「Ookbee」があります。彼らは主に、モバイルウェブをベースに市場を伸ばしてきましたが、モバイルアプリが重要なチャネルになってきております。

これはユーザが当たり前のようにモバイルアプリで定期購入しているという状況が背景にあり、結果、タイのコマース市場は2025年までに現状の4倍になると言われています。今後デジタルコンテンツのモバイル最適化は加速度的に進むはずです。

店舗などでのオフライン活用

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Image Credit : Gojek Food

ここまではラップトップでもできることなのですが、やはりモバイルの真骨頂はオフラインにあります。OPPOやXiaomi、VIVOは200米ドル程度でスペックの高いデバイスを提供しています。東南アジアで伸びているのはこの価格帯のデバイスです。

例えばNFC搭載端末で可能な非接触モバイル決済は、店舗で行われる支払いに使われています。デビットカードやクレジットカードを利用する代わりにレジ横に置いてある端末の近くにスマホをかざして支払いができる、日本でもよく見るあの光景ですね。

Apple PayやGoogle Pay、Samsung Pay辺りが代表的で、例えば銀行などローカルの事業者が普及の下支えをしていたりします。

また似たようなオフライン利用としてQRコードを利用したチケットがあります。例えば、空港にチェックインする際に、ひと昔前は紙を印刷してカウンターに持ってきている人をよく見ましたが今はほとんどいません。オンラインでチェックインを済ませ、スマホの画面に映るバーコードで荷物を預けます。

ロケーションベース

位置情報を使ったサービスです。

東南アジアの街を歩くと色々な国で、デリバリーのバイクが走っているのを目にします。代表的なところはGojekやGrabですが、滞在している私の周りを見渡すと実にシンガポールだけで十以上のフードデリバリーサービスが存在してます。これは全てモバイルアプリでサービスを完結させ、もちろん決済もモバイルで完了させます。

このようにロケーションをベースにモバイルでサービス提供を完結させるのはフードデリバリーだけでなくシェアリングスクーターやシェアバイク、シェア傘、配車など様々なサービスに拡大しています。

クーポンなどを使ったマーケティングも同様で、プッシュ通知やSMS、メールでクーポンが届くような体験が当たり前になってます。例えばインドネシアでラマダン(断食)が明ける時間になると、近くのお店から「ラマダン明けですぐにお店でご飯が食べられるよ」というメッセージを送る、みたいな体験です。

日本で実施しているような施策が東南アジアでもしっかりと通用する環境になっているのです。

いかがだったでしょうか。

CBREの予測によると、M-commerceの売上は、2021年までにすべてのE-commerceの売上の53.9%を占めることになるそうです。

特に東南アジアはラップトップを知らない、遅いインターネットを知らない世代が消費者のメインとなる市場なのです。モバイル決済は確かに不便な時代がありました。しかしそんな体験をしたことのない世代は何一つ恐れなくモバイルで購買します。それが当たり前なのです。東南アジアだけでなく、インドや中国でもM-commerceが爆速的に伸びてます。

今後はセキュリテイや信頼、サイトやAppの速度・チェックアウトの体験向上といったポイントがテーマになってくると思われます。今回は一旦ここまでということで。

<参考情報>

本稿はweb・モバイルアプリ向けのCE(カスタマエンゲージメント)モバイルマーケティングプラットフォーム「Repro」のシンガポール子会社、Repro Singapore、Tsubasa Sasakiによるもの。Twitterアカウントは@tsubasasa2。彼らの事業や採用に興味がある方、彼らとの取り組みを希望する企業はこちらからコンタクトされたい

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なぜInstagramの従業員第1号はコミュニティマネージャーだったのか?

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ピックアップ: How Kevin Systrom Created Instagram Instagramの従業員第1号がエンジニアではなく、コミュニティマネージャーであった話は界隈では有名な話です。従来、シリコンバレーのテック企業はエンジニアを積極的に初期から雇い、製品開発を進める傾向にあると思われますが、Instagramはユーザーコミュニティを初期から重視しました。それはなぜでしょう? ピッ…

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Photo by Milly Eaton on Pexels.com

ピックアップ: How Kevin Systrom Created Instagram

Instagramの従業員第1号がエンジニアではなく、コミュニティマネージャーであった話は界隈では有名な話です。従来、シリコンバレーのテック企業はエンジニアを積極的に初期から雇い、製品開発を進める傾向にあると思われますが、Instagramはユーザーコミュニティを初期から重視しました。それはなぜでしょう?

ピックアップ記事内にて、創業者のKevin Systrom氏は「コミュニティは最大の資産であり、彼らが抱える問題リストTop10を把握できていないのであれば、自分たちに何らかの問題がある」と言及するほど創業初期からユーザー視点を最重要視していました。あらゆる意思決定を下すために当初からユーザーコミュニティを理解する必要があったのです。

もう少しInstagramのコミュニティマネージャー採用理由を深掘るため、サービス誕生の変遷を説明しながらその理由を紐解いていきたいと思います。

“居場所”を味方にして得た50万ドル

access application business cellphone
Photo by Peter Cors on Pexels.com

2009年、Systrom氏は後にFacebookに買収された旅行情報サイト「Nextstop.com」のプロダクトマネージャーとして働いていました。ちゃんとしたプログラミングの勉強をしたことがなかったため、仕事帰りの夜中と週末にコーディングをして基礎を学びます。

同年末頃、位置情報アプリ「Foursquare」が大ヒットの兆しを見せはじめたことから、FoursquareとZyngaがリリースしたゲーム「Mafia Wars」を組み合わせたサービスアイデアを考案。HTML5で早速プロトタイプを作り、友人に見せ続けます。フィードバックをもらいつつ残ったアプリ機能が「写真投稿」「チェックイン」「友人と出かけるとポイントを稼げる」の3つ。ちなみにこの時点での製品名は「Burbn」。

ここでシリコンバレーの「運」にSystrom氏は救われます。ebayに買収された商品レコメンド技術「Hunch」のカクテルパーティーで著名VC「Baseline Ventures」と「Andreessen Horowitz」と出会います。そして後のコーヒーミーティングで50万ドルの投資を獲得。

資金調達後にNextstopを退職し、起業家としての道を歩みはじめたのが2010年3月。プロトタイプ発明から半年弱の出来事です。まさに最近日本で出版された著書『成功する起業家は「居場所」を選ぶ』で指摘されている、「運」を自らの居る環境によってたぐり寄せたのがSystrom氏でした。

正しい問いを見つける

android phone app blur business
Photo by Tofros.com on Pexels.com

資金調達直後に共同創業者となるMike Krieger氏を迎えます。スタンフォード大学のプログラムで班分けペアーを組んだことをきっかけに誘った若干25歳のエンジニアでした。Systrom氏は同氏のことを、非常に温厚で自己犠牲をいとわず、UXデザインの視点も持った人材であると称しています。共同創業者二人で製品開発に必要なエンジニアリングとデザインのスキルを補い合える質の高いコンビネーションだったといえるでしょう。

創業者が揃ってからすぐに大きな意思決定の時期を迎えます。Burbnの機能に満足がいかなかったことから、一度製品をスラクップにして0からアプリを再開発する戦略的決定を下したのです。しかし1つだけ残した機能がありました。それが「写真」。

写真にサービス機能を絞った理由は下記3つ挙げられます。Burbn開発で得た知見をもとに当時のスマホユーザーが抱える問題をあぶりだしたのです。

  1. 当時のスマホはデジタルカメラより劣る画質
  2. アップロード時間が長い
  3. ユーザーはSNSに撮影した写真を共有したい

Burbnのコア機能であるチェックインと比べて、写真投稿がしばしば使われていることが分かり、以上3つの課題仮説を立てます。

1つ目の課題を解決するためにまずは11種類のフィルターを公開。自由にユーザーが写真をお洒落にアレンジできる解決策を編み出します。2つ目の課題に対してはハック的な手法で対応。ユーザーが写真をアップロードするまでに相当な時間を要したため、ユーザーが位置情報や写真の説明文を入力している間にアップロードを完成させる手順でユーザーに不快感を極力与えさせない工夫を施しました。

コミュニティを最重要理念に掲げる

group of people enjoying music concert
Photo by Leah Kelley on Pexels.com

ユーザーが求める機能を実装できてから、製品名をBurbnから“instant”と“telegram”をかけわせた「Instagram」へと変更。ユーザー同士が写真を共有してコメントできるMVPを作り上げます。

AppStoreにリリースされたInstagramには合計8週間ほどしか開発工数がかけられていないといいます。すでに完成していた機能を削るだけのことなので、この短さにはあまり驚かないかもしれませんが、この賭けが成功してリリース直後数時間で1万ユーザー獲得、初日だけで2.5万ユーザー獲得に至ります。

改めて話を戻します。ここまで急成長できた理由にはコミュニティを創業初期から重要視していた点が挙げられるでしょう。Instagramは当初から「instameet」と呼ばれるミートアップを開くほどコミュニティを重視していました。

まだ製品がBurbnの頃、2010年3月に最初に雇用したのがコミュニティマネージャーのJosh Riedel氏でした。元々はSystrom氏と同じNextstopで働いていたコミュニティマネージャーです。

彼が雇われた理由には2通りの答えがあります。1つはチームリソースの問題。当時はSystrom氏とKrieger氏が手動でユーザー名を登録していたため、エンジニアリングチームが常に管理画面をいじる必要があったのです。ユーザーと直接対話する機会を失わないために雇ったのがRiedel氏と伝えられています。

そしてもう1つの理由がコミュニティ戦略。大きく分けると下記3つに表すことができます。

  1. ブランドアンバサダー獲得
  2. Ahaモーメントの創出
  3. ネットワークエフェクト構築

初期コミュニティマネージャーの役割

app contemporary dark design
Photo by Pixabay on Pexels.com

順に説明していきます。まずはアンバサダー獲得に関して。創業者のSystrom氏はとにかくコアユーザーとなってくれそうな人に当たりながらアンバサダーとなってもらえるように口説いていたと言われています。これはプロダクトを急成長するために必要な仕込みであったと考えられます。

アンバサダー獲得には1つの心得が必要でした。それは非常に粗い製品であっても、最低限検証したい機能を備えたプロトタイプであれば良しとみなし、とにかくユーザーの声を聴き続けたのです。

アンバサダー戦略はInstagramへと変貌を遂げた際に真価を発揮します。各SNSへ画像シェアしたいニーズを持つユーザーにとって、Instagram内だけで完結する体験では満足しません。外部SNSで得られる他ユーザーからのリアクションも必要になります。そこでInstagram以外の既存SNSアカウントを持つアンバサダー同士が繋がることで、ユーザー体験がInstagramの外にまで拡張されます。たとえば新規InstagramユーザーがTwitterへ写真投稿した際、すぐにTwitter上でもリアクションをもらえる導線を用意したのです。

こういったユーザーの声を聴き続ける活動には共同創業者2人だけでは限界があるため、コミュニティマネージャーを雇った理由にもなっています。

2つ目はAhaモーメントに関して。これはバイラルループと大きく関わってきます。Instagramの初期80番台のユーザーによれば、初めて写真を投稿した直後に3名からコメントが返ってきたといいます。そしてコメントをくれたユーザーの写真投稿を閲覧・リアクションを返すループが完成。

たった100名にも満たないテスト版であるにも関わらず、すでに小さくとも強固なバイラルが誕生していた点は、ユーザーが即座に製品価値を理解へと繋がります。

写真を投稿した直後に見知らぬ人からリアクションが来るAhaモーメントの仕組みを初期から確立させた点は秀逸です。こうしたAhaモーメントは「Moment of Truth」とも呼ばれます。

たとえばAirbnbはユーザーがホスト宅の玄関を開けた瞬間に「Moment of Truth」を設定。ウェブサイトで見た写真と、実際に見るホスト宅の雰囲気が目の前で同期される瞬間。この瞬間にユーザーの期待値を越えることができれば、ユーザーを長くプロダクトの虜にできますし、サービス提供価値を理解したコアユーザーになる可能性が非常に高くなります。

InstagramはこのMoment of Truthの設定を「写真投稿直後のリアクション」に置いていたと思われます。この点、前述したアンバサダーが一役買います。コアユーザーである彼らが積極的にリアクションを返すことで、初期ユーザーを自然とバイラルループへと巻き込ませる仕組みを完成させていたのです。

コミュニティマネージャーはMoment of Truthをユーザーに浸透させ、非連続的な急成長スピード感でユーザー数を爆発的に伸ばすためにシリコンバレーを駆け回ったと思われます。単にランダムに声をかけてユーザーを囲うのではなく、Ahaモーメントを感じさせるという自分たちの期待する結果を念頭に働いていたはずでしょう。

最後のネットワークエフェクトはこうした努力の上でもたらされる結果論であるといえます。熱量を持ったユーザーが集まるP2Pネットワークが構築されれば、App Store上で高い評価を付けてくれる可能性が上がります。こうしてリリース直後からTop10に居座り続けて成長をし続けました。加えて、ネットワークを爆発的に成長させるインフルエンサー獲得もInstagramリリース前に着手していた点が製品開発の基礎となっています。

アンフェア・アドバンテージ + 期待行動目標

person holding smartphone taking picture of bridge during daytime
Photo by Jeremy Levin on Pexels.com

ここまでInstagram創成期におけるコミュニティマネージャーの役割や雇用理由を考察してきました。話を一度まとめまると要点は3つに集約します。

  • コミュニティ形成はアンバサダー獲得が肝
  • 新規ユーザーにAhaモーメントを提供する人材がアンバサダー
  • Instagram内から外部SNS投稿に至るまでのバイラル体験を強化

当初からコミュニティを成長軸に考えていたInstagramにとっては共同創業者がエンジニアであった以上、コミュニティ担当を最初に迎え入れるのは必然であったかと思われます。

最後に説明しておかなくてはいならないのはRiedel氏が持っていたアドバンテージに関して。

Riedel氏はNextstopで働いている間に培ったユーザー候補ネットワークを持っていました。同氏の持つネットワークは他の人にはなかった「不公平なアドバンテージ(Unfair Advantage)」と呼べるでしょう。この強みを明確な目的設定(ユーザーに求める期待行動)で最大限レバレッジさせることで爆発的な成長を遂げ、現在のInstagramがあると思われます。また、数百万ユーザーを抱えても10名前後の従業員しか雇わなかったInstagramの厳格な採用基準も非連続的な成長に貢献したでしょう。

さて、巷では製品開発を高速でできるエンジニア人材が創業者になるべきであると言われていますが、逆に言えば早くからコミュニティ形成ができなければ2C製品は成長が成り立たないという教訓にもなるかもしれません。もちろん必ずしも全ての製品に当てはまるわけではありませんが。

老若男女が使う写真投稿プラットフォーム「Instagram」の製品初期の背景を紐解くことで、次なる大ヒットSNSを誕生させる黄金律が見つかるかもしれません。より詳しい創業話を知りたい場合はこちらの記事や、スタンフォード大学での講演動画をご覧ください。

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