インタビュー

YJCとLINE V合併、新生「Z Venture Capital」誕生ーー堀代表に聞く“300億円新ファンド”と投資戦略

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Zホールディングス(以下、ZHD)の連結子会社で事業投資を手がけるYJキャピタルは4月1日、LINE Venturesと合併し、Z Venture Capital(以下、ZVC)としての事業を開始すると発表した。3月1日に両社の親会社であるZHDとLINEの経営統合が完了したことを受けたもので、YJキャピタルを承継会社とし、商号を変更した上で両社が保有していたコーポレートベンチャーキャピタルとして…

Z Venture Capital代表取締役の堀新⼀郎氏

Zホールディングス(以下、ZHD)の連結子会社で事業投資を手がけるYJキャピタルは4月1日、LINE Venturesと合併し、Z Venture Capital(以下、ZVC)としての事業を開始すると発表した。3月1日に両社の親会社であるZHDとLINEの経営統合が完了したことを受けたもので、YJキャピタルを承継会社とし、商号を変更した上で両社が保有していたコーポレートベンチャーキャピタルとしての投資機能を統合する。

またこれに伴いZVCの日本および韓国・米国・中国・東南アジアなどのグローバル投資ファンドとして新たに300億円の新ファンド「ZVC1号投資事業組合」の組成も公表した。代表取締役には旧YJキャピタル代表の堀新⼀郎氏が就任し、取締役会長に旧LINE Ventures代表取締役の黄仁埈(ファン インジュン)氏、取締役には旧YJキャピタル取締役の都虎吉(ドー ホーギル)氏、Zホールディングス執行役員の崔 ボラ(チェ ボラ)氏がそれぞれ就任する。

本誌では改めて代表に就任した堀氏に、統合後の投資戦略を聞いた。(以下、太字の質問は全て筆者。回答は堀氏)

統合で何が変わる

さて、統合で何が起こるのだろうか。堀氏はポイントを3つに整理して説明してくれた。

ーー統合で発生する変化は

堀氏:今までYJキャピタルは親会社であるヤフーのためにこのファンドのパフォーマンスリターンとしてキャピタルゲインとシナジー創出することに対してみんな一生懸命仕事してきました。LINE Venturesも同様です。LINEのためにやってきた。

今後、我々にとってのステークホルダーは(統合した)ZHDです。ここにはアスクルや一休、ZOZOといったグループ企業がたくさんあります。このグループ全体に対するシナジー創出をしてくことになる、という点が大きな相違点になるかなと考えています。

次にチームです。今まではYJキャピタル10名、LINE Ventures7名でそれぞれ別々に動いていたわけですが、これが総勢17名となり、東京、北京、ソウル、サンフランシスコの4拠点という構成に変わります。自然と対象になる国もYJキャピタルからするとグローバルを強化できたとなりますし、LINE Venturesからすればこれまでのグローバル投資に加えて日本への注力も可能になります。つまりチームの拡大によって投資エリアが拡大したこと、これが大きな変化です。最後がファンドの新設です。300億円で新設し、日本国内と海外に対して出資します。

ーーファンドの出資金は

堀氏:出資元母体はZHDとなります。

ーー国内のCVCで300億円というサイズはトップクラスだが、海外を含めてとなるとやや小さく感じる

堀氏:検討の詳細はノーコメントでお願いしますが、ここでしっかり結果を出して次にステップしたい、とさせてください。

日本とグローバルを1つのファンドで攻める

ではもう少し話を進めて具体的な投資戦略について聞いてみることにしよう。筆者は以前、堀氏にYJCとしての投資パフォーマンスの考え方を聞いたことがあるのだが、CVCでありながらシナジーだけでなくキャピタルゲインもしっかり狙う「二兎を追う」考え方と話していた。

投資領域についてZVCは「ZHDの中核事業であるコマース、メディア、フィンテックの3領域に加えて、ヘルスケア、サイバーセキュリティ、B2B ソフトウエア領域などにも積極投資を行う」としている。ステージはシードからレイターまで未公開企業のオールステージでここはこれまでと変わらない。

YJキャピタル時代から変化するのが海外投資だ。これまでにYJキャピタルはEast Ventures、Sinar Mas Digital Venturesと共同で東南アジアにフォーカスした2億5,000万米ドルのファンド「EV Growth」を2018年に設立しているが、LINE Venturesと統合することで主体的に取り組むことになった。エリアは韓国、米国、中国、東南アジアで、テーマはAI、ロボティクス、ブロックチェーンを含むディープテック領域としている。

では堀氏への質問に戻ろう。

ーーYJキャピタル視点で海外が新たな局面を迎えることになる

堀氏:LINE Venturesは2014年からファンドを2つ(※グローバルとジャパン)運用していまして、グローバル投資が100億円、日本投資が50億円というサイズでした。確かにチームメンバー含めグローバルへのフォーカスが強く、一方のYJキャピタルは国内が強かったと思います。投資戦略としてまずこの新設した300億円のファンドを中心にワンチーム経営に移ります。国内・海外でファンドを分けません。これが大きな挑戦だと思ってます。一方、ソーシングなどのチームはジャパンとグローバルで分かれます。

ーー海外と国内、新たな領域、複雑な投資戦略の舵取りをどう整理する

堀氏:基本的な考え方はZHDと将来シナジーがありそうな領域に対してキャピタルゲインを狙いながら、かつ、シナジーを考えた出資をしていくことになります。ただエリア毎に若干戦略は変わると思います。

まず日本についてはオールステージで、Code Republicを通じたシード投資からレイターまで全部をサポートします。フォーカスするセクターもYJキャピタルとしてやってきたメディア・フィンテック・コマース3領域に加え、LINEグループが入ってくることによってヘルスケア領域への注力が増えます。また、ZHDの統合により、アジアナンバーワンのテックカンパニーを目指すという方向性が示されてます。我々もですね、このAIによって世の中を変えていくという部分を注目しているので、AIオリエンテッドな企業にはこれまで以上に積極投資していく考えですね。

それと2社が合体することで親会社同士の大きなシナジーが生まれるのが広告事業です。これまでB2Cの企業であると考えられていた我々にとって、法人領域、つまりB2B SaaSについても一定以上の活動を仕掛けていくというのが日本に関する投資戦略になります。

ーー海外は

堀氏:次に海外なんですが、これは国にもよりますが、国内に比べて競争が非常に激しい。ですので、我々の強みとしてグループ企業が持っているデータやサービス基盤を軸に、ディープテック領域やサイバーセキュリティなど、これらの資産を活用して新しい市場を創造できるような、そういった企業に出資していくことになります。ここは将来の事業開発という意味も込めて比較的アーリーステージへの投資が中心になるはずです。

ーーEV Growthの設立やZHDのアジアフォーカス、そしてご自身もベトナムでの赴任経験など「アジア色」を強く感じる

堀氏:はい、東南アジアが重要になると考えています。LINEはタイや台湾、インドネシアなどで一定のユーザーがいますが、我々としてもグローバル投資における一番注目しているマーケットが東南アジアなんです。これら地域には既にLINEが持っているエコシステムがありますから、それを強化するような投資が考えられます。例えばエンターテインメントやデリバリー、PayPayのノウハウなどそういったものを活かせる領域があるはずなので、本体サービスの連携を含めた、現地スタートアップと垂直立ち上げできるようなチャンスがあれば積極的にいきたいですね。

シナジーへの取り組み

YJキャピタル時代に始まった完全クローズドの協業イベント「Zピッチ」

統合によるワンチーム・ワンファンドへの移行、そして投資エリアの拡大と領域の広がりについて堀氏に聞いた。最後はシナジーについてだ。これまでもYJキャピタルとヤフーでは、マイノリティ出資をきっかけにグループ入りするdelyのような連携ケースがあった。

リリースによれば今回統合したZHDグループは国内で200を超えるサービスを提供し、従業員数2万3,000人を誇るインターネットサービスグループになるそうだ。特にLINEは国内のみならずタイや台湾、インドネシアでも利用が進んでいる。ZVCはこれらのサービスエコシステムに対し、事業提携機会の創出やノウハウ共有、プロダクトの導入支援、海外展開支援などを通じて出資先をより具体的に連結させる動きをするとしている。

Yahoo!やLINEという巨大エコシステムと出資先をどう結び付け、事業拡大に寄与するのか。

ーー本体投資とZVCの連携について。そもそも投資事業はどう棲み分けする

堀氏:棲み分けは明確にあって、マジョリティ投資はZHD、マイノリティーはZVCです。出資先とグループの協業・連携はもちろん継続で、Yahoo!と連携したdelyやスタンバイのようにZVCの支援先とグループ企業が一緒になって事業開発していく。これは我々の使命だと思っているので、今後はそれをどれだけ増やせるかということを頑張っていきます。

ーーYJキャピタルは本体事業との連携に積極的だった印象があるが、LINE Venturesは私の取材範囲の限りでは、そこまで大きくスタートアップ育成やシナジー活動を聞いてこなかった。育成や協業支援という観点で意見の相違やハードルはあったのでは

堀氏:カルチャーの違いは当然ありました。だからミッション・ビジョン・バリューなどを作る際にもかなり議論はしましたね。まあ半年ぐらいは試行錯誤は続くと思うんですが、それ以上に一緒に組むことでできることが増える。期待というか、本当に興奮している状況ですね。

例えばこれまでYJキャピタルでは西海岸や中国にスタッフがいなかったわけです。だからこの地区のスタートアップどうなってるんだろうとか、アメリカの状況知りたくても、実は知り合いづてに聞いたりしてたんですね。それが現地にいるわけです。これだけでも物凄いプラスです。で、先日、delyの堀江(裕介・代表取締役)さんが「参謀部屋」っていうのを作っていましてですね、彼が中国のこの企業どうなってるんですか、韓国の、インドの、アメリカのってバンバン聞いてくるんですよ。今は韓国にも中国にも4月からはアメリカのメンバーも増えるので本当に手応えを感じてますね。

ーー確かに現地情報はこれまでになかった恩恵だ。もう一点、グループシナジー創出のために協業イベントを開催していたがあれは継続するのか

堀氏:はい、Zピッチは支援先の登壇企業との提携・協業が中心だったんですけど、そのスピンオフをソフトバンクと一緒にやったんです。事業部長ではなく呼んだのは営業マンで、500人ぐらい集まりました。彼らは法人営業のプロダクトを探していて、そこに対してスタートアップを紹介したわけです。今、バンバン商談決まってます。

ーーCVCとしての投資戦略だけでなく、本体連動がより明確になった印象がある

堀氏:エコシステムへのアクセスを提供するっていう表現を使ってます。LINEだったりYahoo! ショッピングだったり、スタートアップのみなさんが組むことで事業が大きくなるのであれば、そこへのアクセスを提供するし、事業責任者だったり、社長だったりとの商談をセッティングします。我々はアジアで一番大きなインターネット・カンパニーになるので、このリソース・アセットを存分に使ってくださいと。このエコシステムの「入口」まで我々がご案内しますよ、というのが伝えたいことです。

ありがとうございました。

堀氏との会話で、特に海外のトレンド、特に情報が閉じがちになる中国やアジア圏の情報が容易に手に入るのは大きなメリットと感じた。国内はある程度盤石なZHDに与えられた使命はアジア圏における存在感の拡大にある。ユニコーン(未上場企業で10億ドル以上評価)輩出数でアメリカに続く中国・インドといったアジア各国に対抗するためにはマザーズ上場組を含め、シードから成長期に入るスタートアップ企業を底上げする必要がある。そのためにも内需はもちろん、市場として周辺各国での展開を選択肢に入れられるかどうかは大きい。

ZHD本体はAI関連を中心に今後、5年間で5,000億円の戦略投資を公表している。なので、どうしても300億円というサイズに小さい印象が付き纏ってしまうが、堀氏の言う通りステップバイステップで拡大させていくのだろう。ZVCがシードからマザーズ上場クラスまでの発掘・育成を担うことができれば、ZHDの戦略投資におけるシナジー効果は自ずから明らかになっていくだろう。

5Gで警備人材不足の解消へ、鍵は警備ロボの「視力向上」ー三井不動産とSEQSENSEが実証実験

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 KDDIと三井不動産、無人警備ロボット「SQ-2」を展開するSEQSENSE(シークセンス)の三社は2021年3月16日、事業共創の取り組みとして5G通信とロボットを活用した警備の省人化に関す…

写真左から:SEQSENSE事業部マネージャーの笹井仁氏、代表取締役社長の中村壮一郎氏、三井不動産商業施設本部 施設管理部統括の添田実氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

KDDIと三井不動産、無人警備ロボット「SQ-2」を展開するSEQSENSE(シークセンス)の三社は2021年3月16日、事業共創の取り組みとして5G通信とロボットを活用した警備の省人化に関する実証実験を完了しました。埼玉県富士見市にある商業施設「三井ショッピングパーク ららぽーと富士見」にて実施されたもので、本来人が目視で確認する商業施設内の異常を、SQ-2の自律走行警備にて細部にわたり確認できるかを検証しています。

事業共創プログラム「∞(ムゲン)の翼」のプロジェクトとして実施されたもので、KDDIは館内に5G環境構築と機器を提供し、三井不動産とSEQSENSEが中心となって商業施設における警備省人化に必要な検証データや各種フィードバックを取得しています。

今回の取り組みについて、三井不動産の添田実氏と、SEQSENSE代表取締役社長の中村壮一郎氏、事業部マネージャーの笹井仁氏にお話を聞きました。

施設における警備の課題

今回の実証実験に投入されたSEQSENSEのSQ-2は、これまでにもオフィスビルの自律走行型警備ロボットとして実績を積んできた筐体で、今年2月には東京都庁でも導入実験を実施、予め決められたルートの自律巡回や指定場所の写真撮影、ロボットに搭載されているカメラ映像のリアルタイム監視などを検証しています。全高約1,3メートル、重さは65キログラムの筐体で、大手町ビルヂングや成田空港第三ターミナルへの導入実績があります。

「警備に限らず施設の管理業務全般に言えることですが、求職者が非常に少なく、この5年くらいは人手不足が顕著になってきました。一方で商業施設事業として成り立たせるためには、管理コストの上昇も抑えていく必要があります。そういった状況の中で安全安心を提供し続ける品質維持が、非常に大きなミッションになっています」(添田さん)。

警備の仕事はさまざまありますが、基本となる内部巡回では、不審な人がいないか、防災設備に問題がないかなどを目視で確認し、問題を未然に防いでいます。さらに商業施設では、迷子の対応や交通誘導、落とし物の受付など幅広い仕事が発生します。広大な商業施設の巡回は館内を歩いて回る必要があり、時間を要する仕事です。SQ-2がこの部分を代替してくれることで、ロボットが巡回している間に落とし物台帳登録などの事務処理を済ませるといったマルチタスク処理が可能になる、というわけです。

「SQ-2は自律走行の精度が高く、館内くまなく巡回できるのを確認しました。以前の巡回時と違うことが起きていたらアラートを出せる機能もあり、ずっと目視で映像を見ている必要もありません。人間が巡回することにかなり近いことが実現できると感じています」(添田さん)。

自律移動型のセキュリティロボット「SQ-2」

実はオフィスビルと商業施設では同じ警備業務でもかなり勝手が違うそうです。新たなチャレンジとなった点をSEQSENSEサイドはこのように説明してくれました。

「オフィスビルでの実績は増えてきていますが、警備ロボットにとって大きなマーケットである商業施設へも進出を目指しているため、ららぽーとでのトライはよい機会でした。今回の走行試験で当社のロボットがこれまで事業を展開してきたオフィスビルよりもはるかに人通りが多い環境で安定した走行を実現したことは大きな自信になりました。一方で、商業施設で発生するテナントの入れ替え・レイアウト変更、オフィスビルにはない施設の広大さがロボットが自律走行に利用する3次元地図の編集作成作業に影響を与えるという、新たな課題も見えてきました」(笹井さん)。

5Gが可能にする「視力向上」の理由

ららぽーと富士見での実証実験では、このSQ-2が持つ「目」の解像度を上げる検証も行いました。SQ-2は元々4G/LTE回線を使い、遠隔への映像・画像送信を行います。巡回中に撮影した消火器などの状態をリアルタイムに防災センターから確認しています。

一方、こういった広大な館内における通信には環境の問題がつきまといます。SQ-2は元々高精細な画像を送信することができる筐体なのですが、送信する際の通信環境が悪ければそれに合わせた圧縮レンジの画像を送る仕様になっており、施設を5G化することでつねに高精細な映像の配信が可能です。

実は警備に必要な画像には思っている以上に高精細な情報が必要となります。巡回業務で目視確認しているものは、消火器に貼られた5センチくらいのラベルの情報や小さな落とし物、こぼれた飲み物など多岐にわたるためです。

「現状では、どうしても細かい部分は映像からは見づらいと言われており、5Gには一定の効果があると感じました。また通信が早くなることで、いまロボット側で処理していることをクラウド側でできるようになると、ロボット側のCPUを下げられ、価格を下げられる可能性があると考えています。一方で、高画質化によっては録画画像の保存容量が増えるなど、新たな課題も浮き彫りになりました」(笹井さん)。

今回の検証を通じて商業施設における警備の省人化、5G環境の有用性や課題が見えてきました。結果を踏まえ、3社では引き続き商業施設における警備省人化に向けた事業共創の取り組みを継続していく予定です。

「高精細な映像で遠隔から確認できるとなると、今後、より足回りが強化されたり、屋外対応したりすることで、利用シーンが増えていくことは期待したいですね。たとえば万が一地震などの災害が発生した際、人間より先に館内を巡回させるなどを検討しておきたいと考えています。天井から何か落ちてこないかなど、先にロボットで館内状態を高精細な映像で確認できれば、危険を避けることができます。また、外部の庭の夜間不審者対応も危険が伴う業務であるため、通常2~3人で行かざるを得ない状況です。そこをまずロボットが行くようなことができるといいと考えています」(添田さん)。

「SEQSENSEは会社の第一歩としてまずは警備の分野に取り組んできました。今後もより安全により動くものを作っていきたいと思っています。さらに、施設管理においては警備以外も人手不足が深刻です。さまざまな分野のサービスロボットを、大企業への技術提供による協業も含め、取り組んでいきたいと考えています」(中村さん)。

 

まちづくりに「障害のある作家のアート」が染み出すROADCASTプロジェクト、ヘラルボニーと東急が共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 近年、企業活動において社会的な要請への対応がより強く求められるようになりました。SDGsにまつわる環境や福祉、ダイバーシティへの理解と行動など、利益と企業価値の向上だけでは見えてこない「人間本…

写真左から:ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥さん、東急のフューチャー・デザイン・ラボ事業創造担当の片山幹健さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

近年、企業活動において社会的な要請への対応がより強く求められるようになりました。SDGsにまつわる環境や福祉、ダイバーシティへの理解と行動など、利益と企業価値の向上だけでは見えてこない「人間本来の権利や生活に関わる取り組み」を企業は無視することができなくなりつつあります。

一方、こういった取り組みにはアイデアが必要です。今回ご紹介するヘラルボニーと東急の共創事例は、人と社会、企業それぞれが持っている課題を和らげつつ、持続可能な取り組みとしてまとめることに成功しています。街のビルボードをアートに変える取り組みについて、ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥さんと東急のフューチャー・デザイン・ラボ事業創造担当の片山幹健さんにその裏側をお聞きしました。

まちづくりに「障害のある作家のアート」が染み出す

街の中に溢れる屋外広告のスペースを出稿したい広告主とマッチングするプラットフォーム、それが東急の展開する「ROADCAST」です。この広告スペースに出稿がない空き期間をアートで華やかに演出しようというのが、今回の「Wall Art MUSEUM STORE」プロジェクトになります。

一方、タッグを組んだヘラルボニーは知的障害のある作家とアートライセンス契約を結び、2,000点以上のアートデータを元に事業を展開するスタートアップです。今回の共創プロジェクトでは、東急の管理する壁面広告の「空き枠」にヘラルボニーが管理するアートを配置しよう、というものでした。

もう少し具体的に説明すると、通常、壁面広告には下地となる枠があります。ここは空いている期間に何も表示されないか、空き枠募集の電話番号などが記載されることが多くなります。当然ながら見た目は悪く、空いている期間が長いと人気がないような印象を持たれてしまいます。

「Wall Art MUSEUM STORE」作品

東急や壁面広告枠を提供する不動産事業者にとっては、広告出稿がない期間も壁面を華やかに演出できると同時に、福祉への取り組みに協力することもできます。また、ヘラルボニー側も預かる作家の作品を一人でも多くの人々に届けることができるようになる、というわけです。

アイデアなのはここで作家の作品を買えるような導線を作ったことです。

QRコードを掲載してそこからオンラインストアで、アート作品をプリントしたグッズなどを購入できる仕組みなのですが、松田さんのお話では直接ここからやってくると同時に、街中でヘラルボニーの作品を知った人たちが自然とサイトに集まるようになったとされていました。片山さんはプロジェクトの狙いをこう語ります。

「売上の一部はアーティストと福祉施設に還元され、福祉分野の経済的活性化につなげます。渋谷、原宿、表参道、虎ノ門、新宿、銀座など約40箇所から開始し、今後もウォールアートを増やしていく計画です。開始から約3か月で300件ほどのQRコード読込があり、そのうち約30%が商品の購入ページに遷移しています。

ROADCASTは、屋外広告という切り口で街のちょっとした空きスペースを活用して街の価値向上につなげていく事業です。景観を害するものとして街の嫌われ者だったり、効果測定が難しくただただコストのかかる広告媒体だった屋外広告の可能性を追求し、アート展示など街の賑わい形成につながるメディアとしての整備やDX推進による効果測定の仕組み化など、街にとっても広告主にとってもWin-Winな存在を目指したいです」(片山さん)。

東急アクセラレートプログラムでの出会い

壁面アートからグッズを購入できる(ヘラルボニーのECサイト)

両社の共創は、東急が実施するアクセラレートプログラムにヘラルボニーが参加したことで始まります。

「元々ROADCASTは、落書きに悩む壁を中心に街中の数十~百箇所で広告を同時展開し、街の賑わい形成や落書き抑止という街への貢献を意識して展開をしていました。一方で殺風景な壁に戻ってしまう広告未稼働時がもったいないと感じており、持続可能な形で街や社会に貢献できる活用方法を模索していたんです。そんな折、ヘラルボニーの全日本仮囲いアートミュージアムという取り組みをお伺いし、それを発展させる形で、街をまるごとミュージアムショップにできないかというアイデアをヘラルボニーさんと話し合いました。期間限定のイベント的にアートを展示して終わりではなく、持続性のある展開としてじわじわと街中にウォールアートを増やしつつ、ウォールアートからECへと誘導して物販収益につなげているのがポイントです」(片山さん)。

街全体をアートミュージアムにしよう、という方向性はすぐに固まるものの、屋外でヘラルボニーのアートを展示すると施工コストが大きくなってしまいます。福祉という観点ではよい取り組みも持続性がなければイベントで終わります。そこで出たアイデアが壁面設置の下地パネルそのものをアート作品に変える、というものだったのです。下地パネルの製作・施工コストもそこから生まれる物販収益から回収することにしました。

「知的障害のあるアーティストとの接点はまだまだ少ないため、街を通してアート作品を掲出することで繋がりを生み出せたことには大きな意義があったと考えています。両社にとってプラスになるような仕組みを整えるのに苦戦しましたが、QRコードから売れた分の売り上げをシェアする仕組みを構築したことで、ヘラルボニーは壁面で販売し、ROADCASTさんは未利用壁面を活用できる、両者にとって持続可能な方法ができたと思います。結果、街でアート作品を発見した、というSNS投稿が見られるようになりました。壁面から弊社について検索した人など、認知度の向上に繋がっているのではと考えています」(松田さん)。

片山さんによれば、壁面を貸している物件所有者の方からも好評をいただいているそうで、こういった形で少しずつ、SDGsなどの活動に寄与できるという点も評価されているのだとか。今後は時期ごとに企画を練ってWall Art MUSEUM STOREならではのアート展示やアートを落とし込んだプロダクトの取り扱いにも挑戦したいとお話されていました。

次回も国内の共創事例をお届けいたします。

年間1,000万人超「入退院」の非効率をなくせーー“異端児”3Sunnyが手がけるCAREBOOKの挑戦

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ニュースサマリ:医療機関の業務支援SaaS「CAREBOOK」を開発する3Sunnyは3月4日、第三者割当による増資を公表している。引受先になったのはメディカルノート、メディアスホールディングス、帝人、ANRI、ANOBAKA、PERSOL INNOVATION FUNDと個人投資家として杉田玲夢氏、藤本修平氏、中山紗彩氏が参加した。調達した資金は3億2,000万円で、プロダクト開発、人材採用に投…

Image Credit : 3Sunny

ニュースサマリ:医療機関の業務支援SaaS「CAREBOOK」を開発する3Sunnyは3月4日、第三者割当による増資を公表している。引受先になったのはメディカルノート、メディアスホールディングス、帝人、ANRI、ANOBAKA、PERSOL INNOVATION FUNDと個人投資家として杉田玲夢氏、藤本修平氏、中山紗彩氏が参加した。調達した資金は3億2,000万円で、プロダクト開発、人材採用に投資される。同社はシード期にANRI(2016年、2,000万円)とANOBAKA(2018年、5000万円)から出資を受けており、これまでの累計調達額は4億円となる。また、今回出資に応じたメディカルノートと帝人についてはそれぞれCAREBOOKと連携した事業展開も推進する。

CAREBOOKは医療機関にて治療を終えた患者が、次のリハビリなどを目的に退院・転院する際の調整業務を効率化する。医療機関における入退院の数は年間延べで1,500万人発生しており、これら業務は通常、電話やFAXなどを通じて調整業務が実施されてきた。コロナ禍などもあり、医療機関における業務効率化が必須となる中、こういった非効率は課題となっていた。リリースから約2年で都内を中心に大学病院や大規模医療グループなどが採用しており、全国230の医療機関にて導入が進んでいる。

話題のポイント:コロナ禍でここ2年ほど、毎日のように見聞きするようになったのが医療機関の病床や業務効率化の話題です。医療とは関係のない分野からスタートアップしてどうやってここまで成長させたのか、3Sunny代表取締役の志水文人さんと創業期から支援していたANRIの佐俣アンリさんにClubhouseで公開取材してきました。今回からポッドキャストでも配信しますので聞き逃された方は聞いてみてください。特に創業期の乗り切り方は非常にユニークですが参考になります。

3Sunnyが公開しているカルチャーデックより

さて、CAREBOOKは病院業務の中でも入退院に特化した業務効率化ツールです。私も経験があるので理解できますが、特に高齢者の場合は治療が終わって退院した後にリハビリが始まるケースがあるので、自宅や別の施設へ転院・通院する必要が出てきます。こういったところでの各種調整業務をこれまで電話とFAXでやっていたため、非常に効率が悪かったそうです。志水さんのお話だとニッチに思えてこういった患者さんが年間で1,000万人ほどいらっしゃるということなので、課題レベルとしてはなぜ放置してたのかと思えるレベルです。

一方、医療機関側はこういった業務効率化ツールを入れたところで、人を減らすわけにいかないという構造的な課題もあったようです。つまり単純にコストアップになるだけなので、これまではなかなか導入が進まなかったのですが、今回のコロナ禍で病院側の業務が相当に逼迫し、業務効率化が加速したというお話でした。

CAREBOOKの特徴として入退院、つまり患者を送り出す側と「受け入れる側」の双方がこのツールを使う必要がある、というものがあります。ここは導入戦略が上手だなと思いましたが、医療機関には大学病院など地域の中核となる医療施設があり、そこが導入すると周辺も順次対応していくようになるそうです。内容としては患者の受け入れを効率化するもので、一刻を争う受け入れをスムーズにしてくれますから、対応可能となれば一斉に導入が進むというわけです。基本的な料金設定は月額固定だそうです。

公開取材のポッドキャストではCAREBOOKの将来像から、全く医療関係とは異なる業界からやってきた志水さんたちがどのようにして医療という難しい市場を開拓したのか、また、創業から数年をたった数千万円のシード資金でどのように乗り切ったのか、そのあたりもアンリさん交えてお話しています。ぜひお聞きいただければ。

※本稿はClubhouseでの取材内容をご本人に同意いただいて記事化しています

伝統メディアを「デジタル化」させるキメラ、凸版印刷とタッグ

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 伝統的なメディア・パブリッシャーが抱える悩みのタネはビジネスモデルです。紙をデジタルにするだけでなく、ビジネスモデル・体制からコンテンツを作る考え方、読者との向き合い、あらゆる面で従来の手法を…

写真左から:凸版印刷の菅原健春氏、キメラ代表取締役の大東洋克氏、凸版印刷の内田多氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

伝統的なメディア・パブリッシャーが抱える悩みのタネはビジネスモデルです。紙をデジタルにするだけでなく、ビジネスモデル・体制からコンテンツを作る考え方、読者との向き合い、あらゆる面で従来の手法を見直さなければならないからです。この課題に取り組もうという共創が、凸版印刷とデジタルパブリッシャー支援を手がけるキメラの提携になります。2019年末には両社の資本を含めた業務提携の取り組みが公表されています。

そこで本稿では両社が手がけるパブリッシャーのデジタル化ソリューション「Ximera Ae」(キメラ・エーイー)を中心に、伝統的なメディアが抱える課題とその解決方法について両社のお話を伺いました。

デジタルメディアのグロース支援

キメラが提供するのは「読者ロイヤルティ」を中心に据えたデジタルメディア事業グロース支援事業で、各メディアが抱える複雑な課題を伴走のスタイルで解決しています。海外製ツールである記事コンテンツのエンゲージメント分析ツール「Chartbeat(チャートビート)」の日本総代理店としても、導入と分析ノウハウの支援でメディアと向き合っており、2019年1月以来、パブリッシャー19社・51媒体(2021年2月末時点)に向けてデジタルメディアの事業評価やグロース支援を手がけた実績を持ちます。

Ximera Aeサービスイメージ

また、こうやって積み上げたメディアへの読者エンゲージメント向上ノウハウを基に、メディアが制作するコンテンツの価値を訴求し、マネタイズするサブスクリプション管理プラットフォーム「Ximera Ae」を自社開発しています。同時に、共創・協業する凸版印刷とは、出版社などのメディア営業網を活用して「Ximera Ae」の販売連携をしています。

「キメラは『パブリッシャーの未来を共に創る』企業です。有益な情報を提供することで時代を動かし、⽂化を築いてきたパブリッシャーを深くリスペクトしています。既存のメディアビジネスが苦境にある中で、真摯にコンテンツに向き合う⽅々が報われる世界を作り、今⼀度インターネットの本来の価値を創造したいと考えています。2021年からは、初の自社開発プロダクトである、サブスクリプション管理プラットフォーム『Ximera Ae』を通じ、デジタルメディアのマネタイズ選択肢を広げていきたいです」。(大東さん)

伝統メディアの課題

これまでもパブリッシャーのデジタル化は「電子書籍」などでじわじわと進んできた経緯がありました。一方、ここ数年で一気に顕在化してきた課金・サブスクリプションモデルへの対応は、読者数を大きく稼ぐ必要のある広告モデルと相反する部分があります。また、考えるべきポイントも流入経路から読者ロイヤリティなど多岐に渡るため、パブリッシャーが抱える課題や悩みは更に複雑さを増します。大東さんは現状をこう分析します。

「Yahoo!ニュースやSmartNewsなどのニュースプラットフォーム、TwitterやFacebookといったソーシャルメディア、はたまたnoteなどの個人によるコンテンツ発信モデルの台頭により、『マスメディア』と呼ばれていた新聞、雑誌、テレビが、インターネットを通じたコンテンツ発信および読者とのコミュニケーションにおいて、相対的に強みが発揮できない状況になりつつあります。

一方、コンテンツの発信手法や形態の多様化により、ユーザーが視聴・閲読できるコンテンツが膨大になっている状況下では、デジタルメディアは、ページビュー数に依存した広告収益(視聴・閲読は無料)モデルのみでは、従来のアナログの事業形態時の収益を補完・置換できる規模・成長性を見込むことが難しくなっているのも事実です」。(大東さん)

凸版印刷とキメラが特に注目しているのが、大手・中堅の伝統的なメディア企業だそうです。

特にビジネスモデルに直結するテーマでもあることから信頼関係は重要で、その点で凸版印刷の持つ関係性は大手出版社などとの取り組みをする上で大きくプラスに働いているというお話でした。一方、凸版印刷の菅原さんと内田さんはこういった提案先に対し、不足するSaaSプロダクトの営業ノウハウをキメラと協力して補完したことも明かしてくれました。

顧客とのすり合わせを重ねてソリューションを提供する受注産業・営業スタイルの凸版印刷内では、キメラのSaaS型プロダクトの営業経験・ノウハウが不足しており、キメラと凸版印刷、パブリッシャーの3者連携の実現・成果創出に結びつけることができなかったんです。そこでキメラチームの協力を得ながら、凸版印刷内でのセールスファネルの勉強会やヒアリングシートの整備・更新、受け渡し基準の明確化などを積み重ね、改善しながら連携していってます。

「パブリッシャーは、サブスクリプションモデルの構築に際し、技術的な開発仕様の検討で手一杯になり、サブスクリプションの事業計画や運用体制構築まで手が回らない状況も多くなりがちです。こうした問題に対して構造的な課題抽出と解決を実現し、メディアの本分としての価値ある情報発信に集中しやすい環境づくりが可能、とお伝えするようにしていますね」。(菅原さん・内田さん)

印刷を中心に出版社などのメディア企業と長らく関係を構築してきたのが凸版印刷です。エコシステム全体を考えた際、パブリッシャーのビジネスモデル、デジタル化を推進することは業界全体の下支えになるのは間違いありません。

両社は以前、本メディアでも取材したトッパンCVCのチームのアプローチをきっかけに協業・資本提携の話が始まったそうです。事業部等で協業検討を進め、黒子のようにメディアグロースを支えるという方向性が一致したことでその後の協業が加速したというお話でした。

次回も国内の共創事例をお届けいたします。

店舗とサイト「間」の購買体験を探せーーアイスタイルとKDDI「@cosme TOKYO -virtual store-」での共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 KDDIとアイスタイルは1月8日から、XRを活用したバーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」を提供開始しています。利用者はスマートフォン向けアプリ「au XR …

写真左から:KDDI 藤倉皓平と下桐希、コスメネクスト(Flagship store事業部/@cosmeTOKYO)坂井亮介氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

KDDIとアイスタイルは1月8日から、XRを活用したバーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」を提供開始しています。利用者はスマートフォン向けアプリ「au XR Door」内に設置された店舗へ仮想的に来店し、化粧品ブランドの購買体験を楽しめるというものです。

このバーチャル店舗では、花王の化粧品ブランド「KANEBO」「KATE」「SOFINA iP」の商品が販売されるほか、バーチャル空間で仮想的に商品を手に取ってテスターを利用したり、8K(5G推奨)の高画質できめ細やかに表現された店舗の内観や商品の色彩によって、実際に来店したような体験が可能になっています。KDDIとアイスタイルは今回のバーチャル店舗での取り組みを通じ、先端技術を活用したビジネスモデルの共同創出も狙うとしています。

アイスタイルでは2020年1月にJR原宿駅前に体験型のフラッグシップショップ「@cosme TOKYO」をオープンさせており、600ブランド2万アイテムを展開していました。両社は感染症拡大をきっかけにEC利用が拡大するなか、この店舗でのワクワクするような体験とXR・5Gを活用した完全非接触の購買を融合させた取り組みとして、今回のバーチャル店舗を開始しています。

本稿ではKDDI・アイスタイルの両社でこの共創案件を担当したアイスタイル坂井氏、KDDI下桐氏、藤倉氏のお二人に話を伺いました(文中の太字の質問は全てMUGENLABO Magazine編集部)。

スマホのみ「没入体験」への挑戦

バーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」においてユーザーは「au XR Door」アプリを立ち上げてスマホをかざすと、360°画像としてバーチャル店舗を歩き回ることが可能になります。

また、商品棚の前で手に取った商品をタップすると@cosmeの公式通販「@cosme SHOPPING」へ遷移し、商品購入ができます。行きたい場所についてはフロアマップから直接移動することも可能で、花王の商品の一部については各ブランド棚や店舗内1Fに設置されたテスターバーにて、テスターを使ったような体験ができるようになっています。

KDDIは今回の協業で5G・XR技術の提供を実施し、アイスタイルは「@cosme TOKYO」で得たリモート接客などのノウハウや@cosmeとのクチコミデータベースとの連携を担う、という分担になっています。

スマホのみで没入体験を目指したバーチャル店舗(@cosmeブログより)

今回のバーチャル店舗設置の狙いについて教えてください

坂井:2020年1月にJR原宿駅前にオープンした新体験フラッグシップショップ「@cosme TOKYO」ではワクワクする空間やランキング売り場、手書きのポップ、カウンセリングなど店舗でしか体験できないお買い物の楽しさをお届けしており、600ブランド2万アイテム以上の幅広い品ぞろえとさまざまな楽しい仕掛けを用意しました。

今回の取り組みには『購買体験』をどうアップデートしていくのかというテーマがあります。これは@cosme視点ではあるのですが、「@cosme TOKYO」のような店舗によるリアル購買とeコマースによるオンライン購買があった時、この中間にあるような体験を作れないか、というのが狙いのひとつです。

なるほど「店舗とコマースの中間」の体験は新しい視点ですね

坂井:仮想空間に入るとワクワクしたようなコンテンツが溢れていて体験もできる。買いたい場合は買える。これは2次元のeコマースだけではなかなか表現しきれない部分です。一方、来店には物理的な移動や接触がハードルです。これをスマートフォンひとつで実現しようという、本当の最初の一歩がau XR Doorの取り組みなんです。

実際に使ってみると没入っぽい体験でありながらスマートフォンのみで利用できるので、手軽な反面、スペースを必要とするなど戸惑いもありました

KDDI:実は今回、「@cosme TOKYO -virtual store-」に使ったアプリ「au XR Door」はそもそもVRヘッドセットを利用してXRサービスを企画・開発しているチームが新たに提案したものなんです。

VRヘッドセットは特に女性が着用する際、髪型が崩れるなどの運用面の課題がありました。また、機材も必要になるので、一人で体験するにはややハードルが高かったんです。そこで没入体験でありながらスマートフォンだけでそれを実現できないか、そう考えた結果があの「どこでもドア」体験だったんです。実際に利用データを見てみると、仮想店舗に来店した人はポップをズームで見ていたりと実際の来店と同様のアプローチが優先される、ということが徐々に見えてきています。

一方、課題があることも認識していて、例えば歩き回るスペースがない場合にどうするのかとか、ユーザーからの定性的なフィードバックや、実際のデータから見えてくる「つまづき」を参考に今後のアップデートを議論しているところです。

まだ始まったばかりですが、この新しい購買体験のヒントは見えてきましたか?

坂井:コスメって本当に多くの種類があるので、それらを自宅にいながらにしていくつも試せる、例えば自分の顔に合った商品を見つける、といったこともできるようになるかもしれません。こういった魅力的なブランドとの出会いの方法をアップデートできるんじゃないかと考えています。

データの活用についてはいかがでしょう。来店した人の属性データなどから多様な商品のおすすめをする、といった流れは想像できそうです

坂井:データをAIで読み解いたりそれをマッチングに使うことはeコマースでも可能です。どちらかというと、それ以上にヒューマンタッチが重要で、つまり接客ですね。お客さんの肌にあったパーソナライズされた提案活動、これが化粧品には大切なんです。ここについてはもちろんテクノロジーも使いますが、オンラインカウンセリングのような人の力を組み合わせた、テックタッチ・ヒューマンタッチを融合させた空間づくりには挑戦していきます。

スマホのみで没入体験を目指したバーチャル店舗(@cosmeブログより)

少し話を変えて、コロナの影響と実際の利用ユーザーからの反応についても教えてください

KDDI:そもそもKDDIでは新型コロナウイルス感染症の影響で売上に悩んでいる化粧品メーカーや小売に対して、リアル店舗やECとは異なる新たな販路として、実店舗のVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)を再現し、在庫がなくても店舗体験をユーザーに提供できる低コストのバーチャルストアを企画していました。特にテスターを試すのが憚られる中、手に取ったかのような体験ができる機能やARのメイクアップ機能は実物がなくても商品確認ができる、という点で非常に重要と考えています。

坂井:これはコロナ感染拡大の以前からですが、小売りのDXや店舗体験の可視化・価値化はテーマにありました。やはり化粧品はリアル店舗にお越しいただいてから始まるUXが多かったんです。そうこうしている内に感染症が拡大し、店舗としての魅力である「巡ること=出会うこと」「試すこと=手にとること」「相談すること」ができなくなってしまったんですね。

なるほど

坂井:今回のケースでは、こういった本来提供できるUXの価値が下がっている状況をバーチャル体験で補う、というのが目標にありました。そこでオンライン/バーチャル上での出会いの場である店舗を立ち上げ、店舗やオンライン上から仮想的に商品を手に取ったり、テスターを使ったような体験と「公式通販」から商品の購入ができる、というところまで用意した、というのがここまでの取り組みですね。

協業のスピード感はどのような流れだったのでしょうか

坂井:とあるメーカーさんにお繋ぎいただいたのがキッカケです。目指す方向やイメージはお互いすぐにリンクしていたと思っておりまして、この仲間たちなら絶対に新しい価値が見出せると思ったことを覚えています。実施に至るまでのハードルは時間と環境ですかね。

KDDI:私たちもオンラインとオフラインを融合させた顧客体験をXR Doorを通じて実現できると感じたため、ご紹介いただいた後、KDDI側からも協業をお願いしました。

坂井:ただ、とにかく時間もなくて、9月中旬に初めてKDDIさんとお会いしてから4社を跨ぐ横断プロジェクトが生まれ、毎週のように打ち合わせを重ね、12月にはデモを出すというところまでもっていったのは素晴らしいスピード感でしたね。今回はずっとコロナ感染拡大との闘いでもあり、本当はお披露目を@cosmeTOKYO1周年のリアルイベントでさせていただきたかったですが、緊急事態宣言により延期となったのは心残りです。

反響はいかがですか

坂井:リアルな店舗とECのオムニチャネル化・OMOという発想自体はお持ちの人が多いですが、我々は店舗”体験”のオンライン化にこだわりました。また他企業がすでに展開しているブラウザ用の表面的なバーチャルサイトではまだまだ表現が難しいです。その点において、将来を見越したチャレンジであり「らしさ」があると化粧品業界の関係者から注目をいただいています。

KDDI:@cosmeブログでは「@cosme TOKYO -virtual store-」の記事が約50万閲覧を超え、XR Doorの新規ユーザー数も増えています。多くのユーザーにバーチャルストアの可能性を感じていただけているのではないかと思う一方、緊急事態宣言が発令された結果、リアル店舗と連携した取り組みがまだ実現できていないのが課題です。この件についてはアフターコロナに向けて準備しております。

ありがとうございました

エンターテインメント領域で新たな産業創出をーーテレビ東京コミュニケーションズの投資活動

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたヤマトHDのスタートアップ投資に続いてお届けするのは、テレビ東京コミュニケーションズのスタートアップ投資活動です。 テレビ東京のグループはテレビ東京ホールディングスをトップに、中核となる地上波とBS放送のテレビ東京とBSテレビ東京、テレビ通販やEC…

テレビ東京コミュニケーションズ メディア事業開発本部 ビジネスデザイン部 遠藤哲也氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたヤマトHDのスタートアップ投資に続いてお届けするのは、テレビ東京コミュニケーションズのスタートアップ投資活動です。

テレビ東京のグループはテレビ東京ホールディングスをトップに、中核となる地上波とBS放送のテレビ東京とBSテレビ東京、テレビ通販やEC、コンテンツなどの周辺事業を手がける連結子会社12社、そしてコミュニケーション領域として動画配信事業などを手がけるテレビ東京コミュニケーションズが集まって構成されています。

テレビ東京ホールディングスが昨年に公表した中期経営計画では、コロナ禍における厳しい広告収入を前提としており、放送収益の落ち込みを最小限に抑えつつ、アニメ・コンテンツ事業やイベント、通販といった放送外・周辺領域の事業展開を強化するとしています。

本記事ではその中にあってクロスメディアや動画配信、IP事業などを手がけるテレビ東京コミュニケーションズが窓口となって推進する、スタートアップ投資の活動についてお伺いしました。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答はテレビ東京コミュニケーションズBusiness Producerの遠藤哲也さん)

事業本体からの投資活動ということですが、どのようなフォーカスで出資されていますか
遠藤:スタートアップとの事業シナジーを目的に出資をはじめました。投資領域は日本国内オンリーで、エンターテインメント領域に出資をしております。CVC形態ではなくプリンシパル投資のみです。出資した企業との事業連携により、実益をスタートアップと創出できるよう意識しております。出資後、すぐに現場に実装できるよう、密なコミュニケーションを取らせて頂き、各部署にスタートアップサービスの紹介、連携推進をしております。またメディア戦略や事業戦略のアドバイスも行っており、積極的な企業グロースのバックアップをさせて頂いております。

かなり明確な投資方針でわかりやすいですね。具体的なケーススタディはどのようなものがありますか
遠藤:出資先のZeppyとはデジタル経済番組の共同制作を実施しています。Zeppyは投資領域に特化したYouTubeコンテンツ制作を手がけていて、「投資をもっと普通のことに」をミッションに、投資の大衆化を目指し活動している企業です。株式投資専門チャンネルとしては国内最大級で、このZeppyに所属するYouTuberと連携することで、幅広い属性の個人投資家やYouTubeを日常的に視聴する一般層へのリーチを目的とした取り組みをしています。

また、同様に出資先のSEPALとは保有IPを活用したグッズ販売を実施しています。LINEと連動したECシステムで、若年層へシームレスなグッズセールスを目的とした取り組みです。彼らのECサービス「Live self order」はイベント事業者を中心に一気に活用が広がっています。

マーケットを変革するためにも、スタートアップは文字通りスタートしたら「アップ」し続けるべきだと思っています。世の中のニーズを捉え、経済の牽引役となる新たな産業を創出するべきです。私自身、スタートアップでマーケットへチャレンジしてきた経験もあり、現職でもそういった果敢にチャレンジするスタートアップを本気でバックアップしたいと思っています。

具体的な出資のポリシーや意思決定のフローはどのようになっていますか
遠藤:マイノリティ出資、リードを取ってのマジョリティ出資など、出資先企業毎に違います。出資時の重要な判断軸は、(1)経営者、(2)事業シナジー含めてのマーケットの成長性、(3)優位性です。

初面談から出資までのスケジュールとして、おおよそ3〜4カ月は頂いております。現場担当がスタートアップと面談し、その後、私に案件の報告があります。マーケットとビジネスモデルが弊社の事業拡張領域とフィットするのであれば、私の方で改めて面談のお時間を頂いております。更にビジネスゲインやキャピタルゲイン、共に見込めるようであればDD(デューデリジェンス)に進んで出資計画書を作成します。その後、役員に提案して細かい部分でのフィードバック、最終チェックを経て出資委員会での決議、出資という流れになります。

新たなアイデアや技術、ビジネスモデルに挑戦する方々と一緒に共創し、新たな産業創出にチャレンジしていきたいですね。

ありがとうございました。
ということでテレビ東京コミュニケーションズのスタートアップ投資活動についてお届けしました。次回もお楽しみに。

インキュベイトF「5人目」の代表にポール氏、元マッキンゼーを唸らせた「秘密兵器」とは

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ニュースサマリ:独立系ベンチャーキャピタルのインキュベイトファンドは3月1日、同社5人目となる代表パートナーとして元マッキンゼー・アンド・カンパニー シニア・パートナーのポール・マクナーニ氏が就任したことを伝えている。インキュベイトファンドはこれまで赤浦徹氏、本間真彦氏、和田圭祐氏、村田祐介氏が共同で代表パートナーを務めていたが、これで5人体制となる。 ポール氏はオーストラリア出身で、日本に留学し…

5人体制になったインキュベイトファンド(写真:ウェブサイトより)

ニュースサマリ:独立系ベンチャーキャピタルのインキュベイトファンドは3月1日、同社5人目となる代表パートナーとして元マッキンゼー・アンド・カンパニー シニア・パートナーのポール・マクナーニ氏が就任したことを伝えている。インキュベイトファンドはこれまで赤浦徹氏、本間真彦氏、和田圭祐氏、村田祐介氏が共同で代表パートナーを務めていたが、これで5人体制となる。

ポール氏はオーストラリア出身で、日本に留学した学生時代にISPなどでアルバイトをし、デジタル事業に興味を持って1997年にリクルートへ入社。デジタル事業やネット系ベンチャーへの投資を手がけたのち、2002年からマッキンゼーにて幅広い業界顧客に対してデジタル・AIなどを活用した成長戦略コンサルティングを提供した。2014年にはシニアパートナーに就任し、アジア太平洋のマーケティング&セールスグループの責任者などを歴任した経歴を持つ。

話題のポイント:就任に合わせてClubhouseでポールさん、赤浦さん、村田さんの三代表に公開取材してきました。赤浦さんに経緯をお聞きしましたが「道端でばったり(ポールさんと)出会った」のがきっかけで「代表パートナーのみんなにどう?って聞いたらみんないいじゃんって言ったから」という、ほぼテレパシーレベルの会話で話が進んだそうです。

とにかく隙があれば面白いことを差し込もうとする赤浦さんとの間合いに緊張しまくりの30分でした。

さておき、ポールさんの経歴は見ての通りでタダでさえ強烈な面々が揃っているIFに、また一味違った形で戦力強化された印象です。シード投資の経験や実績については未知数ながらも、名だたる企業の成長戦略をグローバルな視点で手がけてきた人物です。特にグローバルでの展開を考えるケースではよいアドバイザーになってくれるはずです。先ほどはフィーリングで受け入れたと書きましたが、当然ながらこの海外に対して広い顔を持つというのはソーシングの面でも大いにプラスになるはずです。

ちなみにインキュベイトファンドが投資した企業で時価総額が大きく成長しているのが本間さんが投資したMonotaRO(約1.7兆円)と赤浦さんが創業期から支援したSaaSの代名詞、Sansan(約2,900億円)です。一方で世界トップクラスの企業は数十、数百「兆円」クラスですからまだまだやることはたくさんありそうです。

さて、マッキンゼーのシニアパートナーからベンチャーキャピタリストへの転身はグローバルでもほぼ例がないそうです。これはVC側の受け入れに問題があって、今回のように最初から代表パートナーとして迎え入れるようなケースでないとなかなかキャリアチェンジまでしようという気にならない、というのはよく理解できました。

あと、もう一点、ポールさんがIFに飛び込もうと思った理由のひとつに「均等という秘密兵器(ポールさん談)」があったそうです。実はIFの代表パートナーは投資についても報酬についても全て均等割なのだそうです。この考え方はポールさんが在籍していたマッキンゼーにも一部のクラスであるらしく、ほぼ全ての権限が個人のプロフェッショナリズムに委ねられながら、かつ、チーム戦を敷く上で究極の方法だなと思います。

以前、IFの代表パートナー4名全員とお会いしてお話聞く機会があったのですが、その時、ああ、こういうバンドいるなと感じたのを思い出します。強烈な個性のボーカルとバックバンド、そして全体をまとめるプロデューサー、そんな感じです。数々の名バンドがギャランティで揉めたことを考えるとIFの強さは案外こういうところに潜んでいるのかもしれません。

インタビューの最後、ポールさんは関西に長かったことから阪神ファンだそうで、赤浦さんから「3割5分、50本以上はいける(※)」と温かいエールの言葉がありました。ポールさんの次の打席に期待しています。

※阪神タイガースの助っ人、ランディ・バース氏が1985年に三冠王を獲得した時の成績、打率.350、54本塁打に由来する。この年は掛布雅之氏や岡田彰布氏らとクリーンナップを形成し、憎き巨人の槙原寛己投手からバックスクリーン3連発を放ったことでも知られている

※本稿はClubhouseでの取材内容をご本人に同意いただいて記事化しています

VISAで福利厚生「miive」に目から鱗、学生起業家だからできたそのワケ

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ニュースサマリ:プリペイド型の福利厚生サービス「miive(ミーブ)」は2月17日に第三者割当による増資を公表している。引受先になったのはサイバーエージェント・キャピタルとジェネシア・ベンチャーズの2社。調達した資金は5,000万円。資金は開発と人材採用に使われる。 miiveは福利厚生を一括管理するSaaS。企業側は従業員に対して付与したい福利厚生サービスを選び、自由にカスタマイズして提供するこ…

ニュースサマリ:プリペイド型の福利厚生サービス「miive(ミーブ)」は2月17日に第三者割当による増資を公表している。引受先になったのはサイバーエージェント・キャピタルとジェネシア・ベンチャーズの2社。調達した資金は5,000万円。資金は開発と人材採用に使われる。

miiveは福利厚生を一括管理するSaaS。企業側は従業員に対して付与したい福利厚生サービスを選び、自由にカスタマイズして提供することができる。メニューはVISA加盟店であれば全て利用可能で、社員は渡されたVISAプリペイドカードを使って提供される福利厚生を利用することができる。ポイントチャージ方式で、企業が従業員に対してポイントを付与し、食事など負担が求められる場合には従業員がセルフチャージとして自己負担分のポイントをチャージして利用する。ユーザーあたりの課金で1名利用するごとに880円が必要になる。

同社の創業は昨年7月。従来の福利厚生はサービス企業が提供する固定のものが多く、企業が自由に設計する場合には管理などが煩雑で課題があった。その点に注目した学生起業家の栗田廉氏が創業し、サービスは4月下旬に公開予定となっている。

話題のポイント:久しぶりのバックオフィス系でおもしろそうなサービスです。福利厚生は交通費や家賃補助、最近よく聞くようになったのはリモートワーク下での食事補助ですね。どれも一部を企業側が負担することで従業員の方々の労働環境を向上させるのが目的です。

福利厚生の面倒をクラウド+プリペイドで解決

サービスとしても、大きな冊子でおなじみベネフィットワンのような老舗から、OKANやKONPEITOが提供する補充型の社食サービス、Wantedlyが提供するPerkなどいろいろな形が出てきているようです。ちなみにWantedlyが決算書で出している福利厚生市場の試算は約1,000億円程度になります。

miiveの面白いところは、福利厚生の面倒な側面に着目した点です。企業が福利厚生を適用しようとした際、交通費などのありきたりなものは別として例えば社員の部活動を支援したいと思って補助を出そうとしても、その購入の費目や負担割合、購入したものの精算処理などを考えるとかなり手間がかかります。

一方、従来からあるクーポン型の福利厚生は一見、便利なように見えて実際はほとんど使われないようです。同社代表の栗原廉さんの調べによると3割ぐらいしか使われていないというお話ですが、過去、私も同様のパターンで確かにフィットネスを使おうかどうしようか迷って結局使ってなかったなと思い出しました。

miiveは企業が福利厚生を用意する際の面倒と、従業員の方が利用した後の処理の面倒をクラウドとプリペイドで解決しようとしています。ここでもうひとつ面白い点がVISAの加盟店を福利厚生の対象にしたところです。

福利厚生は健康保険料などの法定福利費を除いてかなり自由に設定が可能です。食事などのように負担割合が決まっているものはありますが、基本、企業が社員に対して平等に提供することができれば問題ありません。

開発中のクラウドサービスは、VISAに加盟している店舗から選べるメニューが用意されており、旅行や食事、健康などの項目からその企業独自の福利厚生をカスタマイズできるようになっています。従業員はそこから利用したいサービスを選んで後日精算すれば企業側も誰が何を使ったのか一元管理できます。

この精算管理で活躍するのがプリペイドカードです。VISA形式で、企業は所定のポイントをチャージして従業員に提供し、利用者は店舗でそのカードを使えばポイントが減る仕組みです。前述の通り、食事など自己負担が発生する場合は、自分で事前に自己負担分のポイントをチャージしておく必要があります。

ここで少し疑問が湧いてきます。例えばコンビニで食事以外のものを購入したらどうなるのでしょうか?栗田さんの説明では、VISA側ではあくまで加盟店IDでのみ管理されるので、企業側は何を購入したかはわからないそうです。ただ、現実的には領収書などの提出を別ルールで定めればそういうズルはできないようになります。

学生起業家だから思いついた福利厚生の穴

栗田さんはなぜ福利厚生という穴を狙ったのでしょうか。公開取材で投資したCACの北尾崇さんとジェネシアの水谷航己さんに話を伺いましたが、栗原さんは特に福利厚生のスペシャリストというわけではなく、最初の持ち込み時点では別のデリバリーサービスを考えていたそうです。

ただ、彼自身、就職活動で内定を貰った企業の福利厚生には違和感を感じており、そこから調べていく内にここに潜んでいる課題に気がつくようになったというお話でした。当初の持ち込みアイデアから福利厚生関連を調べなおして今回のアイデアにピボットするまで1.5カ月ほどということですのでさすが。若いっていいですね。

通常、こういった経費系のサービスを考えると海外でBrexの躍進にあるように、フィンテック寄りになることが多いです。ただここの分野はラクスやマネーフォワード、freeeなど群雄割拠の市場になっており、ある意味、新しいプレーヤーの必要性はそこまでありません。経費精算ではなく「福利厚生」という似て非なる市場に、従来とは異なるアプローチで挑んだのがmiiveです。これは企業の勤務経験がない人ならではの発想だなと思います。

実際にサービスがリリースされて企業のフィードバックが集まったところでまた機会あれば話を聞いてみたいと思います。

※本稿はClubhouseでの取材内容をご本人に同意いただいて記事化しています

激動の松竹と共創:問われる「松竹ID」の可能性 Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 前半では感染症拡大で歌舞伎が受けた影響と、そこから大きく開いたデジタル化への扉について松竹取締役、船越直人さんにお話を伺いました。後半はさらに具体的なアクションについて同じく取締役兼松竹芸能会長の井上貴弘さんにお話しいただきます。 松竹には歌舞伎の他にも映画や、テレビタレントなどを擁する松竹芸能といっ…

松竹 取締役 事業開発副本部長 イノベーション推進部門担当・井上貴弘氏(松竹芸能 会長)

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

前半では感染症拡大で歌舞伎が受けた影響と、そこから大きく開いたデジタル化への扉について松竹取締役、船越直人さんにお話を伺いました。後半はさらに具体的なアクションについて同じく取締役兼松竹芸能会長の井上貴弘さんにお話しいただきます。

松竹には歌舞伎の他にも映画や、テレビタレントなどを擁する松竹芸能といったグループ企業が存在しています。特にタレントマネジメントについては2017年にUUUMと提携するなど、デジタル化を見据えた新たな人材育成にも力を入れています。また、これまでの資産として松竹を取り巻くファンの存在も重要です。昨年LINEとの提携発表では巨大なユーザーベースをID化して活用する「松竹ID」の構想にも触れられていました。具体的な松竹のデジタル化はどのように進むのでしょうか(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、文中敬称略) 。

配信の力学がタレントビジネスを変える

ここからは井上さんにお聞きします。エンターテインメントを考える上で、タレントの存在は言わずもがな重要ですが、ここ最近はYouTuberに代表される新たな「アマ以上のプロ」の存在が目立ってきています。改めてプロダクションとしてのポジションはどのように変化するとお考えでしょうか

井上:これからは芸能プロダクションという存在は、クリエイターたちにきちんと価値を提供していかないと存在意義が問われると思います。

私たちのグループに松竹芸能というプロダクションがあります。そこのケースで言えば、松竹芸能にとって、主戦場はやはり地上波のゴールデン番組だったのです。極端な例では、少し前の「放送局によって優劣が顕著だった時代」に、どのような番組に出演することがタレントの現在と将来にとってベストかの判断の前に、とにかく影響力のある放送局のゴールデン番組の方が、力の無い放送局の深夜番組よりも良い、みたいな感覚があったと思います。本来は、そのタレントが深夜番組で司会をやった方が将来につながるにも関わらず、とにかくゴールデン番組でひな壇に座らせた方が良いということです。

昭和から平成にかけての黄金期ですね

井上:今の芸能プロダクションの幹部の方々はこういった「テレビ中心」に育ってきた人が多いです。意識を変えようとしているけど、まだ「地上波全盛時代」の感覚が残っている。その中でも、この時代に、どうすれば自分達のタレントを発信できるかに気付いた人達が、「地上波だけじゃないんだ」という結論にたどり着き、新しいメディアに積極的に取り組みながら、地上波とのバランスを取り、素晴らしいタレント育成をされています。

他の事務所の芸人さんや、過去にゴールデンで活躍したタレント、引退したスポーツ選手などオンライン配信で活躍する「プロ」が一気に増えました

井上:YouTube等の新しいメディアで自分を発信し始めていますよね。プロダクションとしてはこういった個人の潜在的な価値を見極めて、この人の場合はYouTubeを上手く使っていこうとか、本当の意味でプロデュースする力がないとダメになってくると思います。

これまでも地上波を中心に「どうやってこの人を売り出していこうか」ということをやってきているので、YouTube等の新しいメディアにおいても、人を育てるという点においては同じです。ただ、過去の地上波の成功体験に縛られてしまうと、新しいメディアの可能性への切り替えが上手くいかない。ここの切り替えのスピードをどうやって上げるかというのが重要ですね。

問われる「松竹ID」の可能性

舞台やテレビ・映画といった媒体を通じて関わってきた顧客との接点が変わる

井上:お客さんが求めている情報を届けることをやりたいと思っています。そして、集まったデータからどういう映画や舞台を作るべきかを、逆算で導き出すこともやってみたいですね。映画と伝統芸能である歌舞伎を持っている会社は他にはありません。データ数は多くないかもしれませんが、価値のあるデータが取れると考えています。

なるほど、顧客との関わりだけでなく、作るものにも確かに影響が与えられそうですね

井上:現在、MR(複合現実:Mixed Reality)を活用した歌舞伎を作っています。今後、技術が進化してデバイスが軽量化すると、例えば地方の巡業の際、低コストで、舞台に仮想的な演出をすることが可能になると思います。また、単純に360°カメラで映像を撮るということだけではなく身体データも取って、デバイス上で舞台の興奮を伝えるようなこともできると思っています。

去年の中頃から、事業共創については積極的に取組んでいます。コロナ禍で当社の業績は大きな打撃を受けており、そのスピードがやや遅くなっていることは事実ですが、しっかりと取り組みたいと考えています。特に、オープンイノベーションに関わる若手社員を育てることは、今後のパートナーシップの戦略を考える上でも、最も重要であり、全力で取り組んでいきます。

スタートアップやベンチャーキャピタルの方々で、「松竹とはこういうことができないのか」という話があれば聞かせていただきたいと考えています。

ありがとうございました