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スタートアップの評価額を上げる「プレミアム」とは何か

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YJキャピタル(ヤフーのベンチャーキャピタル)の堀です。今日のテーマは、スタートアップとバリュエーションについてです。起業家の皆さんが自社のバリュエーションをどうやって高め、その高さをどう投資家にプレゼンしたら良いか、について共有いたします。 事の発端は、2019年9月に連続投稿したTweetです。今、B2B SaaS業界でトキメイているSmart HR宮田(昇始)さんにブログ化のリクエストをいた…

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YJキャピタル(ヤフーのベンチャーキャピタル)の堀です。今日のテーマは、スタートアップとバリュエーションについてです。起業家の皆さんが自社のバリュエーションをどうやって高め、その高さをどう投資家にプレゼンしたら良いか、について共有いたします。

事の発端は、2019年9月に連続投稿したTweetです。今、B2B SaaS業界でトキメイているSmart HR宮田(昇始)さんにブログ化のリクエストをいただいたんですね。筆遅の私、ようやく腰を上げました。

突然ですが、バリュエーションが高いことって、悪なんでしょうか?

<参考記事>

昨年、ベンチャーキャピタルのCoral Capitalさんがコーポレートブログで、高すぎるバリュエーションでの資金調達に警鐘を鳴らしました。ブログによると

【メリット】
 ・希薄化を抑えた調達が可能
【デメリット】
 ・次のラウンドの資金調達の難易度が上がる
 ・M&A Exitの難易度が上がる

ということです。仰る通りでございますです。バリュエーション上げすぎると色々と問題も出ますね〜。でもでもですよ、メリットもありますよね。同じ10%の希薄化でも、バリュエーションが30億円の会社と300億円の会社では、調達額が3億円と30億円と変わってきちゃうんですから。

私のお仕事はベンチャーキャピタルといって、スタートアップに投資し、将来出資した株式を売却することで、株価の上昇分のリターン(キャピタルゲイン)で儲けるのを生業にしています。

投資家が数人集まってお茶したり、鍋つついたりすれば、二言目には「最近どう?バリュエーション高くない?」って話になります。投資家は先に書いたようにキャピタルゲインで生計を立てる商売です。キャピタルゲインは「出口の値段(売却時の株価)ー入り口(投資時の株価)の値段」で算出されます。入り口の値段を避けたいバイアスが常にかかっているので、先の発言が出てくるわけです。

極めて投資家っぽい書き方をすると、入り口の値段を可能な限り抑えて、出口の値段を可能な限り高くして売り抜けたいと考えます。そういう生き物なんです。起業家の皆さんが死ぬ思いしてプロダクト作って、必死の思いでユーザー獲得していても、投資家の頭の中は常に「入り口」「出口」です。残念なことに。どんなに綺麗なことをブログに書いていても、「入り口」と「出口」です。もう一回書きますよ。あ、もういいですね。はい、ごめんなさい。

そんな僕ら投資家でも、今から書く内容を押さえていれば、「ん?待てよ。高くないかも。投資した方が絶対良いよ」って思うポイントがあります。今日はそのポイントを書いちゃいます。みんなには内緒ですよ。

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1.プレミアムを説明しよう

バリュエーションを高くするためには、平均より高い理由、すなわちどういったプレミアムが乗っているかを説明しましょう。投資家は常に、証券市場の平均値と比較します。平均より何が優れているのか説明出来ないと「平均ですね」で片付けられてしまいます。腹落ち出来る説明がなければ、流動性の高い上場株を買った方がキャピタルゲインが望めるからです。

2.プレミアムは3種類ある

プレミアムとはなんぞや、と。平均より何が優れているとプレミアムと呼んで良いのでしょうか。未上場のスタートアップが上場企業と売上を比較しても簡単に勝てませんね。

投資家に対してスタートアップが使えるプレミアムはいくつかあると思うのですが、私のお気に入りを紹介します。

a) マーケットシェア1位

マーケットシェア1位です。業界ナンバー1なんです。これは圧倒的に強いですね。1位の会社にはプレミアム感が付いてきます。投資家殺しです。シェア1位の会社に投資する機会ってあまり巡ってきません。シェア1位を説明する上で、マーケットの定義、すなわちセグメンテーションについて学んでおくと良いでしょう。

弊社の戦っているマーケットは国内小売市場134兆円!って説明する起業家の方がたまーにいらっしゃいますが、こういう解像度が粗いプレゼンをすると投資家はシラーっとなって、プレゼンの最中でもFacebookやTwitterを開いて別のこと始めてしまいます。

いったいぜんたい、そのどデカイ市場でどのセグメントを狙っているんだい?ってプレゼンを聞いてる投資家は思いを巡らせます。ビューティー市場を見ても、女性/男性、年齢、基礎化粧品/メイクアップ、売り場(オンライン、オフラインチャネル)とセグメンテーション(細分化)が可能です。

市場が大きい時こそ、セグメンテーションをしっかりと行い、ターゲット顧客が誰なのかを明確にして、顕在市場規模を説明出来るようにしましょう。

どこかのセグメントで1位だと投資家は興奮します。

さらに、そのセグメントが業界全体で成長中だと投資家はもっと興奮しちゃいます。衰退市場で戦っている人は、市場が縮小していても気にしないこと。自社のシェアが市場縮小率を気にしないぐらい成長していることを説明できれば問題ないです。逆に、衰退市場で自社のシェアが横ばいだと、そのうちなくなっちゃうからマズいですね。

3年後、隣の顧客セグメントに参入します!(例:アパレルから消費財)というような起業家の話、投資家は眉唾で聞いています。実績が全て。実績や裏付けのない「将来、こうなります!」っていう話は投資家は「そうね。素晴らしいね」と言いながら聞き流しているのが本音です。

シェア1位の話長くなりすぎました(笑)ただ、私もソフトバンクグループの端くれとして仕事していて感じることですが、孫総帥はシェア1位が大好きだと思います。シェア1位と聞くと、身を乗り出して話を聞き入っているようなイメージがあります。

マーケットの捉え方、セグメンテーション、シェアをとにかく抑えに行く。

これ、テスト出ます。

b) 凄まじい成長率

この成長、やばくないっすか?って感じで右肩上がりのグラフを見せられると投資家は目がクラクラします。Y CombinatorのDemo Dayやピッチコンテストで必ず入れろ、って言われるスライドですね。

今、僕たちを捕まえておかないと乗り遅れるよ!っていうメッセージ力があります。やばくない?っていう成長率が良いですね。1カ月で10倍成長しました、とか最高です。

成長率を作るために広告燃やしまくるという手法があります。これはよろしくないですね。投資家はすぐ見抜きます。資金調達するために強引に右肩上がりの成長率を作ってきたな、と。

ユニットエコノミクスが証明出来ている(別の言い方だと、どんなに燃やしても回収可能、すごく儲かっちゃう)ならオッケーです。広告燃やさずに、顧客獲得ハックしている企業だと、投資家はヨダレをたらしながら飛びつきます。

ハック、で思い出しましたが、YJキャピタル支援先のKaizen Platformの須藤(憲司)社長が近々ハック思考について出版されるので、皆さんぜひハック思考を読んでマスターして下さい。

成長率も、市場平均より高い水準で成長していることが証明出来ると高く評価されます。EC市場が毎年約9%成長しているなら、少なくとも10%以上の成長はしたいですよね。業界の雄のEC事業者が毎年30%成長しているなら、60〜100%成長したいですよね。そうすると、「すげえ」ってなりますよね。

c) KPIの異常値を作る

最後のプレミアムは「異常値」です。競合他社と比べてCVRやCPAが10倍パフォーマンスが高いんです、という異常値です。

この状態を実現できていると、本日時点ではGMV(流通総額)やPV(PageView)で負けてるけど、数年後には競合を追い越せるやん!ってなります。「ふむふむ。ということは、数年後には将来の勝ち馬になるから、短期的に今バリュエーションが高くても、今乗っておいた方が良いわな」ってなります。

異常値を作ればいいんだ!ってのは分かりやすく伝えているだけであり、本質的には利益率、収益性のお話です。別の言い方をすると、平均的なビジネスモデルよりも、僕のビジネスモデルの方が明らかに儲かる、利益率が高いんです、ってことが言えれば投資家はめちゃんこ高く評価してくれます。

利益率を高くするには、いくつかコツがあって、競合サービスの平均値よりも

1.顧客単価を上げる
2.粗利を上げる(売上原価を下げる)
3.顧客獲得コストを下げる
4.リピート率を上げる
5.オペレーションコストを下げる

ことが出来れば実現可能ですね。この中のどれかで異常値を作ることをお勧めします。10倍近く平均との乖離があると完璧です。言うは易し、行うは難しです。

番外編)チーム

3つのプレミアムについてツラツラ書いてきました。番外編として、2度と使えない、1回しか使えないマジックプレミアムを紹介します(笑)

それは、「チーム」です。この面子でこの事業に挑戦するのすごくない?やばくない?超絶凄いっしょ、ってやつです。

これ、次の資金調達の時に使うと「いや、それ、君、前回も言ってたから」って冷静に投資家からツッコミをくらっちゃいます。しかも、前回よりも今回のタイミングで、業績やKPIで成長していないと「結局チームは凄いけど結果が出せない連中だよね。経歴は凄いんだけどね」って片付けられてしまいます。なので、個人的には、チームは”Nice to Have”ぐらいにしておくのが良いと思っています。実績で勝負するのが王道です。これ、気をつけてな!

結局、高いものには理由がないと、ヒトは買わない(投資しない)んですね。メルセデスやエルメスを買っている人いるじゃないですか。別にスズキやユニクロでもいいわけです。お金があるから買ってるわけじゃなく、買いたい理由があって、購入者が納得して買っているわけですよね。格好いいから、可愛いから、とか。

投資家も一緒なんです。

なので、プレミアムがある、と言う必要があります。在庫に限りがある限定品なんです、という見せ方をしないといけないんです。昭和の時代のドラクエであり、平成の時代のポケモンであり、令和の時代のスニーカーのように。

このジーンズ、岡山のXX工房とイタリアの巨匠のYYとNYのSupremeが3年構想してデザインした世界限定100本しかなくて、テルマさんも愛用している超限定品なんですよ、というプレゼンテーションしないといけないんです。

実績が伴わないのにバリュエーションが高い状況はよろしくないです。ただ、投資家を相手に株の取引をするのであれば、売り手としてのセールストークというか、買いたいと思わせるポイントは抑えたほうが良いですよね。

だいぶ長いブログになってしまいました(笑)一緒に事業づくり、バリュエーションをより高いところに持っていきたいという起業家の皆さん、ご連絡お待ちしています。どうやったら企業価値を高めていけるのか、色々アドバイスします。

見せかけだけじゃん、って言われないように、しっかりと事業を作り込んでいきましょう。そして、相談に乗ったYJキャピタルには特別にバリュエーシションを低く提示してください(爆)!

共に、未来を創ろう!

<参考記事>

本稿はベンチャーキャピタル「YJキャピタル」パートナーで代表取締役社長の堀新一郎氏によるもの。同氏に許諾をもらってnoteに掲載された記事を転載させていただいた。Twitterアカウントは@horrrrry。創業期からシリーズA達成を支援するプログラムCode Republic(コードリパブリック)では第7期を募集中

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外交官でも「賃貸契約拒否」の意外な理由ーー不動産テックにやってきた新たなチャンス

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2030年に向けて日本が抱える大きな社会課題のひとつに労働人口の問題があります。こちらの推計調査でも出ている通り、このまま何もしなければ650万人近くの「働き手」が足りなくなり、そのしわ寄せはそのまま経営を直撃することになります。 注目されているのがこれまで顕在化していなかった働き手の存在とテクノロジーによる効率化です。特に働き手として注目が集まるのが海外からやってくる方々の存在で、高度な技術を持…

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2030年に向けて日本が抱える大きな社会課題のひとつに労働人口の問題があります。こちらの推計調査でも出ている通り、このまま何もしなければ650万人近くの「働き手」が足りなくなり、そのしわ寄せはそのまま経営を直撃することになります。

注目されているのがこれまで顕在化していなかった働き手の存在とテクノロジーによる効率化です。特に働き手として注目が集まるのが海外からやってくる方々の存在で、高度な技術を持った人材から、ホスピタリティあふれる働き手までバラエティに富んでいます。

テクノロジーカンパニーであれば、優秀なエンジニアの採用を海外に求める企業も増えているので、この傾向は向こう10年でさらに強まることが予想されます。

もちろん課題もあります。特に生活の根幹をなす「住」については、例えば年収で1000万円クラスの高度な人材であっても、賃貸契約を結べないケースがあるのです。しかもその理由は非常にアナログで「海外の人たちを信頼できない」という曖昧なものだったりします。

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参考資料:アットハースウェブサイト

アットハースは、外国人向けの賃貸物件契約手続きをオンラインで完結できる多言語対応プラットフォームを運営しているスタートアップです。これまで2000件以上の海外人材の移住相談を受け、サポートしてきました。

本稿ではその経験から見えた、海外人材獲得時に発生する「住」に関する落とし穴を共有したいと思います。

外国人材の受け入れ準備が進む日本

日本政府としても労働人口の減少については当然課題に考えており、2019年10月からは法改正によって賃貸契約の骨幹となる重要説明事項のPDF送付が可能となり、訪日する前の段階でもオンラインで契約できる状況を作り出しています。こういった具体的な法改正やビザの緩和、オリンピック開催の期待感から在留外国人は過去最多の282万人と増える一方です。

国家として受け入れの間口が広がる中、外国人材の賃貸契約には困難な壁が待ち構えています。それが保証会社との契約、つまり与信審査のクリアです。

審査に落ちる意外な理由

理由は何だと思いますか?

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参考資料:アットハース

過去にあった2000件ほどのケースであれば、年収がどれだけ高く、また、通訳などのサポートがあったとしても、契約者本人が日本語でコミュニケーションが取れないと多くの保証会社が審査落ちするんです。もっと具体的に言うと、国内で働く年収1000万以上のマネージャーや外交官の入居が断られています。

実際、エジプトやマダガスカルの外交官が入居拒否されたということで相談をいただいたケースもあります。残念ながらこういう方々はホテルなどに滞在することで急場をしのがれています。

日本賃貸住宅管理協会の短観によると、賃貸借契約全体で97%が保証を求められる中、100%の外国人材は保証会社を利用しているそうです。つまり彼らにNGを出された場合、住む場所が確保できない、ということになります。

ちなみに同じく短観で、日本人の家賃滞納率は前年比1.2%増の8.2%です。当たり前ですが、与信とコミュニケーション能力は別物です。これだけの問題で、払える能力を持った顧客を排除するのは大きなビジネスチャンスの喪失です。

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参考資料:アットハース

2030年に向けた獲得競争

もちろん、ここに気がついている事業者も増えています。エポスカード社は、エポスグローバルという外国人に特化した保証商品を持ち、大きくシェアを伸ばしていると聞いています。それに追随するかの様に、大手の保証会社数社はハイエンドの外国人を中心に獲得を急いでいるようです。

しかも保証会社に支払う料金は通常、日本人が支払う賃料の50%ではなく、100%でも払うケースが多いそうです。特に前述した外交官のようなハイエンドの外国人はお金の問題よりも、そもそも住めるかどうかという深刻な問題に直面している、というのがよく分かります。

ちなみに私たちに依頼をしてくる方々の多くは年収1000万円から2000万円のエンジニアやマネージャー層が中心になっているので滞納されるケースはこれまでありません。支払い賃料額もそれなりで、6割は10万円以上、20万円以上という方も2割います。

課題が明確なだけに私たち含め、業界全体がテクノロジーで解決を目指し、大きな社会課題の解決につながればと思っています。

<参考情報>

本稿は外国人向け賃貸物件契約手続きプラットフォーム「AtHearth」を運営するアットハース代表取締役、紀野知成氏によるもの。Facebookアカウントはこちら。彼らの事業や採用に興味がある方、彼らとの取り組みを希望する企業はこちらからコンタクトされたい

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スタートアップの「認知変化」を生むストーリーづくり、その方法(後半)

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続きです。前回はスタートアップにとって認知変化(パーセプションチェンジ)がPR戦略において重要ということをお伝えしました。世の中の雰囲気が自分たちの思い描くビジョンの方に流れてくれれば、あとは用意した新しい体験の勝負に持っていけるからです。 手法としてプロダクトの磨き込み(体験向上)やイベント(ファン育成)、ストーリー(話題づくり)を挙げました。本稿ではちょっと理解しにくい話題づくりについて整理し…

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続きです。前回はスタートアップにとって認知変化(パーセプションチェンジ)がPR戦略において重要ということをお伝えしました。世の中の雰囲気が自分たちの思い描くビジョンの方に流れてくれれば、あとは用意した新しい体験の勝負に持っていけるからです。

手法としてプロダクトの磨き込み(体験向上)やイベント(ファン育成)、ストーリー(話題づくり)を挙げました。本稿ではちょっと理解しにくい話題づくりについて整理してみます。

宣伝はもうお腹いっぱい

スタートアップにおけるストーリーとは「社会の認知と目指すべきビジョンのギャップを埋める物語」という定義です。前回の例で言及した「電話でタクシーからスマホでUber」の物語は、決済と行き先を事前に済ませておけば移動という体験がすごく気持ちよくなる、というものでした。

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では、こういった体験を人々にどうやって伝えるのがよいでしょうか。

創業期のメルカリは取材時、サービス自体の説明をしたことはほとんどありませんでした(後発で「フリマアプリ」というキラーワードの開発が終わっていたことも要因です)。それよりも「すぐ売れる」という体験や、「これから世の中、もったいないことはしたくない」という社会の変化を伝えていました。また、ダウンロード数などを積極的に開示することで「みんなが使ってる」という雰囲気を作り出したのも彼らが上手だった点だと思います。

<参考記事>

今、私は取材する側としていろいろなサービスの売り込みをお聞きしますが、多くの場合、自分たちのソリューションを語って、社会とのギャップについて言及されることはあまりありません。あったとしてもすごく長くて難しかったり、世の中のトレンドとズレていたりすることが多いです。

ソリューションが溢れ出した今の時代、ここの言語化が非常に重要になっているのです。

ストーリーをどう作るか

本題です。これまでPOSTで実際に起業家のみなさんと一緒にストーリーを作ってみて気がついたポイントはいくつかあります。

コンテンツとして(1)社会の変化を伝える(2)構造を紐解く(3)違った一面を見せる、あたりが重要です。次に書き方としては(1)140文字に意味を入れる(2)自分で語る(ナラティブ)(3)Why・What・Howを語る。逆に良くないパターンとしては(1)定性的(2)宣伝(3)長い、という特徴が挙げられます。

(1)社会の変化を伝える

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「中国ソーシャルコマースの衝撃ーー「インスタ+Amazon」“RED”(小紅書)攻略法」

特に日本はそうですが、東京都内で一歩外に出ればコンビニがある、異常なまでに便利な社会になっています。ソリューションが溢れ、広告宣伝に晒される中、人々はそれを使う理由を求めていると感じます。

例えば「新宿のたこ焼き屋がFAX発注をデジタル化できたワケ、344兆円市場の“商機”とは」という記事では、もう誰も使ってないと思われてるFAXが未だ現役の業界でその独特の「理由」を実例踏まえて伝えています。変わりたいけど変われない、だから自分たちの存在意義がある、というメッセージです。

「なぜ人はスニーカーに熱狂するのかーートレードする若者、スーツを着なくなった40代」も同様に、話題になっているスニーカーの個人間売買がなぜ成立しているのか、そこにある世代間ギャップをうまく事例として紹介してくれました。

こういったストーリーは引き出しのひとつです。彼らはイベントやメディア露出の機会にソリューションではなく、こういった空気の変化を伝えることができるのでより多くの視点を観衆に与えることができるようになります。

(2)構造を伝える

典型的なHow to記事ですが、ここをしっかりと押さえることでそれぞれの業界のリーダーシップ認知を取ることができます(興味ある方は「ソートリーダーシップ」で検索してみてください)。最近の起業家YouTuberやTwitterランドでオピニオン出してる方の中にもいらっしゃるかもしれません。

「EXITというドラマ、起業家と投資家はどこで衝突するのか」「起業アイデアの見つけ方「3つのパターン」」「創業期に「従業員」は採用しなくていい」などは普段、裏方である投資家の認知を広げるストーリーづくりとして王道の手段です。メジャー媒体での寄稿連載や書籍出版をされる方も多い分野です。

あまりない情報テーマを見つけるのも重要です。例えば「中国ソーシャルコマースの衝撃ーー「インスタ+Amazon」“RED”(小紅書)攻略法」では、日本語どころか英語にもあまり出ていない、ローカル情報を紐解いています。言語に閉じている情報(もちろん日本から英語もありません)は実は狙い目だったりします。

(3)違った一面を見せる

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「atama plusは最初の100人を熱狂させるプロダクトをどうつくった」

ストーリー関連で私がよくお伝えしているアドバイスに「3つぐらいの顔を作る」というものがあります。王道のソリューション、業界のオピニオン、これに加えてもう一つの顔、です。

例えば「VCを卒業して「介護」という課題に挑戦した理由」では、介護サービスにチャレンジする起業家の挑戦過程を伝えていますが、彼は元々、ベンチャーキャピタルで働いていた経歴を持っていたのですね。このストーリーを作るにあたり、当初はその件について触れていなかったのですが、私にとっても意外な一面だったので、ぜひということでエピソードを追加してもらいました。

また教育関連やAIといった文脈で語られることの多いatama plusさんが投稿したPOST「atama plusは最初の100人を熱狂させるプロダクトをどうつくった」では、開発手法を公開することで組織カルチャーの作り方を表現されています。これも違った一面です。

こういった「社内にある無数の情報資産」を社内広聴し、時々のトレンドに合わせて自由自在に出し入れできる広報・PRチームはやはり強いと思わされます。

効率的なコンテンツ制作の手法を整理する

最後にアウトプット方法について少し整理しておきます。アウトプットは私たち日々、コンテンツを作る側の人でも得手不得手があります。特にスタートアップ・ストーリーとして作る場合のポイントとして(1)140文字に意味を入れる(2)自分で語る(ナラティブ)(3)Why・What・Howを語るを記しておきます。

140文字はご存知の通り、Twitterで投稿できる最大の文字数です。特に日本語は情報量が多いので、この文字数でしっかりとした意味を伝える訓練をすれば文章が筋肉質になります。意識したいのが一文一意で、この小さい塊にしっかりとした意味を加え、140文字に整理し、それを積み上げることで2000文字〜3000文字(スマホで読む時の適量)のコンテンツが作りやすくなります。

あとナラティブも最近の傾向として重要です。ソーシャルが発達した結果、嘘のつきづらい世の中になりました。創業者や経営陣が説明責任を負って真摯に語る方が、第三者視点よりも信用される時代に入っていると感じます。最後の(3)Why・What・Howは(1)の一文一意とあわせて大切で、文章に構成を作る時の羅針盤にするとよいです。

これらは各社スタイルがあると思うのでそれぞれの方法を整理しておくと便利です。

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#スタートアップPR で大切な戦略「認知変化」とは何か(前半)

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スタートアップにPRが大切、だけど何から考えればよいか分からない、という方(特に経営者層)が一定数いらっしゃいます。 昨年、BRIDGEではリニューアル時にPOSTというスタートアップのためのストーリー配信のプロジェクトを立ち上げ、パートナー(ジェネシア・ベンチャーズさん、サイバーエージェント・キャピタルさん)の支援先各社と一緒に取り組みを実施してきました。 <参考記事> スタートアップ・ストーリ…

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スタートアップにPRが大切、だけど何から考えればよいか分からない、という方(特に経営者層)が一定数いらっしゃいます。

昨年、BRIDGEではリニューアル時にPOSTというスタートアップのためのストーリー配信のプロジェクトを立ち上げ、パートナー(ジェネシア・ベンチャーズさん、サイバーエージェント・キャピタルさん)の支援先各社と一緒に取り組みを実施してきました。

<参考記事>

本稿ではそこで得られた知見を元に、スタートアップPRで大切な「認知変化」について、その手法のひとつであるストーリーづくりとあわせてみなさんに共有してみたいと思います(前後編)。

世界を変える、とは何か

PR(パブリック・リレーションズ)の基本的な戦略として認知変化を起こし、行動変化につなげる、というものがあります。いわゆる「世界を変える」と表現されるものです。

例えばここ10年で起こった行動変化に「電話でタクシーからスマホでUber」があります。10年前は電話で配車していたのが、今はスマホで来てもらって、行き先も決済も全て完了している、という体験の変化です。特にアジア圏で英語すら通じづらい場所では、行き先まで指定できてさらに現金がいらない、という体験は一度経験すると元に戻れなくなります。

スタートアップというのはこの行動変化を目指している企業、と言い換えることができるかもしれません。一方で、この行動変化にまでつなげることができた企業というのは、スタートアップした企業の数に比較すればそこまで多くありません。なぜか。

ここで大切な考え方に認知変化、というものがあります。

認知変化(パーセプションチェンジ)とは

戦略PRで有名な本田哲也さんの著書にもある図を参考に、スタートアップにおける認知変化の位置付けを示したのが次の図です。

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三角形の一番上、ゴールの行動変化は「スマホでUber」です。こうなれば勝手にユーザーは使ってくれるし、事業会社は向こうから提携の連絡をしてきてくれます。投資家のみなさんは席についた瞬間「あなたのこと知ってますよ」と言ってくれるハズです。

ここに至るにはその手前にある「認知変化」という段階が必要になります。人々(ステージによってコミュニティの大きさは変化します)が認識を変えてくれる、という「空気感」のことです。

前述の戦略PRの本で有名なエピソードとして洗剤のお話が出てきます。従来白く洗い上げるのが価値だったのに、ある日、白くても雑菌があるという調査リリースが話題になった結果、洗剤の価値が「白」から「除菌」に移ったというものです。わかりやすい空気の変化です。

除菌以前の洗剤が「白ければいい」と思われていたのと同じように、電話でタクシー呼んで別に不便じゃないと思っている方は、いつまでたってもスマホでUberを使ってはくれません。この空気を変える話題づくり、これこそが非常に重要なPR戦略になってくるのです。

もちろん広告や営業で認知ギャップをゴリゴリと解消していくのも一つの手かもしれませんが、少ないリソースで戦わなければならないスタートアップにとって、この空気を変える一手が重要かどうかは明白です。

そしてこれこそがPRパーソンやチームの手腕の見せ所になるのです。

スタートアップが社会の認知を変える方法

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ナラティブなストーリーづくりは認知変化に役立つ(起業家によるPOST)

ではどうしたらいいか。

予算が限られている、時間がない、人手が少ない、失敗があまり許されない、、等々の諸条件を抱えるスタートアップが取れる戦略は限られています。

  • 積み上げが効く(小さく刻める)
  • みんなでできる(プロの手を最小限に)
  • 一石二鳥(売上や獲得に貢献する)

これらのポイントを元に手法を整理すると次のようなやり方が出てきます。そんなに多くありません。

  • プロダクト:製品の体験が最高のPRツール
  • イベント:営業から勉強会まであらゆるF2Fのファンづくり
  • ストーリー:自分たちの見え方を変える話題づくり

プロダクトがどうしようもないのにパブリシティ(宣伝)を最大化させても穴の空いたバケツです。一方で、完成されたプロダクトが最初からある例なんてありません。実際、メルカリは最初、出品できてもお金が下ろせないシロモノでした。しかしとにかくすぐに売れる、という体験が気持ちよく、またたく間に広がっていきました。

ファンを取り込む活動が認知を変える上で非常に重要です。私たちのような専業媒体もそうですが、世の中にはマイクロインフルエンサーと呼ばれる人たちが増えてきました。こういった人たちをファンに取り込み、同心円状に認知を変える活動を仕掛けていくと積み上げが効きます。

最後のストーリーづくりですが、これについてはPOSTで実際に投稿してもらった話題を参考に、後半で具体的なコツなどをまとめてみたいと思います。

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VCを卒業して「介護」という課題に挑戦した理由

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少子高齢化社会において「介護」という機会を避けて通ることのできる人はわずかです。 厚生労働省が公表している平成29年度の調査(参考資料:PDF)によれば、高齢者(65歳以上)の数は約3500万人(平成30年3月末時点)。人口動態からも分かる通り増加の一途を辿っています。一方、要介護と認定されている方の数も同じく増加を続けており、641万人が支援を必要としています。 今、世の中には便利な情報が溢れて…

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少子高齢化社会において「介護」という機会を避けて通ることのできる人はわずかです。

厚生労働省が公表している平成29年度の調査(参考資料:PDF)によれば、高齢者(65歳以上)の数は約3500万人(平成30年3月末時点)。人口動態からも分かる通り増加の一途を辿っています。一方、要介護と認定されている方の数も同じく増加を続けており、641万人が支援を必要としています。

今、世の中には便利な情報が溢れています。

もし、自分の家族がこういった支援を必要とする立場になったら、「介護 方法」といったキーワードで検索するだけで、沢山の情報が手に入ります。まずは公的な機関の窓口で要介護認定を受け、実態調査を受けます。そこからケアマネージャーという介護の専門家と一緒にケアプラン(計画書)を作成して介護サービスを受ける、というのがざっとした流れです。

しかし実際は、ここにある情報ほどスムーズにいかないケースもあります。

ベンチャーキャピタルで出会った大きな課題

私は今、みーつけあという介護のマッチングサイトをスタートアップしています。以前は、EastVenturesというベンチャーキャピタルでアソシエイト・インターンとして働いていました。

スタートアップ投資というのは情報戦です。日々、国内外のあらゆる情報を集め、分析し、どこにギャップがあるのか、どこにチャンスが潜んでいるのかを探り当てるのが勝ち筋のひとつでもあります。私もその一員として日々、社会にある問題点を探る旅を続けていたわけです。

もちろん少子高齢化は大きな課題です。特に介護は国家レベルで解決すべき問いであり、簡単でないのは確かです。でも、だからこそスタートアップする価値があるのかもしれません。調べていく中でいつしかこの大きな課題に挑戦してみたいという思いが溢れるようになったのです。

まず、この課題にシェアの考え方で何か突破口が開けるのではと1つ目のアイデアを試しました。それが「介護版のUber」というものです。特に介護の現場では、介護する側・される側のミスマッチであまりよくない体験が生まれる、という課題があります。もし、双方がオンデマンドにマッチングする環境があれば理想的です。しかし、このアイデアはうまくいきませんでした。

次のアイデア:逆算で理想のケアマネージャーを探す

詳細は割愛しますが、介護というのは厳しいルール(規制)に基づいて実施される社会保障の仕組みです。当たり前ですが、民間が勝手にサービスを展開できない分野で、もちろんそのことを理解した上でうまくマッチングできるアイデアを考えたのですが、予想以上に超えるべきハードルが高かった、とだけ書いておきます。

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逆算で理想のケアマネージャーを探すアイデアに変更した

次です。アイデア実現方法はまだあります。

冒頭に書いたとおり、介護保険サービスを利用するためには、まず介護保険申請後に介護事業所を決めなければなりません。しかし事業所を選ぶ方法は、今のところ、行政の冊子から決めていくしかありません。

さらに言うと、行政の冊子には詳しい情報が載っておらず、ケアマネジャーが働く居宅介護支援事業所の電話番号と住所しか記載されていません。この行政の冊子から、数ある中から最初にケアマネジャー(主にどの介護を必要か判断してもらうため)を決めます。

その中の1人に今後の介護生活(ケアプラン等)を担ってもらうことになるわけです。

実は介護サービスを受ける事業所はこのケアマネージャーの方が決めることがほとんどです。自分で探すこともできますが住んでいる地域によっては、100以上の選択肢があり、介護事業所で働いているヘルパーは平均10名程度です。この中から最適なマッチングを探し当てるのは、情報量の少ない被介護側ではほぼ不可能でしょう。

理想的な事業所と出会えれば結果オーライですが、実際はそうならないケースもあります。であれば、方法はひとつです。事業所から探して、そことつながりのあるケアマネージャーに担当してもらう、というやり方です。

ということで現在、私たちはオペレーションチームを組んで、専門知識があるオペレーターがアドバイスしながら事業所やケアマネージャーを紹介する、という提案をして介護する方々の判断を助けるお手伝いをしています。

さて、いかがだったでしょうか。

こういった社会課題をテーマとした規制事業でスタートアップする場合、課題があまりにも大きすぎて一度に全てを変えることはよほどでない限り難しいでしょう。本当に山登りと同じで、一歩ずつ、もし道が違っていたら別のルートを探る。ただ、登るべき山頂だけは見失わない、こういった基本が大切なんだと実感しています。今後、同じような大きなテーマに挑戦する方の参考になれば幸いです。

<参考情報>

本稿は介護相談・マッチング「みーつけあ」を開発・提供する株式会社みーつけあ代表取締役、洞汐音氏によるもの。Facebookアカウントはこちら。彼らの事業や採用に興味がある方、彼らとの取り組みを希望する企業はこちらからコンタクトされたい

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atama plusは「最初の100人を熱狂させるプロダクト」をどうつくった

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私たちatama plusは本日、プロダクト開発時のユーザー像として掲げている高校生のペルソナ(※)「藤井真一」と中学生のペルソナ「藤井純二」を外部向けに公開しました。モデルを登用し撮影したイメージ画像や3Dフィギュアを作成し、オフィス内で常に視界に入る場所に設置しています。 本稿では彼らを通じて得た、スタートアップにおけるプロダクト開発の学びをみなさんと共有してみたいと思います。 ※ペルソナ:1…

私たちatama plusは本日、プロダクト開発時のユーザー像として掲げている高校生のペルソナ(※)「藤井真一」と中学生のペルソナ「藤井純二」を外部向けに公開しました。モデルを登用し撮影したイメージ画像や3Dフィギュアを作成し、オフィス内で常に視界に入る場所に設置しています。

本稿では彼らを通じて得た、スタートアップにおけるプロダクト開発の学びをみなさんと共有してみたいと思います。

※ペルソナ:1990年代にアラン・クーパー氏が提言したペルソナ/シナリオ法というユーザー要求分析の手法で、仮想のユーザーをモデル化したもの。

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最初に熱狂する100人は誰だ

「プロダクト開発においてペルソナの作成が大事」とはよく言われるものの、大抵は一部のデザイナー陣だけがペルソナを作成するだけで終わってしまい、社内には全然浸透していなかったりします。そんな中、モデル費、衣装費、スタイリスト費、スタジオ費、写真加工費、ポスター作成費、3Dフィギア作成費等と結構なコストをかけてまでなぜペルソナにこだわるのか。話は創業期にまでさかのぼります。

2017年4月、創業したばかりのatama plusのオフィスでは「最初の100人が熱狂するプロダクトを作ろう」というポスターが壁中に貼られていました。圧倒的なプロダクトを作ればビジネスは後からでもついてくる、という信念のもと、“マネタイズ”なんて議論もなくプロダクト作りに専念していました。

ではどんなプロダクトを作るのに専念したのか?スタートアップは局地戦です。大企業に比べれば人も金もリソースが限られます。あれもこれもの機能を作っている余裕はありません。まずは100人でいいから「熱狂する」レベルのプロダクトを作ろうと決めました。

その100人はどんなユーザーか?

atama plusは中高生にプロダクトを提供していますが(創業当初は高校生のみ)、どのくらいの学力の生徒なのか、学習に対するモチベーションはどの程度なのか、どういう環境で学習するのか等、一口に“ユーザー”といっても色々なユーザーがいます。

そこでペルソナの出番です。最初に熱狂させたいユーザーはどんな人なのか、できるだけ具体化し、皆で認識を揃えました。「ユーザーが熱狂するプロダクトを作る」と言っても、人によってイメージする“ユーザー”が異なれば、それぞれのユーザー向けの機能が入った“それなりの”プロダクトにしかなりません。

例えば“学習意欲の低いユーザー”をターゲットにするようなプロダクトは沢山ありますが、それをひとまとめにするのは危険です。人によってそれは「受験直前期に皆が部活も引退して学習に多くの時間を使っている」という集団の中での“学習意欲の低いユーザー”をイメージするかもしれませんし、また別の人は「夏休みに皆が遊びほうけていて、まだ夏休みの宿題には誰も取り組んでいない」ような集団の中での“学習意欲の低いユーザー”をイメージするかもしれません。

誰しも、より多くのユーザー向けのプロダクトを作りたいと考えると思いますが、いきなり「皆が」「熱狂する」プロダクトを作るなんて無理です。「100人が熱狂する圧倒的なプロダクトを作るか」、「皆がまあまあ使いやすいようなそれなりのプロダクトを作るか」、スタートアップの戦い方は前者です。

私たちがターゲットとする生徒をできるだけ具体的に、メンバー全員が共通認識を持ちやすいようにペルソナとして定めました。藤井真一君、高校2年生、最近学校の授業についていけなくなってきたので塾に通い始めたという生徒です。具体的に、居住地、学校名、部活、塾名、志望校、学力、学習姿勢、理解力、学習時間、趣味、よく使うアプリ、インターネット環境、親の職業、年収等を記述しています。

ちなみに最初にモデルとしたのは、著者の教え子(創業期に現場を理解するために半年間塾講師バイトを行なっていた)の高校生のK君です。以降、atama+ユーザーのファクトが集まってきてからは私たちのプロダクトを提供するユーザーの解像度も上がってきたため、徐々にペルソナをupdateしてきています。

ちなみに、ペルソナの名前はメンバーの名前の漢字から一文字ずつ取って命名しました(例えば、藤井真一の「真」は共同創業者の中下「真」から)。

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「藤井真一君は熱狂するか?」

次第に社内の議論にも頻繁に登場するようになりました。日々、atama+を活用している現場からは色々な声が上がってきます。「〜の機能が欲しい」「〜に困っている」これらを全部解決したい、しかし私たちのリソースは限られる、ゆくゆくは全部の解決を目指すものの、まずは藤井真一君の熱狂につながるものを作ることを優先しました。スタートアップは局地戦なのです。

こうして極めてシンプルながらも、藤井真一君の真のニーズを追求し、藤井真一君が本当に欲しがる機能だけを作った初期のatama+が生まれ、「最初の100人が熱狂する」ものとなりました。その後生徒数が増えていく中で、社内に掲げるポスターを「最初の1000人が熱狂するプロダクトを作る」に張り替えました。

そして、中学生向けプロダクトをリリースするにあたり、中学生ペルソナの藤井純二君が誕生。中学2年生、藤井真一君の弟です。「えー、この前やったばっかなのにもうテストあんのかー!」と言っているような男の子です。

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Valueとつなげて考える

すぐに1000人も超えることとなりましたが、atama plusでは生徒の熱狂というものをずっと大事にしてきています。“勉強”と“熱狂”は遠い概念と思われがちですが、本来、学びは楽しいものと考えており、わからなかったことがわかるようになった時の楽しさを“熱狂”と呼んでいます。勉強をワクワクするもの、自分からやりたいものに変えることを追求するべく、atama plusのValuesの最上位には「Wow students. 生徒が熱狂する学びを。」が掲げられています。

ちなみに、「Wow students. 生徒が熱狂する学びを。」が全ての意思決定時の根幹にあるというのを明確にするために、atama plusの組織図の一番上には生徒がいます。atama plusで何かをやろうと思ったら、誰であれ「〜によって真一君の熱狂を作れる」「〜によって純二君の熱狂を作れる」が説明できないとリソースは投下されません。

スタートアップは様々なバックグランドの人が集まり、様々なチームで一つのMission実現に向かって一丸となって前に進みます。人によって見えている世界は異なるので、全員がサービスを提供するユーザー像を明確にすることが大切だと考えています。

よく「ユーザーファースト」という言葉が使われますが、論じる人の所属や立場、知っている情報の差によって、ユーザー象の形がグニャグニャ変わってしまうと何のためのファーストかよくわからないものになってしまいます。結果として、誰のニーズも満たすことのできない、“それなりの”機能を沢山搭載した、誰にとっても使いにくいプロダクトが市場に生み出されていきます。

atama plusでは“ユーザー”という言葉がほとんど使われません。現在では、真一君、純二君以外にも晴美さん(藤井家の母)、友子さん(大学生講師)、川村さん(塾の教室長)、福原さん(塾の本部管理者)と多様なペルソナが存在しますが、メンバー全員が各ペルソナを深く理解しており(新入社員は入社時にペルソナ研修を受けます)、社内の会話は「友子さんのためにどうしたらよいか?」「川村さんのために何を明らかにすればよいか?」といった感じでペルソナをベースに行われています。

今後も、全員で常にペルソナを意識し続けたいという想いから、この度ペルソナの実写化、3Dフィギア化まで取り組みました。私たちのイメージにあうモデルの選定(素人っぽさが出せるモデルなんてなかなかいない!)から衣装選定までとても大変でした。

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実際の撮影風景(撮影協力:CCCフォトライフラボ)

そんなにコストをかけてまで、なぜatama plusはペルソナに投資するのか?社内中にペルソナがいることで、全員が常に「Wow students. 生徒が熱狂する学びを。」を意識し続けていきたいからです。

atama plusはこれからも生徒が熱狂するプロダクトを作り続けていきます。

We will wow students.

<参考情報>

本稿はAI先生「atama+」を開発・提供するatama plus代表取締役、稲田大輔氏によるもの。Facebookアカウントはdaisuke.inada.10。彼らの事業や採用に興味がある方、彼らとの取り組みを希望する企業はこちらからコンタクトされたい

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起業アイデアの見つけ方「3つのパターン」

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私は現在、YJキャピタルにて起業ほやほやのシードステージからIPO直前のレイターステージのスタートアップに投資をしています。 2016年8月からCode Republicというアクセラレータプログラムを開始しました。プロダクトがローンチできていない企業にEast VenturesとYJキャピタルで計700万円出資して、起業家のスタートダッシュをサポートするプログラムです。投資のカテゴリーでいうとシ…

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Photo by Akil Mazumder on Pexels.com

私は現在、YJキャピタルにて起業ほやほやのシードステージからIPO直前のレイターステージのスタートアップに投資をしています。

2016年8月からCode Republicというアクセラレータプログラムを開始しました。プロダクトがローンチできていない企業にEast VenturesとYJキャピタルで計700万円出資して、起業家のスタートダッシュをサポートするプログラムです。投資のカテゴリーでいうとシード投資に該当します。色々試行錯誤しながら、1ミリでも起業家に貢献できるプログラムを作ろうと日々取り組んでいます。

シード投資を開始して再認識したのが「起業ってこんなにも難しいのか!」という点です。

恐れ多いですが、本当にシード投資するまではそこまで実感していなかったと思います。

YJキャピタルは2012年からベンチャー投資を開始したのですが、主にシリーズA〜Cラウンド(アーリーステージ〜レイターステージ)の投資をメインに活動してきました。

シリーズAとは、プロダクトが完成し、マネタイズも証明できて、これから顧客獲得を積極的に実行するための資金が必要、という段階の資金調達ラウンドのことと一般的に言われています。大体、起業してから1〜2年後に実施するケースが多いです。(筆者注:様々な定義がありますが、詳細の説明は割愛します。詳しくはこちらのリンクを参照してください

50%以上のシード期の起業家がピボットする

話はシード投資に戻ります。

起業って滅茶苦茶難しいんですよね。シリーズAに進める会社ってそんなにないんです。色々なデータが転がっていたりしますが、私の肌感覚だと、シード>シリーズAが通過率30%、シリーズA>シリーズBが通過率30%。シード>シリーズBが要するに10%というイメージです。

しつこいですが、70%の会社はシリーズAに進めずに会社清算したり、リビングデッドになったり、受託会社として生存したり・・・。なかなか厳しいですよね。簡単じゃないです。

で、本題に入りますが、シード投資をしていると頻繁に遭遇するのが「ピボット」(ビジネスモデルの変更)です。創業時に立てた事業仮説を元にサービスを開発して、実際にローンチしてみたら想定していたほど多くの人に使ってもらえない。自分の立てた仮説が間違っていた・・・。これが日常茶飯事です。これがリアルです。

出資を受けている起業家にとって最悪の時間とも言えましょう。投資家(株主)からは「いつリターン出る?」というプレッシャーを浴びながら、新しい事業アイディアを考えなくてはならない。一番最初に考えていたアイディアへの執着が強ければ強いほど、新しいアイディアが全く思いつかないどころか、元のアイディアを見直すことでどうにかならないか諦めがつかない状況に陥り、前進できない日々が訪れます。

シード期の会社にとって、この状況に陥る確率が非常に高いです。私の経験上、50%以上のシード期の起業家がピボット(事業見直し)に直面します

しかし、一度も起業したことの無い、初心者起業家さんは「自分は絶対失敗しない」と思い込んでいます。俺をあの失敗した奴らと一緒にしないでくれよ、と。僕もこれから挑戦する希望に満ち溢れている起業家に「かなりの高確率で失敗するよ」なんて挑戦する前に言い難いです。

実態はかなりの確率で最初のアイディアで最後まで走り抜けていないケースが多いんです。kurashiruを運営するdelyは最初フードデリバリー事業やっていましたしcoincheckは昔、STORYS.JPという人生投稿サイトを運営していました。起業する前にボツになったアイディアとか数え上げたらキリがないでしょう!

成功している起業家は、失敗事例をあまり表で語らないのと、超ポジティブThinkerなので、失敗を覚えていなかったり(カウントしていない)するので、正しく語り継がれていないのが実態だったりします。

「成功してもらいたい。でも失敗確率が高い。なので、一度や二度の失敗で諦めずに、気持ちを切り替えてどんどんチャレンジする覚悟持っておこうよ」とお伝えしていこうと思います。

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Photo by Pixabay on Pexels.com

新しい事業アイデアはどう作る?

さて、新しい事業アイディアを考える状況に追い込まれた起業家さん。「次のアイディア何やればいいですか?どうやって見つければいいですか?」という相談をよく受けます。また、「まだアイディアが見つかりません」と半年経過しても先に進めない起業家さんもいらっしゃいます。なかなか辛い時間です。

そもそも、一番最初に思いついた事業アイディアはどこから湧いて出てきたのか振り返ってみましょう。きっかけは大きく3パターンあると思います。

  1. 事例起点
  2. 課題起点(俗に言う「負」)
  3. 構造変化起点

(1)事例起点

事例起点は、米国や中国で流行っているサービスの日本版を考えることでアイディアの具現化を進めていくパターンです。ヤフージャパンは、米国ヤフーの日本ローカライズで大成功しましたね。最近の身近な例だと、Ladder.comをローカライズしたビズリーチなどが挙げられます。事例起点は、最先端のニュースを日々チェックする必要があります。ビジネスは誰もがチャレンジしたことがない方法で競合に情報戦で勝ち、儲けていくのが基本的な戦いです。

情報戦は最先端の情報を掴みにいくことで、ライバルを出し抜くことが可能になります。国内のライバルがチェックしていない情報源を漁ると面白いかもしれません。意外に最新の情報だけでなく、歴史を調べるアプローチもチャンスがあったりします。例えば、ハウスクリーニングってそもそも誰が一番最初に始めたのかな?誰が一番稼いでいるのかな?と深堀りしていくアプローチです。繰り返します。情報戦なのでライバルが知らない情報を分析することでチャンスが見つかるのです。

(2)課題起点

課題起点は、自分が普段から感じている既存サービスの課題だったり、社会人経験からくる特定の領域の課題だったり。自身が「あー、これ面倒臭い」と感じる課題を、「こうやったらもっと便利になるんじゃないかな?」というアプローチでビジネスアイディアを考えるパターンです。BASEの鶴岡さんはご自身ではないですが、鶴岡さんのお母様が大分で婦人服の小売業を営んでいらっしゃって楽天やAmazonに出店するのが難しいと感じている、という現場を目のあたりにし、ITリテラシーのないお母様のような方でも簡単にECショップを開設できるサービスを作ろう、というのがそもそもの始まりでした。

このパターンにおける大事なことは普段から観察力を高めていくことでしょうか。普段の会話で家族や友人が「あー、しんどい」と言っていたとしたら、その理由を追求する習慣というか意識を普段から持ち続けることが重要です。アイディアが思いつかないと言っている人は、目の前に沢山チャンスが転がっているのに注意して観察していないから見過ごしている、とも言えます。私は起業してないので、偉そうに書いていて申し訳ございません。ただ、成功している人は観察力が鋭いです、と記しておきます。

(3)構造変化起点

構造変化起点は、ユーザーの行動や環境が変化するタイミングに新しいビジネスチャンスを見つけるタイプです。ガラケーからスマホにシフトするタイミングで新しいサービスが沢山出てきたのは記憶に新しいですね。アプリで料理レシピ動画を見れるkurashiruは、その代表的な例です。変わってから準備しても良いですが、新しい環境に切り替わるタイミングでロケットスタートを切れるように、ちょっと早めから準備すると良いです。ただ、タイミングを読み違えることもあるので一定のリスクを含みますね。

VRやARなどはデバイスの浸透率に大きく左右されるので、タイミングはとても重要になってきます。難しいですね(涙)DMMの亀山社長が、1989年公開映画「バックトゥーザ・フューチャー PART2」を鑑賞し、作品の中で未来の世界が描かれているシーンで未来の人たちがテレビに向かって鑑賞したい映画の作品名を問いかけ、テレビがそれに応えてリクエストのあった作品を放映する、というシーンを見て「レンタルビデオ屋はやがてなくなる。これからはコンテンツの時代だ」とレンタルビデオ屋からピボットしたという伝説があります。

恐るべきアンテナですね。。。(驚)

以上、3つのパターンを紹介しました。あくまでも”きっかけ”ですので、実際は上記の3つの複合技になっていたりします。鋭い読者の皆さんは、3つの視点が過去、現在、未来という時間軸で分類されることに気付いたでしょうか。私も自分で書きながら、今気付きました(笑)。

「アイディアの作り方」(1998年。ジェームス・W・ヤング)では、

アイディアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外のなにものでもない

と記しています。ぶったまげるような新しいものってないんですよね。組み合わせが新しいだけなんです。

新しい組み合わせを作るためには、普段から”何かないかな”、と五感を研ぎ澄ませて入ってくる情報全てを事業化に置き換えていく意識が必要です。情報だけ入手しても事業化できないと情報通で終わってしまいますので。課題だって見過ごしているかもしれません。

見つけ方自体にウルトラCはありません。普段から、過去や先進事例、世の中で起きていること、将来起こりうるであろうことを因数分解して、どこにチャンスがあるのか?そうした視点を持って起業のアイディアを探してみて下さい。

Facebook、Googleを超えるアイディアが見つかりますように!

<参考記事>

本稿はベンチャーキャピタル「YJキャピタル」パートナーで代表取締役社長の堀新一郎氏によるもの。同氏に許諾をもらってMediumに掲載された記事を転載させていただいた。Twitterアカウントは@horrrrry。創業期からシリーズA達成を支援するプログラムCode Republic(コードリパブリック)では第7期を募集中

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EXITというドラマ、起業家と投資家はどこで衝突するのか

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全ての投資家にとって、M&AだろうがIPOだろうがEXIT(編集部注:保有株式の売却)を迎えるときは感慨深くなる瞬間です。特にシード・アーリーステージを主戦場とする投資家にとっては、M&Aでも約2〜4年、IPOの場合約7〜8年という歳月を共にした起業家との一つの区切りになる瞬間でもあるからです。一方で感慨深さとは別に、EXITの局面というのは、それまで同じ船に乗っていた起業家と投資…

Photo by Gratisography on Pexels.com

全ての投資家にとって、M&AだろうがIPOだろうがEXIT(編集部注:保有株式の売却)を迎えるときは感慨深くなる瞬間です。特にシード・アーリーステージを主戦場とする投資家にとっては、M&Aでも約2〜4年、IPOの場合約7〜8年という歳月を共にした起業家との一つの区切りになる瞬間でもあるからです。一方で感慨深さとは別に、EXITの局面というのは、それまで同じ船に乗っていた起業家と投資家の利益にコンフリクトが生じる可能性がある場とも言えます。

先ずはIPOによるEXITのケースを見てみましょう。IPOの場合、基本的にHappyになるケースが多いのですが、典型的なコンフリクトしては2つのケースがあります。

IPOケース(1)公募価格が起業家と投資家で折り合わないケース

「上場できる時に上場する」という昔からの格言もあるように、起業家としては一旦は公募価格に関わらず上場したいという場合があります。

投資家としてはもう1年頑張ればもっと高い評価を得られるかもしれないので粘ったらいいのに、と思うこともあるのですが、最終的な意思決定は起業家に委ねられるのでこの場合はコンフリクトが生じます。もっとも、1年後に市況が変って上場そのものができなくなるケースも全然想定されるので、どちらが正しいということはないのですがとてもよくあるケースです。

とはいえ、投資家の中には、公募価格が折り合わないと優先株式の普通株式への転換に同意しないという方もいらっしゃるので、やはり、丁寧にコミュニケーションを取ることが必要になると思います(IPOでもM&AでもEXITの際には、全ての優先株を普通株に転換しなければいけません)。

IPOケース(2)公募時の売却数について折り合わないケース

こちらも結局は上記の公募価格に紐づくものですが、日本のIPOマーケットの場合、IPO時の初値から2週間くらいのレンジで高い株価がつくことが多いです。(初値天井って言葉もあるくらいですから、、)もちろん、優れた企業は長期的に高い株価を形成していくのですが、客観的な事実として、そうなっている企業の数は限定的だったりします。

その場合、投資家心理的には、初値から早いタイミングで売る方がリターンが増えるので、売出には極力応じたくない、一方、起業家側からすると資金調達も必要だが、全てを公募増資で行うと経営陣の持分比率の希薄化が大きくなってしまうので、既存投資家からの売出もある程度して欲しいという思惑があり、そこでもコンフリクトが生じます。

もちろん、上場時の流動性の確保や、VCのように“いつかは売る”、すなわち株価に影響を与える存在は売出時に極力減らしておいた方がいいという主幹事証券からの指導も入るので、最終的には双方にとっての妥協点を見出すことになるのですが。

一方、以前にも書きましたが、売出時に全てのVCが応じているケースもあります。これは、発行体側のCFOが頑張って、公募価格をそれなりに上げることに成功して、既存の投資家もまあ、納得のいく値段で売却できる環境を作っているケースです。それでも、上場してから、公募価格の2倍になっているケースなどもよくあり、やはり全部を売出に応じじる必要はなかったなぁ、、、というケースもあります。

逆に上場後すぐに下方修正で、大幅に株価が下落するケースもあったりするので、何が正しいのかは判断が難しいところではありますが。

Photo by fauxels on Pexels.com

M&Aの場合に発生する4つのケーススタディ

次にM&Aのケースを見てみましょう。

一口にM&Aといっても、(1)投資家も含めてハッピーなケースと、(2)投資家は泣くけど起業家はハッピーなケース、(3)投資家はハッピーだが起業家が泣くケース、(4)投資家も起業家も泣くM&Aの4つのパターンがあります。1と4のケースは、良くも悪くもコンフリクトが起こりにくいです。1は当然ですが、4は明らかに“敗戦”なので諦めがつくからです。

コンフリクトが起こりやすいのは、2と3のケースです。この場合共通するのは、“微妙な金額”でのM&Aということに尽きます。

“投資家は泣くけど起業家はハッピーなケース”

例えば、直近のファイナンスが40億円のバリュエーションで3回の調達(ポストバリュエーションはそれぞれ5億、15億、45億とします)で累計10億円集めたとします。その時点での経営陣の持分比率は50%とします。ここに30億円での買収オファーがきたとします。前提として、起業家は経営株主として普通株で持っていて、投資家は全て種類株(残余財産分配権1倍の参加型)だっと仮定します。

起業家はそろそろ頃合いだなと思い、30億円という金額でも、オファーを受けるという選択肢を選んだ場合、優先株であるので全ての投資家に一定のリターンは出ます。(編集部注:優先株の場合、出資した額は分配権の倍率で優先的に分配される。さらに参加権で残った財産の分配にも参加できるため)

起業家にももちろんリターンが出ます。しかしながら、最後のラウンドで入った投資家のリターンはかなり限定的になります。それが投資後1年以内だったりすると、ファンドのLPから怒られる可能性すらあります。これが典型的に起こるコンフリクトの一例です。投資家の間でもそれなりに儲かる投資家とそうでない投資家が出るので、なかなか調整が難しくなります。とはいえ、最後は起業家の気持ち次第なので、投資家サイドも合理的な判断をせざる得なくなります。

起業家がやる気をなくなったらその時点でおしまいなので。

更に話をややこしくすると、最近多いのはVC持分だけ買い取って(それだけで50%の持分を得る前提)、経営株主である起業家の持分は引き続きステイというケースがあります。買収する側としては、起業家に更に頑張ってもらうためにもインセンティブとしてターゲットのKPIを達成したら、先の例でいくと2〜3年後に50億円の価値で残りの株を買い取るよみたいな契約をしておくような場合です。

これは買収する側としてはある意味当然のヘッジ手段だと思います。ところが、VC持分を買い取った後、半年もたたないうちに経営者持分を買い取るようなケースがあるのですが、これだと、単にVC持分だけ安く買い取って経営者持分は高く買い取るような恰好になってしまい、コンフリクトどころか大きな問題に発展する可能性もあります。こういうケースがが増えたりすると、VC側としては買収価格の妥当性を信じることができなくなり、M&AによるEXITに影響を及ぼす可能性があるのでできれば避けたいものですね。

“投資家はハッピーだが起業家が泣くケース”

投資家によっては投資契約書の中に、一般的なタームとは別の特約条項をつけているケースがあります。例えば、投資家が求めるIRRをクリアしていない場合、優先株式から普通株式に転換する比率を変えるというものです。優先株1株に対して普通株1.5株みたいなパターンです。すると先の例のような“微妙な金額”のM&Aの場合、その条項が発動する可能性が高く、結果として起業家の取り分が大きく減ってしまうことになります。

そうなるとコンフリクトどころではないですね。。

投資を受ける際は起業家の方も明るい未来を描いているので、そのような特約条項がついていてもあまり気にならないかもしれませんが、もし投資契約を締結する際にそのような特約条項がついていたら、よく考えた方がいいと思います。

長くなりましたが、投資家にとってEXITは最も大事なイベントの一つではあるのですが、長年連れ添った起業家との区切りのタイミングでもあり、コンフリクトが生じる場面でもあることがご理解頂けたと思います。少しでもそのようなコンフリクトを避けるのは、両者で力を合わせて“企業価値を上げること”に他なりません。

ということで、既存の投資先の起業家の皆さん、これから出会うであろう起業家の方々と共に真に価値のある企業を一緒に作っていけたらと思います。

<参考記事>

本稿は独立系ベンチャーキャピタル「STRIVE」共同代表パートナー、堤達生氏によるもの。起業家と投資家のみえにくい相反事例について詳しく、同氏に許諾をもらってnoteにて掲載された記事を転載させていただいた。Twitterアカウントは@tatsuken0205。スタートアップの資金調達、事業について相談したい場合の壁打ちにも応じているので、志ある方はこちらから連絡されたい

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中国ソーシャルコマースの衝撃ーー「インスタ+Amazon」“RED”(小紅書)攻略法

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ここ数年、アジアのEC市場は目を見張る成長を遂げてきました。 特に大きな注目を集めるのが中国です。2019年11月11日、Alibaba Group(阿里巴巴集団)によって中国最大の買い物日となった独身の日(W11, ダブルイレブン)でAlibabaは、毎年のように売上記録を更新し、2018年に308億米ドル(約3.4兆円)だった売上は2019年には384億米ドル(約4.2兆円)を記録しました。 …

ここ数年、アジアのEC市場は目を見張る成長を遂げてきました。

特に大きな注目を集めるのが中国です。2019年11月11日、Alibaba Group(阿里巴巴集団)によって中国最大の買い物日となった独身の日(W11, ダブルイレブン)でAlibabaは、毎年のように売上記録を更新し、2018年に308億米ドル(約3.4兆円)だった売上は2019年には384億米ドル(約4.2兆円)を記録しました。

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2012-2019、独身の日取引額の推移(資料:バベル)

独身の日と比較される米国のブラックフライデーの2019年のEC売上は74億米ドル(約8,100億円)であることや、日本の楽天の2018年における国内EC流通総額が3兆4310億円であることを考えるとその勢いがよく分かります。

また、AlibabaのW11における化粧品・コスメカテゴリのGMVは、前年比で64%以上増加しており、彼らの成長を牽引しています。同時にこの中国のEC市場を考察する際、なくてはならない存在がKOL(Key Opinion Leader、日本におけるインフルエンサー、以下「KOL」)です。マーケティング戦略で欠かせない役割を担うようになっています。

そして今、この分野で彼・彼女たちが熱視線を送っているプラットフォームが「RED(小紅書、以下「RED」)」です。

私たちバベルは中国・東南アジアなどのグローバル市場で、日本企業のデジタルマーケティング・販売支援を手掛けており、中国のEC市場、特にソーシャルコマース市場の急成長を身を持って実感しています。一方、中国市場を攻めるためには独特のルールも知らなければなりません。

そこで本稿ではこのREDを通じた、日本から中国市場に挑戦するためのノウハウを共有したいと思います。

中国版“インスタ+Amazon”「RED(小紅書)」

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ソーシャルECのRED(小紅書)

RED は「世界中の良いモノが見つかる」をメインコンセプトにしている、中国最大規模のソーシャルコマースプラットフォームです。2019年7月時点で、REDは登録ユーザー数は3億人以上、月間アクティブユーザー数(MAU)は1億人以上に達しております。

Weibo(微博)やWeChatと肩を並べる、中国5大プラットフォームの内の1社として急成長しており、中国のデジタル広告宣伝費のほとんどがこれらのプラットフォームに投下されています。

衣食住すべての日常生活にまつわるレビュー(口コミ)投稿型のSNSであり、コスメ、ファッション、旅行、グルメなど、多様な体験が写真や動画を交えて投稿されています。中国の消費者、特に若い女性にとって必要不可欠なサービスとなっています。

一方で他のSNSと異なるのは、アプリ内で商品を購入できるソーシャルコマースに最初から取り組んでいる点です。いわば「Instagram」に「Amazon」のようなEコマースがプラスされた「コンテンツ型ソーシャルコマースプラットフォーム」といったところでしょうか。

FacebookやInstagramなどもショッピング機能の統合を計画しており、実際にInstagramからコマースへの導線は実現していますが、その遥か先を行っているのがREDです。ユーザーの属性は都市部在住で、iOSを使っている(=可処分所得が高く比較的裕福な)20代の女性が主体です。

中国では中産階級に属する人が4億人を超えて内需が拡大し続けています。その結果、品質の良い日本製品の需要が高まっており、ブランド企業にとっていかに中国のアウトバウンド及びインバウンドのマーケティングチャネルを確立していくかということが課題視されています。

日本の良いモノ、観光地に関する情報収集のニーズが日々高まっているため、日本在住の中国人や訪日中国人によって、RED内で日本に関する投稿が日々増加しています。

中国ECでも最も重視されているレビュー(口コミ)

これは中国に限ったことではありませんが、商品やサービスの購買においてレビュー(口コミ)の重要性は非常に高いです。一方、その信頼性については各メディアで評価が分かれています。

コンテンツ型ソーシャルコマースのREDと通常のECの違いは、ユーザー間の信頼関係の有無です。

REDはユーザー間のコミュニケーションを重視し、Instagramのように動画や画像といったフォーマットで、クオリティと共感性の高いコンテンツの投稿を促すことにより、ユーザー間の信頼関係を構築しています。

ユーザーが写真とともに商品やサービスのレビュー記事を投稿・シェアし、その記事を読んだユーザーがそのまま商品を購入できる、という導線を作り上げています。

RED攻略における4つの最重要ポイント

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かつては百貨店で売れたコスメも、スマホで新たに認知を獲得しなければ売れない時代、どのような点が重要になるのでしょうか?REDを参考に紐解いてみます。

  • コンテンツ・イズ・キング
  • アルゴリズムを理解する
  • KOL選定と最適なコンテンツ制作
  • 中国現地事情に精通したパートナー選定

(1)コンテンツ・イズ・キング

最も重要なことは、プラットフォームの特徴を理解することです。まず、REDのユーザーは、20代女性がほとんどであり、特に海外のコスメ・美容情報に特化していること。

ユーザーエンゲージメントが高い関連投稿を表示するという、アルゴリズミックフィードが実装されており、TikTokと同様にフォロワー数と関係なく、質の高いコンテンツがユーザーにインプレッションする、コンテンツ・イズ・キングのプラットフォームです。

この点は、フォローしているユーザーの投稿がフィードに多く表示される、InstagramやYoutube等のプラットフォームとREDの大きな違いになります。

(2)アルゴリズムを理解する

では、TikTokと全く同じ仕組みかというと大きく異なる点があります。

REDには投稿の累積効果があります。投稿数の多寡がブランド認知に直結しており、過去の投稿も検索結果への上位表示や検索時のレコメンド順位に影響しています。

アルゴリズミックフィード主体のプラットフォームは、一時的なインプレッションを大量に集め、コンテンツがフローで流れてくのが基本ですが、REDの投稿には長期的に何度も繰り返し読み返されるストック性があります。

また、Board機能によってユーザーは自分のお気に入りの投稿をまとめ上げ、何度も見直します。(PinterestでいうBoard・InstagramでいうSave機能が非常に良く使われているイメージです)

(3)KOL選定と最適なコンテンツ制作

KOLマーケティングにおいては、どの商品を、誰に、どのようなストーリーで投稿してもらうか、といった点が最も重要です。上記のような特徴およびアルゴリズムをしっかりと理解し、データ基づいた広告プランニング、投稿スケジュール策定、動画/画像クリエイティブ制作をすることでマーケティング効果を最大化できます。

(4)中国現地事情に精通したパートナー選定

最後に、中国現地事情に精通しており変化の激しい中国市場への適応能力が高いマーケティングパートナーと組む、もしくは自社内にチームを構築することです。中国マーケットは目まぐるしく変化しており、中国展開を初めて行う事業会社が自社で全て対応するのは非常に難しく、マーケティングパートナーを組むことが現実的な選択肢となっています。

いかがだったでしょうか。

資生堂などはいち早く中国市場に参入し、成功している会社の1つです。

1981 年に北京市からのオファーを受け、「グローバル SHISEIDO」という当時のブランドを輸入品として北京飯店などでの販売開始。資生堂の中国進出の始まりです。資生堂のように長く中国で挑戦している会社のいくつかは成功しております。

2019年、資生堂の売上全体における、中国の比率が18.7%となり前年比で+12.8%伸びております。日本国内は+3%で、アメリカは-1%、欧州は+1.1%だということを考えると非常に重要な拠点となっており、成果が出ていることが分かります。

中国市場が熱気を帯びている今、企業の成長戦略における重要性がさらに増すことは確実です。

<参考記事>

本稿は中国と日本で動画総合広告プランニングを提供するバベルの代表取締役、 杉山大幹氏によるもの。Twitterアカウントは@tamiki_。彼らの事業や採用に興味がある方、彼らとの取り組みを希望する企業はこちらからコンタクトされたい

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離婚で持ち家はどうなる?財産分与、3つの方法とは

昨年末に離婚を公表したお笑いコンビ「FUJIWARA」の藤本敏史さんとユッキーナこと木下優樹菜さんのニュースが世間を賑わせました。 芸能人の離婚がワイドショーで取りざたされていますが、現代において日本の夫婦は、3組に1組は離婚すると言われている時代です。これは、婚姻数の低下に加えて離婚数が増加していることにより、分母と分子の幅が狭くなってきているためです。厚生労働省のデータによれば、1970年代は…

broken heart love sad
Photo by burak kostak on Pexels.com

昨年末に離婚を公表したお笑いコンビ「FUJIWARA」の藤本敏史さんとユッキーナこと木下優樹菜さんのニュースが世間を賑わせました。

芸能人の離婚がワイドショーで取りざたされていますが、現代において日本の夫婦は、3組に1組は離婚すると言われている時代です。これは、婚姻数の低下に加えて離婚数が増加していることにより、分母と分子の幅が狭くなってきているためです。厚生労働省のデータによれば、1970年代は婚姻数が約100万件に対し、離婚数は約10万件、つまり10組に1組は離婚すると言われていました。しかし約40年の間に婚姻数が66万件に減少し、離婚数は約23万件に増加、つまり3組に1組が離婚するという数値になります。

また、余談ですが、離婚が圧倒的に多い月は「3月」、2位は12月となっており、お子さまの学校や、税金や健康保険など、区切りの良い月を選択されている傾向にあります。

厚生労働省「平成22年人口動態統計」より

 

結構な確立で発生する離婚ですが、気持ち的な問題以外にも重たい決断が待ち構えています。そのひとつが「お家」です。借家であれば次の住まいを探す程度で済みますが、「持ち家」だった場合はなかなか大変です。

実際、結婚後に住宅を購入していた場合その家をどうしていくのか、という点に頭を抱える人が多くいらっしゃいます。名義は夫婦の共有名義になっているがどうしたらいいのか、住宅ローンがまだ残っているがどうしたら・・・。結婚後に購入した住宅が、離婚によってどのような影響を与えていくのでしょうか。私たちは、中古住宅の買取マッチングサービス「インスペ買取」を運営しているのですが、こういった問題を抱える方々の声も定期的に届いています。

では具体的に何が起こるのか、みていきましょう。

まず、結婚後に住宅を購入した場合、住宅は「財産分与」の対象になります。離婚後に今の住宅をどうしていくのかを考える下準備として、住宅の名義人、住宅ローンの債務者を確認する必要があります。財産分与の方法はいくつかあります。

  • 住宅が単独名義の場合、奥様との共有名義にすることで住宅を1/2ずつ所有する
  • 夫婦の共有名義の場合、相手方に代償金を支払い、単独名義に変更する
  • 家がいらないという場合は、売却をして資金を1/2ずつに分ける

では、離婚に伴う住宅の問題点を解決できる方法を3つご紹介します。

home real estate
Photo by Binyamin Mellish on Pexels.com

1:賃貸に出す

家を売却せずに共有名義、もしくは単独名義で家を残しておくケースです。賃借人がつけば家賃収入を見込めるため、住宅ローンを使用していたとしても月々の返済の相殺を期待できます。しかし、人口動態からみて、賃貸の需要が少ない地域ではあまり現実的ではない方法です。

2:仲介会社に依頼し「仲介」にて売却

こちらは双方が住宅を手放したいケースです。仲介会社は「仲介」にて個人の買主を探します。住宅ローンが残っている場合、売却をするにあたり抵当権の抹消、つまり、住宅ローンの完済が必須です。この場合、売却期間の長期化をリスクに背負いながらローンの返済を並行しますが、売却がうまくいけばローンの完済に加えて余剰金が発生する可能性もあります。

しかし、仲介では「個人の買主」を探す必要があるため、SUUMOなどの不動産情報サイトに掲載して近隣の方に見つかる可能性があったり、売却後に瑕疵が見つかるとどちらが責任を負うかなど、さまざまなリスクもあります。

3:買取会社に依頼し「直接業者買取」にて売却

上述の2つ目のケースと同様に住宅を手放すケースです。買取会社に依頼すると買取会社が直接買取るため、仲介の際に発生するようなデメリット(売却期間の長期化や売却後の瑕疵責任など)は避けられます。一方、買取の場合は市場の相場価格よりも低い金額で売却となることも多いため、万が一売却額が住宅ローンの返済額に届かない場合は差額分の資金を工面し返済に充てる必要があります。

ちなみに、仲介に出してから買取会社に依頼するのはオススメしません。というのも、仲介市場で「売れない」ということを証明してしまっては、買取側も手控えるからです。買取側は宅建業者のポータルサイト(レインズ)でまずそこを調べるのでご注意です。

日常のワイドショーでも取り上げられる芸能人の離婚問題をもう少し掘り下げて見ると、さまざまな住宅の問題が隠れていることがわかります。離婚以外にも人々のライフスタイルが多様性を帯びる中、現在、国内には846万戸の空き家が存在し、15年後には2,000万戸以上に膨れ上がるというシンクタンク予測もあります。

<参考記事>

こういった中古住宅の流通をスムーズにすることで、新しいビジネスチャンスも生まれてきます。社会的問題解決の一任を背負う立場として、中古住宅市場の活性化となれば幸いです。

本稿は「インスペ買取」を開発・提供するNonBrokers株式会社のカスタマーサクセス、佐々木大輔氏によるもの。彼らの事業や採用に興味がある方は、こちらからコンタクトされたい。

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