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日本のサブスクブームの立役者、「subsclife」が狙う家具ビジネスを通じた社会の変革と貢献

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 日本でサブスクリプションモデル、いわゆるサブスクのサービスが産声を上げ始めたのは2018年頃くらいのことだろう。企業で使われていたソフトウェアがパッケージソフトから SaaSへとシフトしていった変化がファッションや食の領域にも波及し、メーカーが商品を直接消費者に届けるD2Cモデルの台頭とともに一…

subsclifeのCEO、町野健氏

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

日本でサブスクリプションモデル、いわゆるサブスクのサービスが産声を上げ始めたのは2018年頃くらいのことだろう。企業で使われていたソフトウェアがパッケージソフトから SaaSへとシフトしていった変化がファッションや食の領域にも波及し、メーカーが商品を直接消費者に届けるD2Cモデルの台頭とともに一気に広がったのがサブスクが生まれた経緯だ。

subsclife(サブスクライフ)は2018年、家具のサブスクを他社に先駆け日本国内で最も早くスタートさせており、サイバーエージェント・キャピタル(当時、サイバーエージェント・ベンチャーズ)はサービス開始以来からのアーリーインベスターである。subsclifeのCEOである町野健氏に、同社のこれまでの軌跡、目指す方向、投資家からの資金を事業にどのように活用してきたか、などについて話を聞いた。(BRIDGE編集部注:本稿はsubsclifeのCEO、町野健氏に起業からこれまでの道のりをお聞きしたインタビュー記事の転載になります。質問はサイバーエージェント・キャピタル編集部、回答は町野氏です)

Q1. 数ある社会課題の中で、なぜ家具のサブスクを選んだのか

旧態依然としていた家具業界を元気にしたかった。アメリカの3大ピッチイベントへの参加を通じて、家具業界にもサブスクのトレンドが来ると確信した

町野:450万ダウンロードを誇ったキュレーションアプリ「Antenna(アンテナ)」を辞め、次に挑戦するテーマを探していたところ、声をかけてくれたのが、ほかならぬサイバーエージェント・キャピタルの近藤裕文代表だ。近藤氏が subsclife の前身で IoT 家具スタートアップ KAMARQ の共同創業者らに引き合わせてくれた。KAMARQ の日本法人の代表を務め、2018年に KAMARQ 内で家具のサブスク事業を立ち上げ、それを2019年にスピンアウトさせる形で subsclife が生まれた。

ーー家具のメーカー/ブランドから、家具のサブスクへと事業転換したきっかけは?

町野:事業を進めていく中で、家具業界のことを知れば知るほど旧態依然としていることがわかった。KAMARQ に参加した2015年当時、値頃感のあるいい家具を扱っているのに、売れていない家具屋は非常に多かった。目黒通り(東京では家具屋が多い通りで、インテリアストリートとも呼ばれている)とかのお店を巡ってみても、皆元気が無かった。

サブスクを始めたのは、家具業界でも SPA(製造小売業)の台頭で従来の家具メーカーと消費者の間でアンマッチが起きていると気づいたが一つのきっかけ。それから、VentureBeat に KAMARQ が取り上げられ、アメリカのテックカンファレンス「LAUNCH Festival」でのピッチ登壇に招待されたとき、他のスタートアップのピッチを聞いていて、お金の回収方法はほとんどの会社がサブスクと言っていて、家具もサブスクになるな、と考えたのがこの時。ここから半年かけて、家具のサブスクをサービスインした。

ーーKAMARQ の中でサブスク事業を続けることもできたはずだ。サブスク事業を別会社へスピンアウトしたのはなぜ?

町野:2018年3月にサブスク事業をβ版で立ち上げてから業績は好調だった。サブスク事業では先に家具を仕入れるため大きな資金が必要になり、そのため新たな資金調達に動いていた。そんなとき、サイバーエージェント・キャピタルをを含め複数の VC が手を上げてくれたのだが、サブスク事業に出資したい、と言ってくれる投資家が多かった。そこで、KAMARQ の日本法人だったカマルクジャパンの社名を subsclife に変更しサブスク事業に特化した会社として新たな船出を切ることにした。

Q2. 今までに、subsclife としてのピボットや失敗はあったか

自社製品だけを扱うのをやめることにした。自社製品にこだわっていたら、ここまで大きくはならなかったと思う

町野:2018年3月にβ版をスタートした当初、KAMARQ自社製の家具のみを取り扱っていた。自社製だと家具のバリエーションにも限界がある。しかし、サブスクのお客様のニーズは多種多様で、subsclife に無い家具は別なところで購入してください、というのは使い勝手が良くない。ワンストップで揃えられないとユーザ体験的に良くないという壁にぶつかり、自社製品だけを扱うのをやめることにした。商品を家具メーカーから仕入れることにし、一気にバリエーションを増やして8月にリニューアルしたところ当たった。

ーー家具メーカーとして、自社製品のみを扱うことへのこだわりは無かったのか?

町野:最初の頃は自社製品のバリエーションを徐々に増やしていければいいと考えていたが、想定よりも早く2018年後半にはモノのサブススクブームが来てしまった。2019年にはトヨタが自動車のサブスク「KINTO」を開始して大ブーム、これがあらゆるモノのサブスクに火をつけた格好だ。自社製品のだけ取扱にこだわっていたら、ここまで大きくはならなかったと思う。

思いのほか、家具メーカーが subsclife に共感してくれた。家具メーカーにとって、彼らの商品は値段勝負にすると正直な話キツいが、いい商品をお客に長く使ってほしい、という思いは強い。家具が全然売れていない時代だったが、サブスクで新しい顧客層にもリーチできるようになり、商品がまわるようになったことで、(商品サイクルから)廃棄される量を最小限にできるのはすごくいいと、大きなメーカーがどんどん参加してくれるようになった。

ーー家具は買うモノから借りるモノになっていくのか?

町野:最近の豪雨災害も人災の色が強い。「スクラップアンドビルド」 から「ストックアンドフォロー」への流れは家具の世界にも来るだろうし、いいモノを長く使ってもらえる文化は伸びると考えている。家具 SPA の旗手である IKEA もこのままではダメだということで家具のサブスクモデル(Rent the Runway)を始めた。この文化が浸透していくには5年や10年はかかるかもしれないが、若者ほど商品を廃棄しないモデルが響くようになりつつある。

subsclife でももちろん廃棄はしていない。家具メーカーに(仕入れ時に)お金が回っていく仕組みを作る必要があるため、サブスクで貸し出している家具は全て新品だが、サブスクが終わって戻ってきた商品は、現在のところ、二次流通業者(中古買取)に売却している。subsclife のサービス開始から2年以上が経ちユーザも増えてきたので、将来はサブスクから戻ってきた家具の一定量を subsclife の中で回す、ということも可能になるかもしれない。

Q3. どんな投資家から資金調達すべきか?

厳しい局面が来たときに、状況をわかった上でどれだけサポートしてくれるか。その担当者がどれくらいスタートアップに寄り添ってくれるかは重要

町野:VC から資金調達するには必ず担当者がつく。その担当者がどれくらいスタートアップに寄り添ってくれるかは重要。僕らの事業は(サブスクでお金が入っていくよりも、仕入れで先にお金が出ていく)先にお金が出ていくなので、精神的にすごく忍耐を求められるビジネスモデル。ともすれば、儲からないビジネスだと言い切られるケースも結構ある。実はそうではないのだけれども。「リスクをとってでもファーストペンギンとしてやるべき」という気概のある担当者でないと、VC 社内で(投資実行の)話を通せないはずだ。

ーーサイバーエージェント・キャピタルから資金調達したのは?

町野:しっかりサポートしてくれる、そして、スタートアップの気持ちをわかってくれる VC と付き合いたくて、今回(2020年9月に実施したラウンドで、subsclife はサイバーエージェント・キャピタルを含む10社から約30億円を調達した)もそのようにしている。そんな VC の最たる存在がサイバーエージェントキャピタルだ。厳しい局面においても、今やってることを否定しないでサポートを続けてくれる点に感謝をしている。

世の中には、事業が思い通りに進まず、辛くなったときに計画との乖離を見て、「あーしろこーしろ」という投資家がいることも事実。もっとも、投資家はお金を出してくれている存在だから、僕は投資家はそうやってスタートアップに口を出しいてもいいと思っている。でも、サイバーエージェント・キャピタルの場合、そこじゃなくて、「ここから伸ばすにはどうしたらいいだろう」など一緒に先を見ながら話せるので、その点が非常にありがたい。

ーースタートアップは、どのような VC やキャピタリストと付き合うべきか?

町野:VC とて会社。会社には、ブランディングという意味で人格が出るものだ。そして、誰の人格が出るかというと、現在の、そして、歴代の取締役の人格が最も出ている。そう考えると、サイバーエージェント・キャピタルをこれまで率いてきた人、今も率いている人たちの作ってきた文化が良かったのだろうと思う。もちろん、(親会社である)サイバーエージェントの文化も色濃く出ているだろう。

厳しい局面が来たときに、ただ「あーしろこーしろ」というだけなら誰にでもできる。そんなとき、状況をわかった上でどれだけサポートしてくれるか。出資を受けているということはすごいことだし、VC とて社内調整や投資先の業績について LP(ファンド出資者)に説明を求められることも多いはず。しかし、そういったことをスタートアップに微塵も感じさせないような、投資家に理解してもらっていると経営をしやすい。経営者は投資家への説明コストを最低限にとどめ、本来集中すべきことに集中できるからだ。

僕の場合は、Antenna の時代に近藤さんと知り合えたのはよかった。当時資金調達することはなかったけれど、その時に近藤さんと会ったことから今に繋がる。VC は他の VC をたくさん知っているので、そこからさらに人脈は広がる。起業家を見ているとムダな時間の使い方をしている人がすごく多いように思うが、ほとんどの投資家は、起業家と初めて会った時にそのスタートアップのことを初めて知るので、その瞬間に互いにもっと深く知り合えるように、事業以外の話もいっぱいした方がいいと思う。

Q4. subsclife にとってこれまでのハードシングスは? そして、それをどう克服したか?

なんとか担当者に subsclife のファンになってもらって、社内調整してもらうしかない。だから情熱は大事

町野:サブスクは、商品を仕入れる必要があるので、先にお金が出ていくビジネス。運転資金なので、エクイティファイナンスよりもバックファイナンスの方が必要になる金額は大きい。サービスが売れれば売れるほどファイナンスが必要になるが、まだ赤字のスタートアップが金融機関からデットファイナンスを得るのは非常に難しい。一時期はエクイティで得た資金を充当するなどして凌いだ。

ーーそんな中で、どうやって突破口を開いたのか?

町野:バックファイナンスができないと、サブスク事業が行き詰まるのはわかっていた。なので事業を始める当初の段階で、まず一社リース会社を口説いて、当社にリース枠を与えてもらえるよう注力した。実績はまだ無い会社だったなので、ここはもう論理ではなく情熱の世界。なんとか担当者に subsclife のファンになってもらって、社内調整してもらうしかない。だから情熱は大事。

PL/BS に純然たる欠陥がある会社なので(笑)、序盤はまずリース枠を開けてもらって、実績を積んだら、また枠を伸ばしてもらうということの繰り返し。それで現在に至っている。エクイティファイナンスでの資金調達はリスクマネーなのでデットほど厳しくないだろうが、とにかく、赤字のスタートアップがデットでファイナンスをするのは、それはそれは大変だった。

ーー成長著しい subsclife にとって、会社を大きくする上での課題は?

町野:会社を大きくしていく上で、チームを育てていくのは大変なこと。subsclife は現在20人くらいのチームだが、このくらいの規模になってくると、メンバーのモチベーションを保ちながら、同じ方向を向いて進むのが大変。どの経営者も言っていることだが、僕らも強いチームを作るために体制づくりをいろいろやっていかないといけない。

一方、コロナ禍でリモートでの勤務を余儀なくされた今、社内でよく言ってるのは、チーム感が毎日0.1%くらいずつ削がれていっている気がするということ。チームワークという点では、圧倒的に話す機会が減る。偶然の発見ができる環境を作れないチーム体制で、スタートアップが大手企業に勝てるはずがない。その中でどういう出勤体制がいいかを考えるのに苦労している。

Q5. subsclife が目指すもの、そして起業家コミュニティに期待することは?

インテリアという領域に対しては、どんどんやっていこうと思っている。もっと起業家の仲間が増えることを期待したい

町野:subsclife が目指しているイグジットは、2023年か2024年をターゲットに、東証マザーズへの上場だ。ユーザは順調に増えているが、裾野を広げるために家具のほかに家電にもサブスクの幅を拡大したし、インテリアという領域に対しては、どんどんやっていこうと思っている。

ーー競合も増えてきた。先行する優位性を保つために、KPI のメンテナンスなどはどうしているか?

町野:家具業界は旧態依然としているが、僕らは家具を売る(実際にはサブスク形式で提供する)ことに関しては、売り方を徹底的に科学している。例えば、法人営業について見ると、顧客のリード獲得から納品まで一連のプロセスがあるわけだが、ああでもない、こうでもないと週単位のレベルで変えながら最適化している。3ヶ月前と比べてみても、全く違うやり方で営業している。

商品の調達についても、subsclife の仕入先は400ブランドに上るが、仕入れのプロセスについても徹底して最適化するようにしているところ。まだまだ足りないので、さらに進めていきたい。

ーー antenna で企業内起業をされ、subsclife では外へ飛び出して自ら起業された町野さん。両方を知る立場から、企業内起業されている方に、外へ飛び出すことを勧めるか?

町野:絶対に外へ飛び出して自分でやった方がいいと思う。企業内起業は例えるなら、Zoom でハワイを見ているような感じ。そんなのは実際に現地で体験するハワイにはかなわない。企業内起業は、そんなバーチャルなもののように思う。もちろん、企業内で起業すると、別のプロフィット部門にいじめられることもあるかもしれないが、それって全然ムダな経験で、起業そのものには何ら関係ない。

人はどこかに逃げ道があると、そちらへ行ってしまう。人間ってそういうものだから。人間はやっぱり追い詰められた時にパワーを発揮するので、飛び出してやらないと自分の本当の力は出せないと思う。ほら、テスラだって一時期は本当に資金繰り危ないと言われたけど、今はちゃんとやれてる。企業内起業できる人は、絶対に能力的に独立してもできる。ただ恐怖観念がまさっているだけだ。

僕が以前 antenna をやった2012年当時と比べると、今は圧倒的にスタートアップはやりやすくなっているし、調達もだいぶやりやすくなっている。一回バンジーを飛ぶと、二回目以降飛ぶのはすごく簡単になる。もっと起業家の仲間が増えることを期待したい。

創業から15年、MBO・IPO・他業種参入を経てなお成長を続ける Fringe81 のサバイバル術

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 2017年6月に上場を果たした Fringe81(フリンジ ハチイチ)は、スタートアップの中では2005年設立の古株的存在だ(創業時の社名は RSS 広告社)。前身は日本のスタートアップ史のプロローグに必ず名前が出てくる会社ネットエイジ(現在のユナイテッド)の一部門で、当時、経営危機にあったネッ…

Fringe81代表取締役の田中弦氏

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

2017年6月に上場を果たした Fringe81(フリンジ ハチイチ)は、スタートアップの中では2005年設立の古株的存在だ(創業時の社名は RSS 広告社)。前身は日本のスタートアップ史のプロローグに必ず名前が出てくる会社ネットエイジ(現在のユナイテッド)の一部門で、当時、経営危機にあったネットエイジを復活させる切り札として広告事業に参入したのが創業のきっかけだ。(ちなみに、ネットエイジは ngi group、モーションビートと名称を変え、スパイアとの合併を経て、現在のユナイテッドに至る)。

MBO、IPO、そして祖業である広告事業とは全く異なる B2B SaaS への参入と体制を大きく変化させてきた同社は、おそらくコロナ禍の大きな社会変化に対しても最も強い適応能力を持つ会社の一つではないだろうか。進化論でダーウィンが語った「唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」というフレーズは、この時代を生きるスタートアップへの励ましのようにも聞こえる。長きにわたり愛される企業を目指す Fringe81 のサバイバル術を、創業者で代表取締役の田中弦氏に聞いた。(BRIDGE編集部注:本稿はFringe81代表取締役の田中弦氏に上場までの道のりを聞いたインタビュー記事の転載になります。質問はサイバーエージェント・キャピタル編集部、回答は田中氏、です)

Q1. なぜ、広告と HR テックを事業に選んだのか?

「経営危機にあったネットエイジ(Fringe81 の前身)を復活させる切り札として広告事業に参入したのがきっかけ。(中略)人が辞めていくのをなんとかしたい。社内で目立たない存在の人に感謝を伝えたら、彼らが報われないかな、と考えたのが Unipos のきっかけだ」

企業において、祖業(創業時の事業内容)とその後のキャッシュカウ(安定して利益を上げられる事業)は同じであるとは限らない。むしろ、そこに需要があるかどうかわからないまま事業を立ち上げ、仮説検証をしながらピボットを続けるスタートアップにおいては、事業内容が当初の想定と全く違ったものになることも多い。そこには人員体制や社風の変化、時には混乱を伴うかもしれない。

最初にお目にかかった頃、Fringe81 はアドテクの会社だったと記憶している。その後、いくつかのサービスがラインナップされて、今は何の会社と形容すべきか?

田中:それは非常に答えるのが難しい質問。2017年6月に上場したタイミングでは、Unipos(ユニポス)は影も形も無かった。でも、その後、解約率が非常に低いサービスに育ち、Fringe81 は現在、アドと HR テックの2本柱になっているというのが正しい表現かなと思っている。

創業当初はアドサーバや DMP(Data Management Platform)を作っていたが、それらを一旦閉じ、現在では大きく分けて、アドネットワーク、広告代理業、Unipos を運営しているという状況。以前は、ソリューションに強い会社だったが、その後、全くやったことの無かった B2B SaaS を手掛けるようになり、3〜4年前からすると、だいぶ会社の中身が変わったな、というのが印象だ。

アドと HR テック、この2つの事業を選んだ理由は?

田中:最初からそれを意図的に選んだというわけではない。Fringe81 の前身は、ネットエイジ(現在のユナイテッド)の一部門だった。当時、経営危機にあったネットエイジを復活させる切り札として広告事業に参入したのがきっかけ。システム開発をしなくてもキャッシュが入ってくるのは広告くらいだったので、会社の危機を救うにはやるしかなかった、というのが当時の事情だ。

その後、Fringe81 を MBO することになるのだが、MBO というのはなかなか大変で、会社の仕組みをいろいろリセットしなきゃいけない。そのタイミングで人が辞めたり、人事制度が変わったり、混乱が起きる。人が辞めていくのをなんとかしたい。エンジニアやバックオフィスなど社内で目立たない存在の人に感謝を伝えたら、彼らが報われないかな、と考えたのが Unipos のきっかけだ。

画像提供:Fringe81

Unipos が生まれたのは、社内の混乱がきっかけだったと?

田中:そうとも言える。最初は段ボールを切り抜いて作ったもので、社員に「社内で頑張っている人に投票してください」とお願いして、その中の感動したものに、私が寿司をごちそうするというのをやってみたところ離職率が下がったのがきっかけ。「Fringe81 は社員が辞めずに、どうしてうまくいっているの」と周りの社長に聞かれることが増え、くだんの制度のことを話すと、多くの社長から「サービス化したら買うよ」と言われたので作ってみることにした。

Unipos を立ち上げて紹介し始めたところ、最初のユーザから5社目くらいでメルカリが採用してくれ、それがきっかけで広く使われるようになった。なにせ、Unipos は自分たちの社内課題を解決するためのものだったので、我々の思い入れが深い。役に立つ仕組みを他の企業にも広めることはいいことだし、ベンチャーは新しい人を採用した後、社風に慣れてもらって、社員のモチベーションをどう上げてもらうか、という課題へのソリューションとして受け入れられていった。

アドの事業が走っているところへ、新たに Unipos の事業を立ち上げることは難しかったか?

田中:B2B のクライアントビジネスしかやってこなかった会社に、突然、Web サービスの、SaaS のビジネスを組み込む、というのは会社のカルチャーが全く異なるので、今でも結構苦労しているが、やっと育ってきたという印象だ。広告事業が売上の7〜8割を占めるというのは変わっていないが、現在、会社全体の4分の1程度を占める Unipos の売上もだんだん増えてきている。

アドの事業は、顧客に提案して案件を勝ち取ってくるという狩猟民族的なビジネスで、コンペに負けたら終わり。しかし、Unipos は SaaS なので、一度契約していただくとずっと使っていただけ、農耕民族的なビジネスだと思っている。Unipos はスタートアップやスモールビジネスがユーザの4割程度で、地方の中小企業、病院、タクシー会社、美容院など、多様な業種で採用されている。

Q2. 創業後にやめたことはあるか?

「社長に王冠を被せている会社は死んだ方がいい(笑)。役員みんなで合意して、僕はマイクロマネジメントをやめた」

2005年にネットエイジ(当時)の子会社として創業、その後、2015年に MBO し独立会社となった Fringe81。同社がサイバーエージェントから出資を受けたのも MBO の頃だ。MBO 後ベンチャーキャピタルからの資金調達したことを機に、同社はスタートアップの宿命であるイグジットを目指す旅を始めたことになる。MBO の前と後で、田中氏の行動や考え方も大きく変化したようだ。

MBOの前後で何が最も変わったか? やめたことはあるか?

田中:ネットエイジ(当時)の子会社だったのが10年間、2015年に MBO して現在に至ることを考えると、子会社の時代の方が長かったことになる。子会社社長にはありがちかもしれないが、当時はなんでもやっていた。資金調達もやるし、営業もやるし、開発もやるし、設計もやる。全部やっていた。

しかし、MBO してベンチャーキャピタルから資金調達してからは、投資家にリターンをちゃんと返さないといけないという意識が強くなった。そのためには経営をしないといけない。それからはなるべく自分が現場に出ないようにし、現場を人に任せるようになった。以前から CFO や COO もいたのだが、現場に立たないと不安になってしまって任せきれず、マイクロマネジメントの権化みたいだったかもしれない(笑)。

僕はもともとインターネットサービスを作るのが好きなので、そういう点で農耕民族的かもしれないが、一方では、営業するのも得意なので、狩猟民族的なところもあるかもしれない。人間誰しもそうかもしれないが、やりたいことと得意なことは、若干ズレているかもしれない。現在は経営者になっていくプロセスが楽しくなってきている。いかにカオスな状態になっているものをうまく仕上げるか、というところに時間を注ぐようになっていいる。

現場を任せることができたきっかけは? 役員や社員の動き方は変わったか?

田中:役員合宿をやった時に、「ブレイクスルー・カンパニー(サブタイトル:小さな会社が大きく伸びる法則、Keith McFarland 著、 高橋由紀子 訳)」を読んで、まさにこれだね、ということになった。その本には、「王冠の法則」というのが出てくるのだが、「経営者が王様になる」のではなく、「会社が王冠をかぶる」べきだ、と。

つまり、リーダーが統治する経営から、組織が統治する経営形態に移行しないと、会社は大きくならない。社長に王冠を被せている会社は死んだ方がいい(笑)。役員みんなで合意して、僕はマイクロマネジメントをやめた。そこからは私から役員に、役員からはその先の部下へと玉突き事故のように権限委譲が進んだ。

仕事のスピードはもちろん速くなったが、むしろ、みんなと相談できるようになったのがよかった。以前は、自分が全てを決めるんだということで、一人で悶々としながら決めなきゃならなかったけど、こういう風にやろうと思うんですけど、どう思いますか、って言ってくれるようになった。それによって、私と役員との関係も変わっていった。

Q3. どのように投資家を選んだか?

「サイバーエージェントから投資を受けたかったというよりは、事業提携的な文脈が大きかった。Fringe81 も大きくなっていく中で、サイバーエージェントから多くのことを教えてもらった」

Fringe81(当時、RSS 広告社)がサイバーエージェント・グループから出資を受けたのは2007年12月。まれなケースではあるが、サイバーエージェント本体から投資が実行された。サイバーエージェントの広告配信事業子会社のマイクロアドとの間で、インターネット広告分野の企画・開発でシナジーがあると考えられたからだ。Fringe81 がこの投資から得られたものは、事業シナジー以上に遥かに大きなものとなった。

画像提供:Fringe81に上場承認おりたので沿革をふりかえってみた(調べるお)

サイバーエージェント・グループから資金調達したのは?

田中:実は、MBOのタイミングでは、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV)1社からしか調達していない。イグジットに至るまでのラストファイナンスでもCVC数社から投資を受けたのみだ。2007年12月、当時はまだサイバーエージェント・ベンチャーズ(サイバーエージェント・キャピタルの前身)が設立された直後で、当社はサイバーエージェント本体から出資してもらった。宇佐美さん(現 CARTA HOLDINGS 会長)がサイバーエージェントの取締役をされていた頃だ。

内藤さん(サイバーエージェント取締役 内藤貴仁氏)に当社の社外取締役に就いてもらい、事業面やマネジメントのスタイル、ガバナンスなどについても直接教えてもらった。その後、内藤さんの後を継ぐ形で、近藤さん(サイバーエージェント・ベンチャーズ 近藤裕文氏)に社外取締役に就いてもらっている。

その頃から、当社は新卒を大量採用する会社に変貌していったので、どうやって新卒の社員を抜擢するべきかなど、人事制度の整備が急務になった。そこでサイバーエージェントの人事担当を紹介してもらい、根掘り葉掘り聞かせてもらった。サイバーエージェントは、今でいう社内起業のような「CAJJ プログラム」や、その事業プランコンテスト「じぎょつく」をやっていて、当社でも子会社を多く作っていくことになると思っていたので、子会社社長をどうやって抜擢するべきか、など、ずいぶん参考にさせてもらった。

投資以上に、経営ノウハウで得るものが多かった、と?

田中:えぇ。サイバーエージェントは、子会社や事業をあれだけバンバン作っている会社としては、世の中でおそらく、最もうまくやっている会社。中途採用もしていると思うが、もちろん新卒が中心なはずで、それでいて、あれだけバンバン子会社を作って、よく人材が枯れないなって。それがやはり不思議で、Fringe81も大きくなっていく中で、サイバーエージェントから多くのことを教えてもらった。

元々、広告の会社だったサイバーエージェントが、ゲームを始めて、マッチングアプリを始めて、一時期は金融の会社もやっていた(サイバーエージェントFX のこと。同社はその後、ヤフーが210億円で買収し、YJFX となった)。広告事業だった会社が、なぜこうも変貌できるのかなって。Fridge81 もまさに変わりつつあるところで、その辺りについてすごく興味を持っている。

当初、サイバーエージェントから投資を受けたかったというよりは、事業提携的な文脈が大きかった。その後、Fringe81 も MBO して IPO を目指そうということになったので、近藤さんらの計らいもあって、サイバーエージェント・キャピタルの管轄に移管していただいて、今も株主としてお付き合いいただいたと聞いている。

Q4. どんな重要指標を見ているか? コロナ禍で変化したことはあるか?

「幸い Unipos のチャーンレート(解約率)は、0.8%程度と SaaS の中でもかなり低い数字。(最も効率がいい顧客獲得方法が)実はウェビナーだったというのは新たな発見だ」

田中氏が「狩猟民族的なビジネス」と「農耕民族的なビジネス」と形容したように、コンペが主要な顧客流入経路となる広告事業と、マーケティングが力を発揮する SaaS「Unipos」では、事業戦略は大きく異なる。一般的には SaaS ビジネスの方が売上や利益の予実管理がしやすく、事業をスケールさせやすいと見られている。Unipos のユーザや売上を伸ばすことで、Fringe81 にとっても株主にとっても、先行きの展望を描きやすくなる。

どのような数字を見ているか?

田中:Fringe81では3ヵ年計画を発表していて、基本的にはそれに沿った形で社内で指標を設定している。ただ、現在出している計画は新型コロナウイルスの感染拡大前のもので、広告事業に対しては一定の影響があり、予実にズレが生じてくることは否めないかもしれない。でも、(株主に対して)お約束した数字なので、少し時期は遅れるかもしれないが達成したい。実体経済と広告業界は密接に連携してしまっており、新型コロナウイルスの動向が見通しにくいのは悩ましいところだ。

いずれにせよ、広告事業と Unipos という二本柱は変わらないと思う。幸い Unipos のチャーンレート(解約率)は、0.8%程度と SaaS の中でもかなり低い数字。つまり、一度に入ったユーザほぼやめないサービスということだ。この種のサービスは(国内では)我々以外にあまりやっていないので、とっつきにくかったりわかりにくかったりするので、市場の開拓コストは少しかかってしまっているかもしれないが、解約率と成長率を見ている。解約率は極めて良いので、いかにして成長率を高めていくかが課題。

コロナ禍でマーケティング戦略は変化したか?

田中:これまで、顧客を獲得する上で最も効率が良いのは展示会に出展する方法だった。大企業の方々と直接名刺交換で、「このサービスは面白いね」などと直接話しかけてもらうことができた。そんな機会がコロナで全て奪われてしまったので、ウェビナーをバンバン自社で開催するようにした。顧客獲得コストが以前の3分の1位になり、これまでは対面が最も効率がいいと思っていたが、実はウェビナーだったというのは新たな発見だ。我々の場合、販売するサービスはピボットしていないが、集客方法がピボットしたことになる。

我々単独のウェビナーでも、毎回400〜500人くらいの方々に集まっていただいている。それを毎週やっているので、毎月2,000〜3,000人は集められている計算だ。以前は有名人に来てもらわないと集客できないなどの課題があったが、コンテンツをしっかり作り込めば、「ちょっと受けてみようかな」と思っていただけるようで、参加者のハードルは下がっているようだ。

プロダクトオーナーは別にいるし、ウェビナーはマーケティング担当者が企画するが、ランディングページとか、キャッチコピーとか、お客様が最初に触れるタッチポイントは僕が比較的コントロールしている。プロダクトオーナーはプロダクトを知り過ぎているので、僕は敢えて俯瞰的に見て、彼らが作ってくれたプロダクトを、潜在顧客となる企業の社長や人事担当者にどのように見せるかを積極的にマネージするようにしている。

Q5. 上場直前に経験したこと。そして、後に続く起業家たちへ

「予実管理へのこだわりを持てた人の方が後から苦労しなくていい。カルチャーを先にビシッと決めておけば、結構そのチームは強いんじゃないかと思っている」

上場したことで、その会社は名実共に公器となり、社内だけでなく多くの投資家に対しコミットが求められるようになる。事業拡大に全力を注いできたスタートアップが、理性のあるマネジメントを求められるようになる瞬間だ。上場前と上場後では何が変わるのか? サステイナブルな企業経営を続けるためのカギは何か? 売上の数字を追いかけるよりも大事なこととは何か?

以前は予期したこともなく、上場準備に入って経験し驚いたことは?

田中:上場準備に入ると、ものすごい予実の精度を求められるようになる。証券会社からも、監査法人からも、東証からも。A という事業の α っていう製品の売上がどの程度予算からブレたか、というレベル。ベンチャーは丼勘定なので、成長していればいいじゃないか、って思うのが正直なところだが、上場すると話が違ってくる。上場後に、「予算を絶対達成するぞ」みたいな感覚は、この上場準備の段階ですごく鍛えられた。

よく「上場準備は大変だ」と言われるが、上場してから求められるよりは、上場準備の段階で予実管理へのこだわりを持てた人の方が後から苦労しなくていい。ベンチャーキャピタルなどと話をしていても、彼らは「売上が上がっていて、利益が上がっていて、帳尻があっていればいいですよ」といった感覚だが、上場を迎えるとその中身、つまり、全体として売上が上がっていても「期待していた事業があまり伸びませんでした」といった話を詳らかにする必要が出てくる。

よく経営陣には、アクセルとブレーキが必要と言われる。田中さんはどちら?

田中:2014年に CFO が着任してくれたが(川崎隆史氏)、それ以前は僕がずっと CEO と CFO の両方をやっていたのと、僕の性格でもあるけど、結構細かいところまで見てしまう。財務はもちろん CFO が見てくれているが、僕と CFO で二人三脚っぽくやっている感じ。僕も本当は拡大傾向に走りたいところだが、締めないといけないところもあるので、ちょっと締める方に寄っている。その点、うちの CFO は攻めにも行ける人なので、うまく役割分担できていると思っている。

これから成長を夢見る起業家へひとこと

田中:企業は儲けるのが先か、カルチャーを作るのが先か、という議論をよく耳にするが、僕はカルチャーの方だと思う。仮に事業は死んでもカルチャーは残る。仮に事業をピボットするにも、カルチャーがしっかりしていれば、それをベースにピボット先の事業もアタリを付けやすい。どんなマネジメントスタイルにするか、どんなインセンティブを付与するか、全てはカルチャーの上に成立しているから。

長く事業することを考えるなら、カルチャーを先にビシッと決めておけば、結構そのチームは強いんじゃないかと思っている。市場規模とか、「こっちの業界は競争が激しいからあっち」とか考えるよりも、どんな事業にピボットしても、チームで同じ方向を向いて取り組めるので、サバイブ能力があると思う。

Fringe81 の場合、当初はカルチャーは確固としたものではなかった。もちろん、ふざけて起業したわけではないけれど(笑)、当初は親会社のカルチャーが強い会社だった。子会社だったので、当然と言えば当然だが。MBO して独立した会社になったときに、カルチャーが明確なものになった。そのおかげで、お客が離れてしまうとか、ピンチもいろいろあったが、乗り切れたような気がする。

シードラウンドには意味があるーービザスク、IPOまでの道のり

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 感染症拡大という不安が社会を包んでいる2020年3月、ひとつの銘柄が東証マザーズに公開された。スポットコンサルという新たな「リサーチのカタチ」を提案したビザスクは、個人が自分の力で活躍できる世界を実現し、今ものびのびと成長を続けている。創業者の端羽英子氏は金融畑から起業サイドに転身した女性起業家…

ビザスク代表取締役の端羽英子氏

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

感染症拡大という不安が社会を包んでいる2020年3月、ひとつの銘柄が東証マザーズに公開された。スポットコンサルという新たな「リサーチのカタチ」を提案したビザスクは、個人が自分の力で活躍できる世界を実現し、今ものびのびと成長を続けている。創業者の端羽英子氏は金融畑から起業サイドに転身した女性起業家で、先日、日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2021」の大賞に選ばれた。そんな彼女が上場までのプロセスで何を選択したのか、いくつかの質問でその過程に迫る。(BRIDGE編集部注:本稿はビザスク代表取締役の端羽英子氏に上場までの道のりを聞いたインタビュー記事の転載になります。質問はサイバーエージェント・キャピタル編集部、回答は端羽氏、です)

Q1:この市場を選んだ理由は

個人が売り手になれる時代。社会的な信用が貯まるようなものが出てきてわくわくしたんですよね。

端羽:「SHARE」っていうオレンジ色の本あったじゃないですか。

個人が売り手になれる時代。社会的な信用が貯まるようなものが出てきてわくわくしたんですよね。個人の稼ぐ力が強くなることがやれないかなと思ってました。それで起業しようと考えた時、当初は個人が売り手になれるECサイトを作ろうとしていたんですね。当時の同僚のそのまた同僚、みたいな方々にECサイトを立ち上げた経験のある方を紹介してもらってビジネスモデルの指南というのですか、1時間ほどいただいたんです。そうしたらそれがすごく参考になって。

リサーチにチャンスがあると

端羽:そもそもファンドにいたので社外の知見が投資検討などに役立つことは分かっていました。業界調査の必要性とか詳しい人に話を聞くことの優位性は理解していましたから、これはビジネスになるぞと。小さな単価から大きな単価までとにかく調査をするんですよね。自分自身が業界調査にお金をかけるものだ、という肌感覚があったのは大きかったです。一人一人がやってきた知見を生かせれば活躍したい個人の気持ちにも寄り添えるし、買い手の気持ちも分かる。

やりたいことが見つかって、最初のハードルは

端羽:問題はアドバイザーの方です。

2015年にようやく5000人のアドバイザーが集まったんですが、そこまではずっと苦労してました(笑) とにかく知り合いづてに探して欲しいとお願いしたり、私たちのサービスに「ビザスクlite(現名称)」っていうのが当初からあるのですが、これはアドバイザーの方々のためのものでしたね。やはりリアルな案件が見えていないと登録してくださらないし、アドバイザーの方々も様々で、こういう案件でリクエストがあるんだ、ということを見せないといけない。それ以外にもあちこち登壇してお話をしたりとか、色々やりました。

Q2:限られるリソース、やらないと決めていたことは

端羽:関係のない受託や私が個人で外で稼いだり、というのはなかったですね。ただ、国の案件は受けました。本業そのものだったので。実は外からお金を頂いた最初の仕事は経済産業省の案件だったんです。成熟産業から成長産業に人の経験が流動化する実証実験というテーマで、これはまさに自分たちの仕事だ!と思って。

スタートアップでよく課題になる「最初のエンジニア」はどうやって見つけた

端羽:(金融畑で)当然こういった開発をする知り合いはいないので、外注で始めなきゃいけないと思ってました。しかし外注するにも勝手が分からないので、知り合いに「目利きをしてくれる人を紹介して欲しい」と出会ったのが、今年までCTOをしてくれた花村なんです。そんなにふわふわした内容だと外注とかできないですよ、プロトタイプでも作りましょうかと言ってもらって、もうそこから離さないぞって(笑) 本当にすごいラッキーだったと思います。

そんなこんなで、最初に開発を手伝ってくれる方がいらっしゃって、正式公開のタイミングでフルタイムになってくれたんですけど、フルコミットするまでの前の時間が1年以上ありました。

当時を振り返ってこれをやっておけば、というものは

端羽:ECモデルのダメ出ししてくれた人に出会うのに2カ月ぐらいかかったので、もっと早く会いたかったですね。当時、ソーシャルランチってあったじゃないですか。あれを使って自己紹介にこれこれこういうサービスを作りたいって書いて、会いに行ってました。あと渋谷のシェアオフィスみたいな場所でイベントスペースがあったりすると、そこで人に会いまくったり。とにかくアドバイスはたくさんもらいました。

Q3:PEファンドでの投資経験者として、最初の投資家をどう選んだ

当時、女性の起業家には厳しい時代でした。成功率が低いとか「子供産んで仕事辞めてる人もいますよね」みたいな意見を言った投資家の方もいました。

端羽:シードのラウンドは意味があるんです。

今で言うエンジェルの存在ですね。私自身は個人でスタートアップ界隈には親しい人がいなかったし、お金だけであれば金融出身の知り合いにいけばよかったかもしれません。でも自分も金融出身なので、金融の人間にはないものを持っている人が欲しかった。スタートアップ界隈のネットワークとか、採用ブランディングとか、メディアとのつながりとか。

例えばメディアでもスタートアップ専門に扱っているような媒体は別として、大手のメディアは資金調達を受けていないとなかなか取り上げてくれなかったりします。日経新聞に取り上げてもらって、ビザスクのサイトを見た方が安心してくれたり。

あと当時、女性の起業家には厳しい時代でした。成功率が低いとか「子供産んで仕事辞めてる人もいますよね」みたいな意見を言った投資家の方もいました。面と言われるとびっくりしますよね。ベンチャーユナイテッドやサイバーエージェント・ベンチャーズ(現在のサイバーエージェント・キャピタル)は女性だからということは一切なかったです。

Q4:最重要指標はどう決める

最初は数字が取れませんので、人を説得できるだけの仮説と「思い」を持ってそれを語れるかじゃないでしょうか。

端羽:公表しているところで言うとアクティブなクライアント数、クライアント毎の単価、アドバイザー数なんですが、実際はもっとすごく細かい数字で管理していて、これは最初からそうでした。数字ってコンパスみたいなもので、例えば売上は階段上に成長していったとしても、伸びてる数字と伸びてない数字が見えてきます。ここは伸びてるからいいけどここは伸びてないから止まっちゃうんだよね、じゃあ解決しようかとToDoに落とせます。とってもロジカルな世界なのでやりやすいんです。

KPI設計で苦労したことは

端羽:最初の一年は暗中模索でした。辛かったのは数字の分析は得意なのに、分析するための数字がないという時期がすごく長く続いて。施策のせいで当たったのか、たまたまメディアに出たから動いたのか、数字が小さいと何でも動きやすくなってしまうので、こういう分析ができない時期に「これに違いない」と思ってやれるかどうかはすごく大切です。

数字が曖昧な時にどうやって推進する

端羽:成熟産業に投資していた経験からも、数字で検証できるレベルであれば心を一つにしやすいのです。しかし、最初は数字が取れませんので、人を説得できるだけの仮説と「思い」を持ってそれを語れるかじゃないでしょうか。思いが強い方がやった方が良い。どうせ失敗するので(笑)ある仮説に対して誰かが強くこれをやりたい!、と思えるかどうかが大切かなと。

Q5:創業時、IPOをどのように捉えていた

スタートアップは事業を作るけど、IPOプロセスで会社を作っていくことになる。

端羽:起業したばかりの時は買収かIPO(株式公開)かについては正直、どちらでもいいと思ってました。

しかし(前職のPEファンドでは)散々、上場コストって高いですよねって言ってましたし(笑)、私達が資金調達したころの日本では大きな買収は起こりにくかった。投資するVCはホームラン狙いですから当然、IPOぐらいしないとその規模にならない。だから最初はお作法的に「IPOします」って言わなきゃいけないと思ってた時期もありました。

でも、事業をやっていくなかで意義が見えてきたんですよね。例えばみんなは嫌うかもしれないけど、働くためのルールとか。スタートアップは事業を作るけど、IPOプロセスで会社を作っていくことになる。だって自分たちを全部ひっくり返してみせて、監査法人さんや証券会社さんから「社会の公器になって良いよ」というお墨付きを貰うわけじゃないですか。これは事業戦略としても大切なことだったし、本当に意味があると思ったのでこれはみんなで目指そうよと。

上場終盤に差し掛かった時期の資本政策で気をつけたことは

端羽:最初から海外を頑張るつもりだったので、2回目のラウンドではDCMさんにリードしてもらいました。それとメガバンク系のVCです。驚いたことに、当時はまだ、サイバーエージェントさんですら大企業からみると(信用度が低い)ベンチャーだと思われることがあって、営業する上においてはやはりもっと固めの名前が必要だったんです。それでメガバンクに株主になってもらいたいと思って、みずほキャピタルさんに参加いただきました。そんな感じで海外、営業、採用、こういう形で非常に明確な期待値を持って投資についてはお話させてもらったのはありましたね。

組織も同時に大きくなる。マネジメントで苦労した点は

端羽:もともとマネジメント経験があったわけじゃないんですよ。そういう意味では、マネジメントすること自体がすごいチャレンジでした。例えば、みんなの前で私はこれをこういう風にしたいんだとか、ここまで言葉にしなきゃ分からないのかとか。何冊も本を読みましたし、色んな人たちの話も聞きましたね。自分が思ってる以上に人には伝わってないとか情報共有がされないと面白くないから、一生懸命やるべしとか、基本的なことを大事にし続けたいと思っています。

元々、リーダーシップというよりは分析が得意な人、という見立てを前職の同僚から貰っていたので、まさか社長やって上場するとはとても思っていなかったと思います(笑)マネジメントってスキルじゃないですか。今はまだ100人規模ですからこれを500人にしたらどうなるか、そのスキルは身につけなきゃと思ってます。

ーーありがとうございました。

世界で使われることにこだわったHiNativeーーLang-8の喜洋洋氏、1,500万MAU獲得までの道のり

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 2007年に友人同士で語学を教え合うソーシャルネットワーク「Lang-8」を開始。2012年からは拠点を関西から東京に移し、2014年にサイバーエージェント・ベンチャーズ(現在のサイバーエージェント・キャピタル)からの出資を経て同年11月、語学Q&A「HiNative(ハイネイティブ)」…

Lang-8代表取締役の喜洋洋氏、写真:2018年9月撮影

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

2007年に友人同士で語学を教え合うソーシャルネットワーク「Lang-8」を開始。2012年からは拠点を関西から東京に移し、2014年にサイバーエージェント・ベンチャーズ(現在のサイバーエージェント・キャピタル)からの出資を経て同年11月、語学Q&A「HiNative(ハイネイティブ)」をリリース。

グローバルに利用されるサービスを目指して現在(※)、世界232カ国・113の言語で利用され、月間の利用数は1,500万人のアクティブユーザーを数える。(BRIDGE編集部注:本稿はLang-8代表取締役の喜洋洋氏にスタートアップにおける初期立ち上げについて聞いたインタビュー記事の転載になります。質問はサイバーエージェント・キャピタル編集部、回答は喜氏、です)

※2020年6月時点

このインタビューではサイバーエージェント・キャピタルの出資先のみなさんの成長やカルチャーに焦点を当てて、そのノウハウをお聞きしています。HiNativeは今年6月に1,500万MAUまで成長していますが、元々あったLang-8の次に手掛けた事業ですよね。サービス開発にあたって何か注意したことはありますか

喜:はい、HiNativeはLang-8の次のサービスとして2014年、僕とデザイナーとエンジニアの3人で立ち上げました。当時、シードアクセラレーションプログラムの「Open Network Lab」に採択されていて、そこには日本版「StackOverflow」のQiitaやフリマアプリのFRILL(現・ラクマ)などが在籍していて、彼らがサービスを作る際、ユーザーインタビューを中心に開発を進めていたのを見ていたんです。サービスがまだできる前からユーザーの話を聞きつつ、画面を見てもらいながら進めていた感じでした。

Lang-8から得た気付きとして次の開発に活かしたことはありましたか

喜:実はLang-8の時、色々な機能をごちゃごちゃとつけすぎてしまった反省があったので、HiNativeについては素早い回答をしてもらうということに集中して開発したんです。例えば画面が分かりづらいという意見をもらったらチュートリアルの改善をして対応したり。あと、大切なのは本質的な部分は出してみないと分からないということですね。ただ、当時はこういう質問回答形式のニーズがなかったらピボットしよう、というわけにはいかなかったですけど。

Lang-8のビジョン

世界中のネイティブスピーカーの知と経験の共有

HiNativeの成長過程

2014年11月:HiNativeを開始
2018年05月:500万MAU
2019年12月:1,000万MAU
2020年06月:1,500万MAU

初期のサービス成長はどのような分担で、そして立ち上げの施策はどのようなものでしたか

喜:2014年に開発して、当時はメンバーの人数も少なかったですからそれぞれやることも明確でした。基本的な機能が足りてなかったので開発はそれを追加すること、そして流入についてはLang-8があったので、そちらからの流入とあとは自然流入ですね、こちらで伸ばしていました。

シンプルに広告に資金を投入できるような財務状況じゃなかった、というのもありますが、それ以外にやることが多かったというのが本音です。ただ、2016年に資金調達をしてそこからは意識を変えていきます。

HiNative

喜さんはLang-8での反省として調達した資金の使い方に迷いがあったと過去のインタビューで回答されてました。2014年1月にサイバーエージェント・キャピタルから調達した後、2016年10月に2億円の調達に成功し、2018年9月にはその次のファイナンスに成功されています。資金の使い方と立ち上がり期の成長施策について教えてください

喜:2016年の調達はまだエンジェルラウンドで、個人投資家がメインでした。だから資金はマーケティングというより採用です。ベンチャーキャピタルからの調達がやはり中心の時期でしたから、説得材料を作るのが目的でした。アクセス数やMAU、こういった数字を伸ばすことですね。その後、YJキャピタルさんに6億5000万円を出資してもらったんですが、このタイミングはユニットエコノミクスが見えてきていて、もうすぐ成り立ちそうだ、ということから決めてもらいました。

特にHiNativeの成長を語る上で重要な施策にインフルエンサーを活用したものがありますよね。ちょうど成長グラフの最初の角度が変わったあたりです

喜:はい、2016年のファイナンスのあたりからマーケティングでYouTuberを採用するんですが、まず課金の改善をして、それからですね。たまたま知り合いにYouTubeを使ったマーケティングをしてみたら、ということで紹介してもらったのが始まりです。やってみるとCPAが格段に安くなってしかも再現性がありました。HiNativeと相性がよかったんだと思います。すごくリテンションも高かったので、アルバイトを採用してここを徹底的に伸ばしていきました。

ただ、広告を踏み込むのってそこまで考えてなくて、インフルエンサーマーケティングについてはもう2年前からやっていないです。というのも、やっぱり慣れてくるとCPAって徐々に上がってくるんですね。恐らく取り切ってしまったのだと思います。そこでオーガニックに切り替えてます。

マーケティングで積み上げたユーザーさんが作ってくれた回答がそのままウェブで公開されて、検索流入につながり、そこから入ってきた人たちがまた会員になってくれる、というサイクルです。閲覧する人たちが徐々にダウンロードしてくれるようになるんですね。このぐらいのモデルが回るようになってからマーケティングについては権限移譲を進めて、加速させています。

初期はLang-8のユーザー資産からHiNativeのテスト的な利用を開始し、その後、ファイナンスと共にマーケティングで角度を付けてユーザーがユーザーを生み出すサイクルを作る。その後はオーガニックにSEO中心の施策に移行する、そのような流れということですね

喜:そうですね、(マーケティングも大切ですが)とにかくアプリをよくしていくことばかり考えていました。SEOについても当初は興味がないというか、必要性を感じていなかったんですが、現在は詳しい方に入っていただいて、進めています。これはやるだけ伸びていくので去年は飛躍の年になっています。

これらを支えるチームはどのように作っていますか

喜:今は過去最高に雰囲気がいいですね。特に1on1を導入してから、定期的に設定を細かく共有したり、毎月オンラインで方針を共有しています。僕もみんなからの意見をこれまで聞いていた「つもり」だったのを改善しました。まあ、任せるというと聞こえはいいですが、任せられるモチベーションとスキルの話があるので、モチベーション的にお任せできる方には目標管理までお願いするようになってます。

体験入社を進めていて、エンジニアやデザイナーなどスキルマッチが必要な方については、例えば副業的に土日採用とかを積極的に進めていて、ミスマッチがないか確認してから、コミュニケーションやリファレンスなどを確認して入ってもらうようにしてます。

ありがとうございました。

サイバーエージェント・キャピタル、「Monthly Pitch」今年の締めイベントを開催——通算43回、登壇社数は330社に

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(文中写真はいずれも「Monthly Pitch」のライブストリーミングから) サイバーエージェント・キャピタル(CAC)は毎月第2水曜日、シード・アーリー期の起業家と投資家が集まるピッチイベント「Monthly Pitch」を開催している。9日には、2020年の締めとなる「Monthly Pitch 感謝祭2020」をオンラインで開催した。イベントでは、2部屋に分けて投資家らによる合計6つのパネ…

左から:近藤 裕文氏(サイバーエージェント・キャピタル 代表取締役社長)、北尾崇氏(同 ヴァイス・プレジデント)

(文中写真はいずれも「Monthly Pitch」のライブストリーミングから)

サイバーエージェント・キャピタル(CAC)は毎月第2水曜日、シード・アーリー期の起業家と投資家が集まるピッチイベント「Monthly Pitch」を開催している。9日には、2020年の締めとなる「Monthly Pitch 感謝祭2020」をオンラインで開催した。イベントでは、2部屋に分けて投資家らによる合計6つのパネルセッションが開かれ、VC や CVC など数十社が参加した起業家の1対1のクローズドミーティングも数多く持たれた。

CAC は当初(当時はサイバーエージェント・ベンチャーズ)、Rising Expo という名で年に一度イベントを開催していたが、2016年12月から Monthly Pitch という月1回のイベントに移行した。シードスタートアップにとっては、「年に一度や二度の露出機会では初の資金調達を迎えるまでの息が続かない」ため、月一で開催するようにしたのが Monthly Pitch のマンスリーたる所以である。

CAC のヴァイス・プレジデントを務める北尾崇氏によると、これまでに43回の Monthly Pitch に合計330社のスタートアップが登壇。このうち59.5%(196社)が資金調達に成功したことが確認できたという。Monthly Pitch での露出が直接的に資金調達に結びついたかどうかは不明だが、露出から調達が成功するまでに一定の時間を要することを踏まえて振り返ると、2017年に登壇した88社のうち85.2%(75社)が資金調達に成功したことが確認できたという。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けスタートアップイベントの中止や延期が増える中、ディールソースを確保したい投資家も、資金調達の活路を見出したい起業家も、オンラインイベントへの参加に積極的な姿勢を取っている。Monthly Pitch には投資家やスタートアップへの投資を検討する事業会社が平均40社ほど参加していたが、コロナ禍においては、この数が70社程度にまで増えているそうだ。CAC では Monthly Pitch を当面オンライン形式で続ける予定で、次回は2021年1月13日19時から開催する(エントリ締切は12月15日)。

「Monthly Pitch 感謝祭2020」に参加した皆さん(一部)

ベトナム版Amazonを目指す eコマースの旗手「Tiki」ーー創業から8年を経て見定める新たな挑戦

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 サイバーエージェント・キャピタル(当時、サイバーエージェント・ベンチャーズ)が、後にベトナムを代表する e コマースプラットフォームへと成長する「Tiki」に出資したのは2012年のこと。Tiki が設立されて2年目のアーリーステージの頃だ。 オンライン書店から始まり一大 e コマースプラットフ…

Tiki CEO Tran Ngoc Thai Son 氏

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

サイバーエージェント・キャピタル(当時、サイバーエージェント・ベンチャーズ)が、後にベトナムを代表する e コマースプラットフォームへと成長する「Tiki」に出資したのは2012年のこと。Tiki が設立されて2年目のアーリーステージの頃だ。

オンライン書店から始まり一大 e コマースプラットフォームに成長した点、家のガレージから事業が始まった点などは、さながらシリコンバレーのスタートアップのサクセスストーリーを彷彿させる。ベトナムにおける e コマースの申し子とも言える Tiki CEO Tran Ngoc Thai Son 氏に、同社のこれまでの軌跡、目指す方向、投資家からの資金を事業にどのように活用してきたか、など話を聞いた。

Q1. 数ある社会課題の中で、なぜ e コマースを選んだのか

オーストラリアからベトナムへ帰った来た私が英語の本を読みたくても、町の本屋ではなかなか見つからない。この問題を端緒に事業を拡大していった(Thai Son 氏)。

Thai Son:Tiki が事業を開始したのは10年前のことだ。当初はオンラインのブックストア、それも英語の書籍だけを売る店だった。差別化を図るため、あえて超ニッチでユニークな市場を狙ったのだ。私はオーストラリアの大学を卒業してベトナムに帰ってきた後で、英語の本を読みたかった。でも、良い英語の本を見つけるには、町中の本屋を回って探さなければならない。それで Tiki を作った。

オンラインの本屋が e コマースプラットフォームに変化したきっかけは?

Thai Son:Tiki という名前には、ベトナム語(元の表現は Tìm kiếm と Tiết kiệm という2つの言葉)で2つの意味が込められている。一つは時間やお金を節約できるということ、そしてもう一つは、全てのものを探せる、ということだ。このような体験を実現するために、商品のラインアップ拡充や配達の仕組みなどを構築していった。現在では扱う商品カテゴリは34、商品数も600〜700万点程度にまで増え、オーダーから2時間で配達するサービス「TikiNOW」も提供している。

実家のガレージで事業を始め、当初扱っていたのは英語書籍100商品ほどだったが、次第にベトナム語の書籍も取扱を始め、創業から2年が経過した頃(2012年)には、プログラマやデザイナー数名程度の小さなチームに成長していた。サイバーエージェント・ベンチャーズ(当時)から出資を受けたのもこの頃だ。

その資金を元に我々は広さ100平米ほどのオフィスを借り、倉庫も得て、取り扱う商品カテゴリを拡大することとなった。ユーザの多くは、普段時間がなく買い物を素早く済ませたいオフィスワーカーで、男女比は55%:45%と均衡している。家族とより長く一緒に過ごすために時間を有効に使いたい、利便性やホンモノの商品を好むユーザが多く、他の e コマースプラットフォームと比べて、小売単価が高いのも特徴の一つだ。

Q2. e コマースに必要なインフラをどうやって作ったのか

物流や配送の仕組みは自ら作り上げていった。ベトナム政府が主導するキャッシュレス社会実現に向けた動きも、e コマースプラットフォーム事業者にとって好都合に働いた(Thai Son 氏)。

Thai Son:e コマースをやる上では物流や決済といったインフラが必須だ。配送については当初、国営の VNPost(ベトナム郵便会社)に頼むことにした。しかし、彼らは e コマースなど知らない。e コマースには、素早く届ける配送、安く届ける配送などが求められる。そこで、我々は彼らを教育・啓蒙し、e コマースに合ったサービスを提供してもらえるようにした。

でも、郵便だけでは2時間配送のネットワークは組めないだろう。どうやって?

Thai Son:ベトナムにはラストマイルデリバリのサービスを提供する起業家が多くいる。彼らを束ねて、Tiki の配送に利用させてもらうようにした。VNPost 以外にこういったラストマイルデリバリが利用できることで相互補完できる。Tiki はブランドやメーカーと消費者をつなぐ中間的存在で、このエンド・トゥ・エンドのサプライチェーンのために、ベトナム全土に倉庫を20ほど保有している。

Tiki がアメリカや日本の e コマース事業者と異なるのは、特定の物流事業者に依存せず、自ら物流や配送の仕組みを作り上げている点だ。将来は倉庫など、サービスプロバイダ各社との提携で調達する可能性もあるかもしれない。決済については事業開始当初100%現金のみだったが、人々を啓蒙し次第に決済手段を増やしてきた。Visaやベトナムの銀行などとも提携、最近では電子ウォレットにまで拡大している。ベトナム政府はキャッシュレス社会実現への支援も積極的で、これが現金以外の決済手段を増やす上で我々にとっても追い風になっている。

Tiki のユーザには街での買い物の時間を節約したいオフィスワーカーが多いが、彼らは給料を銀行口座で受け取るので、その銀行口座で決済できることは非常に便利だ(デビットカード的な使われ方)。Tiki の場合、現在は40%がオンライン決済で、60%は現金で支払われている。

Q3. ベトナムの e コマースでトップになるには?

お客が求めているものを即座に実現できることがローカルプレーヤーの強み(Thai Son 氏)。

Thai Son:ベトナムで e コマースを展開するメインプレーヤーは4社いる。そのうちの2社はベトナムローカルで(Tiki と Sendo)、残りの2社は東南アジア地域で営業展開するサービスだ(Lazada と Shopee)。Tiki は売上ベースではベトナム最大となっている。高品質商品を集め、サプライチェーンを構築しており、ロイアルカスタマーが高い支出を使ってくれているのが特徴的だと思う。

そうは言っても、ベトナムの e コマースもレッドオーシャン。勝ち残るための決め手は?

Thai Son:出店型のオンラインモールの場合、お客は注文したい商品を探して店を回り、店毎に注文し配送を受けなければならない。これはお客にとって不便で配送などのコストも高くついてしまう。Tiki では商品を一気通貫で注文でき、大多数の商品については、ハノイやホーチミンシティで2時間配送を実現し、お客の利便性を向上している。

ローカルならではの強みもある。Tiki は最近、食料品デリバリを始めたが、これは当初、今年の年末に立ち上げる計画だったものだ。新型コロナウイルスの影響で消費者は街に出られなくなってしまい、この状況に対応して、食料品デリバリのサービス公開を急遽前倒して4月にスタートした。ローカルだから消費者のニーズが手に取るようにわかるし、エンジニアやサービス開発チームが同じフロアにいるので、優先順位を組み替えて素早く展開することができた。(編注:インタビュー直後、Tiki と Sendo が合併交渉中にあると一部で報道された。この点についてコメントは得られていない。)

Q4. Tiki にとっての成功や目標とは何か? どんなイグジットを考えているか?

正直なところ、今はイグジットのプランはない。我々の目標は常に価値を創り出し、お客さまから最も信頼されるプラットフォームということ(Thai Son 氏)。

Thai Son:我々の目標は常に価値を創り出すということ。そして、お客さまから最も信頼されるプラットフォーム——マーケットプレイス、人による物流網、決済、越境での B2B ネットワークなど、メーカーやブランドと消費者をつなぐエンド・トゥ・エンドのコマースエコシステム——になるということだ。これらは非常に多くの要素で構成され、物理インフラとデジタルインフラの両方が必要だが、誰もがサービスを使えるように、(ベトナムの)都市部だけでなく地方にも展開していきたい。

あらゆるサービスを提供できる「スーパーアプリ」にならないの?

Thai Son:スーパーアプリになろうという計画はない。形のある商品から航空券をはじめとするデジタルな商品まで、カテゴリの拡充を図ってきたし、先に説明したように食料品デリバリを始めるなど、あらゆるものを現在のお客さまに届けること、それを高い水準でどうやって実現するかに注力している。スケールはゆっくり確実に進めていく。決して急ぐことはしない。

これまでに複数のラウンドを通じて資金を調達して来たが、正直なところ、今はイグジットのプランはない。もちろん、経済にとって意味を持つ存在になれば、いつかは売ることになるのかもしれない。今は、エコシステムづくりに必要なものを構築し、先ほどから言っているマーケットプレイス、物流、食料品、広告メディアなどのインフラを作り続けている。

もし我々がイグジットを現時点で考えているとするなら、それは、株主にとってのイグジットだ。アーリーの段階で投資してくれた投資家、そして、我々の従業員に利益を分配するためにセカンダリー取引を行うことを考えている。それに向けた準備は明確な計画を持って進めているが、その具体的な内容について情報を共有することはできない。

Q5. ベトナム国外に進出する計画は?

ベトナム国内だけでも得られる事業機会は十二分にある。ベトナムの e コマースの伸びしろは極めて大きい(Thai Son 氏)。

Thai Son:その質問には2つの答えがある。まず一つには、起業家なら誰しも事業のスケールを目指し続ける必要がある。他の国に展開する可能性があるかと尋ねられれば、それは将来いつかやると思うと答えることになるが、今ではないことは確かだ。

もう一つの答えは、ベトナムのデジタル経済市場が、我々にとって十二分に大きいということ。ベトナムの小売市場全体で、今後4〜5年の間に2,800億米ドル規模にまでに拡大すると言われており、インターネットの普及率を考えると、ベトナムの e コマースの伸びしろは極めて大きい。

ベトナム国内で他事業に進出する計画は?

Thai Son:我々は、 e コマース(商品を発見する)はディスカバリープラットフォームになると考えている。従来ならブランドは自社商品の広告を打って認知を図る必要があったわけだが、Tiki のようにブランドと消費者をつなぐ存在がいることで、ブランドは別途広告を出さなくても消費者に商品に気付いてもらうことができる。Alibaba は中国最大の広告会社であり、Google や Facebook も広告ビジネスの会社であり、Amazon も多くの利益を広告から得ている。e コマースプラットフォームが広告に代わる立ち位置を取れるかもしれないわけで、我々は Tiki にも非常に大きな広告ビジネスの事業機会があると感じている。

このようなことを考えると、すでにベトナム国内だけでも得られる事業機会は十二分にある。国外進出は、優先順位に応じて考えていきたい。

Q6. 日本をはじめ、中国の JD(京東)、シンガポールや韓国の VC など、海外各国から調達している。その理由は?

多くの海外投資家から資金を調達したことで、多くの市場から e コマースの知見を得ることができた。日本の投資家には、ベトナムのスタートアップにもっと関心を持ってほしい(Thai Son 氏)。

Thai Son:これは、Tiki が投資家を多様化する努力をしてきたことの結果だ。世界最高の物流を持つ JD(京東)から我々は多くを学んだ。日本からも韓国からもそうだ。サイバーエージェント・ベンチャーズ(当時)が我々に投資してくれたときには、我々は日本を訪問する機会を得て、楽天を見学することができた。韓国では Coupang、11STREET、Ticket Monster などを訪問できた。それぞれの投資家から学ぶものを得ている。

多くの国の投資家から資金調達することは簡単ではないのでは?

Thai Son:どの国の投資家から資金を調達できるかは、その投資家がベトナムへの投資に興味を持っているかどうかによるだろう。例えば、ヨーロッパの投資家の投資先リストの中で、ベトナムは高順位には入ってこない。一方、韓国の投資家は近年、ベトナムに非常に高い関心を持っている。日本の投資家はかつてベトナムへの投資に関心を持っていたが、それは時期的に早過ぎたという印象だ。

日本の投資家が積極的にベトナムに投資していた8〜12年前は、ベトナムでは e コマースはまだ今ほどポピュラーではなかった。その頃、日本の投資家も数社 e コマースに投資をしていたが、おそらくまだ早過ぎた。今こそベストタイミングであり、日本の投資家にはベトナムにもっと関心を持ってほしい。e コマースがブームとなっている今、ベトナムへの投資を増やしているのは中国や韓国だ。

Q7. 日本の投資家や起業家にメッセージがあれば

一つ言えることは、日本の投資家がベトナムに投資を始めたのはすごく早い時期で、最近は、ベトナムのことを忘れているのではないか(笑)、そして、それは誤った選択になるかもしれない、ということだ。かつて日本はベトナムに非常に多くの投資を行い、工場・発電所・道路・鉄道を作っていった。投資だけでなく、自らやってきてインフラを作っていった。現在ではベトナムが経済成長したことで、そこから得られた利益も大きいだろう。

日本の伝統的な投資家は投資を続けたものの、それは伝統的なインフラ産業に対するものだった。しかし、現在のベトナムはデジタルインフラを構築しているところ。デジタルインフラとは何か、それは、フィンテック、オンライン広告、e コマースなどのプラットフォームだ。こういったデジタルインフラの分野では、残念ながら積極的に投資を続ける日本の投資家に出会うことは多くない。10年ほど前、私が30代の頃は、いくつかの日本企業がベトナムの e コマースに投資を始めていたが、それはまだ早過ぎたのだ。

ベトナム人は日本のブランドに愛着があり、日本の文化や品質に対して好印象を持っている。また、ベトナム人は起業家精神旺盛で、非常に野心的であり、これを見逃すことは投資家にとって不利益になるのではないかと思う。

過去最大の成長を遂げる人事評価クラウドHR Brain、13億円調達してタレントマネジメント分野へ拡大

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ニュースサマリ:人事評価クラウド「HRBrain」は12月4日、Eight Roads Ventures Japanをリードに、第一生命保険、SMBCベンチャーキャピタル、AGキャピタル、SCSKを引受先とする第三者割当増資の実施を公表している。増資に加えて3億円の融資枠を合わせ、調達した資金は最大13億円。前回ラウンドではスパークス・グループが運営する「未来創生2号ファンド」 を引受先とする第三…

HR Brain代表取締役の堀浩輝氏

ニュースサマリ:人事評価クラウド「HRBrain」は12月4日、Eight Roads Ventures Japanをリードに、第一生命保険、SMBCベンチャーキャピタル、AGキャピタル、SCSKを引受先とする第三者割当増資の実施を公表している。増資に加えて3億円の融資枠を合わせ、調達した資金は最大13億円。前回ラウンドではスパークス・グループが運営する「未来創生2号ファンド」 を引受先とする第三者割当増資の実施をしており、累計調達額は22億円となった。

調達した資金は主に体制強化に投じられ、現在80名ほどの体制を早期に120名ほどにまで引き上げる予定。HR Brainは従業員の目標設定から評価までの一連のプロセスをクラウド型で提供するSaaSモデル。2017年1月にサービスインしてから約1,000社が利用している。主なターゲットは100人から300人規模の企業で、昨今のデジタル化や感染症拡大のリモートワークへの移行に伴い、企業の導入が加速している。また、8,000名規模のヤフーが導入するなど、大型のエンタープライズでの一括導入も彼らの成長を後押ししている。

また、蓄積した各社の人材データを活用し、チーム生産性の最大化や人材配置の最適化といったタレントマネジメントの領域についても機能を拡張させている。ビジネスモデルは月額課金で、一定規模の人数のレンジに合わせて段階的な料金が設定される。

話題のポイント:HR Brainさんが大型調達です。同社代表取締役の堀浩輝さんにお話伺ってきましたが、各社のリモートワーク移行がHR Brainの利用加速をかなり後押ししているようです。4月から8月にかけてリード獲得自体は伸び続け、各社の予算決裁関連が通常に戻り始めた9月頃から一気に注文が入って成長率は過去最大になったそうです。

他の業務と異なり、人事評価はあらゆる企業が必要とするものなので、特にリモートワーク環境下ともなると、これまで対面でできていた意思疎通が難しくなりますから、自然と評価の方法もデジタル化しなければなりません。HR Brainはその一丁目一番地にブランドを構えることができたので、自然とこの状況が追い風になった、というわけです。

大切になるのはCSなどのフォローアップです。人事評価は各社ごとに異なるプロセスがありますので、チューニングが必要になります。この辺りは強く認識しているそうで、今回の調達における組織強化もこの辺りが注力領域になってきそうです。

もう一点、人事評価で堅調な伸びを示している以上、次の成長を考え始める時期にきているのが同社です。特にヤフー等の大型導入では、単なる人事評価だけでなく、そこから得られるデータを活用したタレントマネジメント、人材の可視化などの役割を求められるようになります。こういったニーズをオプションとして提供し、アップセルを狙うというのが基本的な考え方のようです。全く違うラインのプロダクトを立ち上げるというよりはHR Brainらしい着実な戦略とも言えます。

「例えば従業員のデータベースとしても使えますか?とか人材の分析や組織の分析、見える化ができるかなどのリクエストをもらうようになりました。特に大型の案件ではこういった要素が必要条件になることが多かったんです。そこで今年の春先から開発を進めていて、人材データベースや組織については機能を拡充しています。今後はピープルアナリティクス領域にサービスを拡大していく予定です」(堀氏)。

ところでこの時期のスタートアップの共通の悩みと言えば組織です。現在80名ほどの体制になるHR Brainですが、前述の通り規模を100名から120名体制に拡大させる予定です。一方、採用レイヤーについては今後、エンタープライズの導入を可能にするトップレイヤーのエグゼクティブクラスを誘う必要があります。堀さんにこの時期の採用条件はどのような考え方か聞いてみたところ、「ロマンとソロバンのバランス」として、前職レベルの報酬に加えてSO(ストックオプション)を提案しているそうです。

10年前ならいざ知らず、今の時期のスタートアップにSOを積むから分かってくれ、では確かに話は通りません。逆に言えば、現在成長株となっている(特に堅調な成長を期待されるSaaS系)スタートアップについては、人材の獲得競争はさらに激しさを増しそうです。

組織づくりで得た「何があっても人を信じるな」の真意ーータイミー小川嶺氏・スタートアップの組織論

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 創業2年で100名以上の組織を作り、20億円を超える出資を集めて成長中のスタートアップ、それがタイミーだ。彼らが提唱する「ワークシェア」の概念は、今、まさに変わろうとしている働き方のトレンドを掴み、大手コンビニや飲食チェーンなどを中心に全国へ拡大しつつある。(BRIDGE編集部注:本稿はタイミー…

タイミー代表取締役の小川嶺氏

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

創業2年で100名以上の組織を作り、20億円を超える出資を集めて成長中のスタートアップ、それがタイミーだ。彼らが提唱する「ワークシェア」の概念は、今、まさに変わろうとしている働き方のトレンドを掴み、大手コンビニや飲食チェーンなどを中心に全国へ拡大しつつある。(BRIDGE編集部注:本稿はタイミー代表取締役の小川嶺氏にスタートアップにおけるカルチャー作りについて聞いたインタビュー記事の転載になります。質問はサイバーエージェント・キャピタル編集部、回答は小川氏、です)

最初は失敗したタイミーのカルチャーづくり

現在の体制規模は?

小川:現在(※2020年5月時点)はアルバイトなども含めると140名ほどの規模になりました。特に今年は新卒採用も実施して新しく20数名が参加してくれています。

一気に拡大すると課題も出てくると思いますが

小川:マネージャー層が優秀なので、一任しています。結局、何かしら一人で自立できる人しかスタートアップという場所にはこないと思うんです。もちろん更に大規模な組織になれば困ったことも出てくるのかもしれませんが。

自律的な組織づくりに必要なカルチャーですが、いつ頃から着手しましたか

小川:渋谷に移転したぐらいの時ですね。サービス開始してから1年後ぐらいです。成長している多くの企業を拝見していると、やはりミッション・ビジョン・バリューがはっきりしてて、会社に入った人たちは同じような共通言語を使うし、こういうものはやはりよいなと。それで20人ぐらいの規模の時に一回作ったんです。ただ、全然しっくりこなくって。それで一旦やめて、50人ぐらいの規模になった時、もう一度作り直したという感じですね。

タイミー、3つのValue

■High Standard : 当たり前の目線を高く
若さや勢いはそのままに、常にハイクオリティな仕事を。全員が即戦力でコアメンバー、業界トップを維持するために学び成長し続ける

■Super Flat : 年齢/役職関係なく
最高の結果を出す人は、年齢や役職など気にしない。誰に対しても率直、謙虚であるべき。

■Yatteiki : 走りながら考える!
業界の先駆者である私たちにとっては、全てがやってみなければわからないことばかり。当たり前のことも泥臭くやりながら、常にチャレンジし続けよう。

最初の挑戦はなぜ失敗した

小川:(最初に作った時は)経営陣ももちろん参加はしていたんですが、知り合いのクリエイティブをやっている方に依頼して作ってもらったものを叩く、という方法でした。特に社員全員をヒアリングして、そこから導き出したんですがそれがよくなかった。

今回は役員などは除いて、実績出してる人を3人ぐらいピックアップして、どうして彼らは実力を出せたんだ、なぜ彼らに仕事を任せられるのか、そういう分析を事細かくしてみたんです。最初の方法は全員に聞いてしまった。でもそうじゃないんです。みんなが認める結果を出してる人を選んで、その共通点を見つけだしてミッション・ビジョン・バリューを導き出す。あまり誰もやってない方法なんですが、すごくいい方法だと思ってますよ(笑)タイミーに入った人が自分はどういう人になればいいのか、そういうイメージしやすいロールモデルを作る。経営陣が作るとそこが乖離する可能性があるんです。あくまで社員の視点で作ることが大切だと思ってます。

カルチャーは作ってからが勝負という声もよく聞きます

小川:月次の報告会などで各エリアのマネージャーが成果を発表する時間があるんですが、冒頭の挨拶で自分が必ず伝えるようにしたりしてますね。あと、やっぱりMVPを決めて表彰するんですが、みんなそれを目指して頑張るのでわかりやすいですね。取れなかったりすると、やっぱり悔しそうな顔をするんですよね。次は自分が取るぞ、と。

あとツールとかももちろん活用しています。同じパーカー着たりとか。ただ、そういうのは組織文化を作るため云々ではなく、社員の自主性に任せておくべきかなと。

人を信じるな、自分を信じろ

小川さんはいわゆる「学生起業家」です。組織づくりで迷うこともあるのでは

小川:解けない問題ってないじゃないですか。考えることを否定しているから解けないわけで、ずっと考え続ければ必ず答えに辿り着くと思ってます。私、将棋好きなんです。詰将棋とかホント最高でずっと考えてられる(笑)

周囲にも優れた経営者たちがいます。助言を求めたりは

小川:他人の(特に同年代の)経営者を鵜呑みにする、というのはやはりしないです。彼らのアドバイスを聞かないというのともちょっと違ってて、自分が目指す経営者像はやはり孫(正義)さんだったり、藤田(晋)さんだったり、南場(智子)さんだったりするんです。例えばあした会議の仕組みとかはめちゃくちゃ参考になりますし。あと、藤田さんからの言葉で「何があっても人を信じるな、自分を信じろ」っていうのがあるんです。

確かに会社には自分よりも経験のある歳上の方がいるので、どうしようかなと思った時、やっぱりあっちを信じたり、となる自分もいるんです。そこを全部こう、自分が全ての責任を負うんだっていう覚悟で自分で決めろ、と。

自分たちのスタイルを作る

小川:それにタイミーって平均年齢で20代の若い会社なんですね。だから基本的になんでも自分たちで作っていくんだという意識があるんです。もちろんティール組織だったり色々な組織論を検討したりはしました。でも結局、そのどれかにハマるんじゃなく、必ず問題は発生しますからそこから導き出す方が正しいと思うんです。

2019年上場を最初に決意ーースペースマーケットが乗り越えた5つの壁

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 2019年の終わり、国内シェア経済を牽引するスペースマーケットが東証マザーズに上場した。重松大輔氏は、スタートアップしたその時から2020年までの上場を決意してこの事業に臨んだという。前職での上場経験を元に彼は何を選択し、何をやらなかったのか。その意思決定のプロセスに6つの質問で迫る。 Q1:シ…

スペースマーケット代表取締役、重松大輔氏

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

2019年の終わり、国内シェア経済を牽引するスペースマーケットが東証マザーズに上場した。重松大輔氏は、スタートアップしたその時から2020年までの上場を決意してこの事業に臨んだという。前職での上場経験を元に彼は何を選択し、何をやらなかったのか。その意思決定のプロセスに6つの質問で迫る。

Q1:シェア経済の中、なぜ「スペース市場」を選んだのか

エンジニアじゃない僕がやる上で、営業ハードルがあるものが自分に向いているだろうなと。まず不動産オーナーを説得して登録してもらうのにはそこそこ営業ハードルがあるんじゃないかと考えたんです(重松氏)。

重松:やっぱりこう、リアルが好きなんですよね。前職がイベントなどの写真をネットで販売する、リアルとバーチャルの掛け合わせみたいなビジネスだったので、そういうのをやりたいなと。あと、マーケットがデカいところで勝負したかったので、不動産市場は非常に大きいですよね。さらにここ、5年〜10年でやってくる大きな技術トレンドを考えた時、アメリカをみたらやはりAirbnbなどが急成長してましたから、この不動産のシェアリングは確実にやってくるし、不可逆な流れになる。

多くが同じようなことを考える中、ここで勝てると信じた理由は?

重松:参入障壁の考え方ですね。エンジニアじゃない僕がやる上で、営業ハードルがあるものが自分に向いているだろうなと。プラットフォームって「ニワトリ・タマゴ」じゃないですか。まず不動産オーナーを説得して登録してもらうのにはそこそこ営業ハードルがあるんじゃないかと考えたんです。

ーー重松氏にもう一つ、スペースマーケット以外に残った最後のアイデアを聞いてみたところ、意外にも、幼稚園や保育園のオンライン化サービスを考えていたのだそうだ。

重松:子どもたちの個人情報ってこれから取得がどんどん厳しくなるだろうなと考えていたんです。当時は幼稚園とか保育園って連絡帳がまだ紙のままだったり、保育代も茶封筒でやりとりしていたり。これは絶対オンライン化できるだろうと考えてました。ここをサービス化できれば、蓄積される子どもたちのデータは大きいだろうし、サブスクリプションのようなモデルも積み上げが効きます。あと、前職でやはり子どもたちの写真を扱ってましたから、想像以上に営業ハードルが高いんですよね。なので、ここは行けるんじゃないかなと。

Q2:創業期に「やらなかった」こと

気をつけていたのがやっぱりカルチャーで、初期の10人ぐらいの時におおよそ決まってくるんですよね。特に最初って誰でもいいから手伝って欲しいという意識ってあると思うんです。でもこれは絶対やめようと(重松氏)。

重松:本当に最初の最初は共同創業者を探すところがあって、私は完全にエンジニアのバックグラウンドはありませんから、ゴリゴリとプロダクトを作った経験のある人を探すっていうのが最初にやったことですね。(執行役員CINOの)鈴木(真一郎)がそうなんですが、まさに妻(※)が昔に投資をした先という縁があって。彼じゃないとプロダクトが成立していなかったのでそれは非常に大きかったですね。再現性は難しいですが(笑)

※重松氏の妻、佐藤真希子さんは現在、iSGSのマネージング・ディレクターで、当時はサイバーエージェント・ベンチャーズで投資を手掛けていた人物

重松:準備期間が2カ月ぐらいあったんですが、私は企画書を作ってひたすらスペースを集めて回ってました。

創業に近い経験で2度目のスタートアップ、出だしでイメージしていたものは

重松:資金調達するところまでを描いて立ち上げていましたね。どうすれば一番良い条件で資金調達できるかイメージして、まずプロダクト出して話題にし、その後、ピッチコンテストで優勝する、みたいな。あと、上場については絶対にオリンピック(2020年)までにやると、創業した当時からずっと考えてました。

逆にやらなかった、やらないと決めたことは

重松:前職(フォトクリエイト)での経験はやはりめちゃくちゃ活きてて、特に組織ですね。私は15番目ぐらいに入ったんですけど、その後、50人、120人と増えていくわけです。それぞれのフェーズっていうのがあって、必要とされる人たちもちょっとずつ変わっていくじゃないですか。

最初はなんでもやるゼネラリスト、資金調達などが進んできたら特定のプロフェッショナルや、他の組織で経験を積んだ人たちが入ってきて。こういった状況を経験済みだったことは大きかったです。それで、気をつけていたのがやっぱりカルチャーで、初期の10人ぐらいの時におおよそ決まってくるんですよね。特に最初って誰でもいいから手伝って欲しいという意識ってあると思うんです。でもこれは絶対やめようと。

だから採用についても、いきなり入社、ではなく、社会人インターンじゃないですが、興味ある方に手伝ってもらって、お見合い期間っていうんですかね。3カ月とか半年ぐらい手伝ってもらってから、資金調達のタイミングなどにお声がけする。これは結果的にやっぱりよかったですね。

Q3:投資家をどう選ぶ

チマチマ駆け引きしたりせず、プロダクトをデッカくして、沢山の方に喜んでもらうものを作るっていうのが大前提ですよね(重松氏)。

重松:特にシードとかアーリーステージの時はやはり人ですね。しっかりサポートしてくれるかどうか。当然、バリュエーションの考え方もあるのですが、トラックレコードじゃないですけど、箔が付くというのでしょうか、こういったブランド価値もあると思っています。

投資家との付き合い方、特に距離感はどう考えてましたか

重松:彼らももちろん(いつかは株を売却しなければならない)そういう生き物なので。ただ、まずはその果実を大きくしなければ話にならないじゃないですか。チマチマ駆け引きしたりせず、プロダクトをデッカくして、沢山の方に喜んでもらうものを作るっていうのが大前提ですよね。

まあ、最後はこう、気持ちよく出て行っていただけるようにする(笑。彼らも別に気前のいい人たちじゃないわけで、しっかりとリターンで商売してるわけですから。期限もありますし、それをちゃんと意識してお付き合いする必要があるわけです。起業家、経営者としてはちゃんと結果でお返しするというのも筋じゃないですかね。

Q4:撤退基準

撤退するっていう頭はなかったですね(笑。まあ、キャッシュが尽きて、投資が付かなかったら辞めざるをえないわけです。今だから言えますが、シリーズBラウンドは結構苦労したんですよ(重松氏)。

ちょっと話を変えて間違いなくイケると思ったタイミングっていつでしたか

重松:まず最初にいけるなと思ったのはサービス開始して半年後のハロウィン。大学生とかがレンタルスペースを借りてくれるようになったんですよ。それまでは正直、あまり鳴かず飛ばずだったんですけど、そこからですね。ふわっと上がるようになって。

ちなみに最初の立ち上げ時期、ビジネス用途で考えてたんですよ。Airbnbのビジネス版。だから最初に入ったスペースも例えば映画館とか野球場のように見栄えするものが多くて。あと、小さい個人宅はリーチがそもそも難しいですよね。そこからは角度が変わるようなことはないにしても、着実に積み上がっていって、さらにそこからサービス開始後3年目ぐらいですかね。いろいろな機能を実装したんです。インスタントに物件を予約できるボタンやポイントのようなサービスですね。その辺が整備されると劇的に伸びていきました。

ちなみに撤退基準って決めてましたか?

重松:撤退するっていう頭はなかったですね(笑。まあ、キャッシュが尽きて、投資が付かなかったら辞めざるをえないわけです。今だから言えますが、シリーズBラウンドは結構苦労したんですよ。当時は経理部長すらいなくて、私が回ってたんですね。もちろん数字も伸びてるんですが、月次で1000万円が1200万円になるとかちょっとインパクトが足りない。最終的にはなんとか出資してもらうことができましたが、なかなか思い出したくない時期ですね(苦笑。

Q5:重要指標はどうメンテナンスする

さらに成長するとレンタルスペースの運用代行の事業者(企業)のような方々が増えてきてその方々の満足度はどうなんだ、というようにまた見るべき数字に変化が出てくる。こういった数字をそうですね、四半期だったり半年で自然と見直してきました(重松氏)。

上場時の開示資料から、KPIはGMV(流通総額)とスペース数とされてました。これは最初から決まってましたか

重松:もちろんそれ以外の細かい指標もあるんですが、大きな数字は最初から変わってないですね。ただ、初期の頃ってすごく稼働しているスペースもあれば、そうでないものもあってそういう傾向というのかな、それが見えてきたのはやはりシリーズBラウンドあたりかな。

チームで数字を追いかけるモチベーションや仕組み

重松:Slackなどで毎日数字のデータが配信されてくるんですけど、それをチームでしっかり評価したりとか、毎月の社員会で進捗を発表したり。上場後は重要なデータは開示できないですけど、未上場であればタイムリーに共有したり、一時期は大きな画面で表示したりしてましたね。ベタですが、可視化はやはり大切です。チームでの数字の追いかけ方ですが、ニワトリ・タマゴのロジックでいくと、やっぱりニワトリ(※スペース)を連れてこないとビジネスとして成り立たないですよね。ただ、何が稼働するかなんてわからないから、とにかく集めてこようよ、というのが初期。

で、徐々に成長してくると、こういうスペースが稼働するよね、実はこのスペースはあまり入らなかったねという「稼働率」が見えてきたんです。さらに成長すると運用代行の企業のような方々が増えてきてその方々の満足度はどうなんだ、というようにまた見るべき数字に変化が出てくる。こういった数字をそうですね、四半期だったり半年で自然と見直してきました。

Q6:上場直前期に起こること

これまで自由にやってきたのに、勤怠管理しなきゃいけないとか、こう、大人の会社になるっていうんでしょうか。これ嫌な人もいるわけです。上場前にも関わらず、やっぱりどうしても合わない人が出てきてしまったり。仕組みが変わってしまいますからね(重松氏)。

上場直前期に特に留意して実行したことは

重松:上場後を見据えてのアクションとして、事業会社に多く入ってもらったことですね。あと、上場後って色々大きく踏み込んだマーケティングなどはやりづらいんですね。そこで2億円ほどを投じて初めてのテレビCMを打ったりしました。今までなかなかやってこなかったようなことを実験も含めてテストしてみた感じですね。あとは社内規定を揃えたり、ガバナンスなど、上場企業として必要な対応などは当然やりました。ただ、これまで自由にやってきたのに、勤怠管理しなきゃいけないとか、こう、大人の会社になるっていうんでしょうか。これ嫌な人もいるわけです。上場前にも関わらず、やっぱりどうしても合わない人が出てきてしまったり。仕組みが変わってしまいますからね。

実はオプションを理解していない人も一定数いるんです。もちろん説明はしますよ。けど、ここが難しいところなんです。行使できる時期も言い切れませんし、あと、オプションでしばりすぎると、それありきみたいになっちゃうのも嫌でしたから。なので、途中から(オプションについては)コミュニケーションは変えましたね。それよりも目の前の事業に向き合って、自分を成長させることができれば、結果的にそういうインセンティブも手に入るし、ホストやゲスト、社会にも還元させることができるよ、と。

 

新時代の組織、ヒントはGoogle流「自律協業」ーーシードで3億円集めたBeaTrust (ビートラスト)のワケ

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コロナ禍は私たちの働き方に大きな影響をもたらすことになった。 これまで「常識」だからと蓋をしていた通勤やヒエラルキー、毎日の仕事の在り方や評価など。成人した大人であれば、個々人の「成長」や「人生」に関わる大問題でもあるにも関わらず、ずっと変えられなかった社会の仕組みが大きく動き出しつつあるのだ。 そして今、この課題により明確なフレームワークを持ち込もうというスタートアップが現れた。具体的なプロダク…

コロナ禍は私たちの働き方に大きな影響をもたらすことになった。

これまで「常識」だからと蓋をしていた通勤やヒエラルキー、毎日の仕事の在り方や評価など。成人した大人であれば、個々人の「成長」や「人生」に関わる大問題でもあるにも関わらず、ずっと変えられなかった社会の仕組みが大きく動き出しつつあるのだ。

そして今、この課題により明確なフレームワークを持ち込もうというスタートアップが現れた。具体的なプロダクトのお披露目はもう少し先だが、今、明らかになっている彼らの思想をお伝えしたい。

ベテラン・スタートアップ

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写真左より: 共同創業者の久米雅人氏と代表取締役の原邦雄氏、VP of Engineeringの長岡諒氏

BeaTrust (ビートラスト)は代表取締役の原邦雄氏と久米雅人氏らが今年3月に共同創業したスタートアップだ。

同社はこのほど、シードラウンドで3億円という資金調達を成功させた。増資に応じたのはリードインベスターとしてサイバーエージェント・キャピタル(CAC)、ラウンドに参加したのはDNX Ventures、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、STRIVE、One Capital,、Delight Ventures、PKSHA/SPARX、みずほキャピタル及び複数の個人投資家。出資はJ-KISS型新株予約権を発行する形で実施されている。

シードのタイミングで3億円も破格だが、これらトップクラスのVCが顔を並べるのも珍しい。なぜか。CACの近藤裕文氏はリードした評価ポイントを次のようにまとめる。

「コロナショックの発生によって、デジタル化(DX)は多くの産業、日本企業とって大きな課題となった一方、それを支援する組織構築から人材活用まで提供できるプロダクトは満たされていません。Google時代に課題感(深刻度)や問題点(進まない理由)を相当把握されていて打ち手も分かってらっしゃる点、原さん・久米さんのGoogle・シリコンバレーネットワークに加え、CACのグローバルネットワークで東南アジア市場の立ち上げをサポートできる点に可能性を感じています」(近藤氏)。

共同創業した原氏、久米氏は共に前職Googleで、最後の仕事をスタートアップ支援に捧げた人物だ。現在、Coral Capitalにて活躍する西村賢氏も在籍していた部門で、アクセラレーションプログラム「Google Launchpad Accelerator Tokyo」や、国内では珍しいGoogleによる出資案件(Abeja、PLAIDなど)などを手掛けていた。

もちろんこれだけでも実績としては十分だが、特に原氏はまさにインターネット・ビジネス創世記とも言えるシリコンバレーにて過ごした経験を持っている。同氏は国内でキャリアをスタートした後、渡米して米SGI(シリコングラフィクス)に在籍していたのだが、ちょうどこの1990年前後の米国インターネット世界は様々なスタートアップの「ビック・バン」とも言えるストーリーを巻き起こしている。

例えば原氏が在籍していたSGIには伝説的創業者、ジム・クラーク氏がいる。

彼がマーク・アンドリーセン氏らと作ったウェブブラウザ「Mosic(モザイク)」は「Netscape Navigator(ネットスケープ・ナビゲーター)」を生み出し、Microsoftと激しい戦いを繰り広げることになった。IEとの戦いに敗れたアンドリーセン氏がベン・ホロウィッツ氏と創業したベンチャーキャピタル「Andreessen Horowitz(a16z)」が支援したSkypeはかつての宿敵、Microsoftに買収されることになり、その後のa16z発展の基礎となる。

離合集散を繰り返しエコシステムを巨大化してきた米国らしいエピソードだ。

原氏はSGIを離れた後もシリコンバレーに残り、スタートアップ支援のコンサルティング・ファームを自分で立ち上げ、このスタートアップ・エコシステムの聖地がどのような原理で事業を生み出していくのか体で感じてきたのだそうだ。帰国後は主に広告畑で日本のマイクロソフト、Googleと渡り歩いた。

BeaTrustを共同創業した久米氏もまた、2回目のインキュベイトキャンプに参加するなど、2010年代の国内スタートアップ・シーンを自分ゴトとして経験してきた人物だ。イノベーションの理屈を知り尽くしている二人だからこそ、これだけ多くの投資サイドが集まったのはよく理解できる。

必要とされる「自律的な」働き方

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BeaTrustウェブサイト・プロダクトの公開は秋に予定されている

本題に入ろう。彼らは何を解決しようとしているのか。

BeaTrustのテーマは大きな視点で言えば「イノベーション」だ。日本企業がイノベーションを起こすために必要な組織、人、文化を作り出すためのHowを提供する。彼らはこれまでの経験から、イノベーティブな企業の本質は「多様な人材による自律的な協業を促すカルチャー」と、それを実現に移すことができる「整備されたデジタルインフラ」にあるとしている。

解決のためのキーワードは「自律的協業」だ。彼らが在籍していたGoogleはチームワークのポリシーとして「re:Work」というコンセプトを公表している。久米氏は今後の企業イノベーションを考える上で重要なポイントにチームの「心理的安全性」と「相互信頼」を挙げる。

「企業が『オープンであること』も重要なファクターです。最近のスタートアップでは割とデファクトになりつつありますが、大きな企業ではまだまだ社員に色々な情報を開示し切れていないところも多いかと思います。人の情報から開示することでコミュニケーションの円滑化や協業機会を増やすカルチャーを醸成することを意識しています」(久米氏)。

一方、こういった話題は抽象論に陥りがちでもある。ルールで自律的に動けと縛っては意味不明だし、かと言って精神論で経営者のように振る舞えと指示をしてはチームワークとして成立するはずもない。そこで役立つのが思考フレームワークの存在だ。特にGoogleはOKRなどの導入でもよく話題になる。BeaTrustはどのような土台を用意しているのか。原氏の考え方はこうだ。

「自律的な協業を促すには、トップがビジョンを明確に示し、開示できるものはすべて開示し、心理的な安全性を担保しつつ、従業員の自主性にあとは任せるというのが道筋です。OKRは個人やチームの目標管理には重要ですが、同時に持続的に学習する文化を組織として根付かせることも競争優位性を保つためには大切だと思います(このあたりもre:Workにうまくまとめられています)。

そのような環境下では自然と社員同士が知識を共有しあったり教え合ったりする行為が活性化します。また、その根っこにあるのはGiver的な精神となります。日本企業の方々とお話をしていて一番感じるのは特に心理的安全性とコア業務を離れて他の社員をサポートすることに対する評価が確立されていないです。その場合、どうしても横断的な協業は中々現場からは生まれにくいと考えます。我々の製品はこのような文化を醸成していく後押しになるようなテクノロジーの基盤を提供していくことにあります」(原氏)。

両氏との会話で、特に印象に残ったのが教えあう文化だ。

コロナ禍に遭遇し、私たちは強制的に自律的な行動を求められる環境に遭遇した。従来型のトップダウンでは声が届かず、監視・管理というマネジメントの仕組みが崩壊した瞬間、組織は新しい方法を示さなければならなくなった。しかし、自律的行動は個々人のラーニングによるところが大きい。しかしもし、組織そのものに「学ぶ仕組み」がインストールされていればどうだろう。教え合う文化というのはこの組織の自己修復力を高めるために必要だというのだ。

冒頭に書いた通り、プロダクトの詳細はまだ披露されていない。秋ごろに公開される予定のプロダクトは次のようなHowの提供から開始するとしている。

  • 従業員の業務内容やスキル・経験の可視化
  • チーム構成・組織体制の把握
  • 横断的かつスピーディで強力な検索機能
  • コラボレーションを生み出すためのコンタクト情報などの表示

会社はあなたのことを考えてくれているのか

取材でもう一つ心に残った言葉がこれだ。昭和の高度経済成長期、仕事というのは言葉通り「人生をかけたもの」が多かったように思う。車を作り、テレビを売り、道路を伸ばして山にトンネルを掘る。情報が乏しい時代、組織は一丸となってダイナミックに動くことが必要だった。「日本的サラリーマン」が輝いていた時代だ。

しかしそこから半世紀近くが過ぎ、私たちの世界は情報化で一変した。スマホで今いる場所にオンデマンドに配車できるし、不用品はどこか遠くに離れた見ず知らずの人に譲ることができる。それも数分で、だ。

企業に求められるイノベーションの頻度はどんどん回数を増し、そこで働く人たちの人生もせわしなく変化が求められるようになる。急流下りのような企業経営が求められる中、経営陣には大きく二つの選択肢を突きつけられるようになってきた。

使えない人を切って採用を続けるか、それとも変化に対応できる人を育てるか、だ。

原氏や久米氏が体験した「多様な人材が自律的に協業しあう世界」、それこそがこの新しい時代に求められているスタンダードなのではないだろうか。