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特集:スタートアップの資本政策

特集:スタートアップの資本政策

外部から資金を調達し、成長し、イグジットを目指すスタートアップにとって、資本政策の熟考は避けて通れない道だ。しかも、一度実行した資本政策は後戻りできないことが多いので、慎重かつ大胆に、そして、場合によっては迅速に実行する必要がある。だが、留意すべき点や資本政策の実態が公然の場で語られることは少ない。このシリーズでは、識者や先輩起業家の体験を共有し、後進起業家に役立ててもらうことを意図している。

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特集:スタートアップの資本政策の話題

教育に留学、養子縁組支援、Techstarsが選んだ10社紹介 #シアトルスタートアップ

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ピックアップ:2021 Techstars Seattle Accelerator Companies ニュースサマリー:シードアクセラレータープログラムを運営するTechstarsは、2021年度のアクセラレーション採用スタートアップのシアトル版を25日、公開した。 話題のポイント:2020年に開催されたアクセラレータープログラムはその多くがリモートでの開催となり、スタートアップやアクセラレータ…

Photo by Startup Stock Photos from Pexels

ピックアップ:2021 Techstars Seattle Accelerator Companies

ニュースサマリー:シードアクセラレータープログラムを運営するTechstarsは、2021年度のアクセラレーション採用スタートアップのシアトル版を25日、公開した。

話題のポイント:2020年に開催されたアクセラレータープログラムはその多くがリモートでの開催となり、スタートアップやアクセラレーター側にとっても初めての経験が多かったと聞きます。例えば、a16zのCrypto Startup Schoolは2020年が初回の開催であったにもかかわらず、リモートでの支援実施となりました。

Techstarsも同様に、昨年のほとんどのプログラムはリモートで行われたそうです。そして今回も引き続き基本的に支援はリモートで実施されるようです。ただ、プログラム側も多くの学びを昨年を通して学んだといい、例えばプログラム開始時期を少し早めてバーチャル上でスタートアップが交流できる時間を多くとるなど、リモートであることのネガティブ要素を感じさせない運営方針を取っています。

ZiplineはTechstars出身のユニコーン。ドローンで血液を運ぶ

さて、Techstarsシアトルの卒業生には既にユニコーン企業となったRemitly、OutreachやZiplineがいて、彼らはちょうど10年前となる2011年の卒業生ということになります。2021年度のメンバーも事業モデルは非常に興味深いものが多く、これから加速度的に成長するだろうなと思うスタートアップがいくつもありました。簡単にではありますが、10社の概要について調べてみました。

  • Afriblocks:アフリカ大陸のデジタル人材・フリーランスを採用することができるマーケットプレイス。「Pan-Africa」を謳っているところからも、アフリカの人間的かつ経済的な可能性を信じていることが伝わります。
  • Aplic.io:留学支援を行うプラットフォームです。留学してみたい現地の情報は、インターネットだけではリアルタイムに把握することは難しいのが実情。そうしたギャップを、Aplic.ioでは専門のアドミッションヘルパー(必要書類や合格するためのコツなど)と奨学金ヘルパーを繋ぎ合わせることでリアルタイムかつ意味のある手助けを提供しています。
  • Bild:ハードウェア企業がリアルタイムでメーカーとコラボレーションを実現できるプラットフォームを運営。デザインの細かな改善などをリアルタイムかつビジュアライズにフィードバックできるのが特徴。
  • Brite:子供を対象としたSTEM教育を実施したいコミュニティー運営者をサポートするプラットフォーム。教育コンテンツや進捗管理など全てが統合されています。PythonやUnityなどとコラボレーションし、独自学習コンテンツも生み出しています。
  • Edify:ソフトウェアエンジニアのオンボーディングを支援するプラットフォーム。繰り返し起きるオンボーディングの作業を、Slackなどへのインテグレーションでダイナミックに自動化させる機能を提供しています。
  • edith:学生向けの長期キャリアメンターシッププラットフォーム。自身が目指す企業やキャリアで実際に働いている「メンター」とISAs契約(Income Share Agreements:給料に応じてフィックスのパーセンテージを支払う仕組み)を結び長期的なサポート関係を構築することができる。
  • PairTree:養子縁組を支援するプラットフォーム。事前のバックグランド調査など、すべてをPairTreeが実施し、安全性を確立したうえで相手方とのやり取りをデジタルに実行できる。
  • Storey the App:オンラインで購入したアパレル用品を自動的にマーケットプレイスにアップロードするサービス。ファッションの持続可能性に着目しているスタートアップで、購入からリセールまでのループを作り上げることを目指しています。
  • The Folklore:アフリカ系高級デザイナーズ商品をショールーム形式でEC販売するコンセプトストアを運営。普段目にしない商品が多く、一種のD2C的な雰囲気を感じます。
  • Twelve Labs:コンテキスト認識AIを用いて動画コンテンツをセマンティック検索に対応させるプラットフォームを運営。

今回選出された10社もシードですから現状で知名度が高いわけではないですが、だからこそ潜在的な成長可能性を秘めていそうです。シアトル発のスタートアップは実は面白いエリアで実績を積み上げているところも多く、ユニークさに溢れています。

【IPOスタートアップの資本政策解剖】Sun*(サンアスタリスク)編〜第4回「Smartround Academia」から

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第4回 Smartround Academia(2020年11月11日開催)で、資本政策を解剖したのは Sun*(サンアスタリスク、東証:4053)だ。現在の法人は2013年3月に設立され、2020年7月31日に東証マザーズに上場。黒い革ジャンに身を包んだ上場企業 CEO の登場は印象的だった。今回、資本政策を披露してくれたのは、Sun* CEOの小林泰平氏だ。 小林氏は早稲田実業高校を中退後、一…

第4回 Smartround Academia(2020年11月11日開催)で、資本政策を解剖したのは Sun*(サンアスタリスク、東証:4053)だ。現在の法人は2013年3月に設立され、2020年7月31日に東証マザーズに上場。黒い革ジャンに身を包んだ上場企業 CEO の登場は印象的だった。今回、資本政策を披露してくれたのは、Sun* CEOの小林泰平氏だ。

小林氏は早稲田実業高校を中退後、一時はホームレス生活をしながらバンド活動に熱を注ぐ。ライブハウス勤務を経て、ソフトウェア開発会社で IT エンジニアとして就職。その後、サンアスタリスクの前身にあたるフランジア・ジャパンを創業した平井誠人氏(Sun* 現取締役)に誘われ、Framgia Vietnam の COO への就任と同時に渡越。その後、Sun*へと社名を改め、現在、小林氏は同社の CEO を務める。

Sun*は、「誰もが価値創造に夢中になれる世界」をビジョンとして掲げ、新規事業やスタートアップの事業創造からサービスの成長までを包括的に支援するサービスを提供。デザインチームと開発チームの双方を抱え、SMB(中小企業)からエンタープライズ(大企業)まで、多岐に渡るクライアントとプロダクト開発を行う。

今回の聞き手も、スマートラウンド COO 冨田阿里氏が務めた。

(文:馬本寛子、編集:池田将)

Image credit: Sun Asterisk

〈これまでのSun*関連記事(一部)〉

〈上場前(2013年3月〜2020年7月)〉

(クリックして拡大) Image credit: Sun Asterisk

Sun*の創業は2013年3月だが、原点はそれより以前、2つの法人から歴史が始まっている。現在取締役を務める平井誠人氏が2012年に創業した Framgia(フランジア)と、同様に現在、取締役を務める服部裕輔氏が2013年3月に創業したアイピースだ。

アイピースは創業時から Framgia Vietnam と協業しており、毎度契約を結ぶ形態で事業を進めているという状況だった。その後2社が合併することとなり、アイピースを母体とする形でフランジア・ジャパンが誕生した。合併の際にシンガポールにホールディングスカンパニーを設立し、Framgia Vietnam を完全子会社に。その他、フィリピンやバングラデシュなどにも子会社を設立した。

フランジア・ジャパンは後にフランジアと社名を改め、2017年頃から日本での上場を目指しその準備に着手。2017年12月には、小林氏が CEO に就任した。上場半年前の2019年末から2020年2月末にかけて、Sun*として初となる外部資金調達を行う。このラウンドでは、農林中央金庫、ソニーネットワークコミュニケーションズ、Sony Innovation Fund by IGV(Innovation Growth Ventures)、加賀電子、リバネスキャピタル、15th Rock Venturesなどが参画し、その他デットファイナンスも含めて総額20億円を調達した

(クリックして拡大)
Image credit: Sun Asterisk

以下、資本政策に関して視聴者からの質問の回答なども含めて要約する。(順不同)

  • 独資のみで IPO するという選択肢もあったものの、IPO 前後は経営陣が事業にフルコミットして向き合う余裕がないことを懸念した。そのため、IPO 後の成長ドライバを仕込む目的で、事業会社を中心に資本業務提携を進めた
  • 外部の方からの紹介で農林中央金庫を紹介してもらった。規模も大きく、長期的な目線で柔軟に考えていただけると思い、彼らの第1号出資案件としての資金調達に繋がった。互いに初めての調達だったこともあり着金までに半年を要したが、その間に事業や法務などをしっかりチェックしてもらったため、このタイミングで IPO の準備はほぼ整った。
  • ソニーからは、ソニーネットワークコミュニケーションズとS ony Innovation Fund by IGV(Innovation Growth Ventures)の双方から調達している。ファンドのみの投資で事業シナジーが生まれるか懸念したため、事業シナジーが最もありそうなソニーネットワークコミュニケーションズからも投資をもらえるよう交渉し、双方から投資を受けた。

【信託型 SO について】

  • 2018年12月に第1回 SO 発行を行う。同社の税理士を務める糸井俊博氏を信託型 SO の受託者として、株式の9%相当分を凍結した。当時の売上高や利益などから算出した価格でSOを発行した。当時算出した株価は80円。
  • 小林氏は、Sun*がIPOする条件のひとつとして、全社員が株主になることを挙げていた。給与や賞与は、最大限に配慮しても評価者のバイアスがかかってしまうものであるが、全社員の仕事の成果による外部評価が反映される「株価」は、社員の会社に対する価値貢献への対価がしっかりと支払われる仕組みとの考えによるものだ。
  • 上場後に入社する社員に対しても株を配布したいと考えていたため、信託型 SOを選ぶことにした。
  • 信託型 SO の導入を検討しているのであれば、しっかりとした制度設計が必要。しっかりと制度設計をしなければ、社員がSOを受け取れなかったり、税金の問題が発生したりするリスクがある。信託型 SO については、プルータスコンサルティングに依頼し設計した。

【その他】

  • 銀行からの借入は行っていたが、2017年12月まで外部資本を入れずに経営していたため、企業体制や形態などを柔軟に変更できた。

〈上場 2020年7月〉

日本取引所グループ公式チャンネル」から。
Image credit: JPX

革ジャンで登場する小林氏の姿に重ね、取締役の株主保有比率の多さ(信託型 SO 割当分を除き、経営陣だけで75%以上を保有)も極めて印象的だった、Sun*の上場。

小林氏は、上場日の初値が出る瞬間を主幹事を務めた大和証券で経営陣らと見た際の裏話も話してくれた。コロナ禍で東証で鐘を鳴らすセレモニーは挙行されなかったが、初値が発表される9時の瞬間を見届けるイベントに遅刻してしまい「前代未聞だ」と言われたとのこと。どんな時も自然体でいる小林氏の一面が垣間見えた。

東南アジアを軸に事業拡大を進めていた同社が、「日本での上場」を目指した背景には、現在の日本に対しての強い想いがあったと、小林氏は話した。

ベトナムと日本を行き来する生活を送る中、ベトナムのデジタル化のスピード感に対して、日本の変化の遅さを感じて不安を抱くようになった。(中略)

そうした課題感を持って、2017年頃から「日本の社会課題に対して目を背けながら、ベトナムで楽しく仕事を続けて良いのか?」という疑問を経営陣で議論し続けた結果、Sun*の事業としてエンタープライズまで巻き込んでいくことで、日本の IT 人材不足や DX 推進を進める一助を担うことを目指す方向に転換することにした。

〈上場後 2020年7月〜〉

左から:取締役 平井誠人氏、取締役 梅田琢也氏、
代表取締役 CEO 小林泰平氏、取締役 服部裕輔氏
Image credit: Sun Asterisk

Sun*が上場時に公開した有価証券届出書によると、同社の主な株主は平井誠人氏(取締役、34.37%)を筆頭に、服部裕輔氏(取締役、19.91%)、藤本一成氏(執行役員、13.05%)、糸井俊博氏(税理士・信託型 SO の受託者、8.23%)、小林泰平氏(代表取締役、7.70%)のほか、農林中金(5.55%)、ソニーネットワークコミュニケーションズ(0.55%)、Sony Innovation Fund by IGV(Innovation Growth Ventures、1.64%)、加賀電子(東証:8154、0.55%)、リバネスキャピタル(0.16%)、15th Rock Ventures(0.16%)などである。

取締役を中心とした経営陣の持分比率が8割以上を占めている。また、信託型 SO の受託者とされている、同社の税理士を務める糸井氏が保有する8.23%の株式については、新株予約権信託に当てられている。現時点で、この SO は、2%ほどしか使用されていないそうだ。

役員や現在と未来の社員が保有する株式を合わせると約9割となる。上場を目指すまで、自己資金をもとにした安定感のある収益モデルを築き上げ、成長を続けてきた Sun*の色が見える資本構成となっている。

〈その他〉

Smartround Academia から。代表取締役 CEO 小林泰平氏と(左)、インタビュアーを務めたスマートラウンド COO 冨田阿里氏(右)。
Image credit: Smartround

視聴者から寄せられた質問の回答で、上記に記入できなかったものを以下にまとめる。

Q:受託開発とみなされるとPER(株価収益率)などが低くなると思われがちだが、投資家や主幹事にどう説明したのか。

受託開発と言えど、さまざまな形態がある。請負契約、準委任契約、派遣契約など。Sun*では、基本的に準委任契約を行っており、毎月の稼働工数に応じた対価をいただいている。3ヶ月以上継続する準委任契約を「ストック型契約」と定義しているが、それらの契約更新は半年〜1年の契約がほとんど。

長期契約を結び、きちんと実績を積んでいくことで ARPU も上がるモデルなので、基本的には納得してもらえた。というより、厚労省や機関投資家などからも「これはなんと表せば良いのだろうか?」という反応だった。

スタートアップや新規事業においては、プロダクトに完成もなければ、要件も決まっていないので、見積も難しい。そうした点を考慮すれば、互いに準委任契約の方が良いと思う。

Q:創業前のスタートアップの支援とは、具体的にどんなことをしているのか。

創業する前から、エンジニアチーム・デザインチームを無償で提供。プロトタイプの作成まで無償提供し、テストマーケティングを経て、市場に出せるタイミングで、Sun* から、20%の資本を入れて一緒に起業している。基本的には、起業家が Sun* のオフィスに来て常駐している(採択時の起業家のスクリーニングは非常に厳しく行っている)、

現在4社ほど支援しており、うち2社は資金調達を終えている(関連記事1関連記事2関連記事3)。調達ラウンドも一緒に行っているが、実感としては、開発チームがいて、プロダクトもあり、トラクションも出ているため、投資家からの評価も良い。

Sun*が持っている20%も、事業シナジーのある会社と提携できるチャンスなどがあれば、バッファとして使用しても問題ない。これらのプロジェクトについては、現在 Sun*としてもチャレンジしている状況。

Q:会社の体制が変わっていく中で、社内のメンバーをどのようにモチベートしていたのか?

上場経験者も社員にいたので、上場に対してネガティブな印象を持っている方も実際にいた。そのため、社員と現在の状況や IPO する理由などについて、1対1で話す時間をこまめに設けた。

IPO しても、会社の概念は変わらない。変わるとしたら、中身の「人」でしかない。あえて言うと、ステークホルダーが増えることで、外圧がかかり、経営陣が変わる可能性があることくらいだと思っていると伝えていた。

CEO の人間性が変わらなければ、会社として変わることは何もない。だから、メディア露出も含め、外部露出などもいつもと同じように、自然体で出るようにしている。


イベントは、小林氏から後進へのアドバイスで締めくくられた。

新しいことを始めるのは、人間の幸せに直結することだと思うが、一般的には資金や仲間を集められないなどの問題で諦めてしまうことが多い。

Sun*は情熱を持った人が「諦めなくてもいいインフラ」をつくることを目指している。ビジネスや事業成長そのものよりも、ビジョンを重視し、芯や軸を持って進み続けていくことを応援できるような存在になりたい。

信じていることやその本質を大事にしてほしい。ダメならダメで失敗した方がいいと思う。失敗して、再チャレンジしている人もたくさんいるので、恐れることなくガンガンチャレンジしてもらえればと思う。

日本のサブスクブームの立役者、「subsclife」が狙う家具ビジネスを通じた社会の変革と貢献

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 日本でサブスクリプションモデル、いわゆるサブスクのサービスが産声を上げ始めたのは2018年頃くらいのことだろう。企業で使われていたソフトウェアがパッケージソフトから SaaSへとシフトしていった変化がファッションや食の領域にも波及し、メーカーが商品を直接消費者に届けるD2Cモデルの台頭とともに一…

subsclifeのCEO、町野健氏

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

日本でサブスクリプションモデル、いわゆるサブスクのサービスが産声を上げ始めたのは2018年頃くらいのことだろう。企業で使われていたソフトウェアがパッケージソフトから SaaSへとシフトしていった変化がファッションや食の領域にも波及し、メーカーが商品を直接消費者に届けるD2Cモデルの台頭とともに一気に広がったのがサブスクが生まれた経緯だ。

subsclife(サブスクライフ)は2018年、家具のサブスクを他社に先駆け日本国内で最も早くスタートさせており、サイバーエージェント・キャピタル(当時、サイバーエージェント・ベンチャーズ)はサービス開始以来からのアーリーインベスターである。subsclifeのCEOである町野健氏に、同社のこれまでの軌跡、目指す方向、投資家からの資金を事業にどのように活用してきたか、などについて話を聞いた。(BRIDGE編集部注:本稿はsubsclifeのCEO、町野健氏に起業からこれまでの道のりをお聞きしたインタビュー記事の転載になります。質問はサイバーエージェント・キャピタル編集部、回答は町野氏です)

Q1. 数ある社会課題の中で、なぜ家具のサブスクを選んだのか

旧態依然としていた家具業界を元気にしたかった。アメリカの3大ピッチイベントへの参加を通じて、家具業界にもサブスクのトレンドが来ると確信した

町野:450万ダウンロードを誇ったキュレーションアプリ「Antenna(アンテナ)」を辞め、次に挑戦するテーマを探していたところ、声をかけてくれたのが、ほかならぬサイバーエージェント・キャピタルの近藤裕文代表だ。近藤氏が subsclife の前身で IoT 家具スタートアップ KAMARQ の共同創業者らに引き合わせてくれた。KAMARQ の日本法人の代表を務め、2018年に KAMARQ 内で家具のサブスク事業を立ち上げ、それを2019年にスピンアウトさせる形で subsclife が生まれた。

ーー家具のメーカー/ブランドから、家具のサブスクへと事業転換したきっかけは?

町野:事業を進めていく中で、家具業界のことを知れば知るほど旧態依然としていることがわかった。KAMARQ に参加した2015年当時、値頃感のあるいい家具を扱っているのに、売れていない家具屋は非常に多かった。目黒通り(東京では家具屋が多い通りで、インテリアストリートとも呼ばれている)とかのお店を巡ってみても、皆元気が無かった。

サブスクを始めたのは、家具業界でも SPA(製造小売業)の台頭で従来の家具メーカーと消費者の間でアンマッチが起きていると気づいたが一つのきっかけ。それから、VentureBeat に KAMARQ が取り上げられ、アメリカのテックカンファレンス「LAUNCH Festival」でのピッチ登壇に招待されたとき、他のスタートアップのピッチを聞いていて、お金の回収方法はほとんどの会社がサブスクと言っていて、家具もサブスクになるな、と考えたのがこの時。ここから半年かけて、家具のサブスクをサービスインした。

ーーKAMARQ の中でサブスク事業を続けることもできたはずだ。サブスク事業を別会社へスピンアウトしたのはなぜ?

町野:2018年3月にサブスク事業をβ版で立ち上げてから業績は好調だった。サブスク事業では先に家具を仕入れるため大きな資金が必要になり、そのため新たな資金調達に動いていた。そんなとき、サイバーエージェント・キャピタルをを含め複数の VC が手を上げてくれたのだが、サブスク事業に出資したい、と言ってくれる投資家が多かった。そこで、KAMARQ の日本法人だったカマルクジャパンの社名を subsclife に変更しサブスク事業に特化した会社として新たな船出を切ることにした。

Q2. 今までに、subsclife としてのピボットや失敗はあったか

自社製品だけを扱うのをやめることにした。自社製品にこだわっていたら、ここまで大きくはならなかったと思う

町野:2018年3月にβ版をスタートした当初、KAMARQ自社製の家具のみを取り扱っていた。自社製だと家具のバリエーションにも限界がある。しかし、サブスクのお客様のニーズは多種多様で、subsclife に無い家具は別なところで購入してください、というのは使い勝手が良くない。ワンストップで揃えられないとユーザ体験的に良くないという壁にぶつかり、自社製品だけを扱うのをやめることにした。商品を家具メーカーから仕入れることにし、一気にバリエーションを増やして8月にリニューアルしたところ当たった。

ーー家具メーカーとして、自社製品のみを扱うことへのこだわりは無かったのか?

町野:最初の頃は自社製品のバリエーションを徐々に増やしていければいいと考えていたが、想定よりも早く2018年後半にはモノのサブススクブームが来てしまった。2019年にはトヨタが自動車のサブスク「KINTO」を開始して大ブーム、これがあらゆるモノのサブスクに火をつけた格好だ。自社製品のだけ取扱にこだわっていたら、ここまで大きくはならなかったと思う。

思いのほか、家具メーカーが subsclife に共感してくれた。家具メーカーにとって、彼らの商品は値段勝負にすると正直な話キツいが、いい商品をお客に長く使ってほしい、という思いは強い。家具が全然売れていない時代だったが、サブスクで新しい顧客層にもリーチできるようになり、商品がまわるようになったことで、(商品サイクルから)廃棄される量を最小限にできるのはすごくいいと、大きなメーカーがどんどん参加してくれるようになった。

ーー家具は買うモノから借りるモノになっていくのか?

町野:最近の豪雨災害も人災の色が強い。「スクラップアンドビルド」 から「ストックアンドフォロー」への流れは家具の世界にも来るだろうし、いいモノを長く使ってもらえる文化は伸びると考えている。家具 SPA の旗手である IKEA もこのままではダメだということで家具のサブスクモデル(Rent the Runway)を始めた。この文化が浸透していくには5年や10年はかかるかもしれないが、若者ほど商品を廃棄しないモデルが響くようになりつつある。

subsclife でももちろん廃棄はしていない。家具メーカーに(仕入れ時に)お金が回っていく仕組みを作る必要があるため、サブスクで貸し出している家具は全て新品だが、サブスクが終わって戻ってきた商品は、現在のところ、二次流通業者(中古買取)に売却している。subsclife のサービス開始から2年以上が経ちユーザも増えてきたので、将来はサブスクから戻ってきた家具の一定量を subsclife の中で回す、ということも可能になるかもしれない。

Q3. どんな投資家から資金調達すべきか?

厳しい局面が来たときに、状況をわかった上でどれだけサポートしてくれるか。その担当者がどれくらいスタートアップに寄り添ってくれるかは重要

町野:VC から資金調達するには必ず担当者がつく。その担当者がどれくらいスタートアップに寄り添ってくれるかは重要。僕らの事業は(サブスクでお金が入っていくよりも、仕入れで先にお金が出ていく)先にお金が出ていくなので、精神的にすごく忍耐を求められるビジネスモデル。ともすれば、儲からないビジネスだと言い切られるケースも結構ある。実はそうではないのだけれども。「リスクをとってでもファーストペンギンとしてやるべき」という気概のある担当者でないと、VC 社内で(投資実行の)話を通せないはずだ。

ーーサイバーエージェント・キャピタルから資金調達したのは?

町野:しっかりサポートしてくれる、そして、スタートアップの気持ちをわかってくれる VC と付き合いたくて、今回(2020年9月に実施したラウンドで、subsclife はサイバーエージェント・キャピタルを含む10社から約30億円を調達した)もそのようにしている。そんな VC の最たる存在がサイバーエージェントキャピタルだ。厳しい局面においても、今やってることを否定しないでサポートを続けてくれる点に感謝をしている。

世の中には、事業が思い通りに進まず、辛くなったときに計画との乖離を見て、「あーしろこーしろ」という投資家がいることも事実。もっとも、投資家はお金を出してくれている存在だから、僕は投資家はそうやってスタートアップに口を出しいてもいいと思っている。でも、サイバーエージェント・キャピタルの場合、そこじゃなくて、「ここから伸ばすにはどうしたらいいだろう」など一緒に先を見ながら話せるので、その点が非常にありがたい。

ーースタートアップは、どのような VC やキャピタリストと付き合うべきか?

町野:VC とて会社。会社には、ブランディングという意味で人格が出るものだ。そして、誰の人格が出るかというと、現在の、そして、歴代の取締役の人格が最も出ている。そう考えると、サイバーエージェント・キャピタルをこれまで率いてきた人、今も率いている人たちの作ってきた文化が良かったのだろうと思う。もちろん、(親会社である)サイバーエージェントの文化も色濃く出ているだろう。

厳しい局面が来たときに、ただ「あーしろこーしろ」というだけなら誰にでもできる。そんなとき、状況をわかった上でどれだけサポートしてくれるか。出資を受けているということはすごいことだし、VC とて社内調整や投資先の業績について LP(ファンド出資者)に説明を求められることも多いはず。しかし、そういったことをスタートアップに微塵も感じさせないような、投資家に理解してもらっていると経営をしやすい。経営者は投資家への説明コストを最低限にとどめ、本来集中すべきことに集中できるからだ。

僕の場合は、Antenna の時代に近藤さんと知り合えたのはよかった。当時資金調達することはなかったけれど、その時に近藤さんと会ったことから今に繋がる。VC は他の VC をたくさん知っているので、そこからさらに人脈は広がる。起業家を見ているとムダな時間の使い方をしている人がすごく多いように思うが、ほとんどの投資家は、起業家と初めて会った時にそのスタートアップのことを初めて知るので、その瞬間に互いにもっと深く知り合えるように、事業以外の話もいっぱいした方がいいと思う。

Q4. subsclife にとってこれまでのハードシングスは? そして、それをどう克服したか?

なんとか担当者に subsclife のファンになってもらって、社内調整してもらうしかない。だから情熱は大事

町野:サブスクは、商品を仕入れる必要があるので、先にお金が出ていくビジネス。運転資金なので、エクイティファイナンスよりもバックファイナンスの方が必要になる金額は大きい。サービスが売れれば売れるほどファイナンスが必要になるが、まだ赤字のスタートアップが金融機関からデットファイナンスを得るのは非常に難しい。一時期はエクイティで得た資金を充当するなどして凌いだ。

ーーそんな中で、どうやって突破口を開いたのか?

町野:バックファイナンスができないと、サブスク事業が行き詰まるのはわかっていた。なので事業を始める当初の段階で、まず一社リース会社を口説いて、当社にリース枠を与えてもらえるよう注力した。実績はまだ無い会社だったなので、ここはもう論理ではなく情熱の世界。なんとか担当者に subsclife のファンになってもらって、社内調整してもらうしかない。だから情熱は大事。

PL/BS に純然たる欠陥がある会社なので(笑)、序盤はまずリース枠を開けてもらって、実績を積んだら、また枠を伸ばしてもらうということの繰り返し。それで現在に至っている。エクイティファイナンスでの資金調達はリスクマネーなのでデットほど厳しくないだろうが、とにかく、赤字のスタートアップがデットでファイナンスをするのは、それはそれは大変だった。

ーー成長著しい subsclife にとって、会社を大きくする上での課題は?

町野:会社を大きくしていく上で、チームを育てていくのは大変なこと。subsclife は現在20人くらいのチームだが、このくらいの規模になってくると、メンバーのモチベーションを保ちながら、同じ方向を向いて進むのが大変。どの経営者も言っていることだが、僕らも強いチームを作るために体制づくりをいろいろやっていかないといけない。

一方、コロナ禍でリモートでの勤務を余儀なくされた今、社内でよく言ってるのは、チーム感が毎日0.1%くらいずつ削がれていっている気がするということ。チームワークという点では、圧倒的に話す機会が減る。偶然の発見ができる環境を作れないチーム体制で、スタートアップが大手企業に勝てるはずがない。その中でどういう出勤体制がいいかを考えるのに苦労している。

Q5. subsclife が目指すもの、そして起業家コミュニティに期待することは?

インテリアという領域に対しては、どんどんやっていこうと思っている。もっと起業家の仲間が増えることを期待したい

町野:subsclife が目指しているイグジットは、2023年か2024年をターゲットに、東証マザーズへの上場だ。ユーザは順調に増えているが、裾野を広げるために家具のほかに家電にもサブスクの幅を拡大したし、インテリアという領域に対しては、どんどんやっていこうと思っている。

ーー競合も増えてきた。先行する優位性を保つために、KPI のメンテナンスなどはどうしているか?

町野:家具業界は旧態依然としているが、僕らは家具を売る(実際にはサブスク形式で提供する)ことに関しては、売り方を徹底的に科学している。例えば、法人営業について見ると、顧客のリード獲得から納品まで一連のプロセスがあるわけだが、ああでもない、こうでもないと週単位のレベルで変えながら最適化している。3ヶ月前と比べてみても、全く違うやり方で営業している。

商品の調達についても、subsclife の仕入先は400ブランドに上るが、仕入れのプロセスについても徹底して最適化するようにしているところ。まだまだ足りないので、さらに進めていきたい。

ーー antenna で企業内起業をされ、subsclife では外へ飛び出して自ら起業された町野さん。両方を知る立場から、企業内起業されている方に、外へ飛び出すことを勧めるか?

町野:絶対に外へ飛び出して自分でやった方がいいと思う。企業内起業は例えるなら、Zoom でハワイを見ているような感じ。そんなのは実際に現地で体験するハワイにはかなわない。企業内起業は、そんなバーチャルなもののように思う。もちろん、企業内で起業すると、別のプロフィット部門にいじめられることもあるかもしれないが、それって全然ムダな経験で、起業そのものには何ら関係ない。

人はどこかに逃げ道があると、そちらへ行ってしまう。人間ってそういうものだから。人間はやっぱり追い詰められた時にパワーを発揮するので、飛び出してやらないと自分の本当の力は出せないと思う。ほら、テスラだって一時期は本当に資金繰り危ないと言われたけど、今はちゃんとやれてる。企業内起業できる人は、絶対に能力的に独立してもできる。ただ恐怖観念がまさっているだけだ。

僕が以前 antenna をやった2012年当時と比べると、今は圧倒的にスタートアップはやりやすくなっているし、調達もだいぶやりやすくなっている。一回バンジーを飛ぶと、二回目以降飛ぶのはすごく簡単になる。もっと起業家の仲間が増えることを期待したい。

国内エコシステムとスタートアップ・IPOの意義ーー大和証券・丸尾氏 Vol.2

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 IPOの意義とはなんだろうか。資金調達の手段であり、社会的な信用の獲得であり、企業に正しいガバナンスを与えるものでもある。一方、マーケットが求める「極めて短期の結果」に疲弊し、オルタナティブを求める考え方も出てきている。 新しいスタートアップエコシステムの創造ロジック「リーン・スタートアップ」の著者、…

大和証券の専務取締役、丸尾浩一氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

IPOの意義とはなんだろうか。資金調達の手段であり、社会的な信用の獲得であり、企業に正しいガバナンスを与えるものでもある。一方、マーケットが求める「極めて短期の結果」に疲弊し、オルタナティブを求める考え方も出てきている。

新しいスタートアップエコシステムの創造ロジック「リーン・スタートアップ」の著者、エリック・リース氏は2011年の著書で既にこの問題点を突いており、より長期的な成果の視点に立った「長期株式取引所」の考え方を披露している。10年たった今、彼は長期経営をテーマとした新証券取引所「Long Term Stock Exchange」を2019年に開設した。

丸尾氏は拡大するマーケットにおけるIPOの意義を、大きなエコシステム全体で俯瞰する必要があると説く。

エコシステムとIPOの役割

「例えばサイバーエージェントってマクアケやサイバーバズ、BASEなどに出資して、彼らが上場することで資金を回収していますよね。こういった利益がないとAbemaのような新しいチャレンジはできない。エニグモの須田さん(将啓氏・代表取締役)も上場後に個人として投資している。こう考えると、上場した企業や起業家は投資にまわるわけです。PKSHA Technologyは上場してCVCを作った。こうすることで自分たちが張れないAI技術に株主となって挑戦ができる」。

BASEは上場時の時価総額が250億円程度だった。しかし今(※執筆時、2020年12月9日時点)の評価額は2500億円に届こうという規模にまで膨らんだ。感染症拡大がEC需要を押し上げたことが要因のひとつではあるが、これにより、彼らはより有利な条件で資金調達を進めることができる。株の希釈も最小限に抑えることができるからだ。そしてBASEもまた、新たなスタートアップへの投資を通じて、エコシステムの一員としての役割を果たそうとしている。

世の中に必要なことをやる

取材の終わり、長年多くの起業家、経営者と向き合ってきた丸尾氏に、次の世代の起業家と投資家に求めるものを聞いた。

「この経営者はやるやつか、そういう目で見ている時はキャピタリストに近いかもしれません。あと大切なのは長い目ですね。(支援側で)すぐに商売にならないなと思ってすぐに引いたんでは長い付き合いにならない。だから大事な会社や起業家にはしっかりと担当をつけます。大手企業では当然のようにやってきましたが、若い経営者ともやりますよ。

確かにね、起業家で金が欲しいから上場するという時代もありました。でもね、志がないものは退場してます。BASEの鶴岡さんとかはお金よりも成し遂げたいものがある。これが大きく変わったところです。世の中にはこれが必要なんだという。それって無理じゃないの?というところで事業をしてくるわけですから、我々はIPOでそのチャンスを拡大させるわけです。発想がね、お金や自分だけではなく、地球だったりイノベーション目線なんです。そう言う人が次の1兆円企業を作ると思ってますよ」。

今、世の中ではSDGsに代表される、持続可能な社会づくりが大きく叫ばれるようになった。ITバブルが発生した2000年以降、世の中には過剰な生産によって資本主義のゆがみのようなものが発生している。2030年に向けて活動する起業家には、長期の視点に立ったビジョンがより強く求められるようになった。

彼らは社会の課題や要請にどう答えるのかを問われているのだ。

数年前まではROE重視だったが、脱炭素やSDGs、ESG投資への潮流はますます加速していく。今は地球に優しい、そういったことに資する企業を支援していきたいし、新しい取り組みにあえて挑んでいく、強い大和でありたいです。

「これまでITやゲームなど、その時代、時代に応じたトレンドを作ってきました。赤字上場という新たな選択肢の道も開きましたし、BASEのようにマーケットでバリュエーションを出して次の成長資金を獲得してもらう。こういう起業家たちの『やりたい』をこれからも後押ししたいし、世の中のためになる企業の発展を支援していきたいです」。

(了)

前例なき「赤字上場」が生んだものーー大和証券・丸尾氏 Vol.1

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 エリックリース氏の著書「リーン・スタートアップ」が出版されたのが2011年。新たな事業を「構築、学習、計測」というアジャイルなフローに落とし込んだ、新たな起業の手法は世界的に大きなブームとなった。時を同じくして日本でもY Combinatorらが発祥となるアクセラレーションプログラムが開始となり、スマ…

大和証券の専務取締役、丸尾浩一氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

エリックリース氏の著書「リーン・スタートアップ」が出版されたのが2011年。新たな事業を「構築、学習、計測」というアジャイルなフローに落とし込んだ、新たな起業の手法は世界的に大きなブームとなった。時を同じくして日本でもY Combinatorらが発祥となるアクセラレーションプログラムが開始となり、スマートフォンシフトの後押しもあって多くのスタートアップたちを生み出すことに成功する。

日本におけるテックスタートアップ・エコシステムの新たな幕開けだ。KDDI ∞ Laboもその中で産声を上げた。

このエコシステムにおける重要なマイルストーン、それがIPO(新規株式公開)になる。1999年から2000年にかけて発生した日本のITバブルではソフトバンクやヤフー、楽天、サイバーエージェントなどの企業が株式市場で大きく勃興し、その後に続くディー・エヌ・エーやミクシィ、グリーなど、国内インターネット企業が躍進する基盤を作った。

そして2010年代、新たなエコシステムの中で大きく成長したメルカリやラクスル、freee、BASEといった新興企業の多くを主幹事として株式市場に送り出した証券会社、それが大和証券だ。ヤフーやGMO、サイバーエージェントにミクシィにディー・エヌ・エーなど、黎明期からこの国内エコシステムを眺めてきた株式市場の水先案内人は、2010年代に何を見つけ、そして次の世代に何を期待するのか。

本稿は国内エコシステムの今と未来を知るをテーマに、大和証券の専務取締役、丸尾浩一氏に10年の振り返りと、次世代の起業家に求めるものを伺った。

初モノの大和

2019年度の売上高1,961億円、営業利益252億円、グループ企業103社の大連合を組むインターネット企業、それがGMOインターネットグループだ。直近の連結時価総額が約1.6兆円(※)にもなる、このGMOインターネットを中心に構成される10社の上場企業の内、9社は大和証券が主幹事を引き受けている。

「熊谷さん(正寿氏、代表取締役会長兼社長 グループ代表)は周囲をやる気にさせてどんどん上場させていく。やりたいんだと。だからことごとくウチで(主幹事を)やらせてもらった。上場会社をたくさん作るというGMO独自の経営戦略をしっかり支える。それが我々の役目」。

2000年ITバブルで株価が乱高下する際、当時部長だった頃から丸尾氏は経営者の側でマーケットのアドバイスを送り続けた。サイバーエージェントに楽天、ミクシィ、GMO。数多くのIT銘柄を支えてきた彼は長期にわたる信頼関係こそが重要、そう振り返る。

ITバブルから約10年、時代の変わり目となったのがモバイルインターネットの隆盛だ。いわゆる「ガラケー」プラットフォームは数々のアプリやゲームを生み出し、新たな起業のエコシステムを作り出した。この流れはその後のスマートフォン・シフトへと続き、今のスタートアップエコシステムを形作る基礎となった。大和はこの新しい潮流の中、次々と「誰もやらない」初モノ銘柄を世に送り続ける。

「リブセンス(2011年12月上場)は当時、25歳の最年少上場でしたよね。レアジョブ(2014年6月上場)もオンライン英会話という分野の草分けでした。コロプラ(2012年12月上場)はスマホゲームで、エニグモ(2012年7月上場)も越境ECというテーマの先駆けです。昨日、上場の承認が下りたポピンズホールディングス(2020年12月21日に上場、取材日時点は承認段階)は女性活躍を支援するというミッションを掲げていて、『SDGs(持続可能な開発目標)IPO』として第三者にオピニオンを取ってIPOの資金使途を明確にしたスキーム。本邦初と考えています。誰もやらないことをやる。自分たちが率先して画期的なことをやろうじゃないかと」。

大和が国内インターネット黎明期からIT・ネットに張り続けるには訳がある。重厚長大な企業相手だと競争環境が厳しい。「だからこそ大和の基礎は徹底的に他社がやらないことをやった。全ては勝つため」(丸尾氏)。

初モノに強い大和ーー。この基盤を受け継ぎ、彼らは今のITスタートアップたちの水先案内人となることを選んだのだ。

日本ベンチャーキャピタルが公表している資料によれば、2010年のIPO件数は22件。世の中はリーマンショック後の東日本大震災という過酷な時期でもあった。2012年に第二次安倍内閣が発足してからは翌年に東京オリンピックが決定するなど、徐々に明るい話題も増えてくるが、何者かも分からない新興のテック・スタートアップにとっては厳しい冬の時代だったことは間違いない。

そんな中、丸尾氏はある「初モノ」に挑戦することになる。クラウドワークスの赤字上場だ。

前例なき、クラウドワークスの赤字上場

クラウドワークス代表取締役の吉田浩一郎氏(撮影は2013年12月)

2010年代の半ば、主要なインターネットビジネスはまだまだゲームが中心だったが、デジタル化の流れはじわじわと現実世界に染み出していく。それまで電話で配車していたタクシーは、徐々にアプリで事前決済まで済ませた「移動サービス」となり、個人で不要になったものはスマホ経由で気軽に売買できるようになった。一方で市場はまだまだ実験的な空気に支配されている。シェアやオンデマンドといった新たな経済活動がマス層に本格的に広がるのは2010年代後半を待たねばならなかった。

課題はリードタイムだ。世の中が変わることはわかっている。けどその時が来るまでをどう過ごせばよいか。スタートアップたちは各社、独自の資本政策でこの「いつかやってくる波」を待つ必要があった。クラウドソーシングという、個人をエンパワメントする時代を見据えたクラウドワークスもそのひとつだった。

「大和証券がすごいなと思うのは(Tech系の赤字上場は)初めてですから。普通は絶対やらない。引受部が断る。無理。でもね、最初にやることが大事なんですよ。当然、うまくいかなかったら責任問題になる。だから僕らもリスク取ってやってるんですよ」。

丸尾氏が創業者の吉田浩一郎氏と出会ったのは、とあるキャピタリストからの紹介が縁だったそうだ。クラウドワークスの創業は2011年11月。そこからわずか3年後の2014年12月に東証マザーズに新規上場を果たすことになるのだが、丸尾氏も「今ではありえない突貫工事」と振り返るほど、株式公開までの道のりは痺れるチャレンジだったようだ。

「最初に(紹介を受けたキャピタリストから)レクチャーを受けた時、数千万円の黒字で進んでたんですね。(上場申請の)直前になって、急に吉田さんから連絡があり、丸尾さん相談があると。(ある方から丸尾さんに相談しろと言われたらしく、赤字での上場を相談されて)いや、黒字にしないと無理ですよと言ったんですがなんとかならないかと。ご自身でも上場するんだと周囲に伝えているし、当時クラウドソーシングはゲームに次ぐプラットフォームになる、派遣市場の黎明期と同じなんだと。投資銀行部門にぜひこれやりたいと話しまして。上場引受実務担当者に賛同してもらわないと無理なわけです。結果、やります!と決めてくれた。普通、赤字上場のようなチャレンジは大組織の中では、中々難しいものなんです」。

新規上場の際、前期が赤字であっても足元の直前期は黒字というケースが通例だ。バイオやロボットなど、長期にわたって公開市場での資金調達を前提とする場合と異なり、インターネット銘柄での赤字上場はサイバーエージェント以来、14年ぶりの出来事になる。そして上場から4年後の2018年9月期、クラウドワークスの総契約額は100億円を突破し、無事黒字化を果たす。

「情熱ですね。(主幹事として2019年に上場した)BASEの鶴岡さん(裕太氏・代表取締役)を紹介してくれたのも吉田さんです。これをきっかけにコミュニティが広がりました」。

そもそもクラウドワークスが上場した東証マザーズは株式公開市場の中でも若い企業を対象に、成長のステップとして活用されることの多いマーケットだ。真に50年、100年と続く企業を生み出すための日本独自のエコシステムといってもよい。クラウドワークスはその点で、正しくこの機能を活用したケースだった。

大和の思い切った「初モノ」は国内のスタートアップエコシステムに大きな影響を与える。これをきっかけにラクスル(2018年5月上場)やメルカリ(2018年6月上場)など、足元が赤字であってもマーケットと共にその後の成長を見据える新たな選択肢が増えることとなったのだ。(後半につづく)

※Bloomberg記事より10月14日時点の数字として

【IPOスタートアップの資本政策解剖】グッドパッチ編〜第3回「Smartround Academia」から

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第3回 Smartround Academia(8月25日開催)で、資本政策を解剖したのはグッドパッチ (東証:7351)だ。2011年9月に創業し、2020年6月30日に東証マザーズに上場。コロナ禍にありながら明るいニュースをもたらした上場としても印象的だった。今回、資本政策を披露してくれたのは、グッドパッチCEOの土屋尚史氏だ。資本政策と共に、グッドパッチが上場するまでの経営について語ってくれ…

第3回 Smartround Academia(8月25日開催)で、資本政策を解剖したのはグッドパッチ (東証:7351)だ。2011年9月に創業し、2020年6月30日に東証マザーズに上場。コロナ禍にありながら明るいニュースをもたらした上場としても印象的だった。今回、資本政策を披露してくれたのは、グッドパッチCEOの土屋尚史氏だ。資本政策と共に、グッドパッチが上場するまでの経営について語ってくれた。

土屋氏は、Webディレクターを経てサンフランシスコに渡り、スタートアップの海外進出支援などを経験した後、2011年にグッドパッチを創業。同社は現在、東京・ベルリン・ミュンヘンに拠点を持つ。「デザインの力でビジネスを前進させるグローバルデザインカンパニー」として、デザインパートナー事業とデザインプラットフォーム事業の2軸で事業展開をしている。

今回の聞き手も、スマートラウンド COO 冨田阿里氏が務めた。

(文:馬本寛子、編集:池田将)

Image credit: Masaru Ikeda

<これまでのグッドパッチ 関連記事(一部)>

<参考文献>

<上場前(2011年9月~2020年6月)>

グッドパッチは、2020年6月に上場を果たした。創業時、土屋氏は上場することを考えていなかったと話す。祖母からの遺産の500万円を資本金として起業し、土屋氏のみでの経営だった。そこから、最初の資金調達を行ったのは、創業から2年後の2013年12月。DG インキュベーションから1億円の資金調達だった。グッドパッチ にとって初めての外部資金調達であったが、同社ではこれをシリーズ A ラウンドとしている。

2016年2月のシリーズ B ラウンドでは DG インキュベーション、Salesforce Ventures、SMBC ベンチャーキャピタル、SBI インベストメント、FiNC から総額4億円を調達した。続けて、2017年4月に実施されたシリーズ C ラウンドでも、SBI インベストメントと三井住友海上キャピタルから総額4億円を調達している。

【資本政策について】

  • 創業時は、上場することなどを一切考えていなかった。一般的な中小企業の資本構成を参考に、1株5万円の100株からスタートした。
  • シリーズ A ラウンドの裏話。元々、会社の計画として資金調達をする予定はなかったが、創業から2年目の時点で1億円ほどの売上が出て、利益が2,000万円ほどに。当時は、プライベートカンパニーだったため、この状態で利益が2,000万円程であれば、税金が払えない可能性があった。そのため、社員にボーナスを多めに出すなど対策を行ったが、ボーナスに対しても税金がかかったため、キャッシュアウトしかける可能性があった。当時は、規模の大きいクライアント1社に売上を依存している状態で、社員は20名、月のバーンレートは1,000万円ほどの状態だった。このことを須田氏(現・監査役)に相談したところ資金調達を勧められたため、シリーズ A ラウンドの資金調達に動いた。
  • 第1回 SO(ストックオプション)発行では、SO についての知識が十分でなかったことから、誤った渡し方をしてしまったかもしれない。最大10%まで配布して良いと言われていたため、計8%ほど渡した。しかし、この頃から上場まで残っていた社員は1名だった。
  • バリュエーションが高かったこともあり、シリーズ B ラウンドでは事業会社を中心に投資を募った。
  • シリーズ C ラウンドについて。当時フィンテックサービスのデザインが重要視されつつあったので、フィンテックに関連するファンドから資金調達を実施。
  • 第4回 SO 発行では、当時(2018年)在籍していた社員全員に SO を発行した。マネージャーなどには少々厚めに渡した。評価に連動しているのではなく、入社順とグレードに合わせて SO を渡した。
  • 2019年の株式移動では、土屋氏が保有する株式10万株の5%となる5,000株を役員・監査役に生株で譲渡した。彼らのコミットメントを強めるという意味合いと、彼らがいたから会社を立て直せたことに対する感謝の意も含めたものだ。
  • 上場するタイミングで、従業員持株会を作った。

【組織と関連する資本政策の動きについて】

  • シリーズ B ラウンドのタイミングから、2年後の上場を目指し、準備を始める。ここでの組織づくりが、会社の経営に大きな影響を与えることになった。シリーズ B ラウンドの直前で CFO を採用し、取締役を4人に増やした。また、執行役員を1人追加し、マネージャーも6人置いた。
  • シリーズ B ラウンドでは事業計画において見積が甘く、1年後の状態が危ういことが問題視され、その責任を明確にするため CFO が退任した。その退任と組織の崩壊に伴い、当時の管理部門にいた社員が全員辞めた。上場を目指すならば、上場経験のある CFO が必要だと思う。
  • 組織の崩壊に伴い、SO 消却が数回にわたって行われた。一方、組織が大崩壊していることを理解しながらも入社し、立て直しに入ってくれた役員や社員に対して新たに SO を発行している(第2回、第3回 SO 発行)

<上場(2020年6月)>

Image credit: Goodpatch

デザインカンパニーとして、初の上場を果たしたグッドパッチ。コロナ禍での上場となり、スタートアップ界に明るいニュースをもたらしたが、一時は上場延期の可能性も告げられていたそうだ。

創業時、選択肢に全くなかった「上場」を土屋氏が目指したのは、渋谷にオフィスを移転し、会社のビジョンやミッションを策定した2014年だったと話す。

30名ほどの社員数だったものの、メンバーの熱量の高さや優秀さを感じていた。ビジョンやミッションに向き合う中で、グッドパッチは絶対に無くしてはならない会社だと思い、売却という選択肢は無くし、上場のみを目指すようになった。(中略)

本来、デザインはものすごく価値があるものなのに、それが社会に求められていなかった。デザインの力を証明するというミッションは、グッドパッチが諦めたら、他に出てくる会社はないと思った。(土屋氏)

<上場後(2020年6月~)>

グッドパッチ2020年8月通期決算説明資料(クリックして拡大)
Image credit: Goodpatch

グッドパッチが2020年10月に公開した通期決算説明資料(上)によると、32.7%が一般株主となっている。しかし、上場の際には、VC の割合が多いとする意見もあったとされる。

今回の Smartround Academia で共同モデレータを務めた金坂直哉氏(マネーフォワードシンカ 代表取締役社長)は、事業内容や将来性についての機関投資家からの反応がどのようなものだったかと尋ねた。

デザイン会社の上場は初めてであるので、周囲には『わからない』と言われつつも、デザインの重要性は理解してもらえたと感じている。上場時に、かなり多くの機関投資家に入ってもらえたことからも、DX が注目される現在において、デザインの重要性が増していることも理解してもらえたのではないか。(土屋氏)

<その他>

視聴者から組織崩壊時の質問が多数尋ねられた。それらについての回答は以下にまとめる。

Q:組織崩壊時でも事業推進を続けた理由とは?

崩壊中でも売り上げは30%ずつ伸びていたこともあり、組織崩壊に伴い入れ替わるような形で入社した社員が事業推進を積極的に進めていた。事業推進を進められたのは、グッドパッチのブランドバリューが落ちなかったからだと思う。組織崩壊はしても、クオリティが守られていたので、なんとか持ち堪えた。

会社に対して不満を持っていた当時の社員も、仕事と自分の意思を切り離し、仕事に対して熱心に取り組んでくれた。そのようなプロフェッショナリティのある社員が働いていたので、クライアントに対しては、しっかりと価値を提供できていたのだと思う。

Q:組織づくりで一番重要なポイントは何か?

重要なことはありすぎて、一括りにまとめられない。会社として目指す方向性や価値観の軸など、社内の共通言語を明確にすることが非常に重要。(中略)

また、会社は役員とマネージャーのコミットでほぼ決まると思う。だからこそ、これらのポジションにコミットが薄い人を置いてはならない。会社を成長させるためには、バリューやミッションを口すっぱく言い続け、役割を与えられている人は、それらをやり切らねばならない。それほど強くコミットできる人が中心にいなければ組織は崩れると思う。


グッドパッチは今年6月末の上場後 Goodpatch Design Fund を開設した(出資プロジェクトの呼称であり、本社事業会計からの出資。子会社設立やファンドの組成を伴うものではない)。これまでに「お金の健康診断」「オカネコ」運営 400F(フォーハンドレッドエフ)、レシート買取アプリ「ONE」を提供する WED に出資している

グッドパッチはまた、マネーフォワードベンチャーパートナーズ(MFVP)にも出資している。土屋氏は、スタートアップエコシステムの醸成を活性化すべく、今後、スタートアップへの出資を積極化していくとしている。

創業から15年、MBO・IPO・他業種参入を経てなお成長を続ける Fringe81 のサバイバル術

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 2017年6月に上場を果たした Fringe81(フリンジ ハチイチ)は、スタートアップの中では2005年設立の古株的存在だ(創業時の社名は RSS 広告社)。前身は日本のスタートアップ史のプロローグに必ず名前が出てくる会社ネットエイジ(現在のユナイテッド)の一部門で、当時、経営危機にあったネッ…

Fringe81代表取締役の田中弦氏

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

2017年6月に上場を果たした Fringe81(フリンジ ハチイチ)は、スタートアップの中では2005年設立の古株的存在だ(創業時の社名は RSS 広告社)。前身は日本のスタートアップ史のプロローグに必ず名前が出てくる会社ネットエイジ(現在のユナイテッド)の一部門で、当時、経営危機にあったネットエイジを復活させる切り札として広告事業に参入したのが創業のきっかけだ。(ちなみに、ネットエイジは ngi group、モーションビートと名称を変え、スパイアとの合併を経て、現在のユナイテッドに至る)。

MBO、IPO、そして祖業である広告事業とは全く異なる B2B SaaS への参入と体制を大きく変化させてきた同社は、おそらくコロナ禍の大きな社会変化に対しても最も強い適応能力を持つ会社の一つではないだろうか。進化論でダーウィンが語った「唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」というフレーズは、この時代を生きるスタートアップへの励ましのようにも聞こえる。長きにわたり愛される企業を目指す Fringe81 のサバイバル術を、創業者で代表取締役の田中弦氏に聞いた。(BRIDGE編集部注:本稿はFringe81代表取締役の田中弦氏に上場までの道のりを聞いたインタビュー記事の転載になります。質問はサイバーエージェント・キャピタル編集部、回答は田中氏、です)

Q1. なぜ、広告と HR テックを事業に選んだのか?

「経営危機にあったネットエイジ(Fringe81 の前身)を復活させる切り札として広告事業に参入したのがきっかけ。(中略)人が辞めていくのをなんとかしたい。社内で目立たない存在の人に感謝を伝えたら、彼らが報われないかな、と考えたのが Unipos のきっかけだ」

企業において、祖業(創業時の事業内容)とその後のキャッシュカウ(安定して利益を上げられる事業)は同じであるとは限らない。むしろ、そこに需要があるかどうかわからないまま事業を立ち上げ、仮説検証をしながらピボットを続けるスタートアップにおいては、事業内容が当初の想定と全く違ったものになることも多い。そこには人員体制や社風の変化、時には混乱を伴うかもしれない。

最初にお目にかかった頃、Fringe81 はアドテクの会社だったと記憶している。その後、いくつかのサービスがラインナップされて、今は何の会社と形容すべきか?

田中:それは非常に答えるのが難しい質問。2017年6月に上場したタイミングでは、Unipos(ユニポス)は影も形も無かった。でも、その後、解約率が非常に低いサービスに育ち、Fringe81 は現在、アドと HR テックの2本柱になっているというのが正しい表現かなと思っている。

創業当初はアドサーバや DMP(Data Management Platform)を作っていたが、それらを一旦閉じ、現在では大きく分けて、アドネットワーク、広告代理業、Unipos を運営しているという状況。以前は、ソリューションに強い会社だったが、その後、全くやったことの無かった B2B SaaS を手掛けるようになり、3〜4年前からすると、だいぶ会社の中身が変わったな、というのが印象だ。

アドと HR テック、この2つの事業を選んだ理由は?

田中:最初からそれを意図的に選んだというわけではない。Fringe81 の前身は、ネットエイジ(現在のユナイテッド)の一部門だった。当時、経営危機にあったネットエイジを復活させる切り札として広告事業に参入したのがきっかけ。システム開発をしなくてもキャッシュが入ってくるのは広告くらいだったので、会社の危機を救うにはやるしかなかった、というのが当時の事情だ。

その後、Fringe81 を MBO することになるのだが、MBO というのはなかなか大変で、会社の仕組みをいろいろリセットしなきゃいけない。そのタイミングで人が辞めたり、人事制度が変わったり、混乱が起きる。人が辞めていくのをなんとかしたい。エンジニアやバックオフィスなど社内で目立たない存在の人に感謝を伝えたら、彼らが報われないかな、と考えたのが Unipos のきっかけだ。

画像提供:Fringe81

Unipos が生まれたのは、社内の混乱がきっかけだったと?

田中:そうとも言える。最初は段ボールを切り抜いて作ったもので、社員に「社内で頑張っている人に投票してください」とお願いして、その中の感動したものに、私が寿司をごちそうするというのをやってみたところ離職率が下がったのがきっかけ。「Fringe81 は社員が辞めずに、どうしてうまくいっているの」と周りの社長に聞かれることが増え、くだんの制度のことを話すと、多くの社長から「サービス化したら買うよ」と言われたので作ってみることにした。

Unipos を立ち上げて紹介し始めたところ、最初のユーザから5社目くらいでメルカリが採用してくれ、それがきっかけで広く使われるようになった。なにせ、Unipos は自分たちの社内課題を解決するためのものだったので、我々の思い入れが深い。役に立つ仕組みを他の企業にも広めることはいいことだし、ベンチャーは新しい人を採用した後、社風に慣れてもらって、社員のモチベーションをどう上げてもらうか、という課題へのソリューションとして受け入れられていった。

アドの事業が走っているところへ、新たに Unipos の事業を立ち上げることは難しかったか?

田中:B2B のクライアントビジネスしかやってこなかった会社に、突然、Web サービスの、SaaS のビジネスを組み込む、というのは会社のカルチャーが全く異なるので、今でも結構苦労しているが、やっと育ってきたという印象だ。広告事業が売上の7〜8割を占めるというのは変わっていないが、現在、会社全体の4分の1程度を占める Unipos の売上もだんだん増えてきている。

アドの事業は、顧客に提案して案件を勝ち取ってくるという狩猟民族的なビジネスで、コンペに負けたら終わり。しかし、Unipos は SaaS なので、一度契約していただくとずっと使っていただけ、農耕民族的なビジネスだと思っている。Unipos はスタートアップやスモールビジネスがユーザの4割程度で、地方の中小企業、病院、タクシー会社、美容院など、多様な業種で採用されている。

Q2. 創業後にやめたことはあるか?

「社長に王冠を被せている会社は死んだ方がいい(笑)。役員みんなで合意して、僕はマイクロマネジメントをやめた」

2005年にネットエイジ(当時)の子会社として創業、その後、2015年に MBO し独立会社となった Fringe81。同社がサイバーエージェントから出資を受けたのも MBO の頃だ。MBO 後ベンチャーキャピタルからの資金調達したことを機に、同社はスタートアップの宿命であるイグジットを目指す旅を始めたことになる。MBO の前と後で、田中氏の行動や考え方も大きく変化したようだ。

MBOの前後で何が最も変わったか? やめたことはあるか?

田中:ネットエイジ(当時)の子会社だったのが10年間、2015年に MBO して現在に至ることを考えると、子会社の時代の方が長かったことになる。子会社社長にはありがちかもしれないが、当時はなんでもやっていた。資金調達もやるし、営業もやるし、開発もやるし、設計もやる。全部やっていた。

しかし、MBO してベンチャーキャピタルから資金調達してからは、投資家にリターンをちゃんと返さないといけないという意識が強くなった。そのためには経営をしないといけない。それからはなるべく自分が現場に出ないようにし、現場を人に任せるようになった。以前から CFO や COO もいたのだが、現場に立たないと不安になってしまって任せきれず、マイクロマネジメントの権化みたいだったかもしれない(笑)。

僕はもともとインターネットサービスを作るのが好きなので、そういう点で農耕民族的かもしれないが、一方では、営業するのも得意なので、狩猟民族的なところもあるかもしれない。人間誰しもそうかもしれないが、やりたいことと得意なことは、若干ズレているかもしれない。現在は経営者になっていくプロセスが楽しくなってきている。いかにカオスな状態になっているものをうまく仕上げるか、というところに時間を注ぐようになっていいる。

現場を任せることができたきっかけは? 役員や社員の動き方は変わったか?

田中:役員合宿をやった時に、「ブレイクスルー・カンパニー(サブタイトル:小さな会社が大きく伸びる法則、Keith McFarland 著、 高橋由紀子 訳)」を読んで、まさにこれだね、ということになった。その本には、「王冠の法則」というのが出てくるのだが、「経営者が王様になる」のではなく、「会社が王冠をかぶる」べきだ、と。

つまり、リーダーが統治する経営から、組織が統治する経営形態に移行しないと、会社は大きくならない。社長に王冠を被せている会社は死んだ方がいい(笑)。役員みんなで合意して、僕はマイクロマネジメントをやめた。そこからは私から役員に、役員からはその先の部下へと玉突き事故のように権限委譲が進んだ。

仕事のスピードはもちろん速くなったが、むしろ、みんなと相談できるようになったのがよかった。以前は、自分が全てを決めるんだということで、一人で悶々としながら決めなきゃならなかったけど、こういう風にやろうと思うんですけど、どう思いますか、って言ってくれるようになった。それによって、私と役員との関係も変わっていった。

Q3. どのように投資家を選んだか?

「サイバーエージェントから投資を受けたかったというよりは、事業提携的な文脈が大きかった。Fringe81 も大きくなっていく中で、サイバーエージェントから多くのことを教えてもらった」

Fringe81(当時、RSS 広告社)がサイバーエージェント・グループから出資を受けたのは2007年12月。まれなケースではあるが、サイバーエージェント本体から投資が実行された。サイバーエージェントの広告配信事業子会社のマイクロアドとの間で、インターネット広告分野の企画・開発でシナジーがあると考えられたからだ。Fringe81 がこの投資から得られたものは、事業シナジー以上に遥かに大きなものとなった。

画像提供:Fringe81に上場承認おりたので沿革をふりかえってみた(調べるお)

サイバーエージェント・グループから資金調達したのは?

田中:実は、MBOのタイミングでは、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV)1社からしか調達していない。イグジットに至るまでのラストファイナンスでもCVC数社から投資を受けたのみだ。2007年12月、当時はまだサイバーエージェント・ベンチャーズ(サイバーエージェント・キャピタルの前身)が設立された直後で、当社はサイバーエージェント本体から出資してもらった。宇佐美さん(現 CARTA HOLDINGS 会長)がサイバーエージェントの取締役をされていた頃だ。

内藤さん(サイバーエージェント取締役 内藤貴仁氏)に当社の社外取締役に就いてもらい、事業面やマネジメントのスタイル、ガバナンスなどについても直接教えてもらった。その後、内藤さんの後を継ぐ形で、近藤さん(サイバーエージェント・ベンチャーズ 近藤裕文氏)に社外取締役に就いてもらっている。

その頃から、当社は新卒を大量採用する会社に変貌していったので、どうやって新卒の社員を抜擢するべきかなど、人事制度の整備が急務になった。そこでサイバーエージェントの人事担当を紹介してもらい、根掘り葉掘り聞かせてもらった。サイバーエージェントは、今でいう社内起業のような「CAJJ プログラム」や、その事業プランコンテスト「じぎょつく」をやっていて、当社でも子会社を多く作っていくことになると思っていたので、子会社社長をどうやって抜擢するべきか、など、ずいぶん参考にさせてもらった。

投資以上に、経営ノウハウで得るものが多かった、と?

田中:えぇ。サイバーエージェントは、子会社や事業をあれだけバンバン作っている会社としては、世の中でおそらく、最もうまくやっている会社。中途採用もしていると思うが、もちろん新卒が中心なはずで、それでいて、あれだけバンバン子会社を作って、よく人材が枯れないなって。それがやはり不思議で、Fringe81も大きくなっていく中で、サイバーエージェントから多くのことを教えてもらった。

元々、広告の会社だったサイバーエージェントが、ゲームを始めて、マッチングアプリを始めて、一時期は金融の会社もやっていた(サイバーエージェントFX のこと。同社はその後、ヤフーが210億円で買収し、YJFX となった)。広告事業だった会社が、なぜこうも変貌できるのかなって。Fridge81 もまさに変わりつつあるところで、その辺りについてすごく興味を持っている。

当初、サイバーエージェントから投資を受けたかったというよりは、事業提携的な文脈が大きかった。その後、Fringe81 も MBO して IPO を目指そうということになったので、近藤さんらの計らいもあって、サイバーエージェント・キャピタルの管轄に移管していただいて、今も株主としてお付き合いいただいたと聞いている。

Q4. どんな重要指標を見ているか? コロナ禍で変化したことはあるか?

「幸い Unipos のチャーンレート(解約率)は、0.8%程度と SaaS の中でもかなり低い数字。(最も効率がいい顧客獲得方法が)実はウェビナーだったというのは新たな発見だ」

田中氏が「狩猟民族的なビジネス」と「農耕民族的なビジネス」と形容したように、コンペが主要な顧客流入経路となる広告事業と、マーケティングが力を発揮する SaaS「Unipos」では、事業戦略は大きく異なる。一般的には SaaS ビジネスの方が売上や利益の予実管理がしやすく、事業をスケールさせやすいと見られている。Unipos のユーザや売上を伸ばすことで、Fringe81 にとっても株主にとっても、先行きの展望を描きやすくなる。

どのような数字を見ているか?

田中:Fringe81では3ヵ年計画を発表していて、基本的にはそれに沿った形で社内で指標を設定している。ただ、現在出している計画は新型コロナウイルスの感染拡大前のもので、広告事業に対しては一定の影響があり、予実にズレが生じてくることは否めないかもしれない。でも、(株主に対して)お約束した数字なので、少し時期は遅れるかもしれないが達成したい。実体経済と広告業界は密接に連携してしまっており、新型コロナウイルスの動向が見通しにくいのは悩ましいところだ。

いずれにせよ、広告事業と Unipos という二本柱は変わらないと思う。幸い Unipos のチャーンレート(解約率)は、0.8%程度と SaaS の中でもかなり低い数字。つまり、一度に入ったユーザほぼやめないサービスということだ。この種のサービスは(国内では)我々以外にあまりやっていないので、とっつきにくかったりわかりにくかったりするので、市場の開拓コストは少しかかってしまっているかもしれないが、解約率と成長率を見ている。解約率は極めて良いので、いかにして成長率を高めていくかが課題。

コロナ禍でマーケティング戦略は変化したか?

田中:これまで、顧客を獲得する上で最も効率が良いのは展示会に出展する方法だった。大企業の方々と直接名刺交換で、「このサービスは面白いね」などと直接話しかけてもらうことができた。そんな機会がコロナで全て奪われてしまったので、ウェビナーをバンバン自社で開催するようにした。顧客獲得コストが以前の3分の1位になり、これまでは対面が最も効率がいいと思っていたが、実はウェビナーだったというのは新たな発見だ。我々の場合、販売するサービスはピボットしていないが、集客方法がピボットしたことになる。

我々単独のウェビナーでも、毎回400〜500人くらいの方々に集まっていただいている。それを毎週やっているので、毎月2,000〜3,000人は集められている計算だ。以前は有名人に来てもらわないと集客できないなどの課題があったが、コンテンツをしっかり作り込めば、「ちょっと受けてみようかな」と思っていただけるようで、参加者のハードルは下がっているようだ。

プロダクトオーナーは別にいるし、ウェビナーはマーケティング担当者が企画するが、ランディングページとか、キャッチコピーとか、お客様が最初に触れるタッチポイントは僕が比較的コントロールしている。プロダクトオーナーはプロダクトを知り過ぎているので、僕は敢えて俯瞰的に見て、彼らが作ってくれたプロダクトを、潜在顧客となる企業の社長や人事担当者にどのように見せるかを積極的にマネージするようにしている。

Q5. 上場直前に経験したこと。そして、後に続く起業家たちへ

「予実管理へのこだわりを持てた人の方が後から苦労しなくていい。カルチャーを先にビシッと決めておけば、結構そのチームは強いんじゃないかと思っている」

上場したことで、その会社は名実共に公器となり、社内だけでなく多くの投資家に対しコミットが求められるようになる。事業拡大に全力を注いできたスタートアップが、理性のあるマネジメントを求められるようになる瞬間だ。上場前と上場後では何が変わるのか? サステイナブルな企業経営を続けるためのカギは何か? 売上の数字を追いかけるよりも大事なこととは何か?

以前は予期したこともなく、上場準備に入って経験し驚いたことは?

田中:上場準備に入ると、ものすごい予実の精度を求められるようになる。証券会社からも、監査法人からも、東証からも。A という事業の α っていう製品の売上がどの程度予算からブレたか、というレベル。ベンチャーは丼勘定なので、成長していればいいじゃないか、って思うのが正直なところだが、上場すると話が違ってくる。上場後に、「予算を絶対達成するぞ」みたいな感覚は、この上場準備の段階ですごく鍛えられた。

よく「上場準備は大変だ」と言われるが、上場してから求められるよりは、上場準備の段階で予実管理へのこだわりを持てた人の方が後から苦労しなくていい。ベンチャーキャピタルなどと話をしていても、彼らは「売上が上がっていて、利益が上がっていて、帳尻があっていればいいですよ」といった感覚だが、上場を迎えるとその中身、つまり、全体として売上が上がっていても「期待していた事業があまり伸びませんでした」といった話を詳らかにする必要が出てくる。

よく経営陣には、アクセルとブレーキが必要と言われる。田中さんはどちら?

田中:2014年に CFO が着任してくれたが(川崎隆史氏)、それ以前は僕がずっと CEO と CFO の両方をやっていたのと、僕の性格でもあるけど、結構細かいところまで見てしまう。財務はもちろん CFO が見てくれているが、僕と CFO で二人三脚っぽくやっている感じ。僕も本当は拡大傾向に走りたいところだが、締めないといけないところもあるので、ちょっと締める方に寄っている。その点、うちの CFO は攻めにも行ける人なので、うまく役割分担できていると思っている。

これから成長を夢見る起業家へひとこと

田中:企業は儲けるのが先か、カルチャーを作るのが先か、という議論をよく耳にするが、僕はカルチャーの方だと思う。仮に事業は死んでもカルチャーは残る。仮に事業をピボットするにも、カルチャーがしっかりしていれば、それをベースにピボット先の事業もアタリを付けやすい。どんなマネジメントスタイルにするか、どんなインセンティブを付与するか、全てはカルチャーの上に成立しているから。

長く事業することを考えるなら、カルチャーを先にビシッと決めておけば、結構そのチームは強いんじゃないかと思っている。市場規模とか、「こっちの業界は競争が激しいからあっち」とか考えるよりも、どんな事業にピボットしても、チームで同じ方向を向いて取り組めるので、サバイブ能力があると思う。

Fringe81 の場合、当初はカルチャーは確固としたものではなかった。もちろん、ふざけて起業したわけではないけれど(笑)、当初は親会社のカルチャーが強い会社だった。子会社だったので、当然と言えば当然だが。MBO して独立した会社になったときに、カルチャーが明確なものになった。そのおかげで、お客が離れてしまうとか、ピンチもいろいろあったが、乗り切れたような気がする。

シードラウンドには意味があるーービザスク、IPOまでの道のり

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 感染症拡大という不安が社会を包んでいる2020年3月、ひとつの銘柄が東証マザーズに公開された。スポットコンサルという新たな「リサーチのカタチ」を提案したビザスクは、個人が自分の力で活躍できる世界を実現し、今ものびのびと成長を続けている。創業者の端羽英子氏は金融畑から起業サイドに転身した女性起業家…

ビザスク代表取締役の端羽英子氏

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

感染症拡大という不安が社会を包んでいる2020年3月、ひとつの銘柄が東証マザーズに公開された。スポットコンサルという新たな「リサーチのカタチ」を提案したビザスクは、個人が自分の力で活躍できる世界を実現し、今ものびのびと成長を続けている。創業者の端羽英子氏は金融畑から起業サイドに転身した女性起業家で、先日、日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2021」の大賞に選ばれた。そんな彼女が上場までのプロセスで何を選択したのか、いくつかの質問でその過程に迫る。(BRIDGE編集部注:本稿はビザスク代表取締役の端羽英子氏に上場までの道のりを聞いたインタビュー記事の転載になります。質問はサイバーエージェント・キャピタル編集部、回答は端羽氏、です)

Q1:この市場を選んだ理由は

個人が売り手になれる時代。社会的な信用が貯まるようなものが出てきてわくわくしたんですよね。

端羽:「SHARE」っていうオレンジ色の本あったじゃないですか。

個人が売り手になれる時代。社会的な信用が貯まるようなものが出てきてわくわくしたんですよね。個人の稼ぐ力が強くなることがやれないかなと思ってました。それで起業しようと考えた時、当初は個人が売り手になれるECサイトを作ろうとしていたんですね。当時の同僚のそのまた同僚、みたいな方々にECサイトを立ち上げた経験のある方を紹介してもらってビジネスモデルの指南というのですか、1時間ほどいただいたんです。そうしたらそれがすごく参考になって。

リサーチにチャンスがあると

端羽:そもそもファンドにいたので社外の知見が投資検討などに役立つことは分かっていました。業界調査の必要性とか詳しい人に話を聞くことの優位性は理解していましたから、これはビジネスになるぞと。小さな単価から大きな単価までとにかく調査をするんですよね。自分自身が業界調査にお金をかけるものだ、という肌感覚があったのは大きかったです。一人一人がやってきた知見を生かせれば活躍したい個人の気持ちにも寄り添えるし、買い手の気持ちも分かる。

やりたいことが見つかって、最初のハードルは

端羽:問題はアドバイザーの方です。

2015年にようやく5000人のアドバイザーが集まったんですが、そこまではずっと苦労してました(笑) とにかく知り合いづてに探して欲しいとお願いしたり、私たちのサービスに「ビザスクlite(現名称)」っていうのが当初からあるのですが、これはアドバイザーの方々のためのものでしたね。やはりリアルな案件が見えていないと登録してくださらないし、アドバイザーの方々も様々で、こういう案件でリクエストがあるんだ、ということを見せないといけない。それ以外にもあちこち登壇してお話をしたりとか、色々やりました。

Q2:限られるリソース、やらないと決めていたことは

端羽:関係のない受託や私が個人で外で稼いだり、というのはなかったですね。ただ、国の案件は受けました。本業そのものだったので。実は外からお金を頂いた最初の仕事は経済産業省の案件だったんです。成熟産業から成長産業に人の経験が流動化する実証実験というテーマで、これはまさに自分たちの仕事だ!と思って。

スタートアップでよく課題になる「最初のエンジニア」はどうやって見つけた

端羽:(金融畑で)当然こういった開発をする知り合いはいないので、外注で始めなきゃいけないと思ってました。しかし外注するにも勝手が分からないので、知り合いに「目利きをしてくれる人を紹介して欲しい」と出会ったのが、今年までCTOをしてくれた花村なんです。そんなにふわふわした内容だと外注とかできないですよ、プロトタイプでも作りましょうかと言ってもらって、もうそこから離さないぞって(笑) 本当にすごいラッキーだったと思います。

そんなこんなで、最初に開発を手伝ってくれる方がいらっしゃって、正式公開のタイミングでフルタイムになってくれたんですけど、フルコミットするまでの前の時間が1年以上ありました。

当時を振り返ってこれをやっておけば、というものは

端羽:ECモデルのダメ出ししてくれた人に出会うのに2カ月ぐらいかかったので、もっと早く会いたかったですね。当時、ソーシャルランチってあったじゃないですか。あれを使って自己紹介にこれこれこういうサービスを作りたいって書いて、会いに行ってました。あと渋谷のシェアオフィスみたいな場所でイベントスペースがあったりすると、そこで人に会いまくったり。とにかくアドバイスはたくさんもらいました。

Q3:PEファンドでの投資経験者として、最初の投資家をどう選んだ

当時、女性の起業家には厳しい時代でした。成功率が低いとか「子供産んで仕事辞めてる人もいますよね」みたいな意見を言った投資家の方もいました。

端羽:シードのラウンドは意味があるんです。

今で言うエンジェルの存在ですね。私自身は個人でスタートアップ界隈には親しい人がいなかったし、お金だけであれば金融出身の知り合いにいけばよかったかもしれません。でも自分も金融出身なので、金融の人間にはないものを持っている人が欲しかった。スタートアップ界隈のネットワークとか、採用ブランディングとか、メディアとのつながりとか。

例えばメディアでもスタートアップ専門に扱っているような媒体は別として、大手のメディアは資金調達を受けていないとなかなか取り上げてくれなかったりします。日経新聞に取り上げてもらって、ビザスクのサイトを見た方が安心してくれたり。

あと当時、女性の起業家には厳しい時代でした。成功率が低いとか「子供産んで仕事辞めてる人もいますよね」みたいな意見を言った投資家の方もいました。面と言われるとびっくりしますよね。ベンチャーユナイテッドやサイバーエージェント・ベンチャーズ(現在のサイバーエージェント・キャピタル)は女性だからということは一切なかったです。

Q4:最重要指標はどう決める

最初は数字が取れませんので、人を説得できるだけの仮説と「思い」を持ってそれを語れるかじゃないでしょうか。

端羽:公表しているところで言うとアクティブなクライアント数、クライアント毎の単価、アドバイザー数なんですが、実際はもっとすごく細かい数字で管理していて、これは最初からそうでした。数字ってコンパスみたいなもので、例えば売上は階段上に成長していったとしても、伸びてる数字と伸びてない数字が見えてきます。ここは伸びてるからいいけどここは伸びてないから止まっちゃうんだよね、じゃあ解決しようかとToDoに落とせます。とってもロジカルな世界なのでやりやすいんです。

KPI設計で苦労したことは

端羽:最初の一年は暗中模索でした。辛かったのは数字の分析は得意なのに、分析するための数字がないという時期がすごく長く続いて。施策のせいで当たったのか、たまたまメディアに出たから動いたのか、数字が小さいと何でも動きやすくなってしまうので、こういう分析ができない時期に「これに違いない」と思ってやれるかどうかはすごく大切です。

数字が曖昧な時にどうやって推進する

端羽:成熟産業に投資していた経験からも、数字で検証できるレベルであれば心を一つにしやすいのです。しかし、最初は数字が取れませんので、人を説得できるだけの仮説と「思い」を持ってそれを語れるかじゃないでしょうか。思いが強い方がやった方が良い。どうせ失敗するので(笑)ある仮説に対して誰かが強くこれをやりたい!、と思えるかどうかが大切かなと。

Q5:創業時、IPOをどのように捉えていた

スタートアップは事業を作るけど、IPOプロセスで会社を作っていくことになる。

端羽:起業したばかりの時は買収かIPO(株式公開)かについては正直、どちらでもいいと思ってました。

しかし(前職のPEファンドでは)散々、上場コストって高いですよねって言ってましたし(笑)、私達が資金調達したころの日本では大きな買収は起こりにくかった。投資するVCはホームラン狙いですから当然、IPOぐらいしないとその規模にならない。だから最初はお作法的に「IPOします」って言わなきゃいけないと思ってた時期もありました。

でも、事業をやっていくなかで意義が見えてきたんですよね。例えばみんなは嫌うかもしれないけど、働くためのルールとか。スタートアップは事業を作るけど、IPOプロセスで会社を作っていくことになる。だって自分たちを全部ひっくり返してみせて、監査法人さんや証券会社さんから「社会の公器になって良いよ」というお墨付きを貰うわけじゃないですか。これは事業戦略としても大切なことだったし、本当に意味があると思ったのでこれはみんなで目指そうよと。

上場終盤に差し掛かった時期の資本政策で気をつけたことは

端羽:最初から海外を頑張るつもりだったので、2回目のラウンドではDCMさんにリードしてもらいました。それとメガバンク系のVCです。驚いたことに、当時はまだ、サイバーエージェントさんですら大企業からみると(信用度が低い)ベンチャーだと思われることがあって、営業する上においてはやはりもっと固めの名前が必要だったんです。それでメガバンクに株主になってもらいたいと思って、みずほキャピタルさんに参加いただきました。そんな感じで海外、営業、採用、こういう形で非常に明確な期待値を持って投資についてはお話させてもらったのはありましたね。

組織も同時に大きくなる。マネジメントで苦労した点は

端羽:もともとマネジメント経験があったわけじゃないんですよ。そういう意味では、マネジメントすること自体がすごいチャレンジでした。例えば、みんなの前で私はこれをこういう風にしたいんだとか、ここまで言葉にしなきゃ分からないのかとか。何冊も本を読みましたし、色んな人たちの話も聞きましたね。自分が思ってる以上に人には伝わってないとか情報共有がされないと面白くないから、一生懸命やるべしとか、基本的なことを大事にし続けたいと思っています。

元々、リーダーシップというよりは分析が得意な人、という見立てを前職の同僚から貰っていたので、まさか社長やって上場するとはとても思っていなかったと思います(笑)マネジメントってスキルじゃないですか。今はまだ100人規模ですからこれを500人にしたらどうなるか、そのスキルは身につけなきゃと思ってます。

ーーありがとうございました。

2019年上場を最初に決意ーースペースマーケットが乗り越えた5つの壁

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 2019年の終わり、国内シェア経済を牽引するスペースマーケットが東証マザーズに上場した。重松大輔氏は、スタートアップしたその時から2020年までの上場を決意してこの事業に臨んだという。前職での上場経験を元に彼は何を選択し、何をやらなかったのか。その意思決定のプロセスに6つの質問で迫る。 Q1:シ…

スペースマーケット代表取締役、重松大輔氏

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

2019年の終わり、国内シェア経済を牽引するスペースマーケットが東証マザーズに上場した。重松大輔氏は、スタートアップしたその時から2020年までの上場を決意してこの事業に臨んだという。前職での上場経験を元に彼は何を選択し、何をやらなかったのか。その意思決定のプロセスに6つの質問で迫る。

Q1:シェア経済の中、なぜ「スペース市場」を選んだのか

エンジニアじゃない僕がやる上で、営業ハードルがあるものが自分に向いているだろうなと。まず不動産オーナーを説得して登録してもらうのにはそこそこ営業ハードルがあるんじゃないかと考えたんです(重松氏)。

重松:やっぱりこう、リアルが好きなんですよね。前職がイベントなどの写真をネットで販売する、リアルとバーチャルの掛け合わせみたいなビジネスだったので、そういうのをやりたいなと。あと、マーケットがデカいところで勝負したかったので、不動産市場は非常に大きいですよね。さらにここ、5年〜10年でやってくる大きな技術トレンドを考えた時、アメリカをみたらやはりAirbnbなどが急成長してましたから、この不動産のシェアリングは確実にやってくるし、不可逆な流れになる。

多くが同じようなことを考える中、ここで勝てると信じた理由は?

重松:参入障壁の考え方ですね。エンジニアじゃない僕がやる上で、営業ハードルがあるものが自分に向いているだろうなと。プラットフォームって「ニワトリ・タマゴ」じゃないですか。まず不動産オーナーを説得して登録してもらうのにはそこそこ営業ハードルがあるんじゃないかと考えたんです。

ーー重松氏にもう一つ、スペースマーケット以外に残った最後のアイデアを聞いてみたところ、意外にも、幼稚園や保育園のオンライン化サービスを考えていたのだそうだ。

重松:子どもたちの個人情報ってこれから取得がどんどん厳しくなるだろうなと考えていたんです。当時は幼稚園とか保育園って連絡帳がまだ紙のままだったり、保育代も茶封筒でやりとりしていたり。これは絶対オンライン化できるだろうと考えてました。ここをサービス化できれば、蓄積される子どもたちのデータは大きいだろうし、サブスクリプションのようなモデルも積み上げが効きます。あと、前職でやはり子どもたちの写真を扱ってましたから、想像以上に営業ハードルが高いんですよね。なので、ここは行けるんじゃないかなと。

Q2:創業期に「やらなかった」こと

気をつけていたのがやっぱりカルチャーで、初期の10人ぐらいの時におおよそ決まってくるんですよね。特に最初って誰でもいいから手伝って欲しいという意識ってあると思うんです。でもこれは絶対やめようと(重松氏)。

重松:本当に最初の最初は共同創業者を探すところがあって、私は完全にエンジニアのバックグラウンドはありませんから、ゴリゴリとプロダクトを作った経験のある人を探すっていうのが最初にやったことですね。(執行役員CINOの)鈴木(真一郎)がそうなんですが、まさに妻(※)が昔に投資をした先という縁があって。彼じゃないとプロダクトが成立していなかったのでそれは非常に大きかったですね。再現性は難しいですが(笑)

※重松氏の妻、佐藤真希子さんは現在、iSGSのマネージング・ディレクターで、当時はサイバーエージェント・ベンチャーズで投資を手掛けていた人物

重松:準備期間が2カ月ぐらいあったんですが、私は企画書を作ってひたすらスペースを集めて回ってました。

創業に近い経験で2度目のスタートアップ、出だしでイメージしていたものは

重松:資金調達するところまでを描いて立ち上げていましたね。どうすれば一番良い条件で資金調達できるかイメージして、まずプロダクト出して話題にし、その後、ピッチコンテストで優勝する、みたいな。あと、上場については絶対にオリンピック(2020年)までにやると、創業した当時からずっと考えてました。

逆にやらなかった、やらないと決めたことは

重松:前職(フォトクリエイト)での経験はやはりめちゃくちゃ活きてて、特に組織ですね。私は15番目ぐらいに入ったんですけど、その後、50人、120人と増えていくわけです。それぞれのフェーズっていうのがあって、必要とされる人たちもちょっとずつ変わっていくじゃないですか。

最初はなんでもやるゼネラリスト、資金調達などが進んできたら特定のプロフェッショナルや、他の組織で経験を積んだ人たちが入ってきて。こういった状況を経験済みだったことは大きかったです。それで、気をつけていたのがやっぱりカルチャーで、初期の10人ぐらいの時におおよそ決まってくるんですよね。特に最初って誰でもいいから手伝って欲しいという意識ってあると思うんです。でもこれは絶対やめようと。

だから採用についても、いきなり入社、ではなく、社会人インターンじゃないですが、興味ある方に手伝ってもらって、お見合い期間っていうんですかね。3カ月とか半年ぐらい手伝ってもらってから、資金調達のタイミングなどにお声がけする。これは結果的にやっぱりよかったですね。

Q3:投資家をどう選ぶ

チマチマ駆け引きしたりせず、プロダクトをデッカくして、沢山の方に喜んでもらうものを作るっていうのが大前提ですよね(重松氏)。

重松:特にシードとかアーリーステージの時はやはり人ですね。しっかりサポートしてくれるかどうか。当然、バリュエーションの考え方もあるのですが、トラックレコードじゃないですけど、箔が付くというのでしょうか、こういったブランド価値もあると思っています。

投資家との付き合い方、特に距離感はどう考えてましたか

重松:彼らももちろん(いつかは株を売却しなければならない)そういう生き物なので。ただ、まずはその果実を大きくしなければ話にならないじゃないですか。チマチマ駆け引きしたりせず、プロダクトをデッカくして、沢山の方に喜んでもらうものを作るっていうのが大前提ですよね。

まあ、最後はこう、気持ちよく出て行っていただけるようにする(笑。彼らも別に気前のいい人たちじゃないわけで、しっかりとリターンで商売してるわけですから。期限もありますし、それをちゃんと意識してお付き合いする必要があるわけです。起業家、経営者としてはちゃんと結果でお返しするというのも筋じゃないですかね。

Q4:撤退基準

撤退するっていう頭はなかったですね(笑。まあ、キャッシュが尽きて、投資が付かなかったら辞めざるをえないわけです。今だから言えますが、シリーズBラウンドは結構苦労したんですよ(重松氏)。

ちょっと話を変えて間違いなくイケると思ったタイミングっていつでしたか

重松:まず最初にいけるなと思ったのはサービス開始して半年後のハロウィン。大学生とかがレンタルスペースを借りてくれるようになったんですよ。それまでは正直、あまり鳴かず飛ばずだったんですけど、そこからですね。ふわっと上がるようになって。

ちなみに最初の立ち上げ時期、ビジネス用途で考えてたんですよ。Airbnbのビジネス版。だから最初に入ったスペースも例えば映画館とか野球場のように見栄えするものが多くて。あと、小さい個人宅はリーチがそもそも難しいですよね。そこからは角度が変わるようなことはないにしても、着実に積み上がっていって、さらにそこからサービス開始後3年目ぐらいですかね。いろいろな機能を実装したんです。インスタントに物件を予約できるボタンやポイントのようなサービスですね。その辺が整備されると劇的に伸びていきました。

ちなみに撤退基準って決めてましたか?

重松:撤退するっていう頭はなかったですね(笑。まあ、キャッシュが尽きて、投資が付かなかったら辞めざるをえないわけです。今だから言えますが、シリーズBラウンドは結構苦労したんですよ。当時は経理部長すらいなくて、私が回ってたんですね。もちろん数字も伸びてるんですが、月次で1000万円が1200万円になるとかちょっとインパクトが足りない。最終的にはなんとか出資してもらうことができましたが、なかなか思い出したくない時期ですね(苦笑。

Q5:重要指標はどうメンテナンスする

さらに成長するとレンタルスペースの運用代行の事業者(企業)のような方々が増えてきてその方々の満足度はどうなんだ、というようにまた見るべき数字に変化が出てくる。こういった数字をそうですね、四半期だったり半年で自然と見直してきました(重松氏)。

上場時の開示資料から、KPIはGMV(流通総額)とスペース数とされてました。これは最初から決まってましたか

重松:もちろんそれ以外の細かい指標もあるんですが、大きな数字は最初から変わってないですね。ただ、初期の頃ってすごく稼働しているスペースもあれば、そうでないものもあってそういう傾向というのかな、それが見えてきたのはやはりシリーズBラウンドあたりかな。

チームで数字を追いかけるモチベーションや仕組み

重松:Slackなどで毎日数字のデータが配信されてくるんですけど、それをチームでしっかり評価したりとか、毎月の社員会で進捗を発表したり。上場後は重要なデータは開示できないですけど、未上場であればタイムリーに共有したり、一時期は大きな画面で表示したりしてましたね。ベタですが、可視化はやはり大切です。チームでの数字の追いかけ方ですが、ニワトリ・タマゴのロジックでいくと、やっぱりニワトリ(※スペース)を連れてこないとビジネスとして成り立たないですよね。ただ、何が稼働するかなんてわからないから、とにかく集めてこようよ、というのが初期。

で、徐々に成長してくると、こういうスペースが稼働するよね、実はこのスペースはあまり入らなかったねという「稼働率」が見えてきたんです。さらに成長すると運用代行の企業のような方々が増えてきてその方々の満足度はどうなんだ、というようにまた見るべき数字に変化が出てくる。こういった数字をそうですね、四半期だったり半年で自然と見直してきました。

Q6:上場直前期に起こること

これまで自由にやってきたのに、勤怠管理しなきゃいけないとか、こう、大人の会社になるっていうんでしょうか。これ嫌な人もいるわけです。上場前にも関わらず、やっぱりどうしても合わない人が出てきてしまったり。仕組みが変わってしまいますからね(重松氏)。

上場直前期に特に留意して実行したことは

重松:上場後を見据えてのアクションとして、事業会社に多く入ってもらったことですね。あと、上場後って色々大きく踏み込んだマーケティングなどはやりづらいんですね。そこで2億円ほどを投じて初めてのテレビCMを打ったりしました。今までなかなかやってこなかったようなことを実験も含めてテストしてみた感じですね。あとは社内規定を揃えたり、ガバナンスなど、上場企業として必要な対応などは当然やりました。ただ、これまで自由にやってきたのに、勤怠管理しなきゃいけないとか、こう、大人の会社になるっていうんでしょうか。これ嫌な人もいるわけです。上場前にも関わらず、やっぱりどうしても合わない人が出てきてしまったり。仕組みが変わってしまいますからね。

実はオプションを理解していない人も一定数いるんです。もちろん説明はしますよ。けど、ここが難しいところなんです。行使できる時期も言い切れませんし、あと、オプションでしばりすぎると、それありきみたいになっちゃうのも嫌でしたから。なので、途中から(オプションについては)コミュニケーションは変えましたね。それよりも目の前の事業に向き合って、自分を成長させることができれば、結果的にそういうインセンティブも手に入るし、ホストやゲスト、社会にも還元させることができるよ、と。

 

【IPOスタートアップの資本政策解剖】マネーフォワード編〜第2回「Smartround Academia」から

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前回のビザスクに続き、今回、資本政策を解剖するのはマネーフォワード(東証:3994)だ。2012年5月に創業し、2017年9月に東証マザーズに上場。当時、今ほどメジャーではなかった SaaS スタートアップの IPO としては先駆け的存在である。今回、マネーフォワードの資本政策を披露してくれるのは、同社を IPO へと導いた当時の CFO 金坂直哉氏である。 金坂氏は東京大学経済学部を卒業後、ゴー…


前回のビザスクに続き、今回、資本政策を解剖するのはマネーフォワード(東証:3994)だ。2012年5月に創業し、2017年9月に東証マザーズに上場。当時、今ほどメジャーではなかった SaaS スタートアップの IPO としては先駆け的存在である。今回、マネーフォワードの資本政策を披露してくれるのは、同社を IPO へと導いた当時の CFO 金坂直哉氏である。

金坂氏は東京大学経済学部を卒業後、ゴールドマン・サックスの東京オフィスとサンフランシスコを経て、2014年にマネーフォワードに参画。同社が個人向けの家計簿アプリから、事業者向けの会計サービスへと進化を始めた直後のことだ。昨年までマネーフォワードの CFO を務めていた金坂氏だが、IPO 経験を生かし昨年設立された成長企業向けのフィナンシャルアドバイザリーを提供するマネーフォワードシンカの代表に就任。7月1日付けで、金坂氏が再びマネーフォワードの CFO に復帰就任したことが発表されている

なお、マネーフォワードシンカは新型コロナウイルス感染拡大を受けて、今年3月に VC とスタートアップのオンライン面談マッチングを支援する活動を実施したほか(すでに終了)、5月には投資家向けに保有する未上場スタートアップ株式の売却先を紹介する株式売却アドバイザリーサービスを開始している。

今回の聞き手も、スマートラウンド COO 冨田阿里氏が務めた。

<これまでのマネーフォワード関連記事(一部)>

<上場前(2012年5月〜2017年9月)>

マネーフォワードは2017年9月に上場を果たしたが、上場前段階で44億円、上場後も市場以外で143億円を調達するなど、事業成長に成長資金を常に調達し続けている。最初の資金調達となったのは、創業から7ヶ月後の2012年12月。代表取締役の辻庸介氏の古巣マネックス証券のベンチャー投資部門からだった(当時のマネックス・ビジネス・インキュベーション、現在のマネックスベンチャーズ)。マネーフォワードにとって初めての外部資金調達(2,000万円)だったが、同社ではこれをシリーズ A ラウンドと位置付けている。

シリーズ B〜C ラウンド位までは VC 調達が多いが、シリーズ C〜D ラウンドあたりからは地方銀行や事業会社からの調達が増えている。マネーフォワードは、B 向けの販売チャネルとして地方銀行や会計事務所などとの協業を行っており、事業ステージの進捗とともにベンチャー資金よりは事業パートナーからの資金注入が増えていることがわかる。ちなみに金坂氏がマネーフォワードに参画したのも、同社が シリーズ C を始める2014年のことである。

スタートアップ経営者にとって資金調達のリードを掴むことは重要ミッションの一つであり、この日の視聴者からは金坂氏に対し、自社に合った VC や投資家にたどり着く方法、投資家とのリレーションに対して質問が多くなされた。質問の順序は前後するが、金坂氏の説明を要約すると概ね次の通りだ。

  • アーリーステージにおいて特に重要なのは資本政策。後戻りできず、投資家とのやりとりで飲んだ条件や契約が、結果的に上場で足を引っ張ることが起こりうるのがエクイティファイナンスの怖さだ。バリューエションも、ダイリューションも、上げ過ぎても下げ過ぎても良くない。多面的な角度から考えることでリスクを下げるべきだと思う。
  • 投資家との契約にあたっては自社にあったアドバイザーと相談し、二社以上の投資家と話すことで、投資家との契約における交渉力を維持すべきだと思う。
  • エクイティファイナンスにかけた時間は、2014年の時で半年(シリーズ C)、2015年の時で4ヶ月(シリーズ D1)、その次は数ヶ月くらい(シリーズ D2)。回数を経るにつれ、普段からリレーションが取れているため、短くできるようになっていった。
  • 投資家とは常にコミュニケーションし、「次にファイナンスするときは声をかけてください」と言ってもらえる関係性を確立しておく。あるラウンドのファイナンスが終わった瞬間から、投資家には次のラウンドに参加してもらう可能性があるという位置づけ。
  • 地方銀行から資金を調達できた背景には、ビジネス面でのアライアンスが進んでいることが大きく影響している。アプリを作るとか、クラウドサービスを進めるとか、そういった協業関係が無いと、地方銀行からの資金調達は難しいのではないか。
  • バリュエーションが100億円を超えてくると VC からの調達は難しくなってくることも事実。投資家に対しては、バリュエーションや投資リターン以外のメリットを見せる必要が出てくる。レイターステージで事業パートナーからの調達が増えるのには、そういう理由もあるだろう。
  • ストックオプションは、基本的に年に1回の形で運用していた。全株式の中で、上場時の何%を割り当てるかは投資家らとの契約の中で決めていた。例えば、ストックオプションで付与できる割合を全株式の15〜20%程度に設定しておき、創業から上場までを4年と見るなら、1年あたり4〜5%程度は付与できる、というようなイメージ。誰にどのように付与するかについては、社員が100人程度の規模までは評価制度が確立されていなかったので、CEO や CFO が相談して決めていた。
  • どの投資家から、バリュエーションをいくらにして、どれだけ調達するかについては、まずは自分たちのビジョンを明確にし、それに必要な資金を算出する。そして、どの程度のバーンレートをカバーして、その金額で何年持たせられるかを計算する。マネーフォワードの場合は、比較的厚めにファイナンスしてきた。ストレッチしたバリュエーションでファイナンスができたのは幸運だった。そして、投資家には、事業上の関係やフィーリングも含め、一緒の船に乗ってやっていける人や企業を相手に選ぶべきだ。
  • 投資家に伝えていくストーリー(業績見通しの計画)については、事業のステージによって違ってくる。2014年くらいまでは(シリーズ C あたり)売上はまだ1億円に届かない位の業績だったので、今後どういうプロダクトをローンチしていくのかを話していた。2015年(売上4億4,000万円)、2016年(売上15億4,000万円)くらいになると、トラックレコードで将来成長を見せられた。売上がまだ無いときは SAM(実際に提供可能な市場規模)や TAM(獲得可能な最大市場規模)で、売上が出てきたら実績の延長線で話せるようになる。
  • 資金調達は CEO 中心でも CFO 中心でもできるが、どんな体制で臨むかはその会社次第。資金調達に表面的なスキルよりも、むしろ、投資家との信頼関係を築いたり、最後までやり切れる人だと見てもらえたりすることが大事。投資家も経営者を2〜3年見ていればそのあたりが分かってくるので、安心して投資ができるようになる。投資家に対しては、真摯かつ愚直に事業に取り組んでいる姿を見せ続けるというのが王道。ファイナンスが必要になってから、ある日投資家に出会い、「いきなり投資を決めてください」と申し出る選択肢は勧めない。

<上場(2017年9月)>

スタートアップ経営者にとって、自社の業績が上場基準を満たしたとして、いつ上場するかというのは熟慮すべき課題。最近では、ファンドの大型化によって、資金需要だけで考えれば VC からの調達でも充足することができるだろう。しかし、「金は天下の回りもの」であるゆえ、経済のある部分がスタックすると資金調達を含め経済全体がスタックする危険を指摘する CFO は多い。

マネーフォワードでは、シリーズ E ラウンドを迎えた2016年前後から経営陣の間で上場に向けた話が出始め、「上場を最速で目指そう」という意見の一致から2017年夏にターゲットを定めた。マネーフォワードの初期投資家の代表者でもあり、辻氏の心の師でもある松本大氏が言う「上場はタイミングが難しいがゆえ、できるときにするのがいい」という以前からの進言も参考にしたそう。

タイミングは重要であるが、タイミングは簡単にずらせるものでもない。したがって、シンプルに考えた結果、最速を目指した。すべての会社に当てはまらないかもしれないが、マネーフォワードの場合、IPO できるときに IPO して次の成長に備えるということで、そういうタイミングになった。(中略)

海外ではかなり大きくなるまでは IPO しないという傾向がある。これは IPO しないというよりも、大きくならないと IPO できないからという感じ。日本の場合はマザーズという新興市場があるので、IPO できるタイミングで IPO というのもありだし、大きくしてから IPO するというどちらも選択肢としてありだと思う。(金坂氏)

<上場後(2017年9月〜)>

マネーフォワードが2020年4月に公開した第1四半期の決算説明会資料によると、同社の株主のうち機関投資家比率は過半数を超え、海外機関投資家が36%、国内機関投資家が16%を占める。昨年、日経が発表した売上高100億円以下の上場企業「NEXT1000」を対象にした調査では、2018年度に海外投資家を増やした会社1位はマネーフォワードだった(89社)。別の日経記事によれば、これら海外からの公募増資は、主に M&A 資金などに充てるためのものだ。

実際のところ、クラビス(2017年11月)、ナレッジラボ(2018年7月)、ワクフリ(2018年8月)、スマートキャンプ(2019年11月)と、マネーフォワードはスタートアップ買収にも積極的だ。マネーフォワードの海外投資家からの資金調達は、日本の SaaS や会計系サービスなどへの強い期待の現れと見ることもできる。また、買収はしていないが、Chatwork(東証:4448)や BASE(東証:4477)といった上場を果たしたスタートアップに対する投資家でもあった。

そういったこともあり、マネーフォワードはこれまで海外投資家への IR 活動を積極的に行ってきた経緯がある。IPO 以降、通算で三度にわたる海外からの資金調達を行っており、1度目は IPO と同じタイミングで、旧臨報方式(アメリカを除くアジアやヨーロッパなどの世界にオファリングをする)により30億円、2度目と3度目は海外公募増資(Global Offering)により、それぞれ66億円(2018年12月)と47億円(2020年1月)を調達している。1度目の調達時に旧臨報方式を選んだのは投資家からの需要が大きかったこためで、英文でのドキュメンテーション作成も必要とされなかった。

金坂氏によれば、M&A する場合と、マイナー出資する場合では、投資先スタートアップの選定基準が全く異なってくる。マネーフォワードの M&A 戦略はプロダクトを増やす M&A とユーザを増やす M&A に大別されるが、これまではプロダクトを増やす方に終始してきたそうで、今後はユーザを増やす M&A 案件も手掛けていきたいという。また、M&A では買収先のスタートアップの経営者をマネーフォワードグループの経営陣に迎えることを前提とするため、会社間や人の間のカルチャーフィットが重要となる。資本提携や出資の場合はこの限りではなく、投資先のスタートアップの経営者が IPO までやり切れるかどうかを見極めるそうだ。

また、上場後は、いかに株主に長く会社を愛してもらうか、もっと言えば、株を持ち続けてもらうかというのはテーマだ。安定株主をどうやって確保するかという視聴者からの問いには、金坂氏は次のように応えた。

安定株主という概念は信じていない。どんな株主にも、売りたい時に売る権利があるからだ。ただし、投資家とはコミュニケーションを密にとって、長期にわたって株式を保有してもらえるよう努力はしている。投資家とは立場が違うので、株式を売り出すタイミングについては交渉はできても無理は言えない。普段からしっかりした IR を心がけ、マネーフォワードの場合は大口の株式売却があっても、株価に影響を与えずに、それをいい投資家にまた買ってもらえている。

<その他>

  • 株主が多いと株主とのコミュニケーションが大変になる、と懸念する経営者もいる。マネーフォワードの場合、ミドルステージ以降は、事業パートナーに株主になってもらったものが多い。そのため、彼らに対しては投資家への説明以前に事業における説明があり、月1回ペースでの KPI 報告会、その後、社長や担当者も交え飲み会という形で運営していた。株主=事業パートナーに毎月会っているので、次のファイナンスの情報も伝えやすい。複数の株主が同時に同じ場所に集まれ、効率的に意見を交換できる点でもよかった。
  • 新型コロナウイルスの影響で資金調達が難しくなるのも事実だろうが、工夫をする方法はある。まず、資金が足りないからと言って新規投資家に連絡を取る前に既存投資家と密にコミュニケーションをとるべきだ。新規投資家と既存投資家では、そのスタートアップに対して持っている情報量が違うし、既存投資家がサポートできないのに新規投資家がサポートするのは難しい。既存投資家の支援を獲得し、それから新規投資家を呼んでくるべき。営業上ムダなコストはとことん削ること。

マネーフォワードシンカのクライアント企業

金坂氏が代表を務めるマネーフォワードシンカでは、スタートアップが IPO などイグジットを目指す上でのフィナンシャルアドバイザリー事業を行っている。昨年9月の創立から、スタッフメンバーは総勢10名体制にまで成長。マネーフォワードの上場を通じて得られた知見や経験をもとに、2021年までにスタートアップ100社の支援を目指しているそうだ。

また本セッション終盤には、先月のエルピクセルの元取締役横領事件にも触れられた。CEO は CFO に全幅の信頼を置くものだが、悲しいことにこういう事案が時々世の中を賑わせてしまう。今回の事件では、銀行口座の通帳コピーが細工されるという単純なトリックで経営陣が騙されてしまったわけだが、マネーフォワードを使えば、口座情報はリアルタイムで金融機関からアグリゲートされるため、その情報をオンラインで経営陣が共有すれば、同じような問題は生じない、とのことだった。

スマートラウンドは、起業家の資本政策づくりを支援する SaaS「smartround(スマートラウンド)」のユーザが去る6月16日で1,000社を超えたと発表した。smartround のローンチは昨年6月22日なので、1日平均約2.8社のペースでユーザが増えたことになる。また先頃、これまでの「資本政策 smartround」「経営管理 smartround」「会社紹介 smartround」「ライブラリ smartround」に加え、新たに「株主総会 smartround」をリリースした。株主総会 smartround の機能の一部は、先月ケップルがローンチした「株主総会クラウド」と競合する可能性がある。