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MUGENLABO Magazineではこれから事業を加速させていこうとお考えの皆様にとってヒントとなる情報を、様々なオープンイノベーション事例を通じてお届けします。事業共創プラットフォーム「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」とコーポレートベンチャーキャピタル「KDDI Open Innovation Fund」では、大企業とスタートアップによる事業共創によって新たな産業の創出を目指しています

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MUGENLABO Magazineの話題

労働が拡張する世界:遠隔操作ロボットがコンビニで働き出すまで/Telexistence 富岡仁氏 Vol.1

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回はテレイグジスタンス(遠隔存在)の研究を具体化し、社会実装を進めるTelexistence代表取締役CEO、富岡仁さんにお話を伺います。 東京大学名誉教授、舘暲教授によるテレイグジスタンス(遠隔存在)の研究をもとに、富岡CEO…

テレイグジスタンス代表取締役CEO、富岡仁氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回はテレイグジスタンス(遠隔存在)の研究を具体化し、社会実装を進めるTelexistence代表取締役CEO、富岡仁さんにお話を伺います。

東京大学名誉教授、舘暲教授によるテレイグジスタンス(遠隔存在)の研究をもとに、富岡CEOが共同創業者として2017年に創業したのがTelexistenceです。2018年5月には量産型プロトタイプ「Model H」の開発に成功。遠隔操作ロボットによる旅行や購買・小売業に事業機会を見出し、今年8月からはファミリーマートやローソンなどのコンビニエンス・ストアでの試用運転を開始しました。

今年8月に発表されたTelexistenceとファミリーマートによる協業では、新たな店舗オペレーション基盤の構築を目的とした遠隔操作ロボット技術の試用運転を開始しています。店舗の飲料売場にて遠隔操作によるペットボトル飲料の陳列から業務を開始し、今後は、おにぎりやお弁当など作業対象を随時拡大していくそうです。遠隔操作が可能なModel-Tの導入によって、遠隔地から一人で複数店舗の作業が可能になるため、人手不足の軽減や現在拡大している感染症拡大防止にも繋がると期待されています。

大学での研究を形にし、そしてそれらを社会実装するまでにはどのような困難があったのでしょうか。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、回答はTelexistence代表取締役CEOの富岡仁氏、文中敬称略)

スピーディーに社会実装を進めるための逆転の発想

遠隔操作の様子

遠隔操作というアプローチでロボットの社会実装に取り組むのですが、ローソンやファミリーマートへの導入はどういう経緯で実現したのですか

富岡:小売、その中でもコンビニエンスストアというのは最初から狙っていたマーケットでした。

世の中にない技術や仕組みを社会に実装する場合、まずはプロトタイプを作って実証実験(Proof of Concept・POC)を行い、効果検証などをするわけですが、ロボティクスやハードウェア系のスタートアップは、このPOCをやるやらないの交渉で1年使ってしまう。そして、仮にPOCを行っても結局次に進まず、また違う顧客候補と実証実験を行う、というのを繰り返す『POC屋さん』になってるケースが多くあります。

ジェフリームーアのキャズム的に言うと、ロボティクススタートアップはPOCでぐずぐずしていると、キャズムのベルカーブにできた最初の裂け目、クラックに躓き、転んでしまうことが多いと思います。これはある意味しょうがないところもあります。産業用ロボット以外のロボティクスは導入したい側も何ができるのか分からないし、ロボット屋さんも作るのは得意だけど、相手のオペレーションがわからないのでニーズに最適化されたロボットを作れない。この情報の非対称性とギャップを短期間の実証実験で埋められる訳がない。

多くのB2Bハードウェア・スタートアップのハードルです

富岡:だから自分たちの場合、既存のコンビニオーナーさんにお願いして2カ月店舗にロボット置かせてください、と交渉したら時間がかかるだろうなということは当初から予想していました。であれば自分たちでコンビニ店舗を運営する中でロボットを稼働させ、製品化する、という打ち手でPOCの壁を、ベルカーブのクラックを、最小抵抗経路で超えていくことにしました。

そしてもう一つ、自社店舗を運営する狙いは、自らキャズム上のイノベーターやアーリーアダプターになることで、次の段階の顧客グループであるアーリーマジョリティ層にイノベーターの利用事例を説得材料にすることにあります。ただ、これも言うは易しで、創業2年のロボット会社が突然フランチャイズオーナーとして店舗運営の許可をコンビニブランドの本部の方々から頂く交渉は相当難しかったのですが。

逆転の発想ですね

富岡:ロボット開発以外に小売の店舗運営をしないと行けないので大変ですけどね。ただ、商品の入荷時間がいつでその為にはロボットがどういうスループットで動かなければいけないかなど、ロボット導入に興味を持つ企業のオペレーションを細かいレベルで理解できています。するとこれまで印象論でしか分からなかったことが見えてくるんですよね。だから正直、他社のロボット会社が小売や物流向けに我々と同じレベルの製品はなかなか作れないと思います。

実際に導入して検証している様子を拝見したのですが、店舗が案外普通の様子でした。例えばAmazonではDash Cart用に店舗を最適化したり、TRIのロボットでは天井にぶら下げるようなパターンもあります。オーナーであるなら店舗を最適化させるということは考えなかったのでしょうか

富岡:ないですね。産業用ロボットの市場ってどれぐらいだと思いますか?グローバルで何台ぐらい売れてると思います?なんとなくすごく沢山売れてて巨大なマーケットっぽい印象があるじゃないですか。でも実際は世界で37万台です。ファナックや安川などグローバルで主要な4ロボットメーカーがありますが、それを全て合わせてもそれぐらい。車が世界で年間9,000万台販売されていることを考えるとまあ、小さい市場ですよね。

理由は現状、自動車や総合電気の工場の中でしかロボットが使われてないからです。工場の中であれば完全にコントロールできる環境なのでロボットが稼働しやすいように周辺環境を構造化出来ます。一方、我々が狙っているのはあくまでその工場の外のリアルな世界、非構造な環境です。

工場外に出ないと確かに市場は限定的になりそうです

富岡:リアルな世界を工場のように全てロボットに最適化された環境に変えていくのは我々の仕事ではないと考えてます。例えば、馬車から車に移った時、馬車と車が通る道を分けて、自動車専用の道路を整備したのは国です。スタートアップや企業がやれるものじゃない。もしかしたらいつかはロボットが動きやすい環境を整えてくれるのかもしれないけど、タイミングですよね。そのタイミングが来るまではなるべく周辺環境を変えなくてもロボットが使えるようにしなければいけない。そうしないと勝ち筋ってちょっと見えないと思います。

足を使い外で動くロボットと言えばBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)のロボットがやはり印象的です。一方で、自由に動き回れるロボットにはまだ社会実装までのリードタイムがありそうですが

富岡:機械工学的な我々の強みはマニピュレーション(手による操作)にあり、世界に存在するマニピュレーションに関わる問題を解きたいと思ってます。

ロボットが完全に自動で物体を把持するには「目」が必要で、これがコンピュータービジョンにあたります。ただ、現在の機械学習ベースの物体認識は所謂フレーム問題をまだ超えられていません。フレーム問題が解決されるリードタイムは諸説ありますが最低でも10年、という共通認識があるので、それを待っていたら時間との勝負であるスタートアップは死んでしまいます。

だからロボットの社会実装の最適解として、視覚能力も含めた人間の知覚能力をインターネット経由、遠隔のロボットに組み合わせ、フレーム問題の解決を待たずにロボットを社会に実装していくのがTelexistenceです。

人間と機械による完全なオートメーションの間にTelexistenceの価値がある

富岡:人間が自分の知覚能力や身体能力をインターネットで伝送し、ロボットを遠隔制御することは、遠隔から自動化に移行する為に必要なプロセスだと考えてます。今、工場で稼働している産業用ロボットは人間が一つ一つロボットにやってほしい動きを教えています。XYZ軸の空間座標を専用の端末に打ち込み、プログラミングもしないとロボットは動きません。これはティーチングという作業ですが、この方法は産業用ロボットが実用化されてから約60年間、何も本質的なイノベーションが起こってないです。

今、ニューラルネットを使ってこのティーチングの作業をティーチレスにする技術開発が欧米を中心に始まっていますが、人間が遠隔操作したロボットの制御データをもとにロボットの軌道計画を自動生成するという我々の自動化アプローチもこの技術革新の一つだと考えてます。(次回につづく)

文化芸術を“デジタル化”する方法ーー「augART」で共創するTCMとKDDI Vol.1

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。文化芸術のデジタル化とはどのようなものでしょうか。今回取り上げる共創事例は、伝統芸能やアートの世界をデジタル・テクノロジーを通じて現実社会に繋ぎ込む、そんな取り組みについてご紹介します。 芸術を技…

写真左:The Chain Museum 取締役COOの田中潤さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。文化芸術のデジタル化とはどのようなものでしょうか。今回取り上げる共創事例は、伝統芸能やアートの世界をデジタル・テクノロジーを通じて現実社会に繋ぎ込む、そんな取り組みについてご紹介します。

芸術を技術で拡張する「augART」プロジェクト

アートのコミュニケーション・プラットフォームなどを手がけるThe Chain MuseumとKDDIは11月24日、先端技術により日本の文化芸術体験を拡張するau Design project(ARTS & CULTURE PROGRAM)の取り組みを公表しています。また、その第一弾として世界的に注目を集める彫刻家・名和晃平さんとのコラボレーションプロジェクトを発表しました。

発表されたアプリ「AR x ART(エーアールアート)」では、AR技術で目の前のオブジェクトや人物をリアルタイムに彫刻化する「PixCell_AR」や、リアルとバーチャルが交錯するパブリックアートを出現させる「White Deer_AR」などが提供され、これまでの彫刻の概念をテクノロジーで拡張させるものとして新たな体験の提供が期待されています。

アートを社会とデジタルで繋ぐこの取り組みの意義について、スタートアップサイドでプロジェクトに参加するThe Chain Museumの取締役COO、田中潤さんはこのようにお話されていました。

「我々が提供しているArtStickerは現代美術(コンテポラリー・アート)が中心のサービスですが、例えば『歌舞伎』を鑑賞して、その感動をSticker(投げ銭のようなもの)とともに、感想を役者に伝えられたら、そこでコミュニケーションが生まれますよね。一方的な鑑賞から、双方的な体験に変わるというか。また、実はそんなStickerは、昔からある『おひねり』という文化をDX(※)したものと捉えることもできると思います。あとは、チケットや音声ガイドのDXも、すでにArtStickerの機能としてはありますので、withコロナ時代において、そのようなDXを文化芸術全般に広げていくことは必要であり、The Chain Museumがお手伝いできることだと思っています」(The Chain Museum取締役COO 田中潤さん)。

The Chain Museumはアーティストと鑑賞者の新しい関係性を生み出すことを目的としたアート・コミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker(アートスティッカー)」を開発する、2018年7月創業のスタートアップです。今回、KDDIはKDDI Open Innovation Fundを通じて同社に出資し、5GやXRなどの最先端技術を活用した文化芸術体験のデジタル化を共に推進するとしています。

現在、「ArtSticker」の登録アーティストは1,000組を越えるそうです。プラットフォームでは、アーティストに直接支援と感想を送ることができる「Sticker機能」のほかにも、気になった作品やイベントチケットを購入したり、美術館や芸術祭などで、鑑賞者のスマホで作品の情報を聞くことができる「音声ガイド機能」も提供しています。

なお、両社の取り組みは芸術を技術で拡張する「augART」プロジェクトとして推進されます。

このプロジェクトは文化芸術の幅広いジャンルを対象に、KDDIの最先端技術とThe Chain Museumのアートナレッジを組み合わせ、文化芸術領域でのビジネス創出を推進するものです。今後はこういった文化芸術に関心を持つ企業や教育・研究機関などとの協働も検討するそうです。

彫刻家・名和晃平氏とのコラボレーション

今回のプロジェクト発表の目玉はやはり、彫刻家・名和晃平さんとのコラボレーションにあります。

名和さんの作品の特徴は彫刻の「表皮」に着目した、セル(細胞・粒)という概念にあります。2002年に発表した情報化時代を象徴する「PixCell」や、生命と宇宙、感性とテクノロジーの関係をテーマに、重力で描くペインティング「Direction」など、彫刻の定義を柔軟に解釈し、鑑賞者に素材の物性がひらかれてくるような知覚体験を生み出してきた、国内現代アートを牽引する一人です。

augARTでは、名和さんとのコラボレーション作品として、「AR x ART KOHEI NAWA」を展開します。アプリとして提供されるこの作品では、例えば最新のiPhoneなどに搭載されているLiDARスキャナにより、目の前のオブジェクトや人物がリアルタイムに名和さんの代表作「PixCell」に変化したり、作品をARでコレクションする、といった体験を共有することができます。

「White Deer_AR」では、au 5Gエリアにて作品「White Deer」を探す旅を楽しむことができる

田中さんはこのようなコラボレーション活動により、アートがテクノロジーによって社会実装されることで新たな場づくりにつながり、そしてそれがアーティストたちにとって新たな活躍のきっかけになると語ります。

「The Chain Museumでは『デジタルの場』だけではなく、ArtStickerの登録アーティストと共に、ホテルや商業施設にアートをインストールして『リアルな場』も作っています。リアルの場の中で、5GやxRといった最先端技術を使うことでDX=便利になる、だけでない、これまでにない新たな体験も一緒に企んでいます。また、プラットフォームづくりだけでなく、ArtStickerには1,000組を超えるアーティストに登録いただいているので、彼等に5GやxRという新しいメディウムを提供することで、どのような作品ができるのか、そんなコラボレーションもできると思います」(The Chain Museum 田中さん)。

次回はKDDIサイドでこの共創事例に取り組んだチームの話題をお届けします。

※編集部註:DX・・デジタルトランスフォーメーション、デジタル化、業界のデジタルシフトを指す

子供たちの遊び場をデジタルで救えーー連続起業家が活用した「au IKEBUKURO」の共創チャンス Vol.3

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 コロナ禍で急浮上したau IKEBUKURO店での端末除菌問題。前回の記事ではここに挑戦したスタートアップの共創ストーリーをお届けしました。最終回となる今回は、やはり感染症拡大で打撃を受けたキッ…

プレースホルダ代表取締役 後藤貴史さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

コロナ禍で急浮上したau IKEBUKURO店での端末除菌問題。前回の記事ではここに挑戦したスタートアップの共創ストーリーをお届けしました。最終回となる今回は、やはり感染症拡大で打撃を受けたキッズスペースを手助けするソリューションの共創事例です。子供たちの遊び場はデジタル技術でどのように変わり、新たなビジネスとなるのでしょうか。

子供たちの遊び場をデジタルで救え

「2017年からリトルプラネットというファミリー向けデジタルテーマパークを全国で運営していたのですが、 今年発生した感染症拡大でテーマパークが長期休業を強いられることになったんです」ーー。こう語るのはリトルプラネットを運営するプレースホルダ代表取締役CEOの後藤貴史さんです。

常設展示で全国11箇所に展開しているテーマパークは、子供たちが集まって遊ぶということもあって営業の休止を余儀なくされます。6月から営業再開に漕ぎつけるものの、先行きは不透明なままです。

「ただ今回の問題が発生する以前から、リトルプラネットのアトラクション(体験コンテンツ)を導入したいという企業さんからの問い合わせが定期的にあったので、コンテンツを切り出して販売する準備自体は進めていました。そこでこれをきっかけに全社的なB2B事業を一気に立ち上げることになった、というのが背景にあります。ただ、社員のマインドも急に転換することになり一時期は戸惑いも見られました」(プレースホルダ代表取締役 後藤貴史さん)。

こういった経緯で開発されたのが、今回の共創事例となる小型デジタル遊具「スマイルパッケージ」です。子供たちが描いたお絵かきをスキャンするだけで、画面の中に3Dとなって登場するという体験ができるもので、これを安価、かつ短期間で導入できるように、スキャナと一体化したツールを独自に開発してサービス化しました。これがMUGENLABO支援プログラム 2020に採用されたことで、KDDIの直営店であるau IKEBUKUROとGINZA456の両店舗で展示され、GINZA456では実際にご家族で体験することができるようになっています。

「主なターゲットは店舗や商業施設などのキッズスペースです。近年、多くの店舗でキッズスペースを設置していますが、あくまで”保護者の用事が済むまで子どもたちが遊んで待っている場所”という位置づけであることが多く、実はマーケティングやブランディング、顧客満足のために活用できている店舗はそう多くないんです。一方でキッズスペースにも賃料は発生していますよね。ここに注目して私たちの技術でこのスペースを店舗と消費者(来店者)の双方にメリットがある空間に生まれ変わらせたいと考えていました」(プレースホルダ 後藤さん)。

後藤さんのお話によれば、従来型のキッズスペースではマットや遊具などアナログな体験が多く、一方でデジタル化しようにもコストや運営の問題が大きくのしかかるそうです。壮大なコンテンツを制作すれば当然費用はかかりますし、難しい操作が必要なデバイスを用意してもスタッフが対応できないケースが出てきます。これを月額5万円という低価格に抑えつつ解決しようというのが後藤さんたちの取り組みでした。

「コンセントにつなぐだけですぐ使えるデザイン、新たなコンテンツを追加していける更新性を大切にしました。現在は3種のコンテンツを体験することができますが、これによって『来店するたびに変化する遊具』として提供することが可能になります。また最近の動向として、一般的な絵本やオモチャだと消毒や清掃が難しく、キッズスペースを閉鎖する店舗が多いんです。この点、デジタルは接触を最低限に減らして遊ぶことができるため、そこを期待される声も多いですね」(プレースホルダ 後藤さん)。

連続起業家は共創をどう活用する

プレースホルダを語る上でもうひとつの注目点、それが代表の後藤さんについてです。

後藤さんは大学在学中の2007年にゲーム事業を手掛けるポケラボを創業した人物で、300名規模にまで企業を成長させた後の2012年、グリーによる子会社化を経験した連続起業家でもあります。プレースホルダは東京放送ホールディングスやKDDI Open Innovation Fundなどから出資を受けているのですが、こういった事業会社との資本関係の重要性についてこのようなエピソードを教えてくれました。

「(リトルプラネットが入っている)ららぽーとさんなどのような大手デベロッパーさんとの取引は創業当時、やはり信頼してもらうのは難しかったですね。いくら(過去の事業で)実績があっても最初の店舗って本当に決まらなかったです。個人で保証に入ろうがどうやっても無理で。信頼あるブランドが優先されるのは当たり前でした。だからこういった不動産会社さんとおつき合いする上で、信頼ある事業会社さんからしっかりフォローしてもらえるだけで導入が進むというケースもありましたね」(プレースホルダ 後藤さん)。

共創をなぜやるのか、という問いに対する答えの一つがスピードです。プレースホルダの創業は2016年。連続起業家で、事業経験も豊富にあった後藤さんにとって、ヒットするコンテンツや仕組みを作り出すことは確度の高い仕事だったと思います。一方、積み上げが必要なブランドや信頼はどうしても時間がかかります。プレースホルダの事例はそこをショートカットしたケースでしょう。

今回のB2Bモデルへのシフトチェンジにも共創がうまく寄与しているようです。

「(GINZA456設置のきっかけは)今年8月にau IKEBUKUROで「スタートアップのコロナ対策」というテーマのプレスイベントがあったんです。そこでスマイルパッケージを採用いただきました。その際はまだイベント当日の展示のみだったんですが、それがきっかけでどこかの直営店舗に設置したいという声をいただき、結果、GINZA456の『au 5Gや先端テクノロジーを活用しお客さまの想像を体験に変え「おもしろいほうの未来へ」が体感できる』というコンセプトがスマイルパッケージの体験と合ってるよねということで設置に至りました」(プレースホルダ 後藤さん)。

また、今回のコラボレーションは社内でも反響があったそうです。検討してきたとはいえ、突然の店舗休業やB2Bモデルへのシフトチェンジに戸惑っていた社内メンバーも、自分たちの開発した技術がKDDIの代表的な旗艦店舗に展示されることで大きな自信につながったと言います。

後藤さんは今後もこのサービスのブラッシュアップを続け、共創によって掴んだきっかけをさらに拡大し「ファミリー体験をトータルにデザインできる連合団」を作っていきたいとお話されていました。

「今後、スマイルパッケージ以外にもさまざまなB2Bプロダクトを開発していく考えですが、我々だけでは足りない部分も沢山あります。さまざまな会社と協業し、プロダクトやパッケージの共同開発をしていきたいですね。例えば施工・設計会社さん、デベロッパーさん、広告代理店さん、機材メーカーさんなどです。我々の技術を広く展開していくためにパートナーの存在は不可欠です。すでにさまざまな企業と話を進めていますが、ご興味のある企業の方はぜひ声をかけていただきたいです」(プレースホルダ 後藤さん)。

85億円“新ファンド”は注目領域を15に拡大、三井不動産「31 VENTURES」

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 企業の共創活動をリレー的にご紹介するコーナー、前回ご紹介した凸版印刷の共創事業を展開するトッパンCVCに続くのは三井不動産のベンチャー共創事業「31VENTURES(以下、31V)」です。 三井不動産の本業強化と事業領域の拡大を目指し、2015年に設立した50億円規模のファンド「31VENTURES …

写真左から:三井不動産の上窪洋平さん、山下千恵さん、江尻修平さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の共創活動をリレー的にご紹介するコーナー、前回ご紹介した凸版印刷の共創事業を展開するトッパンCVCに続くのは三井不動産のベンチャー共創事業「31VENTURES(以下、31V)」です。

三井不動産の本業強化と事業領域の拡大を目指し、2015年に設立した50億円規模のファンド「31VENTURES Global Innovation Fund 1号(以下、CVC1号)」を皮切りに、これまでアーリー期からレイタ―期の国内外のスタートアップ、約40社への投資を実行されています。

また、今年9月には85億円規模のCVC2号を発表し、2017年に設立した300億円の投資事業「31 VENTURES—グローバル・ブレインーグロースI」と合わせることで、その後の成長投資もできる構成を実現されました。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答は三井不動産ベンチャー共創事業部で31VENTURESを担当する上窪さん・江尻さん、山下さん)

31VENTURESの活動の経緯について教えてください

31V:長期の視点で国内の人口が減少していく中、将来的な不動産業の在り方に対して課題意識があり、オープンイノベーションの必要性は会社全体として感じていたのがそもそもの背景です。CVC発足以前よりオフィスの提供という形でスタートアップを支援していましたので、その接点の中で彼らとの共創には大きな可能性を感じ、本業の強化や事業領域の拡大を実現すべくCVC活動を開始した、というのが経緯です。

現在、3つの投資事業を運用されています

31V:はい、CVC1号ファンド(50億円)、CVC2号ファンド(85億円)と総額300億円の投資事業「31 VENTURES—グローバル・ブレインーグロースI」です。CVC1号・2号で協業可能性のあるスタートアップに投資をし、その後のグロースについても検討できる構成になっています。

CVC1号ではシードも対象にしていましたが、CVC2号ではこれまで以上に共創を生み出すことにフォーカスを当て、もう少し進んだアーリー期からミドルステージのスタートアップを対象にしているのが特徴です。これまでの活動を振り返り、三井不動産との共創を前提に考えるとプロダクトがある状態がやはりスムーズなのです。

領域として注目している分野は

31V:これまでは不動産テック、IoT、サイバーセキュリティ、シェアリングエコノミー、E コマース、フィンテック、環境・エネルギー、ロボティクス、AI・ビッグデータ、ヘルスケアの10領域でしたが、CVC2号ではこれに加えて、モビリティ(MaaS、自動運転、フリートマネージメントなど)、宇宙商用化、食品(フードテック)、農業(アグリテック)、エンターテイメントの5つを追加しています。

フォーカスするテーマについては(1)Real Estate as a Service(2)DX/デジタルトランスフォーメーション(3)スマートシティ(4)新産業発掘の4つに重点を置くのが特徴です。

かなり幅広い領域テーマですね。代表的な投資事例と共創の取り組みを教えていただけますか

31V:確かに2号から領域を増やしましたが、ジャンルについては濃淡が付くことになると思います。例えば幅広く全領域のスタートアップに投資をするようなことはあまり考えていません。共創事例として出資先にクラスターやSynamonがいるのですが、「オフィスのバーチャル化」といったような本業に近いところに回帰している傾向はあるかもしれません。

Synamonについては10月に追加投資を発表させていただきました。ワークスタイリングでのデモ体験の実施や、インターン生向けVRコンテンツ製作など、少しずつVR領域への理解を進め、連携への準備を進めているところです。

ファンドをグローバル・ブレインと共同で設立していますが、意思決定のプロセスはどのようなものですか

31V:ソーシングは両社で実施していますが、技術的な目利きや収益性のスクリーニングについては、グローバルブレインが主導し、現在および将来の協業可能性といった戦略リターンは当社が主導して判断する、という流れになっています。協業可能性はもちろんですが、財務的なリターンについてもしっかりと見ているのが特徴です。

三井不動産の場合、CVCとして明確にポジションを分けています。本体出資や買収とどのような分担をされているのでしょうか

31V:スタートアップへの出資はCVC、またはグロースⅠ事業にて実施するのが基本的な考え方です。一方、当社との事業連携の位置付けが強い場合には直接投資をしています。ただ、本体から直接投資をする場合もベンチャー部で適宜相談に乗っていますので、全社目線であらゆるケースについて最適な投資方法を選択する、ということになると思います。

31VENTURESでは日本橋にスタートアップを集約しようという構想など、やはり働く場所についての支援や活動が特徴的です。コロナ禍でスタートアップにおけるオフィスの位置付け、役割は変わりましたか

31V:そうですね、この件についてはスタートアップ経営者にアンケートを取りました。シードやアーリー期のスタートアップにおいては企業文化を作るためにオフィスという場が大切だという回答が半数を占める結果でした。執務スペースというよりはディスカッションし、経営者の理念を浸透させ、そして熱量を一定に保つ場所としてのオフィスの重要性があると認識しています。

ありがとうございました。

ということで三井不動産の投資事業31VENTURESについてお届けしました。次回は今年新たにCVCファンドを設立されたヤマトホールディングスさんの取り組みにバトンをお渡ししてお送りします。

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SORACOMがグローバルに挑戦する意味 – ソラコム 玉川憲氏 Vol.4

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 Internet of Thingsを自由にするーー。クラウド技術をフル活用してIoTを民主化する。これに成功したソラコムのメンバーは、KDDIグループに入った後も大きく事業成長し、スウィングバイ・IPOという次への飛躍を宣言するに至りました。 成長の鍵となるのはコミュニティです。開発者たちがパッショ…

ソラコム 代表取締役社長 兼 共同創業者 玉川 憲氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

Internet of Thingsを自由にするーー。クラウド技術をフル活用してIoTを民主化する。これに成功したソラコムのメンバーは、KDDIグループに入った後も大きく事業成長し、スウィングバイ・IPOという次への飛躍を宣言するに至りました。

成長の鍵となるのはコミュニティです。開発者たちがパッションを持ってアイデアに取り組もうとした時、助けになる情報や協業パートナーが探せる、アイデアを累乗に育てることのできる環境をソラコムのチームは作ってきました。彼らが作ってきたプラットフォームの正体、それはクラウドサービスと密接に紐づいた、人や企業が集う共創環境そのものだったのです。

インタビューの最後は、ソラコムがこの先に見据える世界戦についてお伺いします。(太字の質問はMUGENLABO Magazine編集部、回答はソラコム代表取締役の玉川憲氏)

グローバルに挑戦する意味

ここまで「SORACOM」共創環境を自らも生み出し、また、KDDIとの共創関係で事業を大きく成長させ、その先を見据える準備段階に入った、というストーリーをお聞きしてきました。最後に世界への挑戦についてです。実際に今、グローバルでも展開されていますが、改めてその視点について玉川さんの考え方を教えてください

玉川:ここ2年ぐらいグローバルに対して、自分たちのプラットフォームを世界でより使ってもらえるようにしていこうというチャレンジをしてきました。コロナ禍もあってより、グローバルに対する理解が深まったと思っています。

特に国による違いですね。例えば電波って2Gや3G、4Gと規格が標準化されています。でも一方で、国によって2Gがあるとか3Gがないとか、普及している仕組み自体が違っていたりする。こういうことってグローバルなんだけど、結局、一個一個のローカルをしっかりと丁寧に見ていかなければ分からない。

現在、SORACOMは140カ国で使えるようになったんですが、じゃあ実際にアメリカで使ってもらえるようにしようと思ったら、よりローカルのお客様の視点になって考えていかないと結局使ってもらえない。これこそ、昔、ホンダさんやソニーさんといった偉人たちがやってきたことであり、我々はそれを追体験しているんだろうなと。

ソラコム USチーム

国内サービスが海外で受け入れられない理由のひとつがカルチャーギャップ、つまり日本ローカルに最適化されすぎていることの弊害、という意見はよく耳にしますね

玉川:その上で「WHYグローバル」って言うと3つくらい視点があると思っています。

ひとつは我々が提供しているIoTのインフラに、お客さんがグローバルを求めてると思うんです。今までのサービスっていうのはドメスティックに国の中に閉じたものが売れていて、これだったら従来型の通信や仕組みでいいと思うんです。

ただし、世界中のモノは繋がりたがっている。コロナ禍で如実だと思うんですけど「出張」って難しいですよね。移動も難しいと。そうなったら遠隔監視とかリモートコントロールとか、空間を超越する仕組みが必要になる。ここを補うような位置付けで、IoT通信のプラットフォームそのものもグローバルでなければいけない。

もう一つはこれは中馬(和彦氏・KDDIビジネスインキュベーション推進部長)さんの思いに近いんですけど、やっぱり僕も76世代のひとつ上で、なんかもうこの世代って日本の宿命みたいなものを背負ってるじゃないですか。僕らの前の世代はハードウェアであったりものづくりで世界を席巻し、自分たちの世代に出現したインターネットでは世界で戦えてないじゃないか!みたいな。

だからこそ、日本発でインターネット・テクノロジーを使ったプラットフォームビジネスっていうのがやっぱり誰かに成功して欲しいじゃないですか。もちろん僕らもその一員なので、自分たちも頑張りたい。

あとソフトウェアってやっぱりハードウェアとかと経済原理が違うと思ってるんですね。ハードウェアは毎回新しいところにお金がかかる。でもソフトウェアを主体としたサービスっていうのは一回作っちゃうと新たなお金はかからなくなる。

国内ってある程度市場があるので、安心してしまうわけです。けど、海外に視野を広げると、マーケットのサイズだけで売り上げが二十倍違うんです。同じコストだけど、マーケットサイズの理由で売上に二十倍も差があると、どんどん差がついていきます。

国内では5年は生きられるかもしれないけど、もし僕らがある単一のマーケットだけ見てると多分、10年は難しくなる。

人生短いのでいい仕事をしたいじゃないですか。確かに難しいチャレンジなんですけれども、ちょっと先を見ればある程度予想はつきます。だとしたら「やらない理由」はないんです。(了)

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新・企業共創時代:共創が真の産業を生み出すためには – KDDI 中馬和彦 Vol.4

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 長期に渡る連載も最終回です。中馬さんと語ってきたこれまでは、共創という仕組みをどうやって作り、運営し、そしてそこに携わる人たちにどのような覚悟が必要なのか、それを問い直す時間でした。最終回はこの共創という方法が狭い意味での「協業」に終わらず、産業というステージに向かうためにどのようなアイデアが必要にな…

KDDI 経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部長/KDDI ∞ Labo長 中馬和彦氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

長期に渡る連載も最終回です。中馬さんと語ってきたこれまでは、共創という仕組みをどうやって作り、運営し、そしてそこに携わる人たちにどのような覚悟が必要なのか、それを問い直す時間でした。最終回はこの共創という方法が狭い意味での「協業」に終わらず、産業というステージに向かうためにどのようなアイデアが必要になるのか、それをインタビューの締め括りとしてお送りしたいと思います。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、回答はKDDIビジネスインキュベーション推進部長 中馬和彦、文中敬称略)

共創が真の産業を生み出すためには

2011年から始まったKDDIの共創への取り組みは2020年に5Gという新しいキーワードを携えて、次のステージに移ろうとしています。思えばこの10年はスマートフォンによるモバイルインターネットへのシフトでした。次のシフトは全産業のデジタル化ということでしたが、これはどのタイミングで実社会に実装されるとお考えですか

中馬:僕はコロナ前、2020年から5Gが始まり、最初の5年と最後の5年って言っていて、最後のゴールは2030年ごろまでかかるんじゃないかと言っていました。やっぱりリアルを絡めなきゃいけないし、確かに自動運転とか言っても時間もかかるから前半の5年で色んなアイディアを仕込んで、後半の5年に大きくダイナミックに反映されてくる。という予想で「2030年」が鍵になると言っていたんです。

ただ、コロナによって社会は変わってしまいました。

リアルの価値は早くも落ち始めていて、よりバーチャルとかデジタルドリブンで物事を進めざるを得なくなっています。そう考えるとやっぱ5年ぐらい短縮したなと思ってるので2025年あたりがターゲットですね。5年で社会は完成すると思いますよ。だから、ここ一年が勝負だと思います。本当にこの一年。

このシフト、波を自分たちの力にするために必要なことを改めて教えてください

中馬:2つポイントがあると思っていて、まず一つは人ですね。やっぱり最後は人に帰着するので、これは今の大企業にいる優秀な中間層をどのくらい流動化させられるか。ここがやっぱり一番大きいと思います。企業っていう形を維持した状態のままで業務提携してやっていくんですけど、KDDIから見える景色と例えばトヨタ自動車から見える景色は全く違っていて、だから僕らがどれだけ頭使ってトヨタ自動車を考えても、僕たちはトヨタにはなれないんですよ。

その点で言うとやっぱりその双方にそれぞれのことを理解する人たちをもっと増やさないといけない。本当の意味でのダイナミックで新しい産業革命を日本から興そうと思うと、人が必要なんです。

この大企業の人材がダイナミックに流動化する件については実はちょっと妄想していることがあって、極端に言うと大企業間で転職しても引き継がれていく仕組みについてです。大企業リパブリックというアイデアなんですが、大企業の企業年金とかいろんな福利厚生を全部統一して、大企業での評価制度を含めて色々なスキルが可視化できるようになると、それぞれの企業の知恵が流動化する。

日本ってセーフティーネットみたいなのがあるようでいて、会社を辞めた途端イチ個人になってしまうっていう怖さが、やっぱり人材の流動化を妨げているように思うんです。そういう人たちが自由に動けるような仕組みを小規模でも作っていかないと、日本はこのまま変われないんじゃないかと懸念しています。

もう一点はグローバルですね。

僕らの課題はやっぱり国内ではプラットフォーマーとしてアセット提供もできるし、新規事業の担い手としてまあ何かしらできると思うんですけどちょっと海外に出た瞬間、プラットフォーマーとしての軸足が非常に弱すぎる。モンゴルとかミャンマーでは事業をやってますけど、コンシューマー向けのプラットフォームビジネスを展開しているのはその2カ国しかないわけで、もっと規模を出していかないとグローバル競争の環境では勝ち抜くことができません。

だからこそ一社単独ではなく、大企業同士のアライアンスによって始めから大きな規模での事業を設計していくことが、これから日本企業がグローバルへシフトしていく上での鍵ではないかと思っています。

ありがとうございました。

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スタートアップとau IKEBUKUROが挑戦「スマホ除菌」共創の裏側 Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 感染症拡大の問題はKDDIの販売店に幅広く混乱をもたらしました。訪問された方々が試した端末の清掃問題や来店時の体温チェック。これらを店舗スタッフが手動で対応するには限界があります。この課題をス…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

感染症拡大の問題はKDDIの販売店に幅広く混乱をもたらしました。訪問された方々が試した端末の清掃問題や来店時の体温チェック。これらを店舗スタッフが手動で対応するには限界があります。この課題をスタートアップとの協業で解決しようというのがau IKEBUKURO店で実現した、感染症拡大を防止するためのスタートアップ共創事例です。

前回はKDDIでのきっかけづくりと、Ideinのケーススタディをお届けしました。ここからは引き続き「MUGENLABO支援プログラム 2020」に参加したスタートアップ2社の話題をお送りします。

スマホを除菌せよ・・GREEN UTILITYの除菌ケース

ずらりと並ぶスマートフォンやフィーチャーフォンなどの端末の数々。特にタッチ操作の感度や反応が重要なスマホにとって、実機に触れることは購入の決め手になるだけに「端末の清掃問題」は店舗にとって大きな課題でした。清掃しようにも、いつどこでどれに触ったのかを正確に把握しなければ、店舗スタッフはずっと清掃し続けなければいけません。この課題にチャレンジしたのがGREEN UTILITYとAWLの2社です。

新型コロナ対策として、au店舗スタッフのみなさんはアルコールタオルでデモ機などの除菌をしていたそうなのですが、人気店や広い店舗ですと常に清掃対応に追われる事態になっていました。そこでアイデアとして出てきたのがUV紫外線による除菌です。紫外線の照射をすれば自動的に除菌可能となりますので、確実かつ除菌作業の効率化が可能になります(GREEN UTILITY代表取締役 李展飛さん)

GREEN UTILITYはmocha(モチャ)というモバイルバッテリーシェアリングサービスを2018年頃から展開しているスタートアップです。 以前、白馬村で実施された共創プロジェクトでKDDIと協業し、村内にモバイルバッテリーの充電ステーションを設置するという取り組みから継続的に交流が生まれ、今回のプログラム参加へとつながったそうです。きっかけは今年7月、今回の共創の橋渡し役となったKDDIビジネスインキュベーション推進部とのミーティングで店舗における除菌問題を知り、除菌ケース開発へと乗り出します。

除菌ケースの利用風景

驚くのはここからの開発スピードです。なんと1カ月という短期間で実際に店舗で使える品質と数量の除菌ケースを開発することに成功します。李さんは経緯をこう説明してくれました。

元々、モバイルバッテリーのシェアリングサービスをやっていたこともあって、多くの人が触れることから除菌については課題感を持っていた、というのがあります。また、弊社がこれまでバッテリー開発などで培ってきた技術ノウハウと中国・深圳を中心とするサプライチェーンのネットワークが短期間での納期を実現してくれています(GREEN UTILITY 李さん)

フラッグシップの店舗でショーケースとして展示されるだけでなく、実際に使われているという実用性もあって、現在このソリューションについては多くの問い合わせが集まっているそうです。注文という形での反響もさることながら、李さんたちが培ってきた技術とサプライチェーンの「価値」を改めて確認できたことが大きかったと語っていました。

どれに触ったのか?を探せ・・AWL(アウル)の接触検知ソリューション

接触検知ソリューションの写真

GREEN UTILITYが開発した除菌ケースを利用して、端末を自動的に、かつ効率的に清掃できるようになりました。しかし、もう一つの課題として幅広い店内に展示されている端末の「どれを綺麗にするのか」という問題が残っています。ここにAIを活用したカメラソリューションを提供したのがAWLです。

デモ端末の展示台に設置したAIカメラがお客様の手を検出し、触れた端末をモニター上に色を変えて示すことで、スタッフに該当端末の消毒を促すソリューションを提供しました。これまでは15分に一回程度、スタッフがすべての端末を消毒していたそうなのですが、これによって触れた端末のみを消毒することが可能となりました(AWL取締役CTO 土田安紘さん)

きっかけはKDDI ∞ Laboが主催したイベントに、AWL代表取締役の北出宗治さんが登壇したことから始まります。auショップで発生していた感染症拡大の防止策は急務で、この話を聞いた北出さんたちはAIカメラを使ったいくつかのソリューションを提案。今回の接触検知は、自社で持っているノウハウをベースに数週間で導入を実現しました。こちらもきっかけから導入まで2カ月程度というスピード感です。

AWLはこれまでも大企業との協業・連携で成長してきた背景があるそうです。元々、AI関連の受託開発を手がけていた企業からスタートし、その後、北海道で幅広く展開するドラッグストアチェーン「サツドラホールディングス」と資本提携を結びます。開発拠点を北海道大学内に開設するなどして、サツドラのグループ会社の位置付けで小売における画像解析などを活用した実証実験を続けていました。

こうして、AWLでは店舗にある既存の監視カメラなどのデバイスに、自社で開発したAIソリューションを組み合わせることで空間を分析するサービスを提供しています。例えば店舗の防犯であったり、レジ前の行列がどれぐらい続いているのか、陳列棚の前に立ち止まる人々の様子など、リアル空間を分析することで、その後の来店や需要の予測に役立てる、といった具合です。実際の店舗での実証実験を繰り返したことが同社の強みになっています。

こういった経緯から独自の技術と実績を積み上げることになったAWLに大企業との協業メリットを聞いたところ、やはりスピードを挙げられていました。また、AWLは今年2月に8.1億円の増資を実施して共同通信デジタルやサイバーエージェント、凸版印刷などの大手と資本提携を結んでいます。

恐らく大企業さんも一度は何かしら自分たちだけでやろうという方向性を検討されていると思います。ただ、自分たちだけでやっていくには(AI領域は)非常に難しい面があるということはよくお話に挙がりますね。そういう観点で検討された結果、私たちと一緒にやりましょうという判断をされるケースが多いと認識しています。私たちは応用範囲の広いリアル空間を分析するソリューション、アプリケーションを開発できるのですが、自分たちだけでは社会実装ってなかなか進まないんですよね。(今回の増資についても)大手の方々と組むことでここを加速させていきたい、という方向性を持っています(AWL 土田さん)

なお、AWLで今回、取材に対応してくれた土田さんは弁理士ということもあり、知財戦略もしっかりと対応されていたのは細かい点ですが注目ポイントでした。

スタートアップにとって知財はプライオリティの設定が難しく、早すぎては無駄なリソースを割くことになりますし、遅すぎるとどこで穴を突かれるかわかりません。特にAWLのような協業・提携戦略を進める上では重要な視点になるでしょう。

au IKEBUKUROを舞台としたスタートアップとKDDIの共創ストーリー、最後は連続起業家として次のチャレンジを仕掛けるプレースホルダの話題をお届けいたします。

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共創プラットフォームに必要な「コミュニティとカルチャー」の存在 – ソラコム 玉川憲氏 Vol.3

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 SORACOMというプラットフォーム事業はどのようにして立ち上がったのか。日本を代表するクラウドサービスのエンジニア集団が感じた時代の変わり目、仮想のプレスリリースから生まれた創業へのきっかけ、そしてコミュニティと一緒に立ち上げた初期のソラコム。 前回のインタビューでは「スウィングバイ・IPO」宣言し…

ソラコム 代表取締役社長 兼 共同創業者 玉川 憲氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

SORACOMというプラットフォーム事業はどのようにして立ち上がったのか。日本を代表するクラウドサービスのエンジニア集団が感じた時代の変わり目、仮想のプレスリリースから生まれた創業へのきっかけ、そしてコミュニティと一緒に立ち上げた初期のソラコム。

前回のインタビューでは「スウィングバイ・IPO」宣言したソラコムがどのようにして創業期を駆け抜けたのかをお伺いしました。続きとなる今回は、プラットフォームの成長過程についてです。プラットフォームにはクライアントでありパートナーであり、ライバル関係となる利害関係者が複雑に存在することになります。

プラットフォーマーはそこを交通整理しながら、健全なエコシステムづくりをしなければなりません。ソラコムはどのようにしてそこを乗り切ったのでしょうか。(太字の質問は編集部、回答はソラコム代表取締役の玉川憲氏)

プラットフォーム・マネジメント

プラットフォームには多くのステークホルダーが参加していて、それぞれ利害関係が複雑になるじゃないですか。例えば全方位と言いながら、パワーバランスはどこかに働く。その辺りのマネジメントはどのように考えていますか

玉川:インフラストラクチャーのプラットフォームサービスですからおっしゃる通り、全方面で使っていただける必要があります。例えばお客さんのサイズ感にしても、スタートアップとか中小企業も使うし大企業さんも使うし、個人のエンジニアでも使える。ウェブから一枚単位で買えるのでそこの敷居はありません。B2BでありB2Cである。さらにお客様の規模感によって求めるものは全部違ってくるので、チームを分けて、それぞれのニーズに対応する。

エコシステムで対象となるコミュニティをクラスタのように分けて、チームで対応する、そういったイメージですね

玉川:そうですね、例えば個人や中小企業のお客さまで小口で買ってもらった時にいかにすぐ届けられるか、といった体験も重要です。ヤマト運輸さんにネコポスという仕組みがあるんですけど、これを使って必要なSIMやデバイスを小口ですぐに届ける仕組みにしてるんです。また、IoTをはじめようとすると、通信のみならず通信モジュールも必要なので、SIMや通信モジュールに加えて温湿度センサも含めたスターターキットを用意したり。

大企業さんは大企業さんでまた全然違います。ソースネクストさんのようなケースであれば、ポケトークを世界中の国で通信できるようにしたい、というお客さま固有の課題を抱えられてるので専任のチームがついて伴走します。さらに、パートナー様は僕らの製品を一緒に売っていくようなケースになるので、違った視点でサポートしています。

当然ながら全てのお客さんにソラコムが相対でフルサポートしていたら間に合わないわけです。このエコシステムを回す上で重要なポイントは

玉川:それぞれのお客様のご要望をお伺いした上で、ソラコムとしてはどの部分を共通機能としてプラットフォームとして提供できるか、その勘所が重要になると思っています。そこにおいては、エコシステムの中でも開発者を含むユーザーコミュニティはすごく重要なんです。

お客様が、パッションを持って何かに取り組まれたときに、そこにソラコムを役立てて頂いて、さらにこんな機能があったらもっといいのに、とフィードバックをもらえる。このフィードバックがあるのは非常に有り難いですね。そしてソラコムのチームとしては、改めて5年間やってきていても、ビジョンやミッション、リーダーシップをみんなで共有しているのは大事だなって思っています。「世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」 というものを掲げていて、それぞれが先ほどお話したライカビリティのようなリーダーシップを行動様式として持っています。

メンバーがリーダーシップを発揮して自律的にコミュニティを動かしていく

玉川:本当にその各方面のエコシステムに自律的に当たっていくんですね。例えば、極端な例でいうと、大企業担当とユーザーコミュニティ担当って全くやってること違うんですよ。売上っていう観点で見たらユーザーミュニティって短期的には全く貢献しないように見えるかもしれない。逆にユーザーコミュニティの視点で大企業担当を見ると、案件のクロージングのサイクルは時間がかかりすぎているように見えるわけです。

こうやってクラスタ毎に全然違うKPIを追いかけていて、それでいてもお互いにとって、それぞれのエコシステムが大事であるってことを理解できるかどうかは根本にビジョンやミッションがあるかどうかですよね。

振り返ってみるとみんな繋がってたって分かるわけですよ。例えばとある大企業でソラコムを使ってもらえたんですね。でもそもそものきっかけは実はそこの担当者が、ユーザーコミュニティに出てきて何かスゴイと知って自分でプロトタイプを動かしてみて。そしたら上司が喜んじゃって、すでにソラコムファンになっていたり。世の中面白いなと思うのはこういった複雑に絡み合うエコシステムなんですよね。

こういった設計はやはり思想的な部分が大きいですね

玉川:僕らは、最初からユーザーやディベロッパーに喜んでもらうため、という考え方があるんです。パッション持ってる人たちにこういった道具をお渡しして世の中をより良い方向に変えてもらう。そこが一貫していると、それぞれのエコシステム間での共感が生まれて、繋がり合っていく。ただこれを継続的に成長させていくのは本当に難しくて。

なんだかんだ言いながら、スタートアップってやっぱりリスクがあることをやっていますから、短期的な数字だったり結果にこだわりたくなる部分もあるわけです。でも変に結果にこだわり過ぎると中長期的な視点が曇ってくるんですよね。(次回につづく)

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新・企業共創時代:タイミングを逃したケーススタディーーKDDI 中馬和彦 Vol.3

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 共創を実現させるためのプラットフォームの役割、それを突き動かすための人、考え方。ここまで中馬さんにお話を伺いながら、KDDI ∞ Laboという仕組みがどのように人や企業を繋げていったのか、その構造について考えを整理してきました。 ここからは具体的なケーススタディです。そう簡単に結果が出ない新規事業へ…

KDDI 経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部長/KDDI ∞ Labo長 中馬和彦氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

共創を実現させるためのプラットフォームの役割、それを突き動かすための人、考え方。ここまで中馬さんにお話を伺いながら、KDDI ∞ Laboという仕組みがどのように人や企業を繋げていったのか、その構造について考えを整理してきました。

ここからは具体的なケーススタディです。そう簡単に結果が出ない新規事業への投資、経営者は必ずこの「結果」と常に向き合う必要があります。中馬さんとの会話を続けます。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、回答はKDDIビジネスインキュベーション推進部長 中馬和彦、文中敬称略)

わかりやすく共創を伝えるためにもケーススタディに触れたいのですが

中馬:日本では事例はまだまだ少ないですけどね。僕らの中でいうと一番分かりやすいのはLUXA(ルクサ)等になるかと思います。ルクサってファンド(KDDI Open Innovation Fund)から投資をして、コマース関連で支援し続けて売上が二桁成長しまして、その結果M&Aに繋がったケースなんです。さらにコマース事業を大きくするために協業パートナーであった「DeNAショッピング」をM&Aして、双方を融合する形でKDDIとしてコマースの本部を作ったわけです。

これも最初の小さなきっかけでいうと、スタートアップの支援から始めたっていう所じゃないですか。スマホ特化のコマースが来るっていうのは必然だったのであまり驚きはないかもしれませんが。

逆に僕が本当は注目していて、もっと頑張ればよかったと思うのは「じぶん銀行」だと思っています。

これは三菱UFJ銀行さんとKDDIが合弁でモバイルネットバンク(現・auじぶん銀行)を作ったのが始まりです。それこそガラケーの時代です。携帯電話番号だけで振り込みができる、それこそ今「Pay戦争」なんて言われてる機能を実はもう十数年前にじぶん銀行だけが実装していたんです。世界的にも先進的でアイデアも素晴らしく、金融庁のすごく難しい規制も突破して、「電話番号で振り込む」ということを簡単なUIで実現していた。

ただそこから一気に社会を席巻、とまではいかなかった。モバイルバンキングとしては老舗で十分大きくなっているのですが、今みたいに「Payが全てのお客さんとの接点」であるというような世の中には持って行けなかったわけですよね。そこに対して最初から仕掛けられていたら、グローバルだって取れていたかもしれないし、Alipay(アリペイ/支付宝)と戦えたかもしれない。

振り返ってタイミングを逃してしまった要因は

中馬:短期の投資回収を優先した例かなと思っています。

どこにでもみんな使ってくださいよとやっていれば、リアル店舗にも普及し気が付いた段階で日本独自のSuicaのような独特の文化ができたかもしれません。だからこそ長期ビジョンが必要で、少なくとも短期の計画だったら絶対できませんよね。短期の回収を優先したがゆえに、利益は出ているけど小さくまとまってしまったわけです。そうではなくて、世の中のプラットフォームになるんだ!デファクトを取るんだ!っていう「中期の目線」をまずどこまで合わせられるかなんです。

かなりトップクラスで腹を決めないと現場は揺らぎそうですね

中馬:見えてる未来が一致するかどうか、これに尽きます。僕なりのやり方は常に、この人とだったら同じ絵が書けるというキーマンを見つけることから始めるようにしています。基本は経営者同士、トップが握れるか同じ道を描けるかっていうことに尽きると思います。非合理だと言われちゃいそうですが、基本はそうだと思いますよ。

一方で僕は大企業同士のアライアンスにも力を入れようとしてるわけです。

ここに実は案外チャンスがあるかなと思っているのが、大企業ってお互いもうびっくりするぐらいアセットを持ってるので、もしかすると新しく作っていく、あるいは次に仕掛けていくものはそれぞれが覚悟さえあれば、設備投資をすることなく大きな事業が作れたりするんですね。

例えばですよ、デベロッパーさんっていうのは場所も建物も山ほどあって、建て替える予定地とかいくつもあるわけじゃないですか。もともと発注するべきものもたくさんあって、何かその元々の計画の中、既存アセットの中に仕掛けるだけでも随分と大きなものを作れるんじゃないかと思っています。この「現物出資」という可能性は十分にあるんじゃないかなと妄想的に思っていて、あとはどこまでダイナミックにできるかどうかですよね。

こういうダイナミズムは日本的企業がなかなか苦手なところと言われてます

中馬:日本的慣習をどこまで排除できるか、というのもありますよ。

例えばなんですけど、私たちが特定の業界の人とエクスクルーシブに新しいビジネスモデルを作りましょうとなった場合、先方社内からは他の通信会社を「敵に回したくない」という反対意見が噴出したとしたら、結果として非常に部分的な事業提携で終わってしまいます。これは成熟した日本社会に於いての一つの弊害ではないかと考えています。(次回につづく)

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「バーチャル渋谷」50社が連携した街づくりの物語:自分ゴト化できるチーム Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 徐々に人出が戻りつつある渋谷。ふと、何事もなかったように楽しく例年通りの仮装イベントができれば・・そんな気持ちにもなる。しかし、なかなかそうはいかないのが2020年10月末の状況だ。 渋谷区は今年、ハロウィンによる訪問を自粛するという異例の声明を発表した。代わりに彼らが用意したのが仮想化された会場での…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

徐々に人出が戻りつつある渋谷。ふと、何事もなかったように楽しく例年通りの仮装イベントができれば・・そんな気持ちにもなる。しかし、なかなかそうはいかないのが2020年10月末の状況だ。

渋谷区は今年、ハロウィンによる訪問を自粛するという異例の声明を発表した。代わりに彼らが用意したのが仮想化された会場での催しだ。10月26日から約1週間、今年の渋谷・ハロウィンはバーチャル空間で開催されており、参加者は自分のアバターを用意して、このハロウィン・イベントにスマホからアクセスすることができる。

そしてこのバーチャル・ハロウィンの舞台となっているのが「第2の渋谷」、バーチャル渋谷になる。KDDIと渋谷区観光協会、渋谷未来デザインが協力して立ち上げたコンソーシアム「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」から生まれたミラーワールドがそれだ。今年5月に立ち上がった渋谷区公認のれっきとした「街」でもある。

渋谷はなぜ仮想化の道を辿ったのか。前回に引き続きプロジェクト共創の裏側をキーマンに聞いた。

仮想化が必要だった渋谷・ハロウィン

感染症拡大は人々を遠ざける必要があった。渋谷・ハロウィンほど強烈に「3密」を感じるイベントはなかなかないだろう。しかしハロウィンを仮想化させる試みはそれだけが理由ではない。KDDIでこのプロジェクトをリードした三浦(伊知郎、KDDI 5G・xRサービス戦略部 革新担当部長)氏は背景をこう語る。

話の始まりは昨年の9月です。渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトの前身になるコンソーシアムを渋谷区と一緒に立ち上げたんですね。渋谷という街は色々な課題も抱えつつ、当然可能性もたくさんあるんです。ただ、その課題解決や模索も楽しくないと実験もできないし進まないだろうということで、5G時代にあったエンターテインメントに色々トライしながら、新しい事業のタネを探してみようという試みに発展したんです。結果、30社ぐらいが参加する形でスタートし、現在は50社ほどが参加するプロジェクトになっています(KDDI 三浦氏)。

渋谷といえば人でごった返すハチ公前広場、JR渋谷駅が思いつく。1日300万人という膨大な人たちが訪問する渋谷において常に繁栄のシンボルとなる一方、「消費されない街・渋谷」という顔も見え隠れする。スクランブル交差点でパッと写真だけ撮ってそのまま別の市街地に流れていく観光客。渋谷をもっと知って、別の楽しみ方を提案したい。プロジェクトはこれら課題に対し、「回遊と滞在」をキーワードに、集まった各社と協力しながら色々な仕掛けを用意することになっていた。

街を拡張するアプローチもその一つだ。当初は「攻殻機動隊 SAC_2045」の世界観を実際の渋谷に重ねて体験するXRのプロジェクトが進行していた。MRヘッドセットやARグラスを使って現実世界とコンテンツを融合させる。コンテンツを求めることで、自然と回遊と滞在を生み出す。キャンペーンのようなスタイルから実際に人々がどのように動くのか検証するはずだった。

なのでコロナ禍があったからバーチャル空間を作った、というわけじゃないんです。“もう一つの渋谷“という考え方は以前からありました。しかし突然、行けない街になってしまった渋谷にどうアクセスするかという課題が急浮上したことで、バーチャル渋谷の実現は一気に加速して作り上げました。また、バーチャル渋谷を作り上げることができた大きな理由として、ここまで一年近くを渋谷区やステークホルダーのみなさんと議論して助走してきた経緯があるんです。

コンソーシアムを通じて、渋谷のステークホルダーとの意見交換、コミュニケーション、関係値の構築がものすごく重要でした。これがなかったら、我々だけでは絶対にできていませんでした。ステークホルダーや渋谷区とのコミュニケーションの中で浮き彫りになっていた課題として、例えばスクランブル交差点にはゴミ問題が常にあって、これって渋谷区民の税金で清掃対応しているんですね。ハロウィンも同じで、元々「集まった人たち」に対してどうするのかという課題解決が必要だったのです(KDDI 三浦氏)。

混乱が深まる中、三浦氏らチームメンバーは現実世界を離れ、完全な仮想空間での課題解決に舵を切ることになる。

自分ゴト化できるチーム

バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス

街を仮想化する、という話については開発を担当したバーチャルワールド「cluster」による開発ストーリーを前回お届けした。ステークホルダーが複雑に絡み合うなか、ミラーワールドはどのように創られたのか。KDDI側のチームワークを三浦氏はこう振り返る。

このチームがいいなと思ったのはメンバーが色々な部署から興味ある人たちが集まってる、という点です。どうしても大きな企業には縦割り的なものってあると思うんですが、それでも(このプロジェクトに)突っ込んでくる人たちが結構いたんですね。機動力があったのはそれが要因で、バーチャル渋谷って4月から5月ぐらいにかけて一気に作ったんですけど、こういったプロパーでありながら縦割りに囚われないポジティブな社員に支えられたというのが実感としてあります。

言われたからやるってスタンスではなく、どんなに大変でも楽しいから、頑張れる。好きだから、とことんやり遂げる。そんな社員に支えられています。保守的になりがちな社会的傾向からすると、KDDIの社員はチャレンジする精神が脈々と流れていることを実感しました。(私は大学卒で、NTTに勤務していた経験があります。どうしても比較してしまいます)

加えてパッションさえあれば、社内の垣根とか色んなルールは守った上でみんな前に進めて来てくれるんですよね。「自分ゴト化」って本当に大事で、好きで頑張ってやっていたらいいモノができて、それがメディアに取り上げられて自分がやってきたことを社会に評価してもらう、こういう健康的なサイクルが生まれているのが強いですよね(KDDI 三浦氏)。

実際の共創現場で発生する課題解決、意思決定の数はどこかのスーパーマン一人で処理できるものではない。そしてこのような自律したチーム作りに必要な要素、それがビジョンだ。登るべき山が見えていなければ、自律的なチームワークは生まれないし、ましてや別の企業との共創ともなればハードルは別のところにも出てくる。

どこの企業もそうですが、やりたいとなった時、上司の説得や社内稟議に時間がかかりすぎるとやはり出遅れますよね。ここは日本的企業のちょっとよくないところで、こういう企業間を超えたプロジェクトの場合、ある意味会社を超えたチームワークを作らないといけないじゃないですか。その時、ウチはこういう理屈でないとダメですとか、そういう内向きではなく「渋谷と一緒にやっていく」という大義名分の方を優先させるべきだと思うんです。共創ってこの「なぜやるのか」という部分を共有できないと難しい。

この一緒に作っていくという考え方やカルチャーって本当に大切で、例えばプロジェクトに参加してもらっているエージェンシーにしても、どっちがクライアントでどっちがスタッフで、なんていうポジションは本当にどうでもよくて、ダメなものはダメと指摘し合える関係性っていうのでしょうか、これが絶対に必要ですよね。何か出てくるのを待ってても絶対に何も生まれない(KDDI 三浦氏)。

渋谷という大きな「可能性と課題」がここに集まる企業、行政、そしてそれぞれのチームを「自分ゴト化」させ、プロジェクトを前進させることにつながった。もちろんそれぞれの思惑はあるだろうが、そこに視点を落とした瞬間、大きな共創の枠組み、チームワークからは脱落する。

街が抱える問題にオープンイノベーションはどのように作用するのか。バーチャル渋谷を取り巻くストーリーは、次回、3つ目の視点となる渋谷区に話を移す。(次につづく)