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シリーズ:スタートアップと大企業

シリーズ:スタートアップと大企業

大企業はスタートアップとどう向き合うべきか。スタートアップという起業のカタチが始まってから約10年、オープンイノベーションを考える企業も増えてきた。一方でその考え方・温度感は各社様々だ。次の10年、企業はいかにして新しいアイデアを事業に、そして産業へと押し進めることができるのか

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シリーズ:スタートアップと大企業の話題

「smash.」とは何者か:KDDIとの共創が加速した意外な裏側 – KDDI 繁田光平氏 Vol.2

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 前回のSHOWROOM創業者で代表取締役の前田裕二さん引き続いて、バーティカルシアターアプリ「smash.」のキーマンインタビューをお届けします。 今月22日から本格的な配信を開始した「smash.」は、オリジナルコンテンツの「Hey! Say! JUMP」が提供する縦型フォーマットのミュージックビデ…

写真左から:KDDIパーソナル事業本部 サービス統括本部 5G・xRサービス戦略部長、繁田光平氏、SHOWROOM代表取締役社長、前田裕二氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

前回のSHOWROOM創業者で代表取締役の前田裕二さん引き続いて、バーティカルシアターアプリ「smash.」のキーマンインタビューをお届けします。

今月22日から本格的な配信を開始した「smash.」は、オリジナルコンテンツの「Hey! Say! JUMP」が提供する縦型フォーマットのミュージックビデオだけでなく、作品を直接つまんでシェアできる「PICK」機能を使ったインタラクティブな体験にも挑戦するなど、5G時代を代表するプラットフォームを目指しています。

映画やテレビなど、横型スクリーンというフォーマットを「当たり前」と考えてしまう今だからこそ、新たな縦型コンテンツに挑戦する両社の共創チャレンジは、意外な理由で加速していくことになりました。2回目となる本稿に登場するのはKDDI側でプロジェクト推進を担った繁田光平さんです。(本文中の太字は質問はMUGENLABO Magazine編集部、回答は繁田氏・敬称略)

「smash.」はオープンなインターネットサービスでありながら、KDDIとは資本を含めた協業という形でスタートしています。KDDIとしての狙いはどこにあったのでしょうか

繁田:5Gってまだまだ極めて一部の人のものであり、そして何年も先のものだと思われがちなんですよ。でもそれをみなさんのものになるように「みんなの5G」というキーワードを使って、これは目の前で起きているとか、もう友達がみんなそうなっている、といった状況づくりを進めるにあたって(smash.のようなサービスが)一番分かりやすいと思ったんですね。

テッキーまではいかないですが、よりスマホネイティブな人たちが自然に使い始めるイメージです。例えば電車とかでコンテンツを探してスマホを横にしている姿などを見かけますけど、そこをザクザクと縦で見ているような感じというのは、スマホネイティブには非常に当たり前の行動になっています。それに品質が高い画像の方がいいと思うのは当然で、でも一方で本当のプロ作品ってなかったんです。これが一般化すれば、若い子たちを中心に高速でハイパフォーマンスなデバイスを使う姿が見られるようになるんじゃないかなと思ってます。

協業のきっかけ、話の始まりはどこにあったんですか

繁田:私はこれまでauスマートパスの責任者を務めたりと、サービスをゼロから作るようなコンテンツ畑を長く歩んできました。また、現在、5Gサービスの責任者もしているのでお話をさせていただいた、というのが始まりです。前田(裕二氏、SHOWROOM代表取締役)さんがSHOWROOMの次にこういうことをしてみたいというお話を受けてですね、これは5G時代をある意味象徴するようなサービスになり得るんじゃないかと。

あとこの話のきっかけとなった中馬(和彦氏・KDDI 経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部長)もそうなんですが、auっていうブランドで働いていると、自然とマイナスをプラスマイナスゼロにするような、なんでも何かの付加価値を付けて面白くしようよ、みたいな発想をするようになるんです。常に「オモロイ方をやろう」とする感じで、そういったものが自然と出てくるようになってるんですね。どっちって言われた瞬間に面白い方を選ぶっていうちょっと癖みたいなものです。

これが多分、中馬からも出てたんでしょうし、僕からも出ていたでしょうし、もっと言ってしまうとLISMOの生みの親である社長の髙橋(誠氏)も一発でそのシンパシーを感じていたみたいでした。で、やりましょう、と。そういった意味では前田さんのその深いエンタメ愛に対して、話しやすかったんじゃないかな、なんていう風に思いますね。

意外な協業理由

一方で、SHOWROOM自体、かなり人気のサービスで、彼らとしても協業については選択肢があったように思います

繁田:そうですね、協業だけで言えば色々な選択肢があったはずですし、確かに資本を入れてもらうとなると通信会社以外にもあったと思うんです。ただ、前田さんとのお話の中でSHOWROOMもsmash.も、前田さんがエンターテインメント事業をやるにあたってとても大切なことがあると仰っておられたんですね。

それがちゃんと低レイテンシーで安定した配信をすることにある、というところだったんです。

SHOWROOMのプラットフォームも遅延がほぼなくなっていて、先日、とあるライブを配信されていたんですが、アーティストさんが普通にコールアンドレスポンスをやってました。インターネットサービスで遅延や途中で見れなくなる、画質が悪くなるようなことがあれば、やはり熱狂って生み出しにくい。

5Gのスピードや安定に加えて「通信会社グレード」っていうものをちゃんと自分たちでもできるようになれば、他のプラットフォームと異なる、絶対的な何かになれるのではないだろうか、ということは考えられてるようです。そういう考え方から色々な選択肢の中で通信会社が選択肢に入ってきた、ということを聞いています。

通常、KDDIとの共創事例ではユーザーベースだったり、ビジネス的な視点が多い気がしますが、通信のコア技術の部分に興味を持っていたというのは意外でした

繁田:SHOWROOMのリードエンジニアさんってやっぱり低遅延にこだわってますね。実質、肉眼で見る遅延がやっぱり30秒ぐらいあるとコールアンドレスポンスはできない。見ているみんなノってる〜?ってやって「シーン」となるわけですからね。この辺りは前田さんのアーティストとしての原体験にあるようで、お客さんの前で歌い、お客さんが反応してそれに合わせて曲を選んだりしてたと仰っていました。

別の5Gのプロジェクトで名古屋グランパスさんとの例だと、スタジアムにたくさん人が集まると通信が繋がりにくくなるからこれを5Gで改善したりしているんですが、改めて前田さんと会話することで、前衛的なネットテクノロジーを手掛けてるネット企業に逆に、通信技術の重要性を示されたわけです。僕らって意外と大事なんだな、みたいな気付きですよね。

そういう意味でも一緒にやりたいと思いました。

技術チームとのコラボレーションはもう始まっているのでしょうか

繁田:検討に入っている段階です。僕の中の頭のイメージですけどまあよく「MEC(※)」って言葉が使われたりしますが、そういう風になっていけばこういったサービスが本当ににサクサク動くようになっていくと思います。本当に(前田さんたちは)インターネットレイヤーの方々なんですけど、通信レイヤーである僕らとエンド・ツー・エンドでパフォーマンスや品質を上げていくっていうのは絶対一緒にやっていこう、ということで大盛り上がりしています。

※マルチアクセスエッジコンピューティング、クラウド処理を一部エッジ側に持たせることで全体的な処理を向上させる技法(次回につづく)

関連リンク:「smash.」とは何者か:スマホで”作品”が生めないって誰が決めた – SHOWROOM 前田裕二氏 Vol.1

新・企業共創時代:共創を突き動かすもの – KDDI 中馬和彦 Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 前回までの会話で、日本企業がなぜ共創・オープンイノベーションを必要としなければならないのか、時代背景やコロナ禍の影響などを重ねて共創プラットフォーマー役割やあり方について話を聞いてきました。続いてはモチベーション・サイクルについてです。協業は異なる企業がそれぞれの思惑を合致させなければ正しく回りません…

KDDI 経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部長/KDDI ∞ Labo長 中馬和彦氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

前回までの会話で、日本企業がなぜ共創・オープンイノベーションを必要としなければならないのか、時代背景やコロナ禍の影響などを重ねて共創プラットフォーマー役割やあり方について話を聞いてきました。続いてはモチベーション・サイクルについてです。協業は異なる企業がそれぞれの思惑を合致させなければ正しく回りません。一方、新たな事業というのは実現するまでのプロセスが複雑かつ長期に渡る場合があります。

複数の企業の中にあって、共創を実現させる人たちは何を力の源とすべきなのでしょうか。引き続き中馬和彦氏に訊きます。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、回答はKDDIビジネスインキュベーション推進部長 中馬和彦氏、文中敬称略)

中馬を突き動かすもの

共創というややアテのない「余白」を大いに含んだポジションでは、人は迷いがちです。中馬さんを突き動かすモチベーションの源泉はどこに

中馬:個人的なことも含めて、やっぱりトラウマはあると思うんですよね。ガラケー(フィーチャーフォン)の時、私はハンドセット部門にいたのですが、通信会社でハンドセットってど真ん中のど真ん中だったんです。あの当時はやっぱり垂直統合モデルの中心っていうのはガラケーそのもので、端末をキャリアがOSも兼ねて運営していました。サービスも組み込みのアプリベースで全て生まれていた時代です。

そこの責任者でずっとやっていて、ある日スマホが出てきたんですね。これはちょっとやばいぞと思ってAndroidの方に舵を切ろうとしたんです。日本で最初のAndroidの学会があって、そこのキーノートでガラケーじゃなくこれからはスマホだ!って言ってるんですけど、当時は色々あって結局プロダクトが分かれてしまい、スマホの担当からは外されてしまいました。その後僕らのスマホシフトが遅れをとってしまったことは、今でもトラウマになっているんです。

あの時、auってフィーチャーフォンのOSまで作って全部提供していたんですよ。髙橋ともよく話すんですが、完成度が高すぎた故にどうしても手放せなかった。あの時のことが頭にあって、今またエコシステムが大きく変わろうとしている中で、もう同じことをしちゃいけない。

分かれ道が出たら「必ず新しい方へ行こう」っていう。もうこれは、今までの歴史が証明してくれてるものなんです。

共創における情報発信がなぜ重要なのか

ーースマートフォン・シフトの荒波からエコシステムの中心が、キャリアから別の場所に移り、新たなモデルを積み上げる必要性が出てきたのが2010年頃です。そこで当時のKDDIはスマホアプリをゼロから集めるべく、KDDI ∞ Laboの原型となるインキュベーションのアイデアにたどり着きます。いわゆる「Y Combinator」スタイルと呼ばれるいくつかのプログラムが立ち上がる中、KDDIはここに大きく投資をしていくことになります。

KDDI ∞ Laboは、スタート当時からイベントを大型ホールで開催するなど、大きく投資をしていました。情報発信や啓蒙に対する熱量はその後も継続して今に至ります。情報発信を重要視する理由はどこにあるのでしょうか

中馬:今世の中には情報が溢れかえっていて、その中で「確からしい」情報をみんな求めていると思っています。やっぱりただの仮説とか思いつきじゃダメだし、また歴史みたいなところっていうのは必ずしも同じにはならないんだけれども、少なくとも何かしらの気付きはある。

私たちがやってきた経験、みたいなところが説得力に繋がってみなさんの活動がショートカットされればいいなと。日本全体が盛り上がらないと結局、僕ら国内の通信事業は日本と共にシュリンクしていく運命にあるんです。それ自体は望ましいことではないので、国全体がやっぱり栄えてほしい、というのが根底にあります。

本来であれば利益率が20%ない会社っていうのは、グローバルでいえば市場から退場させられる、そういう厳しい環境じゃないですか。収益性を必ず維持してるからこそ未来への投資ができて、将来に対する耐性が生まれるんですよね。そういった会社はどんどんとトランスフォームし続けて、二十年企業、五十年企業という風になっていくと思うんですね。

情報発信って一見すると無駄なものじゃないですか。収益を直接生まないし。だけど、新規事業とか未来の柱になるようなものって、積み上げの理屈から出てくるものではないんです。「Unknownなもの」に対してチャレンジし続けなきゃいけないし、ハンドルの“遊び”みたいなものだと思っていて、だから、ある程度の社会的位置付けのある会社であれば、その遊びみたいなところをいかに許容するかって大切なんです。

本当に無駄なものと、必要だけど無駄なもの、この「違い」を判断する力は相当に重要ですね

中馬:やはり社員じゃないでしょうか。将来のことを見ている、外を見ている社員をいかに増やすかが大事で、自分のことをヨイショしてくれる部下じゃなくて、そこからいろんなことを教えてくれて苦言を呈してくれる。そういう部下をたくさん作れるかっていうところがやっぱり企業の新陳代謝の源じゃないかと思っているんですよね。

また情報はもちろんないと判断のしようがないと思うんですけど、それ以上にやっぱり新しいことにチャレンジする遺伝子を抱えるかっていうことじゃないかと思っています。

そしてその遺伝子をどこまで泳がせられるか。これはすごい難しくて、これまで日本って高効率性を追い求めているし、個より集団とか、減点主義とか全てのこれまでの価値基準が今の大きなダイナミックな変化には向いてないと思うんです。ことごとく、全てが足かせになっていると思うんです。日本の企業ってボトムアップだったんですよね、基本的に。だからこのままいくとうまく行かないんじゃないかと思っています。

企業の経営者はこの変化の時代、動き出そうという人が増えていると思うんです。情報を求め、新しい遺伝子を育てる、これは重要なステップだと思うんですが、具体的にどこから手をつけるべきなんでしょうか

中馬:僕は今のオープンイノベーション部門や流行りの“出島”組織が増えている傾向は、非常に良いことだと思っています。結局、本業がすごいしっかりして利益を稼いでくれていれば、新規事業とかそういうところへ「出島なる部分」から大きく投資ができると思うんです。つまり「関係ないところに対して張り続けられるかどうか」っていうのが大事なんだと思います。

一方で、誤解を恐れずに言えば、大半の企業が出島組織に対してまだまだ本気になっていないんじゃないでしょうか。本業と同じくらい出島の活動も、両方本気でやることが大事なんです。

なぜならば、「関係ないところ」についてよく分からないままに、いつの間にか市場から排除させられることがあるからです。関係ないと思っていた成長分野に出会わなかった、これをなくす方が大切なんです。まあ、出会っていたとしても入るタイミングを逃した場合は・・・飲みながら反省すればいいと思っています。(笑

(次回につづく)

関連リンク:新・企業共創時代:変化の時代、その理由 – KDDI 中馬和彦 Vol.1

SORACOMはどうやって共創環境を立ち上げたのか – ソラコム 玉川憲氏 Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 グループ入りを果たしたIoTプラットフォームのソラコムは、KDDIとの共創によって買収時に8万回線だった契約数を200万回線にまで押し上げることに成功します。前回のインタビューではグループ入りという選択肢を選んだスタートアップの成長に必要な「余白」の考え方と、そこからさらに視座を上げる「スウィングバイ…

ソラコム 代表取締役社長 兼 共同創業者 玉川 憲氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

グループ入りを果たしたIoTプラットフォームのソラコムは、KDDIとの共創によって買収時に8万回線だった契約数を200万回線にまで押し上げることに成功します。前回のインタビューではグループ入りという選択肢を選んだスタートアップの成長に必要な「余白」の考え方と、そこからさらに視座を上げる「スウィングバイ・IPO」の考え方がどのようにして生まれたかについてお伺いしました。

2回目となる今回は、ソラコムの立ち上がりについてです。SORACOMは独自のエコシステムをパートナー企業や開発者たちと構築しています。ゼロからプラットフォームを作るというのはどういうことか、引き続き玉川さんにお話を伺います。

ソラコムはどうやって共創環境を作ったのか

玉川さんたちがAWSの立役者であったことはその後のソラコムの信用に大きく寄与したのでは

玉川:この件についてのアンフェア・アドバンテージはあったと思います。そういう実績のあるチームだったので、なんかやってくれるだろう、という期待感や信頼関係というか、変なことはしない人たちだよね、というのは凄くあったと思いますね。

ただ、会社始めた時って100%の確信のようなものはありませんでした。10人ぐらいの頃ですか、初期のメンバーで話していたのは「正直できると思ってるんだけどできなかったらごめんなさい、でも僕ら食っていけるよね」と。AWSとかもやっていたし、むしろ自分たちで食べていける人だけだったので、リスクを取りに行きました。

2015年9月にイベントで一気にお披露目をしたわけなんですが、そのタイミングで既にパートナーが10社、お客さんもその時点で30社ぐらい利用いただいてたんですね。この辺りはアンフェア・アドバンテージの力だったと思います。

少し巻き戻して、そもそもソラコムというプラットフォーム自体を作る工程はどこから始まったのですか

玉川:一番最初はやっぱりプレスリリースですね。(前職のAmazonでは)伝統的に仮想のプレスリリースを書くんですが、僕は夜中に酔っ払って書いたんです(笑。で、これがなんだかもっともらしく凄そうに見える。やった方がいいんじゃないか、みたいな始まりですね。そこがやっぱり駆動力になってて、じゃあとりあえずとプロトタイプにして一番最初に投資家の方に見せたら絶賛されたんです。

ただ、その投資家に言われたのが「玉川さん、デザインは見直した方がいいよ」、と(笑。

ここから話が広がった

玉川:ソラコムを起ち上げ、お客さんや事業パートナーさん、通信キャリアのパートナーさんにプライベートベータとして持っていったんです。そしたら同じようになんか凄そうだぞと感じていただけたようで、ソラコムさん、まあちょっと一緒にやりましょうか、そんな雰囲気になっていきました。

順風満帆に見えて、でも実際は苦戦していたんですよね

玉川:やはり、ちょっと検討しますみたいなのは多かったですね。プライベートベータの時期は、やっても返事もくれないこともありましたし。ただ、やはりアーリーアダプター層、特に前職でコミュニケーションしていたAWSのコミュニティの方々は心強かったです。彼らは新しくても良いものであればサポートする精神に溢れてるんですよね。

例えばAWSを最初に使う人ってやっぱりセールスフォースも最初に使った人なんですよ。こういう方々の目利き能力はすごいものがあって、いいものはいい、むしろリスクを取って使うことの価値を知ってるんですよね。一般的に普及した後にフォロワーとして使っても別に競争力にはならないじゃないですか。リスクのある状態で使い始めるからこそ競争力になるっていうことを直感的に分かってるんですよね。

となると初期のコミュニティをどう作るか、これすごく重要なポイントになりますね

玉川:実際、ソラコムも最初からコミュニティーを立ち上げさせて貰ってました。大半のユーザーさんもパートナーさんもこういったコミュニティーから出てきてるんですよ。

また、本当に最初から単独ではやってないと言うか、僕らって通信のコアの部分をクラウドで作る会社じゃないですか。その時点でまずAWSに凄い依存しているんです。さらに事業をやろうと思った時に通信の基地局などをお借りしなきゃいけないので、通信キャリアさんにも最初からすごく依存してる。

お客さんでありパートナーである、でも一部では競合するかもしれない。難しい舵取りですね。しかも様々な局面でメンバーがその交通整理をしなければいけないわけですよね

玉川:ソラコムを立ち上げた時に、チームが尊ぶべき行動様式をまとめたリーダーシップステートメントっていうのを作ったんです。その中にライカビリティ(好きになってもらえる能力)というのがあって、我々はプラットフォームビジネスを指向しており、あらゆる企業や個人がお客様でありパートナー様でありえる、だから誰からも好かれるようなやり方を模索しようと。

Likability

一緒に働いて楽しい人に – どんなときもユーモアを忘れず、周囲を力づける。フェアでオープンなプラットフォーム事業を支える一員として、常にふさわしい行動をとる。引用元:ソラコムのリーダーシップ・ステートメントより

仮想のプレスリリースを現実のものとし、コミュニティを中心に垂直立ち上げに成功しました。問題はそこからですよね。どうやってこのエコシステムを回していくのか。そもそも玉川さんのプラットフォームに対する見方から少しお話いただけますか

玉川:プラットフォームの特徴ってネットワーク効果ですよね。多くのお客様やパートナーさんが集まってくると、このエコシステムがどんどん強くなる。僕らが最初にやろうとしていたことっていうのは、誰もが必要なIoTにおける通信のインフラストラクチャ部分を凄く使いやすい形にして提供することだったんです。これをみなさん自身がやろうと思ったらすごく大変なわけで、英語で言うところの「ヘビーリフティング・ワーク(泥臭い仕事)」を代行すればみんなハッピーなので、その泥臭いところをできるだけ巻き取ろうと。

大変というか、圧倒的な技術力やチームに対するアンフェア・アドバンテージのような要素もなければ、なかなか任せてもらえない部分です

玉川:さらに僕らはそこを民主化してみんなに使ってもらおう、と先に進んだんです。「SORACOM」というのはそういったインフラ自体のプラットフォーム事業なんです。

最近は「つなぐを簡単にする」っていう言い方をしているんですが、やっぱり時代が凄く移り変わってきていて、例えば2000年ぐらいからインターネットが面白くなってきたじゃないですか。それをさらに押し上げた契機ってやっぱりAWSのようなコンピューティングのインフラ自体のプラットフォームが出てきたあたりだと思うんですよね。

面白いことをできる人がより身軽に、能動的に行動できるようになった

玉川:パッションを持っていて、こんなサービスを作ってみたいな、という人がすぐそのサービスを試しに作れるようになったんです。それで世の中がどんどん良くなっていった。ただ、2012年とか13年頃でしょうか。ひと通りのサービス化されてきたみたいな感じで新しいウェブサービスの出現にも若干こう陰りが出てきて。

アプリ経済圏が出てきたり、スマートフォンシフトが発生して多様性が出てきた頃ですよね

玉川:そうすると、各業界のアーリーアダプターと言われる方々がWebサービスだけでは物足りず動き出した感があって、さらに当時は「IoT」っていう言葉が使われ始めた頃でした。例えば色んなものから取れるデータを集めて機械学習できれば、モノとモノが繋がるんじゃないか、でもそれってどうやるんだろうといった課題が出てきていたんです。IoTにおける皆にとって大変なヘビーリフティング・ワークのポイントが見えてきて、じゃあそれを僕らが肩代わりするようなサービスが作れるんじゃないかと。(次回につづく)

関連リンク:共創が生み出した「スウィングバイIPO」とはなにか – ソラコム 玉川憲氏 Vol.1

街とクラウドファンディングの関係、渋谷はなぜ4,2989(シブヤク)万円を集めたのか Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 渋谷がクラウドファンディングをしていたのをご存知だろうか。7月に4,289(シブヤク)万円を集めることを目標にプロジェクトが開始し、1,300人以上から4,500万円近くを集めて無事、成功している。 でも一体なぜ。 確かにコロナ禍は渋谷の街を直撃した。外出自粛が続いた49日間、人でごった返していた渋谷…

CAMPFIRE代表取締役 家入一真氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

渋谷がクラウドファンディングをしていたのをご存知だろうか。7月に4,289(シブヤク)万円を集めることを目標にプロジェクトが開始し、1,300人以上から4,500万円近くを集めて無事、成功している。

でも一体なぜ。

確かにコロナ禍は渋谷の街を直撃した。外出自粛が続いた49日間、人でごった返していた渋谷スクランブル交差点は、いつの間にか「人がいない」ことを伝えるシンボルに変化した。それでも、だ。渋谷は日本を代表する街であり、若者を中心とするカルチャーの震源地になっている。これは変わらない事実だ。その街がなぜ人々から支援を集めなければならなかったのだろう?

街とクラウドファンディングの関係

国内における街とクラウドファンディングの関係は意外と古い。きっかけは2011年の東日本大震災だ。どうしようもないほど甚大な被害をもたらした震災は、互助の仕組みを必要とした。まだ産声を上げたばかりのクラウドファンディングや寄付のサービス事業者たちはこの事態に向き合い、持てる力を振り絞った。あれから約10年。それ以降も巻き起こる数々の災害に対し、クラウドファンディングは支援の輪を広げる手助けをした。

地域の経済活動にも一役買っている。思い出すのは2017年に始まった別府市の「湯〜園地」プロジェクトだ。“遊べる温泉都市構想”として配信されたYouTube動画が「100万再生を突破したらこの計画を実行に移す」と市長が宣言したところ、あっという間にその目標を達成。一方で、税金を投入するかどうかは判断が分かれる。そこで生まれたアイデアがクラウドファンディングの活用だった。結果、このプロジェクトは目標金額1,000万円を大きく超える3,400万円を3,600人以上から集めることとなった。

災害も街の活性化も共通しているのは街やそこにいる人たちが課題を抱えている、という事実だ。では、渋谷は何が問題だったのだろう。

渋谷が抱えていた課題

YOU MAKE SHIBUYA クラウドファンディング

「元々、地方の課題に対してクラウドファンディングで何かできないかと考えていて、47都道府県回りましたし、しっかりと考えてきました。ただ、東京はというともちろん軽視したことはなかったのだけど、目を向けることが出来ていなかった。そもそも地域活性化って、どこかの土地の成功事例をコピペだけしても決して上手くいかない、その地域地域で地に足をつけて生きる方々の足下にこそ、宝の原石があるのだと思っています。そう思っている僕たちが、オフィスのある渋谷に目を向けられてなかった」(家入氏)。

渋谷でクラウドファンディングのプロジェクトが立ち上がった背景を訊かれ、こう振り返るのはCAMPFIRE代表取締役の家入一真氏だ。今回の話は何も感染症拡大だけが要因だったわけではない。

実は渋谷には元々「人が集まりすぎる」という問題があった。ビジネスや観光でこの街を訪れる人たちの数は1日約300万人。もちろんやってきた人たちはここで買い物をしたり楽しんだりしてお金を落とす。これが税金となって渋谷の街に還元される・・・となればよいのだが、実際はそうではない。大きな割合を占める法人税は区の歳入に含まれないため、いわゆる区民の税金によってこの巨大な街を運営しなければならないのだ。1日300万人が訪れる街を23万人の区民が支える。あきらかにアンバランスだ。

そしてそこにコロナ禍が直撃した。ライブハウスには人が入れなくなり、ファッションを買い求める客で賑わったショップからは人気が消えた。周辺の飲食店には人が回遊しなくなった。渋谷を形作っていたカルチャーが壊れれば、戻すのはそう簡単ではない。

「渋谷区長の長谷部(健)さんにお会いして。やはり民間からいらっしゃってる方なので、民間の知恵というのかな、それをお持ちでした。スタートアップや大企業が集まることでこの問題に立ち向かえる。クラウドファンディングを使ってストーリーを生み出す、それが狙いでした。渋谷って日本のカルチャーを牽引してきた存在だったので、そこがもう一回カッコ良くなるって仰っていて。すごくいいなと」(家入氏)。

資金はもちろん使い道があるのだが、やはりそれ以上にこのキャンペーンを通じて渋谷の課題を知り、一緒にアクションを起こしてくれる企業やアーティスト、スタートアップたちが集まったことの意味の方が大きいだろう。実際、渋谷区や渋谷区商店会連合会、渋谷区観光協会、渋谷未来デザインが協力して立ち上げた「YOU MAKE SHIBUYAクラウドファンディング 実行委員会」にはKDDIをはじめ、多くの企業が参加することとなった。

一見すると健康そうな都市も課題を抱える。クラウドファンディングという仕組みはこういった課題を見つけ出し、人や企業に伝え、共創の環境を生み出してくれる。今、渋谷の街は人出が戻りつつあるが、もしまた新たな課題にぶつかっても、一緒に課題を解決してくれる仲間がいれば必ず道は見つかるだろう。

裸になってみる

家入氏がこれまでやってきたこと、それは小さな力をインターネットで集めて、新しい繋がりと幸せを生み出すことだ。時にサーバーだったり、手のひらのコマースだったり、場合によってはリアルなカフェだったりした。カタチは違えど、根っこにあるのは同じ匂いがする。そして彼はいつも誰かと共に何かを創り出す。インタビューの最後、家入氏はその理由についてこう話してくれた。

「一人だとアイデアも何もでてこないんですよね。一人でいると本当に天井のシミをみて1日終わるんですよ。アイデアも自分の中から湧き出てくる、なんてことは全くなくて、人と対話する中で生まれてくる。違う業界の人と話をするのが好きで、昨年も少年院の視察をしてきたり。そういう「自分と違う課題」を目の前にたくさん並べて、そこに自分がやってきたことを切り口にしてみるとアイデアが出るんですよね。よく「身近な人の顔を思い浮かべて、手紙を書くようにサービスを作ろう」というお話を社内でするんですが、その人の顔を思い浮かべて、ああ、こういうことに困ってる人がいるんだなと思って作ると、答えって見えてくるんじゃないでしょうか。

大企業とスタートアップのコラボによる共創、オープンイノベーションなども近い話だと思っています。それぞれが見えている課題や、出来ること、得意なことがあって、それを共創する形で解決する。新しいプロダクトを生み出す。ただ、大企業の場合、どうしても看板を背負ってやってきてしまう場合が多いじゃないですか。そういう状況で、オープンイノベーションだ協業だと言ってもなかなか新しいものは生まれづらい。一度、裸になってみること、そこから始めることが必要なのではないでしょうか」(家入氏)。

「バーチャル渋谷」50社が連携した街づくりの物語:1カ月で街を作ったクラスター Vol.1

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 1日300万人が来訪し、ごった返すスクランブル交差点。いつもの風景ががらりと変わったのはいつ頃からだろうか。4月の緊急事態宣言以降、渋谷の交差点は「人がいないこと」を伝えるためのシンボルに変わってしまった。未曽有の感染症拡大で世の中が混乱する5月の真っ只中、東京の中心地に新しい街がもうひとつ生まれた。…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

1日300万人が来訪し、ごった返すスクランブル交差点。いつもの風景ががらりと変わったのはいつ頃からだろうか。4月の緊急事態宣言以降、渋谷の交差点は「人がいないこと」を伝えるためのシンボルに変わってしまった。未曽有の感染症拡大で世の中が混乱する5月の真っ只中、東京の中心地に新しい街がもうひとつ生まれた。

バーチャル渋谷。

あるいはデジタルツインと呼ばれるこの仮想世界は、渋谷区が公認する「第2の渋谷」となった。この世界はなぜ必要だったのか。私はこのストーリーを紐解くため、仮想空間の街づくりに携わった、3人の人物に話を聞くことにした。

バーチャル渋谷のはじまり

バーチャル渋谷のきっかけはもっと前に遡る。元々渋谷は周囲からは見えない課題を抱えていた。例えばゴミの問題。ハロウィンで楽しんだ人たちの爪痕を掃除するのは街の人たちだ。オーバーツーリズムの問題もある。集まりすぎた訪問客が必ずしも街にお金を落としてくれるわけではない。日本のカルチャーの中心地でありながらそれ以外の魅力を伝えきれていない。そういうもどかしさもあったという。

渋谷区にはこういった街の複雑な課題を行政だけでなく、外部企業や集う人たちと一緒に解決する方法を持っている。一般社団法人として3年前に設立された「渋谷未来デザイン」がそれだ。街に集まる人や情報をもっと楽しく、そして効果的に伝える方法がないか。

街でありながら、オープンイノベーションのアプローチで様々な課題解決を模索する中、KDDIと渋谷区観光協会の三者で昨年9月に立ち上げたのが「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」だった。

2020年1月に「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」となったこの動きは、アートやエンターテインメント領域を中心に、渋谷をアップデートするべく様々な企業を巻き込み、現在50社以上が参画する共創企画に発展している。

そしてこのプロジェクトに「バーチャルリアリティ」の領域で参画していたのがクラスターだ。バーチャルイベント空間「cluster」を開発する同社を創業した加藤直人氏は、プロジェクト開始の様子をこう振り返る。

話の最初は2019年の末あたりですね。本格的に進めたのは今年に入ってからです。コロナが酷い状態になるにつれて、話が加速していきました。これはすごく価値のあることになるので力を入れてやっていこう、と(クラスター加藤氏)。

渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト構想のひとつに「渋谷を拡張する」という視点がある。いわゆるAR(拡張現実)を活用した展開だ。リアルの渋谷を訪れた人たちに、現実と重ね合わせた情報を提供する方法でアップデートを試みよう、というわけだ。昨年11月にはかつて渋谷PARCOの建て替え工事の仮囲いにあった「AKIRA ART WALL」がARで蘇る、なんていう演出企画も実施している。

なので元々はリアルな渋谷を徐々にデジタルで拡張し、じわじわとバーチャル空間に「もうひとつの渋谷」が染み出していくーー。そういうプロジェクトだったのだと思う。

それがコロナで一変した。

渋谷を1カ月で作ってくれ

バーチャル渋谷

「制作っていう視点だけで言えば、実はやりようはいくらでもあるんです。フォトグラメトリなんて技術もありまして、写真を全部繋ぎ合わせて見た目だけ全く同じものを作ることもできる。けど、それって正直やる意味ないですよね」ーー話を受けた当時を加藤氏はこう振り返る。

感染症は人だらけだったJR渋谷駅の利用を20%以下に激減させ、街の課題は「人が来すぎて困る」から「人がいなくて困る」に変化した。リアルな渋谷を拡張しようにも人がいなければ手も足も出ない、でも自分たちにはオンラインという方法があるじゃないかーー。

そう考えたプロジェクトチームは、リアルからバーチャルへのベクトルを「逆」に変えることにした。緊急事態宣言で人がいなくなった渋谷に希望を取り戻したい。与えられた時間はわずかに1カ月。課題はできるかできないか、ではなく「どう作るか」にあった。

リアルにあるものをデジタルにする価値とは何か。渋谷と情報として完全に一致するものを作ることに対する価値はあるかもしれないんですが、今求められてるのはそれじゃない。バーチャル渋谷ってその一歩先を作らないといけなかったんですね。未来を見せるものでないといけない。じゃあそれをどう表現しよう、という部分はチャレンジでした(クラスター加藤氏)。

clusterはそもそも「ワールド」と呼ばれる仮想空間をユーザーが作り、そこにバーチャル上の「自分」を置いてコミュニケーションやイベントを開催できるプラットフォーム型のサービスになっている。今回のバーチャル渋谷もゼロからではなく、彼らの基盤があったから極めて短期間に開発することができた。

結果、5月19日にバーチャル渋谷は無事、デジタルツインとしてスタートすることとなる。

残る問題は体験価値だ。没入空間でパラレルワールドを作った事例としてはフォートナイトがある。バトルロワイヤルのゲームとして世界中でヒットし、そこから拡張したアーティスト、トラヴィス・スコットのイベントには1200万人以上が接続するという伝説的な話題も打ち立てた。バーチャル世界は実はもうすぐそこにまで来ているのだ。

しかし今回はゲームではない。リアルな街だ。仮想空間の渋谷で何をすればいいのか。加藤氏はバーチャルな街づくりを通じて得た気付きとして「ストーリー」を挙げる。

街は物語を紡ぐ場所

街に人を呼び込む体験について尋ねると加藤氏は私見と断りつつ、「働かなくなる未来」について語ってくれた。

ライブもゲームもコマースとしての買い物体験も全部インタラクティブなエンターテインメントです。このインタラクティブ性というのが重要で、人間ってソーシャルな生き物ですからやっぱり友だちと一緒にエンターテインメントに参加したいし、フィジカルを伴って体験できるならそれに尽きる。あと、これは個人の意見なんですが、やっぱり働かなくなっていく未来ってあると思っているんですよ。働かなくても生きていける。こうなると基本的に人生はエンターテインメントに帰結していくと考えています(クラスター加藤氏)。

音楽イベントがあったとして、没入空間で単に「視聴」するだけだったらあまり意味がない。加藤氏はそこにあたかもいるかの如く「参加する」体験こそが必要と語っていた。参加とは何か。友人との会話であり、出演アーティストとの掛け合いであったり、そこにいるという空気感だったりするのだろう。加藤氏はこう続ける。

改めてバーチャル渋谷をやって言語化できたのが『集まる理由ってどこにあるだろう』ということなんですね。で、結論から言えばストーリーが必要なんです。何もストーリーがないところには人って集まらないんです。そう考えると渋谷って歴史も詰まってるしストーリー性がすごく強い。この渋谷というストーリーの上で、例えば集客のきっかけとしての音楽コンサートがある、そういうことが本質的な価値になるんだなと気がついたんです(クラスター加藤氏)。

単なるバーチャル空間で有名なアーティストを呼んでイベントをやっても、そこにコンテキストがなければ単なるコンテンツになってしまう。しかしそこの場所としての「渋谷」という歴史が加われば、別の会話が生まれる。人との触れ合いが発生する。ここに価値がある。

単なるオンラインイベントであればコンテンツの視聴方法はいくらでもある。でもそこに関係値のあるお店や友人、ちょっと会いたいと思っていた有名なアーティストがいることで物語が生まれる。人はストーリーがあるから集まり、また違った別の物語を生み出す。この「空気感」があればそこがリアルであろうとバーチャルであろうと人は集まりたくなる。

街の役割ってそこだと思ってて。リアルの街って人がそこに集まって何かを営んで、ストーリーを生み出す場じゃないですか。人が集まるって言い方しましたけど、それ以上にストーリーを生み出すジェネレーターなんですよね(クラスター加藤氏)。

加藤氏はデジタルツインという仮想空間でありながら、すごく手触り感のある街づくりの裏側を教えてくれた。次回はKDDIとしてこの共創プロジェクトに臨んだ、チームの話題をお届けする。

KDDIが作った共創装置「KOIFとKDDI ∞ Labo」

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 KDDIが「KDDI ∞ Labo」を開始してから10年が経とうとしています。インキュベーション・プログラムとして始まったこの取り組みは、時を経て、企業と新たなアイデア・テクノロジーを繋ぐ「共創プラットフォーム」に発展しました。 今、5Gや街全体をインテリジェンス化するスマートシティ、金融システムを大…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

KDDIが「KDDI ∞ Labo」を開始してから10年が経とうとしています。インキュベーション・プログラムとして始まったこの取り組みは、時を経て、企業と新たなアイデア・テクノロジーを繋ぐ「共創プラットフォーム」に発展しました。

今、5Gや街全体をインテリジェンス化するスマートシティ、金融システムを大きく変える新たなフィンテックの登場など、求められるイノベーションのサイズはかつてないほど大きくなりつつあります。その成功の鍵を握るのがアセットを豊富に持った大企業です。

私たちKDDIは自身はもちろん、志を同じくする50社近くをこれまで「パートナー連合」としてネットワークしてきました。そこでこの連載ではこれら企業の共創活動をリレー的にご紹介することで、より幅広いつながりを生み出すチャンスとしたいと考えております。

まず、最初にご紹介するのは私たち自身、KDDIの取り組みからです。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答はKDDIビジネスインキュベーション推進部 清水一仁さん)

KOIFの目的は

CVCを立ち上げた目的から教えていただけますか

清水:KDDI Open Innovation Fund(通称:KOIF)は2012年にベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインと共に、国内外の有力なスタートアップへの出資と事業支援を通じて、共に次世代の新たな産業を興していくことを目的に組成しました。

ファンドの規模や特徴はどのようなものですか

清水:2014年に組成したKOIF2号ファンド、2018年に組成したKOIF3号ファンドを合わせて総額300億円の資金を運用しています。KDDIのみならず、グループ会社のソラコム・Arise Analytics・SupershipなどKDDIグループ全体で持つ知見を活用しながら、これまで合計79企業へ出資を実施しています。(2020年10月9日現在)

スタートアップとの取り組みで何か留意していることは

清水:そうですね、「スタートアップファースト」をモットーに、スタートアップの成長を第一に考えて投資・事業支援をさせて頂くことは、KDDIにとっても新しい事業領域にチャレンジするきっかけを与えて頂くことに繋がっています。今後も幅広い領域のスタートアップと共に、新しい産業を興していくことを目指して、手を緩めず活動していきます。

代表的な取り組み事例を教えていただけますか

清水:最近の例ですと2020年3月に出資した、ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM」をはじめとするエンターテインメント事業を展開するSHOWROOM株式会社と共に、スマートフォンでの視聴に特化したプロクオリティのバーティカルシアターアプリ「smash.」の提供を10月から開始しました。月額550円 (税込) で、スマートフォンでの視聴に最適な縦型かつ5~10分程度の短尺の映像コンテンツを、音楽・ドラマ・アニメ・バラエティなどの幅広いジャンルで展開するサービスです。

5G時代のライブエンタメを提案するサービスだけでなく、幅広い協業も特徴ですよね

清水:音楽プロデューサーの秋元康氏やジャニーズ事務所をはじめ、大手芸能事務所、大手制作会社の協力のもと映像コンテンツを拡充し、KDDIとしてはauのお客さまに月額利用料を6カ月間無料で提供する形で、ユーザー獲得に貢献していきます。SHOWROOMさんのサービス開発力と、KDDIの持つ顧客基盤やデジタルコンテンツサービスを組み合わせ、5Gコンテンツの日常的な視聴体験を創造していくのが狙いです。

SHOWROOMについては協業に先立って出資もしています。これらはどのような意思決定で進められるものなのでしょうか

清水:まず出資ですが、KDDI社員がファンド運用をサポートするグローバル・ブレインとの協力で、日々様々なスタートアップと面会していく中で、資金ニーズや事業共創の可能性を感じた案件について短期間で検討していきます。

具体的な投資検討期間はどれくらいになりますか

清水:ケースバイケースではあるのですが、初回の面会から最終の投資委員会までで、約1.5ヶ月ほどの短期間で結論を出すことを心がけています。ファンドとしての投資採算性の見極めはもちろんですが、KDDIがどのようなアセットを提供することでどのようにスタートアップの成長に貢献できるか、という視点を最も重視して意思決定をしています。

なるほど、ちなみに本体からの出資とこのKOIFというCVCを通じたものと、どのような差別化があるのでしょうか

清水:KOIFについては、KDDIとして新しい領域に一歩踏み込むための第一ステップという役割がありますね。短期的な事業親和性が明確ではないまでも、新規性の高い事業領域やテクノロジーを持つスタートアップに対してはKOIFからマイナー出資という形でまずお互いの距離を縮め、中長期的な事業支援を通じてスタートアップの成長に貢献しながら、親和性が高まってきた段階で改めて本体投資やM&Aによる追加出資を検討していきます。

KDDI ∞ Laboはどうして生まれた

ーー出資を前提とした取り組みがCVCであれば、協業をスピーディーにかつ、幅広い可能性の元に推進できるのがインキュベーションやアクセラレーションの仕組みになります。2010年代に国内でも拡大した「Y Combinator」モデルを出資と切り離して実現したのがKDDI ∞ Laboでした。

KDDIといえば、早いタイミングから海外のアクセラレーションモデルを導入したことでもよく知られていますが、そもそもどういうきっかけからスタートしたのでしょうか

清水:2011年に、国内事業会社では初となるインキュベーションプログラムとして開始しました。当時はiPhoneの登場を機に人々がガラケーからスマホへ急速に移行する流れが起き始め、それまでKDDIが築きあげてきたモバイルインターネットエコシステムから速やかに、スマホをベースとしたエコシステム作りに舵を切る必要がありました。

確かにあの頃はいわゆる「ガラケー」から黒船と言われたスマートフォンシフトがあるのかないのか、そういう変革の決断時期でした

清水:そこで、既に新しい領域にチャレンジしている優秀な起業家を支援することを通じて、新しいスマホエコシステムを一緒に築いていこうと考えたのが、KDDI ∞ Laboの始まりです。

現在は起業家支援という文脈でのインキュベーションプログラムではなく事業共創プラットフォームとして、既にプロダクトのあるスタートアップの技術やビジネスと、パートナー連合と呼ばれる大企業群のアセットとを組み合わせて、一緒に新たな事業を作ることに焦点を当てて活動しています。

KDDI ∞ Laboパートナー連合

インキュベーションから共創に発展して、大きく変わった点は

清水:いえ、立ち上げ時と形は変わっていますが、スタートアップと大企業が一緒に新たな産業を興していくことの狙いは変わっていません。KDDI ∞ Laboのウェブサイトでは通年でスタートアップからの事業連携案を受け付けていますので、いつでもご連絡いただければ嬉しいです。

事例について聞かせてください。KOIFではSHOWROOMへのシナジー投資が挙げられていましたが、こちらのプログラムではどのようなケースがありますか

清水:例えば2018年度の採択企業であるSynamonは、ヘッドマウントディスプレイを装着した状態でバーチャル空間上の会議やコラボレーションを可能とするサービスを開発していましたが、採択期間中はβ版をKDDIやパートナー連合各社の実際のビジネスシーンで徹底的に使い倒すことで、様々なフィードバックを商用版の開発に反映して頂き、2019年3月にはVRコラボレーションサービス「NEUTRANS BIZ」として正式リリースするに至りました。

その後KOIFから出資もしていますね

清水:はい、その後事業の成長性も期待できたことから、KDDI Open Innovation Fundから出資も行い、KDDIの法人営業チャネルを使って「NEUTRANS BIZ」の法人顧客開拓を支援したり、防衛医科大学校と共に、5GとVRシステムを活用した災害医療対応支援の実証実験を国内で初めて実施するなどを通じて、5G×VRの先進事例創出による協業を進めています。

プログラムから出資、協業という分かりやすいステップですね。現在は極めてシードな企業というよりは、このようなしっかりと製品が見えているステージの方々との協業が多そうです

清水:はい。20年度は現在二つのプログラムを実施しているのですが、共に製品やサービスがある段階のスタートアップとの協業を考えています。

どのようなプログラムが走っているのでしょうか

清水:パートナー連合全社が提供する多種多様なアセットを通じてスタートアップの事業を支援する「MUGENLABO支援プログラム 2020」と、パートナー連合各社が公開するプロジェクトテーマごとにスタートアップとの共同事業化を目指す事業共創プログラム「∞の翼」です。

大企業の課題はスタートアップにとってはチャンスです。スタートアップのビジネスアイディアやテクノロジーと、多様な大企業の豊富なアセットを連携させて、社会にインパクトのある新たな事業を共に興していくことがKDDI ∞ Laboの役目ですが、大企業がスタートアップと共にチャレンジする取り組みが産業界全体に拡がり、当たり前のこととなるよう、今後もスタートアップ支援に全力を注いでまいります。

具体的に参加したい場合は?

清水:パートナー連合全社の提供アセットはKDDI ∞ Laboウェブサイトにて公開しており、「これを活用してこんなインパクトを世の中にもたらしたい」という連携案を通年でスタートアップから受付中ですので、是非多くのご連絡を頂ければ嬉しいです。

またパートナーとしてご参加いただく大企業も常に受け付けています。お金は頂きませんが、スタートアップとの事業共創をミッションとし、自社のアセットを積極的にご提供頂ける企業様を期待しています。

ーーということでトップバッターは私たちKDDIのCVCであるKOIFと、事業共創プラットフォームのKDDI ∞ Laboについてお届けしました。次回は凸版印刷さんの取り組みにバトンを渡してお送りします。

関連リンク:KDDI ∞ Laboウェブサイト

au IKEBUKUROにスタートアップが集結「スピード共創」はどう実現した Vol.1

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。初回はKDDIのau IKEBUKURO店で実現した、感染症拡大を防止するためのスタートアップ共創事例をご紹介します。 KDDIの共創事業「KDDI ∞ Labo」では現在、パートナー連合全社が…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。初回はKDDIのau IKEBUKURO店で実現した、感染症拡大を防止するためのスタートアップ共創事例をご紹介します。

KDDIの共創事業「KDDI ∞ Labo」では現在、パートナー連合全社が提供する多種多様なアセットを通じてスタートアップの事業を支援する「MUGENLABO支援プログラム 2020(以下、支援プログラム)」と、パートナー連合各社が公開するプロジェクトテーマごとにスタートアップとの共同事業化を目指す事業共創プログラム「∞の翼」の二つを実施しています。今回ご紹介するのは支援プログラムを通じたケースです。

ショップが抱えた「感染症拡大」問題

「ことの発端はやはりコロナ禍です。お客様と店頭で働いてくださっているプランナーの安全、安心の確保が喫緊の課題と認識していました。我々として考えられ得る様々な支援、例えばカウンターへのパーテーションやフェイスシールド、手袋の配備等は実施していたのですが、安全、安心をもっとお客様向けにお伝えすることはできないか、そういう課題感はありました」(KDDI 直営店営業部 戦略グループリーダーの堀靖和さん)。

こう語るのはau IKEBUKUROやGINZA456など、全国で展開しているKDDIの直営店を管理運営するチームの堀さんです。感染症拡大は様々な場所で大きな問題を突きつけることになりました。特に堀さんたちが手掛ける店舗運営の現場は、不特定多数のお客さんと向き合う必要があり、課題解決は待ったなしの状態です。

この問題にいくつかのスタートアップがソリューションをそれぞれ企画して提供した、というのが今回の事例でした。au IKEBUKUROの店舗に設置されたのは以下の通りです。

  • AWL:同社は店舗に対し混雑度や展示商品の接触検知が可能なプロダクトを展開している。混雑度測定では店舗入り口にエッジAIカメラを設置し、人通りに応じて店舗の混み具合を測定することが可能。目視せずとも遠隔から混み具合を知ることができる。加えて、展示商品の端末接触検知機能も提供し、除菌清掃が必要な端末を適時教えてくれる
  • Idein:同社は店舗入り口に画像認識技術を活用した体温測定器を設置し、入店時の検温を自動で実施する。検知した体温やその他個人情報はクラウドなどに保存されず、カメラに付属するソフトウェア内で暗号化され必要に応じて活用される仕組み
  • GREEN UTILITY:同社は紫外線をベースとした除菌ケースをカラオケ店などに提供。スマートフォンやマイクの除菌を約1分間で実施できる(au IKEBUKURO・JOYSOUND池袋西口公園前店にも設置)
  • ファームロイド:同社はウイルス対策を目的としたUV照射ロボット「UVバスター」を病院や大学機関に向けて提供。利用施設は空間内の除菌清掃の自動化を図ることができる。特にウイルスが残り続けると言われる「床」の除菌清掃にも対応している
  • プレースホルダ:同社は最新のデジタル技術を駆使し、カーディーラーなどのキッズスペースを必要とする施設へ知育体験ツールを提供。紙に書いたぬりえが3D化しゲーム画面に登場する設計などを特徴とする。導入企業はキッズスペースの除菌消毒を限りなく最小限に抑えることが可能

通常、こういった店舗で発生するような問題は、各店舗や本部機能を持つ堀さんたちのチームで解決するそうなのですが、問題が大きすぎたこともあり思案している状況だったそうです。ここで声をかけたのが他社とのコラボレーションを手掛けるビジネスインキュベーション推進部でした。彼らもまた、スタートアップとの協業支援において直営店舗を活用できないかと模索しており、両者の思惑が一致することになります。

「結果、ビジネスインキュベーション推進部と連携して「自動検温システム」や「スマホ除菌ケース」など、社会的に関心の高い話題であるコロナ対策アイテムを直営店へ設置し、KDDIとしても旗艦店舗にてスタートアップのソリューション露出、およびこの時期のコロナ対策をしっかりとアピールできたと考えています」(KDDI 直営店営業部 堀さん)。

KDDIとして共創事例をメディア向けにプレスリリースしたことから、その日の内にNHKを含め、主要な経済紙などに取り上げられるなどの結果を残したそうです。また、スマホ除菌ケースについては展示しているGINZA456店で、来店客から購入したいという話が持ち上がるなど、今後の具体的な事業展開への糸口のようなものも見えたというお話でした。

スタートアップとの共創で重要なのが具体的な課題とゴールの設定です。

堀さんのお話によれば、今回の共創ソリューションは話が持ち上がってからどれも1、2カ月以内で素早くプロトタイプが完成し、実店舗での実証実験が開始されたということでした。このスピード感を出すためには、やはり協業する各社が明確な課題に向かい、具体的なアウトプットをイメージとして共有する必要があります。

では、ここからはスタートアップ側の視点で共創の裏側をお伝えしてみたいと思います。

伝えにくい技術を「可視化」するメリット

「私たちは現実世界のあらゆる情報を取得するというのをミッションに掲げているのですが、現場の課題の可視化というのは様々な企業にとってニーズがあります。例えば小売店やオフィスビル、領域についてもスマートシティや広告、製造業など多岐に渡っていて、こういった課題をアンテナ高くお持ちの方々にしっかりリーチして導入検討いただけることはやはり高い価値がありますね」(Idein代表取締役の中村晃一さん)。

支援プログラムに参加したメリットをこう話すのは、エッジコンピューティングを活用したAI/IoTプラットフォーム「Actcast」を展開するIdein代表取締役の中村晃一さんです。同社は出資しているグローバル・ブレインからの紹介で、今回の企画に参加しました。

彼らが提供したのは画像認識技術を活用した体温測定器です。コロナ禍にあって、店舗入り口での検温は密集を避けるために必要不可欠な作業になりました。一方で、対応する店舗側には導入のコストや運用、そしてプライバシーへの配慮といったハードルが存在しています。また、この状況で一気に需要が高まりましたが、そもそも人を見分けて体温を検知する技術はそれなりに高度な計算処理が必要になるそうです。

そこでIdeinでは展開するプラットフォーム「Actcast」を活用し、安価なエッジデバイスを用いてAI解析が可能な体温測定器を、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)と共同開発していました。彼らのプラットフォームを使うことで仕組み自体を遠隔で操作できることから、多数の店舗への導入についても管理の面でメリットがあります。またプライバシーの問題についても、エッジ側で画像を破棄することで個人情報の漏洩リスクを減らすことが可能です。

画像クレジット:MUGENLABO Magazine編集部

中村さんは今回の共創プログラムに参加した反響のひとつとして「技術の可視化」を挙げられていました。

「IoTプラットフォームの使い方って分かりにくいものなんです。それを具体的な事例としてこういう使い方があるんだよと示してくれるのは非常に重要で、じゃあこういうことができるのだったらこれもできますかというケースを発信していくことが大切なんですね。AI関連の事業はやはりPoC(開発コンセプト)状態のものが多く、情報発信がしたくてもできない場合があります。そこを次のフェーズに進めて情報発信する機会を提供してもらうことで、会社に対する理解度、信用を上げることに役立ちます。また、実際の店舗に置いたことで得られる経験値も相当にありましたね」(Idein 中村さん)。

スタートアップとの協業に限らず、この形になるかならないか、こういったタイミングのソリューションをどうやって、ライトパーソンにマッチングさせるか。この鍵はやはり中村さんの体験談の通り、課題感を高いレベルで持ったコミュニティと、その人たちに分かりやすくショーケース化した状態で伝える仕組みが必要になるのではないでしょうか。

次回も引き続きau IKEBUKUROの支援プログラムに参加したスタートアップの話題をお届けします。ハードウェアを短期間でショーケース化したGREEN UTILITYの企画の裏側と、北海道を拠点に展開するAWLの共創ストーリーです。お楽しみに。(次回につづく)

「smash.」とは何者か:スマホで”作品”が生めないって誰が決めたーSHOWROOM 前田裕二氏 Vol.1

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM」などのエンターテインメント事業を展開するSHOWROOMは22日、KDDIと協力してスマートフォン視聴に特化したプロクオリティのバーティカルシアターアプリ「smash.」の配信を開始しました。オリジナルコンテンツの「Hey! Say! JUMP」が提供する…

写真左から:KDDIパーソナル事業本部 サービス統括本部 5G・xRサービス戦略部長、繁田光平氏、SHOWROOM代表取締役社長、前田裕二氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM」などのエンターテインメント事業を展開するSHOWROOMは22日、KDDIと協力してスマートフォン視聴に特化したプロクオリティのバーティカルシアターアプリ「smash.」の配信を開始しました。オリジナルコンテンツの「Hey! Say! JUMP」が提供する縦型フォーマットのミュージックビデオだけでなく、作品を直接つまんでシェアできる「PICK」機能を使ったインタラクティブな体験にも挑戦するなど、5G時代を代表するプラットフォームを目指しています。

この新たな「縦型コンテンツ」の新しい可能性追求すべくタッグを組んだのがKDDIとSHOWROOMです。両社は今年3月に業務資本提携を締結。KDDI Open Innovation Fund 3号から出資を含めた関係値を作ることで今回の共創事業は加速していきます。

大企業とスタートアップという共創関係はどのように築かれたのか、また、両社はサービスを通じてどのような世界観を作ろうとしているのか、キーマンとなるSHOWROOM創業者で代表取締役の前田裕二さん、そしてKDDI側でプロジェクトの推進を担った繁田光平さんのお二人にサービス公開までの裏側をお聞きします。インタビューの初回は前田さんからです(本文中の太字は質問はMUGENLABO Magazine編集部、回答は前田氏・敬称略)

5Gを体感する新メディア「smash.」

smash.

22日にバーティカルシアターアプリ「smash.」の提供が始まりました。第一弾のオリジナルコンテンツとして「Hey! Say! JUMP」のミュージックビデオに加えて作品も配信開始しています。まず、このsmash.というプラットフォームについて、どのような狙いがあるか、お話いただけますか

前田:僕ら最近「作品」っていう言葉をよく使ってるんです。

みなさんにちょっと想像していただきたいんですが、日々、スマートフォンでよく使っているサービスが様々あると思うんです。例えばYouTubeだったりLINEだったり、Instagram、Twitter。こういったプラットフォームで何か自分の心に突き刺さるような、自分の人生を変えるきっかけになるような作品があったかなと考えてみると、意外とすごく少ないんじゃないかなと。YouTubeから生まれた作品を挙げてくださいと言ってもちょっと難しい。なんでだろうなと。

こう考えたんです。例えば作品やアートってきっちり「額縁」に入ってるじゃないですか。額縁に入れられ、美術館に飾られると極論、真っ白なキャンバスに線を一本描いただけ、のようなシンプルな作品でも一気に「作品」としての重みを感じる。そういう視点で、「スマホの中に作品を展示するための額縁や美術館」が今まであったのかなって。作品は、作品が生まれてくるための場をきちんと作ってあげないことには、きっと生まれてこないだろうなと。プロクオリティの作品って例えば映画だったり、テレビの中にも勿論、誰かの人生を変えるようなすごい感動を与えるものって過去にも生まれてきたと思うんですけど、これをスマホ上で観たいと思ったんですね。

逆に「スマホ上で作品が生めないって誰が決めたんだろう」と僕らも思っていまして、それを全力で言いたい、反語的に、いや、生めると証明したいというのが、このsmash.の根底にある価値観なんです。

smash.のことを説明される時、前田さんはスクリーンサイズとコンテンツの変遷についてお話されています。改めて詳しく教えていただけますか

前田:これは、世の中の映像メディアの「ポジショニング」を社内で整理する時に、そして、smash.がこの4象限のうちどのポジションを取りに行くのかっていう戦略を説明する時によく使っている図です。縦軸が映像の作り手ですね。下にいくほどプロの方々で、上が素人。素人ってなんですかと言うと、みなさんも例えばInstagramで、今日のランチはどうだった、とか5秒ぐらいで動画を撮影して文字を入れてアップしたりすると思うんですが、あれが一番上に位置するいわゆる素人動画ですね。

動画市場におけるポジショニング

この「プロ or 素人」の縦軸に、もうひとつ重ねた横軸が「スクリーン」軸です。すなわち、これは映像の作り手が実際、どのスクリーンを意識してコンテンツを作っているのか、という観点です。この図ではこれがすごく重要で、歴史的にプロの方々は本図の右にあたる、16:9 の横スクリーンをめがけてテレビや映画のコンテンツをずっと作ってきた。

とある映画監督さんとの会話の中で、僕もすごくハッとしたのが、今までプロの映像の作り手として、この「スマホ向けの映像を作る」という発想が微塵もなかった、ということです。そもそも、スマホ向け作品を作ろうにも、その作品を載せる場所がない。メディアもない。プラットフォームもない。だから特に求められることもなかったし、リクエストを受けたことがないから考えたこともなかったと。

けど、考えてみると、今、みんなが一番可処分時間を使っているスクリーンは、テレビじゃなくてスマホである、というのは目を背けようのない現実であり。一方、今まで、プロの映像の作り手の方々は(四象限の)この右のスクリーン向けに作っていましたと。

ちなみにこの横軸の「スクリーン最適」という軸には、画角や質感や企画やキャストなど本当に様々な要素があるんですが、分かりやすくするために、中でも一番影響が大きそうな要素である「時間」に絞って考えています。

横スクリーンというのは元来、基本的に家の中だったり、映画館だったり、ちょっとチルして、ゆっくりして長い時間見る前提のある場所に置かれています。だから、そこに向けて作るコンテンツも時間軸がちょっと長めに設定してある。テレビで言うと30分から1時間ぐらい。映画でも2時間や2時間半ぐらい。横スクリーン型になればコンテンツの時間は長く、スマホになれば短くなる。そういう進化でした。

プロクリエイターの技巧を「スマホ世界」に流し込む

短尺動画のトレンドは古くは分散メディアのあたりから始まって、TikTokで爆発した感がありました。一方で時間についてもやや幅があるように思います。この辺りのベストプラクティクスはどうお考えでしょうか

前田:この右下から生まれたプロの映像コンテンツ、例えばテレビ番組のアーカイブなどはどんどんネット上にコピーされて、そもそもが著作権を無視しているのでその問題もありましたけど、それ以上に、それら映像はスマホで見るにはちょっと冗長だったんですよね。そこからYouTubeには5分から10分の動画をリズミカルに、ジャンプカット編集を入れてサクサクと小気味よい、リズム感のあるコンテンツにしていった。ヒカキンさんなど、人によっては逆にテレビ化して、20-30分の尺をとっているケースも直近では増えていますが、やはり基本は、スマホはLINEなどの通知もバンバン入ってきますし、移動中などに使っているケースも多いですから、短尺のほうが使い手にとって都合が良い。

だから今は5分でも長い、さらに若年層になればもっと短くなって、TikTokの登場後は15秒尺がスタンダードになってきている。smash.は、作品性や「人の心を動かす」ということを重んじるため15秒はさすがに難しいのですが、一番短い物は1、2分、長くても5分から10分までの時間尺でコンテンツを作っていきたいと思っています。これくらいのshort尺でも、十分deepな体験ができる。short but deepをスローガンに掲げてコンテンツ創出に向き合っています。

一方でプロの作品というのはまだまだ長い印象があります

前田:確かにおっしゃる通りです。ですが最近は、アニメの23分程度の尺に合わせるかのように、ドラマでも20分ほどのコンテンツが増えてきています。僕が今、Amazon Primeでハマっているドラマも、ちょうどそのくらいの尺です。もしかすると、コンテンツが長ければ長いほど、よほど脚本がよくない限りユーザーの離脱率が上がってしまう、というデータが観察されているのかもしれませんね。ユーザーからすると短い方が気楽に見られるのに、プロの作り手は長い物で伝えたいという、作り手と受け手のギャップがあらゆるところで生じている。

なので、才能のある一流クリエイターの方々を、僕らがどんどん巻き込んでいって、この才能の向け先を、テレビや映画からスマホの世界に振り向け直していって、プロのコンテンツをスマホに大量に流し込んでいく。この取り組みが、スマホ上における大きなコンテンツ革命を生むと確信しています。

「つまむ」ジェスチャーが完全に空いていた

ところでsmash.では動画をつまんで「PICK(ピック)」する、という新しい動画シェアの概念を提案されています

前田:まさに最初、ダブルタップで動画を切り取るというアイデアがあり、それでモック版で実装が進んでいたのですが、ここは異常に僕がこだわったところで、途中で「つまむ」に切り替えました。大きな理由としては、「ダブルタップする」というジェスチャーは、もうとっくに、YouTubeはじめ他の動画メディアで習慣化していた。僕自身も、ダブルタップは10秒早送り、という「手グセ」がついています。でもスマホで「つまむ」ってジェスチャーは、やったことがないし、まだ文化として存在しなかった。

この「つまんだ」時間だけ動画を切り取れて、自分のマイページにコレクションしたり、SNSにURLでシェアできたりする機能が「PICK」です。Hey! Say! JUMPはじめ、ジャニーズのコンテンツでもこの機能が解禁されています。是非注目してもらって、楽しんでいただきたい部分ですね。

詳しくはsmash.アプリの中の動画を見ながら、実際にPICKしてみて欲しいのですが、作り手側がPICKを促すようなコンテンツを、隠れミッキー的に入れ込んでいく、という遊びもあります。例えば、実はHey! Say! JUMPのミュージックビデオの中にも、いかにしてお客様、ファンの皆様にピックしてもらうか、という仕掛けが幾つも施されています。映像を何度見ても楽しめるように、「まだ見つけていない隠された楽しみが何かあるんじゃないか」と思ってもらえるように、監督やメンバーが本当に徹夜する勢いで演出を真剣に考えてくれて。

いかにファンの皆様のことを幸せにしたいか、笑顔にしたいかというプロ意識を感じた瞬間でした。

ユーザーが作る世界「じゃない」方

smash.は今後、2600本のコンテンツを来年3月末までに用意するとお聞きしています。ただ、ユーザーの手のひらの可処分時間には限りがあります。どのように差別化していかれますか

前田:TikTokって本当に世界一のサービスだなと思うんですが、そこに上がってくるコンテンツは、原則、素人が中心であり、プロの演者が挙げているコンテンツも、そこに制作や編集が入り込んでいるケースは少ない。むしろそれを入れない独特の質感が、TikTokの楽しさの源泉ですからね。

mixiもFacebookも、「日記を投稿する人」や「投稿数」をいかに増やすかが初期に重要だったという話がありますけど、ユーザーがただ友達の日記に書き込むだけではなく、ちゃんと自分で独立した投稿を投げるユーザーに成長してくれるかどうか、そこのユーザー体験の設計が大事だったわけですよね。

僕らもいずれ、ユーザー投稿を段階的に受け入れる戦略を張っていますが、まずはそれ以上に、動画のクオリティ担保に奔走・注力したい。「このコンテンツに数分の時間を使ってもなんか時間の無駄だったな……」というものは極力排除して、「ああ、良い3分だったな」と思えるものを出していきたいなと思っていて。これは結構な違いになると考えています。また、「良いコンテンツ」という価値観の尺度が、人によって当然ずれることも重要な観点なので、ユーザーの視聴特性に応じて、AIに機械学習させてレコメンドもしていきます。

コンテンツのバラエティについても質問させてください。今後、「縦型ならでは」のアイデアが出てくると思いますが、現時点で教えていただけるアイデアがあれば

前田:例えば、「インタラクティブドラマ」に挑戦したいと考えています。ユーザーの選択によって、物語が変わっていくようなものですね。今、実はNetflixとかでもこういったストーリー選択式のコンテンツは存在するのですが、若干まだ違和感がある。

これは理由があって、要因仮説の一つは「リモコン」だなと。つまり、見ている側が突然、選択肢を提示されても、今ソファに寄りかかってリモコンが手元に必ずしもあるわけではないわけですから、「あれ?リモコンどこだっけ」ってなった瞬間に冷める。でもスマホだったらいつでも親指は遊んでいて、何か入力を促されたら気軽にできます。TinderのSwipe Nightもこの方式のハイクオリティドラマをTinder内で展開して話題になりましたが、もしかしたらこの選択式という方式、「インタラクティブドラマ」という発想は、スマホ動画でこそ、うまく機能していくのかもしれません。

ただし、これもまだ本当にどう転ぶかわからない。

今は全てが「仮説」なので、早く実際にサービスをローンチして、市場に問うのが楽しみでなりません。そして、お客様に育ててもらいながら、サービスを丁寧にブラッシュアップしていって、日本だけでなくアジア、そして世界中を席巻するメディアとへと爆速で成長させていく目線です。日本発のバーティカルシネマ「smash.」、目指すは、世界です。

ありがとうございました。(次回につづく)

印刷で培った課題発見力と共創力「トッパンCVC」

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 企業の共創活動をリレー的にご紹介するコーナー、前回ご紹介したKDDIの次にご紹介するのが凸版印刷を中心とするトッパングループでスタートアップと共創事業を展開するトッパンCVCです。 トッパングループでは中長期的な経営戦略の一部として、「健康・ライフサイエンス」、「教育・文化交流」、「都市空間・モビリテ…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の共創活動をリレー的にご紹介するコーナー、前回ご紹介したKDDIの次にご紹介するのが凸版印刷を中心とするトッパングループでスタートアップと共創事業を展開するトッパンCVCです。

トッパングループでは中長期的な経営戦略の一部として、「健康・ライフサイエンス」、「教育・文化交流」、「都市空間・モビリティ」、「エネルギー・食料資源」という4つの成長事業領域におけるオープンイノベーションや少額出資、買収を通じた事業展開の加速を掲げられています。この中で、少額出資を手段としてスタートアップと連携し、事業開発までを手掛けるのがトッパンCVCのチームになります。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答はトッパンCVC担当の事業開発本部戦略投資センター所属の坂田卓也さん、吉田光志さん、草野一成さん)

活動概要について教えていただけますか

トッパン:世の中的にペーパーメディアの落ち込みが続いており、ビジネスモデルの変革が求められていました。私たち凸版印刷では、社会課題解決を起点に新事業開発を促進し、従来の「受注産業」「労働集約型産業」からの脱却を目指すべく、印刷産業の枠を超えた成長投資が必要と判断したのがきっかけです。

投資方針として具体的にどういった領域に注目されているのでしょうか

トッパン:主に事業シナジー、新事業開発等の戦略的な活用が狙いです。領域としては、トッパンの成長領域として中期計画にも掲げている、健康・ライフサイエンス、教育・文化交流、都市空間・モビリティ、エネルギー・食料資源を中心に投資していきます。ステージはシードからミドルまでで、実際に投資実行しているケースではアーリーステージが多いですね。

ーーーー少し話を補足しておくと、凸版印刷では長らく「紙」を中心とした事業を展開し、その印刷技術から例えば半導体のプリントであったり、液晶パネルやプラスチック形成などの印刷・加工技術が発達していった経緯がありました。また、印刷物を利用したマーケティングはデジタル化され、これらを総合した「印刷テクノロジー」を軸に事業の多角化を進めてきたそうです。

同社で特徴的なのが「受注」スタイルで、顧客の課題に合わせて解決する姿勢を長年続けた結果、同社の元には多くの「企業課題」が舞い込むようになり、それらを検討した結果、現在の中期計画にあるような注目領域ができた、というお話でした。ということで質問に戻ります。

トッパンCVCで協業を進めるメトロエンジン社/画像クレジット:メトロエンジン

トッパンCVCの投資として特徴がわかるケーススタディは

トッパン:現在、メトロエンジンと一緒にサービス開発をしています。今まさに彼らとサービスを開発中なので詳細はお伝えできませんが、彼らが持つ技術、強みを新市場に横展開するための市場探索から開発までをプロジェクト化して走っています。

メトロエンジンは主にホテルの空室価格を可視化して、リアルタイムに空室予約が管理できるサービスを展開されています。例えば凸版さんが持っている顧客ネットワークを活用すれば、彼らが持つ技術を他の業界で活用できる可能性も広がりますよね

トッパン:先にお話した通り、私たちは紙の事業を通じてこれまで多くの顧客の課題解決に向き合ってきました。こういった課題の数々にスタートアップの方々の技術、ソリューションをマッチングし、一緒に水平展開していけるのが強みです。

具体的に共創をしかけたい場合、どういった意思決定のプロセスになっているのでしょうか

トッパン:私たちはCVCという部署名ですが、実際は会社からの直接投資になります。目的は新事業創出のため、まずは協業案を両社でディスカッションするところから始まってます。ですので投資と言いつつも、事業部メンバーも参加した形で進めています。

なるほどまずは資本、ではなく具体的な提携を先に模索するスタイルですね

トッパン:そうですね、やはり最も注目する点は、協業案の魅力度(シナジーや市場インパクト)です。協業案が固まったら、その後スタートアップサイドにプレゼンテーションの場を作っていただき、デュー・デリジェンス(契約・バリュエーション)を実施します。その結果を踏まえて最終投資意思決定をします。また、スピード感をもった対応を可能にするため、一定金額内であれば本部内で出資検討が行える体制を整えました。

資料提供:トッパンCVC

協業したいスタートアップの方々はどこからコンタクトすればよいでしょうか

トッパン:ホームページにコンタクト窓口を用意していますので、そちらからご連絡をいただいています。スタートアップの新たな技術やサービスと、トッパングループの持つ企画力・技術力を掛け合わせることで、新しい社会的価値を創造することを目的として活動しています。コロナ禍においても積極的に活動しているため、ご関心をもっていただけたスタートアップからのお問い合わせをお待ちしております。今後、トッパンCVC独自のサイトも立ち上げ、CVCに関する情報を発信していく予定なので、そちらもぜひご覧いただければと思います。

ありがとうございました。

ということでトッパングループの投資部門「トッパンCVC」についてお届けしました。次回は新たなファンドを新設された三井不動産さんの取り組みにバトンをお渡ししてお送りします。

関連リンク:トッパン×VENTURES

共創が生み出した「スウィングバイIPO」とはなにか – ソラコム 玉川憲氏 Vol.1

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、この回はInternet of Things(IoT)プラットフォームを展開するソラコム創業者で、代表取締役の玉川憲氏をお迎えします。 2015年3月に創業したソラコムの、たった5年のスタートアップ・ストーリーには濃密なものがあり…

ソラコム代表取締役社長 兼 共同創業者の玉川憲氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、この回はInternet of Things(IoT)プラットフォームを展開するソラコム創業者で、代表取締役の玉川憲氏をお迎えします。

2015年3月に創業したソラコムの、たった5年のスタートアップ・ストーリーには濃密なものがあります。テック巨人出身者たちによる創業、鮮烈なデビューと垂直立ち上げ、瞬く間の大型買収。発行済み株式の過半数を取得したKDDIは、創業わずか2年の企業に数百億円という評価を付けた一方、その当時のソラコムの契約実績はわずかに8万回線のみ(買収当時は非公開)でした。

そこから3年。

ソラコムはKDDIとの絶妙なコラボレーションを成功させ、契約回線数を一気に200万回線にまで押し上げることに成功しています。大型契約となった日本瓦斯(ニチガス)ではLPガスのスマートメーター化の共同開発に成功し、もうひとつのヒットとなったソースネクストの翻訳機「ポケトーク」は今年2月時点で70万台を記録しました。共にソラコムが提供するIoT SIMの回線管理技術が組み込まれたものです。

2010年代の国内スタートアップシーンを代表する共創事例の裏側には、どのような意思決定があったのでしょうか。玉川さんにまず、先日公表された「スウィングバイ・IPO」の背景からお伺いすることにしました。

買収を成功に導いた「余白」部分

2017年の買収時、評価額は大型ながら過半数の取得に留めることで「余白」を残しました。成長期待の手法としてはアーンアウトなど他の手法もありますが、この余白の設計が後々の成長に寄与した部分は大きかったのではないでしょうか

玉川:アーリーステージのテックスタートアップにおいては、買収されたチームがモチベーションを失うことなくビジョンに邁進することをどう担保できるかっていうのがやはり重要だと思うのです。結果論ですが、この余白の設計がやはり上手でした。

あと信頼関係も大きいですね。髙橋(誠氏・KDDI代表取締役社長)さんはもちろんですが、前田(大輔氏・KDDI技術企画本部副本部長)さんや新居(眞吾氏・ロイヤリティマーケティング代表取締役副社長)さん、松野(茂樹氏・KDDI経営戦略本部副本部長)さんなどの担当いただいたみなさんとの信頼関係があって、チームとしてはやっぱりこう責任を果たしたい、成功させたいっていう思いが凄く、そういったものが集結した感じですかね。

買収後にある程度の成長が見えた。このタイミングでの「スウィングバイ・IPO」宣言はなぜ必要でしたか

玉川:まず「スウィングバイ・IPO」宣言の背景をお話しますね。ソラコムとしてKDDIに買収された時に5年分ぐらいの成長ラインを描いていたんですが、それが見えてきた結果、その後どうなるかっていうとやっぱり利益に走るんですね。しっかり投資してきた結果の成長ですから、それが見えたのであればそこそこ投資は絞って、つまり人もそこまで無理やり突っ込まないで利益を上げていこうってなります。

そこで髙橋さんやみなさんに相談したんです。これはもっと突っ込んだらもっといけるんじゃないですか、と。ソラコムが本当に世界でも使われたらもう一桁違うレンジまでいけるじゃないですか、ソレをやってみませんかっていう話をしたんですね。

視座をここで上げる

玉川:確かに私自身、まだ面白そうだなってやっぱり分かって。(ここからIPOをマイルストーンに置くと)投資に対する考え方とか事業計画の作り方、何人採用するのか・・などなど、その一歩先の未来を考えるようになるじゃないですか。グローバルなプラットフォームで、日本企業を含むグローバルなお客さんにも使っていただきたいですし。

そう考えるとあくまで成長のひとつの手段としてですが、IPOという手段が浮かんでくるんです。

特に海外での展開を考えると、各インダストリーのトップ・プレイヤーと一緒に中長期の取り組みができれば、3〜4年後に全然違う世界観が見えてくる。だったら資本政策も含めて、事業会社とも密にやれる仕組みが作りたいよねという話になったんです。もっとニュートラルでオープンなプラットフォームとして色々な会社に頼ってもらえる。

わざわざストラクチャを変えることの意味がしっかり理解されないと誤解を生むケースもありますよね

玉川:そうですね、髙橋さんやKDDIのチームのみなさんに仰っていただいたのが、これをポジティブにマーケットに捉えて欲しいねと。実際、KDDIに入ったことでソラコムは8万回線から200万回線まで伸びて「じゃあIPOを検討します」だと、あれ?何か悪くなったのかな、と詮索を生む可能性もありますからね。だから、さらに成長していくために、スウィングバイ・IPOというメッセージを考えて、積極的に出そうとなったんです。

実はこの「スウィングバイ(注: 宇宙用語で、惑星探査機が遠くまで行く時に惑星の重力を使って加速する方法)」という言葉、元々は2017年にKDDIに買収された時にチームの中で決めた標語なんです。KDDIに入るけど、KDDIの力をお借りして、もっと飛んで行こうよと。

で今回、何か良い考えある?って髙橋さんに言われて。2017年の標語にIPOをつけると良いんじゃないかと思いました。ただ、スウィングした後、これ戻ってくるんだよねと釘を刺されましたけどね(笑。

少し話を変えて当時、相当に話題となった買収時の企業評価について。結果的に当時の契約数が8万回線で、当然ながら相当な「期待値分」が純資産に乗っかったわけです。ここにはどういう意思決定がありましたか

玉川:ソラコムを発表したのは5年前のイベント(日経BP主催 ITproEXPO 2015)ですが、大きく注目されたものの、実際には売れたSIMの枚数はたったの223枚だったんです。

確か賞レース関連総ナメしてましたよね

玉川:はい(笑。確かに外向きには垂直立ち上げに成功したようにお話していたんですが、実態はそんな感じでした。ただ、時間をかければ絶対うまくいくと、確信がありました。でも、IoTの機器の中にSIMを埋め込んでもらうって凄い時間軸ですからね。時間は掛かるというのもあって一緒にお付き合いいただけるパートナーを探さなければいけませんから、その当時からKDDIさんにもお話させていただいていました。

最終的になぜKDDIと共創すると決めたのですか

玉川:何人かキーマンがいらっしゃるんですが、やっぱり髙橋さんはインパクトがありました。髙橋さんと初めてお会いしたときに一言目が「面白いですね」だったんですね。で、髙橋さん天才ですから、もしかしたらぱっと話をした瞬間に全部理解されたのかもしれないんですが、まあ、普通に考えると難しいですよね。

でも、この一瞬だけでソラコムが本当にやってることを「面白い」と言っていただけた。

それとソラコムの買収はKDDIにとってもユニークなケースだったと思うんです。色々な買収をやられていた中で、アーリーステージかつテックスタートアップを買収するっていうのは多分、ほとんどやっていなかったんじゃないでしょうか。(こういう前例が少ないケースで)買収した会社をどうやって利するかではなく、どうやって成長させるかを考えようという明確な方針を打ち出していただいたんですね。

で、僕らは「その船だったら乗れる」と強く思いました。ただ髙橋さんにはもう一つ、KDDIが後ろから押すと凄い圧力だからそこは自分たちで制御してね、とも言われました(笑。

スタートアップによっては押されて前に倒れて潰れちゃうケースもありますからね

玉川:KDDIにはここに至るまでの(共創)活動で、ベストプラクティスなノウハウが溜まっていたんじゃないかなと思うんですよね。集大成的にやるべきじゃないことはやらないし。結局は自分で考えて自分で走ってねと。助けてと言えばヘルプするし、ヘルプって言わなかったらしないよ、っていう方針だったと思ってます。一方、スタートアップを買収するっていうのは例えば「減損リスク」みたいなのもあるわけで、一緒にこういうハードルを超えていかなきゃいけない。

我々としては信頼関係があって託された思いというか、責任をしっかり果たさなきゃと思ってました。「スウィングバイ・IPO」というのは、この3年でクリアできたという意味での次のステップなんでしょうね。(次回につづく)