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シリーズ:リテール最前線

シリーズ:リテール最前線

コロナ禍において一気に成長角度が上がった領域、それがECだ。非接触を求められるなか、これまで来店が当たり前だった飲食店までもがデリバリー方法をオンライン化しなければならなかった。一方、小売流通に関するテクノロジーはサプライチェーンの観点からも幅広い。シリーズでその最前線となる話題を追う

シリーズ:リテール最前線の話題

Amazonの「手のひら」Key戦略:あらゆるものをアンロック(1/2)

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ピックアップ:Amazon sees broad audience for its palm recognition tech ニュースサマリ:Amazonは9月29日、シアトルにある2つのAmazon Goストアで「Amazon One」という新しい手のひら認識技術を導入することを発表した。Amazon Oneは手のひらをキーとして、支払い、ポイントカードの提示など本人確認を有する場面を高速で便…

Imaeg Credit:Amazon One

ピックアップ:Amazon sees broad audience for its palm recognition tech

ニュースサマリ:Amazonは9月29日、シアトルにある2つのAmazon Goストアで「Amazon One」という新しい手のひら認識技術を導入することを発表した。Amazon Oneは手のひらをキーとして、支払い、ポイントカードの提示など本人確認を有する場面を高速で便利にする非接触型の認証デバイスである。

話題のポイント:AmazonはすでにAmazon Goで店舗での決済レスサービスを2018年から展開しています。さらに2020年3月には「Just  Walk Out」としてAmazon Goで使用されている決済レスに必要なカメラ、マイクなどのセンサーからAI、導入支援までのシステムを販売することを発表しています。

スマホだけを持って入店し、商品を取って帰るだけ。そんな体験を実現しているAmazonが今回発表したのが手の生体情報と決済情報を結びつける「Amazon One」です。確かに一度登録が完了すればAmazon Goにスマホすら持っていく必要すらなくなります。一方、人そのものが「クレジットと結ばれる」進化を遂げたこの仕組みが、果たして「Just Walk Out」を補完するだけの存在なのでしょうか。

実はAmazon Oneは小売だけをターゲットにしているわけではありません。「本人認証」に利便性と安心を与え、必要なほぼ全ての局面において最良の選択肢になろうとしています。コンピュータビジョンに対するAIの貢献もあって、顔認証はスマホに導入されるほどに普及し始めました。この流れはAmazon Goに代表するように人そのものとデジタルウォレットを結びつけます。しかし、これは人を不安にさせる原因となります。(次につづく)

Amazonも注目するトレンド市場「Luxury Commerce」ーー1.4兆ドルの贅沢市場を狙え(2/2)

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※本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載。 (前回からのつづき)Amazonがラグジュアリー・コマース市場に目を向けた背景には、他社小売ブランドとの対立構造が見え隠れします。 Luxury Storeの立ち上げは、Amazonがハイエンド・ファッション市場に参入しようとした最新の試みです。一方、従来のAmazonは大量の衣料品を販売していま…

Image Credit:Amazon

※本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載。

(前回からのつづき)Amazonがラグジュアリー・コマース市場に目を向けた背景には、他社小売ブランドとの対立構造が見え隠れします。

Luxury Storeの立ち上げは、Amazonがハイエンド・ファッション市場に参入しようとした最新の試みです。一方、従来のAmazonは大量の衣料品を販売していますが、これらの商品の大半がファストファッション商品です。その理由として、Amazon独自の購買データ搾取や類似商品の展開に対し、高級ブランドが批判して彼らがマーケットプレイスに参加しなかったためです。例えば、Nikeは2019年、Amazonが供給できる以上に顧客との「より直接的な関係」を望むとして、Amazonを通じた全ての直接商品販売を停止しました。

この点、Luxury Storeはこうしたブランド側の不満に対処するための試みのように見えます。Amazonはブランド招致をした上で、これらブランドを敵に回すような動きを早々にはしないはずです。

2020年は特に感染症拡大という大義名分ができました。Amazonにとってはソーシャル・ディスタンスによって実店舗経営が苦しいプレイヤーを同社マーケットプレイスに引き込むには好機と言えます。響きは悪いですが、ラグジュアリー・コマース市場への拡大展開タイミングとしては、数年に一度のチャンスでもあるのです。

Amazonとしてはこれを機に、コピーの疑いや嫌悪を持たれていた小売ブランドと再度コミュニケーションを図りたいはずです。一方、ブランド側からすればデータを取られ、類似商品を低価格でAmazonに展開されるという、これまでの二の舞を繰り返すリスクもゼロではなく、難しい舵取りを迫られることになりそうです。

本稿は次世代コンピューティング時代のコミュニケーションデザイン・カンパニー「.HUMANS」代表取締役、福家隆氏が手掛ける「 THE .HUMANS MAGAZINE」からの要約転載。Twitterアカウントは@takashifuke。同氏はBRIDGEにて長年コラムニストとして活動し、2020年に.HUMANS社を創業した

Amazonも注目するトレンド市場「Luxury Commerce」ーー1.4兆ドルの贅沢市場を狙え(1/2)

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※本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載。 新型コロナの影響で、世界的に消費が落ち込んでいます。なかでも贅沢品を扱う「ラグジュアリー・コマース」市場の影響は計り知れないでしょう。 ラグジュアリー・コマース市場は「車」「ホスピタリティー(旅行や宿泊など)」「個人向け高級品」の3つが、80%の規模を占めます。米コンサルティング会社のBain &…

Image Credit:Tamara Bellis

※本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載。

新型コロナの影響で、世界的に消費が落ち込んでいます。なかでも贅沢品を扱う「ラグジュアリー・コマース」市場の影響は計り知れないでしょう。

ラグジュアリー・コマース市場は「車」「ホスピタリティー(旅行や宿泊など)」「個人向け高級品」の3つが、80%の規模を占めます。米コンサルティング会社のBain & Companyによると、2018年の世界市場規模は1.2兆ユーロ(約1.39兆ドル)で、年間成長率は5%ほど。ちなみに同年の高級車売上は4,950万ユーロ、ホスピタリティーは5%の成長、グルメは6%、豪華クルーズ体験は7%増だったそうです。加えてBusiness of Fashionの記事では、2019年の個人向け高級品市場規模を2,810億ユーロと試算しています。これは2000年の1,160億ユーロから倍以上の規模へと成長しています。

これが感染症拡大で一変しました。

The Wall Street Journalが伝える2020年第2四半期の車の販売台数は、前年比で34%落ちという大幅下落です。先ほど紹介したBusiness of Fashionの記事では2020年第1四半期の高級品売上も25〜30%減少するとしていますから、単価の高い高級車の売上も通常の車と同等に減っていると仮定すれば、ラグジュアリー・コマース市場の下落は全体で20%台を下回ることはないでしょう。結構な落ち込みです。

このように市場の勢いが衰えている今、Amazonが市場参入を果たしました。

9月15日、同社はAmazon Prime会員向けの招待制ECサービス「Luxury Stores」を開始したのです。Oscar de la Rentaの2020年秋冬ブランド商品の扱いからサービス展開を開始し、今後はRoland MouretやLa Perlaのようなブランドや新進気鋭のデザイナーブランドが追加される予定です。

Amazonらしい特徴が、買う前に高級品を体験できるAR機能「View in 360」です。選択した商品を360度フル回転させて見ることができ、自分に合ったものを見極めることができます。もし自分のサイズに合わないものを購入した場合は、30日以内であればほとんどの商品を対象に返品して全額返金することができるそうです。

今回、Amazonがコンセプトとしたのが「Store within Store」です。これは利用ブランド企業が在庫管理・品揃え・価格・顧客発見をよりデータ・ドリブンにコントロールできるプラットフォーム思考を指します。さらに、先述したAR機能を実装させることで、在宅でも顧客体験を最大化できるようにさせます。まさに川上から川下までを抑えたラグジュアリー体験をオンラインで実現させよう、としているのです。後半ではAmazonの思惑についてまとめます。(次につづく)

本稿は次世代コンピューティング時代のコミュニケーションデザイン・カンパニー「.HUMANS」代表取締役、福家隆氏が手掛ける「 THE .HUMANS MAGAZINE」からの要約転載。Twitterアカウントは@takashifuke。同氏はBRIDGEにて長年コラムニストとして活動し、2020年に.HUMANS社を創業した

レキピオがピボット、注文から30分以内に届けてくれるデジタルコンビニ「QuickGet」を都内で開始——1.7億円の調達も

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これまでに2度、BRIDGE でも献立提案 AI アプリを提供するスタートアップとして紹介してきたレキピオが事業を大幅ピボットし、資金調達を明らかにした。 レキピオは16日、プレシリーズ A ラウンドで1.7億円の調達を発表した。このラウンドに参加したのは、UB Ventures、マネックスベンチャーズ、サイバーエージェント・キャピタル、FGN ABBALab、F Ventures、個人投資家の赤…

「QuickGet」
Image credit: Recipio

これまでに2度、BRIDGE でも献立提案 AI アプリを提供するスタートアップとして紹介してきたレキピオが事業を大幅ピボットし、資金調達を明らかにした。

レキピオは16日、プレシリーズ A ラウンドで1.7億円の調達を発表した。このラウンドに参加したのは、UB Ventures、マネックスベンチャーズ、サイバーエージェント・キャピタル、FGN ABBALab、F Ventures、個人投資家の赤坂優氏、中川綾太郎氏、吉田浩一郎氏。レキピオにとっては、いずれもシードラウンドである、2018年10月の約1,000万円、2019年1月の4,200万円の調達に続くものだ。UB Ventures、サイバーエージェント・キャピタル(CAC)、F Ventures は過去ラウンドに続くフォローオン。

中華料理の名店「青山一品」の弁当も安価で購入できる。
Image credit: Recipio

また、レキピオは同日、デジタルコンビニ事業「QuickGetiOS / Android )」を正式ローンチした。東京の六本木や渋谷を中心に、モバイルアプリからのオーダーを受けて、一般的なコンビニが取り扱っているような、あらゆる商品を30分以内にデリバリする。スーパーや飲食店に代わり配達のみを代行する各種サービスなどと異なり、レキピオ自体が商品を仕入れているため、配送手数料を含めても市中のコンビニと変わらないくらい商品価格がリーズナブルなのが特徴。同社では今後、エリアの拡大を図る

QuickGet はβ版を2019年11月にリリース。都心部であってもコンビニが近くに無いエリアに住む人、高層階で忙しく仕事していてランチに出かけるのが億劫な人、また、新型コロナウイルスの感染拡大により自宅勤務やテレワークを余儀なくされた人などを中心に好評を博してきた。取扱商品は食料品や雑貨品をはじめ1,000点以上。レキピオは酒販免許を持っているため酒も頼める。注文者の年齢が確認できることを条件に、タバコも販売店での購入代行という形で届けてもらうことが可能だ。

市中のコンビニ店舗は全国に55,000軒超。東京都内だけで約7,300店舗ある。都内では、1店舗あたり約30万平方メートル(≒ 一辺550メートルで囲まれる四方)に存在する平均2,000人の消費者を相手にしている計算だ。全国的にならせば、1店舗あたり1,000人のお客を相手に、客単価600円程度を毎日売り上げるというのが、標準的なモデルである。QuickGet では配達をすることにより、商圏を拠点あたり半径3キロメートル程度にまで拡大することができる。単純ざっくり計算で、一拠点の商圏は従来コンビニの約90倍(≒  π × 3,000^2 / 550^2 )。この発想はカクヤスの商圏設定のコンセプトにも近いかもしれない。

<参考文献>

レキピオが QuickGet のベンチマークとしているのは、アメリカの goPuff だ。全米500都市でデジタルコンビニ事業を展開数 goPuff は、長らくステルスで事業を展開してきたため、同社の将来戦略や詳細については明らかになっていないが、配送手数料や都扱商品数などについても、QuickGet は多くのことについて goPuff を参考にしているとみられる。そんな goPuff は昨年8月にソフトバンク・ビジョン・ファンドから7億5,000万米ドルを調達、時価総額は最大で28億米ドルに上ることが報じられた

オンデマンド配達スタートアップ DoorDash も今年初めから全米1,800店舗のコンビニと提携したデリバリサービスを開始、先月にはデジタルコンビニ事業のローンチを発表し、全米8都市でサービスを開始した

2017年3月、SXSW でオースティンの街を歩いていた goPuff 3人娘。
Image credit: Masaru Ikeda

レキピオは商品を主に問屋から仕入れていて、メーカーとの取引はまだ無いとのことだが、以前、無人コンビニ「600」を取り上げた拙稿に書いたのと同様、商品を消費者に直接届けられることで、市中の小売チャネルでの POS などでは得られない詳細な購買データ、メーカーにとってはマーチャンダイジングやテストマーケティングの可能性が大きく広がる。自前の配送拠点から商品を届けるため、先般、「Chompy」の記事で書いたようなロジスティクスの最適化も可能だ。

<関連記事>

筆者の自宅やオフィスはサービスエリア外だったので、レキピオのオフィスで「QuickGet」を試させてもらった。注文から20分ほどで頼んだアイスクリームが届いた。
Image credit: Masaru Ikeda

筆者は数ヶ月前、脚をケガしてしまい、一時期歩行に困難を伴った。ネットスーパーで商品を届けてもらうことを試みたが、コロナ禍で外出をためらった消費者からの注文が殺到していた時期で、どの社のサービスも注文から商品を届けられるまで最短で1週間程度を要するという状態が続いた。フードデリバリもいくつか試したが、飲食店への代金に加え一対一で届けてもらう配送料が重畳され割高になるし、1日3食 UberEats というのも気が乗らない。QuickGet が数ヶ月前にあってほしかったというのが率直な印象だ。

レキピオは2017年9月の設立(当時の社名は TADAGENIC)。同社代表で同志社大学学生だった平塚登馬氏を筆頭に、京大・大阪など関西の学生を中心に始まったスタートアップだ。2017年のサイバーエージェント・ベンチャーズ(当時)による学生起業家向け選抜イベント「GATE」では、インフルエンサーマーケティングアプリ「TADAGENIC」で優勝。リクルートホールテディングスのアクセラレータ「TECH LAB PAAK」(2018年終了)の第11期参加を通じてサービスをピボットし、2018年に Recipio をローンチしていた。

米国で本格ラーメンEC「Ramen Hero」ーー売上は昨年比3倍、新体験「Zoomen」とは(後編)

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Zoom + Ramen = Zoomen !? (前回からの続き)長谷川氏曰く、ラーメンを楽しく層は大きく分けて2種類いるのだそうだ。一人で楽しむ層と、誰かと一緒に食べるグループ顧客層である。 長谷川氏:米国では日本のように一人でふらっとラーメン屋に立ち寄ることはハードルが高い印象です。たとえば、会社帰りにラーメンを食べるという習慣が文化的に合いません。誰かと一緒に楽しむことがラーメンを外食とし…

画像提供:Ramen Hero

Zoom + Ramen = Zoomen !?

(前回からの続き)長谷川氏曰く、ラーメンを楽しく層は大きく分けて2種類いるのだそうだ。一人で楽しむ層と、誰かと一緒に食べるグループ顧客層である。

長谷川氏:米国では日本のように一人でふらっとラーメン屋に立ち寄ることはハードルが高い印象です。たとえば、会社帰りにラーメンを食べるという習慣が文化的に合いません。誰かと一緒に楽しむことがラーメンを外食として楽しむ前提にあります。ボッチメシということに対しての抵抗が高いのです。

そこにコロナが直撃し、在宅で食事をする生活習慣が一般化したんです。Ramen Heroが一人でラーメンを楽しみたい層に刺さり、これまで在宅でラーメン体験をしたことがなかった人との接点が生まれ、顧客数が伸びています。

なにより、家族やカップル、友達との共有体験での共有体験としてのラーメンを楽しむ提供価値が、過去半年ほどの売上分析から認識されたという。一人で食べるのではなく、誰かと一緒に食べることで体験が強化される。誰かと一緒に食べた結果、「予想以上に美味しかった」といった体験が実現される。こうした体験ニーズが如実に数値で出てきたとのこと。

一例として「Zoomen」を挙げてくれた。Instagramのハッシュタグに投稿されたらしいが、遠隔に住む恋人同士が、Zoom越しにRamen Heroを楽しむ共有体験が発信されたとのこと。

美味しいと感じる要素の2〜3割は食品そのものの味であるという。残りは視覚や聴覚が占める。これまでRamen Heroはハイクオリティを重視して、2〜3割の味を極めてきた。残りを強化するフェーズで鍵となるのが「共有体験」なのだ。長谷川氏は次のように総括する。

長谷川氏:UberやAirbnbが登場した際、誰もそんなモノは使わないだろうと言われました。しかし、今となっては誰もそれらがなかった頃には戻れないほどに生活に定着しています。同じくグルメフードも、以前は外で食べるものという認識が大半だったと思いますが、今後は自宅でも食べるものという認識に変わってくるはずです。

コロナの影響で外食産業がひどく落ち込んでいますが、レストランでの食事体験は確実に人々が求めるもので、いずれは戻ってくるでしょう。同時に、コロナ禍で浸透した自宅でグルメを楽しむという体験も、今後当たり前の消費行動として定着していくと踏んでいます。Specialty Foodの自宅体験は不可逆的なものとして市場に浸透し、成長市場になるはずです。

米国No.1の「日本食EC」を目指して

画像提供:Ramen Hero

最後にRamen Heroが目指すビジョンについて尋ねたところ、その答えとして「日本食のプラットフォーム」という回答を得た。真意はなんなのだろうか。

長谷川氏:基本的に食に関する事業は、多額の初期投資が必要となります。受注から配送までの一連の業務プロセス、フルフィルメントを0から立ち上げるのは至難です。特に食となれば、特別な知識や倉庫管理能力が問われます。専門家と協業する目利きをする必要も出てきます。

この点、Ramen Heroはハワイとアラスカ州を除いた全米48州への販路を開拓済みです。その上で、私たちが持つ食の販路に相乗りしたい事業者が多くいることを確認しました。すでに何社かのラーメンブランド商品を卸したいというお話があり、計画を動かそうと思っています。

高品質な日本食を届けたい事業者と一緒に市場を盛り上げるため、私たちの持つ販路を共有し、インフラとして使ってもらう「日本食のプラットフォーム」を戦略ビジョンとして掲げています。まさに日本食版のAmazonマーケットプレイスのように、Ramen Heroの販路に相乗りして食品展開できる考えです。

確かに多くの日系食品企業が北米に参入しているが、彼らはクローズドに販路を開拓していて他社が乗り込む余地はない。そこでRamen Heroは日本企業が独自に開拓してきた食販路をあえてオープンにし、掲げる「ハイクオリティな日本食」を提供する事業者が参加できるようにしようというのだ。

この考えに至ったきっかけはRamen Heroが運営するFacebook Groupであったという。新作ラーメンの写真を載せてフィードバックを求めた際、ラーメンではなく赤い有田焼の日本製丼に対して、「その丼かっこいいね、欲しい!」というコメントがあったそうだ。ただ、教えたECサイトは日本語仕様であり、米国まで国際輸送で購入するのは難しい。

そこで彼は自社ラーメンでなく、関連グッズ、広くは美味しい他店のラーメンに対しても同じく高いニーズがあると仮説を立てた。もちろんRamen Heroのコアファンであるため、自社ラーメンへの要望が著しく高いのは言うまでもないが、元々日本食全般を好む人が多くいるため、顧客のニーズ全般を取り込めば面白いのではないかとアイデアに至ったのだ。今後は食器や調味料などの周辺商材も売る予定という話だった。

画像提供:Ramen Hero

社名に「Ramen」とあることから、ラーメンECの専門業社に思えるがそこだけで終わらない。ラーメンからはじめて、高品質な日本食ブランドのプラットフォームにまでサービス昇華を狙っていく戦略を描いている。

一時、シリコンバレーでは「Distruption – 破壊」の言葉が踊り、大手企業等が寡占する市場構造を変えることが正義であるとされていた。しかし、昨今では「Empowerment – 自信・力を与えること」がトレンドワードとして意識されている。

あらゆる業界でSaaS化が進み、サービスがありふれてきた既存市場では競合優位性を磨き上げるのではなく、業者同士を束ねて協力して盛り上げていく志向が求められるようになった。Ramen Heroもこの流れに乗り、米国市場に興味のある食ブランドを誘致し、自らのフルフィルメントを自社だけで抱えるだけでなく、共有することで一緒に市場開拓する路線を採ろうとしている。

それもこれも、長谷川氏が掲げるミッション「顧客にとってのDestination(行き先)になる」に帰結する。全米への販路を拓き、オーダーも十分にさばけるようになった。全ては顧客のために、ラーメンだけでは終わらない一大戦略が動き出す算段だ。

最後に余談を話そう。サンフランシスコの一緒のシェアハウスに筆者が長谷川氏と住んでいた時(Anyplaceの内藤氏もいた)、同氏が日本の香川県へ急に飛んだのがたしか5年ほど前だった。お客として住み込んでいた筆者が、主人不在のハウスを付きっきりで面倒を見ており、帰ってきてから突然ラーメン学校へ行っていた真相を聞いて驚いたのを昨日のことのように憶えている。

その時は何をしたいのかわからなった。

当時はハウスメンバー誰もが起業を志していたが、ラーメンというドオフライン事業はリスクが大きすぎる印象で、まず嫌厭するテーマだった。シリコンバレー界隈にいた周りの人たちも同じ感想だっただろう。

月日は経ち、厳しい海外市場で生き残り、そして成長しているRamen Heroの記事を書いているのは感慨深い。大きな課題が明確にあるのが米国のラーメン市場であるが、なにより自分が心底熱心に、そして好きが続くモノであれば結果が形となることを学んだ。たとえ起業の教科書に反するようなテーマでも、愚直に続ければ形となる好例がRamen Heroだ。これこそが起業の本質なのかもしれない、と。

5年・10年後には日本食ブランドはどうなっているのか。想像するだけで心が躍る。

米国で本格ラーメンEC「Ramen Hero」ーー 日本人起業家が目指す「世界的ブランド」確立への道(前編)

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鳴り物入りで登場したラーメン屋が、今やラーメンの域を超えてまでの成長を見せようとしている。 日本人起業家の長谷川 浩之氏が立ち上げた「Ramen Hero」は誰でも10分で本格ラーメンを作って楽しめる料理キットを販売するEコマース企業。2017年から米国カリフォルニア州で販売を開始し、現在は48州展開。2019年の注文数は6,000件超、売上は前年度比283%成長した。 いわゆる「ラーメン・スター…

Ramen Hero創業者、長谷川浩之氏

鳴り物入りで登場したラーメン屋が、今やラーメンの域を超えてまでの成長を見せようとしている。

日本人起業家の長谷川 浩之氏が立ち上げた「Ramen Hero」は誰でも10分で本格ラーメンを作って楽しめる料理キットを販売するEコマース企業。2017年から米国カリフォルニア州で販売を開始し、現在は48州展開。2019年の注文数は6,000件超、売上は前年度比283%成長した。

いわゆる「ラーメン・スタートアップ」がRamen Heroだ。誰もが一見すると、スタートアップが避けるべきオフラインコストのかかる事業だと感じる。ただ、市場機会は明るい。近年は毎年17%前後でラーメン店舗数が増えているという米国。

市場規模は42億ドルほどだが、同市場は未だ旧態依然としている。多くの店が業務用のスープを薄めて提供するスタイルを採用しており、どの店も同じ味になっていたり、見様見真似でラーメンとは呼べないようなものを出していて、クオリティの高い店鋪は全米の中でもごくわずかだ。日本のラーメンチェーンがニューヨークやロサンゼルスなど一部の大都市で店舗展開をし、本格ラーメンを提供するケースもあるが、提供地域は限定的で、EC化も進んでいない。

スタートアップの成長志向の考えが行き渡っていないため、イノベーションが起こっていないのが現状と言える。そのため十分に市場寡占できる可能性を秘めるのがラーメン市場であり、ここに目をつけたのが長谷川氏である。

本記事では長谷川氏への取材をもとに、Ramen Heroのビジネスを紐解いていきたい。

Ramen Heroの提供価値は「ハイクオリティ + 手軽さ」

画像提供:Ramen Hero

元々Ramen Heroは、真の日本ラーメン店へアクセスできない、「アクセシビリティ」の課題解決を目指し立ち上がった。アクセシビリティには2種類存在する。1つは文字通り、店舗へアクセスできない問題だ。

長谷川氏:米国市場では、味千ラーメンや一風堂といった大規模チェーン、最近ではAFURIや凪といった東京で人気を博し、海外にも出店を進めているグループが展開しつつあります。また、都内でラーメンファンに人気の個人店が国内展開もほどほどに、米国に出店するケースなども少しずつ出てきました。

しかしラーメン店のほとんどが都市部にあります。特にニューヨークが激戦区です。ただ、店舗数は限られ、行列が長くあり、時間をかけないとラーメンを楽しめません。そもそも、米国人口50%超の1.75億人が住む郊外では本格ラーメンを楽しめる機会はほとんどありません。また、仮に店舗が近くにあっても、忙しかったり、小さい子供がいる家族層はなかなか足を運べません。

もう1つのアクセシビリティはスキルだ。続けて同氏は次のように語る。

長谷川氏:米国のラーメン店では専門店はごく一部。日本食やアジア系のレストランを中心にラーメンが提供されているのが大半です。ですが多くの場合、ラーメン作りの経験がある人が厨房にはいません。往々にしてベンダーが作っている濃縮スープなどのラーメン商材を使って提供されています。

家賃や回転率など、様々な事情から構造的にそうせざるを得なくなっているのですが、種類が限られているためどの店舗へ行ってもだいたい似たような味が提供されます。色々と食べ歩いてみましたが、日本で食べられるような本格的なラーメンを楽しめる場所がほとんどありませんでした。

そこでRamen Heroはソリューションとして、高品質、かつ手軽に調理できるラーメンをEC販売することにした。ラーメンの調理経験がなくとも全米のどこに住んでいても本格ラーメンを気軽に楽める機会を提供し、新たなアクセシビリティを生み出しているのだ。

画像提供:Ramen Hero

長谷川氏がRamen Heroを説明する際、すぐに理解してもらうために「ラーメン・ミールキット」のフレーズを用いていた。しかし本質はそこにはない。確かに業態はミールキットであるが、提供価値は違うところにある。まず、従来のミールキットに関して次のように語る。

長谷川氏:米国で展開されるミールキットサービスは一通り試しました。BlueApronのように食材とレシピが一緒に届くもの。Freshlyのようにパッケージ化されてレンジに入れればすぐに出来上がるものまであります。どちらも大きく成長しています。ただ、味は特別美味しいというわけではありません。

そもそもミールキットの配達が大変である問題もあるため、完成度はまだまだこれだと感じたのが正直なところです。まだ発展途上であり、これからに期待といったところなので逆に言えば、味のレベルがそこそこのものであっても事業として成立し、上場できるほど寛容で巨大な市場があります。

それではなぜ市場は寛容性を保っているのかと考えました。答えとして、ミールキットの本質的な提供価値に行き着きました。それは「面倒さの代行」です。買い物に行く面倒や、レシピを考える面倒を解決するのが従来のミールキットであるため、味は二の次。そのため、例え食品自体の完成度がそこまで高くなくても支持されているのです。

従来のミールキット事業者は、様々な競合を迎える必要がある。生鮮食材配達の「Instacart」や「GoodEggs」のようなプレイヤーや、食品配達の「UberEats」「DoorDash」、在宅が増えて自炊する機会が増えれば、自前の料理とも競合することになる。「面倒さの代行」の代わりの手段はいくらでも出てくるレッドオーシャン市場だ。

一方、Ramen Heroの「高品質な食品へのアクセシビリティ」の代替手段はほとんど存在しない。日本のラーメン学校で学んだ日本人起業家が立ち上げた、在宅で楽しめるラーメンブランドは皆無、つまりブルーオーシャン市場を選んだのだ。自炊しようが食材配達サービスを使っても穴埋めできない価値だ。

それゆえ、一見してミールキットサービスに見えるRamen Heroは、全く違う領域で市場を攻略しようとしている。ニッチに見えて北米のラーメン市場は4,000-5,000億円規模。これを寡占できる巨大な商機を独り占めできる非常に理に沿った、賢い戦略を採用しているのだ。

画像提供:Ramen Hero

また、ターゲット領域として「Speciality Food」のポジションを狙っていくのだという。日本で言えば、成城石井のような高級スーパーで扱われている食品がまさに該当するだろう。現在はフローズンフードが伸びている同市場は1,500億ドルほどの規模があるという。小売市場全体で見れば「Luxury Commerce」と呼ばれる領域だ。

Speciality FoodのEC化は2.5%程度で、市場規模は30億ドルほど。長谷川氏はEC化が10-15%まで伸びると踏んでいるとのこと。このEC領域を狙う。

少し値段は張るが、満足度の高いEC食品プロバイダーとしての認知をこれからも目指すという。近くの中途半端なラーメンしか出さない、中途半端に高い日本食レストランに行くのと同じ予算間であるならば、冷凍で長期保存ができ、食べたい時にさっと取り出して10分ほどで高品質なラーメンを作れるRamen Heroを楽しもう、といった選ばれ方を目指す。(後半に続く)

生鮮食品配達の「オートパイロット化」を目指すJupiter、その3つの特徴とは

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※本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載 コロナ禍で生鮮食品配達市場が大きく伸びているようです。 例えばこの領域の代表格、Instacartは一気に6倍にまで急増しているというデータもあり、その他も総じて成長市場になっています。ここで登場したのが「Jupiter」です。同社はInstacartとほぼ同じ、生鮮食料品配達事業を展開しているので…

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Image Credit:Jupiter

本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載

コロナ禍で生鮮食品配達市場が大きく伸びているようです。

例えばこの領域の代表格、Instacartは一気に6倍にまで急増しているというデータもあり、その他も総じて成長市場になっています。ここで登場したのが「Jupiter」です。同社はInstacartとほぼ同じ、生鮮食料品配達事業を展開しているのですが「対話型の購入体験」「需要予測」「会員制」の3点で異なります。

1つ目の「対話型の購入体験」では、顧客データを収集し、サービスの最適化に活かしている点が挙げられます。Instacartの購入フローでは、顧客が毎回食材を選ぶ必要があります。しかしJupiterが目指すのは「オートパイロット(配達自動化)」です。カートに事前に商品を入れて、顧客に選んでもらう体験フローを目指しています。

日本では食材配達サービス「Oisix(オイシックス)」が同様の体験を提供しています。同社は事前にカートに食材を入れておき、顧客に選んでもらうフローを重視しています。「食材選択データ」と「購入データ」の2つを分析した上で、毎回適切な食材を提案できるように、「カートのメディア化」とでも言える施策を打っているのです。

単に提案した商品をそのまま購入し続けてもらう、購入フローが自動化された体験では、顧客満足度が下がり、いずれ離脱してしまいます。そのためあくまでも楽しく購入できる「能動的な選択」を重視しているのが特徴です。

現在のJupiterでは、まさにこの対話型の体験が実現されています。Jupiter側で毎週顧客の趣向に沿った内容のカートが用意されており、顧客は内容を編集するだけ。ここにInstacartとは違う提供価値があります。単に利便性が高まっているだけではなく、顧客とプロバイダー側が商品選択において対話する軸は、満足度を高める上で非常に重要な点になってきます。

そして食材を提案できるようにJupiterは食品サプライヤーと直接提携し、注文が処理される独自の中央倉庫ハブを持っています。各生鮮食料品点の在庫データとの連携を不要とし、オペレーションの簡素化や注文処理における変動値を極力抑えることができます。

データドリブンなアプローチで各顧客にパーソナライズ化した商品カゴの提案ができるのは、常に該当商品を提供できるほどの在庫を確保できているためです。Instacartのようにいざ買ってみると商品がなかったという事態を防げると同時に、商品カートの選択・購入データから、仕入れ量の事前予測が可能となります。

顧客の購入データの事前予測とサプライチェーンを完全に同期させ、事業の最適化を図るーー。これが2つ目の「需要予測」に繋がります。

そして3つ目が「会員制」です。一連の購入体験を実現するために、Jupiterがターゲットするのが比較的予算のある富裕層です。月額20ドルの会費を支払ってまで、多少値の張る食材を購入したい意思を持つ人を狙っています。同社は自らを「贅沢なInstacart」と呼んでいますが、まさによりアップグレードされた食材配達サービスを望んでいる層を狙っています。

一見、スケールするのは難しい印象を持つかもしれませんが、顧客の食材選択からレシピ提案、ミールキット提供という「食材購入における川上から川下」まで幅広くサービス提供できる裾野を持っているのがJupiterです。

競合には累計6,500万ドルを調達している「Good Eggs」があり、同社もサプライチェーンから一括で自社管理できる体制を確保しています。今後は顧客データと物流の両方を抑えた、ヘビーなビジネスモデルを持った配達事業者に注目が集まるかもしれません。

本稿は次世代コンピューティング時代のコミュニケーションデザイン・カンパニー「.HUMANS」代表取締役、福家隆氏が手掛ける「 THE .HUMANS MAGAZINE」からの要約転載。Twitterアカウントは@takashifuke。同氏はBRIDGEにて長年コラムニストとして活動し、2020年に.HUMANS社を創業した

Amazonの自動配達ロボ「Scout」がエリア拡大中、国内はどうなる

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ピックアップ:Amazon’s Scout robot deliveries expand to additional cities in Georgia and Tennessee ニュースサマリー:米Amazonが、自動配達ロボット「Scout」のサービス提供を新たにジョージア州アトランタとテネシー州フランクリンで開始する。これまでと同様に、小規模で特定の顧客をターゲットにした運用が行われる予…

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Image Credit : Amazon

ピックアップ:Amazon’s Scout robot deliveries expand to additional cities in Georgia and Tennessee

ニュースサマリー:米Amazonが、自動配達ロボット「Scout」のサービス提供を新たにジョージア州アトランタとテネシー州フランクリンで開始する。これまでと同様に、小規模で特定の顧客をターゲットにした運用が行われる予定。

重要なポイント:ニューヨークやサンフランシスコといった人口の多い大都市に関しては歩道が混雑しScoutの運用拡大に前向きではないため、Amazonとしては今回のような限定された地域での運用を引き続き行い、安全性に関する懸念の解消を目指す。

詳細情報:Scoutは2019年1月に米シアトルに近いワシントン州スノホミッシュ郡で試験運用を開始し、同年8月にカリフォルニア州アーバインでも運用を開始している。

  • 新型コロナウイルスによるロックダウンや自粛生活の中、自動ロボットの役割の重要性が認識されたことはAmazon Scoutの普及の足がかりとなっている。
  • 自律配送スタートアップの「StarshipTechnologies」も同様に、パンデミックにより米国にて新たにアリゾナ州テンペやカリフォルニア州アーバイン、英国にて新たにミルトンケインズにサービスを拡大している。
  • StarshipTechnologiesは、2019年8月に4,000万米ドルの資金調達をし、2021年までに100大学へのサービス拡大を目指している。
  • 国内では、ロボットスタートアップZMPが提供する宅配ロボ「DeliRo」が代表例。2019年1月に、慶応義塾大学SFCキャンパスで世界初となるコンビニ商品の無人配送の実証実験を行うなど、着実に実用化に向けての動きを進める。なお、7月から行われているTakanawa Gateway Festでは期間限定で無人デリバリーサービスの実証実験を予定している。
  • Amazonと同様に楽天も配送ロボットのサービスの提供を手掛けており、2019年5月に千葉大学で生協の商品の配送実験を行ったり、大手スーパーマーケット西友と連携し商用配達サービスを行ったりするなど実用化に向けた動きを示している。
  • 楽天の大きな動きとして、2019年2月に、中国の大手ECサイトJD.comを運営する京東集団と日本国内の無人配送ソリューション構築に向けた提携を開始したことが挙げられる。楽天が持つドローン配送の運用ノウハウや専用ショッピングアプリのソリューションと、京東集団の持つドローンと地上配送ロボットを組み合わせることで、無人配送ソリューション構築の加速を目指す。
  • その他、三菱地所も米Marble社の自動配達ロボットの運用を行うが、楽天と同様に他社の開発したロボットの運用をローカルで行う形を取っている。一方で、前述したZMPは自社で開発したロボットを活用してサービス提供をしている点でユニークな立ち位置といえよう。

背景:自動配達ロボットなどの普及に不可欠なのがサービス運用におけるルール整備だ。2019年には官民協議会が経産省主体で開催されており、ヤマトホールディングス、日本郵便、楽天、ZMPのような民間企業のほか、各自治体や警察庁、国土交通省などが参加し、実用化へ向けた動きを本格化させている。

執筆:國生啓佑/編集:岩切絹代

ファッション提案アプリ「FACY(フェイシー)」運営、Tencent Cloud(騰訊雲)と提携——ファッション小売のOMO対応を強化へ

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ファッション提案 O2O サービス「FACY(フェイシー)」を運営・提供するスタイラーは31日、中国のテック大手 Tencent(騰訊)のクラウド部門である Tencent Cloud(騰訊雲)と提携したことを明らかにした。 スタイラーではこれまで FACY を O2O(online-to-offline)サービスとして、オンラインから実店舗への送客サービスという位置づけで運営してきたが、新型コロ…

Image credit: Tencent Cloud / Styler

ファッション提案 O2O サービス「FACY(フェイシー)」を運営・提供するスタイラーは31日、中国のテック大手 Tencent(騰訊)のクラウド部門である Tencent Cloud(騰訊雲)と提携したことを明らかにした。

スタイラーではこれまで FACY を O2O(online-to-offline)サービスとして、オンラインから実店舗への送客サービスという位置づけで運営してきたが、新型コロナウイルスの感染拡大が、消費者の購買行動に大きな変化を与えると判断。事業全体をオンライン体験とオフライン体験をシームレスに統合した OMO(online merges with offline)支援へと進化させる。

新型コロナが加速させるファッション小売の OMO 化

ファッション EC は EC 全体の中でも大きな割合を占めるが(市場規模ベースでは全体の20%前後)、ファッションの実店舗販売に完全に取って代わることは現時点で難しい。その理由の一つは、新型コロナ後のカンファレンスやイベントがオンライン化された時の課題として、筆者が拙稿で何度か述べているセレンディピティの問題がある。

オンラインのカンファレンスやイベントで「偶然の出会い」を創出するのが難しいように、ファッション EC ではレコメンドエンジン(協調フィルタリングなど)を使ったオススメはできても、「知らなかったブランドだったが、店員が勧めてくれたので気に入って買った」というような買い物のセレンディピティを創出するのは難しいかもしれない。

Image credit: Alibaba

新型コロナウイルスが感染拡大下にあった中国では、小売店の店員が店頭にリングライトや三脚をセットアップし、ライブコマースで商品を紹介・販売する姿が各所で目立った。一般的なライブコマースアプリでは、ファッションブランドが持つ顧客向けの自社アプリなどとの連携や統合は難しいが、これを可能にするのが Tencent Cloud が提供するソリューションだ。

Tencent Cloud が提供する店舗と顧客とがスマートフォン越しに互いの顔を見ながらやりとりできる機能は、すでにサイバーエージェント子会社 Cyber Palのファンミーティングを開催できるプラットフォーム「テレライブ」や、イグニスの恋愛・婚活マッチングサービス「with」のビデオ通話サービスなどに採用されている。

スタイラーでは同社が相談を受けるファッションブランドなどに対し、OMO 実現策の一つとして Tencent Cloud が持つオンライン接客やライブコマースソリューションを紹介する。このソリューションでは、フロントエンドである顧客体験のオンライン・オフラインシームレス化のみならず、商品在庫のオンライン・オフライン販売の統合管理、複数リアル店舗間での在庫配置調整などバックエンド業務の支援も行える。

Image credit: Tencent Cloud

流行り廃りの激しいファッション業界においては、D2C ブランドの隆盛が追い討ちをかける形で、ショッピングモールではファッション店舗の出退店が激しくなっているが、Tencent Cloud のソリューションを使えば、モール内の店舗配置 CAD データを読み込むだけで、ショッピングモールの店舗案内マップ表示サイネージに反映させるような仕組みも提供可能だという。スタイラーでは協業関係にある東急不動産(東証:3289)などの協力も得て、ショッピングモールなどでの PoC を展開したい考えだ。

オンラインを主軸にした D2C ブランドが今後増えてくる。彼らの店舗は長期賃貸には馴染まない。そんな中で、店頭でのリテンションでどうやってお金を稼いでいくか、というのはショッピングモールなど施設運営側にとって大きな課題だ。

スタイラーは Tencent Cloud のソリューションなども活用しながら、主にコミュニケーションと在庫のデジタル化をやっていく。オンラインとオフラインを跨いで知見を持っているプレーヤーが日本にはいないため、この分野で圧倒的にリードしたい。(スタイラー 代表取締役 小関翼氏)

ファッション提案アプリ「FACY(フェイシー)」は、ライフスタイル版の OMO アプリへ

Image credit: Styler

スタイラーはファッションブランドに OMO ソリューションを提供するのと同時に、自社の旗艦アプリ FACY の OMO 対応を図る。2020年秋にアプリやサービスの全面リニューアルを図る予定だ。

配車アプリからスーパーアプリになった東南アジアの Grab、レストランガイドとグループ購入サイトから進化した Meituan(美団)、コロンビア発のオンデマンドデリバリ Rappi などをベンチマークしている。

これらのアプリがコモディティ層を狙っているのに対し、FACY はややミドルプライスのライフスタイルに特化した OMO を目指す。New Retail と Luxury という2つのキーワードで攻め、将来は化粧品、家具などにも領域を拡大する。(小関氏)

日本ではおそらく、LINE や楽天、決済アプリ各社などがスーパーアプリになろうとしていると思われるが、前出の Grab、Meituan、Rappi が提供可能なサービスのバリエーションには及ばない。OMO でユーザの心を捉え、提供可能なサービスのバリエーションを拡大できれば、FACY は OMO アプリからスーパーアプリに変貌できる可能性をも秘めている。

創業2年で評価額830億円(7.8億ドル)の新星スタートアップ、そのビジネスモデルとは

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※本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載 新しい投資運用の形として、注目のスタートアップが小売市場に登場しました。名前は「Thrasio」。創業年2018年のスタートアップです。 Thrasioは2019年4月に650万ドルのシード調達を実施。そこからたった1年しか経っていない2020年4月、シリーズBで7,500万ドルの大型調達に成功して…

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※本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載

新しい投資運用の形として、注目のスタートアップが小売市場に登場しました。名前は「Thrasio」。創業年2018年のスタートアップです。

Thrasioは2019年4月に650万ドルのシード調達を実施。そこからたった1年しか経っていない2020年4月、シリーズBで7,500万ドルの大型調達に成功しています。同時期に3,500万ドルのデッド調達をしているため、総額1億ドル超を調達していることになります。現在の評価額は7.8億ドルという急成長企業です。

同社はAmazonサードパーティ・プライベートレーベル事業を買収する事業を運営しています。Amazonの商品の中から「トップレビューのあるベストセラー商品」を見つけ出し、そのブランドを中小企業のオーナーから購入します。Crunchbaseが伝えるところによると、すでにある程度の利益を生み出しているそうです。

Thrasioの着眼点は、Amazonで事業展開をする中小企業が抱える「ビジネスを始めるのは簡単だが、成功すると時間の経過とともに管理が難しくなる」という課題です。成長フェーズにあるが、生産から配送、価格最適化、広告展開まで手に負えなくなってしまったブランドを買い取る「ミニ買収」を繰り返し、爆発的な成長を遂げているのがThrasio、というわけです。この手のブランドは、オーナーが予想していた以上のスピードで成長してしまい、手に負えなくなっているケースが大半とのこと。

これまでに43の事業をオールキャッシュで買収し、自社オペレーティング・プラットフォームに統合。ブランディングや検索などを通じて最適化を図っています。買収したブランド製品には、フィットネス機器ブランド「Beast Gear」、疲労防止フロアマット「TrailBuddy Hiking Poles」などが挙げられます。

利益が500万ドル以下のブランドに対して投資家があまり注目してくれない、という状況も追い風になっています。100万ドルから500万ドルの範囲でThrasioが独占的に買収オファーを出している状況はPeter Thielが提唱する、ニッチ領域で高いシェアを占める典型例であると感じます。

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Photo by Tobias Dziuba on Pexels.com

さて、Thrasioのモデルは小売市場における新たな投資業態です。ここからは考察になってしまいますが、おそらくビジネスモデルは次のようなものでしょう。

  1. 投資家などから出資を募る(事業資金を募る)
  2. 過去の売り上げデータなどを分析して成長性の高いブランドをピックアップ (AIによる期待収益予想)
  3. 買収提案をして、ディールが決まったらAmazonアカウントを連携させるだけ(FBA – Fullfillment by Amazon
  4. 1〜2年で元を取る

日本でも楽天で大きく成功している中小企業ブランドがいたり、100均やちょっとした商品開発にアイデアを持って行って成功させている個人がいます。こうした人たちのExit先として成立させる小売買収事業は、パンデミック禍で落ち込んでしまっている企業を救い、投資マネーを循環させる上で良いかもしれません。もし期待収益を高精度で予測できるのならば、収益も確保でき、Thrasioのような成長ビジネスになるはずです。

D2Cブランドが世界的に乱立しており、消費者からしたらどれを選べば良いのかわからない状態になっていますので、新たな買収モデルとして一度スキームを作ってしまえば、他の様々な市場で買収事業モデルが応用される予感がしています。経済を促す社会的な意味合いも込めて、そしてある種の新たな投資ファンド事業として、ポストコロナで活躍する可能性は大いにあるでしょう。

本稿は次世代コンピューティング時代のコミュニケーションデザイン・カンパニー「.HUMANS」代表取締役、福家隆氏が手掛ける「 THE .HUMANS MAGAZINE」からの要約転載。Twitterアカウントは@takashifuke。同氏はBRIDGEにて長年コラムニストとして活動し、2020年に.HUMANS社を創業した