【企画:経営者が語るべきUX】マーケティング視点で考えるべきユーザー体験とはーー菅野誠二氏に聞く(後編)

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【企画:経営者が語るべきUX】は経営者がユーザー体験(UX)をどの視点から見るべきか、複数の切り口でお届けするシリーズです。ビジネス・ブレークスルー大学の提供でお送りします。

デバイスの進化やクラウドインフラの出現、開発環境のオープン化といった変化に伴い、ウェブを始めとするサービスが「リーン」に公開可能な時代になっている。そしてこの環境変化によって語られる機会が増えたのがUX(ユーザー体験)だ。

ユーザーとふれあうインターフェース(UI)の改善を中心に、価格や反応速度、問い合わせ対応など、あらゆる箇所に「ユーザーを満足させるべき体験」は存在し、その総合的な価値がサービスの差別化につながると考えなければならないだろう。

では経営者はUXをどう理解すべきだろうか。

最終回のテーマはマーケティング。BBT大学でマーケティング実践を教える菅野誠二氏は、ネスレ日本、マッキンゼー、ブエナビスタ(ディズニー)などでマーケター及びコンサルタントとしてのキャリアを経て独立、現在はベンチャー支援や企業マーケティング戦略コンサルティングを手がける人物だ。

マーケティングという視点で経営者が考えるべきユーザー体験のポイントを聞いた。(前編/聞き手:山本郁也(ネコメシ ディレクター / UXデザインエンジニア)、SD Japan編集部)

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モノづくりに必要な三つの考え方

山本:一方でUXというのは理論的であるがために、実務でどういうことをすればよいかが伝わりづらい面がありますよね。

菅野:やはり先ほど話が出たような意味のある人が入ったチームの結成が必要でしょうね。それともう一つ、ペルソナをちゃんと作ってユーザー定義することは大切です。

モノづくりのやり方って三つあるんです。1つ目はプロダクトアウト。商品ができた、技術があるからこれを世に問うてみたという技術屋中心の考え方です。モノがなかった昔はそれなりに受け入れられるキャパシティがあるから成功したという例もあります。

次がマーケットイン。簡単に言えばお客さんに聞けという方法です。ただ、競合が成功しているからという理由だけで、市場が求めていると考えてお客を理解せずに商品を投入するのは酷い例です。

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お客さんは欲しいものが「わからない」ことを知るべき

お客さんというのは元来、自分が本当に欲しいものを語ることはできないんです。レベルが低い段階であれば、商品のサイズや色を変えたりということで購買に繋がるかもしれませんが、成熟した市場では、お客さんは次に欲しいものを語ることはできません。

ですからいくら単なるインタビューをしても答えられないのだから無駄になる。そこで出た来た手法がエスノグラフィーなんです。まずは対象者を観察することから始める。

三つ目がユーザーインアンドアウト。ユーザーインはまず自分の欲しいものを考えるところから始める方法。スティーブ・ジョブズ氏やジョナサン・アイブ氏らは未来は分からないけど、近未来で普通の人がこれを使ってたらいいよね、というモノをポンと作る。しかしこれだけで大成功を納めるのは天才。

普通の人はここからもう一度「アウト」、つまり自分以外の外に話を聞きにいけばいいんです。これがユーザーインアンドアウトの考え方です。

プロトタイピングの重要性を考える

山本:ユーザーインだけで成立させようとすると強烈なビジョンが必要ですよね。

菅野:天才はいいんですよ。だからプロトタイピングが重要性を増すんです。グーグルだって社内の20%ルールで欲しいもののプロトタイプを作って社内でボコボコにされているからこそ、外に出した時、ある程度形になっているんです。

ソーシャルが発達した今であれば、リアルタイムにフィードバックを集めたり、そこから一気に市場に広げるということも可能なんです。

フィードバックを鵜呑みにしないために重要なペルソナ設計

山本:確かにオンラインでユーザーテストをやるところが少しずつ増えてきました。ただフィードバックの扱いは難しく、電話が軽くなったら欲しいかという質問に誰も欲しくないと回答したのに、出したらヒットしたという話もありました。

菅野:分析能力も大切だけど、フィードバックを鵜呑みにしてはダメですね。お客は分からない、だからこそエスノグラフィーも含めて対象をどう選ぶかが大切なんです。だからペルソナが大切になるわけです。チームがどういう人たちにどういうものを作るのか、そういう設計ができているかどうかですね。

本当に価値があるものは絞り込んだ先にある

編集部:経営者が考えるべきUXという視点で経営者のみなさんにメッセージを

菅野:日本の企業が売上が上がらない、利益が上がらない、と新製品をとにかく多く作る方向性に向いてしまった。「千三つ」という言葉があるように、新商品を千個作って三つ残ればいいや、というこんな消耗戦をずっと続けてきている企業が多くなってしまった。

こんな状況がマーケターにユーザー体験を高めるために街に出て、一年間ぐらいエスノグラフィーをさせるような余裕を失わせてしまったのではないでしょうか。

世の中に対して本当に価値のあるものを生み出すためには、ユーザーと正しく向き合い、作るべき商品を絞り込んだ方がよいでしょう。若い経営者のみなさんにはぜひこの点を心に留めて頂ければと思います。

(企画協力:ビジネス・ブレークスルー大学

BBT大学講師紹介
菅野 誠二:マーケティング実践
ボナ・ヴィータ 代表取締役

早稲田大学法学部卒業。IMD経営学大学院MBA。ネスレ日本にて営業、ブランドマネジャー、マッキンゼーにて数々の大手企業へのコンサルティング、ブエナビスタ(ディズニーのビデオ部門)にてマーケティングディレクターを務める。現在、ボナ・ヴィータ社を設立しベンチャー数社を支援する傍ら、コンサルティングとアクションラーニングを通じた企業変革に携わっている。